第1 この記事の対象と結論
本記事は,平成30年司法試験の民事系科目第2問(商法)について,法務省の出題の趣旨及び採点実感を踏まえた模範解答と,両資料から独自に抽出した38の評価項目を示すものである。
会計帳簿の閲覧請求,無償保証による利益供与,取締役等への責任追及,相続株式の売渡請求を扱う。
結論は,設問1では主として目的外請求を理由とする閲覧拒絶が可能であり,設問2では利益供与と議決権行使の結び付きから決議1の取消しを検討する一方,否決された決議2の取消しの訴えは不適法となるというものである。
Aの価額支払義務及び損害賠償責任と,Gの利益返還義務は根拠・金額・訴えの対象を分ける。
設問3では制度趣旨からの評価に加え,決議の瑕疵と取消訴訟を経て,売渡請求の効力否定に至る筋道を示す。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
評価項目と重みは本記事の分析であり,法務省が公表した採点基準又は配点ではない。
重み5は判断・構成・救済を大きく分ける核心,4は主要な補強論証又は重要な当てはめ,3は通常の法的処理・固有の誤り回避,2は低優先の補足,1は周辺事項として区別する。
「注意」という区分だけで重みを低くせず,採用構成に応じて必要になる事項は条件付きとする。
表中の「記載なし」は,実読した当該問の関連範囲で対応する記載を確認できないという意味である。
資料が別の許容構成を挙げるときは,両方を書くことを一律に要求しない。
同一の欠落を通常項目と注意項目で別建てに重ねて減点しない。
一般的な文章作法や時間配分は評価表とは別に,答案を読みやすくする前提として扱う。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
非公開会社甲社の株式は,Aが300株,BとCが各250株,Dが200株を保有し,合計1000株である。
DはAに自己の株式の買取りを求めた後,Aのリベートに関する責任調査を理由として会計帳簿の閲覧を請求する。
Dは,甲社とは離れた地域で同種の事業を営む乙社の全株式も有するが,経営には関与せず,息子Fが代表取締役である。
Aは,友人GがDの株式を買い取るための借入金800万円を甲社に無償で連帯保証させる。
その契約と一体としてDはAへ総会の議決権行使を全面委任し,Cの解任は可決され,Aの解任は否決される。
AはCが解任提案の理由を説明することを制止した。
その後,甲社は保証債務800万円を弁済し,Gは求償に応じない。
その後の持株関係の変更とAの死亡により,Bが700株,Cが300株を有する。
将来Bへ経営を承継するAC間の合意があったが,Cは社長の地位にとどまるため,Bの相続した450株中401株だけの売渡しを甲社に請求させる。
会社は全450株を取得できる財源を有する。
2 設問が求めること
設問1は甲社の立場から,Dの会計帳簿閲覧請求を拒絶する主張とその当否を論じるものである。
設問2⑴はCによる二つの決議取消しの訴えを,⑵はCによるA及びGに対する責任追及等の訴えを検討する。
設問3はBの立場から売渡請求の効力を争い,形式要件だけでなく174条の趣旨,決議の瑕疵,請求の効力まで到達する必要がある。
招集等の適法性,財源があること,株式売買の価格が公正であることなど,問題の前提を別の問題に置き換えない。
第4 評価項目と重み
1 設問1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 433条1項の少数株主要件・営業時間・理由・対象を簡潔に当てはめる | 3 | PDF10頁「当該請求の要件等」 | PDF8頁「当該請求の要件等に簡潔に言及すること」 |
| 2 | 433条2項1号の目的外請求を権利調査との関係から解釈する | 5 | PDF10頁「その権利の確保又は行使」 | PDF8頁「調査の目的でなく」 |
| 3 | Dの買取り要求とリベートへの無関心の発言を実際の目的へ結び付ける | 4 | PDF10頁「Dの言動等」 | PDF9頁「結論のみ」 |
| 4 | 同種事業と実質的競争を分けP/Qの距離と出店予定を評価する | 4 | PDF10頁「出店する予定がない」 | PDF9頁「実質的に競争関係」 |
