メインコンテンツへスキップ
       

令和5年司法試験民事系第1問(民法)の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した80項目と5段階の重み付け(AIリライト)

第1 この記事の対象と結論

令和5年司法試験の民事系科目第1問(民法)について,公式問題,出題の趣旨及び採点実感を基に整理した80の評価項目と,約5200字の模範解答を示します。重み5は15項目です。評価項目と重みは本記事の独自分析であり,法務省の採点基準・配点ではありません。

設問1では,配偶者短期居住権の成立・消滅と共有持分による使用権限を分けます。答案は,Dの短期居住権は消滅したと解する一方,共有持分により明渡しを拒めても,持分を超える使用利益の対価までは拒めないとしています。設問2では,個別契約上の受領義務を認めて催告解除を肯定し,代金相当額から保持するコイの価値を控除し,釣堀利益を含む賠償額を40万円としています。設問3では,実体的効力と差押え手続の根拠を分け,異常な転貸借には物上代位を認め,5月分は否定し,6月分以降を肯定します。

第4で評価項目と公式資料の対応を,第5で答案及び枠外の解説を掲載します。別の構成が許される事項と,本文が採った解釈の限界も解説します。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

一項目につき一つの判定対象とし,答案の何を評価するかが分かる形に要約しています。番号1~80は従前のR1~R80と対応します。「必須」「高評価」「負例」「許容分岐」の区分及び最初に抽出した資料の別は,重みとは別の情報です。負例は避けるべき説明,許容分岐はその立場を採る場合の条件を示し,複数の枝を全て併記することは求めません。

表の出典はPDFの物理頁と節を示します。出題の趣旨の節番号は「民事系科目・第1問」内,採点実感の節番号は同科目第1問の独立した記載内のものです。「記載なし」は対象範囲を読んだ結果,当該具体的事項の個別記載を確認できなかった場合です。「間接」は一般的な検討要求から関連を読み取る場合であり,個別事項への明示的な評価とは区別します。未読・閲覧禁止・検索で未発見を意味しません。

2 5段階の重み付けの基準

重みは,本記事の分析によるものであり,法務省の配点ではありません。

①重み5:採点実感が評価の分かれ目とした事項,又は答案の骨格そのもの。
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も高く評価した事項。
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け。
④重み2:一方が軽い表現で触れる補強の事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項。
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項。

各段階への件数の割当てはしません。重み4は双方の根拠を対応させます。終期,解除と賠償の併存,免責,控除の基準時及び通知後の遅滞継続に関する項目6・35・37・41~43・47は,採点実感で同じ具体的事項への個別評価が確認できないため,出題の趣旨に明示される事項として重み3に整理しています。

第3 本問の概要

設問1は,Aの死亡によりB・C・Dが甲建物を共同相続し,遺産分割が未了の状態で,BがDに明渡しと使用利益相当額を請求する事案です。DはAの生前から無償で居住していましたが,1階を無断改築して惣菜店を開業しています。Dの反論㋐(従前の無償居住)と反論㋑(共有持分)を,各請求との関係で検討します。

設問2は,売主Eがコイ100匹を提供したのに,買主Fが受領せず,Eが催告して契約を解除した事案です。⑴ではEの解除の主張の当否を,⑵では解除が正当との仮定を維持して,代金相当額100万円及び釣堀利益10万円の賠償請求を検討します。飼育負担,池の利用制限,代金支払期,通知時点及び市場価格の下落が意味を持ちます。

設問3は,Gの抵当不動産について,Gの弟Lが既存の賃貸借に割り込み,賃料3万円・転貸料25万円という関係を作出した事案です。HがLのKに対する転貸料を差し押さえられるか,5月分と6月分以降を分けて論じます。利息・遅延損害金及び敷金は検討から除外します。設問の配点割合は30:40:30ですが,以下の独自の重みとは対応しません。

