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過去問・入試問題の解説を販売・配信してよいか―塾のテスト問題のライブ解説事件,国語テスト事件及び著作権法36条の射程(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象と基準日

この記事は,大学入試・中学入試・資格試験の過去問について,解答や解説を作って販売し,動画で配信し,又は塾の教材に使うことが著作権侵害になるかを扱う。
法令は令和8年9月28日にe-Gov法令検索(法令API)で著作権法の現行条文を確認し,裁判例は裁判所HPの裁判例検索と判例秘書で判決本文を確認した。
大学・独立行政法人・法務省の利用条件は,同日に各機関のウェブサイトで確認した内容である。

弁護士ドットコムの「みんなの法律相談」には,過去問の解答販売,問題文の転載,塾での利用などについての相談と回答が100件以上蓄積されている。
もっとも,過去問や試験問題を扱った裁判例を示した回答は見当たらなかった。
この記事では,実際に争われた裁判例を軸に,場面ごとの結論を整理する。

2 結論

(1) 問題文を載せず,掲載ページにリンクして解答・解説する場合

試験実施者その他の権利者が適法に過去問を公開しているウェブページに通常の方法でリンクを設定し,ブログには問題文,設問,選択肢,図表等を表示せず,自分の言葉で作成した解答又は解説だけを掲載する場合は,原則として,問題の複製又は翻案には当たらない。
通常のリンクは,リンク先の所在を示すものであり,リンク先の問題文を自分のブログ上に複製するものではない。
中学受験塾のテスト問題をライブ配信で解説した他の塾に対する請求は,東京地裁と知財高裁のいずれでも棄却された(第3)。
塾名やテスト名を「○○マンスリーテスト解説」のように表示することも,解説の対象を示すにとどまる限り,不正競争防止法違反にも一般不法行為にもならないとされた(控訴審も一般不法行為を否定)。
ただし,解答の中で問題文を実質的に再現した場合や,他人の解答・解説の創作的表現を利用した場合は,別途,複製権又は翻案権の侵害が問題となり得る。また,他人が費用を投下して得た情報をそのまま逐次提供してその営業と競合するような態様では,著作物でなくても不法行為が認められた例がある(第3の6)。

(2) 問題文を載せる場合

問題文そのものを載せる場合は,原則として権利者の許諾が要る。
著作権法36条(試験問題としての複製等)は,これから実施する試験の出題のための規定であり,過去問集,市販の問題集,教材への掲載には使えない(第4の1)。
引用(32条1項)も,問題文を問題として出題する形では主従関係を欠くので通りにくい(第4の2)。
塾・予備校は営利目的で設置されているので,学校の授業のための複製を認める35条も使えない(第4の3)。
英文や古文の全訳を公開・販売することも,題材の文章の翻訳に当たる(第4の6)。

(3) 利用条件の確認

大学入試センター,京都大学,法務省,資格試験の実施団体などは,試験問題の利用条件をウェブサイトで公表している。
問題文を使うときは,まずその利用条件を確かめる(第5)。

第2 試験問題の著作権

1 問題文と問題の組み立て

著作権法2条1項1号は,著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定めている。
文章で出題される問題は,作成者の個性が表れていれば言語の著作物になる。

これとは別に,著作権法12条1項は「編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。」と定めている。
個々の設問に創作性が乏しくても,題材の選び方,設問にする箇所の選び方,設問の配列に個性があれば,問題全体が編集著作物として保護される。

中学受験塾の国語のテスト問題について,東京地裁令和元年5月15日判決(平成30年(ワ)第16791号,裁判所HP)は,「題材となる作品の選択,題材とされた文章のうち設問に取り上げる文又は箇所の選択,設問の内容,設問の配列・順序」に作問者の個性が発揮されているとして,編集著作物に当たるとした。
また,東京高裁平成10年2月12日判決(平成8年(ネ)第4725号,判例時報1645号129頁,判例秘書L05320041)も,私立中学への進学希望者の学習指導用に作成されたテスト問題を編集著作物と認めた。

