第1 この記事の対象と結論
1 この記事の対象
本記事は,業界団体(独占禁止法上の事業者団体)や,弁護士会・税理士会等の資格者団体が,会員の価格・料金・報酬や取引の方法について決定,申合せ又は情報提供をする場合に,独占禁止法上どこに注意すべきかを,団体や会員から相談を受ける弁護士と,会員の申告を担う税理士の実務の観点から整理するものである。
基準日は令和8年10月10日であり,法令はe-Gov法令検索の現行条文によっている。
公正取引委員会の指針,考え方及び相談事例は,同委員会のウェブサイトの公表資料によっている。
個別の活動が独占禁止法に違反するかどうかは,業務の内容や市場の状況等を踏まえて個々に判断されるので,判断に迷う場合は,公正取引委員会の事前相談を利用することになる。
2 結論
①団体の「決定」は,総会や理事会の正式な議決に限られず,慣行上団体の決定として扱われている委員会・幹事会等の事実上の決定も含まれる。
②会員からの要請に応じて示す「参考となる金額」であっても,価格設定の基準を決めるものであれば独占禁止法上問題となり,割増料金・手数料・報酬等の名目であっても価格に当たる。
③品質,安全又は品位の確保を目的に掲げた自主基準であっても,その遵守を強制したり,基準自体が認める例外の取引を団体が一律に禁止したりすると,正当化されにくい。
④資格者団体が報酬の標準額や目標額等の共通の目安を設定することは,通常の事業者団体と同じく問題となる一方,過去の報酬の統計を需要者も含めて公表することや,単価を示さずに算定方法を解説することは,原則として問題とならない。
⑤事業者団体の独占禁止法8条1号違反(不当な取引制限に相当するもの)のうち対価に係るもの等についての課徴金は,団体ではなく構成事業者に課され,法人では損金の額に,個人事業者では必要経費に算入されない。
第2 事業者団体規制の基本
1 事業者団体に当たる団体
独占禁止法2条2項は,事業者団体を,事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする2以上の事業者の結合体又はその連合体と定義し,2以上の事業者が社員である社団法人その他の社団等を含むとしている。
公正取引委員会の「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(以下「事業者団体ガイドライン」という。)は,○○工業会,○○協会,○○組合等や,これらの連合会が事業者団体に当たるとし,「事業者としての共通の利益」は業界一般の利益でもよく,「主たる目的」は定款等の目的にとらわれず活動内容から実質的に判断されるとしている(第一の2)。
したがって,定款に「業界の健全な発展」「品質向上」「環境保全」等の公益的な目的が書かれていても,会員である事業者の経済活動上の利益に寄与する活動をしていれば,事業者団体に当たることが多い。
弁護士,税理士等の資格者も,報酬を得て業として経済活動を行う場合は事業者に当たり,資格者団体も事業者団体として独占禁止法の適用を受ける(公正取引委員会「資格者団体の活動に関する独占禁止法上の考え方」(以下「資格者団体の考え方」という。)第1)。
2 禁止される行為と違反の効果
独占禁止法8条は,事業者団体が,一定の取引分野における競争を実質的に制限すること(1号),構成事業者の機能又は活動を不当に制限すること(4号),事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること(5号)等をしてはならないと定めている。
事業者団体ガイドラインは,価格,数量,顧客・販路,設備及び参入に関する制限について,市場における競争を実質的に制限すれば8条1号に違反し,そこまで至らない場合であっても原則として同条3号,4号又は5号に違反するとしている(第二の(2))。
違反行為に対しては,公正取引委員会が事業者団体に対して行為の差止め等の排除措置を命ずることができ(8条の2第1項),特に必要があるときは,団体の役員や構成事業者に対しても必要な措置を命ずることができる(同条3項)。
課徴金は,8条1号違反のうち不当な取引制限に相当する行為等について,構成事業者に課される(8条の3)。
8条4号違反は課徴金の対象とならないが,事業者団体ガイドラインは,8条1号から4号までの違反について刑事罰の定めがあることも示している(第一の6)。
3 団体の「決定」は正式な議決に限られない
事業者団体ガイドラインは,事業者団体の「決定」は,正規の意思決定機関の議事を経た明示の決定に限られず,慣行等に基づく事実上の決定も含まれるとし,規程上は意思決定機関でない委員会や部会等の決定・合意が慣行上団体の決定として扱われている場合はこれに当たるとしている(第二の(8))。
例えば,定款上は総会の決定事項であっても,会長と有力会員から成る幹事会が総会までの事項を事実上決め,会員がこれに従い,後の総会で追認する運用があれば,追認前であっても幹事会の決定は団体の決定と評価され得る。
