第1 この記事が扱う対象
1 検討の対象と時点
「技術・人文知識・国際業務」は,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)別表第一の二に定める在留資格の一つであり,理学・工学等の自然科学又は法律学・経済学等の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務,又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する外国人を受け入れるための在留資格である。本記事は,令和8年8月21日現在で確認できる入管法及び上陸基準省令の条文,出入国在留管理庁が公表する審査基準(令和8年4月15日改定を含む。),並びに関連する裁判例に基づき,この在留資格の該当性及び上陸許可基準の内容を整理するものである。
出入国在留管理庁が作成した内部の審査基準である「入国・在留審査要領」(令和8年4月開示文書)第12編第2章第15節は,本記事が扱う在留資格の審査実務を最も詳細に記載した一次資料である。当該文書は,出入国在留管理庁作成の「入国・在留審査要領」(令和8年4月の開示文書)で全編を掲載しているので,個別の条文や運用の詳細を原文で確認したい場合はそちらを参照されたい。
2 この記事の位置付け
以下では,まず在留資格の定義と平成26年改正による統合の経緯を確認し(第2),上陸許可基準の各要件を条文に即して整理する(第3)。次に,実務上最も判断が分かれやすい専攻科目と業務内容の関連性の審査(第4),特定技能・技能実習との関係(第5),受入れ機関のカテゴリー区分と在留期間の運用(第6)を扱う。さらに,令和8年4月に新設された言語能力の審査基準(第7),在留資格の取消し及び資格外活動のリスク(第8)を確認した上で,在留資格変更許可申請が争われた裁判例(第9)を紹介する。
第2 「技術・人文知識・国際業務」とは何か
1 入管法上の定義
入管法別表第一の二の「技術・人文知識・国際業務」の項の下欄は,本邦において行うことができる活動を次のとおり定めている。「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学,工学その他の自然科学の分野若しくは法律学,経済学,社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(一の表の教授の項,芸術の項及び報道の項の下欄に掲げる活動並びにこの表の経営・管理の項から教育の項まで及び企業内転勤の項から興行の項までの下欄に掲げる活動を除く。)」。
条文の構造を整理すると,該当し得る活動は3類型に分かれる。第1に,自然科学の分野に属する技術又は知識を要する業務であり,数理科学,機械工学,情報工学,建築学等が想定されている。第2に,人文科学の分野に属する技術又は知識を要する業務であり,語学,法学,経済学,経営学等が想定されている。第3に,外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務であり,通訳,翻訳,語学の指導,海外取引業務等が想定されている。末尾の括弧書きは,同じ活動内容であっても教授,芸術,報道,経営・管理から教育まで,企業内転勤から興行までの各在留資格に該当する場合はそちらが優先することを定めたものであり,この振り分けの実務は第2の3で扱う。
2 平成26年改正による統合の経緯
現在の「技術・人文知識・国際業務」は単一の在留資格であるが,平成27年4月1日の施行前は,自然科学系の「技術」と人文科学系・国際業務系の「人文知識・国際業務」という2つの在留資格に分かれていた。この統合は,平成26年の入管法改正によるものである。第186回国会参議院法務委員会(平成26年6月10日)において,統合の理由が質疑されている。行田邦子委員が「在留資格の技術と人文知識・国際業務の一本化について伺いたいんですけれども,この一本化を行う理由についてお聞かせいただけますでしょうか」と質したのに対し,榊原一夫・法務省入国管理局長は,「いわゆる理系の専門職に係る在留資格である技術と,文系の専門職に係る在留資格である人文知識・国際業務を一本化いたしますのは,近年,企業における人材活用の在り方が多様化しており,技術の在留資格に該当するのか,人文知識・国際業務の在留資格に該当するのか不明確な場合があることを踏まえたものでございます」と答弁している。企業の職種が理系・文系のいずれかに単純に区分できなくなったことへの対応であったことがうかがえる。
