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役員不正が発覚したときの処遇と責任追及―代表取締役の解職,取締役の解任,報酬返上及び損害賠償(AI作成)

第1 最初に分けて決めること

1 不正の調査と役員の処遇

取締役の不正が疑われたときは,証拠を保全し,事実を調べる作業と,権限・地位・報酬をどう扱うかを決める作業を並行して進めることになる。
しかし,「不正が疑われるから役員を処分する」という一つの判断だけでは,必要な手続を選べない。
代表取締役の地位を外すこと,取締役を解任すること,報酬を変更すること及び会社の損害を請求することには,それぞれ異なる根拠と手続がある。

本記事は,株式会社の取締役を中心に,通常の取締役会設置会社の手続を整理する。
取締役会を置かない会社,監査等委員会設置会社,指名委員会等設置会社では,代表者の選定・解職,報酬決定又は訴訟代表に関する規定が異なるため,会社の機関設計を先に確認する必要がある。
監査役,執行役,合同会社の業務執行社員等の処遇を,本記事の取締役の説明だけで決めることはできない。

2 決定前にそろえる資料

最初に確認すべきものは,登記事項証明書,定款,株主名簿,取締役会規程,役員報酬の決議・委任の資料及び本人との契約である。
これに,不正の疑いを支える資料,損害の計算資料,本人の説明と反証,取引先・金融機関への権限通知の必要性を加える。
誰がどの機関を招集し,誰が決議に参加でき,誰が会社を代表して交渉又は訴訟を行うのかを,議案ごとに整理しておくべきである。

第2 証拠保全と権限の管理

1 調査対象者が調査を指揮する状態を避ける

疑われた取締役が調査範囲,証拠の取得先又は報告先を決める立場にあると,調査の信頼性が損なわれるおそれがある。
調査を担当する取締役,監査役又は外部専門家の役割と報告経路を定め,疑いのある者から独立して資料を保全できる体制を検討する。
第三者委員会を設けるかどうかは,不正の範囲,経営陣の関与,社外への説明の必要性等によって判断するものであり,すべての不正事案で当然に必要になるわけではない。

第三者委員会の設置判断,独立性,調査範囲及び報告書公表については,企業不祥事の第三者委員会-設置判断,独立性,調査範囲及び報告書公表の実務で整理している。

公表された調査報告書の独立性,調査範囲,証拠,原因分析,再発防止策及び非公表部分の確認順序は,第三者委員会の調査報告書の読み方-独立性,調査範囲,証拠,原因分析及び再発防止策(AI作成)で詳しく整理している。

会社のメール,会計資料,承認履歴等については,自動削除,端末交換及び資料の廃棄予定を先に確認する。
取得者,日時,方法及び保管場所を記録し,原本と調査用の複製を区別する。
具体的な初動と聴取の進め方は,社内で窃盗・横領が疑われたときの社内調査を参照されたい。

2 アクセス制限と代表権の変更を区別する

システムへのアクセスや社内の承認権限を制限しても,それだけで会社法上の代表権がなくなるわけではない。
会社法349条5項は,代表取締役の代表権に加えた制限を善意の第三者に対抗できないとしている。
また,会社が取締役に社長等の名称を付した場合の表見代表取締役については,同法354条にも注意を要する。

したがって,社内の権限管理に加え,代表者の選定・解職の手続,変更登記,取引先・金融機関への通知及び従前の肩書・署名権限の表示を整合させる必要がある。
特定の取引を止める必要がある場合には,社内通知だけで目的が達成できるかを確認し,必要に応じて裁判上の保全も個別に検討する。

第3 代表取締役の解職と取締役の解任

1 代表取締役の解職

通常の取締役会設置会社では,代表取締役の選定及び解職は取締役会の職務である(会社法362条2項3号)。
代表取締役を解職しても,取締役としての地位まで当然になくなるわけではない。
後任の選定,業務の引継ぎ及び対外的な権限の整理を,同時に準備する必要がある。

会社法369条2項は,決議について特別の利害関係を有する取締役の議決参加を認めていない。
最高裁昭和44年3月28日判決は,代表取締役を解任する取締役会決議について,対象となる本人を特別利害関係人とした。
議決からの除外を,招集通知や会議手続を省略する根拠として扱うべきではなく,招集権限,通知,定足数及び議事録を別々に点検する必要がある。

2 取締役の解任

取締役そのものの解任は,株主総会の決議によって行う(会社法339条1項)。
同条2項は,解任について正当な理由がある場合を除き,解任された者が会社に対して解任による損害の賠償を請求できると定める。
解任できるかという問題と,解任による損害賠償が生じるかという問題は分けて判断する必要がある。

不正の疑いがあるというだけで,正当な理由が当然に認められるとはいえない。
行為の内容,関与の程度,会社への影響及び本人の反証を整理し,株主総会に提出する説明と裏付け資料を準備する。
任期満了,辞任,代表取締役の解職及び取締役の解任のどれを選ぶかによって,必要な決定と本人との協議事項も変わる。

第4 報酬返上と報酬変更

1 報酬の決め方を確認する

取締役の報酬等は,定款に定めがない場合,会社法361条に従って株主総会の決議で所定の事項を定める。
実際には,総額の上限を決めた後の配分,業績連動部分,賞与,退職慰労金等について,別の決議,委任又は契約が存在することがある。
「株主総会で上限を決めた」という資料だけでは,本人の具体的な報酬請求権がどのように定まったかは分からない。

