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公正証書遺言と異なる遺産分割協議が相続税の申告期限までに成立しない場合の申告方法(AI作成)

第1 結論

1 申告期限までに協議が成立しなくても申告期限は延びない

公正証書遺言と異なる分け方を相続人らが話し合っていても,相続税の申告期限までに合意が成立しなければ,予定している分け方で申告することはできない。

相続税の申告期限は,原則として,相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内である。

協議中であること,遺産分割調停を申し立てたこと又は遺言執行者との調整が続いていることだけでは,この期限は延長されない。

2 申告内容は「遺言で取得済みか,真に未分割か」で決まる

申告期限時点で遺言と異なる合意が成立していない場合には,まず,遺言によって既に取得者が確定している財産と,なお共同相続人間で分割されていない財産とを分ける。

遺言によって取得者が確定している財産は,原則として遺言どおりに取得したものとして申告する。

これに対し,真に未分割である財産は,相続税法55条により,民法に規定する相続分又は包括遺贈の割合に従って各人が取得したものとして課税価格を計算する。

したがって,「協議が成立していないから,遺産全部を一律に法定相続分で申告する」という処理は正確でない。

第2 公正証書遺言があっても,その内容を先に分類する

1 公正証書という方式だけでは申告方法は決まらない

公正証書遺言は遺言の方式であり,公正証書であること自体から相続税申告の取得割合が決まるわけではない。

申告方法を決めるのは,遺言の各条項が,①特定の財産を特定の相続人に相続させる特定財産承継遺言,②特定遺贈,③包括遺贈,④相続分の指定,⑤遺産分割方法の指定,⑥残余財産条項のいずれに当たるかである。

遺言の表題や一部の文言だけでなく,遺言全文,予備的条項,債務・費用の負担及び遺言執行者の権限まで確認する必要がある。

2 遺言によって取得者が確定している財産

最高裁判所第二小法廷平成3年4月19日判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁)は,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言について,特段の事情のない限り,何らの行為を要せず,被相続人の死亡時に直ちに当該相続人へ承継されると判示した。

また,特定遺贈は受遺者が放棄すれば遺言者の死亡時に遡って効力を失うが,放棄されていない限り,遺贈の目的財産は遺言に基づいて取得される。

「全財産を長男に相続させる」,「自宅不動産を妻に相続させる」,「全財産を甲に包括遺贈する」など,遺言によって取得者が確定する財産は,単に別の分け方を交渉中であるという理由で未分割財産にはならない。

3 遺言が相続分だけを定め,個々の財産が未分割である場合

「長男の相続分を3分の2,長女の相続分を3分の1とする」など,割合だけを指定し,個々の財産の取得者を定めていない遺言では,個々の遺産はなお未分割となり得る。

その場合,相続税法55条による仮の計算では,遺言による指定相続分を含む民法上の相続分又は包括遺贈の割合を確認する。

法定相続分を機械的に用いるのではなく,遺言による割合指定と包括遺贈の有無を先に確認する必要がある。

4 遺言の対象外となる財産

遺言作成後に取得した財産,記載漏れの預金,遺言条項の解釈上対象に含まれない財産その他の残余財産について,取得者を定める条項がなければ,その部分は未分割となり得る。

他方,死亡保険金,死亡退職金その他の相続税法上のみなし相続財産は,相続税の課税対象となっても,通常の遺産分割の対象とは限らない。

遺言の対象財産,民法上の遺産及び相続税の課税財産の三つを同じ一覧に混在させないことが重要である。

第3 申告期限時点の状況別の申告方法

1 遺言と異なる協議が成立している場合

国税庁の「No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税」は,特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言がある場合でも,相続人全員が遺言と異なる遺産分割をしたときは,その分割により各人が取得した財産を基礎として相続税を計算し,原則として贈与税は課税されないとしている。

ただし,この取扱いは,相続人である受遺者を含む相続人全員が協議した事例を前提としている。

相続人でない受遺者がいる場合,遺言執行者がいる場合,遺贈を既に履行した場合又は財産を処分した後の場合へ,無条件に広げることはできない。

2 遺言で全部の取得者が確定し,協議が未成立の場合

申告期限までに遺言と異なる合意が成立せず,遺言が全財産の取得者を確定している場合には,原則として,その遺言による取得内容に基づいて申告する。

例えば,全財産を長男に相続させる遺言について,長男と他の相続人が別の分け方を話し合っているだけで合意に至っていないときは,予定案や法定相続分ではなく,長男が遺言により取得したものとして申告するのが基本である。

