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要介護4でも遺言は有効か―介護認定資料と遺言能力(AI作成)

第1 要介護4という認定だけでは遺言の効力は決まらない

要介護4と認定されている人が作成した遺言について,認定区分だけから有効とも無効とも決めることはできない。
要介護認定は介護サービスの必要度を判定する制度であり,特定の遺言を理解して意思決定できたかを直接判定する制度ではない。

民法963条は,「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」と定める。
介護認定資料を遺言能力の検討に用いる際は,資料に記録された状態と,遺言時に問題となる理解・判断との関係を説明する必要がある。

同じ要介護度が続いていても,身体機能,認知機能,介助の方法及び行動上の問題が,それぞれ同じ状態にあったとは限らない。
反対に,介護度が重くなったことだけから,特定の遺言を理解する能力まで失われたともいえない。
まず,認定結果から,その基礎となった個別の記録へ戻ることが重要である。

本記事は,厚生労働省の「介護認定審査会委員テキスト2009改訂版(令和3年4月改訂)」を基に,介護認定資料を遺言能力の検討へ用いるときの読み方を説明する。
以下の頁番号は,同テキストの紙面に印刷された頁番号を示す。

第2 結果通知書だけでなく認定の基礎資料を読む

結果通知書や被保険者証から分かる認定区分だけでは,どの生活場面で,何ができず,どのような援助が必要だったかまでは分からない。
保有者と取得できる範囲を確かめながら,次の資料を対応させる方法が有用である。

資料確認する内容遺言能力を検討する際の注意
認定調査票の基本調査項目ごとの選択肢評価軸を確かめ,一つの選択肢から全般的な能力を推測しない
認定調査票の特記事項選択の根拠,具体的な介護の内容,頻度誰が何を観察し,誰から聞いた情報かを確かめる
主治医意見書診察の時期,認知機能,意思伝達,日常の意思決定等の記載結論だけでなく,その基礎となる診察・観察内容を確認する
介護認定審査会資料等一次判定,中間評価,修正・変更の経過入力された情報と,最終的な認定結果を分けて読む
診療・看護・介護の経過記録認定調査の前後における具体的な言動遺言日までの経過を補い,反対方向の記録も確認する

基本調査と特記事項,主治医意見書の役割は,厚労省テキスト6~11頁及び17~20頁に説明されている。
資料を取得する前に,保有者へ申請方法と提供対象を確認する。

第3 能力・介助の方法・行動の有無を分ける

厚労省テキストは,認定調査項目を「能力」「介助の方法」「有無」という異なる評価軸で整理している。
全項目を,判断能力の高低を測る同じ種類の質問として読むことはできない。

評価軸関係する項目の例読み取る際の重点
能力意思の伝達,短期記憶,日常の意思決定何を実行・理解できたかと,日頃の状態を確かめる
介助の方法薬の内服,金銭の管理,買い物誰がどの部分を援助していたかを確かめる
有無精神・行動障害に関する項目等対象となる行動の有無・頻度と,具体的な対応を確かめる

例えば,薬を職員が準備していたという記録は,服薬に関する援助の存在を示す。
しかし,その記録だけでは,援助の理由が本人の理解困難,身体上の事情,施設の管理方法その他の事情のどれかは分からない。
援助を受けていたという事実と,その理由を区別して読む必要がある。

介助方法の項目は,原則として実際の介助に基づいて評価されるが,介助が行われていない状況や実際の介助が不適切な場合の取扱いもある。
「介助されていない」という選択肢を,常に本人が援助なしで安全にできるという意味へ置き換えず,特記事項と選択根拠を確認する(同テキスト8~9頁)。

また,行動上の問題が減ったことと,遺言内容を理解する能力が回復したことは,同じ事実ではない。
制度資料上も認知機能と精神・行動障害は別の項目群として扱われており,何が改善したかを項目ごとに確認すべきである。
この区別だけで個人の医学的状態を診断したり,遺言能力の結論を出したりすることはできない。

第4 中間評価項目得点を判断能力の総得点にしない

介護認定審査会資料には,五つの群に分かれた中間評価項目得点が表示される。
これは各群の機能・行動等の特徴を示す数値であり,認知機能検査の総得点でも,実際に介護へ費やした時間でもない。

厚労省テキスト39頁は,各群について重み付けが異なるため,群の得点を比較したり,加減乗除で得た値を用いたりすることには意味がないと説明している。
また,中間評価項目得点の大小だけから要介護度を推測することもできないとしている。
したがって,五つの群を合計し,その合計値が近いことを理由に判断能力も同じ程度だったと説明する方法は採れない。

1 服薬介助の変化と意思決定の変化は別である

同テキスト43頁の配点表では,第5群に次の異なる項目が含まれる。

項目選択肢と配点の例
薬の内服介助されていない21.2点,一部介助9.9点,全介助0点
金銭の管理介助されていない18.2点,一部介助9.5点,全介助0点
日常の意思決定できる22.5点,特別な場合を除いてできる13.7点,日常的に困難5.5点,できない0点

例えば,他の項目が変わらず,「薬の内服」だけが全介助から一部介助へ変わったという仮定を置く。
この場合,薬の内服の配点は0点から9.9点に変わるが,「日常の意思決定」の選択肢は変わっていない。
群全体の得点が上がったという情報だけから,意思決定能力が改善したとはいえない理由がここにある。
これは公表された配点表による仮定例であり,特定の人の経過を示すものではない。