2 題材の文章の権利は別に残る

国語や英語の長文問題では,問題の中に小説,評論,論文などの他人の著作物が使われている。
著作権法12条2項は「前項の規定は、同項の編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない。」と定めている。
したがって,問題の利用許諾が題材となった第三者の著作物まで含んでいない場合は,その著作物の権利者についても別途許諾の要否を確認する必要がある。
京都大学の利用条件も,試験問題に含まれる第三者の著作物については,利用者の責任で権利者の許諾を得るよう求めている(第5の2)。

3 著作物にならない問題もある

すべての問題が著作物になるわけではない。
東京地裁平成20年1月31日判決(平成18年(ワ)第13803号,裁判所HP)は,パズルの著作物性を判断する中で,「数学的ないし物理的問題及び解答に含まれるアイデア自体は著作物として保護されない」とし,個性的な出題形式や解説で表現した場合に保護され得るにとどまるとした。
定型的な計算問題や,事実を問うだけの短い問いは,表現の選択の幅が小さく,著作物に当たらないことが多い。
もっとも,その場合でも,多数の問題を選んで並べた問題集全体は,第2の1の編集著作物として保護され得る。
受験参考書の古文単語の語呂合わせが争われた東京高裁平成11年9月30日判決(平成11年(ネ)第1150号,裁判所HP)は,一部の語呂合わせには著作物性を認め得るとしつつ,他は著作物に当たらないとし,著作物性を認め得るものについても依拠や実質的同一性を否定して,請求を棄却した。

国や独立行政法人が作成した試験問題も,それだけで自由に使えるわけではない。
著作権法13条が権利の目的とならないとしているのは,法令,告示・訓令・通達その他これらに類するもの,判決等及びそれらの翻訳物・編集物であり,試験問題は挙げられていない。
独立行政法人である大学入試センターも,試験問題の著作権がセンターに帰属するとしている(第5の1)。

第3 問題文を載せずに解説する場合

1 塾のテスト問題のライブ解説事件(東京地裁令和元年5月15日判決)

この事件は,中学受験塾を運営する会社が,別の学習塾を経営する会社に対し,自社のテスト問題と解説を無断で利用したとして,動画配信の差止めと損害賠償を求めたものである(東京地裁令和元年5月15日判決,平成30年(ワ)第16791号,裁判所HP)。
被告は,原告のテストが終了した1時間後に,その問題の解説をインターネットの動画で行っていた。

判決は,問題を編集著作物と認め,原告の解説も言語の著作物と認めたうえで,請求をいずれも棄却した。
理由は次の2点である。
①被告のライブ解説は,問題の全部又は一部の画像を表示しておらず,口頭で読み上げてもいなかったので,問題の本質的な特徴を直接感得することはできず,翻案に当たらない。
②原告の解説と被告のライブ解説を比べても,共通する表現は「険のある」「祐介」など「ごくわずかな部分にすぎず」,解説の翻案にも当たらない。

翻案の判断基準は,最高裁平成13年6月28日判決(平成11年(受)第922号,民集55巻4号837頁,裁判所HP。いわゆる江差追分事件)である。
既存の著作物に依拠して作られたものでも,アイデアや事実など表現それ自体でない部分で同一性があるにすぎない場合は,翻案に当たらない。

2 控訴審(知財高裁令和元年11月25日判決)

控訴審の知財高裁令和元年11月25日判決(令和元年(ネ)第10043号,裁判所HP)は,控訴を棄却した。
判決は,問題は素材の選択及び配列等に本質的特徴が現れる編集著作物であり,ライブ解説は回答者の思考過程や思想内容の表現に本質的特徴が現れる言語の著作物であるとして,「その本質的特徴を異にするといわざるを得ない」とした。
そのうえで,ライブ解説が問題の取り上げた文を対象とし,同じ問題を同じ配列・順序で解説していても,「あくまでも問題の解説をしているのであって,問題を再現ないし変形しているのではなく」,問題の翻案には当たらないとした。

この判断によれば,問題の順番どおりに解説を進めること自体は,問題の翻案にならない。
ただし,解説の中で問題文を画面に映したり,全文を読み上げたりすれば,第1審が指摘した事情が変わるので,この結論はそのままは当てはまらない。