| 5 | Dの全株保有・経営不関与・Fとの親子関係から事業主体の同視を検討する | 4 | PDF10頁「親子関係」 | PDF9頁「経営には関与していない」 |
| 6 | 競業情報利用の主観的意図の要否を拒絶事由の趣旨から説明する(条件付き:この発展論証を採用する場合) | 3 | 記載なし(対象部分実読) | PDF9頁「主観的意図」 |
| 7 | 2号又は権利濫用を採る場合は固有要件とDの言動を対応させる(条件付き:2号又は権利濫用を論じる場合) | 2 | 記載なし(対象部分実読) | PDF9頁「株主権の濫用」 |
| 8 | 注意:計算書類等の442条3項と帳簿閲覧を取り違えない | 3 | 記載なし(対象部分実読) | PDF9頁「計算書類等の閲覧請求」 |
2 設問2⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 9 | 甲社の無償連帯保証を会社計算による財産上の利益と評価する | 5 | PDF10頁「財産上の利益の供与」 | PDF10頁「無償で連帯保証」 |
| 10 | 120条1項の何人に対してもという文言から非株主Gも受益者になり得ると説明する | 4 | PDF10頁「現に株主である者に限られない」 | PDF11頁「受ける者は株主であることを要せず」 |
| 11 | Dを受益者と構成する場合は株式売買成立との関係から間接的利益を示す(条件付き:D受益構成を採用する場合) | 3 | PDF10頁「Dに対する財産上の利益」 | PDF10頁「Dに対する財産上の利益」 |
| 12 | 株式譲渡自体と議決権行使の回避を分け120条の権利行使関連性を説明する | 4 | PDF10頁「株主の権利の行使に関して」 | PDF11頁「株式の譲渡自体は」 |
| 13 | 保証・買取資金・DからAへの包括委任の連結を関連性へ当てはめる | 5 | PDF10頁「議決権の行使に関する一切」 | PDF10頁「一切の事項を委任」 |
| 14 | 利益供与が自由な意思形成をゆがめ831条1項1号の決議方法違反となると接続する | 5 | PDF10頁「決議の方法が法令に違反」 | PDF10頁「当該利益の供与により」 |
| 15 | 注意:包括委任を無視してAの投票がDの指示に反するとしない | 3 | 記載なし(対象部分実読) | PDF12頁「Dの意思に反する」 |
| 16 | 裁量棄却を論じる場合は重大性と影響を分け中核を圧迫しない(条件付き:裁量棄却を論じる場合) | 2 | 記載なし(対象部分実読) | PDF12頁「裁量棄却」 |
| 17 | Cの理由説明と解任議案の関連性を示し提案権侵害又は315条濫用と評価する | 4 | PDF10頁「株主提案権」 | PDF11頁「議事整理に関する権限」 |
| 18 | 注意:Cの説明制止を質問の存在なく314条の取締役説明義務違反に置換しない | 3 | 記載なし(対象部分実読) | PDF11頁「取締役の説明義務」 |
| 19 | 否決で新たな法律関係を形成しないことと831条の訴えの対象外・不適法を論じる | 5 | PDF10頁「不適法である」 | PDF10頁「株主総会の否決決議」 |
| 20 | 注意:解任を争う取締役の経営参加や対立だけで特別利害・議決権排除を認めない | 3 | 記載なし(対象部分実読) | PDF11頁「株主の経営参加権」 |
3 設問2⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 21 | Aの120条4項の価額支払義務と少なくとも60万円という額を結び付ける | 5 | PDF11頁「60万円」 | PDF12頁「同条第4項」 |
| 22 | Aを施行規則21条1号の実行取締役に位置付け120条4項ただし書の免責を区別する | 3 | PDF11頁「会社法施行規則第21条第1号」 | PDF12頁「会社法施行規則第21条第1号」 |
| 23 | Aの423条1項任務懈怠による保証弁済800万円の損害賠償を事案に即して論証する | 5 | PDF11頁「800万円」 | PDF12頁「任務懈怠」 |
| 24 | Gの120条3項利益返還を847条で追及し少なくとも60万円と論じる | 5 | PDF11頁「同法第120条第3項」 | PDF13頁「60万円を返還」 |
