◯本記事はAIで作成したものであり,最高裁判所が毎年公表している民事の破棄判決・破棄決定の年次報告を素材に,平成21年度から令和6年度までの16年間の破棄の実情を分析するものです。
単なる統計の紹介にとどめず,「最高裁で原判決の破棄を勝ち取りたい弁護士」の視点から,どの分野で破棄が生じ,どのような主張が破棄に結び付くのかという実践的な地図を描くことを狙いとしています。第5では,この16年間の各年度の分野内訳を個別に確認した結果を踏まえて,反復して現れる破棄分野を網羅的に取り上げます。
◯以下の記事も参照してください。
・ 最高裁の破棄判決等一覧表(平成25年4月以降の分),及び最高裁民事破棄判決等の実情
・ (AI作成)平成21年度から令和6年度までの許可抗告事件の分析
第1 本記事の狙いと結論
1 分析の対象と資料
分析の対象は,暦年(1月から12月まで)に最高裁判所で言い渡された民事・行政・労働事件の破棄判決及び破棄決定です。基礎資料は,担当調査官が毎年『判例時報』に寄稿している「最高裁民事破棄判決等の実情」であり,平成21年度版から令和6年度版までを用いました。本記事の第5では,平成21年度から令和6年度までの各年度の記事について,分野内訳(目次・一覧表)を個別に確認し,反復状況を跡付けています。
2 結論の先取り——狭き門をこじ開けるための視点
結論を先に述べます。この16年間で,最高裁が原判決を破棄することは明確に,かつ継続的に稀になりました。民事の破棄判決は,平成21年度の68件(破棄率2.1%)から,令和6年度の19件(同0.6%)へと,件数で約7割,破棄率で約3分の1まで減少しています。
もっとも,破棄が「稀」であることは,破棄が「偶然」であることを意味しません。破棄には明確な型があります。破棄は,事実認定の当否や当てはめの不服からはほとんど生まれず,法令解釈上の重要な誤り,判断枠組みそのものの欠落,又は記録上明白な手続の瑕疵という,限られた回路からのみ生まれます。したがって,破棄を勝ち取りたい弁護士がまずすべきことは,自分の事件がその回路に乗る型かどうかを見極め,乗るのであればその一点に主張を集中させることです。本記事の第5は,その回路がどの分野で開くのかを示す地図です。
第2 「最高裁民事破棄判決等の実情」という資料
1 資料の性格
「最高裁民事破棄判決等の実情」は,各年に言い渡された民事・行政・労働の破棄判決及び破棄決定を,担当調査官が全件紹介する年次報告です(『判例時報』の「最新判例批評」欄)。民事事件と行政・労働事件とで執筆担当調査官が分かれており,例えば令和6年度版は民事を一藤哲志調査官が,行政・労働を宮端謙一調査官が担当しています。
この資料は,破棄という「例外」だけを毎年洗い出す作業ですから,最高裁がどの場面で下級審を正しているかを定点観測できる,破棄を狙う実務家にとって最良の教材です。
2 読み方の約束事(執筆要領)
資料を正確に読むために,まず約束事を4点押さえます。
(1) 登載記号(◎・○・△)
各事件の番号の前に付される記号は,判例集への登載状況を示します。◎は民集(最高裁判所民事判例集)登載,○は集民(裁判集民事)登載,△はいずれにも不登載です。◎の事件は先例的価値が高く,破棄を狙う際に最も参考になります。
(2) 破棄の根拠(論旨破棄・職権破棄)
破棄の根拠には,当事者の主張(論旨)に基づく破棄と,裁判所の職権による破棄があります。近年の民事破棄は,そのほとんどが論旨破棄です。すなわち,破棄は原則として当事者が主張した点について生じるのであって,主張の的の絞り方が結果を左右します。
(3) 破棄の結果(差戻し・自判)
破棄の結果は,原審にやり直しを命じる「破棄差戻し」と,最高裁が自ら結論を出す「破棄自判」に大別されます。事実審理をなお要する場合は差戻し,法律問題として結論が定まる場合は自判となる傾向があります。依頼者に最終的な勝訴をもたらすのは自判ですから,自判が生じやすい分野を知ることには実益があります(第7の3参照)。
(4) 件数の数え方
件数は「判決書単位」で数えます。併合事件を1通の判決書で処理すれば1件と換算します。また,上告と上告受理申立ての並行申立てがされた事件は,新受・既済の集計上1件に換算されます。
第3 破棄件数・破棄率の推移
1 数値の一覧
確認できた数値を一覧にします。破棄率は,破棄判決件数を換算後の既済件数で除したものです。
| 年度 | 破棄判決 | 破棄率(対既済) | 破棄決定 | 主な出典 |
|---|---|---|---|---|
| 平成17年(参考値) | 77件 | 2.3% | 9件 | 判時2082号 |
| 平成21年度 | 68件 | 2.1% | 4件 | 判時2082・2083号 |
| 平成22〜26年度 | 約35〜50件 | 1%台後半 | ― | 各号(分野確認済) |
| 平成27年度 | 38件 | ― | 8件 | 判時2306号 |
| 平成28年度 | 分野確認済 | ― | ― | 判時2342号 |
| 平成29年度 | 22件 | 0.7% | ― | 判時2374号 |
| 平成30年度 | 件数未確認 | 0.9% | ― | 判時2420号 |
| 令和元年度 | 件数未確認 | 1.0% | ― | 判時2442号 |