団体の相談を受ける弁護士は,定款や規程上の権限だけでなく,役員会,委員会,部会,懇談会等での申合せが実際にどう扱われ,会員がそれに従っているかを確認する必要がある。
第3 価格・料金・報酬に関する活動
1 価格の制限は理由を問わず原則として違反となる
事業者団体ガイドラインは,価格の制限行為は,具体的な形態や手段・方法を問わず,また,妥当な価格水準にするため,商品又は役務の質を確保するため等の理由によって正当化されるものではないとしている(第二の(2))。
原則として違反とされる行為としては,最低販売価格の決定,値上げ率や値上げ幅の決定,標準価格・目標価格等の価格設定の基準の決定,具体的な数値・係数を用いて共通の目安を与える価格算定方式の設定等が挙げられている(1―1,1―(1))。
2 割増料金・手数料も「価格」に当たる
事業者団体ガイドラインは,価格制限行為における「価格」は,料金,手数料,金利等その名称や形態を問わず商品又は役務の対価であるものを指し,割戻しや値引き等の実質的に価格の構成要素となるものを含むとしている(1―(3))。
したがって,商品の販売代金とは別に請求する小口の配送の割増料金,返品された商品の処理費用,キャンセル料,報酬の加算率等についても,団体が基準を決めれば価格の制限に当たり得る。
商品の代金そのものは各社が自由に決めていても,代金とは別に請求されてきた料金について団体が基準を決めれば,その料金に係る取引の競争が制限されるので,代金の競争が残っていることは,違反を否定する決め手にはならないと考えられる。
3 会員から求められた「参考となる金額」
公正取引委員会の相談事例集(平成27年度事例12)では,建築資材の製造販売業者の協同組合が,発注数量が運搬車両の積載能力に比べて著しく少ない場合や,運搬した資材の一部が使用されずに返送される場合の割増料金について,組合員の要請に応じて参考となる価格を示すことを検討したところ,公正取引委員会は,組合員の価格設定の基準を決定するものであり独占禁止法上問題となると回答している。
「参考」「目安」という名目であっても,会員がそれを基準に料金を設定することが予定されているなら,標準価格の決定と同じ評価を受け得る。
まして,会員が従来請求してきた料金の平均に一定割合を上乗せした額を基準として決め,会員に遵守させれば,値上げ率の決定(1―(1)―2)や標準価格の決定(1―(1)―3)に当たり得る。
費用が増えた,需要が落ち込んだ,損失が生じているといった事情は,各事業者が自らの判断で価格に反映させるべきものであり,団体による共同の価格決定を正当化しない。
4 原則として許される情報提供
他方,事業者団体ガイドラインは,需要者,構成事業者等に過去の価格に関する情報を提供するため,構成事業者から価格に係る過去の事実に関する概括的な情報を任意に収集し,客観的に統計処理して価格の高低の分布や動向を正しく示し,個々の構成事業者の価格を明示することなく,需要者を含めて概括的に提供することは,原則として違反とならないとしている(9―5)。
ただし,事業者間に現在又は将来の価格についての共通の目安を与えるものは除かれる。
団体が統計を作るときは,①過去の実績であること,②任意の提供であること,③個社が特定されないこと,④需要者も見られる形で公表すること,⑤平均値に上乗せ率を付ける等の目安にしないことを確認する。
第4 品質・安全・品位を目的とする自主基準と取引の制限
1 自主規制の判断基準
事業者団体ガイドラインは,事業者団体が社会公共的な目的に基づいて品質等に関する自主規制や自主認証を行うことについて,独占禁止法上の問題を特段生じないものも多いとしつつ,①競争手段を制限し需要者の利益を不当に害するものではないか,②事業者間で不当に差別的なものではないかという基準に照らし,③社会公共的な目的等正当な目的に基づいて合理的に必要とされる範囲内のものかを勘案して判断するとしている(7(2)ア)。
また,自主規制等の利用・遵守は構成事業者の任意の判断に委ねられるべきであり,団体がその利用・遵守を構成事業者に強制することは,一般的には独占禁止法上問題となるおそれがあるとしている。
自主規制を行うときは,関係する構成事業者から十分に意見を聴き,必要に応じて需要者や知見のある第三者とも意見交換することが望ましいとされている。
2 基準が認める例外の取引を団体が一律に禁止する場合
公正取引委員会の相談事例集(平成28年度事例11)では,建築資材の製造販売業者等の工業組合が,品質を保持できる運搬時間の目安を超える可能性のある地域の需要者への販売を組合員に禁止することを検討した事案について,製造販売業者や需要者の団体等から成る組織が定めた品質基準自体が,需要者との協議により目安を超える運搬時間を設定することを認めていたことから,販売の一律禁止は,品質低下により合格標章に対する需要者の信頼が低下することを防止するといった理由では正当化されないと回答している。
