調停委員


目次
1 総論
2 調停委員の職業等
3 家事調停委員の選任に関する国会答弁
4 調停委員に関する資料等
5 調停申立てを相当とする場合
6 調停委員に対する苦情の伝え方
7 調停委員の就任には日本国籍を必要とすることに関する国会答弁等
8 電話調停
9 調停に
代わる決定及び調停に代わる審判
10 関連記事その他

1 総論
(1) 調停手続を担当する調停委員会(民事調停法5条,家事事件手続法247条)は,裁判官1名と調停委員2名の合計3名によって構成されており(民事調停法6条,家事事件手続法248条1項参照),裁判官が指揮します(民事調停規則17条,家事事件手続法259条)。
(2) 実際の調停手続は,男女各1名の調停委員(民間の人です。)が担当し,裁判官は通常,調停が終了する段階で出てくるだけです。
 なぜなら,裁判官は同じ時間帯に数件から10件近くの調停事件を担当しているからです。
(3) 
民事調停における裁判官は調停主任といわれる(民事調停法6条)のに対し,家事調停における裁判官は単に裁判官といわれます(家事事件手続法248条参照)。


2 調停委員の職業等
(1) 調停委員の職業の内訳は,弁護士が1割余り,弁護士を除く士業が2割余り(会計士,税理士,司法書士等),会社・団体の役員・理事が1割余り,無職者(前職は教師,金融機関,元公務員,専業主婦等)が3割余りです。
(2) 
民事調停委員及び家事調停委員は,民事調停委員及び家事調停委員規則(昭和49年7月13日最高裁判所規則第5号)に基づき,原則として40歳以上の人が任命され(規則1条),その任期は2年です(規則3条)。


3 家事調停委員の選任及び苦情に関する国会答弁
・ 43期の手嶋あさみ最高裁判所家庭局長は,令和2年4月16日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
 まず、家事調停委員を前提にお話しさせていただきたいと思いますが、家事調停委員の選任関係でございますが、家事調停委員は、家事紛争の解決に有用な専門的知識経験や社会生活上の豊富な知識経験を有し、人格識見の高い方の中から最高裁判所によって任命されます。
 候補者の選考に当たりましては、公正を旨とすること、豊富な社会常識と広い視野を有し、柔軟な思考力と的確な判断力を有すること、人間関係を調整できる素養があることなどに特に留意しなければならないものとされておりまして、これらを踏まえまして適切な人材が任命されるように努めてきているものと承知しているところでございます。
 次に、研修関係でございますけれども、実践的かつ効果的な研修を継続的に行っていくことが重要であるというふうに考えております。
 具体的には、新任の家事調停委員に対しましては、調停委員として必要な心構え、例えば当事者の話を中立公正な立場から丁寧に聞くことなどや基礎的知識を習得させる研修を行っておりまして、また、ある程度実務経験を積んだ後には事例研究などを通じて実践的な知識や技法を習得させる研修等を行っております。
 このように、調停委員の経験に応じた研修を行うなどしまして、適切な調停運営を行うことができるように支援しているものと承知しております。
 また、調停委員に対する苦情があった場合の対応等でございますが、当事者の方から裁判所職員に対して調停委員に対する不満の申出等があった場合には、その内容に応じまして、速やかに裁判所内で情報共有を図った上で、裁判所として調停委員に対する必要な指導をするなど、適切な対応、措置をとっているものと承知しております。
 さらに、質の確保、調停委員の質の確保についてでございますが、委員御指摘のとおり、当事者の方が調停手続において納得感のある解決を得られるようにするためにも調停委員の質の確保は重要と考えております。
 そのための取組といたしまして、多様な分野の人材を確保すべく、各裁判所におきまして、法律専門職を含む様々な専門職団体や地方公共団体に調停委員の採用について周知するなどのリクルート活動を行っているものと承知しております。また、任命された調停委員につきましては、先ほど申し上げましたとおり、経験年数に応じた効果的、実践的な研修を行うことで調停委員の質の向上に努めているものと承知しております。
 最高裁判所としても、今後も、任命、研修の両面において必要な取組支援を行ってまいりたいと存じます。