第4 評価項目と重み

1 設問1⑴―請求の根拠と配偶者短期居住権

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1Bの共同相続と遺産分割未了から898条による遺産共有を示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p4・民事系第1問・設問1(1)p1・3⑴ア(ア),p2・3⑴ア(イ)(898条・共同相続)
2Bの持分が4分の1であることを相続関係と900条により示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p4・民事系第1問・設問1(1)p1・3⑴ア(ア),p2・3⑴ア(イ)(Bの持分割合)
3請求1を共有持分権に基づく返還請求として構成する。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
5p4・民事系第1問・設問1(1)p1・3⑴ア(ア),p2・3⑴ア(イ)(請求1の根拠)
4請求2を持分相当の使用利益の不当利得返還又は使用収益権侵害の不法行為として構成する。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
5p4・民事系第1問・設問1(1)p1・3⑴ア(ア),p2・3⑴ア(イ)(請求2の根拠)
51037条1項の要件に即してDの配偶者短期居住権の成立を当てはめる。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
5p5・民事系第1問・設問1(1)p2・3⑴ア(ア)②・(イ)(成立要件の全てと当てはめ)
6共同分割の場合の1037条1項1号の存続期間を示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
3p4・民事系第1問・設問1(1)間接:p2・3⑴ア(イ)(成立・消滅の法律要件の一般的指摘。1号の終期自体の個別記載なし)
7無断改築・開業が従前の用法に従う義務に違反することを1038条1項に即して示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p5・民事系第1問・設問1(1)p2・3⑴ア(ア)③・(イ)(無断改築・開業と用法遵守義務)
8用法違反による消滅を1038条3項の意思表示によるものとして構成する。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
5p5・民事系第1問・設問1(1)p2・3⑴ア(ア)③・(イ)(消滅請求の成立要件)
98月10日のBの発言を消滅請求の意思表示として具体的に評価する。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p5・民事系第1問・設問1(1)p2・3⑴ア(イ)(消滅の要件を事案に具体的に当てはめる)
10共有建物の各共有者による単独の消滅請求の可否を理由付きで論じる。
区分:高評価/抽出元:出題の趣旨由来
3p5・民事系第1問・設問1(1)記載なし
11無償権原の成立・消滅が請求1と請求2の双方に及ぼす効果を分けて示す。
区分:必須/抽出元:採点実感由来
4間接:p4~5・1⑴ア~ウ(両請求の根拠と権原の成立・消滅)p2・3⑴ア(イ)(両請求の根拠と権原の成立・消滅)
12配偶者居住権だけを論じて短期居住権の検討を欠く誤りをしない。
区分:負例/抽出元:採点実感由来
2間接:p4~5・1⑴イ(短期居住権の検討)p2・3⑴ア(ア)②・(イ)不良例
13平成8年判例の使用貸借推認を採る場合には短期居住権創設後の関係を理由付きで論じる。
区分:許容分岐/抽出元:出題の趣旨由来
3p5・民事系第1問・設問1(1)p2・3⑴ア(ア)②(改正後の使用貸借推認)

2 設問1⑵―共有持分と使用利益

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
14Dの相続共有持分が2分の1であることを示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p5・民事系第1問・設問1(2)p2・3⑴イ(ア)①・(イ)(Dの2分の1持分)
15遺産共有にも通常の共有の規律が適用されることを明示する。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p5・民事系第1問・設問1(2)p2~3・3⑴イ(イ)(遺産共有への共有規律の適用)
16249条1項による共有物全体の使用権限と正当な占有権原を示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p5・民事系第1問・設問1(2)p2・3⑴イ(ア)①・(イ)(持分に基づく使用権限)
17共有者に当然明渡しを請求できず,請求者が明渡しを求める理由を主張立証すべきことを示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
5p5・民事系第1問・設問1(2)p2・3⑴イ(ア)②・(イ)(明渡しを求める理由)
18使用者の決定が252条1項後段の管理事項であることを示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p5・民事系第1問・設問1(2)p2・3⑴イ(イ)(使用者決定は管理事項)
19BがCの同意を得ても過半数に達しない事案の数値関係を示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p5・民事系第1問・設問1(2)p2・3⑴イ(イ)(Bは過半数決定を得られない)
20249条2項により持分超過の使用利益取得は正当化されず,請求2を拒めないと理由付ける。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
5p5・民事系第1問・設問1(2)p2~3・3⑴イ(ア)③・(イ)(超過使用利益を正当化できない)
21無断改築だけを直ちに明渡しの理由とする誤りをしない。
区分:負例/抽出元:採点実感由来
2記載なしp2・3⑴イ(ア)②(無断改築と明渡しの理由)

3 設問2⑴―受領義務と催告解除

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
22解除の根拠を受領義務の不履行による541条の催告解除と特定する。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p5・民事系第1問・設問2(1)p3・3⑵ア(ア)①・(イ)(義務と解除要件の基本構造)
23一般的な受領義務を否定する判例・通説の立場と個別義務の可能性を示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p6・民事系第1問・設問2(1)p3・3⑵ア(ア)①・(イ)(一般的義務と個別義務)
24一般的義務否定の理由を受領遅滞・供託等の別制度による保護に接続する。
区分:高評価/抽出元:出題の趣旨由来
3p6・民事系第1問・設問2(1)記載なし
25個別契約の解釈・信義則又は類型的売買義務のどの立場によるかを理由付きで示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
5p6・民事系第1問・設問2(1)p3・3⑵ア(イ)(学説対立を念頭に理由と自説を明示)
26毎日の世話と乙池の他用途利用妨害を個別受領義務の当てはめに使用する。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p6・民事系第1問・設問2(1)p3・3⑵ア(ア)①・(イ)(契約の個別事情と具体的当てはめ)
27一般的受領義務を認める構成でも判例・通説を踏まえた自説なら許容されることを保持する。
区分:許容分岐/抽出元:出題の趣旨由来
1p6・民事系第1問・設問2(1)間接:p3・3⑵ア(イ)(理由を示した自説。一般的義務肯定枝の同等評価の個別記載なし)
28受領義務否定の結論も個別事情の説得的な検討があれば許容されることを保持する。
区分:許容分岐/抽出元:出題の趣旨由来
1p6・民事系第1問・設問2(1)p3・3⑵ア(ア)①・(イ)(本問で義務を全く認めず解除を検討しない答案への否定的指摘)
2910月1日の全部搬入・終日待機を493条本文の現実の提供と評価する。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p6・民事系第1問・設問2(1)p3・3⑵ア(ア)②・(イ)(Eの履行の提供と解除要件)
30提供にもかかわらず不受領が継続したことを受領義務の履行遅滞と接続する。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p6・民事系第1問・設問2(1)p3・3⑵ア(ア)②(提供による受領義務の履行遅滞)
3110月16日から30日までを相当期間の催告として当てはめる。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p6・民事系第1問・設問2(1)p3・3⑵ア(ア)②・(イ)(催告期間内の不履行と解除要件)
3210月16日の告知を期間内不履行という停止条件付き解除表示とする。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
5p6・民事系第1問・設問2(1)p3・3⑵ア(ア)②(停止条件付き解除表示)
33541条ただし書の軽微性について具体的に検討する。
区分:高評価/抽出元:採点実感由来
3記載なしp3・3⑵ア(ア)②(541条ただし書の軽微性)
34受領義務の存否と受領遅滞の成立を混同しない。
区分:負例/抽出元:採点実感由来
2間接:p6・2⑴ア~イ(受領義務の成否と義務不履行を区別)p3・3⑵ア(ア)①・(イ)(受領義務と受領遅滞の混同)

