第1 法科大学院在学中の司法試験合格者
1 令和5年司法試験から始まった在学中受験資格
司法試験法4条2項に基づく法科大学院在学中受験資格は,令和5年司法試験から利用できるようになった。
法務省「在学中受験資格に関するQ&A」は,制度の目的を法曹資格取得までの時間的・経済的負担の軽減と説明している。
法科大学院在学中受験資格を得るには,所定の法律基本科目,法律実務基礎科目及び選択科目の単位を修得し,司法試験実施年の4月1日から1年以内に法科大学院を修了する見込みであることについて,法科大学院を置く大学の学長の認定を受ける必要がある。
2 法科大学院修了前には司法修習を開始できないこと
法科大学院在学中受験資格で司法試験に合格しても,法科大学院を修了するまでは司法修習を開始できない。
これは,裁判所法66条1項及び法務省Q&AのQ12に基づく。
予備試験にも合格していたとしても,司法試験への出願を法科大学院在学中受験資格によって行った場合は同じである。
3 令和6年及び令和7年司法試験の合格者数
令和6年及び令和7年司法試験の受験資格別合格者数は,次のとおりである。
| 司法試験 | 合格者総数 | 法科大学院在学中受験資格 | 法科大学院修了資格 | 予備試験合格資格 |
|---|---|---|---|---|
| 令和6年 | 1592人 | 680人 | 471人 | 441人 |
| 令和7年 | 1581人 | 712人 | 441人 | 428人 |
法科大学院在学中受験資格による合格者は,令和6年の680人から令和7年の712人へ増加している。
4 予備試験経由で法科大学院在学中に合格した人
法科大学院在学中受験資格とは別に,予備試験合格資格によって司法試験を受け,その出願時に法科大学院へ在学していた人がいる。
予備試験合格資格による司法試験合格者のうち,出願時に法科大学院へ在学していた人は,次のとおりである。
| 司法試験 | 法科大学院2年 | 法科大学院3年 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 令和6年 | 50人 | 103人 | 153人 |
| 令和7年 | 48人 | 96人 | 144人 |
これらの人数は,法科大学院在学中受験資格による合格者の人数ではない。
受験資格と出願時の最終学歴は,別の統計項目である。
5 平成28年司法試験の表に関する訂正
文部科学省の「平成28年司法試験最終学歴(出願時)別合格者一覧(予備合格者)」は,予備試験合格資格で平成28年司法試験に最終合格した235人について,司法試験出願時の最終学歴を集計した表である。
同表の「法科大学院(2年)76人」は,法科大学院2年在学中に予備試験へ合格した人数ではない。
同様に,「大学(2年)4人」「大学(3年)16人」「大学(4年)49人」も,各学年で予備試験へ合格した人数ではない。
同表の注1によれば,最終学歴は平成27年12月時点の司法試験受験願書に基づく情報である。
同表の注2によれば,平成28年司法試験時には,実際の学年が表示された学年より1学年進んでいる場合がある。
したがって,同表だけから,予備試験に合格した時点の学年,司法試験を受けた時点の学年,法科大学院又は大学の修了・中退の有無,あるいは司法修習開始時の学籍を確定することはできない。
第2 司法試験合格者の最年少記録
1 本記事で扱う記録の範囲
法務省の令和6年司法試験の採点結果によれば,合格者の最低年齢は17歳であった。
令和7年司法試験の合格者の最低年齢は18歳であるため,17歳という記録は更新されていない。
旧司法試験まで含む歴代の全合格者について,個人単位の年齢を連続的に検証できる公的データベースは確認できない。
そのため,本記事では,平成18年に始まった現行司法試験について,公表資料で確認できる年少記録を扱う。
2 年少記録の推移
| 司法試験 | 氏名 | 合格時の年齢等 | 確認資料 |
|---|---|---|---|