この判断からすれば,過去問が適法に掲載されているウェブページにリンクし,ブログには問題文,設問,選択肢,図表等を載せず,自分で作成した解答又は解説だけを掲載する方法は,原則として,問題の複製又は翻案には当たらないと考えられる。
実際に用いる場合は,リンク先を試験実施者の公式サイトその他の適法な掲載ページとし,年度・試験名・科目・問題番号で対象を特定した上で,問題文や図表を転載せず,解答・解説を自分の言葉で作成するのが安全である。

3 生徒が持ってきた問題を使うとき

第1審の原告は,被告が保護者や生徒を「いわば手足のように利用して」問題を複製させているから,被告自身の複製と同視できると主張した。
判決は,被告が指導者としての立場を利用して保護者や生徒に複製を依頼し,費用を負担し,金銭や便宜を供与するなどの働きかけをした証拠はないとして,保護者や生徒が複製して写しを被告に交付したとしても,「そのことから直ちに被告自身が複製を行ったと同視することはできない」とした。

生徒又は保護者が問題を持参したことだけから,直ちに塾自身による複製と同視することはできない。
他方,塾が複製を指示し,又は費用を負担して集める運用は,判決が挙げた働きかけに当たり得る。

4 他の解説を参考にして自分の解説を書くとき

第1審は,原告の解説について,「各設問の解説としての性質上,表現の独自性は一定程度制約されるものの」,表現方法や説明の流れには作成者の個性が発揮され得るとして,言語の著作物に当たるとした。
他人が販売している解説を参考にするときは,解法や着眼点というアイデアを参考にするのは自由であるが,文章の表現を写さないことが必要になる。
解説どうしを対比して共通する表現が「ごくわずか」であれば翻案に当たらないというのが,第3の1の判断である。

逆に,解説を写した側が出版の差止めを受けた例がある。
東京地裁平成4年12月7日決定(平成4年(ヨ)第2536号,判例タイムズ825号245頁,判例秘書L04730437)は,私立中学の入試問題集について出版差止めの仮処分を認めた。
判例タイムズの解説によれば,債権者は,私立中学の過去数年間の入試問題を当該中学の了承を得て掲載し,これに解説を加えた問題集を販売していたところ,債務者が解説部分の全部又は一部を無断で盗用した問題集を販売したとして,解説部分の複製権侵害を理由に差止めを求めた。
債務者は,同じ問題に小学校卒業程度の学力を前提に解説を加えれば類似するのは不自然ではないと主張したようであるが,決定は2冊の問題集の発行差止めを認め,決定の末尾には偽作部分対照表が付けられている(仮処分決定の通例として詳細な理由は付されていない)。

5 塾名・テスト名の表示と一般不法行為(東京地裁平成30年5月11日判決・知財高裁平成30年12月6日判決)

同じ当事者の間では,これに先立ち,名称の表示と一般不法行為が争われた(東京地裁平成30年5月11日判決,平成28年(ワ)第30183号,裁判所HP)。
被告は,ウェブサイトや動画に「SAPIX8月マンスリー」「SAPIX生のための復習用教材」「サピックスマンスリーテストLIVE速報解説」等と表示していた。

判決は,これらの表示は解説や教材の対象が原告の塾のテストや教材であることを示すにすぎず,商品等の出所を表示する態様で使われていないとして,不正競争防止法2条1項1号の「使用」に当たらず,混同のおそれもないとした。
また,著作権侵害が認められない場合の著作物の利用は,著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り不法行為を構成しないとして,最高裁平成23年12月8日判決(平成21年(受)第602号,民集65巻9号3275頁,裁判所HP。いわゆる北朝鮮映画事件)を参照し,大手塾の問題や教材を入手して解説する補習サービスは自由競争の範囲を逸脱しないとした。

なお,最高裁判決の判示の主語は「同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為」(著作権法6条各号に該当しない著作物の利用行為)である。
東京地裁は,これを著作権侵害が認められない利用一般に及ぼして参照している。

