第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日
法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会は,令和8年9月30日の第18回会議で,部会資料16「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた補充的な検討」を審議した。
同資料の第1は,上場会社の実質株主確認制度について,①株式会社から仲介機関を通じて実質株主を確認する制度(以下「確認制度」という。)と,②株主側から株式会社に大量保有報告書等の提出を義務付ける制度(以下「通知制度」という。)の二つを取り上げ,それぞれの義務違反に対する議決権の停止の要件を修正している。
本記事は,令和8年10月4日を基準日として,部会資料16,同日に配布された参考資料34(全国銀行協会が事務局を務める実務者検討会の意見)及び参考資料36(経済産業省産業組織課の意見書),部会資料13,e-Gov法令検索で確認した現行の会社法・金融商品取引法並びに判例秘書で全文を確認した裁判例を基に,修正の内容と実務への影響を整理する。
部会資料は事務当局の検討資料であり,本文は「どのように考えるか」という問いの形で書かれているから,ここで紹介する規律は要綱案になっておらず,法律として成立していない。
第18回会議の議事録は,基準日の時点で「準備中」である。
2 結論
確認制度について,部会資料16は,制度の中核的な趣旨を「株式会社と株主との間の建設的な対話の促進」とした上で,副次的な趣旨として「有事の場面における株式会社の支配に関する重要な情報の把握」を加え,仲介機関の義務違反による議決権の停止を,株主提案や臨時株主総会の招集請求で役員の選解任等が付議される有事の株主総会に限り,違反株式が発行済株式の200分の1(0.5%)以上である場合に限って認める案を示した。
通知制度について,部会資料16は,議決権の停止の対象を故意又は重大な過失による違反に限定し,故意・重過失は議決権を停止した上場会社が主張立証責任を負うとした上で,株主総会の前に会社から議決権行使禁止の仮処分を申し立てることが促される設計であると説明している。
経済産業省は,議決権の停止を有事に限ると平時の透明性が確保されないとして,義務違反ではなく「指図権者を確認できない」という状態を基準とし,転送報告義務,確認未了通知及び指図権者の自己申告を組み合わせる対案を示している。
第2 二つの制度の骨格
1 確認制度
部会資料13で示された確認制度の基本的な規律(部会資料16は同じであるとして省略している。)は,次のとおりである。
① 上場会社は,仲介機関である名義株主に対し,その名義株主が有する株式についての直近下位仲介機関又は指図権者に係る情報の提供を請求できる。
② 請求を受けた仲介機関は,直近下位仲介機関があるときは法務省令で定める期間内に請求を受けた旨を通知(転送)し,上場会社に対し,直近下位仲介機関又は指図権者の氏名・名称,住所,確認対象株式の数等を提供しなければならない。
③ 上場会社は,名義株主又はその下位仲介機関が定めた費用を支払わなければならない。
④ 故意又は重大な過失により転送や情報提供をせず,又は虚偽の情報を提供した者は,過料に処される。
ここでいう「指図権者」は,仲介機関以外の者で,信託契約その他の契約又は法律の規定に基づき,仲介機関に対して議決権の行使について指図を行うことができる権限を有する者をいう。
「仲介機関」は,信託会社,銀行,金融商品取引業者等で,第三者のために株式の管理及び処分を業として行う者をいい,振替機関等は除かれる。
2 通知制度
通知制度は,金融商品取引法により大量保有報告書又は変更報告書(以下「大量保有・変更報告書」という。)を提出しなければならない者に,その提出期限までに,同じものを株券等の発行者である上場会社にも提出させる制度である(部会資料13の第2の2(1)から(4)まで)。
金融商品取引法27条の23第1項は,上場されている株券等の保有者で株券等保有割合が100分の5を超える者に,大量保有者となった日から5日(日曜日その他政令で定める休日の日数は算入しない。)以内の大量保有報告書の提出を求めている。
同条3項は,自己又は他人の名義で株券等を所有する者のほか,契約等に基づき議決権の行使について指図を行うことができる権限を有する者で発行者の事業活動を支配する目的を有する者や,投資一任契約等に基づき投資に必要な権限を有する者も保有者に含めている。
