第1 本記事の対象と資料
1 対象とする事項
本記事は,家庭裁判所調査官(以下「家裁調査官」という。)の定員,増員の経緯,支部への配置及び育児休業・病気休暇・退職の人数を,国会会議録に基づいて整理するものである。
基準日は令和8年10月10日である。
令和8年4月1日に父母の離婚後の子の養育に関する改正民法等が施行され,家裁調査官が足りるのかが,同年の裁判所職員定員法の改正審議で繰り返し質問された。
家裁調査官の仕事の内容や調査報告書の読み方は,家庭裁判所調査官とは―仕事内容,家事・少年事件の調査と調査報告書で説明しているので,本記事は人数と配置に絞る。
2 資料の性質
主な資料は,次の三つの委員会の会議録である。
①令和7年3月14日の衆議院法務委員会(第217回国会第3号)
②令和8年4月14日の衆議院法務委員会(第221回国会第3号)
③令和8年4月23日の参議院法務委員会(第221回国会第7号)
数字は,最高裁判所事務総局の総務局長,人事局長又は家庭局長の答弁によるものと,質問した議員の発言にとどまるものとを区別して記載する。
③の委員会については,最高裁判所が作成した答弁資料が開示されており,裁判所職員定員法の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等に掲載している。
答弁資料には委員会で質問されなかった問の答弁案も含まれているため,本記事では,会議録で答弁されたことを確認した部分と,答弁資料にとどまる部分を書き分ける。
第2 定員と増員の経緯
1 令和7年度の定員は1,603人
最高裁判所人事局長は,令和7年度の家庭裁判所調査官及び家庭裁判所調査官補の定員数は1,603人であると答弁した(②発言35)。
令和8年度には家裁調査官が10人増員されたので,単純に足せば1,613人となる。
この1,613人は本記事の計算であり,③の委員会で嘉田由紀子議員も「千六百三人が千六百十三人になる」と述べているが,最高裁判所が令和8年度の定員数として答弁した数字ではない(③発言85)。
裁判所職員定員法2条は,裁判官以外の裁判所の職員の員数を全体で2万1,540人と定めるだけで,職種ごとの員数を定めていない。
家裁調査官の人数は,最高裁判所の答弁や予算資料で確認するほかない。
予算資料での裁判所職員の人数の推移は,裁判所職員の予算定員の推移で整理している。
2 平成12年以降の増員は合計80人
最高裁判所が答弁した増員の経緯は,次のとおりである。
| 時期 | 増員数 | 答弁で説明された目的 |
|---|---|---|
| 平成12年~平成18年 | 68人 | 家庭事件の複雑困難化等を踏まえた体制整備 |
| 平成21年 | 5人 | 同上 |
| 令和4年 | 2人 | 同上(答弁資料はワークライフバランス推進のための増員と説明) |
| 令和7年度 | 5人 | 改正家族法の円滑な施行に向けた検討・準備 |
| 令和8年度 | 10人 | 改正家族法に関する調査事務の運用を全国に定着させるための支援 |
平成12年から令和4年までの数字は,令和7年3月14日の総務局長の答弁による(①発言13,104)。
同じ委員会で総務局長は一度「五十八人」と述べ,同じ答弁の最後に「六十八」と訂正している(①発言125)。
令和8年4月14日の総務局長の答弁は,これらを合わせて「平成十二年以降、合計八十人の増員」と説明している(②発言60)。
68人,5人,2人及び5人を足すと80人であり,令和8年度の10人はこの80人に含まれていない。
最高裁判所の答弁資料には,令和4年の2人がワークライフバランス推進のための増員であったことと,令和8年度は,最高裁判所の事務官の増員で手当てする一方,下級裁判所ではいずれの職種も現有人員の有効活用で必要な態勢を確保できると考えたことが記載されている(答弁資料37頁~38頁)。
もっとも,この問は③の委員会では質問されず,答弁されていない。
3 少年事件の減少と事務分担の見直し
最高裁判所は,増員と並ぶ対応として,少年事件から家事事件への事務分担の見直しを挙げている。
家裁調査官の関与の度合いが大きい少年事件は長期的には大幅な減少傾向にあり,各裁判所は事務分担を見直して家事事件の処理のための体制を整備してきた,という説明である(②発言31,③発言10)。