| 25 | Aの120条4項・423条責任とGの120条3項について金額と要件を区別する | 4 | PDF11頁「各金額以外の額」 | PDF13頁「適切に区別」 |
| 26 | 注意:Gの通常の求償債務を847条の責任追及等の訴えの対象にしない | 4 | 記載なし(対象部分実読) | PDF13頁「求償債務の弁済」 |
| 27 | 注意:Aへの経済的利益の帰属なく356条1項3号の間接利益相反としない | 3 | 記載なし(対象部分実読) | PDF13頁「経済的利益が帰属」 |
| 28 | 注意:既存株の売買を募集株式の発行・出資履行仮装の責任に置換しない | 3 | 記載なし(対象部分実読) | PDF13頁「募集株式の発行」 |
4 設問3
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 29 | 174条を一般承継による望ましくない株主の参入を防ぐ制度として説明する | 5 | PDF11頁「好ましくない者」 | PDF14頁「株主となることを防ぐ」 |
| 30 | 既存株主への一部請求も文言上排除されないことと趣旨による制限の双方を論じる | 4 | PDF11頁「文言上」 | PDF14頁「文言及び事案」 |
| 31 | Bの従前株・AC間の後継合意・401株とCの支配目的を総合評価する | 4 | PDF11頁「401株」 | PDF14頁「AC間の合意」 |
| 32 | 合意を実質的な全株主合意と解する場合はB提案・全株主の範囲から丁寧に基礎付ける(条件付き:全株主合意構成を採用する場合) | 3 | 記載なし(対象部分実読) | PDF14頁「株主全員による株主間契約」 |
| 33 | 175条2項によるBの議決権排除とCのみの決議の形式適法を踏まえる | 3 | 記載なし(対象部分実読) | PDF14頁「会社法第175条第2項本文」 |
| 34 | 決議について831条1項3号・830条2項・831条1項2号等から整合的な争訟手段を選ぶ | 5 | PDF11頁「同法第830条第2項」 | PDF14頁「決議の内容が法令に違反」 |
| 35 | 831条1項3号構成ではCの特殊な個人的利益と著しい不当性を別々に示す(条件付き:831条1項3号構成を採用する場合) | 4 | PDF11頁「特別の利害関係」 | PDF14頁「著しく不当な決議」 |
| 36 | 決議の取消し又は無効確認が前提を失わせ売渡請求の効力否定へ至ると説明する | 5 | PDF11頁「本件請求が効力を生じない」 | PDF14頁「本件請求が効力を生じない」 |
| 37 | 設立当初からの定款規定という反対事情を制度利用の予測可能性として評価する | 3 | PDF11頁「設立当初」 | PDF14頁「定款第9条」 |
| 38 | 注意:846条の2の特別支配株主による売渡株式取得の無効の訴えとしない | 3 | 記載なし(対象部分実読) | PDF15頁「第846条の2」 |
5 重みの分布
38項目の内訳は,重み1が0項目,2が2項目,3が14項目,4が11項目,5が11項目であり,重みの合計は145である。
条件付き項目を含む公開表の総数であり,個々の答案の必須項目数や公式得点ではない。
重み5を付した各項目の役割は次のとおりである。
番号2:目的外調査かどうかで拒絶の主ルートが決まる。
Dの発言の列挙だけでは代替できない判断基準である。
番号9:財産上の利益の存在は120条違反と決議取消しの入口であり,委任の当否だけでは主ルートを構成できない。
番号13:保証・資金・委任を連結しなければ無償保証が本総会の議決権に関する供与であることを導けず,核心となる。
番号14:実体的な利益供与違反を本問が求める決議取消事由へ変換する不可欠の接続である。
番号19:否決という対象の性質から法定取消訴訟の適法性を分ける核心であり,議事運営の不公正だけでは結論へ届かない。
番号21:Aへの120条4項に基づく価額支払という独立の責任・具体額を確定する設問2⑵の核心。
番号23:Aへの423条損害賠償は120条の価額支払と別の独立責任で,800万円の出捐まで論ずる核心。
番号24:非取締役Gに対する本問指定の責任追及等の訴えを120条3項へ結び付ける核心。
