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新任判事補の国家公務員宿舎―採用内定翌日の回答期限,規格・使用料,住居手当との比較及び退去時の明渡し(AI作成)

第1 この記事の要点

本記事は,新任判事補が採用庁(最初に勤務する裁判所)で国家公務員宿舎への入居を希望する場合の手続と,入居中・退去時の法律関係を,最高裁判所事務総局経理局の案内文書と国家公務員宿舎法令から整理するものである。
裁判官志望の司法修習生が,採用内定の前に宿舎を希望するかどうかを検討できるようにすることを目的とする。

結論は次のとおりである。
①78期では,採用内定の通知の翌日午前11時までに,宿舎を希望する者も希望しない者もFormsで回答する必要があった。
②その後,宿舎貸与申請書の提出(約1週間後),宿舎貸与承認書の交付を経て,承認書に記載された入居日から10日以内に入居する(国家公務員宿舎法施行規則12条1項)。
③入居宿舎の割当て後に入居希望を撤回することは,原則として控えるよう求められている。
④宿舎の規格は延べ面積でa~eの5つに分かれ,新任判事補は原則としてb又はc規格である。a規格の上限は,令和8年4月1日施行の改正で25平方メートル未満から30平方メートル未満に変わった。
⑤有料宿舎の使用料は報酬から控除して払い込まれる(国家公務員宿舎法15条3項)。有料宿舎を貸与されている職員には住居手当が支給されないから,民間賃貸住宅を借りて住居手当を受ける場合と比べて検討する必要がある。
⑥宿舎の建物の滅失・損傷が故意又は重大な過失によらない火災に基づくときは,原状回復義務も損害賠償義務も負わない(同法16条3項ただし書)。
⑦退官・退職したときは20日以内に明け渡す必要があり,明け渡さないと使用料の3倍を上限とする損害賠償金を支払うことになる(同法18条1項・3項)。

本記事の基準日は令和8年10月10日である。
条文はe-Gov法令検索の現行のもの,案内文書は本ブログに掲載している各期の文書によった。
宿舎の所在地,個々の宿舎の評価及び宿舎事務担当者の個人情報は扱わない。

第2 国家公務員宿舎の法的な枠組み

1 目的と種類

国家公務員宿舎法1条は,同法の目的を「国家公務員等の職務の能率的な遂行を確保し、もつて国等の事務及び事業の円滑な運営に資すること」と定める。
宿舎は,公邸,無料宿舎及び有料宿舎の3種類であり(同法3条),新任判事補が入居するのは有料宿舎である(同法13条)。

有料宿舎は,職員の職務に関連して国等の事務又は事業の運営に必要と認められる場合等に,予算の範囲内で設置して有料で貸与することができるものとされている(同法13条)。
有料宿舎を貸与する者の選定は,国等の事務又は事業の円滑な運営の必要に基づき公平に行わなければならない(同法14条)。

2 省庁別宿舎と合同宿舎

最高裁判所の案内文書は,宿舎を維持管理の主体によって「省庁別宿舎」と「合同宿舎」に分けて説明している。
省庁別宿舎は裁判所が維持管理を行い,原則として裁判所職員だけが入居する。
合同宿舎は財務局又は財務事務所が維持管理を行い,裁判所職員のほかに他省庁の職員も入居する。

鍵の受渡しの相手も,この区別によって違う。
78期の手続チャートでは,合同宿舎の場合は管理人と鍵の授受及び引越荷物の搬入日時を調整し,省庁別宿舎の場合は採用庁の事務担当者と鍵の授受を調整するとされていた。

3 貸与の申請と承認

各省各庁の長は,宿舎を貸与しようとするときは,職員から宿舎の貸与を受けたい旨の申請書を提出させ(国家公務員宿舎法施行規則8条),貸与を承認したときは承認書を交付しなければならない(同規則9条)。
案内文書の「宿舎貸与申請書」と「宿舎貸与承認書」は,これらの規定による書面である。

宿舎の貸与の承認を受けた職員は,承認書に記載された入居日から10日以内に入居しなければならない(同規則12条1項本文)。
やむを得ない理由があるときは,承認を得て入居期限を延期することができ(同項ただし書),期限までに入居しないときは承認を取り消されることがある(同条2項)。

