第1 この記事が扱う対象
この記事は,日本人と法律上有効に婚姻した外国人が「日本人の配偶者等」の在留資格を取得又は維持する場面を対象とし,出入国在留管理庁が何を基準に婚姻の真実性を審査し,どのような事情があると疑いを招きやすいか,疑われた場合にどのような資料で説明すべきかを,一次資料に基づいて整理するものである。
婚姻の実体を欠く婚姻(いわゆる偽装結婚)をどう行えば発覚しないかを説明する記事ではない。むしろ,現に婚姻の実体がある夫婦であっても,年齢差,交際期間の短さ,共通言語の不在,国際結婚あっせんサービスの利用といった事情があるだけで審査上疑われることがあり得るため,そうした夫婦が何を示せば足りるかを解説することに主眼がある。
技能実習や特定技能等の就労系在留資格の要件は対象としない。就労系在留資格のうち「技術・人文知識・国際業務」の審査実務については,別稿「「技術・人文知識・国際業務」の在留資格――上陸許可基準と専攻・業務関連性の審査実務」を参照されたい。
第2 「日本人の配偶者等」の在留資格とは
1 入管法上の位置づけ
出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という)別表第二は,「日本人の配偶者等」の項の下欄を「日本人の配偶者若しくは特別養子又は日本人の子として出生した者」と定める。
入管法7条1項2号は,入国審査官が上陸許可に際して審査すべき条件として,申請人の活動が「別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位…を有する者としての活動」に該当することを挙げている。
この文言が示すとおり,「日本人の配偶者等」は活動の内容ではなく身分に着目して付与される在留資格であり,技術・人文知識・国際業務等の就労系資格のような上陸許可基準(基準省令)の適用を受けない一方,本邦に在留中に行うことができる活動そのものに制限はない。
2 該当する3つの類型
「日本人の配偶者等」に該当するのは,①日本人の配偶者の身分を有する者,②日本人の特別養子の身分を有する者,③日本人の子として出生した者の身分を有する者,の3類型である。
①の「配偶者」は現に婚姻関係中の者に限られ,死別又は離婚した者は含まれず,内縁の配偶者も含まれない。
②の特別養子は,民法817条の2の規定に基づき家庭裁判所の審判によって成立するものに限られ,普通養子縁組や外国の類似制度による養子は該当しない。
③の「日本人の子として出生した者」は嫡出子のほか認知された非嫡出子を含むが養子は含まれず,出生時に父母のいずれか一方が日本国籍を有していれば足りるため,本邦での出生は要件でない。
この記事が中心的に扱うのは,実務上もっとも件数が多く,婚姻の真実性の審査が問題となりやすい①の類型である。
第3 審査の中心にある「婚姻の実体」という要件
1 法律上の婚姻だけでは足りないとした最高裁判決
「日本人の配偶者等」の在留資格該当性について,最高裁判所第一小法廷平成14年10月17日判決(平成11年(行ヒ)第46号,民集56巻8号1823頁)は,日本人配偶者との間に法律上有効な婚姻関係があるだけでは足りず,「両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真しな意思をもって共同生活を営むことを本質とする婚姻という特別な身分関係を有する者として本邦において活動しようとすること」が必要であるとの規範を示した。
この判決は,法律上有効な婚姻でありさえすれば足りるとしていた下級審の考え方を否定し,同旨の下級審裁判例を最高裁として初めて是認したものと位置付けられている。
すなわち,戸籍上の婚姻届が受理されているという形式面だけでは,在留資格の該当性は認められない。
2 「婚姻の実体」の中身と民法752条
出入国在留管理庁が公表する在留審査要領第12編第28節は,「法律上の婚姻関係が成立していても,同居し,互いに協力し,扶助しあって社会通念上の夫婦の共同生活を営むという婚姻の実体を伴っていない場合には,日本人の配偶者としての活動を行うものとはいえず,在留資格該当性は認められない」とした上で,「社会通念上の夫婦の共同生活を営むといえるためには,合理的な理由がない限り,同居して生活していることを要する」と定める。
この「同居し,互いに協力し,扶助しあって」という文言は,民法752条が定める「夫婦は同居し,互いに協力し扶助しなければならない」という夫婦の基本的な義務規定と一致しており,前掲最高裁判決も,夫婦としての活動の中核が民法752条にいう同居・協力・扶助にあることを判断の出発点としている。
婚姻の実体とは,特別な行政上の概念ではなく,民法が夫婦に求める義務の履行状況を,在留資格の審査という場面で確認するものだと理解すればよい。
