第1 まず問題となっている事柄を分ける
調停委員の言動や進行に問題があると感じたときは,担当の裁判所書記官などの裁判所職員に,具体的な経過と希望する対応を伝える方法がある。
ただし,不満の申出,担当の変更を求める相談,法律上の除斥の申立ては,それぞれ目的と要件が異なる。
本記事は,裁判所の民事調停・家事調停を対象として,令和8年10月17日現在の法令と公表資料から対応を整理するものである。
自治体や労働局等の調停では,担当機関と適用法令が異なる。
1 結論への不満と手続上の問題
不利な提案を受けたことと,発言の機会が与えられない,説明と異なる前提で話が進む,威圧的な言動があったなどの問題は分けて整理する。
提案の内容に納得できない場合は,どの前提事実,計算又は条件が違うのかを示すと,検討すべき点が明確になる。
| 気になること | 確認する点 | 伝える希望の例 |
|---|---|---|
| 話を聴いてもらえない | どの事項を,いつ伝えようとしたか | 事実と資料を説明する時間を設けてほしい |
| 法律の説明に疑問がある | 委員個人の説明か,裁判官と評議した見解か | 裁判官の現時点の見解を確認したい |
| 相手との関係が気になる | 関係の内容と,それを知った根拠 | 関係を確認し,担当継続の適否を検討してほしい |
| 威圧や安全上の不安がある | 実際の発言・行動,発生日時,具体的な危険 | 進行方法と安全への配慮を相談したい |
2 「味方かどうか」だけで判断しない
裁判所の調停は,当事者双方の話合いによる解決を目指す手続である。
調停委員に一方の味方になることを求めるより,説明の正確さ,発言の機会,提案の根拠及び合意するかを判断するための情報に着目する方が,問題点を伝えやすい。
家事調停の基本的な仕組みは,裁判所「調停手続一般」に掲載されている。
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_03/index.html
第2 どこへ,どのように伝えるか
1 担当書記官などの裁判所職員に伝える
期日で話せなかった事情や進行上の要望は,事件番号と担当部を確認した上で,担当書記官などの裁判所職員に伝える。
その際には,事件の主張を補充したいのか,調停委員の言動への対応を求めたいのか,安全面の配慮を相談したいのかを明らかにする。
令和2年4月16日の参議院法務委員会では,最高裁判所の答弁として,裁判所職員に調停委員への不満の申出があった場合には,内容に応じて裁判所内で情報を共有し,必要な指導などの対応を行っていると説明されている。
これは苦情を裁判所に伝える経路についての説明であり,申出どおりの変更や処分を保障するものではない。
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/120115206X00720200416/14
2 口頭と書面を使い分ける
二弁フロンティア2021年12月号「家庭裁判所から見た離婚や面会交流等の調停実務」は,当事者の不満や要望を,上申書又は書記官への口頭で伝える方法を紹介している。
法律的な見解に疑問がある場合には,裁判官の現時点の意見を確認したいと申し出る方法も説明されている。
https://niben.jp/niben/books/frontier/backnumber/202112/post-363.html
急いで知らせるべき事情はまず担当部署に連絡し,日時や発言の経過が複雑な場合は,短い書面に整理すると伝達内容を確認しやすい。
提出方法,提出先及び相手方用の写しの要否は,担当部署に確認する。
第3 苦情・要望の整理と上申書の記載例
1 事実,受け止め及び希望を分ける
書面では,事件番号,期日の日時,問題となった発言や進行,自分がその場で述べたこと,確認できる資料及び希望する対応を整理する。
発言の正確な文言を覚えていない場合は,要旨であることを明らかにし,推測を発言そのものとして記載しない。
「おかしい」「最悪だった」という評価だけでは,裁判所が何を確認すべきか分かりにくい。
例えば,資料の説明を求めたのに説明の時間がなかったのであれば,資料名と説明したかった点,発言を求めた場面を示す。
2 進行についての上申内容の例
次は,資料を説明する機会と法的見通しの確認を求める場合の書き方の例である。
具体的な事情に合わせ,実際に経験した事柄だけを記載する。
令和○年(家イ)第○号 ○○調停事件
進行に関する上申
○月○日の調停期日に,私は,提出済みの○○資料に記載された収入額について説明を希望しました。
しかし,その点を説明する時間がないまま,その収入額を前提とする解決案が示されました。
次回期日では,資料のどの部分をどのように評価しているのかを確認し,私からも該当箇所を説明する機会を設けていただきたいと考えています。
また,示された法的見通しが裁判官との評議を経た委員会の見解であるかを確認したいと考えています。
この例は担当委員の交代や除斥を申し立てる内容ではない。
交代の検討も希望する場合には,その希望と理由を別に記載し,単なる進行上の要望と混同しない。
3 書面に記載する情報の扱い
調停が非公開であることから,提出書面を相手方が見られないと考えてはならない。
住所,勤務先,子の居場所など知られると困る情報が含まれる場合は,提出前に非開示の希望や当事者間秘匿制度について担当部署に相談する。
東京家庭裁判所は,家事調停・審判について,当事者間秘匿制度と非開示希望に関する説明・書式を公表している。
非開示を希望しただけで当然にすべての記載が相手方に見られなくなると理解せず,情報ごとの取扱いを確認する必要がある。