部会資料13の案では,金融商品取引法による内閣総理大臣への提出をもって上場会社への提出に代えることができるから,大量保有報告書を適法に提出していれば,通知制度上の義務も果たしたことになる。
したがって,通知制度で問題になるのは,大量保有・変更報告書を提出すべきなのに提出しない場合や,重要な事項に虚偽記載・記載漏れがある場合である。
第3 確認制度の議決権の停止(部会資料16の修正)
1 第15回会議の議論
部会資料13は,確認制度の趣旨を「株式会社と株主との間の建設的な対話の促進」に求めた上で,仲介機関が故意又は重大な過失により転送義務・情報提供義務に違反した場合に,上場会社の議決権停止通知から1か月を経過すると名義株主が確認対象株式について議決権を有しなくなる規律を問題提起していた。
部会資料16によれば,令和8年6月24日の第15回会議では,「建設的な対話の促進」という趣旨では議決権の停止という重い制裁を正当化できないとの意見が多数あった。
他方,実効性確保の観点から議決権の停止に賛成する意見も多数あり,停止の範囲を更に限定すべきかで意見が分かれた。
部会資料16は,その分岐点を,①原則として会社は実質株主を知る権利を有すると考えるか,②原則として実質株主は素性を明らかにする必要はなく,会社が実質株主を知る必要がある場面に限って明らかにすれば足りると考えるかの違いにあったと整理している。
2 副次的な趣旨の追加
部会資料16は,②の考え方を採る場合でも,一定の有事の場面では,指図権者が明らかにされないことで上場会社ひいては株主の共同の利益が害される可能性が高く,有事に限れば仲介機関の悪意・重過失による違反に議決権の停止を課すことも相当であるとして,副次的な趣旨を「有事の場面における株式会社の支配に関する重要な情報の把握」に求める案を示した。
その説明は次のとおりである。
通知制度の通知義務は株主側で生じた事情によって生ずるため,上場会社が違反を覚知するには限界がある。
確認制度は,指図権者が自ら明らかにしない情報を仲介機関から取得できる制度であり,確認制度で得た情報が通知義務違反を覚知する端緒になり得る。
上場会社がその端緒を得て違反者に是正を求めれば,上場会社だけでなく株主も正しい大量保有情報にアクセスできるようになるから,株主の共同の利益に資する。
部会資料16は,この目的で多数の株主に情報を開示するとかえって濫用のおそれがあるため,株主総会で選任された取締役が代表して情報を取得・分析すれば足り,取締役による情報や議決権停止の濫用的な利用は善管注意義務違反になるとしている。
3 議決権の停止の要件
部会資料16の本文(1)カからサまでの規律の要旨は,次のとおりである。
| 要件・効果 | 内容 |
|---|---|
| 場面 | 仲介機関である基準日株主が行使できる権利が株主総会の議決権であり,上場会社が,その株主総会が会社法297条1項(招集請求),303条2項(議題提案)又は305条1項(議案要領通知請求)による請求で経営に重要な影響を与える事項として法務省令で定めるものを目的事項又は議案とするものであることを明らかにして確認請求をしたこと |
| 主観 | 故意又は重大な過失による転送義務・情報提供義務の違反 |
| 閾値 | 違反に係る株式(違反株式)の数が発行済株式(自己株式を除く。)の総数の200分の1以上 |
| 手続 | 取締役会の決議により,違反の内容を明らかにして,違反者(違反株式の基準日株主でない場合は違反者と基準日株主)に議決権停止通知をする |
| 効果 | 議決権停止通知の日から1か月を経過すると,基準日株主はその株主総会で違反株式について議決権を有しない |
| 適用除外 | 違反者が転送又は情報提供をした日から3週間を経過した場合,違反が指図権者を直近下位仲介機関と誤認したことに基づく場合 |
| 転送 | 議決権停止通知を受けた仲介機関は,直ちに直近下位仲介機関又は指図権者に通知しなければならない |
法務省令で定める事項としては,①役員の選任又は解任,②役員の構成の重要な変更(役員の数又は任期に係る重要な変更を含む。),③株式交換,株式移転,株式交付,会社の分割又は合併,④事業の全部又は一部の譲渡,譲受け,休止又は廃止,⑤解散が想定されている。
このうち②から④までの文言は,金融商品取引法施行令14条の8の2第1項5号から7号までが定める重要提案行為等の文言と同じである(本記事による照合)。
4 部会資料13からの主な変更点