3 夫婦関係が冷え込んでも直ちに資格を失うわけではない
もっとも,同居できない事情が生じたからといって,直ちに在留資格該当性が失われるわけではない。
前掲最高裁平成14年10月17日判決は,「夫婦の一方又は双方が既に上記の意思を確定的に喪失するとともに,夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり,その回復の見込みが全くない状態に至ったとき」に初めて,当該婚姻は社会生活上の実質的基礎を失うと判断している。
単身赴任,看護,DVからの一時避難,離婚調停中であることなど合理的な理由による別居は,この「実体を失って形骸化した」状態には直ちに該当しない。
実際に出入国在留管理庁の在留期間の運用でも,離婚調停又は離婚訴訟が行われている場合について,「夫婦双方が婚姻継続の意思を有しておらず,今後,配偶者としての活動が見込まれない場合を除く」という留保を付した上で在留期間を決定するとされており,別居や紛争の存在そのものではなく,婚姻関係が回復不能なまでに破綻したと評価できるかどうかが基準となる。
第4 審査で疑いを招きやすい事情と示すべき資料
1 年齢差・交際期間・共通言語
実務上,夫婦の年齢差が大きいほど審査が厳格になる傾向があり,年齢差がおおむね15歳以上になると審査が厳しくなることが多いとされる。
共通言語の有無も近年特に厳しく審査される点であり,夫婦の双方が互いの母国語を理解できず,共通言語である英語も片言にとどまる場合には,追加の書類提出を求められることが多い。
こうした事情がある場合の対策として,出会いから結婚に至るまでの経緯を時系列で詳細に記載した交際経緯説明書の作成,時系列に整理した写真や,双方の家族が交流している様子が分かる写真の提出,メールやSNSでのやり取りの履歴の提出などが実務上有効とされている。
英語での意思疎通能力を客観的に示す資料が乏しい場合には,実用英語技能検定やTOEICの合格証明書に加え,出入国記録に関する開示請求によって取得した海外渡航日数の記録を,語学力を裏付ける間接的な証拠として提出する例もある。
2 国際結婚あっせん・出会い系サイトを介した出会い
出会い系サイトや国際結婚あっせん業者を通じて知り合い結婚に至ったカップルは,悪質な偽装結婚のあっせん業者が実在することもあって,審査が厳しくなる傾向がある。
審査の過程で婚姻が偽装でないことを説明する責任は申請人側にあるため,利用したサービスが多くの利用者を抱える一般的なものであること,交際の頻度や交流の実態を裏付ける書面や航空券の控え,写真等を具体的に示す必要がある。
国際結婚相談所のツアーを通じて出会い,実際に面会した日数が数日にとどまるまま結婚に至る例も少なくないが,交際日数の短さそれ自体は婚姻の効力を左右しないとしても,在留資格該当性の判断においては消極的な事情として扱われやすいため,短期間で結婚を決意するに至った具体的な経緯を,双方の視点から詳細に説明する書面を用意することが実務上重視されている。
3 離婚歴がある場合
日本人配偶者又は外国人配偶者のいずれかに離婚歴がある場合には,離婚回数,前婚の期間,離婚原因,前婚の相手方の国籍,離婚に至った経緯,前婚が両国で法的に成立していたかが確認される。
特に,前婚も国際結婚であった場合や,前婚の期間が短い場合には,今回の婚姻についての真剣さや継続可能性がより慎重に審査される。
前婚の破綻原因が夫婦間の意思疎通の不足にあった場合,今回の婚姻では共通言語の習得等によってその点をどう克服したかを具体的に説明する書面を用意することが有効とされる。
なお,前婚の解消手続が日本国内だけで完了しており,外国人配偶者の本国では前婚が法的に継続したままになっている事案では,新たな婚姻の届出自体が本国法上受理されない可能性があるため,前婚の解消が双方の国で法的に成立していることを確認しておく必要がある。
4 提出書類の全体像
在留資格認定証明書交付申請又は在留資格変更許可申請にあたっては,外国人側から結婚証明書及び旅券の写し,日本人側から戸籍謄本,世帯全員の記載のある住民票の写し,住民税の納税証明書及び課税証明書,交際の事実を証明する写真,指定書式の質問書及び身元保証書の提出が求められる。これに加え,事案に応じて,夫婦間のメールやメッセージアプリの履歴,交際経緯説明書,前婚についての経緯説明書,扶養者の在職証明書や源泉徴収票等の収入関係書類,自宅の登記事項証明書又は賃貸借契約書,親族や知人による上申書等の提出を検討することになる。
書類に不備や記載ミスがあると,特に年齢差等の事情がある場合には,単純な誤記ではなく意図的な隠蔽と評価されかねないため,提出前の入念な確認が欠かせない。
第5 偽装結婚と判断された場合の法的リスク