| 令和2年度 | 35件 | 1.4% | 5件 | 判時2498号 |
| 令和3年度 | 25件 | 1.0% | 7件 | 判時2524・2525号 |
| 令和4年度 | 25件 | 0.8% | 3件 | 判時2563号 |
| 令和5年度 | 19件 | 0.6% | 8件 | 判時2595号 |
| 令和6年度 | 19件 | 0.6% | 2件 | 判時2629号 |
※ 破棄決定は許可抗告・特別抗告の合計です(年により母数の取り方に差異があり得ます)。平成28・令和元年度等の「分野確認済」「件数未確認」は,分野内訳は個別に確認したものの,破棄判決の正確な総件数までは本記事で確定していない趣旨です。
2 最大の事実=破棄の稀少化
この一覧から読み取れる最大の事実は,破棄の稀少化です。平成21年度に68件(破棄率2.1%)あった民事破棄判決は,令和6年度には19件(同0.6%)まで減りました。件数で約7割減,破棄率でも約3分の1です。破棄を狙う側にとって,これは「相当な事案でなければ破棄はされない」という現実の裏返しであり,主張の選別を一層シビアに要求します。
3 分母(新受・既済)は横ばいであること
重要なのは,母数となる事件量が大きく変わっていない点です。上告と上告受理申立ての並行申立てを1件に換算した既済件数は,おおむね2500件から3100件台で推移しており,令和6年は3137件でした。分母が横ばいのまま破棄が減ったということは,下級審判決に対する最高裁の是認率が上がったこと,すなわち「普通の誤り」ではもはや破棄されないことを意味します。
4 データの範囲に関する注記
本記事は,平成21年度から令和6年度までの各年度の記事について分野内訳を確認しました。破棄判決の正確な総件数まで確認できたのは,平成17・21・27・29・令和2〜6年度です。平成22〜26年度・平成28年度・平成30年度・令和元年度は,分野内訳は確認したものの,正確な総件数は未確定です(傾向としては,平成20年代前半は年40件台から60件台,中盤以降は逓減しています)。
第4 令和6年度の内訳分析
直近年度は全件を確認できていますので,破棄がどのような場面で生じているかを概観します。
1 結果と登載の内訳
令和6年度の破棄判決19件の内訳は,差戻し10件・自判9件で,全て論旨破棄でした(職権破棄はありません)。登載は,民集12件・集民5件・いずれにも不登載2件です。破棄決定は2件で,いずれも許可抗告事件でした。差戻しと自判がほぼ半々である点は,法律問題として決着する事件が相当数あることを示しています。
2 分野の分布
分野は,訴訟法関係(絶対的上告理由,不起訴合意)のほか,実体法関係(民法の不法行為・親族法,会社法)と,多数の個別行政法令に広く分布しました。個別行政法令の破棄が数の上で最も多いのが特徴です。具体的な分野と,破棄を勝ち取るための着眼点は,次の第5で,平成21年度以降の反復状況を含めて詳しく見ていきます。
第5 特に多い破棄分野-破棄を勝ち取る着眼点
1 全体の特徴——分散・反復・二つの集団訴訟の波
各年度の分野内訳を個別に確認した結果を,まず全体像として3つの角度から述べます。
第1に「分散」です。民事破棄判決には,「この分野が突出して多い」という単一の中心分野はありません。会社法・労働法といった主要分野に加え,個別の行政法令(各種の給付・税・条例・許認可等)に一件ずつ広く分散するのが構造的な特徴です。破棄を狙う側からは,これは「どの分野にもチャンスの入口があるが,入口は狭い」ことを意味します。
第2に「反復」です。分散しているとはいえ,年度をまたいで繰り返し破棄が現れる分野は確かに存在します。国家賠償,不法行為・不当利得,労働,会社法・倒産,租税,相続・親族,民事執行,発信者情報開示などは,この16年間を通じて反復して登場しています。反復する分野は,最高裁が繰り返し関心を寄せている領域であり,破棄を狙う際に的を絞りやすい分野といえます。
第3に「二つの集団訴訟の波」です。反復分野の顔ぶれは時代とともに移り変わり,特に大量の同種事件が生じた時期には,破棄がその分野に集中します。この16年間には,象徴的な二つの波がありました。一つは,平成21年度前後の過払金(不当利得)の波であり,平成21年度の破棄の相当部分がこれに関するものでした。もう一つは,令和3年度の石綿(アスベスト)含有建材による健康被害の国家賠償の波であり,同年度の破棄判決25件のうち複数がこれに関するものでした。いずれも,新しい大量事件が生じ,法理が未確立であった時期に破棄が集中したものです。破棄を狙う実務家にとって,これは重要な教訓を与えます(第5の4(2)・第7参照)。
※ 以下の分野の反復は,本記事が確認した平成21年度から令和6年度までの各記事(目次・一覧表・本文)に基づく観察です。個別事件の名称・年月日を挙げた部分のうち,リンクのないものは各年度の年次報告に基づく書誌であり,起案に用いる際は裁判所ウェブサイトで内容を確認してください。
2 訴訟手続・訴訟要件の瑕疵
手続や訴訟要件の瑕疵は,実体判断の当否以前の問題として,毎年のように破棄が現れる定番の領域です。破棄を狙う側にとって最も「確実性」の高い回路であり,見落とされがちなだけに,記録の精査によって思わぬ突破口が開くことがあります。