4 調停委員に関する資料等
(1) 以下の資料を掲載しています。
 民事調停委員及び家事調停委員の任免等について(平成16年7月22日付けの最高裁判所事務総長通達)
 民事調停委員及び家事調停委員の任免手続等について(平成16年7月22日付の最高裁判所人事局長通達)
・ 民事調停委員の再任等について(平成30年1月24日付の最高裁判所民事局長の事務連絡)
(2) はじめての調停HP「調停委員の選考と任命」が載っています。
(3)ア 東弁リブラ2018年7月号「民事調停のすすめ」が載っています。
イ 東弁リブラ2020年6月号「続・民事調停のすすめ」が載っています。
(4) 二弁フロンティア2021年12月号「家庭裁判所から見た離婚や面会交流等の調停実務」が載っています。
 


5 調停申立てを相当とする場合
・ クロスレファレンス民事実務講義(第3版)32頁には,調停申立てを相当とする場合として,以下のような場合が記載されています。
① 依頼者の相手方が親族や友人など親密な関係にある場合
② 証拠が十分でない場合
③ 判決では実現しない事柄を求めている場合
④ 新しい法律的権利が問題となる場合
⑤ 相手方が信用のある会社・団体などである場合
⑥ 円満に解決される見込みのある場合


6 調停委員に対する苦情の伝え方
(1) 二弁フロンティア2021年12月号の「家庭裁判所から見た 離婚や面会交流等の調停実務」に以下の記載があります。
 当事者本人から調停委員に対する苦情で多いのは、話を十分聴いてくれなかった、偉そうにしていてお説教された、強引に決め付けられたなどが挙げられると思います。また、調停委員の働き掛け・調整に対する批判として多いのは、説得しやすい側、弱い側に対してばかり強引に説得しているのではないかというものがあります。また、片方だけ時間を掛けて聴いていて、自分の方は少ししか聴いてもらえなかったなどの不満もあるかと思います。
 調停委員側からすると、いやそんなことはないという言い分もあるかもしれませんが、調停をより良くするためには、このような不満が出ている、当事者はこのようにしてほしいと考えているという実情を知っておかなければいけないと思います。したがって、上申書でも、書記官に対して口頭ででも結構ですので、お伝えいただければと思います。
(2) 上大岡法律事務所による離婚相談HP「調停委員の説明に納得いかない!という場合」が載っています。


7 調停委員の就任には日本国籍を必要とすることに関する国会答弁等
(1) 最高裁人事局長の国会答弁

・ 41期の堀田眞哉最高裁判所人事局長は,令和2年4月7日の参議院法務委員会において以下の答弁をしています。
① 調停委員も非常勤の裁判所職員として公務員に当たるわけでございますが、公権力の行使又は国家意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍を必要とするのが公務員全般に関する当然の法理であると解されておりまして、公務員の国籍要件の規定の在り方については、公務員に関する法体系全体のバランス等を踏まえた公務員全般の問題として検討される必要があると考えているところでございます。
 民事調停委員、家事調停委員の法令上の権限、職務内容等といたしましては、裁判官とともに調停委員会を構成いたしまして、通常、裁判官一人、調停委員二人というものが多いわけでございますが、そういった形で調停委員会を構成いたしまして、調停の成立に向けて活動を行い、調停委員会の決議はその過半数の意見によるとされておりますこと、調停が成立した場合の調停調書の記載は確定判決と同一の効力を有すること、調停委員会の呼出し、命令、措置には過料、過ち料の制裁があること、調停委員会は事実の調査及び必要と認める証拠調べを行う権限を有していること等がございまして、これらによりますと、調停委員は公権力の行使又は国家意思の形成への参画に携わる公務員に該当し、その就任には日本国籍を必要とすると考えているところでございます。

