メインコンテンツへスキップ
       

北朝鮮の紅星OSとは―写真・文書の透かしと監視機能を一次研究から読む(AI作成)

第1 紅星OSについて何が確認されているか

1 調査対象の版と時点

紅星OS(Red Star OS)の監視機能を考える際は,調査対象となった版と,確認された動作の範囲を先に押さえる必要がある。
2015年の研究者による報告は,紅星OS 3.0を対象に,ファイルへの透かし,パターン検査及び関連する処理の保護等を説明している。
旧版の調査結果から,現在の北朝鮮の全端末が同じ状態で動いていると判断することはできない。

本記事は,Niklaus Schiess及びFlorian Grunowの発表資料「Lifting the Fog on RedStar OS」,研究者本人の公開記事,並びにSchiessの論文「Governmental Control of Digital Media Distribution in North Korea: Surveillance and Censorship on Modern Consumer Devices」を主な根拠とする。
令和8年10月24日公開のAI解析動画については,先行研究の説明と動画作者自身の実験報告を分けて読む。

2 監視という一語にまとめない

ファイルの内容を検査すること,端末の識別情報をファイルに残すこと,関連する処理を停止・改変から保護すること,通信で外部へ送ることは,別の機能である。
ある機能を確認したことだけで,他の全機能の存在や,政府による実際の運用まで確認したことにはならない。

研究者自身の報告は次の公開記事と発表資料で確認できる。
https://insinuator.net/2015/07/redstar-os-watermarking/
https://insinuator.net/2015/12/dprks-redstar-os-on-32c3/
https://raw.githubusercontent.com/takeshixx/redstar-tools/master/RedStar_OS_32c3.pdf

第2 写真・文書への透かし

1 見える画像とは別の場所に記録を加える

発表資料PDF実頁23頁~24頁(スライド番号24~25)は,ファイルへの透かしと,ハードディスク由来の識別情報を用いる仕組みを説明している。
JPEGやAVIの末尾への追記,DOCXの先頭付近への挿入など,形式によって記録する場所が異なる。
見た目の写真や文書が同じでも,ファイル全体のビット列が同じとは限らない。

2015年7月の研究者本人の記事には,USB上のDOCXを紅星OSから利用可能な状態にした実験で,文書を開かずにファイルが変更されたとの報告がある。
したがって,「閲覧ソフトで開いていないから証拠対象は変わらない」という前提は置けない。
これは当該研究の対象版・条件での報告であり,全てのOSやファイル形式に同じ動作が生じるという意味ではない。

2 複数の端末の記録が累積する

発表資料PDF実頁28頁(スライド番号29)は,ファイルが異なる環境を経由した際に記録が累積する例を示している。
この仕組みは,通信による外部送信とは別に,ファイルそのものに経由した端末の手掛かりを残す方法として理解できる。

ただし,ファイルに記録があることと,その記録を誰がどの機会に回収・照合したかは別の問題である。
記録の存在だけから,特定の人物が実際に摘発されたという事実を補うことはできない。

第3 検査機能と自己保護

1 複数の処理を組み合わせた構成

原研究は,scnprcによるパターン検査,opprcによる透かし処理,rtscan等による関連プロセス・ファイルの保護を説明している。
利用者が通常の管理操作で停止又は変更しようとしても,保護機構による監視や整合性確認が関係するという構成である。

この説明を,「管理者権限があれば常に簡単に停止できる」と読むのは適切ではない。
一方,研究者の公開リポジトリには無効化のための手順も示されており,「どのような方法でも無効化は不可能」とまで強めることもできない。
停止の難しさと,技術的な不可能性は分ける必要がある。
https://github.com/takeshixx/redstar-tools

2 外部送信が見付からないことの意味

発表資料PDF実頁33頁(スライド番号34)は,バックドアが見付からなかったという点を疑問形で示し,見落とし等の可能性も挙げている。
仮に,解析した部品や試験期間中に送信処理を発見できなかったとしても,OS全体,別の版又は将来の更新を含めた外部送信不存在の証明にはならない。

また,透かしによるファイル経由の追跡は,常時の外部送信が見付からないことと両立し得る。
「通信していないから監視機能もない」という推論では,別の仕組みを見落とすことになる。

第4 透かしから人物を特定するまでの限界

1 原研究が明記する制約

Schiessの論文3.1・PDF実頁3頁~4頁は,記録の累積を説明するとともに,最初の記録が作成者又は持込み元を示すとは限らないこと,対応していないOSを経由しても同じ記録が残るわけではないこと,記録を削除・偽造できることを述べている。
端末由来の識別記録は,人間の作成者・閲覧者・配布者をそのまま示す身分証明ではない。
https://mirror.adversec.com/dprk/docs/governmental_control_of_digital_media_distribution_in_north_korea-nschiess.pdf