(1) 絶対的上告理由(口頭弁論に関与しない裁判官)
典型は,判決の基本となる口頭弁論に関与していない裁判官が判決に関与したという瑕疵です。これは民事訴訟法249条1項(直接主義)に違反し,同法312条2項1号の絶対的上告理由に当たります。令和6年度も,原審の口頭弁論終結時の裁判官と原判決に署名押印した裁判官とが食い違っていた事案について,最高裁判所令和6年11月15日第二小法廷判決が破棄差戻しとしました(株主総会決議不存在確認等請求事件)。同種の手続瑕疵は令和4年度にも現れています。
破棄の着眼点:この類型は,実体判断の当否と無関係に破棄されます。勝ち筋の弱い事件であっても,記録上,裁判官の交代や口頭弁論の更新手続の欠落が明白であれば,それだけで破棄を勝ち取れます。控訴審の期日調書・裁判官の異動・判決の署名押印は,上告を検討する段階で必ず突き合わせるべき第一の確認事項です。
(2) 訴訟要件(確認の利益・当事者適格・重複起訴)
訴訟要件をめぐる破棄も反復します。平成26年度には親子関係不存在確認の訴えの確認の利益が複数争われ,平成28年度には訴訟要件・訴えの利益が,令和2年度には確認の利益・重複起訴の禁止が,令和4年度には確認の利益・重複起訴が,令和5年度には遺言執行者の原告適格など当事者適格が問題となりました。訴訟要件の欠缺は,職権調査事項として職権破棄の対象にもなり得ます。
破棄の着眼点:本案で劣勢でも,相手方の訴えに確認の利益や当事者適格の欠缺があれば,訴え却下の方向で原判決を覆せる場合があります。本案の攻防に埋没させず,訴訟要件の詰めを独立の防御線として立てることが有効です。
(3) 釈明義務・審理不尽
原審が必要な審理を尽くさなかったことを理由とする破棄も繰り返し現れます。令和4年度には釈明義務違反が,令和6年度には,宗教団体又はその信者による献金の勧誘の違法性について,最高裁判所令和6年7月11日第一小法廷判決が,多角的な観点から総合考慮するという判断枠組みに基づく審理を尽くさなかった違法があるとして破棄差戻しとしました。
破棄の着眼点:原審が「正しい判断枠組みを立てずに結論を出した」ことを突くのが勝ち筋です。事実認定そのものではなく,「この要素を考慮すべきなのに考慮していない」「この枠組みで検討すべきなのに検討していない」という枠組みレベルの欠落を指摘すると,審理不尽として破棄に結び付きやすくなります。
(4) 当事者の死亡と訴訟の当然終了
訴訟の帰すうにかかわる基本的な瑕疵として,当事者の死亡による訴訟の当然終了があります。令和5年度には,住民訴訟を提起した原告が原判決の言渡し前に死亡していたため訴訟が当然に終了したとして,職権により原判決が破棄され,訴訟の終了が宣言された事案がありました。
破棄の着眼点:承継の生じない類型の訴訟(住民訴訟等)では,当事者の死亡時期が結論を左右します。手続の前提事実の確認を怠らないことが,思わぬ破棄につながります。
3 国家賠償法
国家賠償法をめぐる争いは,行政関係の破棄として最も反復性の高い分野の一つです。平成21年度・平成29年度・令和2年度・令和3年度・令和4年度・令和6年度など,ほぼ毎年のように現れています。国の責任の成否は法律問題として構成しやすく,破棄を狙いやすい領域です。
(1) 立法行為と除斥期間
令和6年度の代表例は,旧優生保護法の規定に基づく国家賠償請求の事案です。最高裁判所令和6年7月3日大法廷判決(裁判所ウェブサイト)は,不法行為による損害賠償請求権が改正前民法724条後段の期間経過により消滅したとすることが著しく正義・公平の理念に反し到底容認できない場合には,裁判所は,除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用として許されないと判断することができる旨を示し,原判決(原審・仙台高等裁判所)を破棄して差し戻しました。なお,同大法廷は同日,原審が既に被害者側の請求を認めていた関連事件では国の上告を棄却しています(令和5年(受)1319号・民集78巻3号382頁)。
破棄の着眼点:長期間の経過による権利消滅の主張を,正義・公平の理念という一般条項の水準で覆せる場合があることを示した点が重要です。除斥期間・消滅時効の壁に阻まれた事案でも,権利行使を妨げた事情の重大性を丁寧に積み上げれば,例外的処理を引き出す余地があります。
(2) 規制権限の不行使(石綿・原発・薬害型)
行政庁が規制権限を行使しなかったことの違法(不作為による国家賠償責任)は,この分野で最も反復するテーマです。令和3年度には,石綿(アスベスト)含有建材による建設作業従事者の健康被害について,労働大臣による規制権限の不行使を理由とする国家賠償が複数破棄され,あわせて民法719条1項後段の類推適用(共同不法行為)による製造販売者の責任も判断されました。同年度にはB型肝炎ウイルス感染に関する損害賠償の破棄もあり,令和4年度には,津波による原子力発電所事故を防ぐための規制権限の不行使を理由とする国の責任が争われました。
破棄の着眼点:規制権限の不行使が違法となる要件(権限の趣旨・目的,予見可能性,結果回避可能性)のどこを原審が誤ったかを特定し,作為義務の有無・程度の枠組み論として立てることが有効です。石綿・薬害のような集団的被害では,共同不法行為の類推など隣接する法理も同時に主張の的になります。
