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新様式判決とは何か―従来様式との違い,成立経緯と現在の課題(AIリライト)

新様式判決とは,民事判決の「事実」及び「理由」を,請求,事案の概要,争点,当事者の主張及び争点に対する判断を中心に構成し,事件の中心と結論に至る過程を分かりやすく示そうとする判決様式である。

もっとも,「新様式判決」は法令上の用語ではなく,法律が一つの固定書式を指定しているわけではない。

また,現在一般に新様式判決と呼ばれている様式は,1990年(平成2年)の共同提言が示した原型そのものではなく,1992年(平成4年)の大阪報告及び1994年(平成6年)の東京報告を経て定着した修正型である。

本記事では,新様式判決の意味,従来様式との違い,成立後の変化,現在の典型的構成,電子判決書との関係及び理由説示をめぐる最高裁判例を,原典に即して整理する。

第1 新様式判決の意味

1 法令上の書式名ではないこと

現行民事訴訟法は,判決に記録すべき事項を定めているが,「新様式判決」又は「従来様式判決」という名称を用いていない。

これらの名称は,民事判決の事実及び理由をどのような順序と密度で記載するかを区別する実務上の呼称である。

したがって,「新様式」という名称から,新旧の法令が切り替わったとか,従来様式が法的に廃止されたと理解するのは正確でない。

2 従来様式判決との違い

従来様式判決は,当事者の主張を請求原因,請求原因に対する認否,抗弁,抗弁に対する認否,再抗弁などに分け,法律要件及び立証責任の構造に従って「事実」欄へ記載する。

この方式は,訴訟物,攻撃防御方法及び立証責任の所在を確認しやすい反面,法律実務家以外の当事者には事件の全体像と中心的争点が分かりにくく,事実欄と理由欄の記載が重複しやすいとの問題が指摘されていた。

これに対し,新様式判決は,紛争の概要と中心的争点を先に示し,その争点についての認定及び判断を読み進めやすい順序で記載することを目指す。

3 単なる短縮版ではないこと

新様式判決は,法律要件,主要事実,立証責任又は証拠評価を省略してよいという考え方ではない。

共同提言が前提としたのは,充実した審理と的確な争点整理を行った上で,形式的記載や無用な重複を除き,中心的争点については証拠と認定事実の関係を示しながら丁寧に理由を記載することである。

判決が短いかどうかと,理由が十分かどうかは別の問題である。

第2 1990年の共同提言

1 新しい様式案の公表日

東京高等・地方裁判所民事判決書改善委員会及び大阪高等・地方裁判所民事判決書改善委員会は,1990年(平成2年)1月16日,新しい様式の民事判決書案を公表した。

共同提言の本文は,「民事判決書の新しい様式について」として判例タイムズ715号4頁~35頁(PDFビューア1頁~32頁)に掲載されている。

同号の発行日は1990年2月25日であるが,提言案の公表日は同年1月16日であるため,両日を区別する必要がある。

2 共同提言が掲げた基本方針

共同提言4頁~6頁(PDFビューア1頁~3頁)が掲げた基本方針は,次のように要約できる。

① 当事者のための判決であることを重視し,中心的争点とそれに対する判断を,平易で分かりやすい文章によって示す。

② 特殊な文体に習熟していなくても起案できるよう,常識的な文章作成能力で書ける判決書を目指す。

③ 形式的記載と重複記載を除き,事実と理由を一体的に記載することも含めて,簡潔な構成を工夫する。

④ 主文に至る論理過程が分かる記載を確保し,中心的争点については,主張と証拠を示しながら具体的に理由を記載する。

3 共同提言の原型

共同提言の原型は,事件及び当事者の表示,主文に続き,「事実及び理由」の中に,請求,事案の概要,争点に対する判断,法律上の問題点についての説示などを置く構成を示した。

「事案の概要」は,事件の類型,争いのない事実,中心的争点その他主文を導くために必要な事項を簡潔に示す部分とされた。

「争点に対する判断」は判決の中心部分であり,中心的争点については,認定事実と具体的証拠との関係を明確にし,証拠の評価が勝敗を決する場合には採否の理由を丁寧に示すことが求められた。

第3 修正型の成立と現在の典型的構成

1 1992年の大阪報告と1994年の東京報告

共同提言の原型は,1992年(平成4年)2月の大阪報告及び1994年(平成6年)3月の東京報告によって修正された。

この経過は,司法研修所編『民事第一審訴訟における判決書に関する研究―現在に至るまでの整理と更なる創意工夫に向けて―』26頁~27頁(PDFビューア38頁~39頁)及び田辺麻里子「新様式判決は,なぜ『史上最長の判決』になったのか」判例タイムズ1510号43頁(PDFビューア5頁)で確認できる。

