メインコンテンツへスキップ
       

交通事故でバイクが関係する場合―過失割合,すり抜け,転倒及び証拠の整理(AI作成)

第1 結論とこの記事の対象

バイクが関係する交通事故では,四輪車同士の事故と同じ順序で過失割合だけを先に決めると,事故態様又は損害の評価を誤りやすい。最初に,接触事故か非接触事故か,バイクが直進・右左折・車線変更・追越しのどの動作中であったか,運転者と同乗者のどちらが何を認識したかを固定する必要がある。次に,事故類型に近い現行の基準を参照し,映像,痕跡,車体損傷及び供述との整合を確かめる。

いわゆる「すり抜け」は,道路交通法上の一つの行為類型ではない。先行車の左側又は右側を通ったのか,車線内か車線外か,交差点の手前か,車列が停止中か進行中か,進路変更を伴ったかなどに分解しなければならない。「バイクだから一律に過失を加算する」「接触していないから責任はない」という処理も適切ではない。

本記事は,バイク事故を検討する共通の入口として,過失割合,すり抜け,非接触転倒,速度,運転者の特定,ヘルメット及び証拠保全を整理する。個別の基本の過失相殺率は,事故時点の現行資料と具体的な道路状況を確認して判断する必要がある。

第2 バイク事故で最初に分ける事項

1 接触事故と非接触事故

接触事故では,接触部位,接触角度,双方の進行方向及び接触後の移動を確認する。バイクには,四輪車との接触痕のほか,転倒後に路面を滑走した痕跡が残ることがある。どの傷が最初の接触で生じ,どの傷が路面との二次接触で生じたかを分けなければ,衝突位置又は進行方向を誤って推定するおそれがある。

非接触事故では,四輪車等の動作がバイクの急制動又は回避を必要とさせたか,回避方法が切迫した状況に照らして相当であったか,その回避と転倒・負傷との間に因果関係があるかを順に検討する。接触の有無は重要な事実であるが,それだけで責任の有無は決まらない。

2 人身損害と物損

バイク事故では,運転者又は同乗者の傷害と,車体,ヘルメット,プロテクター,着衣,通信機器等の物損が同時に生じやすい。事故態様の証拠として必要な物品を,損害額の確認前に修理又は廃棄しないことが重要である。

物損については,バイク本体の修理費・時価額と,後付け部品・装備品の損害を分けて資料化する。バイク事故の物損で,修理費,時価額,カスタム部品,ヘルメット及び装備品の整理方法を説明する。

3 運転者と同乗者

所有者,保険契約者又は鍵を所持していた者が,当然に事故時の運転者となるわけではない。運転者と同乗者の位置関係,負傷部位,ヘルメット・着衣の損傷,現場での説明,目撃者,映像及び車両操作の痕跡を照合する必要がある。

誰が運転していたかに争いがある場合,事故後の説明だけに依存せず,救急・医療記録に記載された受傷機転,警察への最初の申告,ヘルメット及び衣類の対応関係を早期に保全する。

第3 過失割合を検討する順序

1 現行の基準と事故時点を確認する

交通事故の過失相殺率については,事故類型ごとの実務上の目安が用いられる。ただし,基準は法令そのものではなく,事故類型の前提条件が具体的事故と一致するかを確認する必要がある。

令和8年3月30日に発売された別冊判例タイムズ39号全訂6版は,単車と四輪車の事故を第4章で扱う。令和5年刊行の『自動二輪車交通事故訴訟の実務』は,バイクの構造,事故解析及び訴訟実務を具体的に説明する有用な二次資料であるが,過失割合の数値は刊行時の資料を前提としている。現在の事故については,全訂6版その他の事故時点の資料で数値を再確認しなければならない。