(3) 裁量処分の司法審査
行政庁の裁量処分について,下級審が違法と判断したのを最高裁が是正する例もあります。令和6年度では,飲酒運転等を理由とする懲戒免職に伴う退職手当の全部不支給処分について,最高裁判所令和6年6月27日第一小法廷判決が,同処分を裁量権の逸脱・濫用と評価した原審の判断には法令解釈適用の誤りがあるとして破棄自判しました(大津市職員退職手当支給条例)。
破棄の着眼点:裁量審査は,行政・被処分者いずれの側からも破棄の突破口になります。原審が審査密度を誤った(踏み込み過ぎ又は緩め過ぎた)ことを,社会観念審査の枠組みに即して主張するのが勝ち筋です。この類型は自判に至ることも多く,最終解決を狙えます。
4 不法行為・不当利得(民法財産法)
民法の財産法分野では,不法行為と不当利得が,平成21年度から令和6年度までを通じて反復します。
(1) 不法行為の違法性・監督義務者責任・共同不法行為
不法行為では,違法性や責任の判断枠組みが争点となります。令和6年7月11日第一小法廷判決(前記2(3))は,献金の勧誘の違法性を多角的に総合考慮すべきものとしました。平成27年度には,未成年者が他人に損害を加えた場合の監督義務者としての責任の有無が問題となり,令和3年度には,石綿被害をめぐって民法719条1項後段の類推適用(共同不法行為の寄与度)が判断されました。
破棄の着眼点:原審が違法性や責任の判断要素を限定していないかを点検し,「考慮すべき事情を考慮していない」という枠組みの欠落として構成すると,破棄に結び付きやすくなります。
(2) 不当利得(過払金)と消滅時効
時代的な特徴として特筆すべきは,平成21年度の破棄の相当部分が,貸金業者に対する過払金返還請求(不当利得)に関するものであった点です。継続的な金銭消費貸借取引における過払金充当合意の成否や,過払金返還請求権の消滅時効の起算点が繰り返し争われました。この波は平成25年度(会社更生手続下の過払金)・平成27年度(貸金業者に対する不当利得・保証人の求償権の消滅時効)にも及び,その後は判例法理の確立とともに沈静化しました。
破棄の着眼点:この経過は重要な教訓を与えます。新しい取引類型・新しい紛争類型が大量に生じている時期には,法理が未確立であるがゆえに破棄のチャンスが集中します。世の中で急増している紛争類型に,まだ最高裁判例のない論点を見つけたら,それは破棄を狙う好機です(第5の1の「二つの波」参照)。
(3) 損害の算定・損益相殺
損害賠償額の算定方法も破棄の対象となります。令和3年度には,交通事故による損害の算定において,損害の元本から控除すべきもの(損益相殺的な調整)の範囲が争われました。
破棄の着眼点:損害算定は事実認定に見えますが,控除の可否・順序といった「算定のルール」は法律問題です。ルールの誤りとして構成できれば破棄を狙えます。
5 労働法
労働法は,個別的労働関係・集団的労働関係の双方で破棄が現れ,平成21年度(不当労働行為・分限免職・懲戒),平成23年度(労働者性),平成24年度(不当労働行為・支配介入),平成28年度(定年後の継続雇用),令和2年度・令和5年度・令和6年度(労働時間・配転)と,全期間を通じて反復する主要分野です。
(1) 労働時間・みなし労働
令和6年度では,外国人技能実習の監理団体の指導員が事業場外で従事した業務について,最高裁判所令和6年4月16日第三小法廷判決が,業務日報の正確性の担保に関する具体的事情を十分検討せずに,労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとした原審の判断には,同項の解釈適用の誤りがあるとして,一部破棄差戻しとしました。
破棄の着眼点:みなし労働時間制のような要件解釈は,法律問題として最高裁が判断しやすい領域です。原審が要件の一部の検討を飛ばしていないかを突くのが勝ち筋です。
(2) 配置転換命令権と職種限定合意
最高裁判所令和6年4月26日第二小法廷判決(裁判所ウェブサイト)は,労働者と使用者との間に当該労働者の職種・業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には,使用者は,その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しない,としました。
破棄の着眼点:この判決は,「権限の有無」と「権限行使の濫用」を峻別しました。原審が両者を混同していないかを突くと破棄に結び付きます。労働事件は,原審が確定した事実を前提に法的評価だけを覆す構図を作れれば,自判・差戻しいずれの破棄も狙えます。
(3) 労働者性・労災補償・集団的労使関係
労働者性(業務委託と労働契約の区別)は,平成23年度にも破棄が現れた反復論点です。集団的労使関係では,平成24年度に,旅客鉄道事業や船舶運航事業の会社による労働組合への支配介入(労働組合法7条3号)が破棄され,労働委員会の救済命令の在り方も繰り返し問題となっています。令和6年度には,労災保険給付の支給決定の取消訴訟について,メリット制の適用を受ける事業主の原告適格が争われ,最高裁判所令和6年7月4日第一小法廷判決が,事業主に原告適格を認めた原審を破棄自判しました。