第3 78期の手続

1 採用内定の通知と同時の照会

78期の新任判事補の場合,最高裁判所事務総局人事局任用課長「裁判官任命に関する日程等について」(令和8年3月26日付の事務連絡)によれば,採否の通知は令和8年4月15日(水)午前11時以降に電話で行われた。
同じ事務連絡は,宿舎への入居に関しては同月16日(木)午前11時までに回答する必要があるとし,同日配布の「国家公務員宿舎への入居について」を事前に見るよう求めていた。

最高裁判所事務総局経理局総務課公務員宿舎係「国家公務員宿舎への入居について」(78期新任判事補向けの文書)は,採用内定日の翌日までに貸与希望の有無を回答しなければ,採用庁への着任日に宿舎に入居できるようにすることができないと説明している。
手続チャートでは,宿舎への入居を希望する場合も希望しない場合も,Formsで宿舎希望調査に回答することとされていた。

2 申請書の提出から入居まで

78期の手続チャートに記載された期限は,次のとおりである。

時期手続
4月15日(水)採用内定・採用地の通知後,宿舎関係データ一式がメールで送信される
4月16日(木)午前11時Formsで宿舎希望調査に回答(回答期限)
4月23日(木)まで宿舎貸与申請書の書式等がメールで送信される。この時点で入居予定宿舎と管理人の連絡先が分かる
4月27日(月)まで宿舎貸与申請書をメールで提出(提出期限)
5月8日(金)まで(遅くとも5月13日(水)まで)宿舎貸与承認書がメールで送信される
承認書の入居日以降鍵の授受・引越荷物の搬入日時を調整し,入居日から10日以内に入居

手続チャートは,宿舎貸与承認書を受領するまでは管理人に連絡を取らないよう求めている。
流れの概要の文書は,回答期限と申請書の提出期限を「非常にタイト」とし,これに遅れた場合は着任日に宿舎に入居できないこともあると注意している。

3 入居希望の撤回

案内文書は,宿舎希望調査表の提出後は宿舎事務担当者が財務省(財務局)との調整等を進めるから,原則として入居宿舎の割当て後に入居希望を撤回することは控えるよう求めている。
77期の案内文書は,合同宿舎について,財務局等から配分を受けた後に撤回すると,他の職員を含めて裁判所として宿舎の配分を受けられなくなるおそれがあると具体的に説明していた。

宿舎は,空き状況,被貸与者の職務の級,執務への影響,通勤時間及び生活上配慮すべき事情の有無等を総合的に判断して割り当てられる。
回答の時点では貸与される宿舎は分からず,宿舎貸与申請書の書式が届いた段階で判明するから,回答の前に,宿舎を希望しない場合の住居の候補も考えておく必要がある。

第4 期別の案内文書の比較

1 各期の回答期限と主な特徴

本ブログに掲載している各期の案内文書から,宿舎の手続と記載の特徴を比べると,次のとおりである。
75期の文書は期の記載がなく,掲載時期,手続の時期(12月~1月)及び記載内容から75期向けと推定したものである。

期宿舎希望の回答申請書の提出主な特徴
78期4月16日(木)午前11時までにFormsで回答(希望しない者も回答)4月27日(月)までa規格を30平方メートル未満とする区分。消防設備点検の立会いと火災の損害の説明を追加。宿舎は福利厚生目的ではない,貸与は行政行為であるといった説明はなくなった
77期4月17日(木)午前11時までに宿舎希望調査表をメールで提出4月28日(月)まで宿舎法1条を引いて「福利厚生(生活支援)目的で貸与されるものではありません」と明記。合同宿舎で撤回した場合の留意点を記載。事前入居の案内はない
76期12月21日(木)午前11時までに宿舎希望調査表をメールで提出1月5日(金)まで採用日の6営業日前から,国有財産使用許可を受けて事前に入居できるとしていた
75期(推定)流れの概要では12月下旬頃流れの概要では1月上旬頃使用料を「約」で示し,地方部を約3万1000円・約1万9000円とした
74期流れの概要では4月下旬頃流れの概要では5月上旬頃新任判事補の規格は原則b又はc
72期流れの概要では12月下旬頃流れの概要では1月上旬頃新任判事補の規格を原則a~c規格としていた。使用料は平成29年12月の財務省公表資料に基づく概算

2 記載の変化

入居希望の撤回について,72期から75期と推定した版までは「絶対にやめてください」とし,76期は撤回しないよう求め,77期は「控えてください」とし,78期は理由の説明を省いて「原則、入居宿舎割当後に、入居希望を撤回することはお控えください」とするだけになった。
撤回を控える理由として,77期までの文書は,財務局等から宿舎の配分を受けた後に撤回すると財務局等の信頼を失い,裁判所として配分を受けにくくなることを挙げていた。