この事例は,公益的な目的を掲げた制限であっても,目的を達成するために設けられた基準そのものが例外の取引を認めている場合には,団体がそれを上回る一律の禁止をする必要性が乏しいことを示している。
3 弁護士が点検する視点
自主基準を理由とする取引の制限について相談を受けたときは,次の点を確認する。
①制限の目的として掲げられた品質・安全等の危険と,制限の内容が対応しているか(「価格の下落による品質の劣化」のように,実質は価格の維持が目的になっていないか)。
②制限の対象が,安値の販売が生じている特定の地域や特定の会員に偏っていないか。
③基準自体が認めている例外や,需要者との合意による品質管理等のより制限的でない手段で目的を達成できないか。
④需要者の利益を害していないか,需要者や第三者の意見を聴いているか。
⑤遵守を強制したり,違反した会員に除名等の不利益を課したりしていないか。
第5 資格者団体(弁護士会・税理士会等)の場合
1 強制入会と競争への影響
資格者団体の考え方は,公認会計士,行政書士,弁護士,司法書士,土地家屋調査士,税理士,社会保険労務士及び弁理士の8資格について,資格者を会員とする団体の設立と資格者の入会が法律上義務付けられているとし,これらの団体を資格者団体と呼んでいる(はじめに1)。
資格者は団体へ入会しなければ業務を行うことができないので,資格者団体で競争制限的な活動が行われると,競争に与える影響が一層大きくなるとされている(第1)。
2 報酬の基準
資格者団体の考え方は,資格者団体が会員の収受する報酬について制限することは,通常の事業者団体と同様に独占禁止法上問題となるとしている(第2の1)。
会則に報酬の基準を記載することが法定されている場合に,その基準を個々の資格者が報酬額を定める際の基準として用いる限りでは問題とならないが,確定額として運用したり,値引きを禁止したり,法定されていない業務の報酬まで基準を設けたりすることは問題となる。
会則に報酬の基準を記載することが法定されていない場合に,標準額,目標額等の会員の報酬について共通の目安となる基準を設定することは,市場における競争を実質的に制限すれば8条1号に,そこまで至らなくても原則として同条4号に違反するとされている。
3 報酬についての情報提供と算定方法の解説
他方,資格者団体の考え方は,過去の報酬について会員から任意に概括的な情報を集めて統計処理し,個々の会員の報酬を明示せずに需要者を含めて提供すること(業務の類型別に最高額,平均額及び最低額を示す例が挙げられている。)や,具体的な単価等を示さずに報酬の算定方法を解説することは,会員間に共通の目安を与えない限り,原則として問題とならないとしている。
もっとも,同考え方に掲げられた相談事例(事例1)では,単価を示さない算定モデルであっても,付加価値が求められる業務について一定割合の手数料の増額を例示したり,作成書類の枚数に応じた単価の増額割合を例示したりすることは,統一的なマークアップ基準を示すことにより報酬額についての共通の目安を与えるので,独占禁止法8条1号の問題となるとされている。
弁護士会や税理士会が会員向けの手引や研修資料を作るときは,報酬の算定の考え方の説明にとどめ,金額や増額率の具体的な数値を示していないかを確認する必要がある。
4 広告と顧客獲得の制限
資格者団体の考え方は,会員の広告について媒体,回数,場所,内容等を制限して需要者の正しい選択に資する情報の提供を制限することは8条4号に違反するおそれがあるとし,虚偽・誇大な広告の禁止等の需要者の正しい選択を容易にするための規制は原則として問題とならないとしている(第2の2)。
また,他の会員の顧客との取引の禁止,活動地域の制限,会員間の業務の配分等は,通常の事業者団体と同様に問題となるとしている(第2の3)。
弁護士会の活動と独占禁止法の関係は,弁護士自治-資格・登録・強制加入・懲戒・司法審査(AIリライト)でも整理している。
第6 構成事業者に課される課徴金と税務
1 課徴金は団体でなく構成事業者に課される
独占禁止法8条の3は,8条1号(不当な取引制限に相当する行為をする場合に限る。)又は2号の違反行為が行われた場合について,7条の2等の課徴金の規定を準用し,課徴金の納付を命じられる者を事業者団体の構成事業者と読み替えている。
課徴金の対象となるのは,商品又は役務の対価に係るもの,又は供給量,市場占有率若しくは取引の相手方を実質的に制限することによりその対価に影響することとなるものである(7条の2第1項)。
8条の3は課徴金減免制度に関する7条の4(同条4項2号及び3号を除く。)も準用しているので,構成事業者が違反行為について公正取引委員会に報告すること等による減免も問題となる。