統合前の枠組みで審査された裁判例においても,専攻内容と従事しようとする業務との関連性が争点となっている。この判断枠組みは統合後も維持されており,詳細は第9で扱う。
3 他の在留資格との関係
「技術・人文知識・国際業務」の該当性を判断する際は,同じ活動内容が他の在留資格に該当する場合の優先関係を確認する必要がある。出入国在留管理庁の審査要領は,主要な振り分けを次のとおり整理している。①教授については,本邦の大学若しくはこれに準ずる機関又は高等専門学校において研究,研究の指導又は教育をする場合は「教授」を決定する。②経営・管理については,企業の経営活動や管理活動が自然科学又は人文科学の知識等を要する業務と重複する場合は「経営・管理」を決定するが,職員として「技術・人文知識・国際業務」で在留していた外国人が昇進等により経営者や管理者となったときは,直ちに在留資格を変更することまでは要せず,在留期限の満了に併せて切り替えても差し支えないとされている。③企業内転勤については,期間を定めて転勤するものであること及び転勤した特定の事業所でしか活動できないことが相違点であり,企業内転勤の上陸許可基準(転勤直前に外国の事業所で1年以上継続して技術・人文知識・国際業務相当の業務に従事していたこと)を満たさない場合でも,技術・人文知識・国際業務自体の基準を満たせばこの在留資格で入国できる。④介護については,介護福祉士の資格を有する者が病院や介護施設で入浴・食事の介助等の介護業務を行う場合は「介護」に該当し,技術・人文知識・国際業務ではこれらの業務を行うことができないとされている。
第3 上陸許可基準
1 学歴要件
上陸許可基準は,出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令(以下「上陸基準省令」という。)に定められている。同省令の「技術・人文知識・国際業務」の項第1号は,自然科学又は人文科学の分野に属する技術又は知識を必要とする業務に従事する場合の要件として,次の3つのいずれかへの該当を求めている。「イ 当該技術若しくは知識に関連する科目を専攻して大学を卒業し,又はこれと同等以上の教育を受けたこと」,「ロ 当該技術又は知識に関連する科目を専攻して本邦の専修学校の専門課程又は専攻科を修了(当該修了に関し法務大臣が告示をもって定める要件に該当する場合に限る。)したこと」,「ハ 十年以上の実務経験(大学,高等専門学校,高等学校,中等教育学校の後期課程又は専修学校の専門課程若しくは専攻科において当該技術又は知識に関連する科目を専攻した期間を含む。)を有すること」。専修学校の専門課程又は専攻科の修了については,修了に関して法務大臣が告示で定める要件を満たす必要があるが,この告示の正式な番号,公布日及び本文は,出入国在留管理庁の告示一覧及び国立国会図書館日本法令索引のいずれからも確認できなかった。上陸基準省令が「専修学校の専門課程を修了(当該修了に関し法務大臣が告示をもって定める要件に該当する場合に限る。)」という委任文言を置いていること自体は条文上確認できるので,実務上は専門士又は高度専門士の称号を取得した修了者がこれに該当するという理解が一般的であるが,告示そのものの逐語は本記事の作成時点で確認できていない。
2 情報処理技術者の特例
上陸基準省令第1号は,ただし書として「申請人が情報処理に関する技術又は知識を要する業務に従事しようとする場合で,法務大臣が告示をもって定める情報処理技術に関する試験に合格し又は法務大臣が告示をもって定める情報処理技術に関する資格を有しているときは,この限りでない」と定めている。この告示(平成25年法務省告示第437号,最終改正 令和2年7月20日法務省告示第118号)は,応用情報技術者試験,基本情報技術者試験,情報処理安全確保支援士試験等の国内試験に加え,中国,フィリピン,ベトナム,ミャンマー,台湾,マレーシア,タイ,モンゴル,バングラデシュの外国試験,シンガポール(CITPM)及び韓国(情報処理技師等)の資格を列挙する方式を採っている。これにより,学歴要件を満たさない情報処理技術者であっても,告示に列挙された試験・資格のいずれかを満たしていれば上陸許可基準に適合する。
3 外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務