破棄の着眼点:労働者性は,契約の形式ではなく,指揮監督・諾否の自由・報酬の性格等の総合判断です。原審の総合判断の枠組みの当否を突くのが定石です。
6 会社法・商事・倒産
会社法・商事・倒産は,平成21年度(株主総会・株券),平成22年度(破産法),平成24年度(株式の公正な価格・取得価格),平成25年度(会社更生),平成26年度(新株発行),平成28年度,令和3年度(株式買取請求・監査役責任),令和6年度と,反復して破棄が現れる分野です。取引や組織法の解釈は,法律問題として自判が狙いやすい領域です。
(1) 株式・株券・株式価格
最高裁判所令和6年4月19日第二小法廷判決(裁判所ウェブサイト)は,株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は,譲渡当事者間においては,株券の交付がないことをもって効力が否定されるものではないとし,あわせて,譲受人は改正前民法423条1項本文により譲渡人の株券発行請求権を代位行使できるとしました。株式の価格・取得価格をめぐる争いは平成24年度・令和3年度(会社法182条の4等に基づく株式買取請求)にも現れています。
破棄の着眼点:条文の適用場面(本条は株券発行後の譲渡に適用される,等)を精緻に切り分ける主張は,法律問題として最高裁の判断になじみます。
(2) 取締役・監査役の責任と裁量
役員責任の分野では,最高裁判所令和6年7月8日第一小法廷判決が,退任取締役の退職慰労金について,内規に従って決定することを取締役会に一任する旨の株主総会決議がされた場合に,基準額から減額した退職慰労金を支給する取締役会決議に裁量権の範囲の逸脱・濫用があるとはいえないとして,これを違法とした原審を破棄自判しました(会社法361条1項1号関係)。令和3年度には,会計限定監査役の計算書類等の監査における任務懈怠の有無も問題となりました。
破棄の着眼点:機関の裁量や役員の任務は,規範(委任の趣旨・善管注意義務の内容)のレベルで争えます。原審が規範を狭く(又は広く)解し過ぎた点を突くのが勝ち筋です。
(3) 破産・会社更生
倒産法も反復分野です。平成22年度には,破産管財人がした別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認が時効中断(現行法では時効の完成猶予・更新)の効力を有するかが争われ,平成25年度には会社更生手続下の過払金返還請求が問題となりました。
破棄の着眼点:倒産手続における実体権の変動は,倒産法と民法との交錯領域であり,条文解釈の当否として構成しやすい破棄の狙い目です。
7 租税法
租税法は,課税処分の適否や租税法規・通達の解釈をめぐって反復する分野です。平成23年度には相続税,平成28年度・令和2年度には地方税,令和2年度には所得税,令和6年度には,最高裁判所令和6年7月18日第一小法廷判決が,外国子会社合算税制に関する租税特別措置法施行令の規定(保険の目的の意義)の解釈を示して破棄自判しました。固定資産の評価をめぐる争いも平成30年度・令和元年度に現れています(第5の13参照)。
破棄の着眼点:租税法律主義の下では,法令・政令の文言解釈が結論を左右します。原審が文言・趣旨のいずれかを取り違えていないかを条文の構造に即して突くと,法律問題として自判の破棄を狙えます。課税処分の取消しは金額が確定的に動くため,自判の実益も大きい分野です。
8 消費者保護法
消費者保護の分野も反復します。平成21年度には消費者契約法上の不当条項該当性が争われ,平成26年度以降も同法が問題となり,令和6年度には,最高裁判所令和6年3月12日第三小法廷判決が,消費者裁判手続特例法に基づく共通義務確認の訴えについて,簡易確定手続で対象債権の存否・内容を適切かつ迅速に判断することが困難であるといえるかの判断を誤ったとして,原審を破棄自判しました。
破棄の着眼点:消費者法は,制度趣旨(被害の集団的・実効的救済)に照らした目的論的解釈が有効です。原審の解釈が制度趣旨を没却していないかを正面から論じるのが勝ち筋です。
9 情報・通信(発信者情報開示)
発信者情報開示は,実は古くからの反復分野です。既に平成22年度に,インターネット上の電子掲示板への投稿に関し,プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報の開示をめぐる破棄が現れていました。そして令和5年度・令和6年度に再び反復しており,インターネット上の権利侵害紛争の増加を背景に,近年その存在感が強まっています。
最高裁判所令和6年12月23日第二小法廷判決(裁判所ウェブサイト)は,SNS上のアカウントへのログインのためにされた複数回の通信のうち,侵害情報の送信と最も時間的に近接する1回の通信のみが,相当の関連性を有するものとして開示の対象となり,その余の通信は,あえて開示を求める必要性を基礎付ける事情がない限り対象とならない旨を示しました。
破棄の着眼点:技術の進展に法令の解釈が追いついていない領域(ログイン型通信の位置付け等)は,「法令解釈上の重要事項」として上告受理・破棄に至りやすい典型です。新しい技術・サービスに関する未解決の解釈論点は,破棄を狙う最有望の狩り場の一つです。