4 設問2⑵―損害賠償の根拠・範囲・額

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
35解除は545条4項により損害賠償を妨げないことを示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
3p6・民事系第1問・設問2(2)間接:p4・3⑵イ(イ)(賠償請求の根拠。545条4項自体の個別記載なし)
36受領義務の不履行について415条1項を賠償の根拠とする。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p6・民事系第1問・設問2(2)p4・3⑵イ(ア)①・(イ)(義務不履行に基づく賠償請求の根拠)
37Fに415条1項ただし書の免責事由がないことを当てはめる。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
3p6・民事系第1問・設問2(2)間接:p4・3⑵イ(イ)(賠償請求の根拠。415条1項ただし書の個別記載なし)
38解除により415条2項3号の履行に代わる賠償が可能となることを示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p6・民事系第1問・設問2(2)p4・3⑵イ(ア)①・(イ)(解除による履行に代わる賠償)
39解除で代金債権が消滅するため代金相当額100万円の填補賠償がまず成立する構造を示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
5p6・民事系第1問・設問2(2)p4・3⑵イ(ア)②・(イ)(代金債権消滅と代金相当額賠償)
40引渡債務からの解放によるコイの価値を損益相殺又は同等の損害解釈で控除する。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
5p7・民事系第1問・設問2(2)p4・3⑵イ(ア)②④・(イ)(損益相殺又は同等の損害解釈)
41解除前は契約に拘束され他への処分ができないことを控除基準時の理由にする。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
3p7・民事系第1問・設問2(2)間接:p4・3⑵イ(イ)(損益相殺と適切な結論。解除前の処分拘束自体の個別記載なし)
42解除後の保管負担を避ける早期処分の期待を基準時の理由にする。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
3p7・民事系第1問・設問2(2)間接:p4・3⑵イ(イ)(損益相殺と適切な結論。解除後の早期処分期待自体の個別記載なし)
43主位として解除時相場70万円を控除し代金部分を30万円とする。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
3p7・民事系第1問・設問2(2)間接:p4・3⑵イ(イ)(損益相殺と適切な結論。70万円・30万円の個別記載なし)
44解除時以降の別時点を採る構成も説得的論拠があれば許容する。
区分:許容分岐/抽出元:出題の趣旨由来
1p7・民事系第1問・設問2(2)記載なし
45釣堀営業計画を特別事情,逸失利益を416条2項の特別損害と分類する。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p6・民事系第1問・設問2(2)p4・3⑵イ(ア)③・(イ)(416条2項と釣堀利益)
46特別事情の予見の基準を不履行時までとする判例の考え方を理由付きで示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
5p6・民事系第1問・設問2(2)p4・3⑵イ(ア)③・(イ)(416条2項の解釈と理由)
4710月16日の通知後も履行遅滞が続いたことを予見可能性に当てはめる。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
3p7・民事系第1問・設問2(2)間接:p4・3⑵イ(イ)(本問の事情の具体的当てはめ。10月16日後の遅滞継続自体の個別記載なし)
48実際に告げられた事実だけでなく416条2項の規範的な予見すべき基準で評価する。
区分:高評価/抽出元:出題の趣旨由来
3p7・民事系第1問・設問2(2)間接:p4・3⑵イ(イ)(416条2項の解釈と理由)
49判例を説明してから契約締結時予見説を採る別解も許容する。
区分:許容分岐/抽出元:出題の趣旨由来
1p7・民事系第1問・設問2(2)間接:p4・3⑵イ(イ)(自説を理由付きで述べる。契約締結時説自体の個別記載なし)
50釣堀利益10万円について因果関係・設問上の利益確定を踏まえ自説の結論を示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p7・民事系第1問・設問2(2)p4・3⑵イ(ア)③・(イ)(釣堀利益の事情と適切な結論)
51コイ市場価値そのものを失ったとして60〜80万円を損害額とする誤りをしない。
区分:負例/抽出元:採点実感由来
2間接:p6~7・2⑵イ・エ(代金債権消滅と保持するコイ価値の控除)p4・3⑵イ(ア)②・(イ)不良例
52代金価格と市場価格の差額による損害解釈も実質が正しければ評価される。
区分:許容分岐/抽出元:採点実感由来
3間接:p6~7・2⑵イ・エ(代金相当額から価値を控除。差額構成自体の個別記載なし)p4・3⑵イ(ア)②・(イ)(差額の損害解釈も評価)