控訴審の知財高裁平成30年12月6日判決(平成30年(ネ)第10050号,裁判所HP)は,控訴を棄却した。
控訴審では,原告は著作権侵害や不正競争防止法違反を主張せず,一般不法行為だけを争った。
判決は,被告による解説本の出版やライブ解説の提供が,著作権法や不正競争防止法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するとは直ちにいえず,営業を妨害する態様や害意もうかがわれないとした。
そして,大手学習塾が「自ら作問したテスト問題の解説を提供するという営業一般を独占する法的権利を有するわけではない」から,生徒や保護者の求めに応じて他の学習塾が業として補習を行うこと自体は自由競争の範囲内の行為であるとした。
北朝鮮映画事件判決自体の内容は,北朝鮮映画事件―ベルヌ条約,未承認国及び著作権法6条3号で説明している。

6 自由競争の範囲を逸脱するとされた例(将棋の棋譜の配信事件)

同じ枠組みの下でも,不法行為が認められた例がある。
将棋のタイトル戦の対局の指し手(棋譜)を,主催者の許諾なく動画配信の中で逐次再現した事件で,東京地裁令和7年5月21日判決(令和5年(ワ)第22169号,裁判所HP)は,棋譜は著作物ではないとしつつ,他人が取得した情報を無断で競合する自己の営業に利用した場合でも,営業上の利益を保護する必要性,不利益の内容及び程度,利用行為の目的・態様等に照らして自由競争の範囲を逸脱するといえるときは,北朝鮮映画事件判決のいう「特段の事情」があるとして,主催者の一方に対する不法行為を認めた。
控訴審の東京高裁令和8年3月12日判決(令和7年(ネ)第3343号,裁判所HP)も,同じ基準で不法行為を認め,賠償額を変更した。
控訴審は,主催者が多額の費用と労力を投下していること,主催者の定めた利用の指針が対局当日に初手から終局までの棋譜を利用することを許諾していなかったこと,配信が主催者の収益の仕組みを成り立たなくするおそれがあることなどを挙げている。

他人の成果物を丸ごと模倣した例として,東京高裁令和6年6月19日判決(令和3年(ネ)第4643号,判例タイムズ1534号105頁,判例秘書L07920477)もある。
同判決は,バンドスコア(バンドの楽曲の楽譜)は著作権法6条各号の著作物に当たらないとしつつ,他人が販売等の目的で採譜したバンドスコアを無断で模倣して制作し,販売等(インターネット上に無料で公開して広告料収入を得る行為を含む)をする行為は,採譜にかける時間,労力及び費用へのフリーライドであり,北朝鮮映画事件判決のいう特段の事情が認められるとして,1億6925万円余りの賠償を命じた(第1審の東京地裁令和3年9月28日判決は請求を棄却していた)。

塾のテスト問題の解説事件との違いは,利用者が主催者と同じ顧客を奪い合い,主催者が費用を投下して得た情報そのものを,許諾の範囲を超えて逐次提供した点にあると整理できる。
他社のテストや教材を解説するサービスでも,問題や解答を事実上そのまま提供して他社の有料の商品に代わるような態様であれば,第3の5の結論がそのまま当てはまるとは限らない。
他社が費用と労力をかけて作った問題集や解説を丸ごと写して提供すれば,著作物性や翻案の有無とは別に,この枠組みで不法行為が問われ得る。

第4 問題文を載せる場合

1 著作権法36条は過去問集には使えない

著作権法36条1項は,「公表された著作物については、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。次項において同じ。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」と定めている。
同条2項は「営利を目的として前項の複製又は公衆送信を行う者は、通常の使用料の額に相当する額の補償金を著作権者に支払わなければならない。」と定めている。

著作権法36条に当たる規定は,昭和45年の現行著作権法の制定時に新設されたものである。
法案の審議では,政府側が,新たに規定を設ける著作権の制限の一つとして「試験問題としての複製」を挙げている(第63回国会参議院文教委員会第9号,昭和45年4月14日)。

同条の趣旨を具体的に示したのは,教科書に準拠した小学校用の国語テストをめぐる仮処分事件の東京高裁平成12年9月11日決定(平成12年(ラ)第134号,裁判所HP)である。
同決定は,試験の問題として著作物を利用する場合には,具体的な設問だけでなく,いかなる著作物を利用するかも漏洩を避ける必要があるのが通常であるから,事前に著作権者の許諾を受けることは「困難であり、社会的実情にも沿わない」とし,国語テストについてはいかなる著作物を利用するかの秘密性が全く存在しないとして,36条1項の適用を否定した。