宿舎の性格について,72期から77期までの文書は,宿舎は福利厚生(生活支援)の目的で貸与されるものではなく,「貸与」は公権的な立場で一方的に決定される行政行為であって,民間の賃貸借契約とは性格が異なり,宿舎を選ぶこともできないと説明していた。
78期の文書ではこの説明がなくなり,代わりに消防設備点検の立会いと火災の損害の説明が加わった。

使用料の目安は,72期の文書では,c規格・東京都23区で新築~15年6万円・築28年(全体平均)4万8100円とし,地方部を築年数別に示していた。
75期と推定した版以降は「約」を付けた概数(地方部は約3万1000円・約1万9000円)になり,78期まで同じ数値である。

このほか,76期・77期の案内には裁判所ごとに入居可能な宿舎の概要(規格,築年数,月額使用料の目安等)を示した資料が付いており,その中で,入居する宿舎を希望できるものではないと注意していた。

第5 宿舎の規格と使用料

1 規格

国家公務員宿舎法施行規則6条2項は,宿舎の規格を延べ面積で次のとおり定めている(令和8年4月1日施行の令和8年財務省令第7号による改正後)。

規格延べ面積
a30平方メートル未満
b30平方メートル以上55平方メートル未満
c55平方メートル以上70平方メートル未満
d70平方メートル以上80平方メートル未満
e80平方メートル以上

改正前は,a規格が25平方メートル未満,b規格が25平方メートル以上55平方メートル未満であった。
77期の案内文書は改正前の区分を,78期の案内文書は改正後の区分を掲げている。
寒冷地手当の支給地域等にある官署からおおむね1キロメートル以内の区域の宿舎では,表の延べ面積に7平方メートルを加算する(同項ただし書)。

2 新任判事補はb又はc規格

国家公務員宿舎法施行規則11条1項は,行政職俸給表(一)の職務の級等に応じて貸与する宿舎の規格を定め,2級以下の職員にはb規格以下,3級から5級までの職員にはc規格以下を貸与するとしている。
同条2項・3項は,同居者が3人以上いる場合や宿舎の有効な利用を図るため必要がある場合に,1段階上の規格の貸与を認める。

案内文書は,新任判事補の場合は原則としてb又はc規格であるとしている。
判事補がどの級等に準ずるものとして扱われるかの対応表は,公表資料では確認できなかった。

3 使用料の算定方法と水準

有料宿舎の使用料は月額であり,標準的な建設費用の償却額,修繕費,地代及び火災保険料に相当する金額を基礎とし,居住の条件その他の事情を考慮して政令で定める算定方法により,維持管理機関が決定する(国家公務員宿舎法15条1項)。
算定方法は,1平方メートル当たりの基準使用料に延べ面積を乗じるものであり(同法施行令13条),規格,経過年数,施設の差異等による調整が施行規則13条~20条に定められている。
新たに入居した月と明け渡した月の使用料は日割りで計算する(同法15条2項)。

78期の案内文書は,現在の使用料の水準を概ね次のとおりとしている(c規格〔55平方メートル以上70平方メートル未満〕)。

地域新築~15年築26年(宿舎全体の平均)
東京都23区約6万円約4万5000円
地方部約3万1000円約1万9000円

平面駐車場の使用料は,東京都23区で約1万5400円,地方部で約4000円とされている。
同じ数値は76期・77期の案内文書にも載っている。
このほか,多くの宿舎では自治会があり,宿舎使用料とは別に共益費がかかる一方,敷金,礼金及び仲介手数料はかからない。

4 報酬からの控除

有料宿舎の貸与を受けた者に報酬を支給する機関は,毎月報酬を支給する際,報酬から使用料に相当する金額を控除して国に払い込まなければならない(国家公務員宿舎法15条3項)。
したがって,使用料は口座振替等で別に支払うのではなく,報酬から差し引かれる。

5 設備

案内文書によれば,間取りは1R又は1Kから4DKまで様々であり,築年数によって設備に差がある。
原則として各室にガスコンロ,カーテン,照明器具及びエアコン等は設置されておらず,インターネット環境についても,基本的に各戸までの光回線等は整備されていない。
食器洗い乾燥機や温水洗浄便座の設置のための工事等,原状に変更を加える場合には,維持管理機関の承認を受ける必要がある(国家公務員宿舎法16条2項,同法施行規則21条参照)。