2 まず事故類型を選ぶ

直進車同士,右折車と直進バイク,左折車と直進バイク,車線変更車と後続バイク,追越し,追抜き,交差点での出合い頭など,どの類型に近いかを決める。道路の幅員,信号,優先関係,停止線,車線境界線及び双方の進行方向が,図の前提と一致するかを確かめる。

類似する図が複数ある場合又はどの図にも一致しない場合,名称だけで一つに固定しない。各図が当然の前提とする注意義務を確認し,映像・現場図・車両痕跡に最も整合する基準を参照する。

3 修正要素と二重評価を避ける

速度超過,合図の有無,著しい前方不注視,見通し,夜間,通行区分その他の事情が修正要素となる場合でも,基本の割合に既に織り込まれた事情を重ねて評価してはならない。具体的事情が事故発生又は損害拡大にどのように関係したかを説明する必要がある。

過失割合の基準(別冊判例タイムズ39号)の当てはめ方では,図の選択,表の「*」,二重評価及び中間の割合を別に整理している。

第4 すり抜けを一つの言葉で処理しない

1 確認する事実

いわゆるすり抜け事故では,少なくとも次の事項を確認する。

①バイクが車列の左側・右側・車両間のどこを通行したか。
②同一車線内か,車線境界線を越えたか,道路外側帯等へ入ったか。
③四輪車が停止中・発進中・進行中のいずれであったか。
④交差点,横断歩道,停止線又は道路外施設の出入口との位置関係。
⑤四輪車の合図開始,減速開始及び進路変更開始の時点。
⑥バイクの速度,側方間隔及び危険を認識してからの回避可能性。

「すり抜けをしていた」という供述だけでは,道路交通法上のどの義務に関係するかも,過失割合への影響も確定しない。現場図と時系列へ置き換えることが重要である。

2 道路交通法上の論点

通行区分,車両通行帯,追越し,追越し禁止,右左折方法及び安全運転義務は別々の規定である。先行車の横を通ったという外形だけで違反を決めず,走行位置,標示,交差点との距離,先行車の動作及び進路変更の有無を各規定に当てはめる。

事故の民事上の過失は,交通違反の有無だけで決まるものでもない。違反又は不適切な走行が,具体的な衝突の危険をどの程度高めたかを検討する。

第5 非接触の急制動・転倒

1 因果関係を先に検討する

非接触事故では,相手車両の動作と転倒との相当因果関係が争点になりやすい。相手車両の接近位置,側方間隔,速度差,バイクが危険を認識した地点,制動・操舵の開始地点及び転倒地点を一枚の図面にまとめる。

客観的な接触危険があった場合には,危険回避のための急制動又は進路変更が必要であったかを検討する。客観的危険が乏しい場合でも,運転者が危険を誤認した経緯と,その誤認が通常生じ得る状況であったかを区別して検討する。

2 過剰回避と損害拡大

回避方法に改善の余地があったとしても,切迫した短時間の判断を,事故後の結果だけから評価しない。危険の程度,反応時間,路面状況,タイヤ・ブレーキの状態及びバイクの挙動を確認する。

非接触事故の一般的な検討順序は,非接触交通事故の因果関係と過失割合で詳しく説明している。

第6 速度と事故解析

1 一つの痕跡だけで速度を断定しない

バイクの速度は,映像,走行距離と時間,制動痕,擦過痕,車体・相手車両の変形,衝突後の移動及び供述を総合して検討する。四輪車用の簡易な計算式を,バイクの転倒滑走又は複雑な接触にそのまま当てはめると誤差が大きくなることがある。

擦過痕の長さは重要な資料になり得るが,転倒前の制動,転倒時の運動,車体と路面との摩擦及び衝突後の挙動が連続している。どの区間がどの運動に対応するかを特定せず,痕跡の長さだけから事故直前速度を断定しない。

2 必要な資料

元の動画ファイル,撮影機器のフレームレート,固定物間の実測距離,現場の勾配・路面状態,タイヤ及びブレーキの状態,車体寸法,損傷写真及び実況見分調書を揃える。解析を依頼するときは,採用した仮定,計算過程及び誤差範囲が示されているかを確認する。