同じ国語テストの本案事件で,東京地裁平成15年3月28日判決(平成11年(ワ)第5265号,裁判所HP)は,同条の趣旨を,試験の公正な実施のために問題の事前の漏洩を防ぐ必要があって事前の許諾が困難であること,及び試験問題としての利用は著作物の通常の利用と競合しないことにあるとした。
そのうえで,同条の「試験又は検定」とは,「公正な実施のために,試験,検定の問題として利用する著作物が何であるかということ自体を秘密にする必要性があり,それ故に当該著作物の複製について,あらかじめ著作権者の許諾を受けることが困難であるような試験,検定をいう」とし,国語テストは当たらないとした。
予備校の模擬試験や学校の定期試験に同条の「試験」に当たるものがあるとしても,このような秘密性を有するものに限られるとも述べている。
控訴審の東京高裁平成16年6月29日判決(平成15年(ネ)第2515号等,裁判所HP)も,第1審の判断を維持した。

市販のドリルと中学受験用問題集に教科書掲載の作品を載せた事件で,東京地裁平成16年5月28日判決(平成14年(ワ)第15570号,裁判所HP,判例時報1869号79頁)も,同じ基準により,一般書店で販売されている家庭用学習教材は事前の漏洩を防ぐ必要がなく,36条1項の「試験又は検定の問題」としての複製に当たらないとした。

過去問集,問題集,解説動画,ブログはいずれも,試験の実施のために問題を秘密にする必要があるものではない。
したがって,36条を根拠に過去問を載せることはできないと考えられる。
なお,大学入試の過去問集(いわゆる赤本など)への掲載そのものを正面から争った裁判例は,この記事の作成時点では確認できていない。

2 引用として載せることも難しい

著作権法32条1項は,「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と定めている。

第4の1の東京地裁平成16年5月28日判決は,最高裁昭和55年3月28日判決(昭和51年(オ)第923号,民集34巻3号244頁,裁判所HP)を参照し,作品は設問部分と明瞭に区別して認識できるものの,引用される側の作品が「従」で教材が「主」という関係はないとして,引用に当たらないとした。
被告は,設問の工夫こそが教材の主要部分であると主張したが,判決は,設問の工夫も作品の内容を読み取らせることに主眼があり,作品の創作性を度外視してはあり得ないとして,主たる部分は作品の複製部分であるとした。

問題文をそのまま問題として出題する教材やブログでは,解説がどれだけ詳しくても,同じ評価を受けやすい。
これに対し,解説の中で必要な一文だけを,かぎ括弧等で区分し,出所を示して取り上げる程度であれば,引用として認められる余地がある。
要約による引用の考え方は,他人の文章や講演を要約してブログ・SNSに載せると著作権侵害かで整理している。

3 塾・予備校での配布(35条・30条)

著作権法35条1項は,「学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者」に,授業の過程で必要な限度の複製等を認めている。
営利企業が運営する塾・予備校は,かっこ書きにより対象外である。

また,著作権法30条1項の私的使用のための複製は,「その使用する者が複製する」場合に限られる。
塾が生徒に配るために市販の問題集や過去問を複製することは,私的使用に当たらない。
事業者が他人のために複製する場合の考え方は,スキャン代行は著作権侵害になるかで自炊代行訴訟の確定判決に即して説明している。

4 問題を複製した教材の裁判例

第2の1の東京高裁平成10年2月12日判決は,私立中学受験のためのテスト問題を複製した他社の教材の販売差止めを認め,使用料相当の損害を教材の販売価格の10%として,271万円の支払を命じた。

東京地裁平成19年2月28日判決(平成16年(ワ)第27086号,裁判所HP)は,教育図書の出版会社が制作する小中学生向けの月例テスト等を進学教室が複製した事件で,841万0486円の支払と複製の差止め等を命じた。

