目次
第1 軍用地の意味及び使用権原
1 軍用地という通称
沖縄で「軍用地」と呼ばれる土地には,米軍施設又は自衛隊施設の用に供される民有地及び公有地が含まれる。
沖縄防衛局によれば,米軍専用施設用地及び自衛隊施設用地のそれぞれ約77%は民公有地であり,土地所有者は合計約6万1000人である(2023年3月31日時点)。
2 使用権原
米軍施設・区域内の民公有地については,国が土地所有者との賃貸借契約によって使用権原を取得することが基本である。
もっとも,土地所有者との合意が得られない土地については,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法」に基づいて使用される場合がある。
したがって,軍用地を単に「国に賃貸している底地」と説明するだけでは足りず,個々の土地について,施設名,使用権原,契約期間及び返還関係を確認する必要がある。
第2 売買価格及び購入前の確認事項
1 市場の売買倍率
軍用地の売買では,売買価格を「年間借地料×倍率」で表示することが多い。
この倍率は市場の売買指標であり,国税庁の公用地用評価倍率とは別物である。
市場の売買倍率は,施設,返還の見込み,年間借地料の改定見通し,土地の位置及び権利関係,市場の需給並びに融資環境によって変動する。
したがって,過去の特定時点における施設別倍率を現在の標準値として用いることはできない。
表面利回りを計算するときも,売買代金だけでなく,仲介手数料,登記費用,取得税,固定資産税,地主会費,借入金利その他の費用を考慮する必要がある。
2 購入前の確認事項
基地内へ自由に立ち入ることができない場合であっても,現地及び物件の調査が不要になるわけではない。
購入前には,少なくとも次の事項を確認すべきである。
① 登記事項証明書により,所有者,共有持分,抵当権,差押えその他の権利関係を確認すること。
② 土地賃借料算定調書その他の資料により,年間借地料,面積,単価,支払実績及び売買年度の借地料の日割精算を確認すること。
③ 公図,地積測量図,航空写真,地積併合図その他の資料により,土地の位置,地積,地目及び境界を確認すること。
④ 対象施設,契約又は使用認定の期間,返還合意,返還条件及び跡地利用計画を確認すること。
⑤ 特定駐留軍用地に該当するか,売買前に市町村長への届出が必要かを確認すること。
⑥ 沖縄県の米軍基地環境カルテその他の公開資料により,施設の使用履歴,土壌汚染,地下水汚染,不発弾及び廃棄物のリスクを確認すること。
⑦ 共有者間の管理,地主会への委任,地主会費,借地料の受領及び所有者変更後の手続を確認すること。
⑧ 周辺からの現況確認,仲介業者への照会及び資料相互の照合を行い,位置又は境界が不明確な場合は専門家に相談すること。
沖縄防衛局は,売買,贈与又は信託によって所有者が変わった場合の必要書類として,念書,承継同意書,口座振込依頼書,登記事項証明書及び印鑑登録証明書を掲げている。
念書は,所有権を移転した年度の賃貸借料について,旧所有者と新所有者との間で精算済みであることを確認するための書類である。
第3 相続税評価及び国への売却
1 公用地用評価倍率
国税庁の沖縄県財産評価基準書では,米軍,自衛隊及び那覇空港施設の用に供される一定の土地等を「公用地」として扱っている。
公用地用評価倍率表に掲げられた公用地の価額は,原則として,固定資産税評価額に,施設及び登記簿上の地目に対応する倍率を乗じて評価する。
同じ施設であっても,所在地及び地目によって倍率が異なる場合がある。
年の途中で返還された公用地は,返還日以降,公用地用評価倍率によらず個別に評価する。
2 公用地の上に存する権利
公用地の上に存する権利の価額は,公用地の価額に,相続税法23条が定める地上権の残存期間に応じた割合を乗じて評価する。
残存期間が確認できるときは,その期間に対応する割合を用いる。
残存期間を確認できないときは,存続期間の定めのないものとして評価し,その割合は40%である。
したがって,「固定資産税評価額×公用地用評価倍率×(1-40%)」という計算は,40%を用いる場合の土地所有者側の価額を示す一例にすぎず,常に適用できる式ではない。
また,相続税評価額が購入価格の3分の1又は4分の1になるという一律の関係はない。
実際の申告では,相続開始時の財産評価基準書,固定資産税評価額,登記地目,施設,使用権原の残存期間及び返還の有無を確認する必要がある。
3 国による用地買収
軍用地の所有者は,国に買収を希望する旨を申し出ることができる。