5 設問3―転貸料への物上代位

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
53賃料への物上代位について371条実体根拠説又は372条・304条実体根拠説の立場と条文の役割を明確にする。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
5p7・民事系第1問・設問3p4~5・3⑶ア①・イ(371条と372条・304条の関係)
54抵当権の効力が賃料に及ぶ理由を担保の本質又は関係者利益から理由付ける。
区分:高評価/抽出元:出題の趣旨由来
4p7・民事系第1問・設問3p4・3⑶ア①,p5・3⑶イ(効力が賃料に及ぶ理由と自説)
55物上代位権の行使が担保権実行でありα債権の不履行を要件とすることを示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p7・民事系第1問・設問3p4・3⑶ア①(被担保債権の不履行)
56転貸料への物上代位は原則否定されると示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p8・民事系第1問・設問3p5・3⑶ア②・イ(平成12年の判例法理と定式)
57原則否定の理由として所有者が物的責任を負うことを示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p8・民事系第1問・設問3p5・3⑶ア②(判例法理と改正後の自説との整合)
58原則否定の理由として正常な転貸人の独立した利益を保護する。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p8・民事系第1問・設問3p5・3⑶ア②(判例法理と改正後の自説との整合)
59371条実体根拠説なら旧304条の債務者文言を原則否定の根拠に混用しない。
区分:負例/抽出元:出題の趣旨由来
2p8・民事系第1問・設問3p5・3⑶ア②(改正後371条と判例法理の整合)
60転貸人を所有者と同視するのが相当な場合という平成12年決定の例外定式を示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
5p8・民事系第1問・設問3p5・3⑶ア②・イ(例外の定式)
61LがGの弟であることだけでは同一人又は当然同視としない。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
3p8・民事系第1問・設問3間接:p5・3⑶イ(具体的事情の当てはめ。兄弟関係だけでは同一人でない旨の個別記載なし)
62従前賃貸借を解除してLが割り込んだことを例外の事実評価に用いる。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p8・民事系第1問・設問3p5・3⑶イ(例外定式に本問の事情を丁寧に当てはめる)
63資金繰り悪化後かつα弁済期直前という時期を妨害目的の推認に用いる。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p8・民事系第1問・設問3p5・3⑶イ(例外定式に本問の事情を丁寧に当てはめる)
64原賃料3万円と転貸料25万円の大きな差を異常性の根拠として用いる。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p8・民事系第1問・設問3p5・3⑶イ(例外定式に本問の事情を丁寧に当てはめる)
65原賃料すら実際には払わない事情を同視の根拠に用いる。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p8・民事系第1問・設問3p5・3⑶イ(例外定式に本問の事情を丁寧に当てはめる)
66一般的な債権回収自体と先行抵当権を害する不当な回収を区別する。
区分:高評価/抽出元:出題の趣旨由来
3p8・民事系第1問・設問3記載なし
67具体的な異常取引から妨害又は不当回収目的を推認しLをGと同視して転貸料への代位を認める。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
5p8・民事系第1問・設問3p5・3⑶ア②・イ(本問の事情による例外の肯定)
686月分以降はα不履行後の賃料であり自説の根拠で代位できると示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p8・民事系第1問・設問3p5・3⑶ア③・イ(不履行前後の区別と逆転答案への否定的指摘)
695月分はα不履行前に発生し,その扱いが371条との関係で問題になることを示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p8・民事系第1問・設問3p5・3⑶ア③・イ(不履行前賃料と371条)
70不履行前賃料の肯定説の論拠を自説への反論として検討する。
区分:高評価/抽出元:出題の趣旨由来
3p8・民事系第1問・設問3間接:p5・3⑶ア③(学説の議論。一方の具体的論拠の個別記載なし)
71371条の生じたという文言に即して,発生時と期限を区別した解釈を示す。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
4p9・民事系第1問・設問3p5・3⑶ア③・イ(371条の文言との関係)
72不履行前賃料の肯否は選択した賃料物上代位の実体根拠と整合させる。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
5p9・民事系第1問・設問3p5・3⑶ア③・イ(最初の物上代位根拠との一貫性)
73371条実体根拠説を採っても非占有担保・収益執行の準用規定との関係を理由付きで説明する。
区分:高評価/抽出元:出題の趣旨由来
3p9・民事系第1問・設問3間接:p5・3⑶イ(自説と整合する論拠。強制管理と収益執行の個別記載なし)
74304条実体根拠説を採った場合には371条の文言だけで結論を出さない。
区分:許容分岐/抽出元:出題の趣旨由来
3p9・民事系第1問・設問3間接:p5・3⑶ア③・イ(自説と整合する論拠)
75不履行前のみ肯定し不履行後を否定する逆転した結論をしない。
区分:負例/抽出元:採点実感由来
2間接:p8~9・3⑶(不履行前後の区別)p5・3⑶ア③・イ不良例
76金銭払渡し前の差押えという304条1項ただし書の手続要件を本件日時に当てはめる。
区分:必須/抽出元:出題の趣旨由来
3p7・民事系第1問・設問3記載なし