現在の新様式判決を説明するときは,1990年の原型と,その後に定着した修正型を区別しなければならない。

2 現在の典型的構成

司法研修所の前掲研究28頁~30頁(PDFビューア40頁~42頁)は,現在の典型的な民事第一審判決の構成を,おおむね次のように整理している。

① 主文

② 請求

③ 事案の概要

④ 当裁判所の判断

⑤ 結論

「事案の概要」は,事案の要旨,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張から構成されることが多い。

「当裁判所の判断」は,必要に応じて認定事実を示した上で,各争点についての事実認定及び法的判断を記載する。

3 原型と修正型の違い

原型は,争いのない事実と中心的争点を簡潔に示し,争点に対する判断の中で事実認定と法的判断を展開する構成を想定していた。

修正型では,事案の概要の冒頭で訴訟物を明らかにし,争点に関する当事者の主張を対比して記載し,主張の記載順序によって立証責任の分配を示す方法が取り入れられた。

その後,前提事実,当事者の主張及び認定事実がそれぞれ詳しく記載される判決も増えたため,「新様式判決は短い判決である」と一括りにすることはできない。

第4 現行民事訴訟法と電子判決書

1 電子判決書の必要的記録事項

2026年(令和8年)5月21日に施行された現行の民事訴訟法252条1項は,裁判所が判決の言渡しをするときは,電子判決書を作成しなければならないと定める。

電子判決書の必要的記録事項は,①主文,②事実,③理由,④口頭弁論の終結の日,⑤当事者及び法定代理人,⑥裁判所である。

同条2項は,事実の記録について,請求を明らかにし,かつ,主文が正当であることを示すのに必要な主張を摘示しなければならないと定める。

現行民事訴訟法253条1項は,判決の言渡しを電子判決書に基づいて行うものとしている。

2 電子化と判決様式は別の問題であること

裁判所の「民事裁判手続のデジタル化」によれば,改正民事訴訟法及び改正民事訴訟規則は2026年5月21日に施行された。

電子判決書は,判決を電磁的記録として作成するという媒体及び手続の問題である。

これに対し,新様式判決は,事実及び理由をどのように構成して記載するかという表現形式の問題である。

したがって,電子判決書になったことによって新様式判決が新たに導入されたわけでも,新様式判決の構成が法律によって一つに固定されたわけでもない。

第5 新様式判決の長所と課題

1 中心的争点と判断過程を示しやすいこと

新様式判決の長所は,事件の全体像,中心的争点及び結論に至る判断過程を,当事者が理解しやすい順序で示せる点にある。

また,争点整理と判決作成を連動させ,審理の段階から判決の骨格を形成していく考え方と親和的である。

2 長文化,重複及び理由説示の不足

司法研修所の前掲研究31頁~33頁(PDFビューア43頁~45頁)は,現在の判決書に見られる問題として,位置付けの不明瞭な事実の羅列,準備書面や書証の単純な転記,不適切な争点設定,重要書証の検討不足,証拠から結論に至る推認過程を示さない理由説示などを挙げる。

これらは,新様式判決が本来目指した簡潔さ及び分かりやすさとは反対の現象である。

自由度の高い様式であるからこそ,請求,法律要件,立証責任,主要事実,間接事実及び証拠構造を正確に整理し,そのうち判決に何をどの程度記載するかを選ぶ必要がある。

3 全事件に一つの様式を当てはめるものではないこと

最高裁判所事務総局民事局「令和2年度民事事件担当裁判官等協議会 協議結果要旨」15頁~16頁(PDFビューア19頁~20頁)は,従来様式が有用となり得る例として,訴訟物が特殊で争点の位置付けが分かりにくい場合,事実整理について共通認識を示す必要がある場合,争いのない事実がほとんどない場合及び争点設定が難しい場合を挙げる。

同資料は,攻撃防御の構造が複雑な事件では,従来様式を用いる方法だけでなく,新様式の争点欄で各争点の法的位置付けを明示する方法もあるとしている。

中本敏嗣『判決書からみた民事裁判―裁判官の思考と弁護士の訴訟活動―』(新日本法規出版,2024年)53頁~65頁も,新様式判決は省力化のための様式ではなく,全ての事件を新様式で書かなければならないものでもないと説明する。

田中敦編集・民事裁判実務研究会編著『民事裁判実務論点大系―裁判官からみた手続運用と実践知―』(ぎょうせい,2025年)466頁~481頁は,修正型が定着した後も,争点の位置付けの不明確さ,無意味な重複,不適切な争点設定及び理由説示の不足が課題として残ると整理している。

