第1 この記事の対象と結論
本記事は,平成27年司法試験の民事系科目第3問(民事訴訟法)について,法務省公表の問題・出題の趣旨・採点実感等に関する意見を踏まえ,AI作成の模範解答と33項目の評価表を示す。
評価項目の切分けと5段階の重みは本記事独自の整理であり,法務省の公式採点基準・配点ではない。
| 事項 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 平成27年司法試験・民事系科目第3問(民事訴訟法) |
| 公式問題文 | 法務省公表の民事系問題PDFのPDF12頁~15頁 |
| 答案の基準時 | 平成27年5月14日(当該民事系科目の実施日)。当時の問題と判例を前提とする |
| 問題の確認範囲 | PDF12頁~15頁の全4頁を読んだ |
| 出題趣旨の確認範囲 | PDF10頁の第3問見出しから11頁の刑事系科目見出しの直前までを読んだ |
| 採点実感の確認範囲 | 民事系PDF24頁~30頁の第3問部分の全体を読んだ |
| 主要事項 | 相殺の抗弁と予備的反訴,不利益変更禁止,不当利得の要件事実と既判力の作用 |
| 項目数と重み | N=33,重み5は10項目,重み合計W=133 |
| 主要判例 | 最高裁平成3年12月17日,平成18年4月14日,昭和61年9月4日の各判決 |
| 答案分量 | 改行を含め3052字,改行を除き2970字。5000字以内 |
| 試験後の法令等 | 後発の法令・判例を答案の根拠に用いない。当時の参照条文と引用判例原文の確認範囲は第7に示す |
| 年度別ハブ | 確認日現在,平成27年の年度別の一覧記事は掲載していない |
| 確認日 | 令和8年10月31日 |
結論として,設問1の相殺主張は,反訴を予備的反訴と解することにより許される。
設問2ではXに有利な既判力を失わせないよう控訴棄却にとどめる。
設問3では残代金債権不存在の既判力の積極的作用から,Yの不当利得返還請求の請求原因が失当であると説明する。
重み5の中心は,分離を許さない条件関係,Yの申立て意思,控訴後の既判力の比較及び不当利得の具体的要件事実への作用である。
全項目は第4,答案全文と対応表は第5,資料の範囲は第7を参照されたい。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一行につき,答案の何を確かめるかが分かる一つの評価対象に整理した。
出題趣旨と採点実感の同じ要求は統合し,総括で繰り返されたことを理由に項目を増やしていない。
根拠欄の「記載なし」は本問の関連範囲を読んだ上で該当の記述がないという意味であり,資料を取得していないという意味ではない。
「間接」は一般的な記述又は論点構造から導いた整理である。
注意事項の重みは,回避する誤りの影響から決めた。
【条件付】は選択できる構成の一つを示す項目であり,採らなかった構成を欠落として扱わない。
手書きの字形はデジタル答案へ適用しない。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 判断基準 |
|---|---|
| 5 | 設問の判断を大きく分ける核心 |
| 4 | 結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ |
| 3 | 通常押さえる法的処理・事情の評価 |
| 2 | 論証を補強する説明・個別事情 |
| 1 | 補充的な引用・表現・記述範囲の確認 |
両公式資料への登場回数や各段階の件数割当てで重みを決めたものではない。
以下の重みは,その事項が本問の結論と説明の中で果たす役割に基づく。
本記事の項目数や重み合計から,公式得点や合格可能性を算出することはできない。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
問題全文は法務省公表の問題PDFのPDF12頁~15頁を参照されたい。
XがYに依頼した住宅のリフォーム工事の代金は総額600万円で,頭金300万円を除く残代金300万円が問題となる。