2 本人の同意なく確定した報酬をなくせるか

最高裁平成4年12月18日判決(平成2年(オ)第1259号,民集46巻9号3006頁)は,具体的に定まった取締役の報酬額が会社と本人の契約内容になるとした。
その上で,後の株主総会で無報酬とする決議をしても,本人の同意がなければ報酬請求権は失われず,職務内容の著しい変更があっても異ならないと判断した。
この判決は不正行為に対する制裁を直接判断した事件ではないが,後の社内決定だけで既存の報酬請求権を消せると考えないために重要である。

自主返上を求める場合は,対象の報酬,期間,金額,未払分と既払分の区別及び同意内容を具体化する。
報酬を返上したという事実だけで,損害賠償責任や会社の請求権まで消滅するものではない。
業績連動報酬の条件,報酬返還条項又は将来の報酬の変更については,上記判決の結論をそのまま当てはめず,決議と契約の内容を個別に検討する必要がある。

3 従業員としての賃金がある場合

取締役でも,従業員としての立場を兼ね,役員報酬とは別に賃金を受けている場合がある。
その場合は,どの支払が役員報酬で,どの支払が労働者としての賃金なのかを確認する。
役員の自主返上の例を,労働者の減給制裁や賃金からの損害額控除の根拠に流用することはできず,労働法上の規制を別に検討する必要がある。

第5 会社からの損害賠償請求

1 任務懈怠,損害及び因果関係

会社法423条1項は,取締役等が任務を怠ったときに,会社に生じた損害を賠償する責任を定める。
取締役と会社の関係は委任の規定に従い(同法330条),善管注意義務や忠実義務の内容を,担当業務と具体的な行為に即して検討することになる。
不正が認められるか,どの任務に違反したか,会社にどの損害が生じたか及び違反行為と損害がどう結び付くかを,別の項目として整理するべきである。

取締役の受領した利益額が,あらゆる事案でそのまま会社の損害額になるわけではない。
同法423条2項の利益額の推定は競業取引に関する規定であり,キックバック一般の損害額推定規定として扱うことはできない。
支払額,実際に受けた物又はサービスの価値,価格の上乗せ,取引の必要性及び既に回復した額を,証拠に基づいて検討する。

2 誰が会社を代表して請求するか

責任を追及される取締役が会社の代表者である場合,会社側の請求・交渉を誰が決め,誰が代表するかが問題になる。
監査役設置会社が取締役又は元取締役に対して訴えを提起する場合等には,会社法386条による監査役の訴訟代表の規定がある。
監査役設置会社に当たるか,訴訟外の交渉か訴訟か,機関設計に応じた別の規定が適用されるかを確認し,本人が会社側も代理する形を避ける必要がある。

3 回収と責任免除を分ける

相手に資産を処分されるおそれがあるときは,請求の準備と並行して仮差押えの必要性を検討する。
仮差押えには,被保全権利と保全の必要性の疎明が必要であり,命令が出ても回収が完了するわけではない。
手続の全体像は,仮差押えとはを参照されたい。

和解又は分割返済の合意では,請求の根拠,金額,支払期限,担保,履行されない場合の取扱い及び請求を残す範囲を明確にする。
取締役の責任免除には会社法424条以下の規律があるため,和解という名称を付ければ会社の判断だけで自由に免責できると考えるべきではない。
報酬返上,損害の弁済及び責任免除は,別々の法律効果として検討する必要がある。

第6 決定を実行し,再発防止につなげる

決議書と議事録を整え,後任,登記,対外通知,業務の引継ぎ及び証拠の保管を確認する。
本人のアクセスを止めた後も,保存すべき資料を消去しないようにし,取引先への説明は確認済みの事実と調査中の事項を区別して行う。
不正の存在と対外公表の範囲・時期は,別の判断事項である。

再発防止策は,例えば発注・価格決定・検収の集中,利害関係の申告漏れ又は成果物を確認しない支払といった原因に対応させる。
担当者,期限,実施の証拠及び効果を確認する時期まで定めると,役員の交代だけで対応を終えることを避けやすい。
詳しくは,企業不祥事の「分岐点」と内部統制を参照されたい。

第7 主な根拠資料と確認範囲

① 会社法:330条,339条,349条,354条,361条,362条,369条,386条及び423条・424条以下。

② 民法:644条等の委任に関する規定。

③ 最高裁昭和44年3月28日判決の全文:代表取締役の解任決議における本人の特別利害関係について。

④ 最高裁平成4年12月18日判決の裁判所掲載情報及び判決全文:具体的に定まった報酬請求権について。旧商法の事件であり,現行会社法361条の報酬決定手続とは区別して参照した。

⑤ 今泉憲人『責任追及を見据えた役職員不正の実効的な調査手法と予防策』(BUSINESS LAWYERS,2026年9月)の書誌・読書入口。調査から責任追及・再発防止までを組み立てる実務上の参考資料であり,法令又は判決そのものではない。

法令及び上記判決の本文を確認した上で,2026年10月4日時点の一般的な検討手順を整理した。
資料の準備方法,役割の分担及び確認の順序は,これらの資料から組み立てた実務上の提案であり,すべてが法律上の義務という意味ではない。