第6 文書の成立の真正と最高裁判例

1 最高裁平成9年5月30日判決

最高裁第二小法廷平成9年5月30日判決・平成8年(オ)第1846号(裁判集民事183号423頁,判例時報1605号42頁)は,事実認定の根拠として判決に引用する文書について,その成立の真正及び真正と判断した理由は,当時の民事訴訟法上の判決の必要的記載事項ではないと判示した。

したがって,その記載がないという一事だけで,直ちに理由不備となるものではない。

2 重要争点である場合の留保

もっとも,同判決は,文書の成立の真正自体が重要な争点となり,当事者がその点について攻撃防御を尽くしている場合には,裁判所は真正についての判断及びその理由を判決中に記載すべきであるとも述べた。

判決が第一次的には当事者に向けられたものであり,当事者が重要な争点として主張立証を尽くした事項について判断と理由を示す必要があるからである。

この留保を外して,「文書の成立やその理由は判決に書かなくてよい」と一般化するのは正確でない。

第7 争点整理と判決作成の関係

1 争点整理結果を要約した書面

現行民事訴訟法165条2項は,裁判長が相当と認めるときは,準備的口頭弁論の終了に当たり,当事者に争点及び証拠の整理結果を要約した書面を提出させることができると定める。

この制度は,争点整理結果の記録化及び共有に役立つが,裁量的な提出制度を定めた規定である。

この規定だけから,判決作成に必要な主張整理の責任が全面的に当事者側へ移るとの結論を導くことはできない。

2 判決準備は争点整理段階から始まること

司法研修所の前掲研究32頁~33頁(PDFビューア44頁~45頁)は,判決書の準備を争点整理及び証拠調べの終了後に初めて行うのではなく,争点整理の段階から進め,争点整理手続の終了時には判決書の骨格が形成されている状態を想定している。

新様式判決を適切に作成するには,当事者の主張整理,裁判所の訴訟指揮,争点整理,証拠評価及び理由説示を一体として考える必要がある。

第8 新様式判決を読むときの確認点

新様式判決を読むときは,少なくとも次の点を区別する必要がある。

① 1990年の共同提言が示した原型についての説明か,その後の修正型についての説明か。

② 当事者の主張として記載された部分か,裁判所が認定した事実又は判断か。

③ 中心的争点の法的位置付けと立証責任が判決から読み取れるか。

④ 証拠から認定事実へ,認定事実から結論へ至る推認及び評価の過程が示されているか。

⑤ 電子判決書という媒体の問題と,新様式という記載構成の問題を混同していないか。

新様式判決の評価は,短いか長いかだけでなく,請求と争点の法的位置付けが正確であり,当事者が重視した中心的争点について結論に至る理由が明確に示されているかによって行う必要がある。

第9 関連記事

判決書の用紙,余白,文字等の設定については,判決書の書式等の標準的な設定についてを参照されたい。

裁判文書のA4判・横書き化の経過については,裁判文書及び司法行政文書がA4判・横書きとなった時期を参照されたい。

第10 出典

1 法令・裁判例

① 民事訴訟法(平成8年法律第109号)165条,252条及び253条。

② 最高裁第二小法廷平成9年5月30日判決・平成8年(オ)第1846号(裁判集民事183号423頁,判例時報1605号42頁,裁判所ID 69645)。

2 公文書・歴史資料・ウェブ資料

① 東京高等・地方裁判所民事判決書改善委員会・大阪高等・地方裁判所民事判決書改善委員会「民事判決書の新しい様式について」判例タイムズ715号(1990年)4頁~35頁(PDFビューア1頁~32頁)。共同提言を収録した最高裁判所事務総局編『民事判決書の新しい様式について』(法曹会,1990年)の国立国会図書館書誌も参照した。

② 最高裁判所事務総局民事局「令和2年度民事事件担当裁判官等協議会 協議結果要旨(資料編を含む。)」(2020年)15頁~16頁(PDFビューア19頁~20頁)。

③ 裁判所「民事裁判手続のデジタル化」

3 文献

① 司法研修所編『民事第一審訴訟における判決書に関する研究―現在に至るまでの整理と更なる創意工夫に向けて―』(法曹会,2022年)26頁~33頁(PDFビューア38頁~45頁)。

② 田辺麻里子「新様式判決は,なぜ『史上最長の判決』になったのか―デジタル化時代の『シン・新様式判決』の提言―」判例タイムズ1510号(2023年)39頁~149頁(PDFビューア1頁~111頁)。

③ 中本敏嗣『判決書からみた民事裁判―裁判官の思考と弁護士の訴訟活動―』(新日本法規出版,2024年)53頁~65頁,87頁,139頁,158頁,195頁~214頁(新日本法規の書誌情報)。

④ 田中敦編集・民事裁判実務研究会編著『民事裁判実務論点大系―裁判官からみた手続運用と実践知―』(ぎょうせい,2025年)466頁~481頁(ぎょうせいの書誌情報)。