番号29:174条の目的を起点に文言の形式適用を制御することを設問自体が求めており,設問3の核心である。
番号34:後続請求の実体評価だけでなく先行決議をどの瑕疵・訴訟で争うかを選ぶ,救済の核心。
番号36:決議の取消し又は無効が請求の前提を失わせることを示し,設問の効力否定という終点に到達する核心。
第5 模範解答
1 前提と表記
以下は試験時の法令を基礎として公式資料との照合後に作成した答案である。
法令名のない条文は会社法を指す。
設問3は決議取消しの構成を採用する。
答案中の人物表記は,問題文と同じく全角のA~Gを用いる。
2 答案
1 設問1
(1)Dは発行済株式1000株中200株を有し,会社法433条1項の3%要件を満たす。
営業時間内に,Aのリベートに係る取締役責任調査という理由を示して,その調査と関連する仕入取引の帳簿を求めているから,形式要件は満たす。
甲社は同条2項の拒絶事由を主張すべきである。
総勘定元帳及び補助簿は会計帳簿に当たり,直近3期の仕入取引部分という範囲も示されている。
計算書類等の閲覧を定める442条3項の問題ではない。
(2)1号は株主権の確保・行使に関する調査以外の目的を排除する。
Dは責任の有無はどうでもよいと明言し,買取りを求めた後に請求し,その撤回と買取りを結び付けている。
責任追及のための調査を口実とし,Aに個人的な買取りを強いることが実際の目的と認められ,1号による拒絶は認められる。
株式の経済的利益を守る売却交渉それ自体が違法なのではなく,本件請求が権利調査とは無関係な圧力として用いられている点に理由がある。
請求時に掲げた理由だけで判断して実際の目的を問わないとすれば,口実を付した濫用的請求を排除できず,同号の趣旨を損なう。
(3)2号は業務遂行を妨げ,株主共同利益を害する目的を要する。
買取り要求だけでこの加害目的まで当然には認定できず,閲覧対象も仕入部分に限定されているから,同号の主張は1号ほど有力ではない。
権利濫用との主張も考えられるが,まず実際の目的を直接対象とする1号により処理すれば足りる。
(4)甲社は3号の競業を主張し得る。
これは情報の競業利用の客観的危険を防ぐ規定であり,具体的な競業利用の意図までは要しないと解する。
しかし,Dが乙社の全株を持つことと,乙社の事業を自ら営み又はこれに従事することは同じではない。
Dは全株主として役員人事等を通じ乙社を支配でき,代表取締役Fの父でもあるから,実質的に事業を営むとの反論はある。
しかしDは現実の経営に関与しておらず,法人の事業を当然にその株主の事業と同視することはできない。
また,両社は同じ商品を扱うものの,甲社のP県と乙社のQ県は離れ,甲社にはQ県への出店予定もない。
現実の顧客・市場の競合は乏しく,実質的競争関係を認めて拒絶する主張は採り難い。
同種商品を扱うこと,乙社の事業が甲社と競合すること,D自身がその事業主体に当たることは,それぞれ別の判断である。
2 設問2⑴
(1)Cは株主であり,3月25日の決議から3か月内の4月15日に甲社を被告として取消しを求めている(831条1項,834条17号)。
招集手続の適法を前提に,決議1の方法の違法を主張する。
甲社はGの借入金800万円を無償保証しており,少なくとも保証料60万円相当の経済的利益を,保証リスクを負担する会社の計算でGに供与した。
120条1項は「何人に対しても」と定めるから,Gが当時株主でないことは妨げにならない。
ただし2項の特定株主に対する推定をGへ当然に及ぼすことはできない。
そこで本件では,以下の契約内容から1項の要件を直接認定する。
AはDがC解任に反対することを恐れ,Gによる買取りを計画した。
本件契約は保証による買取資金の確保と,DがAに議決権行使を全面委任することを一体としている。
単なる公正価格の株式売買ではなく,Dの議決権をAの意向に沿わせるための利益供与である。
株式譲渡それ自体は株主の権利行使ではないが,Dの議決権行使を回避・誘導する目的がある以上,権利行使に関する供与といえ,120条1項に違反する。
この利益供与で得た委任によりAがDの票を投じた決議1は,株主の自由な判断による意思形成をゆがめ,831条1項1号の決議方法の法令違反となる。
委任状があることは違法な意思形成を適法にしない。
他方,全面的な委任がある以上,Aの投票がDの個別の指示に反するという主張はできない。
