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マンション大規模修繕工事の受注調整と管理組合の対応―設計コンサルへの5%手数料,証拠保全及び損害賠償(AI作成)

第1 結論

公正取引委員会は,令和8年9月28日,関東地区のマンション管理組合が設計コンサル業者に委託して発注した大規模修繕工事について,設計コンサル業者及び施工業者が受注予定者を決め,他の施工業者がその者の受注に協力する受注調整を行ったとして,独占禁止法3条に基づく排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。
この事件は,私的な発注であっても,施工業者間の競争を実質的に制限する受注調整が独占禁止法上の「不当な取引制限」となること,及び発注者側の情報を持つ設計コンサル業者が調整のハブになり得ることを具体的に示している。

管理組合が関係事業者から通知を受けた場合,最初に行うべきことは,直ちに損害額を断定することではなく,公取委命令書の別表4との対応,発注・選定の全記録,見積書の全版,設計予算に関する情報,設計コンサル業者と施工業者との接触及び金銭の流れを保全することである。
その上で,独占禁止法25条に基づく請求,民法709条に基づく不法行為請求並びに設計コンサル契約及び工事請負契約に基づく請求を区別して検討する。

公取委が翔設計側について認定した「契約価格の5%を目安とする金額」は,施工業者から翔設計への支払に関する認定事実であり,管理組合の損害額を5%と推定する法則ではない。
手数料の支払自体も,その一事だけで直ちに違法となるものではなく,特定工事との結び付き,非公開情報の提供,参加条件への働きかけ及び受注調整との関係を確認する必要がある。

第2 公取委の令和8年9月28日処分

1 二つの受注調整

公取委は,リノシスコーポレーションに設計コンサル業務を委託した工事と,翔設計に設計コンサル業務を委託した工事を分けて命令を発出した。
リノシス側は違反事業者37社,排除措置命令の対象33社,課徴金納付命令の対象33社,課徴金総額9億2157万円である。
翔設計側は違反事業者20社,排除措置命令の対象18社,課徴金納付命令の対象17社,課徴金総額7億1631万円であり,両者の課徴金総額は16億3788万円である。

リノシス側では遅くとも令和3年9月27日以降,翔設計側では遅くとも同年11月16日以降,工事ごとに設計コンサル業者と受注協力関係を構築した施工業者を受注予定者とし,それ以外の施工業者はその者が受注できるよう協力する旨の合意があったと認定されている。
受注予定者は,設計コンサル業者との協議等を経て,見積り合わせ等に参加する施工業者が管理組合へ提示する見積価格等を定め,他の施工業者は連絡された価格を提示し,又は見積り合わせ等に参加しなかったとされる。

2 設計コンサル業者が持つ情報

公取委は,設計コンサル業者が設計コンサル業務の過程で入手した設計予算等の情報を受注予定者等に提供し,受注予定者の意向を踏まえて設計コンサル業務を行ったと認定した。
ここでいう設計予算は,管理組合が決定する大規模修繕工事の発注予定金額である。

公取委の手数料等に関する資料は,競争をゆがめるおそれのある非公開情報の例として,発注予定金額,発注先を選定する具体的な基準,見積り合わせに参加する施工業者名及び他の施工業者の見積価格を挙げる。
したがって,管理組合側では,これらの情報を誰が,いつ,どの権限で取得し,誰へ伝えたかを時系列で確認する必要がある。

3 行政処分と裁判を区別する

今回公表された一次資料は,公取委の排除措置命令書及び課徴金納付命令等に関する公表資料であり,裁判所の判決ではない。
令和8年9月30日現在,命令の確定,取消訴訟の提起及び本件に関する民事判決の有無は,今回確認した公表一次資料からは確認できない。
そのため,命令の認定事実は重要な資料であるが,個別の管理組合が損害賠償請求をする場合には,請求原因ごとの要件と当該工事固有の証拠を別途検討する必要がある。

第3 受注調整の仕組み

1 見積り合わせの外形だけでは競争を保証しない

複数の施工業者から見積書が提出されていても,その価格が受注予定者等から連絡されたものであれば,見積り合わせは競争の外形を備えるだけとなる。
見積書の数や価格差だけでなく,作成者,作成日時,版の変遷,提出経路,見積条件の一致,辞退の理由及び再提出の指示を確認する必要がある。