Xは瑕疵修補に代わる損害賠償300万円を請求し,Yは残代金を反訴で請求するとともに,相殺の抗弁を主張する。
設問2はXのみが控訴したという仮定の問題であり,現実に第一審判決が確定した場面とは区別する。
設問3では,Yが,相殺は無効で残代金はなお存在するが既判力で回収できないとして,不当利得返還を求める。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・仮定・除外 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 1 | Yの相殺主張と反訴 | 平成3年・18年判決の関係。矛盾防止,二利益,処分権主義,Xの利益を説明 | 予備的反訴によって希望が実現する理由 |
| 2 | Xのみ控訴した控訴審 | Xの本訴債権存否は審判対象。Yの控訴・附帯控訴は考慮しない | 二つの確定判決の既判力を比較し,すべき判決を示す |
| 3 | 第一審確定後のYの不当利得構成 | 両債権の存在・相殺消滅原因の既判力という説や信義則だけの説明へ逃げない | 114条2項がどの具体的主張に作用し請求を排斥するか |
全設問で相殺の実体法上の成立要件及び遅延損害金は検討対象外である。
2時間の配分例として,最初の10分を読解と骨子に充て,残る110分を設問1に44分,設問2・3に各33分とすれば,指定された4対3対3の割合を保てる。
これは学習用の配分例であり公式の時間指定を追加するものではない。
第4 評価項目と重み
1 設問1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 142条と114条2項から二つの判例の関係を説明する | 4 | 10頁~11頁・設問1 | PDF24頁。「最高裁判所の二つの判決」 |
| 2 | 単なる弁論併合では分離による判断矛盾を防げないと指摘する | 4 | 11頁・設問1 | PDF25頁。「弁論の分離の可能性」 |
| 3 | 予備的反訴の解除条件を相殺の認容と取り違えない | 4 | 間接:11頁・設問1 | PDF26頁。「相殺の抗弁が認められることが解除条件」認容を解除条件とする誤解を指摘。 |
| 4 | 予備的反訴で弁論を分離できない理由を条件関係から説明する | 5 | 間接:11頁・設問1 | PDF25頁。「弁論の分離ができないとされる理由」 |
| 5 | 相殺判断と反訴本案判決が同じ部分に併存しない仕組みを説明する | 5 | 11頁・設問1 | PDF25頁。「既判力の矛盾抵触は生じない」この結論だけを述べる答案は評価できないとの指摘。 |
| 6 | 相殺は他の防御方法が排斥された後に審理されると説明する | 4 | 間接:11頁・設問1 | PDF25頁。「他の防御方法が全て認められないとき」 |
| 7 | 他の理由で本訴が棄却される場合には相殺の利益を得ず反訴の名義取得が可能と説明する | 4 | 間接:11頁・設問1(二利益の比較) | PDF25頁。「相殺の抗弁以外の理由により請求が棄却」 |
| 8 | 相殺が判断される場合には反訴の本案判決がされないと説明する | 4 | 間接:11頁・設問1(二利益の比較) | PDF25頁。「反訴請求について判決されることはない」 |
| 9 | 相殺の担保的利益と債務名義取得の利益を二重に得ないと結論付ける | 4 | 11頁・設問1 | PDF25頁。「2つの利益を享受することにはならない」 |
| 10 | Yが望む審理順序と回収方法から合理的意思を具体化する | 5 | 記載なし | PDF26頁。「どのような当事者の意思を尊重すべきなのか」 |
| 11 | 訴え変更の手続を要しない扱いが申立ての解釈であり処分権主義に反しないと説明する | 4 | 間接:11頁・設問1(変更手続を経由しない点。処分権主義の理由は記載なし) | PDF26頁。「処分権主義に反しない理由」 |
| 12 | Xの本案判決を得る利益が114条2項等で保護されると説明する | 4 | 記載なし | PDF26頁。「反訴被告(本訴原告)の利益は害されない」 |
