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災害で自家用車や家財が損害を受けたときの所得税―雑損控除,「生活に通常必要でない資産」及び災害減免法の選択(AI作成)

第1 この記事の要点

豪雨,地震,火災等の災害で,自家用車,家財,住宅等が損害を受けたときは,所得税の確定申告で損失を考慮できる場合がある。
ただし,損害を受けた資産が「生活に通常必要でない資産」(所得税法62条1項,所得税法施行令178条1項)に当たるか否かで,使える制度が根本的に異なる。

当たらない資産(生活に通常必要な資産)の損失は,雑損控除(所得税法72条)として総所得金額等から控除でき,控除しきれない部分は翌年以後に繰り越すことができる。
これに対し,生活に通常必要でない資産(別荘,ゴルフ会員権,1個又は1組の価額が30万円を超える貴金属・書画・骨とう等)の損失は,雑損控除の対象から除かれ,損失を受けた年分又はその翌年分の譲渡所得の金額の計算上控除すべき金額とみなされるにとどまる(所得税法62条1項)。
給与所得しかない人が生活に通常必要でない資産の損失を受けても,譲渡所得がなければ,税額は減らない。

住宅や家財に大きな損害を受けたときは,雑損控除に代えて,災害被害者に対する租税の減免,徴収猶予等に関する法律(以下「災害減免法」という。)による所得税の軽減免除を選ぶこともできる。
自家用車は,使用の目的や状況によって「生活に通常必要」かどうかが分かれる資産であり,令和7年司法試験の租税法第1問でも,この判断が正面から問われた。

本記事は,令和8年10月10日時点の法令と国税庁の公表資料に基づいている。
税額の計算は個別の事情で大きく変わるので,実際の申告では,損害額の資料をそろえた上で,雑損控除と災害減免法の両方を試算して比べる必要がある。

第2 雑損控除の要件と控除額

1 対象となる資産と所有者

雑損控除の対象は,納税者本人のほか,納税者と生計を一にする配偶者その他の親族で,その年分の総所得金額等が一定額以下の人が所有する資産である(所得税法72条1項,所得税法施行令205条)。
この一定額は,令和7年分は58万円以下であり,令和8年分は62万円以下とされている(国税庁タックスアンサーNo.1110)。

対象から除かれるのは,生活に通常必要でない資産(所得税法62条1項)と,棚卸資産や事業用固定資産等の被災事業用資産(同法70条3項)である(同法72条1項括弧書き)。
事業用の資産の損失は,雑損控除ではなく,事業所得等の必要経費の問題になる(同法51条)。

2 損害の原因

雑損控除の対象となる損害の原因は,災害,盗難及び横領に限られる(所得税法72条1項)。
「災害」は,震災,風水害,火災その他政令で定める災害であり(同法2条1項27号),政令は,冷害,雪害,干害,落雷,噴火その他の自然現象の異変による災害,鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害,害虫,害獣その他の生物による異常な災害を定めている(所得税法施行令9条)。

国税庁は,詐欺や恐喝による損失は雑損控除の対象にならないと説明している(国税庁タックスアンサーNo.1110)。
また,自家用車同士の衝突のような通常の交通事故による損傷は,上記の自然現象の異変や人為による異常な災害には当たりにくく,相手方への損害賠償請求や車両保険で回復を図るのが基本になる。

3 控除額の計算

雑損控除の額は,次の①と②のいずれか多い方の金額である(所得税法72条1項各号,国税庁タックスアンサーNo.1110)。
①(損害金額+災害等関連支出の金額-保険金等の額)-総所得金額等×10%
②(災害関連支出の金額-保険金等の額)-5万円

損害金額は,損害を受けた時の直前におけるその資産の価額(時価)を基礎として計算する(所得税法施行令206条3項)。
自家用車のように使用や期間の経過により減価する資産は,取得価額から非業務用資産として計算した減価償却費累積額相当額を控除した金額を基礎として計算することもできる(同項1号)。

災害等関連支出には,災害により滅失・損壊した資産の取壊し又は除去のための支出(廃車の費用等),土砂等の障害物の除去のための支出,原状回復のための支出等が含まれる(所得税法施行令206条1項)。
保険金,損害賠償金等で補塡される部分は,損失の金額から除かれる(所得税法72条1項)。