上陸基準省令第2号は,翻訳,通訳,語学の指導,広報,宣伝又は海外取引業務,服飾若しくは室内装飾に係るデザイン,商品開発その他これらに類似する業務に従事する場合の要件を定める。イで対象業務を列挙した上で,ロにおいて「従事しようとする業務に関連する業務について三年以上の実務経験を有すること。ただし,大学を卒業した者が翻訳,通訳又は語学の指導に係る業務に従事する場合は,この限りでない」としている。翻訳・通訳・語学指導以外の業務(広報,海外取引業務,デザイン等)については,大学卒業者であっても3年以上の実務経験が別途必要になる点に注意を要する。出入国在留管理庁が公表する審査要領は,この実務経験について「関連する業務についてのもの」であれば足り,本邦において従事しようとする業務そのものについての実務経験までは要しないと解説している。
4 報酬要件
上陸基準省令第3号は,「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」と定める。審査要領によれば,報酬の月額は賞与等を含めた年間報酬総額の12分の1で計算し,同等額以上であるかどうかは報酬額を基準として一律に判断するのではなく,個々の企業の賃金体系を基礎に,当該企業の同種の学歴・職種の日本人従業員の賃金を参考にして判断するとされている。この報酬同等性要件は,特定技能をはじめとする他の就労系在留資格にも共通する考え方であり,具体的な水準の考え方については,特定技能1号に退職手当を支給しないことの法的リスクで扱った同一労働同一賃金ガイドラインの改正動向も併せて参照されたい。
第4 専攻科目と従事する業務内容との関連性
1 大学卒業者の場合
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格該当性の審査で最も争われやすいのが,大学又は専修学校で専攻した科目と,従事しようとする業務との関連性である。審査要領は,大学を卒業した者についてこの関連性を「比較的緩やかに判断する」としており,その根拠として,大学は学校教育法上,広く知識を授けるとともに深く専門の学芸を教授研究することを目的とする教育機関であることを挙げている。専門職大学及び専門職短期大学の卒業者についても,実践力の育成と幅広い知識の習得を特色とすることから,同様に柔軟に判断するとされている。
もっとも,緩やかな判断であっても無関係な専攻でよいわけではない。出入国在留管理庁が公表する許可・不許可事例には,専攻と業務内容の関連性が否定された例として,声優学科卒業者が通訳・翻訳業務に従事するとした申請,CAD・IT系学科卒業者が接客・清掃業務に従事するとした申請が挙げられている。実務書に収録された不許可事例においても,経済学専攻の大学卒業者がホテルに採用されるとして申請したが,主たる業務が宿泊客の荷物運搬及び客室清掃であったため不許可となった例,商学専攻の大学卒業者が駐車誘導及び配膳業務に従事するとした申請が不許可となった例が報告されている。これらの事例に共通するのは,学歴上の専攻と,実際に従事する業務の中心が専門的知識を要しない単純労働に当たると評価された点である。
2 専修学校卒業者の場合
専修学校の専門課程を修了した者については,審査要領上,大学卒業者よりも厳格な扱いがされている。専修学校は,学校教育法上「職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し,又は教養の向上を図ること」を目的とする教育機関であり,大学とは設置目的が異なることから,専攻科目と従事しようとする業務については「相当程度の関連性」を要するとされている。ただし,文部科学省が「専修学校の専門課程における外国人留学生キャリア形成促進プログラムの認定に関する規程」(令和5年文部科学省告示第53号)により認定した専門課程(認定学科)を修了した者については,企業等と連携した実習等の授業を行っていること等を理由に,関連性の判断を柔軟に行うとされている。
日本語教育機関である専修学校(告示日本語教育機関及び認定日本語教育機関の日本語課程)を修了した者については,別の制約がある。審査要領によれば,外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務に従事しようとする場合は,専門士の称号を取得していても,関連業務について3年以上の実務経験がない限り基準を満たさない。自然科学又は人文科学の分野に属する業務に従事する場合についても,日本語教育機関は日本語予備教育を主目的とすることから,外国の大学で修業年限3年以上の課程を修了して学士に相当する学位を得た者等を除き,在留資格に該当しないと判断して差し支えないとされている。業種別の運用の例として,自動車整備業務については,2級自動車整備士の資格を有すること等を前提に,近い将来に自動車整備主任者として業務に従事することが見込まれる場合に限り,例外的に在留資格該当性が認められる取扱いがされている。