6 答案全体

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
77主要論点だけでなく法律効果の全要件を具体的に点検する。
区分:高評価/抽出元:採点実感由来
3間接:p4~9・各設問(要件に即した検討要求)p6・4・第1の指摘
78財産状態と損害額の妥当性を照合して過剰賠償を防ぐ。
区分:高評価/抽出元:採点実感由来
3間接:p6~7・2⑵イ・エ(財産状態と損益相殺)p6・4・第2の指摘
79特定条文の特定文言の解釈として自説を論じる。
区分:高評価/抽出元:採点実感由来
3間接:p9・3⑶(371条の文言)p6・4・第3の指摘
80判例の事実・価値判断・論理構造と射程を踏まえ,異説なら判例を正確に説明して批判する。
区分:高評価/抽出元:採点実感由来
3間接:p8~9・3⑵~⑶(判例の論理と自説の一貫性)p6・4・最後の指摘

7 重みの分布

重み5は15項目,重み4は32項目,重み3は23項目,重み2は6項目,重み1は4項目です。総項目数は80,重み合計は288です。全ての評価表の実数から再計算しています。合計は公式配点,予測得点又は難易度を示しません。

重み5の15項目は,請求の法的構成(3・4),短期居住権の成立・消滅(5・8),共有者間の明渡しと使用対価の区別(17・20),受領義務の根拠と解除表示(25・32),代金喪失・価値控除・特別損害の解釈(39・40・46),物上代位の実体根拠・例外定式・具体的当てはめ・一貫性(53・60・67・72)です。採点実感が水準差に挙げる事項と,論述を組み立てる骨格を重視しています。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

令和5年7月13日の試験実施時に施行されていた法令を基準とします。設例の日付ではなく,試験時の施行法を使うという問題文の指定に従います。答案は1→(1)→アの階層で,請求・反論の順に問題提起,規範,事実評価,結論を示します。表示上の段落・見出し・末尾「以上」を含め5136字です。

判決・決定に触れる箇所は法廷意見の規範・理由を用いており,補足意見を主たる規範としていません。共有者単独の短期居住権消滅請求,受領義務の契約解釈,控除の基準時,5月分賃料の扱いなどは,本答案が採った解釈です。最高裁が本問の結論を全て確定したものではありません。設問2⑵の仮定及び設問3の除外事項を維持します。

2 答案

1 設問1

(1) 請求の根拠

ア Aの死亡により,その子B・Cと配偶者Dが共同相続人となり(887条1項,890条),遺産分割未了の甲建物は遺産共有となる(898条)。持分はDが2分の1,B・Cが各4分の1である(900条1号・4号)。請求1はBの共有持分権に基づく返還請求としての明渡請求である。請求2は,DがBの持分に対応する使用利益を法律上の原因なく取得していることを理由とする不当利得返還請求(703条)と構成できる。その額は適正賃料月20万円の4分の1である月5万円となる。以下,Dの各反論を別々に検討する。

(2) 反論㋐

ア DはAの配偶者であり,相続開始時にA所有の甲建物に無償で居住していた。配偶者居住権を取得した事情も,欠格・廃除により相続権を失った事情もない。したがって,Dは居住していた部分につき配偶者短期居住権を取得する(1037条1項)。甲建物につきDを含む共同相続人間で分割すべき場合なので,その期間は,分割により帰属が確定した日又は相続開始から6か月を経過した日のいずれか遅い日までである(同項1号)。8月31日には分割未了で6か月も経過せず,通常の終期は到来していない。また,この場合は1037条3項の任意の消滅申入れの対象ではない。

イ もっとも,Dは従前の用法に従い善良な管理者の注意をもって建物を使用すべき義務を負う(1038条1項)。甲建物は従前居住用であったのに,Dは他の取得者の同意なく1階を店舗用に改築して惣菜店を開業した。2階で居住を続けても,建物の利用を営業用へ変更する行為は従前の用法に反する。この違反があるとき,居住建物取得者は意思表示により短期居住権を消滅させることができる(同条3項)。長期の配偶者居住権の場合と異なり,同項に是正の催告の要件はない。

ウ Bも持分を相続した居住建物取得者である。各取得者に対する法定の用法遵守義務の違反を理由に,自己の持分に対する不当な使用を排除する消滅請求であるから,各共有者が単独で行使できると解する。共有物の使用者を新たに定める管理決定そのものとは区別される。Bの「住む権利はない。直ちに出て行くように」との発言は,違反を知った上で使用権原の消滅を求める表示と解され,8月10日に短期居住権は消滅した。よって,請求時点では反論㋐によって請求1を拒むことはできない。

エ 請求2についても,短期居住権に基づく従前の居住使用は無償であり,その期間の使用利益には法律上の原因がある。消滅は遡及しないため,4月2日から直ちに建物全体について月5万円の支払義務が生ずるわけではない。他方,店舗としての使用まで当然に無償権原に含まれるわけではない。少なくとも8月10日以後の全体使用については,この反論によって請求2を拒むことはできない。

オ なお,被相続人と同居していた相続人への無償使用の合意を推認する平成8年12月17日判決は,短期居住権創設前のものである。現行法でも別個の契約が成立する余地はあるが,配偶者という事情のみから法定の用法遵守・消滅の規律を外す無期限の権原を重ねて推認すべきではない。本問は法定権原を主位として検討する。