国税庁は,住宅の主要構造部に損壊があり,個々の資産の損失額を計算することが困難な場合には,住宅,家財及び車両の損失額を,取得価額から減価償却費を控除した金額に被害割合を乗じる等の「損失額の合理的な計算方法」で計算して差し支えないとしている(国税庁「雑損控除の適用における「損失額の合理的な計算方法」」)。

4 他の所得控除との順序と繰越し

雑損控除は,医療費控除,社会保険料控除,基礎控除等の他の所得控除に先立って行う(所得税法87条1項)。
その年の所得から控除しきれない雑損失の金額は,確定申告書を提出し,その後も連続して確定申告書を提出することを条件に,翌年以後3年間繰り越して控除できる(同法71条)。
特定非常災害により生じた損失については,繰越期間が5年間となる(同法71条の2。国税庁タックスアンサーNo.1110は,東日本大震災又は令和5年4月1日以後に発生する特定非常災害による損失額としている。)。

第3 「生活に通常必要でない資産」との分かれ目

1 生活に通常必要でない資産に当たるときの扱い

生活に通常必要でない資産の災害等による損失は,その損失を受けた年分又はその翌年分の譲渡所得の金額の計算上控除すべき金額とみなされる(所得税法62条1項)。
控除は,まず損失の年分の短期譲渡所得,次に長期譲渡所得,次に翌年分の譲渡所得の順に行う(所得税法施行令178条2項)。
損失額は,損失の生じた日に譲渡があったものとみなした場合の取得費相当額を基礎とする(同条3項)。

この損失は,給与所得等の他の所得と損益通算することはできず(所得税法69条2項),雑損控除の対象からも除かれている(同法72条1項括弧書き)。
したがって,譲渡所得がない年分では,損失を受けても課税総所得金額は減らない。

2 施行令178条1項の読み方

所得税法62条1項は,生活に通常必要でない資産を「政令で定めるもの」としており,その内容は所得税法施行令178条1項が定めている。

①競走馬その他射こう的行為の手段となる動産(1号)
②通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味,娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味,娯楽,保養又は鑑賞の目的で所有する資産(2号。前号又は次号に掲げる動産を除く。)
③生活の用に供する動産で所得税法施行令25条の規定に該当しないもの(3号)

施行令25条は,「生活に通常必要な動産」のうち,1個又は1組の価額が30万円を超える貴金属・書画・骨とう等以外のものを掲げている。
そのため,生活の用に供する動産が3号に当たるかは,結局,それが「生活に通常必要な動産」に当たるか,又は30万円を超える貴金属等に当たるかによって決まる。
2号は3号の動産を除いているので,生活の用に供する動産については,まず3号(施行令25条)を検討することになる。

3 自家用車はどう判断されるか

国税庁は,車両は生活に通常必要な資産と認められる場合に雑損控除の対象となり,生活に通常必要かどうかは,自己又は生計を一にする親族が専ら通勤に使用しているなど,車両の保有目的,使用状況等を総合勘案して判断すると説明している(国税庁「雑損控除の適用における「損失額の合理的な計算方法」」)。

自家用車の譲渡損失について,大阪高等裁判所昭和63年9月27日判決(昭和61年(行コ)第46号,高民集41巻3号117頁)は,レジャーへの使用は生活に通常必要とはいえず,勤務先から通勤定期券代が支給されていた区間の通勤への使用も本来必要ではなかったとして,生活に通常必要な使用はわずかな割合にとどまるから,その自動車は生活に通常必要でない資産(所得税法施行令178条1項3号)に当たると判断した。
最高裁判所第二小法廷平成2年3月23日判決(昭和63年(行ツ)第192号,集民159号339頁)は,この原審の判断を正当として是認した。

もっとも,同判決は,廃車をスクラップとして譲渡したことによる譲渡損失の事案であり,災害による損失の事案ではない。
令和7年司法試験の租税法第1問は,豪雨で水没した自家用の軽自動車について,趣味の旅行・ドライブ,子どもの送迎,週末の買い出し及び週1,2回の通勤に使っていた事案で,「生活に通常必要でない資産」に当たるか否かによる違いと自説を問い,出題の趣旨は,いずれの結論もあり得るとして,説得的な論証を重視している。

実務では,次の事実を資料で押さえることになる。
①使用の目的と頻度(通勤,家族の送迎,買い物,通院,レジャー等の比重)
②居住地の公共交通機関の状況と,通勤手当の支給の有無
③車種,取得価額及び取得時期(ぜいたく品といえるか,損失額の計算の基礎)
④車両保険,共済等による補塡の有無と金額
⑤廃車・レッカー等の費用の領収書(災害関連支出)