家庭局長は,家裁調査官は少年事件では非行を起こした少年,家事事件では父母の紛争下にある子を相手として,行動科学等の知見や技法を用いて心情を把握することを主な職務としており,活用する知見の基本的な部分は共通しているから,少年事件を主に担当していた家裁調査官が家事事件を担当しても適切に調査を行うことができると答弁した(②発言107)。
また,家裁調査官は採用後2年間の研修で家事事件と少年事件のいずれにも使う知見や技法を習得し,その後はOJTで分析の視点や技法を身に付けると説明している(②発言109)。
第3 令和7年度・8年度の増員分の使い方
1 令和7年度の5人
令和7年度の5人について,総務局長は,改正家族法の趣旨,内容を踏まえた適切な審理運用の在り方などを集中的に検討する大規模庁に配置すると答弁した(①発言19)。
2 令和8年度の10人
令和8年度の10人について,総務局長は,東京,大阪,名古屋などの高等裁判所所在地の全ての家庭裁判所に配置し,単に事件処理要員として活用するだけでなく,各高裁管内の各庁の調査事務の運用面をフォローアップし,各庁における運用の定着を支援すると答弁した(③発言45)。
高等裁判所は全国に8庁あるから,10人は各高等裁判所所在地の家庭裁判所に1人以上ずつ置かれる計算になるが,庁ごとの人数は答弁されていない。
この配置の説明からすると,令和8年度の増員は,支部や小規模庁で事件を担当する人数を直接増やすことを主な目的とするものではない。
小林さやか議員がこの10人が現場で調査にも当たるのかを質問したのに対し,答弁は「単に事件処理要員として活用するというだけではなくて」という表現にとどまっている。
3 事件数の見込みは示されていない
増員数の根拠として事件数の見込みを問われたのに対し,家庭局長は,改正法施行後の事件動向には増加要因も減少要因もあり,施行直後の時点で今後の動向を具体的に予測することは困難であると答弁した(②発言33,③発言47)。
施行から3週間余りの③の委員会の時点では,最高裁判所は具体的な統計数値を把握しておらず,事件処理に支障が生じているという報告は受けていないとも述べている(③発言47)。
第4 支部への配置
1 203支部のうち90庁には家裁調査官がいない
家庭裁判所の本庁は50庁,支部は203庁,出張所は77庁である(②発言21)。
家裁調査官が配置されている支部は203庁のうち113庁で,割合は55%程度である(①発言7,②発言21)。
配置されていない支部は90庁である(③発言55)。
令和7年3月と令和8年4月の答弁で113庁という数字は変わっていない。
具体例として,令和7年3月の答弁では,釧路家庭裁判所の本庁に5人,帯広支部と北見支部に各3人が配置され,網走支部と根室支部には配置がないと説明されている(①発言11)。
2 配置されていない支部での対応
総務局長は,家裁調査官の配置は事件数だけでなく,近隣の支部との交通事情,扱っている事件の種別及び事件処理状況などを総合的に踏まえて決めており,事件数が少ない庁には人員の有効活用の観点から配置していないと答弁した(②発言25)。
配置されていない庁では,近隣庁に配置されている家裁調査官が出向くなどして事件を担当し(②発言23),日程調整にはリモート技術も活用しているという(③発言55)。
総務局長は,裁判所も国の予算で運営される公的な機関であるから,業務量に見合った人の配置の在り方を考える必要があるとも述べている(②発言25,③発言71)。
3 家裁調査官の関与率と議員の指摘
家庭局長は,司法統計によれば,全国の家庭裁判所の子をめぐる事件のうち,親子交流,子の監護者の指定及び子の引渡しの各事件の8割程度に家裁調査官が関与していると答弁した(②発言27)。
同局長は,この割合は長野家庭裁判所佐久支部でも同様であるとし,個別の事件で家裁調査官を関与させるかどうかは,調停委員会等が子をめぐる紛争の程度や子の状況等を踏まえて判断すべき問題であると述べた。
これに対し,小竹凱議員は,佐久支部で家裁調査官の常駐を求める要望書が10年ほど続いていること,要望書によれば令和3年の調停事件の調査官調査率が長野家裁本庁で21.6%,松本支部で19.2%,上田支部からの填補を受ける佐久支部で12.8%であったことを指摘した(②発言26)。
この数字は議員が要望書から引用したものであり,最高裁判所の答弁による数字ではない。
最高裁判所の「8割程度」は事件類型を親子交流等に限った関与の割合であり,議員が引用した「調査官調査率」とは対象と定義が異なり得るから,両者を直接比べることはできない。