(3) 反論㋑

ア 遺産共有も通常の共有と性質を異にせず,249条以下の規律が適用される。Dは2分の1の持分を有し,249条1項により共有物全部を持分に応じて使用する権限を有する。短期居住権が消滅しても,この持分に基づく占有権原は失われない(1040条ただし書も参照)。共有者が他の共有者に明渡しを求めるには,当然に請求できるのではなく,明渡しを求める理由を主張立証しなければならない(昭和41年5月19日判決)。

イ 共有者の誰が使用するかの決定は管理事項であり,持分価格の過半数で決する(252条1項後段)。Bは4分の1しか有せず,Cの同意を得ても合計2分の1で過半数に達しない。したがって,管理決定を根拠にDの使用を排除する理由はない。無断改築が251条に反するとしても,その是正は原状回復等によるべきであり,それだけで共有持分による占有権原を失わせるものではない。よって,Dは反論㋑によって請求1を拒むことができる。

ウ しかし,全体の占有権原があることは,他の共有者の持分を超える使用利益を無償で享受できることを意味しない。別段の合意がなければ,持分を超える使用の対価を償還すべきである(249条2項)。Dは建物全体を単独で使用し,Bの4分の1に対応する利益も得ているから,共有持分だけを理由として請求2を拒むことはできない。短期居住権等の別個の無償権原がない期間について,月5万円の支払義務を負う。

2 設問2

(1) 解除の根拠と当否

ア Eは,Fの受領義務の不履行を理由とする催告解除を主張している(541条)。代金支払期は引渡し後2か月以内であり,引渡しがない本問では代金支払遅滞による解除ではない。まず,受領遅滞と契約上の受領義務の不履行を区別する必要がある。受領遅滞には保管上の注意義務軽減・増加費用負担(413条),供託等の手当てがあるので,債権者が受け取らないことだけで債務不履行による解除を認める必要はない。判例・通説も一般的受領義務を否定するが,個別の契約解釈又は信義則により受領義務が認められる場合はある。

イ 本件は,生きた鯉100匹全部の売買で,引渡日と場所を定めている。不受領が続けばEは毎日の世話を負い,乙池が塞がれて他の用途に使えない。代金の支払期も引渡しに連動するから,受領をFの自由に任せるとEは保管負担を負ったまま代金回収もできない。この契約の内容・性質から,指定期日に受領する義務を認めるべきである。釣堀計画は契約後のEの計画であり,これ自体を契約成立時の義務の根拠とするわけではない。

ウ Eは10月1日に全部の鯉を容器に入れて指定事務所へ搬入し,終日Fを待っており,契約の本旨に従った現実の提供をした(493条本文)。それにもかかわらずFが受領しなかったため,受領義務の履行遅滞が成立する。その後もEは受領を催告し,鯉を飼育していた。池に戻したのは生物の保管のためで,前日連絡を求めたのも搬出準備のためであり,引渡しの意思・準備を撤回したものではない。

エ さらに10月16日,30日までに受領するよう催告した。既に履行期を過ぎた受領のために約2週間を与えており,相当の期間である。Fは自己の輸出事業中止を理由に全量を受け取らず,その不履行は,保管・池利用・代金回収への支障を踏まえると軽微ではない(541条ただし書)。Eに帰責事由もない(543条)。「受け取らなければ31日付けで解除する」との告知は,期間内の不履行を停止条件とする解除の意思表示を含む(540条)。期間内に受領がなく条件が成就したため,10月31日に解除は有効に生じ,Eの主張は正当である。

(2) 損害賠償

ア 解除は債務不履行による損害賠償を妨げない(545条4項)。Fは受領義務を履行せず,事業中止は自己の営業判断であり,契約及び取引上の社会通念に照らして免責事由はない(415条1項ただし書)。解除に伴い,Eは履行に代わる賠償を請求できる(同条2項3号)。受領義務の履行遅滞により解除に至り,Eの代金債権は消滅したから,それに代わる填補賠償として代金相当額100万円の損害が認められる。コイの市場価値そのものを失ったわけではない。

イ 釣堀利益10万円は,乙池での営業計画という特別事情から生じた損害であり,416条2項の問題となる。不受領のため池を空けられず,営業を断念したので因果関係がある。利益の額・確実性は設問の前提である。判例は,債務不履行時までに特別事情を予見すべきであったことを要求する。不履行を回避できる段階で事情が判明すれば,債務者にその損害を避ける行動を期待できるからである。

ウ Fは10月16日に計画と池を空ける必要を知らされ,その後も受領義務の履行遅滞を継続した。催告期間内に受領すれば営業妨害を避けられ,通常,釣堀営業には収益が伴う。したがって,正確な利益額まで知る必要はないが,不受領により営業利益を失わせる特別事情は予見すべきであったと評価でき,10万円も賠償の範囲に入る。契約時には計画がなかったが,予見時点を契約締結時だけに固定する考え方は採らない。

エ もっとも,Eは解除によってコイの引渡債務を免れ,価値のある100匹を保持している。損益相殺として,その価値を賠償額から控除しなければならない。履行時なら代金を得る反面コイを給付するので,これを控除しないと履行された場合以上の利益を与えることになる。