5 過去問を再現しただけの部分は保護されにくい

逆に,過去問集を作った側が,他社に複写されたとして訴えても,過去問の再現部分では保護を受けにくい。
東京地裁平成27年7月16日判決(平成26年(ワ)第26770号,裁判所HP)は,一級建築士試験の過去の問題を掲載した書籍について,「過去の本試験問題を掲載したものであり,事柄の性質上,図面を含めて問題を忠実に再現することが求められる」ことも考慮して,原告が加えた細かな相違点に創作性を認めず,請求を棄却した。
過去問集の価値は解説や問題の選び方にあり,問題の再現部分そのものではないということになる。

6 英文や古文の全訳を載せる場合

著作権法27条は,「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。」と定めている。
入試の長文の全訳を公開・販売することは題材の文章の翻訳に当たるので,題材の著作者(及び問題の著作権者)の許諾が要る。
他方,著作権法47条の6第1項2号は,32条(引用)等の規定により著作物を利用することができる場合には,その著作物を翻訳して利用することができるとしている。
解説の中で,引用の要件を満たす正当な範囲では,引用部分を翻訳して利用できる余地があるが,全文を訳して載せることは引用の範囲を超えやすい。

入試問題の全訳の公開・販売を正面から判断した裁判例は,裁判所HPの全文検索(「翻訳」と「入試」「問題集」,「全訳」と「著作権」等の組合せ)では見当たらなかった。
参考になるのは,英字新聞のほとんどすべての記事を1項目1行ないし3行程度の日本語の短文にし,新聞と同様の表題の下にほぼ同じ順序で並べた文書について,新聞(編集著作物)の翻案に当たるとして,発行の差止めを命じた仮処分を維持した東京高裁平成6年10月27日判決(平成5年(ネ)第3528号,裁判所HP)である。
同判決は,控訴人の文書が原文の抄訳でも要約でもない極めて簡略な要旨にすぎないという主張を退けており,短い日本語に置き換えても,元の著作物の選択・配列に依拠していれば侵害となり得ることを示している。

7 公民館の自主講座で投影・配布・翻訳する場合

文化庁の「改正著作権法第35条運用指針」は、組織的・継続的に教育活動を営む非営利の機関として公民館等を対象例に挙げる。しかし、市民団体が公民館の一室を借りるだけで、その団体が当然に35条の教育機関になるわけではない。主催者、条例・事業計画、教育課程、講師及び受講者の管理実態を確認する。

公民館講座でも、原文の投影、紙の配布、翻訳文の作成、クイズへの利用及びオンライン送信は別々に検討する。38条1項の非営利・無料の上映は複製又は翻訳を一般的に許す規定ではなく、47条の6が38条を列挙していないため、38条で原文の上映が許されても翻訳まで当然に許されるわけではない。

詳しくは、公民館の自主講座で小説を翻訳・投影・配布できるか――著作権法35条・36条・38条・47条の6(AI作成)で整理する。

第5 試験の実施者の利用条件

1 大学入試センター(大学入学共通テスト)

大学入試センターは,当ウェブサイトのコンテンツの利用についてで,センターの試験問題の著作権はセンターに帰属する(センター以外の第三者に著作権がある部分を除く)としている。
試験問題の二次利用(複写,複写した物の他者への配布,問題の一部又は全部を利用した問題集の作成等)を希望する場合は,所定の利用申請をするよう求めている。
同ページによれば,申請の受付から許諾の可否の通知まで,通常は8営業日以内である。

2 京都大学の例

京都大学は,試験問題等の利用について(平成31年4月)で,学部入試の試験問題とその出題意図等の著作権は国立大学法人京都大学に属するとしている。
そのうえで,他者に配布するため及び問題集等を作成するために複製・譲渡する場合(自動公衆送信を含む)を,条項に従うことを条件に許可している。
条項は,印刷物を刊行した場合の利用報告書の提出(刊行後1か月以内),出所の明示,試験問題に含まれる第三者の著作物についての権利者からの許諾の取得などである。

大学ごとに条件は異なる。
大学名で検索して,その大学の入試問題の利用条件のページを確かめることが出発点になる。

3 法務省(司法試験・予備試験)