2 設問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 13 | 原判決維持確定時の114条1項・2項の既判力を区別する | 5 | 11頁・設問2 | PDF26頁。「同条各項ごとに正確に」 |
| 14 | 取消改判では反対債権不存在の既判力が生じないと説明する | 5 | 11頁・設問2 | PDF26頁。「既判力の有無に影響を及ぼす」 |
| 15 | 不利益変更を控訴人Xの利益に即して判断する | 5 | 11頁・設問2 | PDF27頁。「控訴した者にとっての不利益」 |
| 16 | 原判決を維持して控訴棄却とする手続的結論を示す | 5 | 11頁・設問2 | PDF27頁。「控訴審はどのような判決をすべきか」 |
| 17 | 取消しと控訴棄却を混同せずYの不服申立てがない反訴を新たに判断しない | 3 | 間接:11頁・設問2 | PDF27頁。「反訴請求の当否について判決をすべき」反訴を新たに判断すべきとする答案への批判。 |
| 18 | 自働債権の不存在という既判力の内容を全設問で一貫させる | 4 | 間接:11頁・設問2・3 | PDF27頁。「受験者の理解が一貫」設問間で既判力の理解が矛盾することへの注意。 |
| 19 | 二つの判決が確定した場合を同じ比較軸で検討する | 4 | 11頁・設問2 | PDF27頁。「比較検討をしない答案」比較検討を欠く答案への批判。 |
3 設問3
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 20 | 不当利得返還請求の四要件を示す | 4 | 11頁・設問3 | PDF29頁。「利得,損失,両者の因果関係及び利得に法律上の原因がないこと」 |
| 21 | Yの言い分を利得・損失・因果関係・法律上の原因の欠如に対応させる | 4 | 11頁・設問3 | PDF27頁。「これに対するYの言い分の当てはめ」 |
| 22 | 114条2項が基準時の自働債権不存在を確定することを示す | 5 | 11頁・設問3 | PDF28頁。「反対債権が不存在であるという」 |
| 23 | 両債権の相殺時の存在や相殺という消滅原因に既判力を広げない | 4 | 間接:11頁・設問3(基準時不存在の考え方) | PDF28頁。「それらが相殺により消滅した」この内容の既判力を認める説に依拠する答案への批判。 |
| 24 | 既判力が利得・損失等のどの具体的主張に作用するか説明する | 5 | 11頁・設問3 | PDF29頁。「どの事実の主張を遮断するのか」 |
| 25 | 【条件付】積極的作用又は消極的作用を選び要件事実と接続する | 5 | 間接:11頁・設問3 | PDF28頁。「積極的作用による説明も成り立ち得る」 |
| 26 | 請求原因の欠如又はそれ自体失当から請求棄却へ到達する | 4 | 間接:11頁・設問3(棄却結論。請求原因の整理は採点実感28頁) | PDF28頁。「請求は棄却となる」 |
| 27 | 信義則による蒸し返し防止だけに置き換えない | 3 | 間接:11頁・設問3(114条2項による説明の指定) | PDF28頁。「信義則上許されないとする答案」信義則だけで説明する答案は題意を捉えていないとの指摘。 |
| 28 | 訴訟物同一・先決・矛盾という一般論だけで説明を終えない | 4 | 11頁・設問3 | PDF29頁。「この一般論を述べても無意味」 |
4 答案全体
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 29 | 基本的な原理・概念を正確に用いる | 3 | 間接:10頁・総論 | PDF24頁。「基本的な原理・原則や概念を正しく理解」 |
| 30 | 問われた事項に理由を示して自分の言葉で答える | 4 | 間接:10頁・総論 | PDF24頁。「理由を述べることなく結論のみ」理由を述べない答案には基本的に加点しない旨の指摘。 |
| 31 | 抽象論の再現にとどまらず事案を具体的に検討する | 4 | 10頁・総論 | PDF24頁。「具体的に,かつ,掘り下げた」 |