② 調停委員の任用に当たりましては、法律の専門家ばかりでなく、豊富な社会経験、人生経験を持つ良識豊かな方や、法律以外の分野での専門的な知識、経験を備えた方を迎える必要があると認識しておりまして、現在も社会の多様な分野で活躍されている方々、例えば弁護士、医師、大学教授、農林水産業、商業、製造業、宗教家等、多様な分野の方が調停委員として任命されているところでございます。
 今後も、国際化の進展等の社会の変化に応じまして、当事者が様々なバックグラウンドを持っていることも踏まえて、そのニーズに応えることができるよう多様な人材を確保していく必要があると考えているところでございますが、先ほど御説明申し上げたような理由から日本国籍を有しない方を調停委員に任命することは難しいと考えているところでございます。
(2) 最高裁判例
・ 国民主権の原理に基づき,国及び普通地方公共団体による統治の在り方については日本国の統治者としての国民が最終的な責任を負うべきものであること(憲法1条,15条1項参照)に照らし,原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されているとみるべきであり,我が国以外の国家に帰属し,その国家との間でその国民としての権利義務を有する外国人が公権力行使等地方公務員に就任することは,本来我が国の法体系の想定するところではありません(最高裁大法廷平成17年1月26日判決)。
(3) 弁護士会の文書
ア 外国人の調停委員採用拒否に関する弁護士会の意見書に関して最高裁判所が作成し,又は取得した文書(令和4年6月の開示文書)を掲載しています。
 調停委員任命に際し外国籍の者を排除しないことを求める理事長声明(平成30年10月3日付の関東弁護士会連合会の文書)には以下の記載があります。
 実際,過去には,1974(昭和49)年から1988(昭和63)年まで,中国(台湾)籍の大阪弁護士会会員(張有忠弁護士)が,外国籍のままで民事調停委員に任命され,14年余りにわたり何らの支障なく調停委員としての職務を行っていた。上記弁護士が大阪地方裁判所所長から表彰を受けていることからしても,外国籍の調停委員の必要性は大きく,調停委員の職務を行うことに何ら不都合がないことは明らかになったといえる。
(4) 人種差別撤廃委員会の総括所見
ア 人種差別撤廃委員会の総括所見(2010年4月6日付)15項には以下の記載があります。
 家庭裁判所調停委員はいかなる公的決定権を持っていないことに留意するとともに、委員会は、日本国籍を持たない者は資質があるにもかかわらず調停委員として調停処理に参加できないという事実に懸念を表明する。また、公職への日本国籍を持たない者の参画に関してデータが提供されていないことに留意する(第5条)。
 委員会は、調停処理を行う候補者として推薦された能力のある日本国籍を持たない者が家庭裁判所で活動できるように、締約国の立場を見直すことを勧告する。また、次回報告において日本国籍を持たない者の公職への参画の権利に関して情報を提供することを勧告する。
イ 人種差別撤廃委員会の総括所見(2014年9月26日付)13項には以下の記載があります。
委員会は,締約国の代表団によって提供された説明に留意するものの,国家権力の行使を要さないいくつかの公的サービスの仕事に対するアクセスにおいて,日本国籍でない者が直面する制限及び困難について懸念する。委員会はとりわけ,家庭裁判所における調停委員として行動する能力を有する日本国籍でない者を排除するとの締約国の立場及び継続する実務について懸念する(第5条)。
ウ 人種差別撤廃委員会の総括所見(2018年8月30日付)21項には以下の記載があります。
委員会は,数世代にわたり日本に在留し,外国籍を保持する韓国・朝鮮人が,地方参政権を有さず,公権力の行使又は公の意思の形成への参画に携わる国家公務員として勤務することができないことを懸念する。委員会は,「朝鮮学校」が未だ高等学校等就学支援金の対象外とされているとの報告をさらに懸念する。また,委員会は,多くの韓国・朝鮮人女性が,国籍及び性別による複合的及び交差的形態の差別に苦しんでおり,彼女たちの子供に対するヘイトスピーチにより不安を抱いているとの報告を懸念する。