公取委の命令書は,受注した施工業者が工事を別の施工業者に請け負わせることがあったとも認定している。
元請名だけでなく,実施工者,主要下請,見積作成への関与及び受注前後の協力関係を調べる必要がある。

2 第三者を介した情報伝達

競争事業者同士が直接連絡していなくても,設計コンサル業者その他の第三者を介して,各社の受注意向,参加者,価格又は辞退方針が伝達されれば,意思の連絡又は実効確保を基礎付ける事情になり得る。
第三者が中立的な事務局又は発注支援者と呼ばれていることだけで,情報伝達の競争法上の評価が決まるわけではない。

実務では,設計コンサル業者から各施工業者へのメール,チャット,電話記録,打合せ記録,見積依頼書の送付履歴及びファイルの作成・更新情報を保全する。
施工業者間で共通する誤記,端数処理,項目順又はファイル属性は,見積書の作成経路を検討する手掛かりとなる。

第4 施工業者から設計コンサル業者への手数料等

1 5%という数字の意味

翔設計側の排除措置命令書は,翔設計の協力を得て工事を受注した施工業者が,翔設計との協議に基づき,原則として管理組合との工事請負契約価格の5%を目安とする金額を翔設計に支払っていたと認定する。
この記載は翔設計側の命令書における具体的な認定であり,全ての設計コンサル契約又は全ての大規模修繕工事に一般化できない。

この5%は,管理組合から設計コンサル業者へ支払った正規の設計コンサル報酬とは別に,施工業者から設計コンサル業者へ支払われた金銭に関する記載である。
管理組合側では,請求書,振込記録,会計帳簿,紹介料・協力金・業務委託料等の名目,支払時期,計算根拠及び対応する役務の有無を確認する。

2 手数料だけで結論を出さない

公取委は,特定工事の発注前に,その工事を受注した場合の手数料等を取り決めること,及び包括的な手数料等の取決めがある場合に,特定工事の受注上有利な非公開情報を提供し,又は参加条件を有利・不利にするよう管理組合へ働きかけることを,競争をゆがめるおそれのある行為として挙げる。
評価の中心は,金銭の存在だけでなく,受注への協力の対価として機能したか,発注者の非公開情報又は選定権限が利用されたかにある。

反対に,実在する別個の役務に対する相当な対価であり,特定工事の受注,非公開情報の提供又は参加条件への働きかけと結び付かない場合まで,公取委資料が一律に違法と述べているわけではない。
契約名又は勘定科目ではなく,実際の役務,時期,金額及び受注結果との対応を確認する必要がある。

第5 管理組合が最初に行う確認と証拠保全

1 対象工事との照合

関係事業者から排除措置命令に基づく通知を受けたときは,通知書の原本及び封筒又は電子送信記録を保存し,通知者,受領日,対象工事名,契約年月日及び施工業者を確認する。
公取委命令書の別表4に記載された工事名と照合するが,名称変更,複数期工事,追加工事又はサッシ工事等が併記されている場合があるため,契約書単位でも照合する。

通知が届かないことだけから,受注調整の対象外であったと断定することはできない。
反対に,同じ施工業者又は設計コンサル業者が関与したというだけで,別表4にない工事まで違反対象と断定することもできない。

2 上書き・廃棄を防ぐ

施工業者又は設計コンサル業者へ照会する前に,管理組合内部の資料を保全する。
照会後は担当者の記憶やデータの保存状態が変化し得るため,資料の所在,保管者,取得日及び取得方法を記録して複製することが重要である。

保全対象には,①設計コンサル契約及び工事請負契約,②総会・理事会・修繕委員会の議案書,議事録及び配布資料,③設計予算,長期修繕計画及び予定価格に関する資料,④公募条件,参加資格及び評価基準の各版,⑤全参加者の見積書,内訳書,辞退届及び再見積書,⑥メール,チャット,郵便,電話メモ及び面談記録,⑦請求書,支払記録,出来高・変更工事及び精算資料,⑧施工体制,下請契約及び工事報告書を含める。
紙と電子の両方がある場合は,電子ファイルの作成日時,更新日時及び送受信情報も失わないようにする。