① 部会資料13では,名義株主が有する確認対象株式の全体の議決権が停止され得たが,部会資料16は,停止の対象を違反があった部分(違反株式)に限ることを明確にした。
② 有事の株主総会であることを確認請求の際に明らかにすることを求めた。仲介機関が有事であることを認識せずに生じた違反を停止の対象にするのは酷であるためである。
③ 200分の1の閾値を設けた。
④ 部会資料13が適用除外としていた「違反の後最初に招集される株主総会の終結の時を経過した場合」は,部会資料16の本文には置かれていない。
⑤ 議決権停止通知の転送義務(本文(1)コ・サ)を新設した。
5 0.5%の閾値と分散保有
部会資料16は,違反株式の割合が僅少であれば,指図権者の情報が提供されても通知義務違反を覚知する端緒になる可能性が低いことを閾値の理由としている。
EUの第二次株主権利指令が,加盟国は一定の割合を超える株式又は議決権を有する株主に限って特定を請求できると定めることができ,その割合は0.5%を超えてはならないとしていることを紹介し,提案の割合はその上限と整合的であるとしている。
閾値を設けると,指図権者が0.5%未満の株式を有する多数の仲介機関に分散して指図権を持つことで停止を回避できるという懸念がある。
部会資料16は,例えば合計で5%を超える株式について指図権を持つ者は,少なくとも11の仲介機関に分散しなければ各仲介機関の割合が0.5%未満にならず,その費用や手間を考えると回避は必ずしも容易でないとしている。
6 指図権者の手続保障
議決権が停止されると,不利益を受けるのは実質的には仲介機関ではなく指図権者である。
部会資料16は,仲介機関は指図権者に対して指図どおりに議決権を行使する契約上又は法律上の義務を負い,停止されれば指図権者から責任を問われ得るから,抑止効果に欠けることはないとしている。
その上で,議決権停止通知の転送義務を課すことで,指図権者が違反をした仲介機関を通じて是正しやすくなり,是正から3週間を経過すれば停止されなくなるから,一定の手続保障がされているとしている。
7 主張立証責任
議決権の停止が違法であったとして決議取消しの訴えが提起された場合,議決権が停止されていることを主張する上場会社が,①有事の場面であることを明らかにして確認請求をしたこと,②転送義務・情報提供義務の違反,③違反者の故意・重過失等の要件について,主張立証責任を負うことが想定されている。
第4 通知制度の議決権の停止(部会資料16の修正)
1 規律の要旨
部会資料16の本文2(5)から(8)までの規律の要旨は,次のとおりである。
① 故意又は重大な過失により,上場会社への大量保有・変更報告書を提出せず,又は重要な事項につき虚偽記載・記載漏れがある報告書を提出した者(違反者)がある場合に,上場会社が違反者に議決権停止通知をした日から1か月を経過したときは,違反者が保有する当該上場会社の株式(通知後に保有するに至ったものを含む。)は,議決権を有しない。
② 議決権の行使の基準日を定めた場合は,基準日において違反者が保有する株式が対象となる。
③ 違反の事実が発生した日から5年間を経過した場合,又は大量保有・変更報告書の追完の日から1か月を経過した後最初に招集される株主総会の終結の時を経過した場合は,停止しない。
④ 議決権停止通知は,違反の内容を明らかにしてしなければならず,その決定は取締役会の決議による。
2 部会資料13からの主な変更点
(1) 故意・重過失への限定
部会資料13は,善意・無重過失による違反も対象とした上で,追完後3週間の経過で停止の効力を失わせる案であった。
第15回会議で,事務過誤による違反やみなし共同保有者に帰責事由がある違反も生じ得るとして,故意・重過失による違反に限るべきとの意見が複数あったことから,部会資料16は対象を故意・重過失による違反に限った。
これに伴い,みなし共同保有者に関する事項の誤認に起因する違反を停止の対象外とする規律は削除され,そうした違反も故意・重過失があれば停止の対象になる。
決議取消しの訴えでは,議決権を停止した上場会社が違反者の故意・重過失について主張立証責任を負うことが想定されている。
(2) 場面による限定をしない理由
確認制度とは異なり,通知制度には有事による場面の限定は加えられていない。
部会資料16は,通知義務の範囲が金融商品取引法の大量保有報告制度と同様に株券等保有割合が5%を超える者に限られ,その者は上場会社の経営に重要な影響力を有するから,場面を限らなくても議決権の停止による実効性確保の許容性が認められるとしている。
(3) 基準日との関係