第6 住居手当との比較

1 判事補には住居手当が支給される

裁判官の報酬以外の給与に関する規則(平成29年最高裁判所規則第1号)6条は,住居手当を判事補等に対し一般の官吏の例により支給すると定めている。
同条は判事を掲げていないから,住居手当の対象は判事補等であり,判事は対象とされていない。

一般の官吏の例である一般職の職員の給与に関する法律11条の10第1項1号は,自ら居住するため住宅を借り受け,月額1万6000円を超える家賃を支払っている職員に住居手当を支給するとし,「国家公務員宿舎法第十三条の規定による有料宿舎を貸与され、使用料を支払つている職員」を除いている。
つまり,宿舎に入居している間は住居手当は支給されない。

2 住居手当の額

住居手当の月額は,次のとおりである(一般職の職員の給与に関する法律11条の10第2項1号)。
①家賃が月額2万7000円以下の場合は,家賃から1万6000円を控除した額
②家賃が月額2万7000円を超える場合は,家賃から2万7000円を控除した額の2分の1(上限1万7000円)を1万1000円に加算した額
いずれも100円未満の端数は切り捨てる。

この算式によれば,住居手当の上限は月額2万8000円であり,家賃が月額6万1000円以上になると上限に達する。
例えば,家賃が月額5万円の民間賃貸住宅を借りる場合の住居手当は月額2万2500円となり,実質的な負担は2万7500円となる。

3 比較するときの注意

宿舎か民間賃貸住宅かを比べるときは,宿舎使用料と,民間賃貸住宅の家賃から住居手当を差し引いた額とを比べるだけでは足りない。
民間賃貸住宅では,敷金・礼金・仲介手数料,更新料,家具・家電の設置,退去時の原状回復の扱いが別に問題になる。
宿舎では,割当てを選べないこと,設備が古い場合があること,共益費,退去時の原状回復及び軽微修繕が問題になる。

第7 入居中の義務と火災

1 被貸与者の義務

案内文書は,貸与条件として,善管注意義務,転貸の禁止,居住の用以外の用に供することの禁止,改造・模様替その他の工事を無承認で行うことの禁止,滅失・損傷・汚損の場合の原状回復又は損害賠償義務,その他(軽微な損傷等の修繕義務,明渡し期限・入居期限を守る義務,明渡し日の届出等の義務,宿舎の調査受忍義務,使用上の指示を守る義務等)を挙げている。
このうち前の4つは国家公務員宿舎法16条1項・2項,原状回復又は損害賠償義務は同条3項に定められている。

天災,時の経過その他被貸与者の責めに帰することのできない事由により宿舎が損傷し,又は汚損した場合の修繕費は,軽微なものを除いて国が負担する(同法17条2項)。

2 消防設備点検の立会い

78期の案内文書は,宿舎では消防法に基づき年2回消防設備点検を実施しており,居室内の点検には入居者の立会いが必要であるとして,執務を調整するなどして必ず立ち会うよう求めている。
消防法17条の3の3は防火対象物の関係者に消防用設備等の定期点検と報告を義務付け,消防法施行規則31条の6第1項は,点検を1年以内で消防庁長官が定める期間ごとに行うとしている。

3 火災で宿舎が焼けた場合

国家公務員宿舎法16条3項は,被貸与者が「その責に帰すべき事由により」宿舎を滅失し,損傷し,又は汚損したときは,遅滞なく原状に回復し,又は損害を賠償しなければならないとしたうえで,ただし書で「その滅失、損傷又は汚損が故意又は重大な過失によらない火災に基くものである場合には、この限りでない。」と定める。
したがって,入居者の軽過失による失火で宿舎の建物が焼けても,入居者は原状回復義務も損害賠償義務も負わない。

民間の借家では扱いが異なる。
最高裁昭和30年3月25日判決(昭和29年(オ)第790号,民集9巻3号385頁)は,「債務不履行による損害賠償については『失火ノ責任ニ関スル法律』の適用はない。」とした(裁判所ウェブサイトの裁判要旨)。
借家人は,軽過失による失火であっても,借りている建物の焼失について債務不履行責任を負いうる。
宿舎の入居者についての国家公務員宿舎法16条3項ただし書は,この点で民間の借家人より責任を軽くしている。