第5 特定技能・技能実習との違い
「技術・人文知識・国際業務」と特定技能は,いずれも外国人の就労を認める在留資格であるが,制度の前提が異なる。特定技能は,人材確保が困難な特定の産業分野において,相当程度の知識又は経験を要する技能を持つ外国人を受け入れる制度であり,技能水準の確認は技能試験によって行われる。これに対し「技術・人文知識・国際業務」は,大学卒業等の学歴又は10年以上の実務経験を前提として,専門的な知識を要する業務への従事を認めるものであり,技能実習・特定技能とは制度の趣旨が異なる。
審査要領は,特定技能で得た就労経験を「技術・人文知識・国際業務」の上陸基準省令が求める実務経験として評価するかについて,「特定技能制度で受け入れられた外国人のキャリアアップは,基本的には,『特定技能1号』から『特定技能2号』への移行によって行うこととされており,同制度での実務経験を土台にして,『特定技能1号』から『技術・人文知識・国際業務』の在留資格に変更してキャリアアップを図ることは想定されていない」とした上で,「特定技能等の活動によって得た経験は上陸基準省令に定める『実務経験』とは評価しない」との考え方を示している。特定技能や技能実習の在留資格で就労した期間があっても,これを実務経験として通算した上で「技術・人文知識・国際業務」への変更を申請することは,原則として想定されていない点に留意が必要である。
第6 カテゴリー区分と在留期間の運用
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格認定証明書交付申請及び在留期間更新許可申請では,受入れ機関の規模等に応じて提出書類が区分されている。出入国在留管理庁が公表する在留資格別のページによれば,カテゴリー1は日本の証券取引所に上場している企業,保険業を営む相互会社,国・地方公共団体,独立行政法人等,カテゴリー2は前年分の給与所得の源泉徴収税額が1000万円以上ある団体・個人等,カテゴリー3は前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表が提出された団体・個人(カテゴリー2を除く。),カテゴリー4はこれらのいずれにも該当しない団体・個人であり,カテゴリー4の審査が最も厳格になる。
在留期間については,審査要領上,5年,3年,1年又は3月のいずれかが決定される。届出義務(住居地の届出,所属機関等に関する届出等)の履行状況,契約機関のカテゴリー区分,就労予定期間等を総合考慮する運用となっており,カテゴリー4の契約機関に所属する場合は,原則として長期の在留期間が付与されにくい構造になっている。また,採用当初に実務研修期間が設けられている場合は,研修を適切に修了した後に「技術・人文知識・国際業務」に該当する活動へ移行していることを確認する必要があるとして,原則として在留期間「1年」が決定される。
第7 令和8年4月の審査基準改定――言語能力を用いる対人業務の明確化
出入国在留管理庁は,「『技術・人文知識・国際業務』の在留資格の明確化等について」と題する審査基準を継続的に改定しており,令和8年4月15日付けで別紙4「翻訳・通訳業務等の言語能力を用いる対人業務に従事する場合の在留資格の明確化について」を新設した。出入国在留管理庁が公表する在留資格別のページによれば,令和8年4月15日以降の申請から,カテゴリー3又は4に該当する所属機関は,所属機関の代表者に関する申告書に加え,主に言語能力を用いて対人業務等に従事する場合には,業務上使用する言語についてCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)B2相当の言語能力を有することを証する資料の提出が新たに必要になった。日本語については,次のいずれかに該当すればCEFR・B2相当の日本語能力を有するものとみなすとされている。①日本語能力試験(JLPT)N2以上を取得していること,②BJTビジネス日本語能力テストにおいて400点以上を取得していること,③中長期在留者として20年以上本邦に在留していること,④本邦の大学を卒業し,又は本邦の高等専門学校若しくは専修学校の専門課程若しくは専攻科を修了していること,⑤我が国の義務教育を修了し高等学校を卒業していること。この資料の提出が求められるのは,翻訳・通訳やホテルフロント業務等の接客のように,日本語能力等の言語能力を用いた業務に主に従事する場合であり,既に在留中の者が業務内容の変更や転職等によりこうした業務に主に従事することとなった場合は,在留期間更新許可申請時に提出が必要になる。
