第1 刑事勾留と入管収容を分ける
外国人が刑事事件で勾留されている場合には,刑事手続と在留・退去強制手続を並行して確認する必要がある。
不起訴や刑事手続上の釈放だけで,在留期間が更新されたり,別に存在する不法残留の問題が解消されたりするわけではない。
本記事は,令和8年11月1日に確認した法令に基づき,弁護人が釈放前から整理する事項を示す。
刑事訴訟法上の勾留と,入管法上の収容は,根拠と判断主体が異なる。
刑事事件の処分,刑事手続上の釈放,入管への身柄の引継ぎ,退去強制令書の発付及び送還を,一つの出来事として説明しないことが大切である。
入管法24条4号ロは,在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して残留することを,退去強制事由の一つとしている。
刑事事件が不起訴になっても,この在留上の問題を別に検討する必要がある。
他方,不起訴という結果だけから,当該被疑事実について犯罪が成立したと扱うこともできない。
第2 在留期限と手続の現在地を確認する
最初に,在留カード,旅券,難民認定証明書,申請受付を示す資料,入管の通知書及び令書を確認する。
本人の説明に加え,書類に記載された資格・期間・処分日と,申請した手続の種類を時系列に整理する。
「更新を忘れた」という言葉だけで,既に期限を経過したのか,期限前の申請が審査中なのかを決めつけない。
難民認定歴がある場合にも,難民認定,在留資格,在留期間,認定取消しの有無を分けて確認する。
入管法50条1項4号は,難民又は補完的保護対象者の認定を受けていることを,在留特別許可に関する場合の一つとして掲げているが,同じ資格・期間の許可を当然に保障する規定ではない。
同項ただし書は,無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者等について,在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があるときに限るとしているため,刑事事件の結果もこの観点から確認する。
入管法61条の2の9第1項は,所定の許可を受けた時に存在した退去強制事由に関する特例を定めている。
この時間的な限定を外し,許可を受けた後に生じた不法残留にも当然に適用されると説明してはならない。
認定歴があることだけで,その後の在留管理を省略できるわけではない。
第3 勾留中にも進められる入管手続
本人が入管の窓口へ行けないことと,入管手続を一切進められないことは区別する。
入管法63条1項は,刑事手続等が行われる場合に,本人を入管法上収容せず,又は所定の監理措置に付さないときでも,退去強制手続を行うことができると定めている。
同項には,入管側が本人のもとへ出張する場合の読替えと,在留特別許可の申請に関する50条2項の読替えもある。
したがって,拘束中に進められる調査・審査・申請の有無を,入管側の担当部署に確認することが実務上の出発点となる。
単なる事前連絡,書類の提出,本人の窓口への出頭を同一視せず,予定する手続ごとに,申請主体,本人出頭の要否,代理・取次ぎの可否及び受付方法を確かめる。
63条があることから,すべての手続を本人の来庁なしで完了できると結論することもできない。
在留特別許可については,50条3項が,退去強制令書発付後の申請を認めていないことにも注意を要する。
申請を検討する段階を確認し,刑事事件の処分を待つだけで時期を失わないようにする必要がある。
これは,同令書発付後に処分を争う手段等がすべてなくなる,という意味ではない。
第4 出頭申告と監理措置を同じ結果として扱わない
出頭申告,監理措置決定及び在留特別許可は,それぞれ区別して検討する。
入管法44条の2第1項は,逃亡・証拠隠滅のおそれの程度,収容によって受ける不利益の程度その他の事情を考慮して,収容せず退去強制手続を進めることが相当と認める場合の監理措置を定めている。
自ら出頭したという一事から,監理措置や在留特別許可の結果を保証することはできない。
監理措置は,在留資格を付与する処分とは異なる。
刑事訴訟法上の勾留を解く効力もない。
また,退去強制令書発付前と発付後には別の規定があるため,現在の段階に応じて確認する必要がある(入管法44条の2,52条の2)。
実務上は,釈放前から監理人候補への協力依頼を進め,入管側に候補者の適否と必要資料を確認することが考えられる。
候補者を確保したという一事から,監理措置の決定を保証することはできない。
在留特別許可に向けた意見書や生活・健康関係資料の準備も,入管収容から解かれた後まで待つ必要はなく,第3で述べた拘束中の手続の確認と併せて進めることが考えられる。
第5 勾留執行停止を検討するときの準備
刑事訴訟法95条は,適当と認めるときに,親族等への委託又は住居の制限によって勾留の執行を停止し,条件を付することができると定める。
被疑者についても同法207条1項によって検討できるが,起訴前の保釈を認める制度ではない。
入管への出頭を予定しているという理由だけで,執行停止が認められるとはいえない。
検討の準備としては,次の事項を具体化することが考えられる。
以下は実務上の整理事項であり,全国一律の必須提出書類を列挙するものではない。
①本人がその日時に窓口へ行く必要性と,拘束中の手続や別日程では足りない理由。
②健康上の事情を述べる場合の診療資料,必要な治療及び身体拘束による具体的な不利益。
③委託先又は滞在先,移動経路,同行者,通訳及び本人との連絡方法。
④逃亡や関係者への接触等を防ぐ具体策と,指定日時・場所への出頭を確保する方法。
⑤入管での手続が予定どおりに終わらない場合の連絡と対応。
裁判所(起訴前は裁判官)が期間を指定する場合には,終期を日時で定め,その日時に出頭すべき場所も指定する(刑訴法95条2項・3項)。
裁判がされたときは,委託先又は住居制限,条件,期間及び出頭先を実際の決定内容から確認する。
第6 釈放後の担当と連絡を引き継ぐ
刑事弁護と入管事件について,誰がどの範囲を担当するかを釈放前から確認することが望ましい。
入管側の担当部署,家族等の連絡先,通訳,必要資料の保管先及び次の予定を,本人が理解できる言語で説明する。
日常会話ができることだけで,帰国の危険や申請の法的効果まで理解したと扱わないことが大切である。
刑訴法38条の2は,被疑者が選任に係る事件について釈放されたときは裁判官による弁護人選任の効力が失われるとしつつ,勾留執行停止による釈放を例外としている。
この選任の効力の問題と,入管手続に関する受任範囲・費用は分けて整理する。
入管手続の担当,費用及び援助制度の適用は,関係する弁護士・弁護士会等へ確認する必要がある。
第7 関連記事・根拠法令
①被疑者及び被告人の勾留:勾留の理由・必要性,取消し,執行停止等の基本事項。
②難民事件の初動―難民・補完的保護の主張立証と再申請時の送還リスク:認定申請・立証と再申請時の確認事項。
③出入国管理及び難民認定法:24条4号ロ,44条の2,44条の3,50条,52条の2,61条の2の9,63条。
④刑事訴訟法:38条の2,95条,207条1項,248条,336条。
⑤行政事件訴訟法:3条2項,25条。