https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/sonota_syosiki/index.html
第4 調停委員を変更できるか―除斥・回避・忌避の違い
1 担当変更の相談と除斥の申立て
担当の変更を検討してほしいという要望を裁判所へ伝えることはできるが,その要望だけで交代が決まるわけではない。
法定の除斥原因がある場合の申立てと,言動や進行上の問題について改善や担当変更の検討を求める相談とは分けて考える。
民事調停委員の除斥は民事調停法9条,家事調停委員の除斥は家事事件手続法16条に定められている。
いずれも,法律上定められた事件・当事者との関係を理由として,職務への関与を排除する制度である。
https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000222
https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000052
2 調停委員に裁判官と同じ忌避制度はない
前記各条は,除斥に関する規定を準用する一方,忌避に関する部分を除いている。
そのため,調停委員について,裁判官に対する忌避と同じ申立制度が用意されているわけではない。
除斥・忌避という法律用語の名称だけを付けるより,何が起こり,どの関係又は言動が問題なのかを具体的に示すことが先決である。
法定の除斥を求める場合は,通常の苦情書面とは区別し,原因と資料,提出方法などを確認する。
3 回避と解任も別の仕組みである
民事調停規則4条及び家事事件手続規則14条には,調停委員の除斥・回避に関する規定がある。
回避は委員側が職務への関与を避けるための仕組みであり,当事者が委員を自由に指名し直す制度とは異なる。
https://www.courts.go.jp/assets/20260521minjityouteikisoku.pdf
https://www.courts.go.jp/assets/20260521kajikisoku.pdf
また,民事調停委員及び家事調停委員規則6条は,最高裁判所による解任の事由を定めている。
個々の事件で担当を変更することと,調停委員としての身分を失わせる解任も,同じものではない。
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2025/20250601minjicyouteiiinoyobikajicyouteiiinkisoku.pdf
第5 苦情への対応と事件の進行を分けて確認する
1 納得できない条件と合意の有無を明確にする
解決案を受け入れられない場合は,金額,支払時期,子に関する条件など,受け入れられない部分とその理由を明確にする。
条件を理解できていない場合は説明を求め,確認したい事項を残したまま合意することを避ける。
民事調停法16条及び家事事件手続法268条は,合意を調書に記載した場合の調停の成立と効力を定めている。
既に成立した調停の効力を争う問題は,成立前に言動への改善を求める問題とは別に検討する必要がある。
2 期日,提出期限及び裁判書の取扱いを確認する
苦情を伝えた後も,次回期日,資料の提出期限及び裁判所から届く書類を確認する。
通常の不満の申出をしたことだけで,欠席してよい,提出期限が延びる,既に示された裁判の効力がなくなると判断しない。
調停に代わる決定又は調停に代わる審判がされた場合は,苦情の申出とは別に,異議等の手続と期間を確認する。
民事調停法18条と家事事件手続法286条に関する手続を,一般的な進行への要望と取り違えないことが必要である。
3 安全面の問題は具体的に伝える
相手方との同席,待合室での接触,退庁時の接触などに不安がある場合は,危険の内容と希望する配慮を裁判所へ伝える。
単に「相手と会いたくない」と記載するだけでなく,どの場面で何が起こるおそれがあるかを整理する。
家事事件については,裁判所の家事事件Q&Aに,ウェブ会議等を利用する場合の説明がある。
利用の可否や具体的な進め方は裁判所の判断を要するため,安全上の事情と併せて確認する。
https://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_kazi/index.html
第6 よくある質問
1 調停委員への苦情は誰に言えばよいか
担当の裁判所書記官など,事件を扱う裁判所の職員に伝える方法がある。
事件番号,期日の日時,実際の言動及び希望する対応を整理し,必要に応じて書面で補う。
2 調停委員を変更してもらえるか
変更の検討を求めることはできるが,要望どおりの交代が保障されるわけではない。
法律上の除斥原因がある場合は,単なる不満や進行上の要望とは異なる手続として確認する。
3 調停委員に言われた条件には従わなければならないか
提案された条件に合意できるかは,内容と根拠を確認した上で判断する。
ただし,調停に代わる決定・審判など,合意と異なる仕組みの裁判がされる場合もあるため,提案と裁判を区別する。
第7 出典・関連記事
出典は,民事調停法,家事事件手続法,民事調停規則,家事事件手続規則,民事調停委員及び家事調停委員規則,令和2年4月16日参議院法務委員会会議録,二弁フロンティア2021年12月号「家庭裁判所から見た離婚や面会交流等の調停実務」,裁判所の調停・家事事件案内及び東京家庭裁判所の公表書式である。
調停委員の役割,任命資格,手当及び調停の進め方は,「調停委員とは―役割・資格・権限と裁判官・調停官との違い(AI作成)」で整理している。
任命関係の資料,国籍要件及び統計は,「調停委員(AIリライト)」も参照されたい。