8 電話調停
(1) 平成25年1月1日,電話又はテレビ会議の方法によって調停手続ができるようになりました(①民事調停につき民事調停法22条,非訟事件手続法47条,非訟事件手続規則42条,②家事調停につき家事事件手続法258条1項・54条1項)。
(2) 千葉の弁護士による離婚相談HP「電話調停とは? 遠方の裁判所と法律事務所を電話でつないで調停ができます。」が載っています。

9 調停に代わる決定及び調停に代わる審判
(1)ア 民事調停は調停に代わる決定(民事調停法17条)により終了し,家事調停は調停に代わる審判(家事事件手続法284条1項)により終了することがあるものの,2週間以内に異議申立てがされれば,決定又は審判の効力が失われます。
イ 仮に調停に代わる決定について異議申立てが認められないとした場合,憲法82条及び32条に違反することになります(最高裁大法廷昭和35年7月6日決定)。
(2) 弁護士濱門俊也HP「地裁でもあり得る「17条決定」」が載っていて,葛葉法律事務所HP「調停に代わる審判とは」が載っています。

10 関連記事その他
(1) 最高裁判所とともに(著者は高輪1期の矢口洪一 元最高裁判所長官)63頁には以下の記載があります。
 昭和四六年度には、最高裁に臨時調停制度審議会を設けるための最初の予算が認められた。
 同年六月審議会が発足し、その答申を受けて、昭和四九年一〇月から、それまで事件ごとに指定されるに過ぎなかった調停委員を裁判所の非常勤職員とし、日当に代わって非常勤職員手当を支給する調停委員制度の抜本的改革が実現するが、その第一歩がここに踏み出されたのである。

(2) 東北弁護士会連合会HPに「日本国籍を有しない者の調停委員任命を求める決議」(平成23年7月8日付)が載っています。
(3)ア 二弁フロンティア2021年12月号「家庭裁判所から見た 離婚や面会交流等の調停実務」には「部総括は常時、調停が300~350件(陪席は400~500件)、審判が30~50件(陪席は30~80件)程度の件数となります。民事事件と比べると圧倒的に多く、調停以外にも別表第1事件も多数担当しています。」と書いてあります。
イ 二弁フロンティア2022年12月号「東京家事調停協会と 弁護士会との意見交換会」には以下のテーマについて出た意見が箇条書きされています。
① 各人が調停で気を付けていること、感じていること
② 調停委員から弁護士に対し、又は弁護士から調停委員に対し、日頃感じていること、聞いてみたいこと
③ 調停運営について(工夫や課題、ウェブ調停実施の感想、調停全般について思うこと)
(4)ア 以下の資料を掲載しています。
・ 民事調停委員の手引(平成31年3月)
・ 家事調停の手引(令和5年2月)
・ 家事調停手続におけるウェブ会議の試行について(令和3年4月22日付の最高裁判所家庭局第一課長の事務連絡)
・ 専門委員参考資料(改訂版・平成26年2月)
→ 専門委員は,非常勤の裁判所職員であり(民事訴訟法92条の5第3項,非訟事件手続法33条5項),特別職の国家公務員であって,建築関係訴訟,医事関係訴訟,知的財産権関係訴訟等に関与しています。
イ 以下の記事も参照してください。
・ 調停委員協議会の資料
・ 裁判所関係者及び弁護士に対する叙勲の相場
・ 勲章受章者名簿(裁判官,簡裁判事,一般職,弁護士及び調停委員)
・ 民事調停委員及び家事調停委員に対する表彰制度

民事調停委員の技能向上に係る取組(令和元年度調停委員協議会)


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