支部の数と機能の問題全般は,裁判所支部の機能拡充と地域司法アクセス―新設・弁護士偏在・デジタル化の課題と地方裁判所支部・家庭裁判所支部の全国一覧と取扱事件で扱っている。
第5 育児休業・病気休暇・退職の人数
1 人事局長が答弁した数字
人事局長が答弁した家裁調査官の人事に関する数字は,次のとおりである。
| 項目 | 人数・割合 | 基準 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 家裁調査官の全体数 | 1,566人(うち女性953人,60.9%) | 令和6年7月現在 | ①発言15 |
| 女性割合 | 約61.9% | 令和7年 | ③発言49 |
| 調査官補採用者の女性割合 | 83.3%,77.4%,85.2% | 令和4年度~令和6年度 | ①発言15 |
| 育児休業取得者 | 72名(定員の約4.5%) | 令和7年 | ③発言49 |
| 育児時間取得者 | 183名(定員の約11.5%) | 令和6年度 | ③発言49 |
| 育児短時間勤務者 | 3名(定員の約0.2%) | 令和6年度 | ③発言49 |
| 90日以上の長期病休者 | 10名(定員の約0.6%) | 令和7年 | ③発言49 |
| 精神及び行動の障害による90日以上の長期病休中の者 | 10人 | 令和7年4月1日時点 | ②発言35 |
| 定年前に退職した者 | 37人 | 令和7年度 | ③発言53 |
このほか,精神及び行動の障害による90日以上の長期病気休暇を取得した家裁調査官は,令和2年が3人,令和3年が2人,令和4年が4人,令和5年が3人,令和6年が12人であったと答弁されている(①発言110)。
2 数字を比べるときの注意
令和6年の12人は,その年に長期病気休暇を取得した人数である。
これに対し,令和7年4月1日時点の10人は,その日に休暇中であった人数である。
②の委員会で質問した議員は,前年の答弁より大幅に減ったと受け止めているが(②発言36),年間の取得者数と特定の日の在休者数は数え方が違うので,この二つの数字だけから減少したとは言えない。
同じように,令和6年7月現在の全体数1,566人と,令和7年度の定員数1,603人も,基準日と対象(家庭裁判所調査官補を含むか)が答弁上明らかでないから,その差を欠員数として扱うことはできない。
定員,現在員及び欠員の読み方は,裁判所の定員が減ると,現場の人も減るのか―定員・現在員・欠員・振替・再任用の読み方で説明している。
もっとも,令和7年の育児休業取得者72名と,令和6年度の育児時間取得者183名を見ると,家裁調査官の1割を超える人数が両立支援制度を利用していることが分かる。
③の委員会で小林さやか議員は,定員約1,600人のうち実働できない人が100人近くおり,さらに183人が時短勤務等をしていると指摘した(③発言50)。
3 補充と配慮の方法
人事局長は,育児休業取得者等が生じた場合には,臨時的任用等の代替職員を採用することなどに努め,常勤職員が採用できない場合でも短時間勤務職員を採用して現場のマンパワーを確保するよう努めていると答弁した(③発言51)。
また,幹部職員及び管理職員には,育児休業を取得する職員や時短勤務をする職員の業務をカバーする周囲の職員の事務処理状況を把握し,業務量及び職場の運営への貢献に目配りを怠らないよう留意させているという。
異動については,家裁調査官に限らず職員全般に都市部を希望する傾向がうかがえるとしつつ,均質な司法サービスの提供,人材育成及び異動負担の公平の観点から,異動範囲が広域になったり,本人の希望どおりにならなかったりする場合もあると説明している(③発言79)。
異動の負担を和らげる制度として,地域手当の異動後3年間の異動保障,広域異動手当,離島等の特地勤務手当,令和7年4月からの新幹線等の特別料金を含む月額15万円を上限とする通勤手当が挙げられている(③発言53)。
第6 附帯決議
令和8年4月23日の参議院法務委員会は,裁判所職員定員法の一部を改正する法律案を可決した際,8項目の附帯決議をした(③発言133)。
家裁調査官に関係するのは,次の項目である。
①裁判手続等のデジタル化の進捗状況を踏まえた適切な人員配置に努めるとともに,裁判官以外の裁判所職員の労働時間を把握し,適切な労働環境を整えること(五項)。