オ Eは解除までは契約に拘束され,他へ自由に処分できない。他方,解除後は保管負担を免れるため早期処分が期待される。そこで,下落傾向の下では解除時の市場価格70万円を控除の基準とするのが相当である。10月初めの80万円では契約維持中の拘束を無視し,11月末の60万円では解除後の保有に伴う下落まで当然にFへ転嫁することになる。合理的な処分に期間を要するなどの事情があれば別の時点も考えられるが,その事情は本問から明らかでない。よって,賠償額は100万円と10万円の合計から70万円を控除した40万円となり,110万円全部の請求は認められない。

3 設問3

(1) 賃料への抵当権の効力と実行

ア 抵当権は非占有担保で,平常時には所有者の使用収益を妨げないが,被担保債権の不履行後は果実にも効力が及ぶ(371条)。賃料は法定果実であり,交換価値の実現を補完する収益も不履行後の担保に取り込むことは,担保権者と所有者の利益調整にかなう。本問では賃料への実体的効力の根拠を371条に求め,物上代位による差押えの根拠を372条が準用する304条1項ただし書に求める。差押えは担保権実行であり,α債権が5月31日に弁済されず不履行となったことが必要であり,本問はこれを満たす。

(2) 転貸料への物上代位

ア 申立ての対象は,GのLに対する3万円の賃料ではなく,LのKに対する25万円の転貸料である。平成12年4月14日決定は転貸料への物上代位を原則否定する。抵当不動産で物的責任を負うのは所有者であり,転貸人の独立した債権までその弁済に供すべきでないこと,正常な転貸借の利益を保護すべきことが理由である。本問の371条を実体根拠とする立場でも,この価値判断は妥当する。ただし,同決定は平成15年改正前のものであり,旧304条の「債務者」の文言による説明を,そのまま本問の実体的効力の理由として援用するものではない。

イ もっとも,抵当不動産の賃借人を所有者と同視するのが相当な場合には,例外として転貸料への物上代位を認める。LがGの弟であるだけでは同視できないが,資金繰り悪化後かつα弁済期の直前に,Lが既存の賃貸借関係に割り込み,同じKの使用を続けたまま法形式を置き換えている。原賃料は25万円から3万円へ著しく減り,その3万円も払わない合意である一方,Lは25万円を取得する。これはGの収益をLに移し,Hの担保収益を失わせる仕組みである。

ウ 債権回収自体が不当なわけではないが,先行抵当権の登記後に一般債権者Lがこのように介入してβを回収することは,抵当権の行使妨害又は不当な回収目的と評価できる。各事情を総合すればLをGと同視するのが相当であり,転貸料25万円全体について物上代位を認められる。

(3) 5月分と6月分以降

ア 5月分はαの不履行前に生じた賃料である。不履行後に実行するなら,抵当権が潜在的に使用収益価値も把握することや収益執行の規律との均衡から,これにも及ぶとの見解がある。しかし,抵当権の非占有担保としての性質と,371条の「その後に生じた」という文言から,実体的効力は不履行後の果実に限られると解する。強制執行としての強制管理と担保権実行としての収益執行では対象の根拠・範囲が異なり得るので,収益執行への手続規定の準用だけから実体的効力を広げるべきではない。この理解は前記の371条実体根拠説と整合する。

イ 5月分の支払期限を6月30日に延ばしても,5月の使用の対価が発生した時期は変わらない。よって,5月分には物上代位できない。6月分以降はα不履行後の果実なので対象となる。また,304条1項ただし書の払渡し前の差押えを要するところ,6月20日の申立て時点で未払で,6月分の支払予定日は30日であるから,この要件も満たし得る。したがって,Hはα債権の満足に必要な範囲で6月分以降を差し押さえることができる。

以上

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

答案1(1)は評価項目1~4に対応し,重み5の3・4について,Bの明渡請求と使用利益請求の法的構成を先に示しています。1(2)は5~13に対応し,5の成立要件と8の消滅事由・意思表示を区別します。1(3)は14~21に対応し,17の明渡しを求める理由と20の超過使用利益の対価を,別々の結論へつなげています。

答案2(1)は22~34に対応します。重み5の25はア・イで一般的義務否定と本契約の個別解釈を,32はエで催告と停止条件付き解除表示を示します。2(2)は35~52に対応し,39はアの代金債権喪失,46はイ・ウの416条2項の解釈及び予見可能性,40はエ・オの保持するコイ価値の控除に現れます。

答案3(1)は53~55・76に対応し,重み5の53について371条による実体的効力と372条・304条による手続を分けています。3(2)は56~67に対応し,60はイの所有者同視の定式,67はイ・ウの時期・賃料差・不払合意を評価した結論です。3(3)は68~75に対応し,72はア・イの不履行前賃料を否定する理由と,先に採った実体根拠との整合に現れます。77~80は,答案全体で要件,財産状態,文言及び判例の理由を点検する事項です。

(2) 設問1―占有権原と対価負担を分ける

短期居住権が成立しても,用法違反による消滅が別に問題になります。Bの単独の消滅請求を肯定する答案は,本件と直接一致する判決による確定ではなく,条文と制度趣旨による一つの解釈です。その後も共有持分による使用権限が残ること,正当な占有権原が他の共有者の使用利益まで無償化するわけではないことを分けます。無断改築だけから直ちに明渡しを認める説明は避けます。