3 管理組合内部の権限を整える

弁護士への相談,関係者への照会,鑑定又は訴訟提起について,管理規約,総会決議,理事会決議及び理事長の権限を確認する。
請求の可否を調査する段階の権限と,和解又は訴訟を行う段階の権限を区別し,利益相反のある役員又は委員がいないかも確認する。

第6 損害賠償請求の法的経路

1 独占禁止法25条・26条

独占禁止法25条は,同法3条等に違反した事業者について,被害者に対する損害賠償責任を定め,故意又は過失がなかったことによる免責を認めていない。
ただし,同法26条により,25条に基づく請求は,排除措置命令が確定した後でなければ裁判上主張できず,排除措置命令がされなかった場合は所定の課徴金納付命令の確定が基準となる。
同条に基づく請求権は,同法26条2項により,これらの命令が確定した日から3年で時効により消滅する。

したがって,命令が発出されたことと,独占禁止法25条による訴えを直ちに提起できることは同じではない。
命令の確定状況,名宛人,違反期間及び自らの工事との対応を確認する必要がある。

2 民法709条及び契約責任

民法709条に基づく不法行為請求には,独占禁止法26条の命令確定要件は適用されないが,故意又は過失,権利又は法律上保護される利益の侵害,損害及び因果関係を主張立証する必要がある。
また,設計コンサル業者については,中立・公正な選定補助,秘密保持,利益相反の回避又は報告義務等が契約上どのように定められていたかを確認し,債務不履行責任の成否を検討する。

施工業者についても,入札・見積条件への違反,表明保証,誠実協議条項又は解除・損害賠償条項の有無を確認する。
請求相手及び請求原因によって,立証事項,消滅時効の起算点並びに損害の範囲が異なるため,公取委の処分日だけを基準に時効を判断しない。

3 5%と損害額は別である

管理組合の損害額は,受注調整がなければ成立したと考えられる競争価格と,実際の契約・支払額との差額を中心に検討する。
施工業者から設計コンサル業者へ支払われた5%相当額が存在しても,それだけで同額が管理組合の過払額又は損害額になるわけではない。

損害額の検討では,同一工事の初回・再見積り,積算資料,受注調整の対象外となった類似工事,同時期・同地域の工事,原価・粗利,変更工事,追加工事,設計変更,資材価格及び工期の差を整理する。
受注調整がなければ誰がどの価格で受注できたかという反実仮想を,具体的な証拠により示す必要がある。

4 公取委資料の提供制度

公取委の通達は,命令確定後,違反行為の被害者又は代理人弁護士から求めがあった場合,提訴に必要な排除措置命令書又は納付命令書の謄本・抄本を提供するとしている。
提訴後は,裁判所の文書送付嘱託に応じ,違反行為の存在,因果関係及び損害額の立証に関連する資料を,事業者の秘密,事件処理及びプライバシーに配慮しつつ提出する取扱いが示されている。

命令確定前でも,取消訴訟中その他命令が確定していない場合に,被害者又は代理人が損害賠償請求訴訟のために求めたときは,排除措置命令書又は納付命令書の謄本・抄本を提供する取扱いである。
もっとも,公取委から入手できる資料だけで個別工事の損害額が当然に証明されるわけではないため,管理組合側の資料保全が重要である。

第7 施工業者・設計コンサル業者側の対応

関係事業者は,対象部署,関係者及び期間を定めてデータ保存通知を行い,メール,チャット,電話記録,見積ファイル,会計データ,紹介料・協力金等の契約及び支払記録を保全する。
事実調査では,違反の認否を先に決めず,工事ごとに発注情報の入手,受注意向の伝達,参加者の選定,見積価格の形成,辞退,受注,手数料等の支払及び下請発注を時系列化する。

課徴金減免又は調査協力減算の適用を受けたこと,排除措置命令の名宛人にならなかったこと又は課徴金納付命令の対象にならなかったことは,違反行為への関与がなかったことと同じではない。
公取委資料の「違反事業者数」,「排除措置命令の対象事業者数」及び「課徴金納付命令の対象事業者数」を区別して読む必要がある。