10 親族法・相続
親族法・相続は,家族関係の変化を背景に,全期間を通じて反復して破棄が現れる分野です。平成21年度(認知・遺産分割),平成25年度(性別変更と嫡出推定),平成26年度(親子関係不存在確認・遺産分割),平成27年度(遺産分割・遺言),令和2年度(家事事件手続法・ハーグ条約),令和3年度(監護・面会交流・財産分与・遺言),令和6年度と,途切れなく登場しています。以下は,最高裁が示した法解釈の内容を事実に即して紹介するものです。
(1) 認知・親子関係・性別変更
最高裁判所令和6年6月21日第二小法廷判決(裁判所ウェブサイト)は,嫡出でない子は,自己の精子で当該子を懐胎させた者に対し,その者の法令の規定の適用の前提となる性別にかかわらず,認知を求めることができる,としました(民法787条)。平成25年度にも,性別の取扱いの変更を受けた者と嫡出推定に関する大法廷の判断が示されています。
破棄の着眼点:制度が想定していなかった新事態については,制度趣旨(血縁上の親子関係を基礎とする認知の趣旨等)に立ち返る解釈が有効です。
(2) 相続人の範囲(代襲相続)
最高裁判所令和6年11月12日第三小法廷判決(裁判所ウェブサイト)は,被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者は,被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることができない,としました(民法889条2項・887条2項ただし書)。
破棄の着眼点:準用規定の読替え(889条2項が準用する887条2項ただし書の意味)を条文構造に忠実に詰めると,法律問題として自判の破棄を狙えます。
(3) 遺産分割・特別受益・遺言
遺産分割・遺言は,共有物分割とあわせて繰り返し現れます。平成26年度・平成27年度には遺産分割・共有物分割が複数争われ,平成27年度・令和3年度には遺言の効力(遺言書に故意に斜線を引く行為の効果,自筆証書遺言の日付の相違)が問題となりました。
破棄の着眼点:遺産分割の個別の裁量判断ではなく,特別受益の持戻しの要否や遺言の有効要件など,枠組み・要件レベルの論点に絞ると,破棄の可能性が高まります。
(4) 監護・面会交流・財産分与
これらは決定手続(許可抗告)の形でも現れます。令和3年度には,父母以外の第三者が子の監護者の指定や面会交流を申し立てることの可否,離婚後の財産分与に関する審判の在り方が問題となりました。
破棄の着眼点:面会交流の許否・方法など個別的な裁量判断は破棄されにくい一方,申立適格のような枠組みの問題は破棄の余地があります。決定手続では許可抗告(民事訴訟法337条)が最高裁への経路です。
11 社会保障・年金
社会保障・年金は,制度改正に伴う経過措置や受給資格の解釈をめぐって反復します。平成23年度には介護保険法(事業者の指定),平成29年度には健康保険(被保険者資格),令和5年度には退職手当条例,令和6年度には,最高裁判所令和6年9月13日第二小法廷判決(裁判所ウェブサイト)が,被用者年金制度の一元化に伴う経過措置政令にいう「施行日前から引き続き当該被保険者の資格を有するもの」の意義について,特定の適用事業所に係る被保険者資格を継続して有する者をいうとして,原判決を破棄自判しました。
破棄の着眼点:複雑な経過措置法令の読替えは,条文の技術的解釈のずれが生じやすく,破棄の温床です。政令・附則の読替え条項を正確にたどり,原審の読替えの誤りを指摘するのが勝ち筋です。
12 地方公共団体・条例
地方公共団体の条例・規則や,地方公社等の規律の解釈も反復する分野です。平成27年度には退職手当支給制限の条例,平成28年度には地方自治法・地方税法,令和4年度には地方公務員法・地方税法・水道条例に関する破棄があり,令和6年度には,前記の大津市職員退職手当支給条例のほか,最高裁判所令和6年6月24日第一小法廷判決が,地方住宅供給公社が賃貸する住宅の使用関係について借地借家法32条1項(借賃増減請求)の適用があるとして,これを否定した原審を破棄差戻しとしました。
破棄の着眼点:国の法律の委任の範囲を条例・省令が超えていないか(委任の範囲論)は,破棄に結び付きやすい論点です。地方の規律を国法の枠組みから位置付け直す構成が有効です。
13 不動産登記・都市計画・固定資産評価
不動産・土地に関する行政法規も反復分野です。平成22年度には,真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続の可否や都市計画法に関する破棄があり,平成30年度には固定資産評価(建築基準法42条所定の道路に接する土地の評価),令和元年度には固定資産評価基準による宅地の評価や都市公園法に関する破棄が現れました。
破棄の着眼点:登記手続・行政計画・評価基準の分野は,形式的要件や評価方法の解釈が結論を分けます。形式的要件・算定基準の解釈論として組み立てると,法律問題として破棄を狙えます。
14 民事執行・保全・決定手続
破棄は,判決だけでなく決定の形でも現れ,その多くは許可抗告を経て最高裁に係属します。文書提出命令は,決定破棄の定番テーマで,平成25年度(全国消費実態調査の調査票情報=公務員の職務上の秘密に関する文書)にも令和6年度にも現れています。令和6年度の破棄決定2件は,いずれもこの分野です。