| 令和3年 | 大槻凜裁判官 | 受験時18歳3か月,大学1年 | 法務省・文部科学省統計及び本人インタビュー |
| 令和4年 | 仲西皓輝氏 | 受験時17歳11か月,高校3年 | 本人インタビュー |
| 令和6年 | 早川惺氏 | 17歳,高校2年 | 法務省統計,学校資料及び本人を扱った報道 |
大槻凜裁判官の18歳3か月は令和3年司法試験当時の年少記録であり,現在の最年少記録ではない。
仲西皓輝氏が令和4年に17歳11か月で更新し,令和6年司法試験では最低年齢が17歳となった。
第3 判事補任官の最年少記録
1 判事補の任命資格と任命
裁判所法43条により,司法修習生の修習を終えた人は判事補の任命資格を有する。
他方,同法40条1項により,下級裁判所の裁判官は,最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣が任命する。
したがって,司法修習を終えて任命資格を得たことと,実際に判事補へ任命されたこととは区別する必要がある。
2 公開資料で確認できた年少者
公開された新任判事補任命時の資格審査資料及び裁判官経歴資料で確認できる年少者は,次のとおりである。
| 順位 | 氏名・司法修習期 | 生年月日 | 判事補任官日 | 任官時年齢 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 奥田紗永裁判官(76期) | 平成13年3月30日 | 令和6年1月16日 | 22歳9か月 |
| 2 | 小林郁也裁判官(75期) | 平成12年3月15日 | 令和5年1月16日 | 22歳10か月 |
| 3 | 樋口瑠惟裁判官(69期) | 平成6年3月3日 | 平成29年1月16日 | 22歳10か月 |
公開資料で確認できる範囲では,奥田紗永裁判官の22歳9か月が判事補任官の最年少記録である。
3 司法修習77期及び78期
77期の新任判事補は,令和7年4月24日付けで任命された。
77期で最も若いことを確認できた新池谷圭輝裁判官は,平成13年11月5日生まれであり,任官時は23歳5か月であった。
78期の新任判事補は,令和8年4月23日付けで任命された。
78期で最も若いことを確認できた大槻凜裁判官は,平成15年1月29日生まれであり,任官時は23歳2か月であった。
いずれも奥田紗永裁判官の22歳9か月という記録を更新していない。
4 大学の学籍と司法修習生の身分
最高裁判所「司法修習生」によれば,司法修習生は公務員ではないが,修習専念義務を負い,兼業及び兼職が禁止される。
もっとも,大学の学生であることは,それ自体が職業又は営利業務であるわけではない。
そのため,「学部生と司法修習生を兼職する」という表現は正確でない。
また,公開資料だけでは,前記各裁判官が司法修習開始後も大学の学籍を有していたかを一律に確定できない。
個別の根拠がない限り,大学の学籍と司法修習生の身分を同時に有していたと推測して記載すべきではない。
第4 関連裁判例
1 最年少記録を直接扱う裁判例
法科大学院在学中受験資格,司法試験合格者の最年少記録又は判事補任官の最年少記録そのものを争点とする公刊裁判例は,裁判所ウェブサイトの裁判例検索では確認できなかった。
裁判所ウェブサイトにはすべての裁判例が掲載されているわけではないため,該当裁判例が存在しないとまでは断定できない。
以下の裁判例は,最年少記録を直接扱うものではなく,司法修習生の法的地位,修習専念義務又は判事補の任命資格と実際の任命との区別に関連するものである。
2 司法修習生の法的地位に関する最高裁判例
最高裁昭和42年4月28日第二小法廷判決(昭和38年(オ)第5号,退職手当金請求事件,民集21巻3号759頁)は,司法修習生は国の事務を担当する者ではなく,国家公務員等退職手当法上の国家公務員又はこれに準ずる者には当たらないとした。
同判決は,給与の支給,監督及び兼職禁止等を,人材を吸収し,修習に専念させるための配慮と位置付けた。
3 給費制廃止違憲訴訟群
給費制廃止違憲訴訟では,司法修習生が国に労務を提供する者であるか,修習専念義務及び兼職・兼業の制約をどのように評価するかが争われた。