法務省の法務省ウェブサイトのコンテンツの利用についてによれば,同省のウェブサイトのコンテンツには,権利表記がない限り「公共データ利用規約(第1.0版)」(PDL1.0)が適用される。
別のルールを適用するコンテンツとして挙げられているものの中に,司法試験・予備試験の問題は含まれていない。
利用するときは出典を記載し,編集・加工して利用する場合はその旨も記載する必要がある。
また,コンテンツの中に第三者が著作権を持つ部分があれば,利用者の責任で権利者の許諾を得るよう求めている。
司法試験・予備試験の資料の所在は,法務省HPの司法試験・予備試験の資料の所在で一覧にしている。

4 資格試験・検定の実施団体

資格試験・検定の実施団体の扱いは,条件付きで一般に許可するものから,ブログへの掲載を一切認めないものまで大きく異なる(いずれも令和8年9月28日に各団体のウェブサイトで確認)。
①情報処理推進機構(IPA)は,試験に関するよくある質問で,公表している過去の試験問題の使用には「法令に特別の定めがある場合を除き許諾や使用料は必要ありません。」としつつ,「著作権は放棄していません。」とし,出典の明記と,問題の一部を改変した場合はその旨の明記を求め,試験制度の意義に反しない利用に限るとしている。
②行政書士試験研究センターは,著作権についてで,「行政書士試験問題の書籍・ホームページ等への掲載には、当センターの許諾が必要です。」としている。
③日本商工会議所は,簿記検定の簿記検定試験2・3級のサンプル問題の公開についてで,サンプル問題等の著作権は同会議所に帰属するとし,無断転載と無断営利利用を禁止している。1級の過去問題のページでも,紙媒体やインターネット等への無断転載や営利目的の使用を断っている。
④日本英語検定協会は,知的財産権の取扱いに関する統一ガイドラインで,私的使用の範囲を超える利用を申請制とし,個人のブログやSNSへの過去問等の掲載は,一部のみの場合や非営利の場合でも認めず,個別の許可もしないとしている。
⑤厚生労働省(医師国家試験等)と人事院(国家公務員採用試験の試験問題例)は,法務省と同様に,ウェブサイト全体の利用規約(公共データ利用規約(第1.0版)に準拠)によるとしている。

大学入試の過去問集(いわゆる赤本)を出版する教学社は,よくある質問で,入試問題そのものの著作権は各大学が有し,英語や国語の文章にもそれぞれ著作権者がいるため,赤本の複製・公衆送信は同社だけでは許諾を出せず「一律にお断りしております」としている。
塾で赤本をコピーして配る場合も,大学と題材の文章の著作権者の双方が関係することになる。

第6 場面別の確認表

場面結論の目安根拠
過去問の適法な掲載ページにリンクし,問題文を載せず,自分の言葉で解答・解説を書く原則として問題の複製・翻案に当たらない東京地裁令和元年5月15日判決,知財高裁令和元年11月25日判決
問題を順番どおりに動画で解説する(問題は映さず読み上げない)問題の翻案にならない知財高裁令和元年11月25日判決
他人の解説を参考に自分の解説を書く解法・着眼点だけでなく,創作的な文章表現まで利用すると侵害になり得る東京地裁令和元年5月15日判決
問題文をそのまま載せた過去問集・ブログ・PDF許諾が要る。36条は使えない著作権法36条,東京地裁平成15年3月28日判決,東京地裁平成16年5月28日判決
問題文を「引用」として載せる問題として出題する形では引用に当たりにくい著作権法32条1項,東京地裁平成16年5月28日判決
塾が市販の問題集や過去問をコピーして配る許諾が要る。35条・30条は使えない著作権法35条1項,30条1項
生徒が持参した問題で授業をする塾が複製していなければ侵害にならない東京地裁令和元年5月15日判決
「○○テスト解説」と塾名・テスト名を表示する解説の対象を示す表示なら不正競争防止法違反にならない東京地裁平成30年5月11日判決
国語・英語の長文を使う題材の作品の著作者の許諾も別に要る著作権法12条2項
英文・古文の全訳を公開・販売する翻訳権の対象。引用の要件を満たす正当な範囲では翻訳利用の余地がある著作権法27条,47条の6第1項2号
他社の有料の情報や成果物をそのまま提供して競合する自由競争の範囲を逸脱すれば,著作物でなくても不法行為になり得る東京高裁令和8年3月12日判決,東京高裁令和6年6月19日判決
他社の過去問集の解説を写す解説の複製権侵害として出版差止めの対象になり得る東京地裁平成4年12月7日決定

