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業務執行事項の株主提案の制限と株主総会の招集請求の5%への引上げ―法制審議会部会資料16のA案・B案と第16回会議の議論(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 対象と基準日

法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会は,令和8年9月30日の第18回会議で,部会資料16「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた補充的な検討」を審議した。
同資料の第2は,株主提案権等に関する規律の見直しとして,①上場会社で業務執行事項に係る定款の変更に関する議案の提出を制限すること,②株主による株主総会の招集請求権の要件を議決権の100分の3以上から100分の5以上に引き上げることを取り上げている。

本記事は,令和8年10月4日を基準日として,部会資料16,同日に配布された参考資料35・36,同年7月22日の第16回会議の議事録,e-Gov法令検索で確認した現行の会社法及び判例秘書で全文を確認した裁判例を基に,二つの改正案の内容と実務への影響を整理する。
部会資料は事務当局の検討資料であり,本文は「どのように考えるか」という問いの形で書かれているから,改正案は要綱案になっておらず,法律として成立していない。
第18回会議の議事録は,基準日の時点で「準備中」であり,同会議での委員の発言内容は確認できない。

2 結論

業務執行事項の株主提案の制限について,部会資料16は,部会資料14の「提案をすることはできない」という形を改め,上場会社が取締役会の決議により議案を株主総会で取り上げないことができる形にした上で,法務省令で対象を限定列挙するA案と,社外取締役が過半数の上場会社に限り取締役会が業務執行の決定を委任している事項を対象とするB案を並べている。
規律の趣旨は,濫用的な提案への対応負担の軽減ではなく,業務執行に関する具体的な事項が定款に定められた場合に生ずる弊害の防止と整理された。

株主総会の招集請求権については,会社の負担の大きさ,会計帳簿の閲覧謄写請求や業務検査役の選任申立てとの比較,諸外国の水準及び大量保有報告書の提出基準(5%超)との関係を理由に,100分の3以上を100分の5以上に引き上げるかが問われている。
部会資料16の問いは上場会社に限定していないため,この形で立法されれば,同族会社などの非公開会社の少数株主にも影響する(本記事の読み方であり,部会資料はこの点に触れていない)。

いずれも現行法ではないから,現在の紛争は,会社法295条,297条,303条から305条まで及びこれらに関する裁判例によって処理することになる。

第2 現行法の枠組み

1 取締役会設置会社の株主総会の権限

株主総会は,会社法に規定する事項及び株式会社の組織,運営,管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる(会社法295条1項)。
もっとも,取締役会設置会社では,株主総会は,会社法に規定する事項及び定款で定めた事項に限り,決議をすることができる(同条2項)。

そのため,取締役会設置会社の株主が,特定の取引の中止や特定の委員会の設置のように取締役会が決める業務執行事項を株主総会で決めさせたいときは,その事項を定款に書き加える定款変更議案の形で提案することになる。
定款変更は株主総会の特別決議事項であり(会社法466条,309条2項11号),可決されれば,取締役は定款を遵守する義務を負う(会社法355条)。
部会資料16が問題にしているのは,この「定款変更の形式をとる業務執行事項に関する株主提案」である。

2 株主提案権の要件

取締役会設置会社では,株主が一定の事項を株主総会の目的とすることを請求する議題提案権(会社法303条2項)と,議案の要領を株主に通知することを請求する議案要領通知請求権(会社法305条1項ただし書)は,総株主の議決権の100分の1以上又は300個以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主に限られ,株主総会の日の8週間前までに行使しなければならない。
公開会社でない取締役会設置会社では6か月の保有期間は要らない(会社法303条3項,305条2項)。
株主総会の場で議案を提出する議案提出権(会社法304条)には持株の要件はないが,法令・定款に違反する議案や,実質的に同一の議案が総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない議案は提出できない。

令和元年改正により,取締役会設置会社の株主が議案要領通知請求をする場合,10を超える数の議案については請求が及ばないこととされた(会社法305条4項)。
役員等の選任に関する議案は数にかかわらず一つの議案とみなされ,定款変更に関する二以上の議案も,異なる議決がされると内容が相互に矛盾する可能性がある場合は一つの議案とみなされる(同項各号)。