入居者自身の家財が隣戸からの延焼で損害を受けた場合については,失火ノ責任ニ関スル法律が「民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス」と定めているから,出火元に重大な過失がなければ損害賠償を請求できない。
78期の案内文書も,同じ趣旨を説明している。

第8 退去と明渡し

1 異動・退官のときの明渡し期限

宿舎の貸与を受けた者は,職員でなくなったとき,死亡したとき,転任・配置換等により宿舎に居住する資格を失い又はその必要がなくなったとき等には,その日から20日以内に宿舎を明け渡さなければならない(国家公務員宿舎法18条1項本文)。
死亡の場合は,その時に同居していた者が明け渡す。
相当の事由がある場合には,維持管理機関の承認を受けて,有料宿舎では6か月の範囲内で指定された期間,引き続き使用することができる(同項ただし書)。
この承認を受けるには,明渡し期限までに宿舎明渡猶予申請書を提出する必要がある(同法施行規則23条・24条)。

2 退去時の原状回復と軽微修繕

78期の案内文書は,宿舎を退去する際には,損傷又は汚損の修復の目的から必要最小限度の範囲内で,原状回復及び軽微修繕を行う必要がある場合もあるとしている。

最高裁判所経理局長通達「裁判所が維持及び管理を行う宿舎に関する原状回復等の運用について」(平成29年3月2日付け経総第195号)は,裁判所が維持管理を行う宿舎について,財務省理財局長通達に基づく原状回復等の運用を定めている。
同通達は,建築後相当の年数を経過した宿舎の修繕は経過年数に応じた内容にとどめて被貸与者に過大な負担とならないよう配慮すること,善良な管理者の注意を払ってもなお生じた結露による損傷等は原状回復等の対象としないこと,汚損箇所は原則として被貸与者による清掃で足りることを定めている(1頁)。
また,損傷等がない部分の取替え・塗替え・張替え等を被貸与者に行わせないこと,居住期間や家族構成等を基準として一律・画一的な指示を行わないことも定めている(2頁)。

同通達は,入居時に宿舎の損傷等の状況を把握することや(2頁),次の入居予定者が空調機等の処分と原状回復を引き継ぐことを条件として届出をすれば,退去時の撤去とそれに付随する原状回復等を要しないとする承継措置も定めている(2頁~3頁)。
同通達の別添一覧表は,天井,壁,床,畳,襖,鍵及び設備等の区分ごとに原状回復等の対象となるかを示している。
例えば,壁の日焼けによる変色,テレビ・冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気やけ),下地ボードの張替えが不要な程度のピンや画鋲の穴(6頁),畳の日焼けによる変色(8頁)は,原状回復等の対象外の欄に掲げられている。

裁判所ごとの運用の例として,仙台高等裁判所事務局会計課営繕係の「裁判所宿舎の原状回復について」は,退去予定日の30日前までに調査票等を提出させ,退去前の立会いと退去後の2回の点検を行うとしている。

3 明け渡さない場合の損害賠償金

被貸与者が期限までに明け渡さないときは,明渡期日の翌日から明け渡した日までの期間に応ずる損害賠償金を支払わなければならず,その額は当該期間の使用料の3倍を超えることができない(国家公務員宿舎法18条3項,同法施行令16条)。
各省各庁の長は,明け渡さない者に対し,すみやかに明渡しを求める訴えの提起その他の措置をとり(同法施行規則25条),損害賠償金の支払を請求しなければならない(同規則26条)。

判例秘書に収録された次の下級審判決は,退職又は懲戒免職等の後に宿舎を明け渡さない者に対する国等の明渡請求を認めたものである。
①横浜地裁昭和52年3月30日判決(昭和49年(ワ)第614号,判例秘書の判例番号 L03250156)は,退職後,明渡猶予期間を経過しても明け渡さない元職員に対する明渡請求について,権利の濫用であるとの主張を排斥して認容した。
②東京地裁平成15年9月19日判決(平成15年(ワ)第16978号,判例秘書の判例番号 L05833836)は,郵政職員宿舎の廃止に伴う明渡請求を認容し,月額3969円の使用料に対して月額1万1907円(使用料の3倍)の割合による金員の支払を命じた。
③東京地裁平成17年12月14日判決(平成17年(ワ)第5409号,判例秘書の判例番号 L06034745)は,懲戒免職された職員に対する明渡し・未払使用料・損害賠償金の請求を認容し,懲戒免職処分は取消訴訟で取り消されておらず当然無効ともいえないから有効なものとして扱わざるを得ないとした。