| 32 | 【適用条件:手書き答案】小さ過ぎる字や潰れた字を避ける | 1 | 記載なし | PDF30頁。「極端に小さな字」小さ過ぎる字等の改善を求める。 |
| 33 | 一般に使われない用語を避け読みやすく表現する | 1 | 記載なし | PDF30頁。「けだし」,「思うに」などの用語の改善を求める。 |
5 重みの分布
重み5が10件,4が18件,3が3件,2が0件,1が2件で,総項目数は33,重み合計は133である。
重み5は番号4・5・10・13・14・15・16・22・24・25であり,条件関係の説明,合理的意思の具体化,既判力の比較,請求原因への作用という判断の核心を担う。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
以下は公式の模範解答ではなく,AI作成の学習用答案である。
試験当時の問題と,公式趣旨・採点実感に示された判例の理解を前提とし,後年の法を遡って使わない。
引用判例の原文と,本稿が参照する当時条文の確認範囲は,第7に示す。
答案の字数は改行込み3052字で,見出し・句読点・空白を含む。
設問3では積極的作用による構成を採用した。
2 答案
第1 設問1
1 平成3年判決と平成18年判決の関係
民事訴訟法142条の趣旨は,重複審理の負担を避け,既判力ある判断の矛盾抵触を防ぐことにある。
相殺に供された自働債権には,相殺をもって対抗した額について既判力ある判断がされる(114条2項)。
そこで平成3年判決は,別訴で訴求中の債権を他の訴訟で相殺に供する場合にも142条の趣旨を及ぼした。
弁論が併合されていても,分離によって別々の判断がされ得るので,単なる併合では矛盾抵触を防ぎ切れない。
これに対し,平成18年判決は,反訴請求債権を本訴で相殺に供する場合,異なる意思表示がない限り,反訴は,その自働債権につき本訴で相殺の抗弁として既判力ある判断が示されたときはその部分を反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更されるとする。
これは,上記の判断が示されることを解除条件として,その部分の反訴の訴訟係属が消滅するという意味である。
条件は相殺が認められることではない。
相殺を判断した結果,自働債権が不存在とされても,相殺を認めて自働債権が残存しないとされても,114条2項の既判力が生じるからである。
この反訴は,本訴における相殺判断の有無によって,そもそも本案判決をすべきかが決まる。
本訴の帰すうと切り離して独立に判決することは,反訴に付された条件に反するため,本訴と反訴の弁論を分離できない。
本訴で相殺が判断されれば同じ部分につき反訴の本案判決はされず,相殺が判断されなければ反訴で判断する。
したがって,一方の判断と他方の既判力ある判断が衝突する余地はなく,平成3年判決の危惧は生じない。
2 二つの利益の関係
相殺の抗弁は予備的な防御方法であり,Yの他の防御方法が全て認められない場合に初めて審理される。
まず,Xの損害賠償請求権が初めから存在しないなど,他の理由で本訴請求が棄却されれば,相殺は判断されない。
Yは相殺による簡易・迅速・確実な回収という担保的利益を得ないが,解除条件も成就しないので,残代金債権が認められれば反訴でその債務名義を得られる。
他方,他の防御方法では本訴請求を排斥できず,相殺が審理・判断されれば,解除条件が成就して反訴の本案判決はされない。
相殺が認められたときは担保的利益を得られるが,同じ300万円について債務名義を取得することはない。
相殺が自働債権の不存在を理由に排斥された場合も,その不存在の既判力が生じ,反訴による給付判決は得られない。
両利益が同一部分について二重に実現することはなく,Yの希望は平成3年判決の趣旨に反せず実現できる。
3 処分権主義及びXの利益
裁判所は当事者の申立事項を超えて判決できない(246条)。
もっとも,Yは,まず相殺以外の防御方法で本訴請求を排斥し,残代金債権を保持したい。
それができなければ,相殺によって確実に回収したいのであり,相殺の判断を受けない場合には反訴で債務名義を得たいと考えるのが合理的である。
