第1 この記事の対象と結論
1 対象と資料
本記事は,弁護士の業務広告に関する規律と,広告や勧誘の方法,広告業者への支払が懲戒処分の対象とされた例を整理するものである。
本記事の法令及び会規は令和8年9月28日現在のものである。
会規は日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)が公表している現行の会規集の本文で確認し,懲戒例は日弁連の機関誌『自由と正義』に掲載された懲戒処分の公告及び裁決の公告の原本で,号・頁・処分の内容を確認した。
公告は処分の理由の要旨を記載したものにとどまるため,本記事の記述も公告の記載の範囲に限られる。
個々の弁護士の氏名は記載しない(弁護士法人の名称は,処分の対象そのものであるため記載する。)。
2 結論
結論は次の5点である。
①弁護士の業務広告は原則として自由であるが,弁護士職務基本規程9条と「弁護士等の業務広告に関する規程」(以下「広告規程」という。)が,虚偽・誤導・誇大な広告や,面識のない者への一定の方法による勧誘を禁じている。
②近年の懲戒例は,詐欺被害の回復をうたう広告に集中しており,どのような回答をしても返金請求が必要であるかのような結果が出る診断機能,全件が満額回収であるかのような解決事例の表示,閲覧者の人数を実際と異なる数で示す表示が,いずれも違反とされている。
③広告表示そのものの違反は戒告から業務停止数か月の例が多いが,広告業者や非弁護士に受任の過程を委ね,名義を利用させる体制と結び付くと,業務停止1年以上の重い処分になっている。
④広告業者への支払を受任件数や報酬額に連動させると,名目が広告費や業務委託料であっても,紹介の対価(職務基本規程13条)や報酬の分配(同12条)と評価されている。
⑤令和7年12月5日の広告規程の改正で,広告業者との契約書と入出金の記録の保存が求められるようになった(令和8年7月1日施行)。
第2 業務広告に関する規律
1 弁護士職務基本規程
弁護士職務基本規程9条1項は「弁護士は、広告又は宣伝をするときは、虚偽又は誤導にわたる情報を提供してはならない。」,同条2項は「弁護士は、品位を損なう広告又は宣伝をしてはならない。」と定めている。
同規程11条は,弁護士法72条から74条までの規定に違反する者等から依頼者の紹介を受け,これらの者を利用し,又はこれらの者に自己の名義を利用させることを禁じている。
同規程12条は,職務に関する報酬を弁護士等でない者と分配することを原則として禁じ,13条1項は「弁護士は、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その他の対価を支払ってはならない。」と定めている。
これらはいずれも,同規程82条2項の行動指針又は努力目標の規定には含まれない義務規定である。
2 弁護士等の業務広告に関する規程
広告規程(平成12年会規第44号)2条は,広告を,弁護士等が「自己又は自己の業務を他人に知らせるために行う情報の伝達及び表示行為であって、顧客又は依頼者となるように誘引することを主たる目的とするもの」と定義している。
媒体は問わないので,事務所のウェブサイトやポータルサイトへの掲載,SNSでの発信も,誘引を主たる目的とするものであれば広告に当たる。
3条は,次の広告を禁止している。
①事実に合致していない広告
②誤導又は誤認のおそれのある広告
③誇大又は過度な期待を抱かせる広告
④困惑させ,又は過度な不安をあおる広告
⑤特定の弁護士等又はその事務所と比較した広告
⑥法令又は日弁連若しくは所属弁護士会の会則若しくは会規に違反する広告
⑦弁護士等の品位又は信用を損なうおそれのある広告
4条は,訴訟の勝訴率,同意のない顧問先・依頼者,受任中の事件,過去に取り扱った事件(いずれも一定の例外がある。)の表示を禁じている。
5条は,面識のない者に対する訪問又は電話による広告と,承諾を得ないファクシミリ・電子メール等による広告を禁じている。
6条は,「特定の事件の当事者及び利害関係者で面識のない者に対して、郵便その他これらの者を名宛人として直接到達する方法で、当該事件の依頼を勧誘する広告」を禁じ,公益上の必要があるとして所属弁護士会の承認を得た場合を例外としている。
8条は,第三者が弁護士の業務に関して行う情報の伝達又は表示行為で広告規程に抵触するものに対し,金銭その他の利益を供与し,又はこれに協力することを禁じている。
12条は,弁護士会による調査のほか,3条1号(事実に合致していない広告)の疑いがあるときに,事実に合致することの証明を求め,証明できなければ同号に該当するとみなすことができる旨を定めている(3項・4項)。
3 令和7年12月5日の改正
広告規程は令和7年12月5日に改正された(附則)。
①4条2号から4号まで及び5条2項の改正規定は,令和8年4月1日から施行されている。
②11条の改正規定は,令和8年7月1日から施行されている。