1 在留資格の取消し
入管法22条の4第1項は,別表第一又は別表第二の在留資格をもって在留する外国人について,各号に掲げる事実が判明したときは,法務大臣が在留資格を取り消すことができると定める。
同項2号は「偽りその他不正の手段により,上陸許可の証印等…を受けたこと」を取消事由として定めており,婚姻の意思がないのに婚姻届出の事実を記載した戸籍謄本等を提出して在留資格認定証明書の交付や在留資格の変更許可を受けた場合はこれに当たり得る。
これとは別に,同項7号は,日本人の配偶者の身分を有する者が「その配偶者の身分を有する者としての活動を継続して六月以上行わないで在留していること」を取消事由として定めており,当初は実体を伴う婚姻であっても,離婚後にそのまま在留を続けた場合等がこれに該当し得る。
出入国在留管理庁が毎年公表する広報資料には,2号による取消事例として「日本人との婚姻を偽装し,日本人配偶者との婚姻実態があるかのように装う内容虚偽の在留期間更新許可申請書を提出して同許可を受けた」事案が,7号による取消事例として「日本人配偶者と離婚した後も引き続き,6か月以上本邦に在留していた」事案が,それぞれ記載されている。
もっとも7号による取消しについては,入管法22条の5が,法務大臣は取消しに先立って在留資格の変更又は永住許可の申請の機会を与えるよう配慮しなければならないと定めており,離婚後直ちに一律に取消しに至るわけではない。
2 退去強制と刑事責任
入管法22条の4第1項1号又は2号に基づいて在留資格が取り消された者は,入管法24条2号の2により退去強制の対象となる。
偽装結婚を仲介する目的で虚偽の婚姻届を市区町村長に提出させ,戸籍簿に不実の記載をさせた場合には,刑法157条1項の公正証書原本不実記載等罪(5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)が成立し得るとされる。この罪は婚姻届に固有の規定ではなく,公務員に対する虚偽の申立てによって権利義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせる行為一般を対象とする条文である。
実際に,出入国在留管理庁は,偽装結婚を利用した人身取引被害者の存在を踏まえ,偽装結婚の実態解明や介在するブローカーの取締りに取り組んでいることを公表資料上で明らかにしている。
3 永住許可への影響
入管法22条2項は,永住許可の要件として素行善良要件及び独立生計要件を掲げるが,そのただし書は「その者が日本人,永住許可を受けている者又は特別永住者の配偶者又は子である場合」にはこれらの要件のいずれにも適合することを要しないと定めている。
この緩和措置があるため,入管当局は永住許可を目的とした偽装結婚を特に警戒しているとされ,実務上は,夫婦が同居していることを示す生活実態の写真や,結婚後の旅行の記録等,婚姻関係が正常に継続していることを裏付ける資料の提出が重視される。
東京地方裁判所平成26年5月30日判決(平成25年(行ウ)第324号等,退去強制令書発付処分取消等請求事件)は,「日本人の配偶者等」の在留資格を有する者との偽装結婚によって「定住者」の在留資格を不正に取得した経歴を有する者について,そのこと自体は在留特別許可の許否の判断における消極要素として考慮されるとしつつも,これを決定的に重大な消極要素として扱うことまでは相当でないとして,他の積極的な事情との比較衡量の上で法務大臣の裁決を裁量権の逸脱・濫用に当たると判断した。
この事件は「日本人の配偶者等」の在留資格該当性そのものが争点となったものではないが,偽装結婚歴が行政・司法の判断において一つの考慮要素として位置付けられ,自動的に不利益処分に直結するとまでは扱われていない実務の一端を示すものとして参考になる。
第6 不交付・不許可となった場合の対応
1 再申請という選択肢
在留資格認定証明書の不交付や在留期間更新の不許可を受けた場合,まず検討すべきは,不許可の理由となった疑義を解消する追加資料を整えた上での再申請である。
出入国在留管理庁が公表する不許可事例では,離婚に至る事情や日本社会への定着性等の事情から在留を認めるべき事情がないとして在留資格の変更が認められなかった例が示されており,不許可の理由を具体的に把握し,これに正面から答える資料を追加することが,訴訟という高負担の手続に進むより先に検討すべき現実的な対応となる。
2 審査請求・取消訴訟という選択肢と期間制限
再申請によっても解消できない不許可・不交付処分については,行政不服審査法に基づく審査請求又は行政事件訴訟法に基づく取消訴訟を検討することになるが,いずれも期間制限があるため注意を要する。
