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弁護士法人アディーレ法律事務所に対する懲戒処分(平成29年10月11日付)(AIリライト)

第1 本件懲戒処分の概要

1 平成29年10月11日の処分

東京弁護士会は,平成29年10月11日,弁護士法人アディーレ法律事務所に対して業務停止2月,その元代表社員であった石丸幸人弁護士に対して業務停止3月の懲戒処分をした。

処分の対象となったのは,債務整理及び過払金返還請求について,実際には同じ内容のキャンペーンを反復継続していたにもかかわらず,約1か月の期間限定であるかのように表示した広告である。東京弁護士会は,この広告を景品表示法及び弁護士広告に関する規程等に違反する組織的な非行と判断した。

処分時の規模は,後続の賃金判決が認定したところによれば,主たる事務所と支店を合わせて86拠点,所属弁護士186人,依頼者約10万人であった。そのため,本件は,広告規制に関する懲戒事例であるだけでなく,全国規模の弁護士法人に対する業務停止が依頼者及び所属弁護士に及ぼす影響を示した事例でもある。

2 本記事で区別する手続

法人に対する処分と石丸幸人弁護士個人に対する処分は,別個の懲戒処分である。また,東京弁護士会の原処分,日弁連に対する審査請求及び後に愛媛弁護士会がした別の戒告処分も,それぞれ区別する必要がある。

本記事では,これらの手続を分けた上で,期間限定広告,消費者庁の措置命令,東京弁護士会の懲戒処分,業務停止の効果,依頼者対応,所属弁護士の賃金訴訟及び日弁連の裁決を時系列に沿って整理する。

第2 期間限定広告と消費者庁の措置命令

1 三段階の広告表示

消費者庁の平成28年2月16日付資料及び懲戒公告によれば,対象となったウェブ広告は三つの時期に分かれる。

第1期は平成22年10月6日から平成25年7月31日までであり,約1か月の期間限定で過払金返還請求の着手金を無料又は値引きするとの内容であった。第2期は平成25年8月1日から平成26年11月3日までであり,これに借入金返済中の過払金診断を無料とする内容が加わった。

第3期は平成26年11月4日から平成27年8月12日までであり,約1か月の期間内に債務整理又は過払金返還請求を申し込み,契約から90日以内に解除した場合には着手金を全額返還するとの内容が加わった。いずれも表示上の期間が終了した後に同じ内容のキャンペーンが続けられ,東京弁護士会の公表資料は,約4年10か月の間に58回更新されたとしている。

2 平成28年2月16日付措置命令

消費者庁は,平成28年2月16日,上記表示が実際の取引条件よりも有利であると一般消費者に誤認される表示に当たるとして,平成26年11月改正前の景品表示法4条1項2号違反を認定し,同法6条に基づく措置命令をした。

命令の中心は,違反事実を一般消費者に周知すること及び今後同様の表示をしないことである。法人は命令前に日刊新聞2紙への社告掲載,広告審査室の設置その他の措置を講じていたため,新たな再発防止措置の実施までは命じられなかった。したがって,本件を単に「広告禁止の命令」と表現するよりも,違反事実の周知及び同様の表示の禁止等を内容とする措置命令と説明する方が正確である。

期間限定表示を更新して実質的に継続する場合の景品表示法上の評価については,加藤公司・伊藤憲二・内田清人・石井崇・籔内俊輔編『景品表示法の法律相談 第3版』218頁及び294頁も,本件を具体例として取り上げている。

第3 東京弁護士会の懲戒処分

1 法人に対する業務停止2月

『自由と正義』2018年1月号96頁~103頁の懲戒公告によれば,法人は,石丸幸人弁護士の指示又は承認を受けて上記広告を反復継続し,有利誤認表示を行ったと認定された。

東京弁護士会は,この行為が平成26年11月改正前の景品表示法4条1項2号に違反し,当時の弁護士等の業務広告に関する規程3条,弁護士職務基本規程69条により準用される同規程9条及び東京弁護士会の弁護士法人会員基本会規22条1項1号に抵触すると判断した。その上で,弁護士法56条1項の弁護士法人としての品位を失うべき非行に当たるとして,法人を業務停止2月とした。

東京弁護士会の会長談話は,消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある悪質な表示が長期間にわたり多数回反復継続された組織的な非行であると説明している。

2 石丸幸人弁護士に対する業務停止3月

『自由と正義』2018年1月号95頁の懲戒公告によれば,石丸幸人弁護士は法人の出資持分を約95%有し,重要な業務執行の決定を行う権限を有していた。東京弁護士会は,同弁護士が広告について法人に指示又は承認を与えたと認定し,業務停止3月とした。