②両親の離婚時における子どもの利益確保の要請等に対して家庭裁判所における多角的な対応が適切かつ十分に行われるよう,裁判官・家庭裁判所調査官の充実を含め,家庭裁判所の人的・物的体制の強化を進めること(六項)。
③子育てや介護などによりキャリア形成を損なうことなく仕事と家庭を両立できる取組を一層進めること(七項)。
衆議院法務委員会の附帯決議は,裁判所職員定員法の一部を改正する法律案に対する衆議院法務委員会の附帯決議に掲載している。
第7 弁護士実務への示唆
1 支部の事件では調査の日程を早めに確かめる
家裁調査官が配置されていない支部の事件では,近隣庁から家裁調査官が出向くことになるから,調査の期日は家裁調査官の出張日程に左右され得る。
子の監護に関する事件で家裁調査官による調査を求めるときは,調査の要否についての意見を早めに述べ,当事者や子の都合と併せて日程の見通しを裁判所に確かめておくのがよい。
最高裁判所はリモート技術の活用を説明しているが,子との面接にリモートが適するかは事案によるから,面接の方法についても意見を述べる余地がある。
2 子の意思の把握の方法を組み合わせる
家事事件手続法65条は,未成年の子がその結果により影響を受ける家事審判の手続では,子の陳述の聴取,家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により子の意思を把握するよう努めると定め,同法258条1項が家事調停に準用している。
家庭局長は,未成年者の手続代理人の選任件数は,実情調査の結果に基づく概数で,令和7年度までの直近5年間はおおむね年間40件から70件程度で推移していると答弁した(③発言61)。
家裁調査官の調査だけに頼れない事件では,未成年者の手続代理人の選任を申し立てることも検討に値する。
3 関係機関との「連携」を前提にしない
最高裁判所の答弁資料には,家裁調査官の調査は裁判官が必要と判断した場合に命じて行うもので,その目的は家庭裁判所に申し立てられた紛争の解決にあり,関係機関から子の養育に関する客観的な情報を取得するために情報共有することはあっても,調査の目的を超えて関係機関に働きかける「連携」の制度ないし仕組みはないと記載されている(答弁資料45頁)。
この問は③の委員会では質問されず,答弁されていない。
児童相談所等の関与が必要な事案では,家裁調査官の調査とは別に,代理人として関係機関への相談や資料の取得を進める必要がある。
第8 関連記事
令和9年度概算要求-裁判所職員101人の定員合理化と家裁調査官の増員の有無では,令和9年度の概算要求に家裁調査官の増員が含まれているかを検討している。
裁判所における一般職の職員―職種・身分・定員・採用では,家裁調査官を含む裁判官以外の職員の職種と定員を整理している。
裁判所職員定員法の一部を改正する法律に関する国会答弁資料等には,各年の定員法改正の国会答弁資料を掲載している。
第9 出典
①第217回国会衆議院法務委員会議録第3号(令和7年3月14日)発言7,11,13,15,19,104,110,125(https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121705206X00320250314 )
②第221回国会衆議院法務委員会議録第3号(令和8年4月14日)発言21,23,25~27,31,33,35,36,60,107,109(https://kokkai.ndl.go.jp/txt/122105206X00320260414 )
③第221回国会参議院法務委員会会議録第7号(令和8年4月23日)発言10,45,47,49~51,53,55,61,71,79,85,133(https://kokkai.ndl.go.jp/txt/122115206X00720260423 )
④最高裁判所作成の裁判所職員定員法の一部を改正する法律(令和8年5月7日法律第14号)に関する国会答弁資料(令和8年4月23日の参議院法務委員会)37頁~38頁,45頁(https://yamanaka-bengoshi.jp/wp-content/uploads/2026/10/裁判所職員定員法の一部を改正する法律(令和8年5月7日法律第14号)に関する国会答弁資料(令和8年4月23日の参議院法務委員会).pdf )
⑤裁判所職員定員法(昭和26年法律第53号)2条(e-Gov法令検索,令和8年10月10日確認)
⑥家事事件手続法(平成23年法律第52号)65条,258条1項(e-Gov法令検索,令和8年10月10日確認)