部会資料14及び第16回会議では,300個以上という議決権数要件を廃止して100分の1以上の割合要件だけにするかも議論されたが,部会資料16はこの点を取り上げていない。

3 株主総会の招集請求と裁判所の許可

総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主は,取締役に対し,株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して,株主総会の招集を請求できる(会社法297条1項)。
公開会社でない株式会社では6か月の保有期間は要らず(同条2項),割合と期間は定款で緩和できる(同条1項括弧書き)。

請求の後遅滞なく招集の手続が行われない場合,又は請求の日から8週間以内の日を株主総会の日とする招集通知が発せられない場合,請求をした株主は,裁判所の許可を得て株主総会を招集できる(同条4項)。
この場合,株主総会の日時・場所,代理人による議決権行使に関する事項その他の招集の決定事項は,招集する株主が定める(会社法298条1項柱書きの括弧書き,会社法施行規則63条5号)。
許可の申立てを認容する裁判に対しては,不服を申し立てることができない(会社法874条4号)。

4 裁判例

(1) 株主提案権の濫用

東京高裁平成27年5月19日判決(平成26年(ネ)第5472号ほか,判例秘書の判例番号 L07020287)は,会社が株主の提案した議案の一部を招集通知に記載しなかったことを理由とする株主の損害賠償請求について,請求を一部認容した第一審判決を取り消し,請求を全部棄却した。

同判決は,株主が一時114個の議案を提案し,会社との協議を経て20個まで減らしたものの,会社の相談役やその親族を直接の対象とする定款変更議案に最後まで固執した経過から,提案は個人的な目的又は会社を困惑させる目的でされたもので,全体として株主としての正当な目的を有せず,権利の濫用に当たるとした。
令和元年改正による議案数の制限(会社法305条4項)は,この種の大量提案への立法的な対応の一つである。

(2) 株主総会の権限外の議題による招集許可の申立て

名古屋地裁令和3年7月14日決定(令和3年(ヒ)第24号,判例秘書の判例番号 L07651587)は,100分の3以上の議決権を6か月前から有する株主が,無償割当てがされた新株予約権の無償取得を議題として招集を請求し,会社法297条4項の許可を申し立てた事案で,その議題は会社法に規定する事項にも定款で定めた事項にも当たらず,取締役会設置会社である会社の株主総会の権限外の事項であるから,「株主総会の目的である事項」について招集を請求したとはいえないとして,申立てを不適法として却下した。

取締役会設置会社では,株主総会の権限外の事項は,招集請求の議題にも,株主提案の議題にもならない。
業務執行事項について株主の意思を問いたい株主が定款変更議案の形をとるのは,この会社法295条2項の制約があるためである。

(3) 招集請求後の事情の変化と持株要件

福岡高裁平成27年7月30日決定(平成27年(ラ)第211号,判例秘書の判例番号 L07020667)は,取締役等の解任を議題とする招集許可の申立てについて,請求後に対象者が辞任したことによる請求の利益の喪失と,100分の3以上の議決権を有することの疎明がないことを理由に申立てを却下した原決定を相当とし,抗告を棄却した。
許可の申立てでは,持株要件の疎明と,議題がその時点でもなお意味を持つかが審査される。

第3 業務執行事項に係る定款変更議案の提出の制限

1 経緯

業務執行事項の株主提案の制限は,中間試案にはなかった項目である。
第16回会議の事務当局の説明によれば,第13回会議の参考人の意見とパブリックコメント等を踏まえて,部会資料14で新たに問題提起された。
部会資料14は,上場会社では,株主は定款変更の形式をとって業務執行事項のうち法務省令で定めるものに関する株主提案をすることができないものとし,拒絶した場合は株主総会参考書類に記載させる案を示していた。

部会資料16は,第16回会議の議論を踏まえて,これをA案とB案の二つに組み直した。

2 規律の趣旨の整理

部会資料16は,規律を設ける趣旨として,①可決の見込みが極めて乏しい濫用的な株主提案への対応という会社の負担を軽減すること,②業務執行に関する具体的な事項が定款に定められた場合に生ずる弊害を防止することの二つが考えられるとした上で,①は業務執行事項に関する提案に限られず,株主提案権の議決権数要件の見直しで対応すべき事項であるとし,②に趣旨を求めることが相当であるとしている。