通知義務の基準となる「保有」には基準日による限定が及ばない一方,議決権は基準日の名義株主が行使する。
部会資料16は,株主総会の時点で違反者が保有する全株式を停止の対象にすると,基準日株主が基準日後に市場で売却した株式を偶然違反者が取得した場合に,基準日株主がその株式の議決権を行使できなくなる不合理が生じるとして,基準日を定めた場合は基準日時点の保有株式を対象とする案を示した。
基準日後に株式を買い取った者が売主に指図して議決権を行使させる合意をした場合は,原則として両者が共同保有者(金融商品取引法27条の23第5項)となり,売主にも通知義務が生じるから,その違反があれば売主が基準日に保有していた株式として停止の対象になると説明している。
(4) 追完後の効力の消滅時期
従前の案では,故意・重過失による違反は追完後最初に招集される株主総会の終結時に停止の効力が失われるとしていた。
しかし,議決権停止通知から効力発生まで1か月あるため,株主総会の1か月前以降に生じた違反を総会の招集前に追完すれば,議決権が停止されることはなく抑止力に欠ける。
そこで,部会資料16は,追完から「1か月を経過した後」最初に招集される株主総会の終結時に効力が失われるよう改めた。
(5) 集計への反映の手当ての削除
部会資料13は,議決権の停止を株主総会の決議に反映するための手当ての要否を引き続き検討するとしていた。
第15回会議で,議決権行使プラットフォームを通じて指図権者が直接議決権を行使することもあり,仲介機関が指図権者ごとの行使状況を把握していないこともあるとの指摘があったため,部会資料16はこれを中長期的な検討課題とし,注記を削除した。
部会資料16自身も,違反者が実質株主である場合は,上場会社がその名義株主と議決権の行使状況を確実に確認する手段を欠くから,通知制度の議決権の停止の実効性には一定の制限があると認めている。
3 協調行動と決議取消し
部会資料16の注2は,株主総会の前に議決権が停止されなかった場合でも,複数の者が共同して役員の選任等の提案を行うことを合意し,協調して株式を取得しながら,故意に大量保有・変更報告書を提出せずに共同保有者であることを秘して一斉に議決権を行使し,株主提案を可決させたときは,そのような状況での議決権の行使が株主総会の決議の取消事由になることを想定している。
4 仮処分と誤った停止の救済
(1) 1か月の期間の意味
議決権停止通知から効力発生まで1か月の期間を置くのは,停止の効力を争う者が議決権の行使を許容する仮処分を申し立てる機会を保障するためであり,上場会社から議決権行使禁止の仮処分を申し立てることも想定されている。
「議決権停止通知をした日」は,通知が到達した日を指すことが想定されている。
(2) 誤って停止したまま決議が成立した場合
部会資料16は,被疑違反者が株主総会の前に争わなかったという一事で,直ちに決議の取消事由にならないと解することはできないとしている。
他方,株主総会の前に議決権行使禁止の仮処分命令が発令されていた場合は,後に本案で異なる判決が確定しても,仮処分命令は取り消されるまで有効で,取り消されても遡って効力を失わないから,決議に取消事由は認められないとする見解があるとし,この見解を前提にすれば,上場会社は総会前に仮処分命令を得て後の紛争に備えることができるとしている。
(3) 誤って停止したため決議が否決された場合
議決権を停止された大量保有者側に有効な救済手段がないとの懸念に対し,部会資料16は,①停止された側の賛成票を無効として集計したが正しく集計すれば決議が成立していたときは,取締役選任議案であれば取締役の地位確認の訴え等で争うこと,②大量保有者が賛成票を投ずる意向を持っていたのに上場会社が投票行為自体を妨げたときは,信義則上,賛成票があったものとして集計しなければならないと解釈して,同様に争うことが考えられないかとしている。
ただし,総会前に議決権行使禁止の仮処分命令が発令されていた場合は,決議が成立していたとは解せないという考え方もあり得るとしている。
部会資料16は,このように考えると,議決権停止通知をする上場会社が議決権行使禁止の仮処分を申し立てることが促され,不当な議決権の停止の防止を期待できると述べている。
議決権の停止を使う上場会社にとっては,停止通知と並行して仮処分を申し立てることが,実務上の標準的な手順になると考えられる(本記事の整理)。
第5 実質株主による代理出席と委任状の提出期限
1 部会資料16の提案