第1に,最高裁判所令和6年10月16日第二小法廷決定(裁判所ウェブサイト)は,検察官が取り調べた者の供述・状況を記録した録音・録画の記録媒体について,刑事訴訟法47条に基づき提出を拒否した国の判断が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものといえるとして,原決定を破棄自判しました。第2に,最高裁判所令和6年10月23日第三小法廷決定(裁判所ウェブサイト)は,文化功労者年金法に基づく年金の支給を受ける権利に対しては強制執行をすることができるとして,これを否定した原決定を破棄差戻しとしました。仮執行宣言・供託(平成25年度),担保不動産競売(令和3年度)など,執行手続をめぐる破棄も反復しています。
破棄の着眼点:決定手続で法令解釈上の重要問題に直面したら,許可抗告(民事訴訟法337条)が最高裁への唯一の正規の経路です。「法令の解釈に関する重要な事項」を正面に立てて高等裁判所の許可を得ることが,破棄への第一歩です。
15 選挙・議員定数(1票の格差)
選挙の効力をめぐる争いも破棄の対象となります。平成26年度には,参議院議員の議員定数配分の合憲性等を争う選挙無効請求について,複数の破棄が現れました。
破棄の着眼点:定数配分の合憲性は,投票価値の平等という憲法価値の枠組みの問題であり,重要な憲法・法令解釈事項として最高裁の判断になじみます。もっとも,この分野は大法廷での統一的判断が中心で,個別の主張の工夫より,違憲状態・合理的期間論といった確立した枠組みへの当てはめが問われます。
16 弁護士の職務規律
弁護士の職務に関する規律も,繰り返し破棄の対象となっています。平成28年度・平成30年度には,弁護士法23条の2に基づく照会(いわゆる弁護士会照会)に対する報告義務が問題となり,令和3年度には,弁護士職務基本規程57条に違反する訴訟行為の排除を求めることの可否が争われました。
破棄の着眼点:弁護士会照会や職務規程の解釈は,弁護士自身が当事者・関係者となる場面で登場します。制度趣旨(真実発見・弁護士の使命)と第三者の利益との調整の枠組みを正面から論じることが,破棄・是正につながります。
第6 なぜ破棄は減り続けたのか
破棄が減り続けた理由について,断定は避けつつ,観察に基づく見立てを3点述べます。この理解は,破棄を狙う側が「勝てる事件」と「勝てない事件」を選別する助けになります。
1 下級審判断の安定・向上
分母(既済)が横ばいで破棄率が下がった以上,原判決の質が全体として底上げされたと見るのが素直です。最高裁判例の蓄積が下級審に浸透し,最高裁が是正すべき明白な誤りが減ったと考えられます。第5で見た過払金分野の沈静化は,判例法理の確立が破棄を減らす典型的な経過を示しています。裏返せば,判例が確立した分野で当てはめの不服を述べても破棄は望み薄だ,ということです。
2 最高裁が拾う事件の質の変化
件数は減る一方で,大法廷回付・憲法判断・社会的に重要な論点を含む事件の比重が相対的に高まっています。量から質への移行と言い換えてもよいでしょう。破棄を狙うなら,事件の中に「一般的意義のある法律問題」を見いだせるかが分水嶺になります。
3 上告制限(平成8年民訴法改正)の定着
平成8年の民事訴訟法改正(平成10年1月1日施行)前は,広く原判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反が上告理由とされていました。改正により,上告理由は憲法違反及び重大な手続法違反(絶対的上告理由)に制限され,法令解釈上重要な事項については新設の上告受理制度によって最高裁が裁量で受理する仕組みとなりました。破棄を勝ち取るには,まずこの受理の関門を通す必要があり,そのためには「法令解釈上の重要な事項」を明確に示すことが不可欠です。
第7 破棄を勝ち取るための実務指針
1 自分の事件は「破棄が起こる型」か
まず,自分の事件が破棄の生じる型に乗るかを見極めます。第5で見たとおり,破棄は,手続・訴訟要件の瑕疵,法令解釈上の重要な誤り,判断枠組みの欠落という回路から生じます。逆に,証拠の評価や当てはめの当否をどれだけ争っても,破棄はほとんど生じません。自分の主張が後者に偏っていないかを,起案の前に冷徹に点検することが出発点です。
2 勝てる主張の3類型
破棄を勝ち取る主張は,おおむね次の3類型に整理できます。
第1に,記録上明白な手続の瑕疵(絶対的上告理由等)。これは結論の当否と無関係に破棄を導く,最も確実性の高い類型です。
第2に,法令・政令・条例の文言解釈の誤り。租税・会社法・社会保障・地方条例など,条文解釈が結論を決める分野に妥当し,破棄自判を狙えます。
第3に,判断枠組みの欠落・審理不尽。原審が考慮すべき要素や枠組みを立てずに結論を出した場合に,差戻しの破棄を導きます。
自分の事件をこの3類型のいずれかに当てはめられるかが,勝負の分かれ目です。
3 破棄自判を狙える分野・差戻しにとどまる分野