第4 災害減免法との選択

災害により住宅又は家財について甚大な被害を受けた人は,雑損控除の適用を受けないことを条件に,災害減免法による所得税の軽減免除を受けることができる(災害減免法2条)。
要件は,住宅又は家財の損害金額(保険金等で補塡された金額を除く。)がその価額の10分の5以上であり,被害を受けた年分の合計所得金額が1,000万円以下であることである(同法2条,同法施行令1条)。

軽減免除の額は,合計所得金額が500万円以下であれば所得税の額の全部,750万円以下であれば10分の5,750万円を超えるときは10分の2.5である(災害減免法2条)。

国税庁は,「住宅」を自己又は扶養親族が常時起居する家屋とし,常時起居しない別荘のようなものは含まないとし,「家財」を日常生活に通常必要な家具,じゅう器,衣服,書籍その他の家庭用動産とし,書画,骨とう,娯楽品等で生活に必要な程度を超えるものは含まないとしている(国税庁タックスアンサーNo.1902)。
自家用車が災害減免法の「家財」に含まれるかについて,同タックスアンサーは明記していないので,自家用車の損害が中心の事案では,個別に確認する必要がある。

雑損控除と災害減免法は,納税者がいずれか有利な方を選ぶことができる。
国税庁は,確定申告書で雑損控除を選択していても,修正申告書又は更正の請求書を提出する際に災害減免法の適用に切り替えることができるとしている(国税庁タックスアンサーNo.1902)。
一般に,損害額が大きく翌年以後への繰越しが見込まれる場合は雑損控除が,所得金額が低く損害額がそれほど大きくない場合は災害減免法が有利になりやすいが,結論は試算しなければ分からない。

第5 弁護士・税理士の実務での確認手順

災害の相談では,損害賠償や保険金の請求と並行して,所得税の扱いを次の順で確認する。

①損害を受けた資産ごとに,事業用か,生活に通常必要な資産か,生活に通常必要でない資産かを分ける。
②損害の原因が,災害,盗難又は横領に当たるかを確認する(詐欺や通常の交通事故は対象外になりやすい)。
③保険金,共済金,損害賠償金等で補塡される金額を確定する。
④損害金額を,直前の時価又は取得価額から減価償却費累積額相当額を控除した金額を基礎として計算し,資料を保存する。
⑤災害関連支出の領収書をそろえる。
⑥雑損控除と災害減免法の両方を試算し,有利な方を選ぶ。
⑦雑損控除で控除しきれない場合は,翌年以後も連続して確定申告書を提出する必要があることを依頼者に伝える。

給与所得者や公的年金等の受給者は,一定の手続により,災害を受けた年の源泉所得税の徴収猶予や還付を受けられる場合がある(国税庁タックスアンサーNo.1902が案内するコード8003)。
年末調整で手続が完結しないため,確定申告が必要になる点も依頼者に説明しておく必要がある。

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第7 出典

①所得税法2条1項27号,62条,69条2項,70条3項,71条,71条の2,72条,87条(e-Gov法令検索)
②所得税法施行令9条,25条,178条,205条,206条(e-Gov法令検索)
③災害被害者に対する租税の減免,徴収猶予等に関する法律2条(e-Gov法令検索),同法施行令1条(e-Gov法令検索)
④国税庁タックスアンサーNo.1110「災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)」
⑤国税庁タックスアンサーNo.1902「災害減免法による所得税の軽減免除」
⑥国税庁「Ⅲ‐2 雑損控除の適用における「損失額の合理的な計算方法」」
⑦大阪高等裁判所昭和63年9月27日判決(昭和61年(行コ)第46号,高民集41巻3号117頁)
⑧最高裁判所第二小法廷平成2年3月23日判決(昭和63年(行ツ)第192号,集民159号339頁)
⑨令和7年司法試験論文式試験出題の趣旨(租税法第1問は27頁)

条文は令和8年10月10日にe-Gov法令APIで現行版(所得税法は令和8年10月1日施行版,所得税法施行令は令和8年5月22日施行版)を確認した。
雑損控除の対象となる親族の所得要件のうち令和8年分の62万円は,国税庁タックスアンサーNo.1110の記載(令和8年12月1日施行,令和8年分から適用)によるものであり,e-Gov法令APIの現行版にはまだ反映されていない(同日時点の施行令205条は58万円)。