②の弊害について,部会資料16は,業務執行に関する具体的な事項が定款に定められると,その後に市場環境,事業環境,取引条件その他の事情が変化し,会社の利益のためには迅速に定款と異なる対応をとることが合理的になったときでも,取締役等は定款を遵守する義務(会社法355条)との関係でその対応が困難になり,定款を変更・廃止するには改めて株主総会の特別決議が必要になると説明している。

3 A案

(1) 内容

A案は,株主が定款変更議案を提出した場合に,その議案が業務執行に関する事項であって,定款に定めることにより取締役又は執行役(取締役等)の裁量を拘束し,株主の共同の利益を害するおそれが大きいものとして法務省令で定める事項についてのものであるときは,上場会社は,取締役会の決議により,その議案を株主総会で取り上げないことができるとする案である。
取り上げなかったときは,その株主総会の株主総会参考書類に,議案の要領と取り上げなかった理由を記載しなければならない。

法務省令では,次の三つに限定して列挙することが想定されている。
① 将来にわたり取引の相手方,条件又は内容を拘束する事項
② 特定の取引の相手方,条件又は内容を拘束する事項
③ 使用人に関する事項(使用人の賃金その他の労働条件及び労働環境の設計等)

(2) 部会資料14からの変更点

部会資料14は,株主は対象事項について「提案をすることはできない」としていた。
部会資料16は,この形では,会社が任意に議案を取り上げて可決された場合の決議の有効性が問題になり,また,会社の事業内容や提案の内容によっては株主の意思を確認することが相当な場合もあることから,提案自体を禁止するのではなく,会社が取締役会の決議により取り上げないことができる形に改めたと説明している。
第16回会議でも,学者の委員から,「提案できない」と規定すると,取り上げて可決した場合に違法・無効な決議なのか,勧告的決議として決議したものなのかという問題が生ずるとの指摘があった。

また,第16回会議で,規律の趣旨が弊害の防止にあるのなら弊害が生ずるおそれが明白な場合に限定すべきであるとの指摘があったことを受けて,A案は,株主の共同の利益を害するおそれが大きいものとして法務省令で定める事項に限り,その列挙を三つに絞っている。

(3) 部会資料16自身が認める問題

部会資料16は,新規事業への参入や不採算事業の縮小・撤退が①又は②に含まれるかは必ずしも明らかでなく,対象範囲の不明確さを完全に排除することは困難であるとしている。
例として,経済制裁の対象国への迂回輸出が問題になった会社で,それを監視する委員会を設置する旨の提案は,①に含まれるようにも思われるが,実質的にそれを否定すべきなのか断定し難いと述べている。
その上で,実質的に否定されるべきでない株主提案が拒絶されて株主の利益が不当に害されないかという許容性と,対象が三つに限られるA案が実務上のニーズを満たすかを検討する必要があるとしている。

4 B案

(1) 内容

B案は,取締役の過半数が社外取締役である上場会社に限り,株主が提出した定款変更議案が,その会社において取締役会の決議により業務執行の決定を取締役等に委任している事項についてのものであるときは,取締役会の決議により,その議案を株主総会で取り上げないことができるとする案である。
取り上げなかったときに株主総会参考書類に議案の要領と理由を記載する点は,A案と同じである。

(2) 考え方

取締役会設置会社では,取締役会は,法令上自ら決定しなければならない事項を除き,業務執行の決定を取締役等に委任できる(会社法362条4項,399条の13第4項から第6項まで,416条4項)。
部会資料16は,取締役会が特定の業務執行の決定を現に委任している場合には,取締役会が事業内容,機関設計,業務執行体制,専門性及び機動的な判断の必要性等を踏まえ,取締役会による監督の下で業務執行者に判断を委ねることが適切であると判断したといえるから,株主総会が定款変更により業務執行の内容を定めて取締役等を継続的に拘束することは,その判断を否定することになり,取締役会の判断を尊重すべきであると説明している。

対象は,一般的・抽象的に委任可能な事項の全てではなく,その会社の取締役会が実際に取締役等に委任することを決定した事項である。
部会資料16は,相対的にはA案より範囲の外縁が明確であるとする一方,対象範囲を株主が把握することは必ずしも容易でないとしている。