第7 関連記事

①他人の文章や講演を要約してブログ・SNSに載せると著作権侵害か―翻案,要約引用,公開の演説及び時事の事件の報道
②北朝鮮映画事件―ベルヌ条約,未承認国及び著作権法6条3号
③スキャン代行は著作権侵害になるか-自炊代行訴訟の確定判決と,許諾なしにできる範囲
④共同著作物・二次的著作物の権利行使―単独差止め・損害賠償・原著作者の権利
⑤法務省HPの司法試験・予備試験の資料の所在―年度別の実施・結果・出題趣旨・採点実感のページ一覧
⑥平成14年度旧司法試験論文式試験の模範答案―憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法の全12問と出題趣旨を踏まえた解説

第8 出典

1 法令

①著作権法(昭和45年法律第48号)2条,12条,13条,27条,30条,32条,35条,36条及び47条の6(e-Gov法令検索)

2 裁判例(裁判所HP掲載)

①最高裁昭和55年3月28日判決(昭和51年(オ)第923号)
②最高裁平成13年6月28日判決(平成11年(受)第922号)
③最高裁平成23年12月8日判決(平成21年(受)第602号)
④東京地裁平成15年3月28日判決(平成11年(ワ)第5265号)
⑤東京高裁平成16年6月29日判決(平成15年(ネ)第2515号等)
⑥東京地裁平成16年5月28日判決(平成14年(ワ)第15570号)
⑦東京地裁平成19年2月28日判決(平成16年(ワ)第27086号)
⑧東京地裁平成20年1月31日判決(平成18年(ワ)第13803号)
⑨東京地裁平成27年7月16日判決(平成26年(ワ)第26770号)
⑩東京地裁令和元年5月15日判決(平成30年(ワ)第16791号)
⑪知財高裁令和元年11月25日判決(令和元年(ネ)第10043号)
⑫東京高裁平成6年10月27日判決(平成5年(ネ)第3528号)
⑬東京高裁平成11年9月30日判決(平成11年(ネ)第1150号)
⑭東京高裁平成12年9月11日決定(平成12年(ラ)第134号)
⑮東京地裁平成30年5月11日判決(平成28年(ワ)第30183号)
⑯知財高裁平成30年12月6日判決(平成30年(ネ)第10050号)
⑰東京地裁令和7年5月21日判決(令和5年(ワ)第22169号)
⑱東京高裁令和8年3月12日判決(令和7年(ネ)第3343号)

3 裁判例(判例秘書で確認)

①東京地裁平成4年12月7日決定(平成4年(ヨ)第2536号,判例タイムズ825号245頁,判例秘書L04730437)
②東京高裁平成10年2月12日判決(平成8年(ネ)第4725号,判例時報1645号129頁,判例秘書L05320041)
③東京高裁令和6年6月19日判決(令和3年(ネ)第4643号,判例タイムズ1534号105頁,判例秘書L07920477)

4 試験の実施者の資料

①大学入試センター「当ウェブサイトのコンテンツの利用について」
②京都大学「試験問題等の利用について」
③法務省「法務省ウェブサイトのコンテンツの利用について」
④情報処理推進機構「試験に関するよくある質問」
⑤行政書士試験研究センター「著作権について」
⑥日本商工会議所「簿記検定試験2・3級のサンプル問題の公開について」
⑦日本商工会議所「1級過去問題(第158回~)」
⑧日本英語検定協会「知的財産権の取扱いに関する統一ガイドライン」
⑨教学社「よくある質問」(赤本オンライン)

5 国会会議録

①第63回国会参議院文教委員会第9号(昭和45年4月14日)

追加資料:文化庁「改正著作権法第35条運用指針」(確認日:令和8年9月28日)