団体の決定に従っただけの会員であっても,売上額に応じた課徴金を負担し得ることは,団体の会合に出席する会員企業に事前に説明しておくべき点である。
2 法人の場合(損金不算入)
法人税法55条5項3号は,内国法人が納付する独占禁止法の規定による課徴金及び延滞金の額は,各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入しないと定めている。
罰金及び科料並びに過料も,同項1号により損金の額に算入されない。
会計上費用として計上した場合には,法人税の申告で加算する調整が必要となる。
3 個人事業者の場合(必要経費不算入)
所得税法45条1項10号は,居住者が納付する独占禁止法の規定による課徴金及び延滞金の額は,不動産所得,事業所得,山林所得又は雑所得の金額の計算上,必要経費に算入しないと定めている。
罰金及び科料並びに過料も,同項7号により必要経費に算入されない。
4 損害賠償金との区別
カルテルの被害者に支払う損害賠償金は,課徴金とは別に考える。
法人税法55条の損金不算入の列挙には,損害賠償金は掲げられていない。
個人事業者については,所得税法45条1項8号と所得税法施行令98条2項により,業務に関連して故意又は重大な過失によって他人の権利を侵害したことにより支払う損害賠償金は,必要経費に算入されない。
したがって,税理士は,課徴金と損害賠償金を区別して処理するとともに,個人事業者の損害賠償金については,違反行為への関与の態様(故意又は重大な過失の有無)を確認する必要がある。
第7 団体の会合や文書を点検するときの確認事項
弁護士が事業者団体や資格者団体の相談を受けるとき,又は税理士が会員の申告に関与するときは,次の点を確認しておくとよい。
①会合の議題や配布資料に,会員の価格,料金,報酬,割増率,値上げ時期,顧客,地域又は数量の具体的な数値や方針が含まれていないか。
②委員会,幹事会,部会等の申合せが,慣行上団体の決定として扱われ,会員が従う運用になっていないか。
③統計や情報提供が,過去の実績を任意に集め,個社を特定せず,需要者も含めて公表する形になっているか。
④自主基準の遵守が任意とされ,基準自体の例外が尊重され,需要者や第三者の意見が聴かれているか。
⑤価格等の話題が出たときに異議を述べ,退席し,議事録に残す手順があるか。
⑥課徴金や損害賠償金が生じたときに,その性質ごとに損金・必要経費の扱いを区別しているか。
⑦判断に迷うときに,公正取引委員会の事前相談を利用できるよう,活動の内容を文書にまとめているか。
第8 関連記事
①令和7年度司法試験経済法第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した25項目と5段階の重み付け(AI作成)
②弁護士自治-資格・登録・強制加入・懲戒・司法審査(AIリライト)
③AI安全のための競合企業間協調と独占禁止法-共同研究・情報共有・標準化・認証・開発速度制限の境界(AI作成)
④共同購入・購入価格カルテルと独占禁止法―購入市場、川下市場、共通費用及び一方向の情報提供(AI作成)
⑤不公正な取引方法に関する実務メモ(AIリライト)
⑥リニア中央新幹線談合事件と競争の実質的制限-最高裁令和8年9月14日決定・渡邉惠理子裁判官補足意見(AI作成)
第9 出典
1 法令
①私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(e-Gov法令検索)
②法人税法(e-Gov法令検索)
③所得税法(e-Gov法令検索)
④所得税法施行令(e-Gov法令検索)
2 公正取引委員会の資料
①公正取引委員会「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」
②公正取引委員会「資格者団体の活動に関する独占禁止法上の考え方」
③公正取引委員会「独占禁止法に関する相談事例集(平成27年度)」事例12「協同組合による標準価格等の決定」
④公正取引委員会「独占禁止法に関する相談事例集(平成28年度)」事例11「組合による組合員の販売先の制限」
3 確認状態
独占禁止法,法人税法,所得税法及び所得税法施行令の条文は,令和8年10月10日にe-Gov法令検索の現行条文で確認した。
事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針は,令和8年1月1日改正後の版を,資格者団体の活動に関する独占禁止法上の考え方は,平成22年1月1日改正後の版を,いずれも公正取引委員会のウェブサイトで確認した。
相談事例2件は,公正取引委員会のウェブサイトで全文を確認した。
いずれの相談事例も,独占禁止法22条の要件を備えた組合の事案であるが,組合員がそれぞれ行う販売について価格や販売先を定めるものであって,組合の共同経済事業ではないとして,独占禁止法の適用を前提に回答されている。