A・C間の経営上の対立や解任対象者自身の投票も,株主の経営参加に属し,それだけで特別利害関係や議決権排除を導かない。
(2)Dの票を出席・賛成から除いても550/800で定款の3分の2要件を超える。
しかし,裁量棄却には違反が重大でなく,かつ決議に影響がないことを要する(831条2項)。
本件の利益供与は意思形成の公正を害する重大な違反であり,票数だけで裁量棄却すべきではなく,決議1を取り消すべきである。
(3)決議2では,Aの不正なリベートはA解任の当否に直接関係する。
Cの説明を無関係として止め直ちに採決した議長の行為は,315条の議事整理権の合理的範囲を超え,著しく不公正と主張できる。
株主提案権は議案を提出するだけでなく,総会でその理由を説明し他の株主の判断に資する機会を含むから,その実質的侵害でもある。
株主が取締役に説明を求めた事情はなく,314条の説明義務違反とすることはできない。
もっとも,否決決議は新しい法律関係を形成せず,取り消しても従前の状態から何ら変わらず,Aの解任議案が可決されたことにもならない。
831条以下は形成された会社関係の早期安定を図る特別の訴訟であり,否決決議の取消しはその対象とならない(最判平成28年3月4日)。
Cの不公正な議事運営の指摘には理由があるが,本件決議2の取消しの訴えは不適法として却下される。
3 設問2⑵
(1)Cは,甲社に帰属する請求権を,847条の責任追及等の訴えにより行使する。
非公開会社であるため6か月の継続保有は不要であり,原則として甲社への提訴請求後60日の不提訴を要する(同条2・3項)。
被告はA及びG,支払先は甲社である。
役員の責任に係る請求と120条3項の利益返還請求は,いずれも847条1項が対象とする。
C自身の損害の賠償を求める訴えではない。
(2)Aは無償保証による利益供与を企画・実行した取締役であり,120条4項及び施行規則21条1号により,供与利益の価額相当額を支払う義務を負う。
無償保証は少なくとも本来必要な保証料60万円の利益をGに与えるから,Aの支払義務は少なくとも60万円である。
供与をした取締役には120条4項ただし書の無過失免責はなく,適法な取締役会決議も違法な供与を正当化しない。
関与したにとどまる他の取締役の無過失免責と,現実に供与したAの責任とを混同してはならない。
(3)さらにAは会社の利益のために法令を守り慎重に保証を行う義務を負う。
自己の支配を維持するため,友人Gの買取資金を会社に無償で保証させる行為は,120条違反であり,会社の負担に見合う利益のない危険を引き受ける点で任務懈怠に当たる(423条1項)。
これにより甲社は800万円を弁済した。
求償権の取得という形式だけで損害が消えるわけではなく,Gが求償に応じない本件では,Cは当該出捐800万円を損害としてAに賠償を請求することができる。
Gから現実に回収された部分は調整し,重なる支払義務によって同一損害を二重に填補しない。
60万円は信用供与という利益の価額,800万円は保証履行による会社の損害であって,同じ金額を別名で請求しているのではない。
もっとも,求償権の実際の回収可能性等により損害評価が異なるなら,その事情に即して額を調整する。
A自身に経済的利益が帰属したとの事実はなく,自己の地位への利害だけで356条1項3号の間接取引とはしない。
(4)Gは無償保証の受領者として,120条3項により甲社へ利益を返還する。
受領利益は保証による信用供与であり,少なくとも保証料60万円相当額を返還すべきである。
GがDに支払った株式代金は甲社への反対給付ではなく,同項後段の返還を求められない。
また,Gの返還義務は利益供与規制に基づくものであり,Gが取締役でないことや,Gの過失を立証できないことは,その成立を妨げない。
800万円の通常の求償債務と60万円の利益返還義務は発生根拠が異なる。
847条1項は120条3項の返還請求を明示しており,非取締役Gにもこの訴えで返還を求められるが,Gへの単なる求償請求を当然に責任追及等の訴えの対象とすることはできない。
新株発行・出資履行仮装の事案でもない。
4 設問3
(1)一般承継は譲渡ではなく譲渡制限だけでは防げない。
174条は,これにより人的閉鎖性が失われるのを防ぎ,会社に望ましくない相続人等を排除する機会を与える。