改正後の11条は,広告物やその記録に加えて,「当該広告に関する業務を委託した事業者(以下「広告業者」という。)との契約書その他の広告業者との間の契約の内容を証する書面又は電磁的記録及び当該契約に係る入出金に関する記録」を,広告が終了した時から3年間保存することを求めている。
附則により,契約の内容を証する書面の保存は同日前に終了した広告には適用されず,入出金の記録の保存は同日前に行われた入出金には適用されない。
運用の詳細は,日弁連の「業務広告に関する指針」が示している。
第3 広告の表示が問題とされた例
1 詐欺被害の回復をうたう広告
(1) どう答えても同じ結果になる診断機能
出会い系,副業,占い等のインターネット上の詐欺被害について返金相談専用のウェブサイトを運営し,無料診断の機能を,質問にどのような回答をしても「詐欺の可能性大、返金請求必須」と表示される設定にした例がある(第二東京弁護士会,戒告,2023年10月25日効力発生,自由と正義2024年3月号72頁)。
この例では,実際には満額返金されない案件があるのに,解決事例の全てを被害金額と返金額が同額の満額返金として表示したことと,ページの閲覧者の人数や無料診断中の人数を実際の利用状況と異なる表示にしたことも,職務基本規程9条1項・2項と広告規程3条1号から4号までに違反するとされた。
審査請求は棄却され(自由と正義2024年11月号74頁),裁決の取消しを求める訴えも棄却されて判決が確定したことが公告されている(自由と正義2025年5月号67頁)。
(2) 受任体制の問題と結び付いた例
自己のホームページに「解決実績多数」等と表示し,「返金請求診断」でどの条件を選んでも一律に「お金を取り戻せる可能性があります」と表示されるようにしたうえ,SNSを通じた非対面型の詐欺では回収可能性が極めて低いことを相談者に説明せず,説明を事務職員とされる者らに委ねた例は,業務停止1年とされた(神奈川県弁護士会,自由と正義2026年3月号70頁~71頁)。
この例では,事務職員とされる者らに見通しの説明,着手金の提示,契約締結まで行わせ,月100件程度の事件を受任していたことや,預り口口座を自ら管理しなかったことも認定されている。
事務所のウェブサイトに,国際ロマンス詐欺等に関し「返金の可能性は必ずあります」「返金実績多数」等の表示を掲載したうえ,広告業務委託料の名目で報酬を得る目的で国際ロマンス詐欺等に関する法律事件を周旋することを業としていたと疑うに足りる相当の理由のある業者を利用し,その業者から紹介されて業務委託契約を結んだ事務員に対し,事情聴取,報酬額の決定,委任契約の締結手続等を弁護士の名義を利用して行うことを許諾した例は,業務停止2年とされた(大阪弁護士会,2024年10月15日効力発生,自由と正義2025年2月号85頁)。
2 紙のチラシ
基地騒音の賠償金を「補償金」と表示し,訴訟を提起して数年かかって初めて受領できる可能性がある金銭であることが分からない記載をしたチラシ合計2万8000枚をポスティングで配布した例は,戒告とされた(第二東京弁護士会,2019年5月15日効力発生,自由と正義2019年9月号87頁)。
媒体がウェブサイトでなくても,同じ規律が適用される。
3 期間限定の表示
「約1か月間の期間限定」として過払金返還請求の着手金を無料又は値引きとする広告を,約4年10か月にわたって反復継続して表示した弁護士法人は業務停止2月とされ,指示・承認を与えた実質的な支配者である弁護士は業務停止3月とされた(弁護士法人アディーレ法律事務所,東京弁護士会,2017年10月11日効力発生,自由と正義2018年1月号95頁~97頁)。
この表示については,懲戒に先立ち,消費者庁が平成28年2月16日に景品表示法に基づく措置命令をしている。
経過は弁護士法人アディーレ法律事務所に対する懲戒処分(平成29年10月11日付)で整理している。
第4 勧誘の方法が問題とされた例
1 面識のない者への通知
投資詐欺の顧客リストを入手し,所属弁護士会の承認を得ずに,面識のない者に出資金返還等請求事件の依頼を勧誘する通知書を発送した例は,受任時に事情聴取や委任契約・報酬の決定を事務員に行わせたこととあわせて,業務停止1年とされた(東京弁護士会,2016年9月30日効力発生,自由と正義2017年2月号90頁)。
2 口外禁止条項の潜脱
証券会社を被告とする損害賠償請求訴訟で,事件と和解条項の内容を第三者に口外しない旨の条項を含む和解をしたのに,面識のない同じファンドの購入者十数名に,訴訟で知り得た情報や和解を解決実績として記載した書面を送付して勧誘した例は,広告規程6条に違反するとされ,戒告とされた(東京弁護士会,2016年11月9日効力発生,自由と正義2017年3月号114頁)。
3 非弁業者の電話勧誘体制
弁護士法72条に違反する者の指示の下で,電話勧誘スタッフが顧客を事務所に誘導し,弁護士が面談して委任状を取り付けるという体制に組み込まれたまま受任を続け,勧誘スタッフが無関係の法律事務所の名前を使っていることを黙認した例は,業務停止1年とされた(愛知県弁護士会,2020年7月28日効力発生,自由と正義2021年1月号78頁)。