(3) A案との違いが出る場面

部会資料16は,B案による場合には,株主資本コストなど特定の事項の開示や,不祥事の際の第三者委員会等の一定の組織の設置を定款に定める議案も,その事項の決定を取締役等に委任していれば制限の対象になり得るとしている。
これらは取引の拘束や使用人に関する事項には通常当たらないから,A案では対象にならない。

(4) 社外取締役過半数という要件

B案が適用対象を取締役の過半数が社外取締役である上場会社に限るのは,取締役会の業務執行者からの独立性が構成上一定程度担保されていれば,株主提案を取り上げないことの必要性・相当性を業務執行者から独立した立場で検討できると考えられるためである。
部会資料16は,さらに対象を指名委員会等設置会社又は取締役の過半数が社外取締役である監査等委員会設置会社のように,構造的に大幅な権限の委任が認められている会社に限ることも考えられるとしている。

5 部会資料14の分類表

部会資料16は,部会資料14が示した株主提案の類型の表を再掲している。
要旨は次のとおりである。

区分類型例
株主の共同の利益を害するおそれが大きいもの①将来にわたり取引の相手方や条件・内容を拘束する事項特定の地域の会社と取引しない,将来の仕入先・価格の拘束,継続的な設備投資の強制
同上②特定の取引の条件・内容を拘束する事項契約期間・仕入価格,特定資産の売却,資本業務提携契約の解消
大きいといえるか明らかでないもの③特定の事業に関する事項新規事業への参入,不採算事業の縮小・撤退
同上④経営方針等に関する事項経営理念,経営計画・事業計画
同上⑤使用人に関する事項賃金,労働条件・労働環境
同上⑥一定の組織の設置・改廃第三者委員会,特別委員会,企業価値向上委員会
同上⑦開示に関する事項役員の個別報酬額,資本コストを意識した経営の開示,政策保有株式の検証結果
大きいとはいえないもの⑧役員構成に関する事項過半数の社外取締役,女性・外国人取締役の登用
同上⑨自己株式の取得,剰余金の配当自己株式取得の方針,配当性向の下限・総還元性向

A案の法務省令の列挙は,この表の①,②及び⑤に当たる。
⑧と⑨は,役員の選任や自己株式の取得・剰余金の配当が株主総会の決議事項であることから,株主の共同の利益を害するおそれが大きいとはいえないとされている。

6 第16回会議の議論

(1) 部会資料16の要約

部会資料16は,第16回会議では,権限分配の趣旨や機動的な経営判断の確保を理由に支持する意見(取締役会の独立性の担保を条件として容認する意見を含む。)が多数あった一方,①業務執行事項かどうかで株主総会の権限を区別する考え方は我が国の会社法と整合的でない,②業務執行事項に関する定款変更議案が可決された例はほとんどなく実務上の必要性が明らかでない,③議決権数要件を見直せば負担軽減の相当部分は解消され得る,④対象の範囲に不明確さが残り紛争を招くおそれが大きいなどとして,否定的な意見も多数あったとまとめている。

(2) 議事録から見た意見の分布

第16回会議の議事録で,この論点に発言した委員・幹事を本記事が数えたところ,制限に明確に賛成したのは,経済産業省の幹事と,事業会社・証券代行の実務家の委員の計4名であった。
学者の委員・幹事の多く,日本弁護士連合会の意見を紹介した弁護士の委員及び弁護士会内の意見を紹介した弁護士の幹事を含む10名は,否定的又は疑問を示した。
取引所,金融庁及び一部の学者の委員・幹事は,取締役会の独立性などの条件付きで,又は導入するなら現在の立て付けがもっとも無難であるという消去法的な理由で,容認の余地を示した。

部会資料16の要約は,こうした条件付きの容認も支持の側に数えたものと考えられる。
議事録の発言者の数でみると否定・疑問の方が多かったことは,要綱案の取りまとめに向けた今後の議論を読む上で押さえておく必要がある。

(3) 勧告的提案

第16回会議では,業務執行事項の定款変更議案を制限するのであれば,法的拘束力のない勧告的提案(勧告的決議の提案)を認めるべきであるとの意見が複数あった。
部会資料16は,勧告的提案は取締役等の裁量を維持しつつ株主の意思と支持の程度を明らかにする仕組みとして検討に値するとしながら,定款変更議案や業務執行事項に限られない全般的な検討が必要になるとして,機関相互の権限分配に関する将来的な検討課題とする考え方もあり得るとしている。

