目次
1 総論
2 弁護士自治の具体的内容
3 弁護士会の強制加入制
4 単位弁護士会の自治に関する批判的意見
5 独占禁止法45条に基づく申告の対象となること
6 関連記事その他
1 総論
公認会計士の場合は金融庁が,行政書士の場合は総務省が,公証人,司法書士及び土地家屋調査士の場合は法務省が,税理士の場合は国税庁が,社会保険労務士の場合は厚生労働省が,弁理士の場合は特許庁が監督官庁となります。
しかし,弁護士の場合は監督官庁がないのであって,これを弁護士自治といいます。
2 弁護士自治の具体的内容
弁護士自治の具体的内容は以下の三つに要約されます(第二東京弁護士会HPの「弁護士会について」参照)。
① 弁護士資格の付与及び登録を弁護士会が行うこと
・ 弁護士資格の付与は原則として司法試験及び司法修習を経た人に限られています(弁護士法4条参照)から,弁護士会が弁護士資格の付与をしているわけではありません。
・ 弁護士の登録については,弁護士法8条以下で定められています(「弁護士登録制度」参照)。
② 弁護士に対する監督及び懲戒を弁護士会が行うこと
・ 弁護士の監督につき弁護士法31条1項で定められています。
・ 弁護士の懲戒につき弁護士法56条以下で定められています(「弁護士の懲戒」参照)。
③ 弁護士会が強制加入団体であること
・ 弁護士会に登録しない弁護士の存在を認めないということです(弁護士法36条参照)。
「弁護士会の活動に対して若手は不満を持っているのか」みたいな取材を受けたので「弁護士会の活動に不満を言っているのは若手というよりは主に中堅層だし、そもそも弁護士のマジョリティは弁護士会の活動そのものに興味がない。ノイジーマイノリティが目立つだけで」というような話をしていた。
— 教皇ノースライム (@noooooooorth) November 12, 2022
3 弁護士会の強制加入制
(1) 弁護士会の強制加入制は,弁護士法が,弁護士の職務の公共性からその適正な運用を確保するという公共の福祉の要請にもとずき,弁護士に対して弁護士会と日本弁護士連合会への二重の強制加入制を採用しその監督を通じて弁護士自治の徹底を期し,その職務の独立性を確保することとしたものであって,憲法22条1項の保障する職業選択の自由も無制限のものではなく,右のような公共の福祉に制約されるものであるから,弁護士会の強制加入制が憲法22条に違反しません(東京高裁平成元年4月27日判決(判例秘書))。
(2) 東京高裁平成元年4月27日判決の結論は,最高裁平成4年7月9日判決によって支持されました。
「弁護士会が任意加入団体になったら弁護士会には所属しないなんてけしからん」みたいな論調。
・弁護士会費が高額(月額5万円〜)
・高齢会員には弁護士会費を免除し、若手からは徴収
・懲戒基準がブラックボックスそりゃあ弁護士会に不信感を持つだろ。
— やつはし (@yatsuhashidayo) November 1, 2022
4 単位弁護士会の自治に関する批判的意見
・ 《講演録》最高裁生活を振り返って(講演者は前最高裁判所判事・弁護士の田原睦夫)には以下の記載があります(金融法務事情1978号31頁及び32頁)。
日弁連は単位会自治がありますが、私は弁護士のときから、単位会自治なんか過去の遺物ではないかと思っていますし、それが、日弁連の統一的、かつ、速やかな意思決定の弊害となっていることは、いったん日弁連の外に出て見てみますと明らかです。
6年間、直接執行部&すべての部署とやり取りしていたので、SNSでは絶対に書けない弁護士会の闇にも触れることがあったんですが、あの闇を一掃するのはマジで難しいと思いますね。大企業の経営改革の方がはるかに楽です。
— 井垣孝之 (@igaki) April 2, 2021
5 独占禁止法45条に基づく申告の対象となること
(1) 日弁連及び単位弁護士会は独占禁止法における事業者団体に該当しますところ,公正取引委員会HPに「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成7年10月30日付)が載っています。
(2)ア 独占禁止法45条は以下のとおりです。
① 何人も、この法律の規定に違反する事実があると思料するときは、公正取引委員会に対し、その事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めることができる。
② 前項に規定する報告があつたときは、公正取引委員会は、事件について必要な調査をしなければならない。
③ 第一項の規定による報告が、公正取引委員会規則で定めるところにより、書面で具体的な事実を摘示してされた場合において、当該報告に係る事件について、適当な措置をとり、又は措置をとらないこととしたときは、公正取引委員会は、速やかに、その旨を当該報告をした者に通知しなければならない。
④ 公正取引委員会は、この法律の規定に違反する事実又は独占的状態に該当する事実があると思料するときは、職権をもつて適当な措置をとることができる。
イ 公正取引委員会HPの「申告」には,「独占禁止法に違反する事実があると思うときは、だれでも、公正取引委員会にその事実を報告し、適当な措置を採るよう求めることができます。これは、違反行為の被害者でも一般消費者でも、違反行為を発見した人であればだれでもよいのです。」と書いてあります。
6 関連記事その他
(1) 衆議院HPに「制定時の弁護士法」が,外部HPの「弁護士法の改正」に,弁護士法の改正法に関する新旧対照表等が全部,載っています。
(2) 税理士会が政党など政治資金規正法上の政治団体に金員を寄付することは、税理士会の目的の範囲外の行為であって,政党など政治資金規正法上の政治団体に金員の寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の税理士会の総会決議は無効であります(南九州税理士会事件に関する最高裁平成8年3月13日判決)ところ,このことは税理士会と同様に強制加入団体である弁護士会についても妥当すると思います。
(3) 以下の記事も参照してください。
・ 日弁連の会長及び副会長
・ 日弁連の歴代正副会長(昭和57年度以降)
・ 日弁連の歴代副会長の担当会務
・ 日弁連の歴代会長及び事務総長
・ 日弁連の理事会及び常務理事会
・ 日弁連理事
・ 弁護士会副会長経験者に対する懲戒請求事件について,日弁連懲戒委員会に定型文で棄却された体験談(私が情報公開請求を開始した経緯も記載しています。)
・ 日弁連役員に関する記事の一覧
「弁護士自治を放棄しようとする弁護士がいて、クラクラする」みたいなことをいう人がいるけど、「懲戒基準が明確になるなら、法務省の監督に服しても良い」と考える弁護士が出てきた原因について考えていただきたい。
とんでも懲戒を連発している弁護士会に全く非がないとはいえないと思うぞ。— やつはし (@yatsuhashidayo) November 2, 2022