相殺による判断を受けた部分についてまで重ねて反訴の給付判決を求める必要はない。
したがって,予備的反訴という扱いは,このようなYの申立ての趣旨を明らかにする解釈であり,裁判所が独自に請求を変更するものではない。
143条の訴え変更の手続を経なくても処分権主義に反しない。
また,Xには反訴請求を棄却する本案判決を得て紛争を終局的に解決する利益がある。
しかし,反訴の訴訟係属が消滅する場合には,同じ300万円の残代金債権が存在しないことについて,114条2項による既判力ある判断を得られる。
相殺が判断されなければ反訴の本案判断を受けられる。
したがって,Xの上記利益も害されない。
第2 設問2
1 Xの損害賠償請求権の存否が控訴審の審判対象となるとの設問の前提に従う。
第一審判決が控訴棄却によって維持され,確定すれば,Xの損害賠償請求権300万円の不存在について114条1項の既判力が,Yの残代金債権300万円の不存在について同条2項の既判力が生じる。
後者も,消滅原因そのものではなく,基準時に当該債権が存在しないという判断である。
2 これに対し,第一審判決を取り消し,Xの損害賠償請求権が初めから存在しないことを理由に改めて請求を棄却すれば,相殺を判断する必要がない。
その判決が確定しても,Xの請求権の不存在について既判力が生じるにとどまり,Yの残代金債権の不存在についての既判力は生じない。
Xは,原判決によって得ていた,Yから残代金を再び請求されないという有利な地位を失う。
同じ請求棄却という主文でも,既判力の範囲にこの差がある。
3 判決の変更は不服申立ての限度でのみできる(304条)。
Xのみが控訴し,Yの控訴・附帯控訴を考慮しない本問では,控訴人Xに不利益な変更は許されない。
Yにとっての不利益を基準にすることも,反訴請求について新たに判断することもできない。
よって,控訴審はP2の提案どおりに原判決を取り消して請求を棄却すべきではなく,原判決を維持して控訴を棄却すべきである(302条)。
第3 設問3
1 不当利得返還請求には,Xの利得,Yの損失,両者の因果関係及び利得に法律上の原因がないことが必要である(民法703条)。
Yの言い分によれば,Xの損害賠償請求権は初めからなく,相殺は無効なので,Yの残代金債権は消滅していない。
それなのに,既判力によって回収できなくなったことがYの損失となり,これに対応してXが残代金を支払わずに済むことが利得になる。
そして,受働債権がなく相殺が無効なのだから,その利得に法律上の原因がないという構成になる。
2 しかし,第一審判決の確定によって,Yの残代金債権300万円が前訴の口頭弁論終結時に存在しないことにつき114条2項の既判力が生じている。
既判力は,存在する債権について取立ての手段だけを封じる効力ではない。
後訴裁判所は,上記基準時に残代金債権が存在しないとの判断に拘束され,これを判断の前提にしなければならない。
以下,この積極的作用によって説明する。
3 Yの請求原因は,なおYに残代金債権があるのに,既判力のためにXが支払を免れ,Yが回収できない,というものである。
ところが,後訴では当該債権の不存在を前提にしなければならないから,Xに支払義務があるのに支払を免れていることも,Yに回収すべき債権があるのに回収できないことも,肯定できない。
存在しない債権について支払を受けられないことを,その債権が存在することを前提とするYの損失とは扱えず,Xについても,これに対応する支払免脱の利得を認められない。
したがって,Yが主張する利得・損失及びその因果関係は,上記拘束に従う限り理由がない。
請求原因事実の主張はそれ自体失当であり,法律上の原因の欠如についての主張だけでは補えないから,不当利得返還請求は棄却される。
4 残代金請求と不当利得返還請求の訴訟物が異なることは,この結論を妨げない。
他方,ここで用いたのは自働債権の基準時の不存在判断だけであり,相殺時に両債権が存在したことや,相殺という消滅原因について既判力を認めたものではない。
相殺前の債権の存在一般を否定したものでもない。