端末が共有されていた場合,ファイルの取得前に記録が操作された場合,又は途中で対応外の環境を通った場合には,記録だけから作成・流通の全経路を復元できるとは限らない。
人物への帰属を判断するには,端末の管理・利用状況,取得経路,周辺ログ及び他の資料を合わせて検討する必要がある。

2 技術的可能性と現実の運用

同論文4.2・PDF実頁5頁は,説明している技術的可能性と,北朝鮮政府が実際にそれをどのように利用したかを区別している。
技術の解析結果を,特定の摘発,処罰又は監視体制の全容が確認されたという説明へ置き換えないことが重要である。

この区別は,日本でデジタル証拠を評価する際にも参考になる。
もっとも,日本の裁判所が紅星OSの透かしについて証明力を判断したという意味ではなく,記録の意味と限界を検討するための実務上の視点である。

第5 2026年のAI解析動画をどう読むか

1 先行研究の紹介と今回の実験を分ける

YouTube動画「国民の監視がガチ。北朝鮮製のヤバいOSを、AIで丸裸にしてみた【REA】」は,先行研究の存在を説明した上で,AIによる解析と仮想マシン上での動作確認を紹介している。
したがって,監視・透かし機能をAIが今回初めて発見したという紹介は適切ではない。
https://www.youtube.com/watch?v=G7-IJhR8LJM

動画12分22秒以降の写真への追記,端末の識別情報を変えた環境での追加記録,複数形式のファイルでの確認等は,動画作者自身の実験報告である。
先行論文に書かれた事実と同じ出所にはせず,実験原データ・条件・ログが示されない範囲について第三者による再現確認済みとは扱わない。
作者自身も,小さいファイルには付かなかったこと,付く条件を全部は把握していないこと,実際の北朝鮮のパソコンで同じ動作になるかは未確認であることを述べている。

2 AIの説明と動作確認の役割

動画が述べる短時間の解析は作者の事例であり,あらゆるOS・版・構成について同じ時間で網羅的に調べられることを示すものではない。
実務では,AIがコードから説明した機能,試験環境で実際に観察した動作,未確認の条件を分けて記録したい。

REAの公式FAQも,ローカルで行う解析と,解析結果を受け取るAIエージェント側のモデル提供者のデータ方針を区別している。
ローカル解析という説明だけで,顧客のコード・設定・ログが外部AIへ送られないと判断することはできない。
https://github.com/morluto/rea

第6 解析を依頼するときと証拠を受け取るとき

1 対象を操作する前の保全

ファイルを開くこと,媒体を接続すること及び解析ツールを動かすことが,対象へどのような変更を加えるかを先に確認する必要がある。
本記事では,取得元,取得日時,対象の版,ハッシュ値,作業環境及び操作記録を残し,保全用のデータと解析用の複製を分けることを提案する。

ハッシュ値が一致することと,内容が真実であること又は特定の人物が作成したことは別の問題である。
詳しくは,デジタル証拠の原本保全とハッシュ値を参照されたい。

2 解析する権限と外部AIの条件

技術的に解析できることだけで,複製,改変,委託先への交付又は外部AIへの送信が全て許されるとは限らない。
対象物の入手権限,利用契約,秘密保持及び成果物の利用範囲を工程ごとに確認することが必要である。
これらの論点は,ソフトウェアの解析・リバースエンジニアリングの適法性で説明している。

第7 出典

① Niklaus Schiess・Florian Grunow「Lifting the Fog on RedStar OS」(32C3,2015年12月27日)。
PDF実頁23頁~24頁,28頁,33頁。
発表資料自身も調査用ISOの真正性に留保を付している。
https://raw.githubusercontent.com/takeshixx/redstar-tools/master/RedStar_OS_32c3.pdf

② Niklaus Schiess「Governmental Control of Digital Media Distribution in North Korea: Surveillance and Censorship on Modern Consumer Devices」。
特に3.1及び4.2,PDF実頁3頁~5頁。
https://mirror.adversec.com/dprk/docs/governmental_control_of_digital_media_distribution_in_north_korea-nschiess.pdf

③ Insinuator「RedStar OS Watermarking」「DPRK’s RedStar OS on 32c3」。
https://insinuator.net/2015/07/redstar-os-watermarking/
https://insinuator.net/2015/12/dprks-redstar-os-on-32c3/

④ 研究者の公開リポジトリ及びREA公式リポジトリ。
https://github.com/takeshixx/redstar-tools
https://github.com/morluto/rea

⑤ 海外Yパパラジオ 世界を読み解く「国民の監視がガチ。北朝鮮製のヤバいOSを、AIで丸裸にしてみた【REA】」(令和8年10月24日公開)。
先行研究の説明は5分49秒以降,実験報告は12分22秒以降。
作者の報告と独立した再現確認は区別している。
https://www.youtube.com/watch?v=G7-IJhR8LJM