裁判例の原文又は裁判経過を確認できた主な裁判例は,次のとおりである。
| 裁判例 | 事件番号 | 結論 |
|---|---|---|
| 東京地裁平成29年9月27日判決 | 平成25年(ワ)第20444号 | 給費請求,国家賠償請求及び損失補償請求を棄却 |
| 広島地裁平成29年9月27日判決(裁判所ウェブサイト未掲載) | 平成25年(行ウ)第32号 | 給費制が憲法上保障された制度であるとの主張等を退けた |
| 大分地裁平成29年9月29日判決 | 平成27年(ワ)第355号・第550号,平成28年(ワ)第113号 | 給費制廃止が憲法に違反するとの主張等を退けた |
| 福岡地裁平成29年10月17日判決 | 平成25年(行ウ)第73号 | 司法修習は国に対する労務提供ではないとして請求を棄却 |
| 名古屋地裁平成29年12月20日判決 | 平成25年(行ウ)第78号 | 給費制廃止及び救済措置を設けなかったことに関する請求を棄却 |
| 名古屋高裁令和元年5月30日判決 | 平成30年(行コ)第5号 | 名古屋地裁判決に対する控訴を棄却 |
同種訴訟として,熊本地裁平成30年4月16日判決,広島高裁平成30年10月10日判決,東京地裁平成30年6月15日判決,東京高裁平成31年2月6日判決,福岡高裁令和元年5月10日判決,最高裁令和元年9月6日決定,最高裁令和2年10月13日決定及び札幌高裁令和2年12月18日判決等がある。
これらには裁判所ウェブサイト未掲載の裁判例が含まれる。
いずれも最年少記録を判断した裁判例ではなく,司法修習生の地位及び給費制廃止の憲法適合性等を扱った裁判例である。
4 判事補任官拒否をめぐる裁判例
判事補の任命資格を有することと,最高裁判所の指名及び内閣の任命を受けることとは別である。
判事補任官拒否をめぐる取消訴訟には,東京地裁平成6年12月22日判決,東京高裁平成7年3月3日判決及び最高裁平成7年12月15日判決がある。
東京地裁判決は,最高裁判所が判事補候補者として指名しなかったことは,任命されるべき法律上の権利又は利益に影響を与える行政処分ではないとして,訴えを却下した。
国家賠償請求訴訟には,大阪地裁平成12年5月26日判決・判例時報1736号77頁,大阪高裁平成15年10月10日判決及び最高裁平成17年6月7日決定がある。
大阪地裁判決は,判事補候補者の指名を最高裁判所の広範な裁量に委ねられたものとしつつ,重要な事実の誤認,憲法上許容されない理由又は判断の明白な不合理があれば,裁量権の逸脱・濫用として違法となり得るとした。
前記任官拒否訴訟の各裁判例は,裁判所ウェブサイト未掲載である。
書誌及び裁判経過は,西川伸一『日本の裁判所―司法行政の歴史的研究』(晃洋書房,2018年)222頁~229頁で確認できる。
第5 関連記事及び出典
1 関連記事
① 新任判事補任命の閣議決定及び官報掲載の日付
② 司法修習生に関する記事
③ 司法修習77期の裁判官
④ 司法修習78期の裁判官
2 法令・公的資料
① e-Gov法令検索・司法試験法
② e-Gov法令検索・裁判所法
③ 法務省「在学中受験資格に関するQ&A」
④ 法務省「令和6年司法試験の採点結果」
⑤ 法務省「令和7年司法試験の採点結果」
⑥ 文部科学省「平成28年司法試験最終学歴(出願時)別合格者一覧(予備合格者)」
⑦ 文部科学省「令和6年司法試験最終学歴(出願時)別合格者一覧(予備合格者)」
⑧ 文部科学省「令和7年司法試験最終学歴(出願時)別合格者一覧(予備合格者)」
⑨ 最高裁判所「司法修習生」
3 書籍・報道等
① 慶應塾生新聞「最年少司法試験合格者・大槻凜さん」
② 弁護士JPニュース「17歳11か月で司法試験合格・仲西皓輝さん」
③ 筑波大学附属駒場中・高等学校「学校案内2025-2026」
④ MANTANWEB「17歳で司法試験に合格した早川惺氏を扱った記事」
⑤ 西川伸一『日本の裁判所―司法行政の歴史的研究』(晃洋書房,2018年)222頁~229頁