3 取得者が確定した財産と未分割財産が混在する場合

遺言が自宅の取得者だけを定め,預貯金や有価証券について定めていない場合には,自宅は遺言による取得内容で申告し,預貯金や有価証券のうち真に未分割である部分だけを相続税法55条により計算する。

申告書の作成単位は「相続全体が分割済みか未分割か」という二者択一ではなく,財産ごとに取得原因と分割状況を確認する。

4 遺言が相続分又は包括遺贈の割合だけを定める場合

個々の財産が未分割で,遺言が相続分又は包括遺贈の割合だけを定めている場合には,その割合に従うことを検討する。

国税庁の「No.4202 相続税の計算」は,遺言書がある場合には原則として遺言書に基づく割合を用い,遺言書がなく遺産分割協議も成立していない場合には民法の法定相続分を用いるという計算の順序を示している。

遺言がある事案で,遺言の内容を確認せずに法定相続分だけで申告するのは避けるべきである。

第4 未分割申告と分割見込書

1 相続税法55条による仮の計算

相続税法55条は,相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が未分割である場合,その未分割財産について,民法に規定する相続分又は包括遺贈の割合に従って取得したものとして課税価格を計算すると定めている。

この相続分の計算では,民法904条の2の寄与分を除く。

55条は,真に未分割である財産について申告期限を守るための計算規定であり,遺言によって既に取得者が確定している財産を,便宜上未分割として扱う規定ではない。

2 配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例

未分割財産については,配偶者の税額の軽減及び小規模宅地等の特例を当初申告で適用できないことがある。

そのため,未分割申告では特例を適用しない税額を納付し,後日の分割後に要件を満たす場合に更正の請求をすることがある。

ただし,遺言により配偶者が既に取得した財産まで未分割であるとは限らないため,特例の可否も財産ごとに判定する。

3 申告期限後3年以内の分割見込書を付ける範囲

申告期限後3年以内に真に未分割である財産が分割される見込みがあり,配偶者の税額の軽減又は小規模宅地等の特例等を後日適用する可能性があるときは,原則として,当初申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付する。

この見込書は,将来,遺言と異なる合意が成立する可能性があるというだけで,遺言により取得済みの財産を未分割財産へ変えるものではない。

遺言による取得済み財産と真の未分割財産が混在するときは,見込書の対象を後者に限定して整理する。

第5 申告後に遺言と異なる合意が成立した場合

1 真に未分割であった財産の後日分割

相続税法55条により未分割申告をした財産が後日分割され,実際の取得額が申告時の仮の取得額と異なることになった場合には,税額が増える者は修正申告をし,税額が減る者は相続税法32条に基づく更正の請求を検討する。

同条による更正の請求期間は,原則として,分割その他の法定事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内である。

配偶者の税額の軽減等を適用する場合には,分割時期,見込書の添付及び必要書類を別に確認する。

2 遺言で取得済みであった財産の分け直し

遺言により取得者と取得割合が既に確定していた財産について,その内容で相続税申告をした後に別の合意をしても,その合意が相続税法32条1項1号の「分割」に当たるとは限らない。

民事上は遺贈の放棄,贈与,交換又は遺言執行者の同意を得た合意として効力を持つ余地があっても,相続税の更正の請求が当然に認められるわけではない。

さらに,贈与税,譲渡所得税,不動産取得税,登録免許税及び登記原因が問題となり得るため,合意書を作成する前に税理士及び登記専門職と処理をそろえる必要がある。

3 平成23年12月6日裁決が示す注意点

国税不服審判所平成23年12月6日裁決は,全財産を2名に各2分の1ずつ包括遺贈する遺言があった事案について,相続税の申告時点で未分割財産はなく,相続税法55条は適用されないとした。

同裁決は,その後の和解によって取得割合が変更されても,相続税法32条1項1号の分割を理由とする更正の請求はできないと判断した。

この裁決は個別事案に関する行政裁決であり,当時の遺留分制度を前提とする部分もあるが,「遺言による取得済み財産」と「未分割財産」を申告時に区別しなければならないことを示す重要な注意資料である。