法人の広告行為と個人の指示又は承認は,同じ広告を基礎とするものの,懲戒を受けた主体及び処分内容が異なる。後記のとおり,日弁連は法人の業務停止2月を維持した一方,石丸幸人弁護士の処分を業務停止2月に変更した。

3 法人全体が処分対象となったこと

弁護士法57条は,弁護士法人に対する懲戒として戒告,業務停止,退会命令及び除名を定めている。また,従たる法律事務所の所在地を管轄する弁護士会が,その法律事務所だけについて懲戒する制度も設けられている。

本件の懲戒公告は,主たる法律事務所に加えて全ての従たる法律事務所を別紙に列挙しており,業務停止2月は法人全体を対象とした。平成29年10月当時の拠点及び所属弁護士の詳細は,平成29年10月当時の,弁護士法人アディーレ法律事務所の状況に記載している。

第4 業務停止の法的効果

1 受任事件及び顧問契約

東京高裁平成19年7月19日決定は,日弁連の業務停止期間中の措置基準を前提として,受任中の法律事件については,係属前か係属後かを問わず,原則として委任契約を解除し,係属機関に辞任の手続をしなければならないことを示している。

例外は,業務停止期間が1か月以内であり,かつ,依頼者が委任契約の継続を求める場合である。期間が1か月以内であるだけで当然に受任事件を継続できるわけではなく,顧問契約は業務停止期間にかかわらず直ちに解除するものとされている。

本件の業務停止期間は2月であったから,上記例外の対象とはならない。業務停止の告知,委任契約の解除,辞任,預り金及び事件記録の返還等の取扱いについては,弁護士の業務停止処分に関する取扱い(AIリライト)に詳述している。

2 業務停止中の訴訟行為

最高裁令和7年12月18日第一小法廷決定・令和7年(マ)第490号は,業務停止処分の告知を受けた弁護士は直ちに一切の弁護士業務を行うことができず,処分に違反してした訴訟行為は違法性を免れないとした。また,裁判所は,当該弁護士を訴訟手続から排除すべきであると判断した。

この最高裁決定は本件処分から約8年後のものであり,本件そのものを判断したものではない。もっとも,業務停止が単なる新規受任の禁止ではなく,告知によって直ちに職務遂行を禁止する処分であることを理解する上で重要である。

第5 依頼者及び所属弁護士への影響

1 依頼者対応と業務再開

東京弁護士会は,処分の翌日から臨時電話相談窓口を開設し,延べ数百人の会員と全国の弁護士会の協力を得て依頼者対応に当たった。同会の『LIBRA』2017年12月号22頁は,約3週間後に当初の混乱が収束したと報告している。

法人は,業務再開に関するお知らせにおいて,平成29年10月11日から同年12月10日まで業務を停止し,同月11日に業務を再開したと公表した。また,処分により全ての委任契約が解除されたため,業務停止期間中は契約解除に伴う手続を優先したと説明している。

2 所属弁護士の賃金請求事件

東京地裁平成31年1月23日判決は,業務停止期間中に自宅待機を命じられた所属弁護士の賃金請求を認めた。判決は,法人が期間限定表示を繰り返すことの問題を容易に認識でき,業務停止という重い処分も予見できたなどとして,就労不能について法人側の帰責事由を認め,改正前民法536条2項を適用した。同判決は裁判所HP未掲載であり,『労働経済判例速報』2382号28頁及び判例秘書文献番号L07430160に掲載されている。

東京地裁令和3年9月16日判決・令和2年(ワ)第12383号も,別の所属弁護士による業務停止期間中の賃金請求を認めた。同判決も裁判所HP未掲載であり,『労働判例』1299号57頁,『労働判例ジャーナル』119号52頁及びLEX/DB文献番号25590960に掲載されている。

これらの判決は,懲戒処分自体の適法性を判断したものではない。しかし,全国規模の業務停止が所属弁護士の雇用関係にも影響し,その休業中の賃金負担が法人に帰せられたことを示している。

第6 日弁連の裁決

1 法人の審査請求棄却

『自由と正義』2018年4月号91頁の裁決公告によれば,法人は東京弁護士会の業務停止2月について審査請求をした。日弁連は,平成30年3月13日,懲戒委員会の議決に基づいて審査請求を棄却し,裁決は同月16日に効力を生じた。

したがって,法人に対する業務停止2月は,石丸幸人弁護士個人の処分を変更した日弁連裁決によって変更されていない。法人の審査請求棄却と個人の処分変更は,同日にされた別個の裁決である。