合併,商号変更又は事業承継がある場合は,当時の法人,現在の法人,契約当事者,通知者及び責任の承継関係を登記事項及び契約資料で確認する。
従業員個人の行為だけに還元せず,情報共有,承認,報酬,評価及び研修の仕組みを検討する。

第8 次回の大規模修繕工事に向けた発注管理

管理組合は,設計コンサル業者の独立性及び利益相反を契約締結前に確認し,施工業者その他の関係者から受領する紹介料,協力金,業務委託料その他の金銭・便益の開示又は禁止を契約に定めることが考えられる。
違反時の報告,資料提出,監査,解除及び損害賠償についても,実行可能な条項を設ける。

発注予定金額,具体的な評価基準,参加施工業者名及び各社の見積価格へのアクセス権を限定し,閲覧・送信記録を残す。
参加資格及び評価基準は公募前に確定し,特定の施工業者に有利又は不利な変更を行う場合は,理由,決定者及び決定時期を記録する。

見積書は管理組合が指定する経路で直接受領し,提出時刻,ファイル名,ハッシュ値又は封緘状況を記録する。
辞退,再見積り,異常に規則的な価格差,共通する誤記又は同一のファイル属性がある場合に確認する手順を設ける。

設計,施工者選定補助及び工事監理の役割を同一事業者へ委託する場合は,権限集中に応じた二重確認を設ける。
工事受注後の下請先,主要な変更工事及び追加費用も報告対象とし,選定時に説明された施工体制との相違を確認する。

第9 関連する独占禁止法記事との関係

今回のマンション大規模修繕事件は,私的発注における不当な取引制限の行政処分である。
管理組合は国又は地方公共団体ではないため,官製談合防止法が当然に適用される場面ではないが,私的発注であっても独占禁止法3条の適用対象となり得る。

私的発注の指名競争見積りにおける客観的な供給可能性と競争の実質的制限については,「リニア中央新幹線談合事件と競争の実質的制限-最高裁令和8年9月14日決定・渡邉惠理子裁判官補足意見(AI作成)」を参照されたい。
ただし,リニア事件は刑事事件の最高裁決定であり,本件は公取委の行政処分であるため,証明の対象,証拠及び手続を区別し,最高裁決定の事実認定を本件へ機械的に移してはならない。

不当な取引制限と不公正な取引方法の区別,独占禁止法25条と民法709条による損害賠償は,「不公正な取引方法に関する実務メモ(AIリライト)」を参照されたい。
競争事業者間の情報交換,意思の連絡及び第三者を介した情報伝達の整理は,「共同購入・購入価格カルテルと独占禁止法(AI作成)」も参照されたい。

第10 一次資料と未確認範囲

1 確認した一次資料

①公正取引委員会「関東地区所在のマンションの管理組合が設計コンサル業者に委託して発注する大規模修繕工事の施工業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」(令和8年9月28日)
②同公表資料・印刷用PDF
③本件の概要
④別添1・リノシス側排除措置命令書
⑤別添2・翔設計側排除措置命令書
⑥別添3「大規模修繕工事の施工業者から設計コンサル業者に対して支払う手数料等について」
⑦e-Gov法令検索・独占禁止法
⑧公正取引委員会「関係条文抜粋」(独占禁止法25条・26条)
⑨公正取引委員会「独占禁止法違反行為に係る損害賠償請求訴訟に関する資料の提供等について」

2 未確認範囲

令和8年9月30日現在,今回確認した公表一次資料からは,本件命令の確定の有無,取消訴訟の提起の有無,本件を対象とする民事判決及び刑事判決の有無を確認できなかった。
判例秘書による関連裁判例本文の確認も行っていない。

したがって,本記事は公取委が令和8年9月28日に公表した行政処分及び法令・通達を基礎とするものであり,確定判決により本件の事実又は損害賠償責任が確定したとの意味ではない。
個別案件では,命令の確定状況,対象工事,契約関係,証拠,請求相手,損害及び消滅時効を改めて確認する必要がある。