部会資料13は,上場会社が確認請求をした場合に,基準日株主が,情報提供された指図権者を代理人として議決権を行使することを禁止する定款の定めは効力を有しないとし,その場合には代理人の数の制限(会社法310条5項)を適用しないとする規律を示していた。
第15回会議では賛成意見が多数あった一方,事前連絡なく総会当日に来場した指図権者の入場資格の確認や,名義株主が議決権の不統一行使をする場合の集計で実務が混乱するとの懸念も多数あった。
部会資料16は,これらの懸念に解釈で対応することを提案している。
2 入場資格の確認
代理人によって議決権を行使する場合,株主又は代理人は代理権を証明する書面を提出しなければならない(会社法310条1項後段)。
株主総会の招集の決定事項として,代理権(代理人の資格を含む。)を証明する方法,代理人の数その他代理人による議決権の行使に関する事項を定めることができる(会社法298条1項5号,会社法施行規則63条5号)。
部会資料16は,上場会社は,①基準日株主が指図権者に代理権を授与していること,②その指図権者が情報提供された指図権者であり,株主総会の時点でも議決権の行使について指図権を有していることを確認することが考えられ,これらを証明する方法を招集の決定事項として定められるとしている。
株主総会時点の指図権の証明について,基準日株主が作成する証明書に,証明書提出時点で指図権を有すること,株主総会までに指図権に変更があれば速やかに上場会社に通知することを明記する方法を例示している。
3 委任状の提出期限に関する裁判例
部会資料16は,代理権を証明する書面の提出期限を定めることについて,東京地裁令和6年9月10日決定を引用し,解釈により合理的な結論を導くことが可能であるとしている。
この決定(令和6年(ヨ)第30142号,判例秘書の判例番号 L07932609)の事案は,東京証券取引所グロース市場に上場する会社の株主が,会社法297条4項の許可を得て招集した臨時株主総会について,会社の監査役が,代理人による議決権行使を制限している点で決議方法に法令・定款違反等があるとして,違法行為差止請求権(会社法385条の類推適用)を被保全権利として開催禁止の仮処分を求めたものである。
決定は,総会を招集する株主は,会社法298条及び会社法施行規則63条5号に基づき,代理権を証明する方法,代理人の数その他代理人による議決権の行使に関する事項を決定する権限を有するとした。
その上で,いつまでに委任状の提出を要するかについては法令にも定款や株式取扱規程等にも具体的な定めがなく,招集者の合理的な裁量に委ねられているとし,委任状の有効性の判断や集計に一定の時間を要することを考慮した期限設定の目的は合理的であり,午前9時開会の総会について前日午後5時30分までとした期限は,代理人により議決権を行使しようとする株主の便宜にも十分配慮した相当なもので,合理的な裁量の範囲内であるとした。
また,法人株主の代理人の本人確認書類が当初限定されていたことについても,招集者が招集通知の3日後に取扱いを改めてウェブサイトで公表し,全法人株主に速達で連絡したことにより,議決権行使の機会は実質的にみて十分に確保されているとし,被保全権利の疎明がないとして申立てを却下した。
監査役が株主の招集行為に会社法385条を類推適用できるかどうかについては,決定は判断していない。
4 議決権の不統一行使の場合
部会資料16は,名義株主が議決権を不統一行使し,一部を指図権者に代理行使させる場合は,集計のために,①代理権を授与した議決権の個数と,②その議決権に関する事前の議決権行使の状況を確認する必要があり,これらを明らかにしない代理行使は,賛否の内容が明らかでない議決権の行使と同様に無効と解さざるを得ないとしている。
例として,議決権1000個を持つ基準日株主Aが事前に600個を賛成,400個を反対で行使し,指図権者Bの指図権の対象が100個である場合に,Bが総会に代理出席して100個を反対に投じると,その100個の事前行使が賛成と反対のどちらだったかによって,Aの1000個の結果が賛成500個になるか賛成600個になるかが変わる。
部会資料16は,そのため②も代理権の範囲を画するもので,会社法310条1項後段及び会社法施行規則63条5号の「代理権」の証明の対象に含まれるとしている。
第6 経済産業省の対案(参考資料36)
1 確認制度
経済産業省産業組織課の意見書は,議決権停止の措置を設けること自体には賛成しつつ,有事の特定の場面に限ると,平時の大半の上場会社で確認制度の実効性が担保されず,対話の相手方の特定,機関投資家のスチュワードシップの確認,協調行動(ウルフ・パック)の捕捉及び外為法上の投資審査の実効性に影響するとしている。