(3) 設問2―義務・解除・賠償を順に検討する

受領遅滞の成立だけで解除を認めず,個別の受領義務,その不履行,提供・催告・解除表示を検討します。損害賠償では,代金債権を失ったことと,コイそのものを保持していることを区別します。採点実感は,代金価格と市場価格の差額を損害とする構成も評価しています。答案の二段階の計算だけが正解ではありません。

出題の趣旨は,理由を示した一般的受領義務肯定説や,説得的な個別事情の検討による義務否定も許容しています。一方,採点実感は,本問で義務を認めず解除を検討しない答案に否定的です。義務否定の結論が無条件に同等評価されると読まず,両資料の表現と理由付けの条件を併せて確認します。

416条2項について契約締結時を基準とする別説や,解除後の別時点を控除基準とする構成も,所定の理由付けにより許容されます。本答案の解除時70万円控除は,解除前の処分拘束と解除後の早期処分期待を踏まえた本問の選択であり,あらゆる売買で一律に用いる算式ではありません。

(4) 設問3―実体根拠と旧判例の理由を整合させる

371条を実体的根拠とする立場では,旧304条の「債務者」という文言を転貸料排除の実体的根拠へ混用しません。平成12年決定の所有者の物的責任と正常な転貸人の利益という価値判断を使い,所有者同視の例外を本問の異常な取引に当てはめます。不履行前賃料の肯定説も許容されますが,前に採った根拠説と一貫した理由が必要です。賃料発生と支払期限延期を混同しません。

(5) 答案の弱点と扱わなかった事項

単独の消滅請求,短期居住権と別個の使用貸借との関係,消滅表示前の店舗部分の対価配賦について,本問と直接一致する判決による確定は確認できていません。居住・店舗部分の価額配賦や合理的な処分に必要な期間など,問題文にない事情・数値を補って確定しません。予見時点に関する大審院判決は公式資料の説明によるものであり,下記の原文実読済み判決とは確認状態が異なります。設問で除外された利息・遅延損害金・敷金も扱っていません。

第6 関連記事

1 同じ年度の司法試験の別の模範解答

①令和5年司法試験公法系科目第1問の模範解答・評価項目
②令和5年度司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した64項目と5段階の重み付け
③令和5年司法試験民事系科目第2問の模範解答・評価項目―一人会社の取締役責任と共有株式の議決権行使
④令和5年司法試験民事系第3問の模範解答・評価項目―違法収集証拠・不利益変更禁止・参加的効力
⑤令和5年司法試験刑事系第1問の模範解答・評価項目―詐欺の実行着手,共謀の射程と業務妨害
⑥令和5年司法試験・刑事系科目第2問の模範解答・評価項目
⑦令和5年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答

2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事

①買主の受領拒否―契約解除と損害賠償で異なる帰責事由の確認
②買主が目的物を受け取らないとき―受領遅滞・受領義務・催告解除・損害賠償

上記の実務記事は試験実施後の公表記事です。現在の相談での確認手順を示す参考記事として案内し,答案の法令基準時と区別します。

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

①令和5年司法試験論文式試験問題・民事系科目(法務省)(第1問・物理1〜4頁)
②令和5年司法試験論文式試験出題の趣旨(法務省)(民事系第1問・物理4〜9頁の該当部分を加工して評価項目を作成)
③令和5年司法試験の採点実感・民事系科目(法務省)(第1問・物理1〜6頁を加工して評価項目を作成)
④令和5年司法試験の実施日程等について(司法試験委員会)(民事系第1問の試験実施日)

2 法令

民法・2023年6月14日施行履歴版(e-Gov法令API)(試験時施行条文の確認。API形式)

3 裁判例

①最高裁昭和41年5月19日第一小法廷判決(裁判所)(共有者間の明渡請求・原文全3頁)
②最高裁平成8年12月17日第三小法廷判決(裁判所)(同居相続人と使用貸借の推認・原文全3頁)
③最高裁昭和40年12月3日第二小法廷判決(裁判所)(受領遅滞と解除・原文全2頁)
④最高裁平成12年4月14日第二小法廷決定(裁判所)(転貸料への物上代位の原則と例外・原文全3頁)

4 確認状態

公式問題は物理1~4頁,出題の趣旨は物理4頁の民事系第1問から9頁の第2問直前まで,採点実感は物理1~6頁の第1問の採点方針・各設問・末尾指摘を読み,本記事の評価項目と対応させています。出題の趣旨・採点実感は法務省の公開一次資料です。保存していた対象部分も今回読み直しています。法令は2023年6月14日施行履歴版の関係条文を試験実施時の規律として確認しています。

上記4件の最高裁判決・決定は裁判所の公開原文を全頁確認したものです。公式資料が説明する大正7年8月27日・昭和15年2月28日の大審院判決など,ここに原文実読済みとして掲げていない裁判例の原文は未閲覧です。未閲覧を検索で未発見又は裁判例が存在しないことと扱いません。判例秘書の原文は今回閲覧しておらず,出典には用いていません。

公式資料の記載は確認済みですが,項目への分割,重み,答案の解釈及び具体的当てはめは独自の分析です。法務省の内部の項目別配点及び本答案の公式得点は不明です。公開後の実務記事は答案の後年法・後年判例の根拠にはしていません。