第6 申告期限までに行う実務上の確認

申告期限が近いときは,次の順序で資料を整理する。

① 公正証書遺言の謄本だけでなく全文を確認し,各条項を特定財産承継遺言,特定遺贈,包括遺贈,相続分の指定又は残余財産条項に分類する。

② 相続人,受遺者,遺言執行者及び遺贈放棄の有無を確定する。

③ 財産目録を,遺言により取得者が確定した財産,真に未分割である財産及びみなし相続財産に分ける。

④ 申告期限時点で成立している合意と,交渉中の案を分ける。口頭の提案,押印未了の案又は一部の相続人だけが同意した案を,成立済みの遺産分割協議として申告しない。

⑤ 財産ごとの取得者又は55条上の仮の取得割合を決め,配偶者の税額の軽減,小規模宅地等の特例及び分割見込書の要否を確認する。

⑥ 後日合意が成立した場合の修正申告,更正の請求及び他税目の負担を事前に試算する。

⑦ 申告期限までに合意が成立しない場合は,協議の終了を待たず,期限内申告と納税を行う。

第7 設例による整理

1 全財産を長男に相続させる遺言

相続人が長男と長女であり,全財産を長男に相続させる公正証書遺言があるが,長女にも2分の1を取得させる協議が申告期限までに成立しなかったとする。

この場合,原則として全財産を長男が遺言により取得したものとして申告し,未成立の2分の1案では申告しない。

2 長男3分の2,長女3分の1とする遺言

遺言が相続分だけを指定し,個々の財産の取得者を定めていない場合には,個々の財産は未分割となり得る。

その場合,遺言による指定相続分を確認し,長男3分の2,長女3分の1という割合で相続税法55条による仮の計算をすることを検討する。

3 自宅だけを配偶者に相続させる遺言

遺言が自宅を配偶者に相続させるが,預貯金について何も定めていない場合には,自宅と預貯金を分ける。

自宅は遺言による配偶者の取得として扱い,預貯金のうち真に未分割の部分だけを相続税法55条により計算する。

配偶者の税額の軽減及び小規模宅地等の特例も,自宅が本当に未分割であるかを前提から確認する。

第8 よくある誤解

第1に,公正証書遺言があるのに,相続人全員が別案を希望しているというだけで法定相続分申告を選べるわけではない。

第2に,協議が未成立であることと,遺産が税法上未分割であることは同じではない。

第3に,申告期限後3年以内の分割見込書を提出すれば,将来の合意内容で自由に更正できるわけではない。

第4に,相続税法55条による仮の取得割合は,常に単純な法定相続分ではなく,遺言による指定相続分又は包括遺贈の割合が関係することがある。

第5に,相続税の申告を遺言どおりに行った後の財産移転は,相続税だけでなく,贈与税等の別の課税関係を生じさせ得る。

第9 関連記事

遺言と異なる協議を成立させるための当事者,遺言執行者の同意及び贈与税の基本的な扱いは,遺言と異なる遺産分割協議はできるか―相続人・受遺者全員の合意,遺言執行者の同意,分割の禁止及び贈与税で説明している。

遺言によって取得者が確定している場合に,遺産分割調停と一般調停のどちらを利用するかは,遺言と異なる遺産分割をしたい場合の調停手続-受遺者がいる場合の選び方で整理している。

未分割財産と配偶者の税額の軽減の関係は,相続税における配偶者の税額の軽減――計算方法,申告要件,未分割遺産及び隠蔽仮装で説明している。

「相続させる」遺言による権利承継と特定財産承継遺言の効力は,相続させる遺言と特定財産承継遺言――違い,効力,登記及び遺言執行者の権限で整理している。

第10 出典

1 法令・裁判例・裁決

① e-Gov法令検索・相続税法(27条,32条,55条)

② e-Gov法令検索・民法(896条,900条,902条,904条の2,907条,986条,990条,1014条)

③ 最高裁判所第二小法廷平成3年4月19日判決(平成元年(オ)第174号,民集45巻4号477頁)

④ 国税不服審判所平成23年12月6日裁決(裁決事例集85集)

2 国税庁資料

① 国税庁「No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税」

② 国税庁「No.4202 相続税の計算」

③ 国税庁「No.4208 相続財産が分割されていないときの申告」

④ 国税庁「相続財産が分割されていないときの申告(Q&A)」

⑤ 国税庁「申告期限後3年以内の分割見込書」

⑥ 国税庁「相続税の申告書等の様式一覧(令和8年分用)」

3 文献

① 日本公証人連合会編著『新版 証書の作成と文例 遺言編[三訂版]』立花書房,2021年,92頁~93頁(PDF実頁109頁~110頁)