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相続事件の弁護士費用と税務―遺産分割,相続登記,共同売却及び金銭回収の費用区分(AI作成)

第1 弁護士費用は,何の税金で何のための費用かを分ける

相続事件の弁護士費用については,「相続で支払った費用だから遺産から差し引ける」「不動産を取得したから取得費になる」「売却代金から払ったから譲渡費用になる」とは一律にいえない。
相続税の債務控除,譲渡所得の取得費・譲渡費用,不動産所得等の必要経費は,それぞれ要件が異なる。

また,委任契約で成功報酬を計算するための「経済的利益」と,税務上の取得費や課税価格は別の概念である。
報酬が取得財産の総額又は回収額の一定割合で計算される場合でも,その計算式だけで税務上の費用区分は決まらない。

本記事は,個人の通常の相続と,相続した土地・建物の売却を中心に整理する。限定承認,法人,非居住者及び国外財産には,別の検討が必要である。
法令・国税庁資料の確認日は令和8年10月7日である。国税庁の説明に加え,契約書や請求明細を整える実務上の提案を示す。

費用の内容検討する税務区分最初に確認する点
相続開始後に相続人が依頼した遺産分割の弁護士費用相続税の債務控除・将来の譲渡所得被相続人の死亡時の債務とは異なる。遺産分割の訴訟費用等は土地の取得費にならない。
非業務用不動産の相続登記に要する費用譲渡所得の取得費当該不動産に対応する通常必要な費用か。概算取得費5%を用いる場合は別扱いとなる。
相続不動産の売却のために直接必要な費用譲渡所得の譲渡費用売却のための業務と,遺産分割・維持管理・代金回収の業務を区別する。
売却後の代金回収の弁護士費用譲渡費用との区別代金回収費用は,国税庁の質疑応答では譲渡費用に含まれない。
賃貸業務に関する紛争の弁護士費用不動産所得等の必要経費業務との関係,資産取得・譲渡に関する費用との区別,私的な相続紛争との混在を確認する。

各行の根拠と例外は以下のとおりである。表だけで費用の全額を申告書へ転記しないことが重要である。

第2 相続税の債務控除―死亡時の債務と相続人の費用は異なる

1 被相続人の債務が対象となる

相続税法13条1項1号は,控除対象を「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)」と定め,同法14条1項は,控除する債務を確実と認められるものに限る。
国税庁「No.4126 相続財産から控除できる債務」も,死亡時に現に存在する被相続人の借入金・未払金等を説明している。

相続開始後に相続人が遺産分割のため弁護士へ依頼して負担した報酬は,そのことだけで被相続人の死亡時の債務にはならない。
相続人全員で費用を負担したこと,遺産口座から支払ったこと又は協議書で「遺産から控除する」と合意したことだけでも,税法上の債務控除の要件を満たすわけではない。

2 死亡前の依頼による未払報酬は事実を確認する

被相続人自身が死亡前に弁護士へ依頼し,死亡時に未払報酬がある場合は,死亡後の相続人による依頼と区別する。
契約,業務の履行,報酬の発生条件,死亡時の債務の存在・確実性及び誰が負担する部分かを確認する必要がある。
「請求書の発行が死亡後である」という一事だけで結論を決めず,死亡時点の法律関係を調べる。

葬式費用には別の控除の制度があるが,遺産分割の弁護士費用が葬式費用に変わるものではない。

第3 取得費―相続登記の費用と遺産分割の費用を分ける

1 原則として被相続人の取得費を引き継ぐ

所得税法60条1項は,通常の相続等で取得した資産について,譲渡所得の計算上,前所有者から引き続き所有していたものとみなす。
相続した土地・建物を売却するときの取得費は,原則として被相続人の取得費を引き継ぐのであり,相続税評価額をそのまま購入代金のように扱うものではない。
建物では減価償却相当額の調整も必要となる(国税庁「No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」)。

売買契約書,建築請負契約書,領収書,改良費の資料及び過去の申告資料は,遺産分割の価格交渉とは別の目的でも保存しておく必要がある。

2 非業務用不動産の相続登記費用

国税庁No.3270は,相続等で取得した土地・建物について,相続人が支払った登記費用等を取得費へ算入できることを説明している。ただし,業務用資産について必要経費に算入される費用との区別がある。
所得税基本通達60-2は,相続等による取得のため通常必要と認められる費用のうち,当該資産に対応する金額について定める。

したがって,非業務用不動産の登録免許税,登記に要する専門家報酬等は,対象資産と費用の内容を確認して検討する。
相続事件全体の一括報酬の中に登記関係業務が含まれている場合,一括報酬の全額を相続登記費用と扱うことはできない。

取得費が不明である場合等に売却金額の5%を概算取得費とする方法を用いるときは,No.3270の説明上,この登記費用等を5%の金額へさらに加算することはできない。
実額の取得費と概算取得費のどちらで計算するかも含めて確認する。

3 遺産分割の訴訟費用等は土地の取得費にならない

国税庁「No.3252 取得費となるもの」は,相続財産である土地を遺産分割するためにかかった訴訟費用等は,取得費にならないと明示している。
土地を最終的に取得するために必要だったという説明だけで,遺産分割の弁護士費用を土地の取得費へ含めてはならない。