改定の主眼は,専攻科目と業務内容の関連性という従来の学歴要件の枠組み自体を変更するものではなく,言語能力を用いる対人業務について新たな証明資料を要求する点にある。
第8 在留資格の取消し及び資格外活動のリスク
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で在留する外国人が,在留資格に対応しない業務に専ら従事した場合は,入管法上の資格外活動(同法24条4号イ)に該当し,退去強制手続の対象となり得る。また,入管法22条の4は在留資格の取消し事由を定めており,実務上特に問題となるのは第5号(虚偽の資料の提出等により在留資格に係る許可を受けたと認めるに足りる相当の理由がある場合等,本来の活動を行っていないと認められる場合)及び第6号(正当な理由がないのに,当該活動を継続して3月以上行わないで在留していること)である。3か月という期間は,休職,転職活動,事業の一時的な休止等の場面で現実に問題になり得る期限であり,正当な理由なくこの期間を超えて本来の活動を行わないまま在留を続けると,在留資格の取消し対象になり得る。
受入れ機関側の適格性についても留意が必要である。出入国在留管理庁の審査基準は,特定技能制度・技能実習制度上の欠格事由(暴行・脅迫・監禁,旅券の取上げ,賃金不払い等)に該当する受入れ機関は,「技術・人文知識・国際業務」であっても新規の受入れができないとしており,受入れ機関の適格性審査が特定技能・技能実習制度と共通化されている。技術・人文知識・国際業務の在留資格者を,在留資格に対応しない接客業務等に従事させた事案では,雇用主が不法就労助長罪(入管法73条の2)に問われた例もある。東京地方裁判所刑事第15部令和4年7月5日判決(令和3年特(わ)第539号,同年刑(わ)第1527号)は,特定遊興飲食店を経営する会社の代表取締役が,技術・人文知識・国際業務の在留資格で在留し資格外活動許可を受けていない外国人従業員2名を店員として稼働させたことにつき,法人及び代表者を不法就労助長罪で有罪(代表者について懲役刑は執行猶予付き)とした事案であり,行政訴訟ではなく雇用主の刑事責任が問われた点で,本記事が扱う在留資格該当性の判断とは局面を異にするが,受入れ企業側のリスクを示す事例として参考になる。
第9 在留資格変更許可申請に対する司法審査
在留資格変更許可申請が拒否された場合の司法審査の枠組みを示した裁判例として,東京地方裁判所平成11年11月11日判決(平成10年(行ウ)第77号)がある。同判決は,「留学」の在留資格から「技術」(平成26年改正前の在留資格であり,現行の「技術・人文知識・国際業務」に相当する部分を含む。)への変更を申請した中国籍の原告について,被告(地方入国管理局長)が,著作権法違反で起訴されていたこと,専攻していた教育心理学と従事しようとするシステムエンジニア業務との関連性の薄さ,保釈中の制限住居からの通勤が事実上困難であることを理由に不許可とした事案である。判決は,在留資格変更許可申請に対する拒否処分の司法審査基準について,「右の相当の理由が具備されているかどうかについての被告の裁量権の範囲は広範なものと解すべきである」とした上で,「在留資格の変更の許否の判断が裁量権の逸脱又は濫用として違法となるのは,右判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限られる」との基準を示した。専攻と業務の関連性については,「原告が東北大学大学院教育学研究科後期博士課程において専攻したマルチメディア教育の研究の主たる目的はマルチメディア技術等を利用した教育効果の向上にあり,本件申請の直前までの原告が行っていた活動の内容が,『技術』の資格により原告が従事することとなるコンピューターソフトウエア開発とは必ずしも密接な関連を有していたとまでは認められないから,右の意味において,被告が,この点を,本件申請に対する判断における消極的な事実として評価したことが不合理であるとまではいえない」と判示し,原告の請求を棄却した。