2 石丸幸人弁護士の処分変更

『自由と正義』2018年5月号108頁の裁決公告によれば,日弁連は,平成30年3月13日,石丸幸人弁護士に対する業務停止3月を業務停止2月に変更し,裁決は同月15日に効力を生じた。

日弁連は,約4年10か月に及ぶ58回の表示,全国規模の影響,景品表示法上の問題を容易に認識できたこと等を重く評価した。他方,同弁護士が平成24年7月に代表社員を退いていたこと及び法人が公益目的の高額寄付をしたこと等を考慮し,法人と同じ業務停止2月が相当であると判断した。裁決公告から確認できるのは「公益目的の高額寄付」であり,具体的な寄付額ではない。

3 愛媛弁護士会による別処分の取消し

愛媛弁護士会は,松山支店に係る同じ期間限定広告を理由として,平成30年5月21日,法人を戒告とした。これは東京弁護士会の平成29年10月11日付処分とは別の懲戒処分である。

『自由と正義』2018年10月号75頁の裁決公告によれば,日弁連は,平成30年8月22日,法人全体が既に業務停止2月を受け,元代表社員も業務停止2月を受けていることから,更に戒告を必要かつ相当とする特段の理由はないとして,愛媛弁護士会の戒告を取り消し,法人を懲戒しないこととした。

第7 法令上の位置付けと手続

1 弁護士法人の懲戒権者と処分

弁護士法56条は,弁護士法人に品位を失うべき非行があったときは所属弁護士会が懲戒することを定め,同法57条は法人に対する処分の種類を定めている。従たる法律事務所だけについて処分する場合には,その所在地を管轄する弁護士会が懲戒することができる。

同法59条は,懲戒処分を受けた者が日弁連に審査請求をする手続を定め,同法61条は,日弁連の裁決等に不服がある者が東京高裁に取消しの訴えを提起できることを定めている。弁護士及び弁護士法人の懲戒手続全般については,弁護士会の懲戒手続―綱紀委員会・懲戒委員会と異議申出(AIリライト)に記載している。

2 石丸幸人弁護士と法人の社員資格

弁護士法30条の22第6号は,社員である弁護士が業務停止等の懲戒処分を受けたことを,弁護士法人から当然に脱退する事由として定めている。ただし,本件の懲戒公告及び日弁連裁決は,石丸幸人弁護士を処分時の「元代表社員」として記載している。

処分時に法人に対して影響力を有していたかという量定上の判断と,処分時に代表社員であったかという資格上の事実は同一ではない。本件では,約95%の出資持分及び重要な業務執行を決定できる権限が個人の責任を基礎付ける一方,平成24年7月に代表社員を退いていたことが日弁連の量定で考慮された。

第8 出典・参考資料

1 法令及び裁判例

e-Gov法令検索「弁護士法」

東京高裁平成19年7月19日決定

最高裁令和7年12月18日第一小法廷決定・令和7年(マ)第490号

④ 東京地裁平成31年1月23日判決・『労働経済判例速報』2382号28頁・判例秘書文献番号L07430160(裁判所HP未掲載)

⑤ 東京地裁令和3年9月16日判決・令和2年(ワ)第12383号・『労働判例』1299号57頁・LEX/DB文献番号25590960(裁判所HP未掲載)

2 懲戒公告及び公的資料

① 日本弁護士連合会『自由と正義』2018年1月号95頁~103頁

② 日本弁護士連合会『自由と正義』2018年4月号91頁

③ 日本弁護士連合会『自由と正義』2018年5月号108頁

④ 日本弁護士連合会『自由と正義』2018年10月号69頁及び75頁

消費者庁「弁護士法人アディーレ法律事務所に対する景品表示法に基づく措置命令について」平成28年2月16日(自治体HP保存PDF)

東京弁護士会『LIBRA』2017年11月号52頁「弁護士法人アディーレ法律事務所らに対する懲戒処分についての会長談話」

東京弁護士会『LIBRA』2017年12月号22頁「大規模法人の懲戒処分を経験して」

弁護士法人アディーレ法律事務所「業務再開に関するお知らせ」

平成29年10月11日付「懲戒処分の通知及び懲戒処分の公表について」

平成29年10月11日付「弁護士法人等の懲戒処分(業務停止)について」

3 専門書

① 長瀨佑志『若手弁護士のための相談・受任・解決トラブル回避術』学陽書房,2024年,71頁~72頁

② 加藤公司・伊藤憲二・内田清人・石井崇・籔内俊輔編『景品表示法の法律相談 第3版』青林書院,2025年,218頁及び294頁

③ 芦原一郎『実務家のための労働判例読本 2025年版』経営書院,2025年,209頁~210頁