しかし,沖縄防衛局は,所有権その他の審査,不動産鑑定評価,価格についての所有者の同意及び予算の範囲内で買収するとしている。
したがって,所有者が希望すればいつでも国に売却できるわけではない。
4 5000万円特別控除
租税特別措置法33条の4は,収用等により資産を譲渡した場合について,譲渡所得から最高5000万円を差し引く特別控除を定めている。
これは売却代金5000万円までを無条件で非課税にする制度ではない。
特例を受けるには,固定資産であること,最初の買取申出から6か月以内に譲渡すること,最初に申出を受けた者又はその相続人が譲渡すること,代替資産の課税特例との関係その他の要件を満たし,必要書類を添付して確定申告をする必要がある。
第4 軍用地投資の利点及びリスク
1 利点
国が借主となる土地では,民間の建物賃貸と比べ,賃料不払及び空室のリスクが低い。
建物を所有しないため,建物の修繕,建替え及び空室募集の管理を必要としない。
土地は減価償却資産ではないため,建物のような減価償却は行わない。
もっとも,これらは投資元本又は市場価格が下落しないことを意味しない。
2 主なリスク
軍用地投資には,少なくとも次のリスクがある。
① 基地の全部又は一部が返還され,借地料収入が終了するリスク
② 返還予定時期が移設その他の条件によって前後し,収入期間を正確に予測できないリスク
③ 返還後の給付金が法定要件及び期間に左右され,無条件又は恒久的に支給されるわけではないというリスク
④ 返還後の土地に土壌汚染,地下水汚染,不発弾,廃棄物,境界不明又は細分化された共有関係が存在し,跡地利用が遅れるリスク
⑤ 跡地利用によって価値が上昇するとは限らず,道路,公園その他の公共用地の取得,利用規制及び整備費用の影響を受けるリスク
⑥ 市場の需給,金利,融資条件及び投資家心理によって売買倍率及び換金性が変動するリスク
⑦ 借地料が過去に上昇していても,将来の上昇率又は上昇の継続が保証されないリスク
⑧ 共有持分,抵当権,差押え,借地料の精算,地主会への委任及び相続登記に関する権利・手続上のリスク
⑨ 借入金を利用する場合に,借地料収入だけでは元利金,税金及び諸費用を賄えないリスク
沖縄防衛局によれば,返還後の給付金は,引渡日の翌日から土地を使用し,収益し,又は処分していない所有者等に対して,法定期間を限度として支給される制度である。
土地区画整理事業が施行される場合の特定給付金も,返還後3年を超えて引き続き土地を使用又は収益していないこと等を前提とする。
したがって,軍用地を「超低リスク」「景気に左右されない」「すぐ換金できる」「半永久的に回収できる」と一般化することはできない。
第5 『「軍用地投資」入門』について
1 書籍の位置付け
里中一人『お金持ちはこっそり始めている 本当は教えたくない!「軍用地投資」入門』(すばる舎,2018年)は,軍用地の価格表示,借地料,購入資料,融資,地主会及び売却手続等を解説した書籍である。
同書の法律,制度及び相場は2018年2月末時点のものであり,同書も投資成果を保証していない。
同書には,借主が国であること,空室がないこと及び建物管理が不要であること等の利点が記載されている。
他方,同書自体も,基地返還を最大のリスクとし,土壌汚染,共有関係,借地料の日割精算,地主会費,融資及び売却時のリスクを取り上げている。
したがって,同書の投資上の利点だけを抜き出して,現在の一般的事実として紹介するのは適切でない。
2 出版をめぐる経緯
同書の著者紹介は,著者を防衛省職員としている。
衆議院第196回国会質問第336号は,著者を沖縄防衛局の40代男性職員とした上で,同書の出版及び同職員による軍用地所有について政府の見解を質問した。
政府答弁は,同書が必要な事前届出をせずに出版され,内容も防衛省職員として公正な職務の執行に対する国民の疑惑や不信を招くものであり,出版行為は極めて不適切であったとしている。
沖縄防衛局は,2018年6月8日,同職員を停職20日の懲戒処分とした。
第6 出典
③ 沖縄防衛局「駐留軍施設・自衛隊施設用地に係る土地所有者様へ」
⑥ 国税庁「令和8年分 雑種地の評価(公用地用の評価倍率表を含む)」
⑧ 国税庁タックスアンサーNo.3552「収用等により土地建物を売ったときの特例」
⑨ 内閣府「特定駐留軍用地・特定駐留軍用地跡地・拠点返還地の指定」
⑭ 衆議院「防衛省沖縄防衛局職員による『軍用地投資』入門書出版及び『軍用地』所有に関する質問主意書」
⑯ 里中一人『お金持ちはこっそり始めている 本当は教えたくない!「軍用地投資」入門』(すばる舎,2018年)