第1 資料の対象と位置付け
令和4年度の「最高裁民事破棄判決等の実情」によれば,対象となる破棄判決は25件,破棄決定は3件である。
対象期間は令和4年1月から12月までであり,4月から翌年3月までの会計年度ではない。
行政事件・労働事件も集計に含まれる。
原資料は,鷹野旭・和久一彦「最高裁民事破棄判決等の実情-令和4年度-」(判例時報2563号,令和5年10月1日号,88頁~112頁)である。
この論文は,当該年の事件と破棄理由を整理した解説であり,判決・決定そのものとは区別される。
以下では,論文の集計と掲載事件の索引を示し,主要8事件について裁判所公表の本文に基づいて判断を説明する。
第2 破棄件数と割合の読み方
1 破棄判決の母数と割合
(1) 調整済み既済件数
論文が示す通常上告事件の既済件数は2168件,上告受理申立て事件の既済件数は2704件であり,単純合計は4872件となる。
同一事件の通常上告と上告受理申立ての重複を調整した既済件数は2956件であり,破棄判決25件の割合はこの調整済み件数を母数としている。
25÷2956×100を計算すると約0.85%となる。
論文の表示は小数第1位までの0.8%であり,25件という件数と2956件という母数を併せて読むことで計算の関係が分かる。
(2) 個別事件の見通しとの違い
この割合は,令和4年に処理された事件全体についての記述である。
特定の事件で上告又は上告受理申立てが成功する確率を示す数値ではなく,申立て理由や原判決の内容を評価せずに個別事件へ当てはめることはできない。
2 差戻し・自判と破棄理由
(1) 主文の内訳と重複
論文によれば,差戻しを含む判決は11件,自判を含む判決は15件であり,両方を含む判決が1件ある。
11+15-1=25であり,差戻しと自判を重複のない分類として足し合わせると,件数を1件多く数えることになる。
差戻しでは破棄された部分について原審でさらに審理が行われ,自判では最高裁自身がその部分の裁判をする。
一部破棄の事件には,残る部分について棄却や却下をしたものもあるため,「破棄」の語だけでは当事者の請求がどこまで認められたかは分からない。
(2) 論旨に基づく破棄と職権破棄
破棄理由についての論文の内訳は,論旨に基づくもの21件,職権によるもの3件,両方によるもの1件である。
この3区分では21+3+1=25となり,主文の差戻し・自判の分類とは別の集計である。
3 破棄決定の3件
許可抗告事件について,論文は既済16件のうち破棄決定3件,割合18.8%と整理している。
3÷16×100=18.75%であり,判決の25件とは事件の種類も母数も異なる。
3決定のうち差戻しは1件,自判は2件である。
18.8%を,高裁に対する抗告許可申立てを含むすべての申立ての成功率として読むことはできない。
第3 掲載された25判決・3決定の一覧
以下の表は,年次論文の参考一覧に掲げられた事件を裁判日順に整理した索引である。
論点欄は事件を探すための短い表示であり,判決・決定の要件や射程を網羅するものではない。
裁判所はいずれも最高裁判所,裁判年はいずれも令和4年である。
1 破棄判決25件
| 裁判日・法廷 | 事件番号・論点 | 主文の区分 |
|---|---|---|
| 1月28日第二小法廷 | 令和2年(受)第1765号:離婚慰謝料に係る遅延損害金 | 一部破棄自判・一部却下・一部棄却 |
| 2月3日第一小法廷 | 令和3年(オ)第1217号・1218・1219:法定の構成で裁判所を構成しなかったこと | 破棄差戻し |
| 3月3日第一小法廷 | 令和2年(行ヒ)第323号:ゴルフ場用地の評価 | 破棄差戻し |
| 3月18日第二小法廷 | 令和3年(行ヒ)第171号:団体交渉と賃金等の説明 | 破棄差戻し |
| 3月24日第一小法廷 | 令和2年(受)第1198号:人身傷害保険と代位控除 | 破棄自判 |
| 4月12日第三小法廷 | 令和3年(受)第919号:町内会・法律構成と釈明 | 破棄差戻し |
| 5月17日第三小法廷 | 令和2年(行ヒ)第340号・341:行政情報の不開示事由 | 一部破棄差戻し・一部棄却 |
| 5月25日大法廷 | 令和2年(行ツ)第255号・令和2年(行ヒ)第290号・291・292:在外審査の制度未整備 | 一部破棄自判・一部棄却 |
| 6月3日第二小法廷 | 令和3年(受)第1125号・1126:複合用途建物の解体等と告知 | 一部破棄差戻し・一部破棄自判 |
| 6月14日第三小法廷 | 令和3年(行ヒ)第164号:懲戒処分と退職手当支給制限 | 破棄差戻し |
| 6月17日第二小法廷 | 令和3年(オ)第1293号の2:福島原発事故・国の規制権限 | 破棄自判 |
| 6月17日第二小法廷 | 令和3年(受)第342号:福島原発事故・国の規制権限 | 破棄自判 |