東京地裁平成14年8月27日判決(平成9年(行ウ)第47号)は,官舎に居住している公務員は一定期間の居住を請求する権利を有するものではないとし,国家公務員宿舎法18条1項4号・5号はこのことを注意的に規定したものであると述べている(裁判所ウェブサイト掲載)。

第9 確認事項

宿舎の貸与を希望するかどうかを検討する段階で,次の点を確認しておくとよい。
①採用内定の通知の翌日午前11時という回答期限と,回答方法(78期はForms)
②希望しない場合の住居の候補と,住居手当を受ける場合の家賃の見込み
③割当て後の撤回は原則としてできないこと
④申請書の提出期限(78期は通知の約12日後)と,承認書を受け取るまで管理人に連絡しないこと
⑤承認書の入居日から10日以内に入居すること
⑥エアコン・照明・カーテン・ガスコンロ・インターネット回線の手配
⑦異動・退官時は20日以内に明け渡すこと,退去時の原状回復の範囲

第10 関連記事

①新任判事補の採用内定通知から辞令交付式までの日程-69期から78期まで
②判事補とは―判事との違い・職権・任官後の流れ
③新任判事補及び新任検事向けの記事一覧
④最高裁判所事務総局経理局の事務分掌
⑤裁判官の報酬以外の給与に関する規則
⑥応急仮設住宅の供与終了後の使用料等相当損害金-最高裁令和8年9月14日判決と三浦反対意見
⑦通常損耗の原状回復費用を賃借人に負担させる特約はいつ成立するか―最高裁平成17年12月16日判決と民法621条
⑧借家で火事を出した賃借人の責任―失火責任法が適用されない返還義務の履行不能,家族・従業員の失火,類焼及び公務員宿舎の特則

第11 出典

1 法令

①国家公務員宿舎法(e-Gov法令検索)1条,3条,13条~18条
②国家公務員宿舎法施行令(e-Gov法令検索)13条,16条
③国家公務員宿舎法施行規則(e-Gov法令検索)6条,8条,9条,11条~21条,23条~26条(令和8年財務省令第7号による改正後)
④一般職の職員の給与に関する法律(e-Gov法令検索)11条の10
⑤失火ノ責任ニ関スル法律(e-Gov法令検索)
⑥消防法(e-Gov法令検索)17条の3の3
⑦消防法施行規則(e-Gov法令検索)31条の6
⑧裁判官の報酬以外の給与に関する規則(平成29年最高裁判所規則第1号)6条(全文は関連記事⑤)

2 判例・裁判例

①最高裁判所第二小法廷昭和30年3月25日判決(昭和29年(オ)第790号,民集9巻3号385頁)
②東京地方裁判所平成14年8月27日判決(平成9年(行ウ)第47号)
③横浜地方裁判所昭和52年3月30日判決(昭和49年(ワ)第614号,判例秘書の判例番号 L03250156)
④東京地方裁判所平成15年9月19日判決(平成15年(ワ)第16978号,判例秘書の判例番号 L05833836)
⑤東京地方裁判所平成17年12月14日判決(平成17年(ワ)第5409号,判例秘書の判例番号 L06034745)

3 案内文書等

①最高裁判所事務総局人事局任用課長「裁判官任命に関する日程等について」(令和8年3月26日付の事務連絡)
②最高裁判所事務総局経理局総務課公務員宿舎係「国家公務員宿舎への入居について」(78期新任判事補向けの文書)
③77期新任判事補向けの「国家公務員宿舎への入居について」,同「国家公務員宿舎について」及び同「宿舎について」・入居可能な宿舎の概要・宿舎希望調査表
④76期新任判事補向けの「国家公務員宿舎への入居について」,同「国家公務員宿舎について」及び同「国家公務員宿舎に関する説明文書」
⑤「国家公務員宿舎の貸与について」(75期向けと推定)及び「国家公務員宿舎について」(同)
⑥「国家公務員宿舎の貸与について」(74期新任判事補向けの文書)
⑦「国家公務員宿舎の貸与について」(72期判事補志望者向けの文書)
⑧最高裁判所経理局長通達「裁判所が維持及び管理を行う宿舎に関する原状回復等の運用について」(平成29年3月2日付け経総第195号)
⑨仙台高等裁判所事務局会計課営繕係「裁判所宿舎の原状回復について」