単に紛争の蒸し返しで信義則に反するという理由によらず,114条2項の既判力の作用によりYの請求を排斥できる。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案第1の1~3が番号1~12,第2の1~3が番号13~19,第3の1~4が番号20~28に対応する。
番号29~33は答案全体の基本概念・応答・具体性・表現についての確認である。
主要項目では,番号4・5は第1の1の条件関係,番号10は第1の3のYの意思,番号13~16は第2の比較と結論,番号22・24・25は第3の基準時不存在と請求原因への作用に当たる。
重み3以下の項目も第4に省略せず掲載している。
対応表に載せない番号17は第2の3の反訴を新たに判断しない点,番号27は第3の4の信義則によらない点,番号29・33は答案全体の概念・表現に対応する。
第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 1 | 4 | 142条と114条2項から二つの判例の関係を説明する | 第1の1。相殺にも既判力が生じるため別訴と衝突し得るという142条の問題から出発する。 |
| 2 | 4 | 単なる弁論併合では分離による判断矛盾を防げないと指摘する | 第1の1。同じ裁判官による現在の併合だけでは,後の分離を防げないという危険を指摘する。 |
| 3 | 4 | 予備的反訴の解除条件を相殺の認容と取り違えない | 第1の1。認容だけでなく自働債権不存在の判断でも解除条件が成就すると説明する。 |
| 4 | 5 | 予備的反訴で弁論を分離できない理由を条件関係から説明する | 第1の1。反訴の本案判決の要否が本訴の相殺判断の有無に依存するので,独立の分離判決は条件に反すると説明する。 |
| 5 | 5 | 相殺判断と反訴本案判決が同じ部分に併存しない仕組みを説明する | 第1の1。条件が成就する場合には反訴本案判決がなく,成就しない場合には反訴を判断するという相互排他性を示す。 |
| 6 | 4 | 相殺は他の防御方法が排斥された後に審理されると説明する | 第1の2。他の防御方法を全て排斥した後に相殺を審理するという順序を冒頭に置く。 |
| 7 | 4 | 他の理由で本訴が棄却される場合には相殺の利益を得ず反訴の名義取得が可能と説明する | 第1の2。本訴債権不存在などの場合には相殺による回収はなく,反訴で残代金の名義を得る余地が残る。 |
| 8 | 4 | 相殺が判断される場合には反訴の本案判決がされないと説明する | 第1の1・2。相殺の判断をした部分では反訴の本案判決をしない。相殺を認めない場合の条件成就も落とさない。 |
| 9 | 4 | 相殺の担保的利益と債務名義取得の利益を二重に得ないと結論付ける | 第1の2。相殺による回収と反訴による名義取得は,同一部分について選択的にしか実現しない。 |
| 10 | 5 | Yが望む審理順序と回収方法から合理的意思を具体化する | 第1の3。他抗弁で債権を保持し,次に相殺で回収し,相殺を判断しない場合は名義を得るというYの希望を具体化する。 |
| 11 | 4 | 訴え変更の手続を要しない扱いが申立ての解釈であり処分権主義に反しないと説明する | 第1の3。異なる意思表示がない限り,申立ての趣旨を解釈する扱いであって裁判所による請求変更ではないと位置付ける。 |
| 12 | 4 | Xの本案判決を得る利益が114条2項等で保護されると説明する | 第1の3。Xには反訴判決又は同じ範囲の自働債権不存在の既判力が与えられ,終局解決の利益が保たれる。 |
| 13 | 5 | 原判決維持確定時の114条1項・2項の既判力を区別する | 第2の1。X請求権の不存在とY請求権の不存在を,114条1項と2項に分けて示す。 |
| 14 | 5 | 取消改判では反対債権不存在の既判力が生じないと説明する | 第2の2。取消改判後には相殺判断が不要になり,Y債権不存在の既判力が生じないことを示す。 |
| 15 | 5 | 不利益変更を控訴人Xの利益に即して判断する | 第2の2・3。失われるのは控訴したXに有利な地位であり,Yの不利益を基準にしない。 |