| 6月17日第二小法廷 | 令和3年(受)第1205号:福島原発事故・国の規制権限 | 破棄自判 |
| 6月17日第二小法廷 | 令和4年(受)第460号:福島原発事故・国の規制権限 | 破棄自判 |
| 6月24日第二小法廷 | 令和3年(受)第1463号:確認の利益 | 破棄自判 |
| 6月24日第二小法廷 | 令和2年(受)第1442号:ツイート・プライバシー比較衡量 | 破棄自判 |
| 7月14日第一小法廷 | 令和3年(受)第1473号:自動車損害賠償保障法の求償・代位 | 破棄自判 |
| 7月19日第三小法廷 | 令和3年(オ)第555号・556・令和3年(受)第678号・679:水道断水による給水区域外への影響 | 破棄差戻し |
| 9月8日第一小法廷 | 令和3年(行ヒ)第283号:固定資産評価審査委員会の委員の職務上の注意義務違反 | 一部破棄差戻し・一部却下 |
| 9月13日第三小法廷 | 令和4年(行ヒ)第7号:地方公務員の分限免職と任用 | 破棄自判 |
| 10月6日第一小法廷 | 令和2年(受)第1462号:建替え・敷地権・抵当権物上代位 | 破棄自判 |
| 10月17日第二小法廷 | 令和4年(オ)第1110号:消防法の通知と審査請求の対象 | 破棄差戻し |
| 12月12日第一小法廷 | 令和3年(受)第987号:家賃保証の無催告解除・明渡し擬制 | 一部破棄自判・一部棄却・一部却下 |
| 12月13日第三小法廷 | 令和3年(行ヒ)第120号:健康保険被扶養者・通知の処分性 | 一部破棄自判・一部棄却 |
| 12月26日第二小法廷 | 令和3年(受)第1115号:別訴係属財産の分与判断 | 破棄差戻し |
2 破棄決定3件
| 裁判日・法廷 | 事件番号・論点 | 主文の区分 |
|---|---|---|
| 6月27日第一小法廷 | 令和4年(許)第3号:責任調査委員と代理人排除 | 破棄自判 |
| 10月6日第一小法廷 | 令和3年(許)第16号:弁済・請求権消滅を執行抗告理由にできるか | 破棄差戻し |
| 11月30日第三小法廷 | 令和3年(許)第17号:子の拒絶意思と権利濫用 | 破棄自判 |
第4 主要8事件の判断
1 町内会の土地と釈明義務
町内会が土地の共有持分の確認を求めた事件で,当事者の主張は町内会と相手方との合意の成否に向けられていた。
原審は,町内会が権利能力なき社団であることから共有持分の帰属を認められないとして,請求を棄却した。
最高裁第三小法廷令和4年4月12日判決は,構成員全員の総有という法律構成により請求を認める余地も踏まえ,釈明をしないまま請求を棄却した点を問題として破棄差戻しとした。
町内会側の所有権を最終的に確定した判決ではなく,当事者が想定していない法律構成で判断する前の釈明が争点となった事件である。
2 別訴が係属する財産と財産分与
離婚の本訴・反訴で双方が財産分与を求めた事件において,医療法人の出資持分に関連する財産が問題となった。
原審は,別の訴訟で争われている財産を分与の判断対象から外した。
最高裁第二小法廷令和4年12月26日判決は,別訴の係属を理由にその財産を判断対象から除くことを認めず,財産分与の部分を破棄して差し戻した。
この判決は分与額を確定したものではなく,対象財産について判断を尽くすことを求めたものである。
3 ツイッター投稿の削除と比較衡量
(1) 原審が付加した判断の条件
逮捕に関する投稿の削除を求めた事件で,第一審は削除請求を認めたが,原審は請求を棄却した。
原審は,事実を公表されない利益が投稿の閲覧を続けられる状態にしておく理由に優越することが明らかな場合に削除を認めるという条件を用いた。
(2) 最高裁が採用した比較衡量
最高裁第二小法廷令和4年6月24日判決は,本件投稿について,公表されない利益と閲覧可能な状態を続ける理由を比較し,前者が優越する場合に削除を求められるとした。
原審が付加した「優越することが明らか」という条件を採用せず,運営者の控訴を棄却する自判により,第一審の削除を認めた結論を維持した。
判断は,逮捕事実の性質,その後の時間の経過,投稿の目的・意義や伝わる範囲などを踏まえたものである。
過去の逮捕情報であれば一律に削除できるという法理として扱うことはできない。
4 家賃保証契約の解除・明渡し条項
適格消費者団体が家賃保証業者に対して契約条項の使用差止め等を求めた事件である。
争われたのは,業者による無催告解除を認める条項と,一定の条件で明渡しがあったとみなす条項であり,原審はこれらを限定的に解釈して差止請求を認めなかった。
最高裁第一小法廷令和4年12月12日判決は,問題となった条項を消費者契約法10条により無効とし,差止め等を認める部分について自判した。
契約書の具体的な条項を対象とした判断であり,家賃保証契約全体を無効とした判決でも,団体のすべての請求を認めた判決でもない。