摘示された規定には,職務基本規程9条・11条と,広告規程3条1号・2号・6号及び5条1項が含まれている。
第5 広告業者等への支払
1 成果報酬型の広告
アフィリエイトサービスを通じた広告から事務所の無料診断に誘導し,無料診断を受けた者1件当たり6500円(交通事故慰謝料)又は5000円(占い詐欺被害)の成果報酬を支払った例は,職務基本規程13条1項違反として,社員である弁護士と弁護士法人がいずれも戒告とされた(第一東京弁護士会,2023年12月4日効力発生,自由と正義2024年5月号55頁~56頁)。
戒告の例ではあるが,件数に連動する支払が「紹介の対価」と評価されている点に注意を要する。
2 紹介料・業務委託料の名目
相続コーディネート業者から紹介を受けた3名の事件について,着手金の20%相当額を紹介の対価として業者に支払った例は,代表社員である弁護士と弁護士法人がいずれも業務停止1月とされた(東京弁護士会,2025年8月7日効力発生,自由と正義2025年12月号70頁~71頁)。
紹介者に紹介料が支払われることを認識しながら,毎月500万円以上の金員を「広告宣伝費」の名目で業者に送金した例は,職務基本規程11条・13条1項違反として業務停止4月とされた(第二東京弁護士会,2014年12月11日効力発生,自由と正義2015年4月号121頁)。
受任した外国人事件で現実に受け取った弁護士報酬の3分の1を原則として業務委託料とする契約を一般社団法人と結んで支払った例は,職務基本規程12条違反とされ,業務停止中に求人サイトで弁護士の肩書を表示したこととあわせて業務停止1年6月とされた(東京弁護士会,2018年3月14日効力発生,自由と正義2018年7月号95頁)。
この処分は,審査請求を受けた日弁連の裁決で業務停止9月に変更された(自由と正義2019年2月号72頁)。
第6 弁護士が確認しておくこと
1 表示
①「必ず」「全額」「取り戻します」等,結果を保証すると受け取られる表現を使わず,回収可能性が事案によることを明記する。
②解決事例は実態のとおりに示し,有利な事例だけを選んで全件が満額回収であるかのように見せない。
③閲覧者数,相談件数,実績の数字は,実際の数値に基づく場合に限って表示する。
④診断機能や見積りの自動表示は,入力に応じて結果が変わる設計にし,どの回答でも同じ結論になる設定にしない。
⑤「期間限定」「キャンペーン」の表示は,実際の実施期間と一致させる。
⑥勝訴率,同意のない依頼者名,受任中の事件を表示しない。
2 広告業者との関係
①広告業者への支払を,受任件数,相談件数,報酬額に連動させない。
②集客から受任までの過程(事情聴取,見通しと費用の説明,契約の締結)を業者や事務職員に委ねず,弁護士自身が行う。
③業者が作る広告やランディングページも,掲載前に弁護士自身が表示内容を確認する。
④広告物,広告業者との契約書及び入出金の記録を,広告の終了から3年間保存する(入出金の記録等は令和8年7月1日以降の分)。
3 勧誘
①面識のない者に,訪問,電話,承諾のないメール・ファクシミリ等で勧誘しない。
②特定の事件の被害者等に名宛てで勧誘するのは,公益上の必要について所属弁護士会の承認を得た場合に限る。
③和解の口外禁止条項などの守秘の約束を,勧誘の材料にしない。
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第8 出典
1 日弁連の会規
弁護士等の業務広告に関する規程(平成12年会規第44号,令和7年12月5日改正)
業務広告に関する指針(令和8年2月19日改正)
弁護士職務基本規程(平成16年会規第70号,令和3年6月11日改正)
2 消費者庁の措置命令
消費者庁「弁護士法人アディーレ法律事務所に対する景品表示法に基づく措置命令について」(平成28年2月16日)
3 懲戒処分及び裁決の公告
いずれも『自由と正義』(日本弁護士連合会)に掲載された公告である。
2015年4月号121頁(第二東京弁護士会の業務停止4月)
2017年2月号90頁(東京弁護士会の業務停止1年)
2017年3月号114頁(東京弁護士会の戒告)
2018年1月号95頁~97頁(東京弁護士会の弁護士法人及び弁護士に対する業務停止)
2018年7月号95頁(東京弁護士会の業務停止1年6月)
2019年2月号72頁(上記業務停止1年6月を9月に変更した日弁連の裁決)
2019年9月号87頁(第二東京弁護士会の戒告)
2021年1月号78頁(愛知県弁護士会の業務停止1年)
2024年3月号72頁(第二東京弁護士会の戒告)
2024年5月号55頁~56頁(第一東京弁護士会の弁護士及び弁護士法人に対する戒告)
2024年11月号74頁(上記2024年3月号の戒告に対する審査請求を棄却した日弁連の裁決)
2025年2月号85頁(大阪弁護士会の業務停止2年)
2025年5月号67頁(上記審査請求棄却の裁決の取消訴訟の判決確定)
2025年12月号70頁~71頁(東京弁護士会の弁護士及び弁護士法人に対する業務停止1月)
2026年3月号70頁~71頁(神奈川県弁護士会の業務停止1年)