その上で,議決権停止を「義務違反という行為に対する制裁」ではなく,「補完の機会を与えてもなお指図権者を確認できないという状態が継続することの帰結」と位置付け直し,次の枠組みを提案している。
① 平時の確認請求にも議決権停止が及ぶこととし,上場会社は電子公告で請求の事実を公表する。
② 各層の仲介機関に,転送先の名称等を上場会社に報告する「転送報告義務」を課し,どの層で情報の連鎖が切れたかを観測できるようにする。
③ 上場会社は,違反株式を特定して確認未了通知を発し,仲介機関経由の転送,電子公告及び議決権行使プラットフォーム上の表示で知らせる。
④ 指図権者は上場会社に直接申告できる。
⑤ 確認未了通知から3週間を経ても確認できないときは,取締役会決議で議決権停止通知をし,1か月経過後,株主総会の日の2週間前の日に停止を確定する。期間内に異議を述べ,訴訟手続を提起したときは,会社の主張に理由があるとの裁判所の判断があるまで停止しない。
⑥ 確定後も申告等があれば会社は遅滞なく停止を解除する(その総会の議決権には影響しない。)。
⑦ 情報の目的外利用の禁止と罰則,平時の請求回数の制限,違反株式0.5%未満の除外,同一の指図権者が複数の仲介機関に分散する場合の合算規定を置く。
意見書は,状態を基準にすれば,事務過誤であっても是正すれば停止されず,是正しなければ停止されるから,故意・重過失という主観的要件そのものが不要になるとしている。
また,部会資料16の案では,株主総会当日に会社法304条により役員選任議案の修正動議が出されるような場面を捕捉できず,金融商品取引法の重要提案行為等が行われている場面を含めることも考えられると指摘している。
故意・重過失に限るとしても,通知に応答しなかった場合に故意・重過失とみなすか,違反者側に善意・無重過失の立証責任を負わせるべきとしている。
2 通知制度
意見書は,通知制度では義務の名宛人と不利益を受ける者が一致しているから違反行為を停止の基準とすることも可能であるとしつつ,違反の多くが閾値の算定誤りや共同保有者の範囲の認定の齟齬など悪意によらない見解の相違から生じるとすれば,追完の機会を前置すべきであり,共同保有者の範囲や指図権の帰属の認定は本来金融庁と証券取引等監視委員会が第一次的な判断権限を持つ領域で,上場会社が一方的に認定して停止するのは適当でないとしている。
その上で,上場会社が通知未了通知をし,3週間以内の追完を認め,追完がなければ裁判所に議決権の行使停止の決定を申し立てる(1か月以内に異議も争訟もなければ取締役会決議で停止できる)こと,裁判所が金融庁長官に意見を求められること,大量保有報告書に指図権に関する事項が記載されていれば通知義務を履行したとみなすことなどを提案している。
これらは所管官庁の意見であって,部会の結論ではない。
第7 実務者検討会の意見(参考資料34)
参考資料34は,全国銀行協会が事務局を務める「実質株主確認制度整備に向けた実務者検討会」(投資家,仲介機関,発行会社及び振替機関の団体がメンバーで,金融庁,法務省及び経済産業省がオブザーバー)の令和8年6月9日の第5回会合等における意見の要旨である。
議決権の停止を株主総会の集計に反映する方法については,議決権行使書面等の発送停止と集計段階での除外を併用すべきとの意見があった一方,仲介機関側からは,違反実質株主に対応する名義株主の議決権行使内容を発行会社が漏れなく検証可能な形で把握できる仕組みが必須であり,通常の議決権行使のフローで停止分を減算することは困難であるとの意見があった。
共同保有者に関する事項に起因する違反については,共同保有関係にある者全体を停止の対象とすべきとの意見と,真に違反を行った者に限るべきとの意見に分かれた。
確認制度での議決権の停止については,仲介機関側から,過料に加えて議決権を停止するのは過剰な制裁で,仲介機関固有の違反でも名義株主の確認対象株式全体が停止される連座制的なおそれがあるとして反対する意見があった。
部会資料16が停止の対象を違反株式に限り,議決権停止通知の転送義務を設けたのは,こうした意見にも応えるものと考えられる(本記事の整理)。
実質株主の代理出席については,発行会社側から,全国株懇連合会のガイドラインの制定後10年間,代理出席をめぐる混乱は聞かれないから新たな規律は不要であるとの意見もあった。
第8 実務への影響(本記事の整理)
1 上場会社