議事録では,米国では定款変更提案はできないが勧告的決議の提案が広く認められているという指摘や,定款変更議案を制限する方式として,株主総会の権限自体を限定する方式,勧告的決議として扱う方式及び一定事項の提案を拒絶できるとする方式(今回の案)の三つを整理する発言があった。

7 参考資料35(株主提案の分析)

第18回会議に配布された参考資料35は,令和7年(2025年)7月から令和8年(2026年)6月までのTOPIX構成企業における株主提案を集計している。
全体312件のうち,比率要件(1%以上)を満たす提案は86件,個数要件(300個以上)を満たす提案は174件,その他は52件であった(保有比率・個数が不明で提案者が個人株主の場合は個数要件を満たすものとして数えている。)。
議案別では定款に関する議案が201件で最も多く,その内訳は,ガバナンス関連50件,社会問題その他69件,原発関連39件,情報公開・安全性の開示28件等であった。

同資料は,定款変更議案201件のうち業務執行関連と思われる議案を99件(電力会社60件,大手製紙10件など)と数え,原発関連の議案の賛成率は1.8%~6.0%であったとしている。
個数要件で提案された定款議案が135件と多いことは,議決権数要件を見直せば対応負担の相当部分が解消され得るという否定的意見の根拠とも,業務執行事項の制限の必要性の根拠とも読める。

8 経済産業省の意見

第18回会議に配布された経済産業省産業組織課の意見書(参考資料36)は,業務執行事項に係る定款変更議案の制限を設けること自体に賛成している。
A案については,一定の組織の設置・廃止や開示に関する事項,日常的な事業運営に関する事項も対象にすべきとの指摘が第16回会議であった一方,限定列挙しても不明確さが残るとし,B案の方が既に一定の解釈論の蓄積がある概念に依拠し,範囲が相対的に明確で,日常的な事業運営に関する事項も対象になり得るから実務上のニーズも高いとしている。
その上で,取締役の過半数が社外取締役である上場会社に限定すれば足り,指名委員会等設置会社又は監査等委員会設置会社であることまで求める必要はないとしている。

これは所管官庁の意見であって,部会の結論ではない。

9 実務上の注意(本記事の整理)

B案が採られた場合,株主提案を取り上げないことができるかどうかは,取締役会がどの事項を取締役等に委任しているかで決まる。
会社側は,取締役会規程,職務権限規程及び個別の委任決議の内容が,そのまま株主提案への対応の根拠になる。
株主側は,委任の範囲を外部から把握しにくいため,提案前に有価証券報告書,コーポレート・ガバナンス報告書及び招集通知の記載から委任の状況を推測する必要が生じる。

いずれの案でも,取り上げなかった議案の要領と理由は株主総会参考書類に記載されるから,提案した株主は,議案を取り上げられなくても,その主張を他の株主に知らせることができる。
他方,取り上げない判断の当否を争う手段(決議取消しの訴え等)がどう構成されるかは,部会資料16では示されていない。

第4 株主総会の招集請求権の要件の引上げ

1 部会資料16の問い

部会資料16は,株主による株主総会の招集請求権の要件のうち,「100分の3」以上という議決権の保有割合の要件を,「100分の5」以上に引き上げるものとすることについて,どのように考えるかと問うている。
この項目も中間試案にはなく,部会資料14で新たに問題提起されたものである。

2 部会資料16が挙げる立法事実

(1) 会社の負担

株主の招集請求を受けて臨時株主総会を開く場合,会場の確保,基準日の設定,目的事項の決定,株主総会参考書類の作成,招集通知の発送等が必要になり,株主提案への対応に比べて大きな負担が生ずる。
臨時株主総会は定時株主総会より短い期間での準備を要することが多く,その負担は最終的には株主全体が負う。