| 16 | 5 | 原判決を維持して控訴棄却とする手続的結論を示す | 第2の3。末尾で,原判決を維持して控訴を棄却すると結論付ける。 |
| 18 | 4 | 自働債権の不存在という既判力の内容を全設問で一貫させる | 第2の1・第3の2・4。既判力の対象を基準時の不存在にそろえ,消滅原因と区別する。 |
| 19 | 4 | 二つの判決が確定した場合を同じ比較軸で検討する | 第2の1・2。両者を対にし,維持確定と取消改判確定を既判力の範囲という同じ軸で比較する。 |
| 20 | 4 | 不当利得返還請求の四要件を示す | 第3の1。冒頭で,利得・損失・因果関係・法律上の原因の欠如を列挙する。 |
| 21 | 4 | Yの言い分を利得・損失・因果関係・法律上の原因の欠如に対応させる | 第3の1。残代金の支払免脱と回収不能が対応するというYの構成を示し,相殺無効の主張を原因欠如へ割り当てる。 |
| 22 | 5 | 114条2項が基準時の自働債権不存在を確定することを示す | 第3の2。前訴口頭弁論終結時の残代金債権300万円の不存在に後訴裁判所が拘束されると置く。 |
| 23 | 4 | 両債権の相殺時の存在や相殺という消滅原因に既判力を広げない | 第3の4。相殺時の両債権存在及び相殺による消滅という理由に既判力を広げないことを明記する。 |
| 24 | 5 | 既判力が利得・損失等のどの具体的主張に作用するか説明する | 第3の3。存在しない債権について,なお支払義務があるのに免れている利得,回収すべき債権を回収できない損失は肯定できないと説明する。 |
| 25 | 5 | 【条件付】積極的作用又は消極的作用を選び要件事実と接続する | 第3の2・3。答案は積極的作用を採用する。債権不存在の拘束を前提に請求原因を失当とする。消極的作用を併記する必要はない。 |
| 26 | 4 | 請求原因の欠如又はそれ自体失当から請求棄却へ到達する | 第3の3。請求原因事実の主張はそれ自体失当として,訴え却下ではなく請求棄却へ至る。 |
| 28 | 4 | 訴訟物同一・先決・矛盾という一般論だけで説明を終えない | 第3の3・4。訴訟物が別であることを認めた上で(第3の4),利得・損失の具体的な前提へ既判力を接続する(第3の3)。 |
| 30 | 4 | 問われた事項に理由を示して自分の言葉で答える | 全体。各設問の結論の前に,条件関係,既判力の差及び請求原因の失当という理由を置く。 |
| 31 | 4 | 抽象論の再現にとどまらず事案を具体的に検討する | 全体。300万円の残代金,Xの支払免脱及びYの回収不能を,それぞれの制度に対応させる。 |
| 32 | 1 | 【適用条件:手書き答案】小さ過ぎる字や潰れた字を避ける | 答案全体。本稿はデジタル答案なので字形の評価は非該当である。手書きする際は,通常の大きさと判読可能性を確保する。 |
(2) 設問1
出題趣旨は,単なる併合でも残る判断矛盾の危険が予備的反訴ではなぜ解消するか,及びなぜ二つの利益を二重に享受する結果にならないかの説明を求める。
採点実感は,係属が消えるという効果だけの説明では足りず,分離できない理由と解除条件を理解する必要があると指摘する。
答案は,反訴の判決の要否が本訴の相殺判断に従属する関係を説明した(番号4・5)。
この不可分性の説明は,本記事が採点実感の問いに応えるために組み立てた理由付けである。
平成18年判決は,予備的反訴に変更されると解すれば重複起訴の問題は生じないと述べ,この訴えの変更は審判の対象に変更を生じさせず反訴被告の利益を損なわないから,書面によることも反訴被告の同意も要しないとするが,弁論の分離や条件関係には言及していない。
二利益については,他の抗弁で請求が排斥される場合も落とせない。
答案は他の防御方法,相殺,債務名義という順序を置き,回収利益と名義が同一部分に重ならないことを示した(番号6~9)。
Yの意思も,適法になるから合理的だという循環ではなく,債権保持と確実な回収という選好から説明した(番号10)。
(3) 設問2
公式資料が求める比較は,請求棄却という主文の語の同一性ではなく,二つの判決が確定した場合の既判力である。