他方,所得税基本通達38-2は,取得に関し争いのある資産の所有権等を確保するために直接要した訴訟費用・和解費用等を扱う。
この通達を,通常の遺産分割費用まで一律に取得費へ算入できる根拠とするのは適切でない。何を取得し,誰とのどの紛争を解決するための費用かを具体化する必要がある。

第4 共同売却と金銭回収―代金から支払うことだけでは決まらない

1 売却のために直接要した費用を確認する

所得税法33条3項による譲渡所得の計算では,取得費と資産の譲渡に要した費用を区別する。
国税庁「No.3255 譲渡費用となるもの」及び所得税基本通達33-7は,売却のために直接要した仲介手数料等と,資産の維持・管理の費用とを区別している。

相続不動産を共同で売却する場合,弁護士の業務にも,遺産分割の交渉,売却条件の調整,売買契約に関する紛争対応,決済への対応,売却後の精算などが混在し得る。
売却に直接必要な業務に対応する費用かを確認し,単に「共同売却成功報酬」という名称で全額を譲渡費用と決めない。

売主,持分,実際の業務内容,契約及び費用負担をそろえ,各納税者の費用として計上できる範囲を確認する。
一人が他の相続人の分まで立て替えた場合も,立替えと自己負担を分け,後日の精算記録を残す。

2 売却代金の回収費用は譲渡費用と区別する

国税庁の質疑応答事例「譲渡代金の回収費用」は,不動産の売却代金の回収に要した訴訟費用・弁護士費用について,譲渡費用に含まれないとしている。
売買契約を成立させるための費用と,成立した契約に基づく代金債権の回収費用は同じではない。

また,使途不明金の返還請求その他の相続関係の金銭回収が,直ちに不動産の売却のための費用となるわけでもない。
回収金の税務上の性質と,弁護士費用を控除できる制度の有無は,請求原因と所得区分を確認して別々に判断する。

第5 賃貸業務等の必要経費は別に検討する

所得税法37条は,不動産所得,事業所得等の必要経費を定める一方,同法45条は家事上の経費等の不算入を定める。
相続した賃貸不動産に関係する費用であっても,私的な遺産分割のための費用と,賃貸業務の遂行上の紛争のための費用は分けて検討する。

所得税基本通達37-25は,業務の遂行上又は業務用資産について生じた紛争の弁護士報酬等を扱い,資産の取得費とされるもの,譲渡に関する紛争の費用等を区別している。
例えば,相続人間で誰が賃貸物件を取得するかを争う業務と,賃借人から滞納賃料を回収する業務とでは,目的と税務区分の検討が異なる。

同じ弁護士へ依頼していても,対象となる権利,発生原因,業務内容,費用の確定時期及び所得を得る者を資料で分ける必要がある。
賃貸物件があるという理由だけで,相続事件の弁護士費用全額を不動産所得の必要経費へ計上してはならない。

第6 委任契約と請求明細で残しておきたい事項

1 報酬の合意と税務上の区分をつなぐ資料

契約段階では,①遺産分割,②相続登記,③共同売却,④金銭回収,⑤賃貸業務の紛争対応など,実際に依頼する業務を特定する。
追加業務を受任する場合は,範囲,報酬,既払着手金等の控除又は充当の有無を合意する。報酬の計算方法については,相続事件の弁護士費用の基準及び弁護士の委任契約書に関する記事を参照されたい。

終了時の明細には,報酬と実費・立替金を分け,対象業務,対象財産,支払者,支払先,金額,業務期間,報酬確定日及び返還・精算の内容を残すとよい。
この資料作成は税務判断を助けるための提案であり,明細の名称だけで税務署の判断が決まるというものではない。

2 一括報酬を区分する場合

一括報酬に複数の業務が含まれる場合は,契約の内容,実際の作業記録,対象資産及び合理的な配分根拠を弁護士と税理士の間で確認する。
税務上有利な結果に合わせて実態と異なる名目へ付け替えたり,根拠のない一定割合を全事件へ用いたりする方法は適切でない。

例えば,遺産分割の交渉後に相続登記と売却を行い,さらに買主への代金請求が必要となった場合,それぞれの段階の業務と費用を分けて記録する。
取得した不動産の価格,売却代金又は回収金から報酬額を計算していても,遺産分割費用,登記費用,売却に直接要した費用及び回収費用の区分は,実際の業務に基づいて検討する。

申告を担当する税理士には,委任契約書,追加合意書,請求書,領収書,実費明細,作業内容及び支払・精算記録を渡す。
費用を契約する時点と税務申告の時点をつなぐ資料を残すことが,過大な費用計上と計上漏れの双方を防ぐための基本となる。

第7 関連記事と出典

相続事件に関する実務メモは,相続開始後の期限・財産調査・手続を整理する。
公正証書遺言と異なる遺産分割協議が申告期限までに成立しない場合の申告方法は,遺言による取得と未分割申告の違いを説明する。

主な根拠法令は,相続税法13条・14条,所得税法33条・37条・38条・45条・60条である。
国税庁のタックスアンサーNo.4126,No.3252,No.3255及びNo.3270,質疑応答事例「譲渡代金の回収費用」,所得税基本通達33-7,37-25,38-2及び60-2の該当箇所は,各説明のリンク先を参照されたい。
タックスアンサーは令和8年4月1日現在の法令等の表示,代金回収費用の質疑応答事例は令和7年8月1日現在の法令等の表示を確認した。