メインコンテンツへスキップ
       

薬剤性疾患の原因薬剤を一つに特定できない場合の医療過誤訴訟―最高裁平成9年2月25日判決と因果関係・経験則違反(AI作成)

薬剤性疾患では,複数の薬剤が同じ副作用を起こし得るため,原因薬剤を一つに特定できないことがある。最高裁平成9年2月25日判決は,鑑定の結論だけから唯一の起因剤と発症日を限定した原審判断を経験則違反とし,複数薬剤,検査所見の欠落及び診療経過を総合して因果関係と医師の義務を検討する必要を示した。

第1 最高裁平成9年2月25日判決の概要

最高裁平成9年2月25日第三小法廷判決(平成7年(オ)第1205号,民集51巻2号502頁)は,顆粒球減少症の副作用を有する複数の薬剤を長期間投与された患者について,薬剤と同症の因果関係,発症時期及び開業医の診療上の義務を扱った。

原審は,鑑定に依拠してネオマイゾンを唯一単独の起因剤とし,発症日を4月13日から14日朝と認定した。最高裁は,鑑定の内容,医学文献,投薬経過,症状及び診療経過を総合すると,そのように限定した認定には経験則違反があるとして原判決を破棄し,差し戻した。

第2 原因薬剤を一つに特定できない場合の因果関係

鑑定は,複数の薬剤のいずれも起因剤と断定するには難点があり,ネオマイゾンが最も疑われるが確証はないとした。また,複数薬剤の相互作用による発症はあり得るが,当該患者について医学的に具体的に証明されていないと述べるにとどまった。

最高裁は,この鑑定が複数薬剤の相互作用による発症の蓋然性を否定するものではなく,医学文献にも,病因論には未完成な部分が多く,個々の症例で起因剤を決定することは困難なことが多いとの記載があることを重視した。鑑定だけから一薬剤を唯一単独の原因とすることはできないとした。

この判決は,候補薬剤を列挙すれば因果関係の立証が不要になるというものではない。民事訴訟上は,投薬全体と発症との関係について,全証拠を総合し,通常人が疑いを差し挟まない程度の高度の蓋然性を示す必要がある。他方,自然科学的に一つの薬剤まで確定できないことを,直ちに因果関係不存在と同一視してはならない。

第3 発症時期と記録欠落の評価

原審鑑定は,4月14日より前の病歴に同症発症を確認できる検査所見・症候がないこと等から,発症日を4月13日から14日朝と推測した。しかし,最高裁は,それ以前に検査所見等がないのは,医師が同症特有の症状に注意した問診・診察をしなかった結果にすぎない可能性を指摘した。

診療録に記載がない場合は,症状が存在しなかったのか,質問・検査をしなかったのか,実施したが記録しなかったのかを分ける必要がある。相手方の検査・観察義務違反が情報不足を生じさせた可能性があるのに,その不足を当然に患者側の立証不足として扱うと,推論の前提を誤ることがある。

時系列表には,薬剤ごとの開始・中止・増減,発疹,発熱,咽頭痛その他の症状,白血球・顆粒球等の検査,受診時の問診・診察,紹介又は転送の検討及び病状悪化を日単位で記載する。

第4 検査・治療を受けられるようにする配慮義務

最高裁は,顆粒球減少症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者に,薬疹の可能性のある発疹を認めた場合,開業医は,自院又は他の診療機関で必要な検査・治療を速やかに受けられるよう相応の配慮をすべき義務があるとした。

これは,すべての発疹について常に高次医療機関へ転送すべき義務を一般化した判決ではない。投薬内容,副作用の重大性,症状,検査可能性,自院の設備・専門性,紹介先へのアクセス及び時間的緊急性を具体的に評価する必要がある。

義務違反と結果との因果関係も別に検討する。検査又は紹介がされていれば,いつ診断でき,どの薬剤を中止し,どの治療を開始でき,死亡又は重篤化をどの程度回避できたかを反実仮想として示す。

第5 主張立証を組み立てる7項目

  • 投薬の特定:薬剤名,用量,開始・中止日,処方医及び併用薬を確定する。
  • 既知の副作用:診療時点の添付文書,文献及びガイドラインを確認する。
  • 症状の時系列:発疹,発熱,感染徴候及び血液検査値を日付順に並べる。
  • 専門意見の前提:鑑定・意見書が前提とする投薬日,症状及び検査値が記録と一致するかを確認する。
  • 競合原因:基礎疾患,感染症,他薬剤,相互作用その他の代替原因を検討する。
  • 記録欠落の原因:症状不存在,未問診・未検査又は記録不備を区別する。
  • 義務と結果の接続:検査,投薬中止,治療又は紹介の可能時点と結果回避の蓋然性を示す。

第6 患者側で確認する資料

患者側は,問題となった医療機関だけでなく,前医,薬局,紹介先及び救急搬送先の記録を集める。診療録,処方箋,調剤録,薬剤情報提供書,検査結果,紹介状,救急記録及び家族のメモを一つの時系列にする。

協力医又は意見書には,単一薬剤の断定だけを求めず,複数薬剤の各可能性,併用による相互作用,発症可能期間,診断可能時点,必要な検査・治療及び反対仮説を分けて尋ねる。結論の強さも,「可能性がある」「相当程度」「高度の蓋然性」を区別する。

第7 医療側で確認する資料

医療側は,診療時点で把握できた情報,自院で可能だった検査・処置,紹介先の受入可能性,患者への説明及び受診指示を示す。後知恵で結果から義務を逆算せず,当時の症状と医療水準に基づく判断過程を記録から再構成する。

「検査所見がない」という反論をする場合は,必要な問診・診察・検査を実施したことと,それでも所見がなかったことを区別して示す。鑑定意見を援用するときは,その前提が診療録と一致し,競合原因及び反対資料に応答しているかを確認する。

第8 経験則違反として上訴理由にする場合

「当方の専門家を採用すべきだった」というだけでは,事実認定への不服にとどまりやすい。原審が採用した中間評価,その前提事実,客観的資料と両立しない点,検討されなかった競合原因又は記録欠落の原因及び違法が主文へ及ぼす影響を一続きにする。

現行民事訴訟法下で最高裁へ申し立てるときは,単なる事実誤認を経験則違反と言い換えるのではなく,法令解釈上の重要事項との関係,上告受理申立ての適法性及び差戻後に必要な追加審理を確認する。平成9年判決は旧民事訴訟法事件であるため,当時の条文番号を現行手続へそのまま移してはならない。

第9 資料の確認状態

最高裁平成9年2月25日判決は,裁判所ウェブサイトの裁判例結果詳細及び判決全文で,事件番号,裁判日,裁判体,主文,判示事項,裁判要旨及び本文を確認した。また,判例秘書ID L05210021の認証済み判決全文でも照合した。

野山宏「平成9年度最高裁民事破棄判決の実情」は,年度全体の位置付けを確認する二次資料として用いた。OCRは検索補助に限り,判旨の根拠にはしていない。

第10 出典・関連記事

① 最高裁平成9年2月25日判決全文
② 野山宏「平成9年度最高裁民事破棄判決の実情(1)~(6・完)」判例時報1636号,1638号,1639号,1641号,1642号及び1644号
③ 医療過誤事件の調査・立証・判例・消滅時効(AIリライト)
④ 上告審に関するメモ書き(AIリライト)