(2) 他の少数株主権との比較

総株主の議決権の100分の3以上という要件は,会計帳簿の閲覧謄写請求(会社法433条1項)及び業務の執行に関する検査役の選任申立て(会社法358条1項1号)と同じである。
しかし,会計帳簿の閲覧謄写には拒絶事由が法定されており(会社法433条2項),検査役の選任には不正の行為等を疑うに足りる事由と裁判所の判断が必要である(会社法358条1項・2項)。
これに対し,株主総会の招集請求には請求の相当性や議案の可決可能性を事前に審査する仕組みがなく,実務上,形式的に要件を満たせば,例外的に権利濫用と認められるときを除き,招集が認められるとされている。
部会資料16は,この差異と負担の大きさから,招集請求権にはより厳格な要件を設けることが相当であるとの考え方もあり得るとしている。

(3) 諸外国の水準

事務当局が把握している情報として,株主による招集請求権は,米国デラウェア州では定款で定められた者にのみ認められ,イギリスでは5%以上の議決権を有する株主に,ドイツとフランスでは資本の5%以上を有する株主に認められているとされている。
大量保有に係る当初の開示基準は,米国デラウェア州とフランスが5%,イギリスとドイツが3%であり,いずれも招集請求権の要件が大量保有の開示基準を下回る制度にはなっていないとされている。

(4) 3%以上5%以下の株主による事例

部会資料16によれば,パブリックコメントで引上げを求めた一般社団法人日本取締役協会に事務当局がヒアリングを行ったところ,平成31年4月以降の上場会社における株主による株主総会の招集請求の事例64件のうち,請求株主の議決権保有割合が3%以上で株券等保有割合が5%以下である事例が16件(株券等保有割合が5%を若干上回る事例1件を含む。)あり,そのうち13件は,次のいずれかに当たると指摘された。
① 大量保有報告書を提出している主導的な株主が別にいるのに,提出義務のない者(株券等保有割合5%以下で議決権保有割合3%以上の株主)があえて招集請求をしている例
② グループとして共同保有分を含めて大量保有報告書を提出すべきであったことが疑われるのに,株券等保有割合5%以下で議決権保有割合3%以上の株主が招集請求をしている例
③ 個人株主などによる,可決可能性が乏しい又は請求の適法性に疑義があるなど,濫用的と評価し得る招集請求

部会資料16は,①と②は招集請求権の閾値(3%)が大量保有報告書の提出基準(5%超)より低いために生じている問題であり,③は閾値が低いことによる濫用的な請求の実態を示すものであって,いずれも5%への引上げで解消し得るとしている。
同協会からのヒアリング結果の概要は,会議資料としては掲載が省略されている。

3 第16回会議の議論

部会資料16は,第16回会議では,会社の負担の大きさや諸外国とのイコールフッティングを理由に,支持の強さに濃淡はあるものの支持する意見が多数あった一方,反対意見もあり,見直しの立法事実を精査する必要があるとの意見も多数あったとしている。
議事録でもおおむねそのとおりで,明確な反対は弁護士の幹事1名であった。

議事録では,部会資料14が引上げの理由として挙げた短期的な利益の追求による経営の撹乱という説明に対し,学者の幹事や投資家の委員から批判があり,むしろ株主総会の招集には費用が掛かるから要件を重くするという理由の方が賛成しやすいとの意見があった。
部会資料16の理由付けが,会社の負担と諸外国の水準に組み替えられているのは,この議論を受けたものと考えられる。

弁護士の委員からは,裁判所は権利濫用の例外的な場合を除き原則として許可する運用であり,可決の見込みは考慮されないという実務経験が紹介された。
学者の委員からは,比較的小規模の上場会社で特定の株主が何度も招集権を行使する例があり,現行法では権利濫用でしか制限できないことが指摘される一方,5%に上げる程度で問題が解決するのかという疑問も述べられた。
反対した弁護士の幹事は,裁判所の許可を経て開催されるもので,保有割合3%以上5%未満の申立人による不当な申立ての事例があるとは思えず,立法事実がないとした。

4 経済産業省の意見

参考資料36は,引上げに賛成し,我が国では招集請求権の要件(議決権保有割合3%)が大量保有報告書の提出基準(株券等保有割合5%)を下回るため,素性の明らかでない株主が臨時株主総会の招集を請求できる状態にあり,現に濫用的な請求事例が発生しているとして,少なくとも大量保有報告書の提出基準と同等程度の5%以上に引き上げることが必要かつ合理的であるとしている。