Bは,既存株主で次期経営者でもあるから対象外と主張できる。
しかし条文は既存株主を除いておらず,相続により支配割合が増す場合にも会社の人的構成を統制する余地がある。
しかも定款第9条は設立当初から存在し,相続時の適用を予測できたとの反論がある。
したがって,Bが既存株主であるという一事から,相続450株への適用を当然に否定することはできない。
(2)甲社には174条の定款規定があり,対象数401株とBを特定する決議をしている(175条1項)。
同条2項が議決権を制限するのは売渡対象者であるBであって,対象株式だけではないから,Bの従前250株を含む700票は行使できない。
残るCの300票は全て賛成であり,309条2項3号の特別決議要件を満たす。
相続を知ってから1年内の請求で,分配可能額も足りるから,これらによる無効主張はできない。
Bの議決権を除くこと自体は法の明文に基づき,そのことを831条1項1号の方法違反とする主張は成り立たない。
(3)しかし,形成権であっても制度の趣旨を逸脱する濫用は許されない。
Bは設立時からの株主かつ役員であり,親族間では将来Bが経営を承継し,A退任後Cも退任する旨を合意していた。
BはA死亡後,合意に従う就任意思を伝え,Cへ退任と相談役としての支援を求めている。
経営経験を積み後継者とされたBを排除する必要は乏しい。
Cは自ら社長にとどまるため,全450株も取得可能なのに,支配権確保に最低限必要な401株だけを選んだ。
取得後は自己株式を除く議決権599票中Cが300票を持ち,過半数となる。
これは望ましくない新たな構成員を排除する目的でなく,合意に反して会社の負担で自己の地位を保全するための利用である。
本件の事情を総合すれば,本件請求を許すことは制度趣旨を逸脱する権利濫用となる。
(4)本件決議については次の瑕疵を主張する。
Cは単に自己の持株に基づき経営へ参加するにとどまらず,合意に反する地位維持のため,会社の財産でBの株式を取得させ自己の支配権を獲得するという,他の株主と共通しない特殊な個人的利益を有する。
Bを排除する会社上の合理的必要性が乏しいのに,その利益のためにCのみの賛成で決議したことは著しく不当であり,831条1項3号の取消事由に当たる。
Cが議決権を行使できないというのではなく,Cの行使によってこのような不当な決議が成立したことを取消原因とするのである。
Bは議決権を行使できなくても株主であり,決議の日から3か月以内に甲社を被告として取消しを求めることができる。
取消判決が確定すれば,175条の有効な決定という前提が失われ,それに基づく本件請求も効力を維持できない。
この手段によって効力を否定すべきである。
本件では決議の取消事由を根拠として請求の効力を争うのであり,174条の趣旨だけから当然無効を導くものではない。
これは特別支配株主による売渡株式等の取得ではなく,846条の2の無効の訴えによるべき場面でもない。
以上
3 枠外解説
設問1の競業情報の利用に係る主観的意図の要否は,理由を示して検討する場合に評価される補強事項である。
2号や権利濫用を主張する場合も固有の要件を示す必要があり,採用しないだけで欠落とはしない。
会計帳簿と計算書類等を取り違えない。
設問2の無償保証はGに対する利益供与として構成した。
Dへの間接的利益を受益者構成として採用する場合は,売買成立との関係を別に論証する。
A・Cの対立や解任の対象者であることだけで特別利害関係を認めたり,そのことから議決権が当然に失われるとしたりすることはできない。
Cの提案理由説明の制止は,株主が取締役に説明を求めた場合の314条と区別する。
設問3では,Bの提案を踏まえたAC間合意を実質的な全株主間契約として基礎付ける構成も考えられるが,本答案はこれを独立の契約違反構成として採用していない。
830条2項又は831条1項2号を選ぶ場合も,法令又は定款のどの規範に違反し,決議と請求の効力がどうつながるかを示す必要がある。
174条の売渡請求を,特別支配株主の売渡株式等取得に関する846条の2の訴えへ置き換えない。
設立当初からの定款規定という反対事情も評価する。
答案と評価項目の対応は次のとおりである。
番号2:433条2項1号の目的外請求を権利調査との関係から解釈する。
対応は1⑵。
番号3:Dの買取り要求とリベートへの無関心の発言を実際の目的へ結び付ける。
対応は1⑵。