5 原発事故の国賠責任と反対意見
(1) 法廷意見の結果回避に関する判断
最高裁第二小法廷令和4年6月17日判決の令和3年(受)第342号事件では,原発事故の被害について国の規制権限の不行使による賠償責任が争われた。
法廷意見は,国が規制権限を行使した場合に想定される防潮堤等の措置と実際の津波の規模・方向等を対比し,事故を回避できたと認めることはできないとして,国の責任を認めた原審の判断を破棄した。
この結論を,国に規制権限を行使する義務がなかったとの一般的判断へ置き換えることはできない。
法廷意見が本件で否定した結果回避の関係と,予見可能性や権限行使義務の問題とを分けて読むことで,判決が判断した範囲を捉えられる。
(2) 反対意見と一部の訴えの却下
同判決には,防潮堤だけでなく水密化等の措置によって事故を回避できた可能性を評価し,国の賠償責任を認めるべきだとする反対意見がある。
事故を防ぐための措置と回避可能性の捉え方に違いがあり,法廷意見の結論だけでは,その対立が見えにくい。
また,同判決は,既に係属していた別訴と重複する一部の訴えを職権で却下している。
この部分の訴訟要件の判断は,他の請求について国の賠償責任を否定した判断とは理由が異なる。
6 財産開示と弁済の主張
養育費の支払に関する公正証書に基づく財産開示事件で,債務者は弁済による債権の消滅を主張した。
原審は,債権が消滅したとして財産開示を実施しない結論を採った。
最高裁第一小法廷令和4年10月6日決定は,本件の財産開示実施決定に対する執行抗告では,債権の不存在又は消滅を理由として主張できないとし,破棄差戻しとした。
弁済の効力を否定した決定ではなく,請求異議の訴えや執行停止という別の手続との役割の違いを示すものである。
7 子の引渡しの間接強制
子の引渡しを命ずる審判に基づく間接強制について,原審は子が引渡しを拒絶していること等を理由に申立てを権利の濫用とした。
問題となったのは,この事実だけで間接強制を妨げられるかという点である。
最高裁第三小法廷令和4年11月30日決定は,子の拒絶等の事情だけでは本件申立てを権利の濫用とはいえないとして自判した。
子の意思を考慮しなくてよいとしたものではなく,法廷意見も子の心身への配慮を伴う合理的な行為を前提としている。
8 調査委員会の弁護士と訴訟代理人排除
会社が元取締役らに責任を追及した事件で,社内調査に携わった委員会の弁護士が会社の訴訟代理人となったことが争われた。
原審は,事情聴取を受けた元取締役らの信頼や委員の立場を理由として,弁護士法25条2号・4号を類推適用し,代理人を排除した。
最高裁第一小法廷令和4年6月27日決定は,会社のための調査という委員会の目的や,相手方が事情聴取の結果を訴訟の証拠として用いられる可能性を認識していたこと等を踏まえ,両規定の類推適用を否定した。
自判により,代理人排除を求める抗告を棄却した。
すべての調査委員会について利益相反や職務規律上の問題が生じないとした決定ではなく,本件で問題となった規定の類推適用を否定したものである。
第5 関連資料への導線
年度別の記事と判例時報の掲載号は,最高裁民事破棄判決等の実情(平成元年度~令和7年度)―年度別記事と判例時報の掲載号の一覧にまとめている。
令和4年分を含む裁判所の年別一覧は,最高裁の破棄判決等一覧表から参照できる。
年ごとの件数や破棄理由を比較するときは,複数年度の最高裁民事破棄判決の分析が関連する。
差戻し後にどこまで審理されるかは,破棄差戻審の拘束力・残存争点・主張立証で扱っている。
原判決を点検する視点については,最高裁民事破棄判決から作る原判決監査チェックリストを参照できる。
第6 出典・参考資料
1 年次論文・一覧表
①鷹野旭・和久一彦「最高裁民事破棄判決等の実情-令和4年度-」判例時報2563号(令和5年10月1日号)88頁~112頁。集計は88頁・91頁,参考一覧は89頁~90頁。
②最高裁判所の破棄判決等一覧表(令和4年分)(山中弁護士ブログ掲載)。
2 裁判例
①最高裁判所第三小法廷令和4年4月12日判決(令和3年(受)第919号,町内会の土地・釈明)。
②最高裁判所第二小法廷令和4年12月26日判決(令和3年(受)第1115号,財産分与)。
③最高裁判所第二小法廷令和4年6月24日判決(令和2年(受)第1442号,投稿削除)。
④最高裁判所第一小法廷令和4年12月12日判決(令和3年(受)第987号,消費者契約法に基づく差止め)。
⑤最高裁判所第二小法廷令和4年6月17日判決(令和3年(受)第342号,原発事故の国賠責任。法廷意見・反対意見を含む)。
⑥最高裁判所第一小法廷令和4年10月6日決定(令和3年(許)第16号,財産開示)。
⑦最高裁判所第三小法廷令和4年11月30日決定(令和3年(許)第17号,子の引渡しの間接強制)。
⑧最高裁判所第一小法廷令和4年6月27日決定(令和4年(許)第3号,訴訟代理人排除)。