第7 ヘルメット・装備品と損害

1 ヘルメット不着用を事故原因と混同しない

道路交通法は,大型自動二輪車,普通自動二輪車及び原動機付自転車の運転者に乗車用ヘルメットの着用義務を定めている。もっとも,ヘルメット不着用又は不適切な装着は,衝突そのものの原因と,頭部損傷の発生・拡大への影響とを分けて検討する必要がある。

具体的な減額を論じるには,受傷部位,ヘルメットの規格・装着状態,損傷状況及び医学的因果関係が重要である。不着用という事実だけから,一律の割合を導くことはできない。

2 現物を保存する

ヘルメット,プロテクター,手袋,靴及び着衣は,受傷機転と物損の双方の証拠となる。全体像,損傷部位,メーカー・型番・サイズ・製造表示を撮影し,血液等が付着している場合は衛生面にも配慮して保管方法を確認する。相手方調査の機会を確保する前に廃棄しない。

第8 事故直後の証拠保全

1 現場と映像

安全を確保した上で,停止位置,破片・液体・擦過痕,信号,標識,車線,見通し及び道路幅を広く撮影する。ドライブレコーダー,アクションカメラ,防犯カメラ及び目撃者の映像は,上書き又は消去の前に元データを保存する。SNS又はメッセージアプリへ転送したファイルだけでなく,元ファイルも保持する。

2 バイクと装備品

車体全体を前後左右・斜めから撮影した上で,接触痕,擦過痕,フロントフォーク,ハンドル,ホイール,ブレーキ,タイヤ,ステップ,マフラー,カウル及びフレーム周辺を撮影する。修理工場で分解後に見つかった損傷は,部品を処分する前に工程写真を残す。

3 警察・医療・保険資料

警察の受理番号,相手方・車両・保険の情報,救急搬送記録,初診時の受傷機転,診断書,領収書及び通院経過を整理する。供述調書又は実況見分で説明するときは,見た事実,聞いた事実及び推測を分ける。

交通事故直後の初動チェックリスト及び交通事故捜査の流れと証拠も参照されたい。

第9 相談時に整理する一覧

相談時には,①事故日時・場所,②道路図,③双方の進行方向,④接触の有無と接触部位,⑤バイクの走行位置・速度,⑥相手車両の合図・減速・進路変更,⑦映像と目撃者,⑧警察資料,⑨受傷・治療,⑩車体・装備品の損害,⑪保険契約を時系列で整理する。

過失割合の提示を受けた場合は,使用した基準の版,図番号,基本の割合,修正要素及び各事実の根拠を確認する。数値だけでなく,どの事実が争われているかを切り分けることが重要である。

第10 出典及び確認範囲

1 法令・公的資料

①e-Gov法令検索「道路交通法」17条,18条,20条,28条,30条,34条,70条及び71条の4。
②e-Gov法令検索「民法」709条及び722条2項。
③警視庁「二輪車の交通事故発生状況」。
④交通事故総合分析センター「二輪車の交通事故統計(令和7年)」。

2 実務資料

①小原一恵・牧野隆『自動二輪車交通事故訴訟の実務』(新日本法規出版,令和5年)3頁~40頁,45頁~90頁,93頁~124頁,127頁~138頁及び141頁~228頁。バイクの構造・運動特性,法令,事故解析,損害及び事故類型別の実務上の着眼点を参照した。
②菊池憲久・堂薗幹一郎・伊東智和編『民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂6版〕』(別冊判例タイムズ39号,判例タイムズ社,令和8年)。刊行情報は判例タイムズ社の書籍案内で確認した。

本記事は,事故類型ごとの具体的な基本の過失相殺率を転載するものではない。個別事件では,事故時点の現行資料,証拠及び裁判例を確認する必要がある。