行政不服審査法18条1項は,審査請求は処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月を経過したときはすることができないと定め,行政事件訴訟法14条1項及び2項は,取消訴訟は処分があったことを知った日から6か月,又は処分の日から1年を経過したときは提起することができないと定める(いずれも正当な理由がある場合を除く)。
取消訴訟によって不許可処分の取消しを求める場合には,処分行政庁の判断に裁量権の逸脱又は濫用があったといえるだけの具体的な事情,例えば行政庁が重視すべき積極的な事情を考慮しなかったことや,考慮すべきでない事情を過大に評価したことを具体的に主張する必要があり,どのような資料が新たに存在すれば結論を左右し得るかを見極めた上で提起の要否を判断すべきである。
第7 離婚した場合の在留資格――2026年の検討動向
日本人配偶者と離婚した外国人配偶者が引き続き日本に在留することを希望する場合,離婚それ自体は「日本人の配偶者等」の在留資格取消事由として明文で定められていないものの,前記のとおり離婚後に配偶者としての活動を6か月以上行わないまま在留すれば入管法22条の4第1項7号による取消しの対象となり得る。
また,前記のとおり日本人配偶者を有する者は永住許可の素行善良・独立生計要件を免除されているため,離婚後もその効果が及んだまま永住許可を得た地位が維持されるのではないかという点が,近時,国会で取り上げられている。
令和8年(2026年)6月2日の参議院法務委員会では,出入国在留管理庁次長が,日本人配偶者との離婚は現行の入管法22条の4に定める取消事由に当たらないため直ちに永住許可を取り消すことは困難であるとした上で,令和8年(2026年)1月23日に決定された「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」において永住許可の在り方を検討することとされており,令和9年(2027年)4月1日に施行される改正入管法の施行状況を踏まえ,取消事由の範囲の拡大を含めた更なる検討を進める旨を答弁している。
この答弁が示すとおり,離婚後の永住許可の取消事由拡大は本記事執筆時点(令和8年8月)ではあくまで検討課題であって,制度として確定したものではない。
今後の法改正の動向によっては現在の運用が変わる可能性があるため,離婚を検討している日本人配偶者を有する永住者は,最新の制度動向を確認する必要がある。
出典・参考資料
1 法令
①出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)別表第二,7条1項2号,7条の2,22条2項,22条の4第1項2号・7号,22条の5,24条2号の2,70条1項2号の2(e-Gov法令検索)
②民法(明治29年法律第89号)739条,742条,752条,817条の2(e-Gov法令検索)
③刑法(明治40年法律第45号)157条1項(e-Gov法令検索)
④行政不服審査法(平成26年法律第68号)18条1項(e-Gov法令検索)
⑤行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)14条1項・2項(e-Gov法令検索)
2 裁判例
①最高裁判所第一小法廷平成14年10月17日判決(平成11年(行ヒ)第46号,在留資格変更申請不許可処分取消請求事件,民集56巻8号1823頁,裁判所ウェブサイト)
②東京地方裁判所平成26年5月30日判決(平成25年(行ウ)第324号等,退去強制令書発付処分取消等請求事件,裁判所ウェブサイト)
3 公的資料
①出入国在留管理庁『在留審査要領』第12編(在留資格)「第28節 日本人の配偶者等」(行政文書開示請求に基づき開示。令和8年4月開示版)
②出入国在留管理庁「在留資格『日本人の配偶者等』」(必要書類一覧)
③出入国在留管理庁「令和6年の『在留資格取消件数』について」(令和7年3月公表)
④出入国在留管理庁「出入国在留管理庁における主な取組」(偽装結婚と人身取引対策の関係について)
⑤外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」(令和8年1月23日決定)
4 国会資料
①第221回国会参議院法務委員会第12号(令和8年6月2日。国立国会図書館国会会議録検索システム)
②第159回国会参議院法務委員会第10号(平成16年4月13日。国立国会図書館国会会議録検索システム)
5 文献
①坂中英徳・齋藤利男『出入国管理及び難民認定法逐条解説〔改訂第四版〕』(日本加除出版,2012年)159頁~166頁,522頁~527頁
②濱川恭一・長谷部啓介『実務家のための100の実践事例で分かる入管手続き』(労働新聞社,2019年)21頁~62頁