番号4:同種事業と実質的競争を分けP/Qの距離と出店予定を評価する。
対応は1⑷。
番号5:Dの全株保有・経営不関与・Fとの親子関係から事業主体の同視を検討する。
対応は1⑷。
番号6:競業情報利用の主観的意図の要否を拒絶事由の趣旨から説明する。
対応は1⑷。
番号7:2号又は権利濫用を採る場合は固有要件とDの言動を対応させる。
対応は1⑶。
番号9:甲社の無償連帯保証を会社計算による財産上の利益と評価する。
対応は2⑴。
番号10:120条1項の何人に対してもという文言から非株主Gも受益者になり得ると説明する。
対応は2⑴。
番号11:Dを受益者と構成する場合は株式売買成立との関係から間接的利益を示す。
対応は不採用・枠外解説第2段落。
番号12:株式譲渡自体と議決権行使の回避を分け120条の権利行使関連性を説明する。
対応は2⑴。
番号13:保証・買取資金・DからAへの包括委任の連結を関連性へ当てはめる。
対応は2⑴。
番号14:利益供与が自由な意思形成をゆがめ831条1項1号の決議方法違反となると接続する。
対応は2⑴。
番号16:裁量棄却を論じる場合は重大性と影響を分け中核を圧迫しない。
対応は2⑵。
番号17:Cの理由説明と解任議案の関連性を示し提案権侵害又は315条濫用と評価する。
対応は2⑶。
番号19:否決で新たな法律関係を形成しないことと831条の訴えの対象外・不適法を論じる。
対応は2⑶。
番号21:Aの120条4項の価額支払義務と少なくとも60万円という額を結び付ける。
対応は3⑵。
番号23:Aの423条1項任務懈怠による保証弁済800万円の損害賠償を事案に即して論証する。
対応は3⑶。
番号24:Gの120条3項利益返還を847条で追及し少なくとも60万円と論じる。
対応は3⑷。
番号25:Aの120条4項・423条責任とGの120条3項について金額と要件を区別する。
対応は3⑵~⑷。
番号26:注意:Gの通常の求償債務を847条の責任追及等の訴えの対象にしない。
対応は3⑷。
番号29:174条を一般承継による望ましくない株主の参入を防ぐ制度として説明する。
対応は4⑴。
番号30:既存株主への一部請求も文言上排除されないことと趣旨による制限の双方を論じる。
対応は4⑴。
番号31:Bの従前株・AC間の後継合意・401株とCの支配目的を総合評価する。
対応は4⑶。
番号32:合意を実質的な全株主合意と解する場合はB提案・全株主の範囲から丁寧に基礎付ける。
対応は不採用・枠外解説第3段落。
番号34:決議について831条1項3号・830条2項・831条1項2号等から整合的な争訟手段を選ぶ。
対応は4⑷。
番号35:831条1項3号構成ではCの特殊な個人的利益と著しい不当性を別々に示す。
対応は4⑷。
番号36:決議の取消し又は無効確認が前提を失わせ売渡請求の効力否定へ至ると説明する。
対応は4⑷。
重み3以下のその他の項目(番号1・8・15・18・20・22・27・28・33・37・38)は,形式要件,責任の主体,議決権及び枠外解説の誤り回避に対応する。
第6 関連記事
1 同年度
同年度の関連記事へのリンクは本稿では掲げない。
2 他年度の同科目
令和7年度司法試験民事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した65項目と5段階の重み付け
3 関連論点
取締役の責任免除と取引承認の違い―総株主同意・黙示免除・株主交代時の確認事項
第7 出典及び確認状態
法務省・平成30年司法試験問題(民事系科目)のPDF実頁5~8頁の第2問を対象とした。
法務省・平成30年司法試験の出題の趣旨はPDF実頁9頁の第2問見出しから11頁の第2問末尾まで,平成30年司法試験の採点実感(民事系科目第2問)はPDF実頁8~16頁を実読した。
引用欄の頁はPDF実頁である。
会社法(平成30年5月17日時点・e-Gov法令API)及び会社法施行規則(同日時点)の関係条文を参照した。
否決決議については,最高裁第二小法廷平成28年3月4日判決(平成27年(受)第1431号,民集70巻3号827頁)の判決全文を裁判所ウェブサイトで確認した。
38項目とその重み,個別事案への評価及び模範解答は本記事の分析であり,試験委員の公式解答ではない。
試験後の改正・判例を本答案の根拠に混在させていない。