5 非公開会社への影響(本記事の整理)

部会資料16が挙げる立法事実のうち,大量保有報告書との関係,諸外国との比較及び日本取締役協会が指摘した事例は,いずれも上場会社を前提にしている。
しかし,部会資料16の問いは会社法297条1項の「100分の3」を「100分の5」に改めるかという形で,上場会社に限定していない。

同族会社などの非公開会社では,取締役が株主総会を開かない,又は少数株主が取締役の解任や役員の選任を株主総会に諮りたいという場面で,会社法297条の招集請求と同条4項の許可が使われる。
この形で立法されれば,議決権の3%以上5%未満を持つ非公開会社の株主は,定款に別段の定めがない限り,単独では招集請求ができなくなる。
他方,会計帳簿の閲覧謄写(会社法433条)と業務検査役の選任申立て(会社法358条)の3%要件は,部会資料16では見直しの対象になっていない。

同族会社の少数株主の調査手段は,少数株主が会社の業務と財産を調べる方法―会計帳簿の閲覧,業務検査役,2項調査者,総会検査役と改正案で,裁判所の許可を得て株主が招集する株主総会の手続上の論点は,裁判所の許可を得て株主が招集する株主総会―監査役の差止め,利益供与及び決議取消しで扱っている。

第5 今後の見通しと関連記事

1 今後の見通し

部会資料16は「要綱案の取りまとめに向けた補充的な検討」と題されている。
部会で要綱案が決定され,法制審議会の総会で答申された後,法律案が国会に提出されるという順序になるから,二つの改正案が最終的にどの形になるかは,第18回会議の議事録と次回以降の部会資料で確かめる必要がある。
法制審議会の手続の一般的な流れは,法制審議会とは-委員・部会の仕組み,諮問から答申・法律成立までの流れで説明している。

同じ部会資料16は,実質株主確認制度と大量保有の通知義務違反による議決権の停止についても修正案を示している。
これは実質株主確認制度と大量保有の通知義務違反による議決権の停止―部会資料16の修正案と経済産業省の対案で扱う。
会社法の改正の全体の経緯は,会社法(平成17年法律第86号)の改正経緯で整理している。

2 別の機会に掘り下げる点

① 第18回会議の議事録が公開された後,A案・B案と招集請求権の引上げについて委員の意見がどう分かれたか
② B案の「取締役会の決議により業務執行の決定を取締役等に委任している事項」の範囲を,株主が事前に知る方法と,取り上げない判断を争う訴訟上の手段
③ 株主提案権の議決権数要件(300個要件)と行使期限(8週間前)の見直しの帰趨(第16回会議では,行使期限を見直さないとする部会資料14の案に反対する発言が多かった)
④ 招集請求権を引き上げる場合に,非公開会社を対象から外すか,定款による緩和をどう扱うか
⑤ 株主総会の招集許可の申立てが権利濫用として却下された裁判例の網羅的な調査

第6 出典

1 法令

①会社法295条,297条,298条,303条,304条,305条,309条,355条,358条,362条,399条の13,416条,433条,466条,874条(e-Gov法令検索,令和8年10月4日時点で施行中のもの)
②会社法施行規則63条(e-Gov法令検索)
③金融商品取引法27条の23(e-Gov法令検索)

2 裁判例

①東京高裁平成27年5月19日判決(平成26年(ネ)第5472号,平成27年(ネ)第318号,判例秘書の判例番号 L07020287)
②名古屋地裁令和3年7月14日決定(令和3年(ヒ)第24号,判例秘書の判例番号 L07651587)
③福岡高裁平成27年7月30日決定(平成27年(ラ)第211号,判例秘書の判例番号 L07020667)

3 法制審議会の資料

①法務省「法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会」
②法務省「法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会第18回会議(令和8年9月30日開催)」
③部会資料16「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた補充的な検討」(第18回会議)16頁~26頁
④参考資料35「株主提案内容に関する分析」(第18回会議)
⑤参考資料36「要綱案の取りまとめに向けた補充的な検討について」(経済産業省産業組織課,令和8年9月30日)
⑥法務省「法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会第16回会議(令和8年7月22日開催)」の議事録
⑦部会資料14「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた検討(2)」