確認制度による議決権の停止は,株主提案又は招集請求で役員の選解任等が付議される株主総会に限られるから,平時の実質株主判明調査を確認制度に置き換えても,義務違反に議決権の停止という効果は生じない。
有事に停止を使うには,確認請求の段階で有事の株主総会であることを明示し,違反株式が0.5%以上であることと仲介機関の故意・重過失を立証できる記録を残し,取締役会決議を経て通知し,並行して議決権行使禁止の仮処分を検討することになる。
議決権停止通知から効力発生まで1か月かかるから,株主総会の日程から逆算して確認請求の時期を決める必要がある。
2 投資家・指図権者
議決権停止通知の転送を受けた指図権者は,違反した仲介機関を通じて情報提供を完了させれば,その日から3週間で停止が外れる。
大量保有報告については,共同保有者の範囲の判断を誤ると,故意・重過失が認められる限り議決権の停止の対象になり得る。
協調行動をとる株主は,大量保有報告書を提出せずに一斉に議決権を行使して株主提案を可決させると,決議取消しの対象になり得ることが部会資料で想定されている。
3 仲介機関
確認請求の転送・回答の期限や様式は法務省令で定めることが想定されており,部会資料13の注記では,EU第二次株主権利指令と同様の当日・翌営業日の期限と,3営業日・7日以内などのより長い期間が併記されている。
議決権停止通知の転送義務が加わると,指図権者への通知の体制も必要になる。
第9 関連記事と今後の検討
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名義株と実質株主の一般的な問題は,名義株は違法か―会社法・相続税・重加算税・上場規則違反を区別するで扱っている。
外為法上の投資審査と,株式を所有せずに重要事項の拒否権を持つ黄金株の仕組みは,黄金株(拒否権付種類株式)の仕組みと実例―会社法108条1項8号・323条,INPEXの甲種類株式,USスチールの黄金株及び外為法の投資審査で扱っている。
同じ部会資料16の株主提案権等の見直しは,業務執行事項の株主提案の制限と株主総会の招集請求の5%への引上げ―法制審議会部会資料16のA案・B案と第16回会議の議論で扱う。
議決権の代理行使の一般論は,株主総会の議決権代理行使―代理人を株主に限る定款,法人株主の従業員,弁護士と委任状で,会社法の改正の全体の経緯は,会社法(平成17年法律第86号)の改正経緯で整理している。
2 別の機会に掘り下げる点
① 第18回会議の議事録が公開された後,有事への限定と0.5%の閾値について委員の意見がどう分かれたか
② 第18回会議で意見を述べた国際的な機関投資家団体(ICGN)の意見陳述書の内容(法務省のページでは本文が公開されていない。)
③ 英国会社法やフランス商法典の株主特定制度と,故意・重過失を要件としない制度設計の比較
④ 議決権行使禁止の仮処分を先行させた場合の決議の効力に関する裁判例と学説
⑤ 大量保有報告の共同保有者の範囲(金融商品取引法27条の23第5項・6項)をめぐる金融庁の解釈と,議決権の停止との関係
第10 出典
1 法令
①会社法297条,298条,303条,304条,305条,310条,385条(e-Gov法令検索,令和8年10月4日時点で施行中のもの)
②会社法施行規則63条(e-Gov法令検索)
③金融商品取引法27条の23,27条の26(e-Gov法令検索)
④金融商品取引法施行令14条の8の2(e-Gov法令検索)
2 裁判例
①東京地裁令和6年9月10日決定(令和6年(ヨ)第30142号,判例秘書の判例番号 L07932609)
3 法制審議会の資料
①法務省「法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会第18回会議(令和8年9月30日開催)」
②部会資料16「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた補充的な検討」(第18回会議)1頁~16頁
③参考資料34「「実質株主確認制度整備に向けた実務者検討会」第5回会合等におけるメンバーの意見等のポイント」(第18回会議)
④参考資料36「要綱案の取りまとめに向けた補充的な検討について」(経済産業省産業組織課,令和8年9月30日)
⑤部会資料13「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた検討(1)」(第15回会議,令和8年6月24日)
⑥法務省「法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会」