これに対し,資格外活動該当性を否定して在留資格者側の請求を認容した裁判例として,名古屋地方裁判所平成28年2月18日判決(平成26年(行ウ)第128号)がある。同判決は,「技術」の在留資格で在留する外国人に対し,入国審査官が入管法24条4号イ(資格外活動)に該当する旨の認定をし,これに基づき異議申出の棄却裁決及び退去強制令書発付処分がされた事案について,「専ら行っている」の意義を,「当該外国人の在留資格に対応する活動と現に行っている就労活動等との関連性,当該外国人が当該就労活動等をするに至った経緯,当該外国人の認識,当該就労活動等の状況,態様,継続性,固定性等を総合的に考慮して,当該外国人の在留目的である活動が既に実質的に変更されてしまっているということができる程度にその就労活動等が行われていることを要する」と解釈した。その上で,当該外国人が現に行っていた旋盤機械の操作について,「大学で履修した科目と深い関連性を有し」,「プログラミング作業を行うための研修としてその対象機械の操作を学んだ経験を有していた」こと,就労期間が1か月未満で労働条件も明確になっていなかったことを理由に,資格外活動を「専ら行っている」ことが「明らかに認められる」とはいえないとして,認定,裁決及び退去強制令書発付処分をいずれも取り消した。
2つの裁判例はいずれも平成26年改正前の「技術」(自然科学系の在留資格)の該当性が争点となった事案であり,統合後の「技術・人文知識・国際業務」該当性を正面から扱った公刊の行政訴訟判決は,本記事の作成に当たって網羅的に検索した範囲では見当たらなかった。もっとも,専攻と業務の関連性を評価する際の考慮要素(在留資格に対応する活動との関連性,従事するに至った経緯,本人の認識,活動の状況・継続性等の総合考慮)自体は,統合後の在留資格の判断にも参考になる枠組みである。行政訴訟にまで至った公刊裁判例が少ない背景には,不許可・不交付の多くが再申請や在留資格認定証明書交付申請のやり直しといった形で処理され,訴訟に発展しないまま解決している実務上の傾向があると考えられるが,この点を裏付ける統計資料までは確認できていない。
出典・参考資料
1 法令・告示
①出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)別表第一の二,2条の2,7条,19条の16,19条の17,20条,22条の4,24条,73条の2(e-Gov法令検索)
②出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令(平成2年法務省令第16号)「技術・人文知識・国際業務」の項(e-Gov法令検索)
③出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令の技術・人文知識・国際業務の在留資格に係る基準の特例を定める件(平成25年法務省告示第437号)(出入国在留管理庁)
2 裁判例
①東京地方裁判所民事第2部平成11年11月11日判決(平成10年(行ウ)第77号,在留資格変更不許可処分取消請求事件,裁判所ウェブサイト)
②名古屋地方裁判所平成28年2月18日判決(平成26年(行ウ)第128号,退去強制令書発付処分等取消請求事件,裁判所ウェブサイト)
③東京地方裁判所刑事第15部令和4年7月5日判決(令和3年特(わ)第539号,同年刑(わ)第1527号,出入国管理及び難民認定法違反,詐欺被告事件,裁判所ウェブサイト)
3 公的資料
①「技術・人文知識・国際業務」の在留資格の明確化等について(出入国在留管理庁,令和8年4月15日最終改定)
②別紙3 許可・不許可事例(出入国在留管理庁)
③別紙4 翻訳・通訳業務等の言語能力を用いる対人業務に従事する場合の在留資格の明確化について(出入国在留管理庁,令和8年4月15日)
④在留資格「技術・人文知識・国際業務」(出入国在留管理庁)
⑤第186回国会参議院法務委員会第22号(平成26年6月10日)榊原一夫法務省入国管理局長答弁(国立国会図書館国会会議録検索システム)
⑥出入国在留管理庁「入国・在留審査要領」(令和8年4月開示文書)第12編第2章第15節(山中弁護士ブログ掲載版)
4 文献
①濱川恭一・長谷部啓介『実務家のための100の実践事例で分かる入管手続き』(労働新聞社,平成31年)91頁~131頁