答案は114条1項と2項を区別し,取消改判では反対債権不存在というXに有利な既判力が失われるため,不利益変更となると説明する(番号13~16・19)。
控訴審がYの不服申立てのない反訴を新たに判断するという議論はしない(番号17)。
(4) 設問3
採点実感は,利得・損失等の主張が許されないという抽象的な結論だけでなく,積極的作用又は消極的作用と具体的な要件事実の関係を説明することを求めている。
答案は積極的作用を選択し,残代金債権不存在を前提にすれば,現存債権の回収不能という損失及びこれに対応する支払免脱の利得を認められないと説明する(番号22・24・25)。
採点実感が許容する消極的作用による別構成では,現存する残代金債権を前提とした利得・損失・因果関係の主張が,前訴の不存在判断に抵触して排斥され,適法な請求原因の主張を欠くから請求棄却となる。
これも許容されるが,二つの構成を両方書く要求ではない(番号25・26)。
訴訟物が異なるというだけで作用を否定せず,相殺の消滅原因の確定や信義則だけにも依拠しない(番号23・27・28)。
(5) 答案の弱点と扱わなかった事項
条件関係による不可分性の説明と,Yが主張する残代金の現存を要件事実へ接続する説明には,文章を短くすると中間命題が落ちやすいという弱点がある。
名称を示しただけで理解したつもりにならず,何が何を前提にするかを残す必要がある。
相殺の実体要件,遅延損害金及びYの控訴・附帯控訴は設問の指定に従って扱っていない。
当時条文と引用判例の確認範囲を踏まえ,試験問題と公式趣旨・採点実感が求める範囲を超えて判例の射程を一般化しない。
現在の個別事件での手続選択や法改正後の実務についての結論を示す記事ではない。
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第7 出典及び確認状態
1 公式資料
法務省公表の問題PDF(民事系)。
本問はPDF12頁~15頁を読んだ。
https://www.moj.go.jp/content/001144530.pdf
法務省公表の出題趣旨PDF。
本問はPDF10頁の第3問見出しから11頁の刑事系科目見出しの直前までを読んだ。
https://www.moj.go.jp/content/001166241.pdf
法務省「平成27年司法試験の採点実感等に関する意見」の民事系PDF。
本問はPDF24頁~30頁を読んだ。
https://www.moj.go.jp/content/001166215.pdf
試験日は司法試験委員会決定の平成27年の実施日程PDFの1頁の民事系科目欄により確認した。
2 法令
民事訴訟法114条・142条・143条・246条・302条・304条は,e-Gov法令検索・民事訴訟法の平成24年10月1日施行版(次の施行日は平成29年6月2日)で,平成27年5月14日時点の条文を確認した。
民法703条は,改正法の公布原文と改正沿革から,同日時点の条文を確認した。
参照条文の確認は本稿で用いる規定に限り,当時の民事訴訟法・民法の全文を通読したという意味ではない。
3 裁判例
最高裁第三小法廷平成3年12月17日判決(昭和62年(オ)第1385号,契約金等事件,民集45巻9号1435頁)及び最高裁第二小法廷平成18年4月14日判決(平成16年(受)第519号,損害賠償等請求本訴,請負代金等請求反訴事件,民集60巻4号1497頁)は,それぞれ平成3年判決の公式原文及び平成18年判決の公式原文を全文確認した。
最高裁第一小法廷昭和61年9月4日判決(昭和60年(オ)第1563号,貸金事件,集民148号417頁)は,公式原文を全文確認し,原告のみ控訴した場合の不利益変更禁止に関する判示と照合した。
平成18年判決の公式PDFは全6頁,平成3年判決と昭和61年判決の公式PDFは各2頁である。
4 確認状態
問題・出題趣旨・採点実感は,それぞれ上記の本問の範囲の全文を読んだ。
公式資料の要求,本記事独自の重みと理由付け,採用した構成及び選択できる別の構成を区別した。
評価項目の出典はPDFの通し頁で示す。
参照した当時の条文と上記三判決の原文の確認範囲は,第7の2及び3に記載したとおりである。