2 同じ群の経時変化も個別項目へ戻って読む

過去と現在の同じ群に変化がある場合にも,どの項目の選択が変わったか,具体的な状態に変化があったか,調査環境や援助の方法が変わったかを確認する。
群の変化を検討することと,その数値を遺言能力の尺度へ置き換えることは別である。

審査会資料の表示方法にも注意が必要である。
同テキスト37~38頁には,一部の選択肢を表示しない形式や,前回と異なる項目を表示する取扱いが説明されている。
空欄又は前回欄の表示だけから,調査漏れ,変化なし又は能力ありと決めず,実際の様式と基本調査を照合する。

第5 調査日・認定日・有効期間・遺言日を並べる

認定結果の日付と,実際に本人の状態を観察した日付は一致するとは限らない。
資料を読む際は,少なくとも次の日付を一つの時系列に置くとよい。

・認定調査を実施した日
・主治医の診察日と意見書の作成日
・認定の決定日と有効期間
・遺言案の準備・本人との面談・遺言の作成日
・関係する入退院,投薬変更及び具体的な生活上の出来事の日

認定の有効期間は,その期間中ずっと同じ認知機能や遺言能力が存在したことを保証する表示ではない。
厚労省テキスト29~30頁の有効期間の説明を,遺言能力についての継続的な認定へ読み替えることはできない。

遺言より後に作成された資料でも,どの時期の観察を記録しているかを確認する必要がある。
反対に,遺言より前の認定があるというだけで,その後の変化を検討しなくてよいわけでもない。
作成日の先後だけで採否を決めず,観察対象の時期と,遺言日までの経過を説明できるかを検討する。

第6 具体的な記録を遺言内容の理解へ結び付ける

実務では,資料を「記載された事実」「そこから検討できる機能」「当該遺言との関係」に分けると,推論の飛躍を点検しやすい。

例えば,「同じ質問を繰り返す」「予定を説明しても保持できない」という記録がある場合には,まず,誰が,いつ,どの場面で観察したかを確かめる。
次に,その状態が遺言の内容を説明された際の理解・保持とどう関係するかを,面談時の問答や他の記録と照合する。
記憶に関する一つの記載だけで,遺言能力を確定するものではない。

金銭管理への援助についても,現金を数えること,支払手続を行うこと,財産の範囲を把握すること及び財産を誰へ取得させるかを判断することは,同じ課題ではない。
本人が困難だった具体的な行為と,遺言内容の理解に必要な働きとの関係を説明する必要がある。

本人の状態を悪く評価する記録だけを集めるのではなく,理解や意思表示が保たれていたことを示す記録も並べる。
どの資料を重く評価するかは,情報源,観察の具体性,時期,作成目的及び他の記録との整合を踏まえて検討する。
これらは資料整理の方法であり,個別事件の立証責任を変更する説明ではない。

第7 遺言能力と公正証書遺言の口授を区別する

公正証書遺言については,遺言能力に加え,民法969条1項2号の口授という方式も確認する。
同号は,「遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。」と定めている。
なお,口がきけない者等の特則を含め,適用する方式は別途確認する必要がある。

介護記録上,会話が成立していたことと,遺言の場面で必要な口授があったことも,同じ事実ではない。
逆に,介護上の意思伝達に困難があるという記載だけから,実際の作成手続を確認せずに方式違反を決めることもできない。
本人の発言,公証人の質問,証人の見聞及び同席者の関与を,作成経過に沿って確認する。

口授の肯定例・否定例と具体的な検討事項は,公正証書遺言の「口授」とは―要件・判例・無効訴訟の実務で扱っている。

第8 よくある疑問

1 要介護3や要介護5なら結論が変わるか

認定区分の数字だけで遺言能力を判定できないことは同じである。
認定の原因となった状態と,遺言内容の理解との関係を個別に検討する。

2 主治医意見書と認定調査票が食い違うときはどちらが正しいか

どちらかを一律に優先することはできない。
厚労省テキスト18~19頁は,基本調査と主治医意見書では選択の定義等が異なる場合があることに注意を求めている。
それぞれの観察機会,情報源,評価対象と特記事項を確認し,食い違いが何によるものかを検討する。

3 認知症高齢者の日常生活自立度だけで判断できるか

その区分だけを遺言能力の結論へ置き換えることはできない。
また,審査会資料には認定調査結果の自立度を表示する欄と,主治医意見書の結果も併記する欄があるため,どの欄を比較しているかを確かめる必要がある(同テキスト39~40頁)。

4 認定結果そのものに納得できない場合はどうするか

遺言能力を検討することと,要介護認定の処分を争うことは,目的と手続が異なる。
資料の収集方法や認定結果への対応は,要介護認定の結果に納得できない場合の資料収集と争い方を参照されたい。

第9 出典と関連記事

・厚生労働省「介護認定審査会委員テキスト2009改訂版(令和3年4月改訂)」1~2頁,6~11頁,17~20頁,29~30頁,37~40頁,43頁
・民法963条・969条・969条の2
・公正証書遺言の効果的な無効主張方法―証拠収集の優先順位と訴訟設計
・レビー小体型認知症患者の公正証書遺言の無効主張方法