依頼者に最終的な勝訴をもたらすのは破棄自判です。第5で見たとおり,租税・会社法・社会保障・親族相続など,法律問題として結論が定まる分野は自判が狙えます。他方,事実審理をなお要する不法行為の違法性判断や労働時間の算定などは,破棄されても差戻しにとどまることが多く,戦いは続きます。事件の見通しと依頼者への説明は,この差戻し・自判の別を踏まえて行うべきです。
4 破棄事例を起案に活かす
この年次報告で毎年紹介される破棄事例は,どのような主張・立証・法律構成であれば最高裁が動くのかを示す生きた手本です。とりわけ,第5の1で述べた「集団訴訟の波」(過払金・石綿)の教訓は重要で,社会で急増している新種の紛争に未解決の法律論点を見つけたら,そこに破棄のチャンスが集中します。上告受理申立て理由書を起案する際には,直近数年分の破棄事例を,破棄の根拠(論旨破棄か職権破棄か)・結果(差戻しか自判か)・登載(◎か○か)とあわせて精読し,自分の主張を最も近い破棄類型の言い回しに寄せていくことをお勧めします。読者ご自身で破棄率等を確認したい場合は,裁判所ウェブサイトの司法統計年報を参照できます。
第8 まとめ
平成21年度から令和6年度までを通じて,民事破棄判決は68件から19件へ,破棄率は2.1%から0.6%へと,一貫して減少しました。母数が横ばいであることを踏まえると,これは下級審判断の安定と,上告受理制度の定着を映したものと考えられます。
破棄の分野は,手続・訴訟要件の瑕疵,国家賠償,不法行為・不当利得,労働,会社法・倒産,租税,消費者,発信者情報開示,親族・相続,社会保障,地方条例,不動産・固定資産評価,民事執行・決定,選挙,弁護士の職務規律と,全期間を通じて反復して現れます。しかもその重心は,過払金から石綿へ,時代とともに移ります。
破棄は稀ですが,偶然ではありません。手続の瑕疵を突き,法令解釈の重要な誤りを立て,判断枠組みの欠落を指摘するという限られた回路に主張を集中させることこそが,0.6%の狭き門をこじ開ける唯一の道です。件数が少ないからこそ,一件一件の破棄事例を丁寧に読み込む価値は,かつてなく高まっています。
第9 出典及び付加事項の明記
1 基礎資料(本文の数値・分析の基礎)
- 最高裁民事破棄判決等の実情 平成21年度(判時2082・2083号),平成22年度(判時2118号ほか),平成23年度(判時2162号ほか),平成24年度(判時2190・2191号),平成25年度(判時2225号ほか),平成26年度(判時2258・2259号),平成27年度(判時2306号),平成28年度(判時2342号),平成29年度(判時2374号),平成30年度(判時2420号),令和元年度(判時2442号),令和2年度(判時2498号),令和3年度(判時2524・2525号),令和4年度(判時2563号),令和5年度(判時2595号),令和6年度(判時2629号)
- 各年度の分野内訳は,上記各号の目次・破棄事件一覧表・本文を実際に確認した。破棄判決の総件数は,平成27年度38件,平成29年度22件,令和2年度35件,令和3年度25件等を各号の概観で確認した。
2 本記事で新たに調査・付加した事項及びその出典
基礎資料以外に付け足した事項は,次のとおりです。
- 第5で言及した令和6年度の各判決・決定について,裁判所ウェブサイトの裁判例情報で実在・内容(破棄か否か)・正しい詳細ページURLを確認し,本文にリンクを設定した点。主なリンク先は次のとおり。
- 令和6年7月3日大法廷判決(優生保護法・国家賠償/破棄差戻し・原審仙台)
- 令和6年6月21日第二小法廷判決(認知/破棄自判・民集78巻3号315頁)
- 令和6年4月19日第二小法廷判決(株券・代位行使/破棄差戻し・民集78巻2号267頁)
- 令和6年4月26日第二小法廷判決(配置転換・職種限定合意/破棄差戻し・集民271号109頁)
- 令和6年9月13日第二小法廷判決(被用者年金一元化の経過措置/破棄自判・民集78巻4号1219頁)
- 令和6年10月16日第二小法廷決定(文書提出命令・刑訴法47条/破棄自判・集民271号147頁)
- 令和6年10月23日第三小法廷決定(文化功労者年金の強制執行/破棄差戻し・民集78巻5号1353頁)
- 令和6年11月12日第三小法廷判決(代襲相続/破棄自判・民集78巻6号1377頁)
- 令和6年12月23日第二小法廷判決(発信者情報開示/一部破棄自判・民集78巻6号1445頁)
- 平成21年度から令和5年度までの各分野・各事例(過払金,石綿,不当労働行為,性別変更と嫡出推定,監督義務者責任,弁護士会照会,選挙無効等)は,各年度の年次報告の目次・一覧表・本文に基づく書誌であり,本記事ではリンクを付していない。実際の引用に当たっては裁判所ウェブサイトで内容を確認されたい。
- 各分野の「破棄の着眼点」及び「二つの集団訴訟の波(過払金・石綿)」という整理は,上記各破棄事例が示した判断の型を,破棄を狙う実務家の観点から本記事が整理したものである。
- 平成8年民事訴訟法改正(平成10年1月1日施行)による上告理由の制限及び上告受理制度の新設に関する記述の裏付け。出典:裁判所ウェブサイト「最高裁判所における訴訟事件の概況」脚注3・4(法務省民事局参事官室編「一問一答・新民事訴訟法」341頁・343頁を引用)。
- 読者が破棄率等を自ら確認する方法として司法統計年報を案内した点。出典:裁判所「司法統計年報」。