第1 この記事の対象と結論
本記事は,平成24年司法試験論文式試験・刑事系科目第2問(刑事訴訟法)を対象とし,5000字以内の答案と18項目の評価表を示す。
評価項目と重みは法務省の公式配点ではなく,出題の趣旨と採点実感から本記事が整理したものである。
設問1では,会社の場所令状による捜索の範囲と,逮捕に伴う捜索の範囲を区別する。
本答案は荷物の開封,令状によるロッカー捜索,逮捕に伴うロッカー捜索をいずれも適法と解する。
設問2では,存否不明の共謀を有利という理由だけで積極的に認定せず,その可能性を量刑で考慮する立場を採る。
共同正犯の基礎を追加する点を審判対象の画定に関わる変動と解し,訴因変更が必要であると論じるが,これらは理由を付けて選択した一構成である。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
重みは1(補助的事項),2(誤解を避ける注意),3(通常の説明),4(主要な判断過程),5(設問の中心を支える判断)という5段階である。
重みは論述量や公式得点を意味せず,採点実感が批判する答案を機械的に減点する表でもない。
複数の立場を許容する部分は,採用する立場の理由と反対説への応答を評価する。
所与の心証を変更しないという注意は番号10に含め,重複して数えていない。
評価項目は18個である。
重み5は6個,4は8個,3は3個,2は1個,1は0個で,重みの合計は73である。
番号18は縮小認定を論拠にする場合の条件付き項目であり,本答案には適用しない。
項目の統合や条件の違いがあるため,他年度の記事の項目数・合計と優劣を比較することはできない。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
甲が社長を務めるT株式会社の事務所を,10月2日の甲による覚せい剤の営利目的所持を被疑事実として捜索している間に,甲宛てと従業員乙宛ての荷物が届く。
丙から甲へのメールには,甲宛て分は甲1人で,乙宛て分は甲乙2人でさばく分と記載され,甲から乙へのメールには,荷物が届いたら2人で分ける旨の記載があった。
乙が開封を拒んだ乙宛て荷物を警察官が開けた行為が捜査①である。
荷物から覚せい剤が発見され,甲乙は現行犯逮捕された。
その後,乙の携帯電話・手帳等が入っていると考えられた隣室の乙使用ロッカーを,会社のマスターキーで解錠して捜索した行為が捜査②である。
ロッカーには財布等があったが,差し押さえるべき物は見つからなかった。
設問2は,第1事実の甲による100グラムの所持について,丙との共謀が存在したか確定できないのに,有利な犯情となることを理由として判決が共謀を付加した場面である。
弁護人Bは丙との共謀を主張しているが,裁判所が共謀の存在を確信した事案ではない。
2 設問が求めること
設問1は,捜査①の適法性と,捜査②の令状による捜索・逮捕に伴う捜索としての適法性をそれぞれ論じるものである。
管理範囲,特定の被疑事実との関連性,逮捕現場の範囲を一つの判断にまとめないことが要点である。
設問2は第1事実に係る判決内容と判決に至る手続を問う。
所与の心証を前提とし,証拠能力・証明力の再検討や罪数論へ広げない。
甲の携帯電話の差押え及びその中身の確認までの手続の適法性も,設問1で問題がないものとされている。
第4 評価項目と重み
次の出典欄の頁はPDFの物理頁である。
短い原文断片は位置の手掛かりとして掲げており,その断片だけから結論や重みを導いたものではない。
「記載なし」は対象範囲の実読結果であり,他方の資料に同じ項目が必要という推測を加えていない。
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 令状が許可したのは会社の管理する場所についての特定被疑事実に関連する記載物件の捜索であると示す。 | 3 | PDF12頁:許可した範囲内でのみ捜索できる | PDF28頁:令状裁判官が捜索差押許可状により捜査機関にいかなる捜索を許可したのか |
| 2 | 令状の有効期間と裁判官の正当理由審査の射程から,捜索実行中に搬入された荷物への効力を理由付きで論じる。 | 4 | PDF12頁:有効期間内であれば司法警察員K | PDF28頁:許可されたこととの関係 |
| 3 | 乙宛てという名義と会社の管理権を分け,送付先・従業員関係・共同密売と分配指示から荷物への会社側の管理を検討する。証拠の蓋然性だけで管理範囲を越えない。 | 5 | PDF12頁:T株式会社の管理権が及んで | PDF28頁:侵害することが許可 |
| 4 | 10月5日に到着した荷物の覚せい剤が,10月2日の甲の営利目的所持の証拠となる蓋然性を,継続的密売・共犯関係・メールと外形の符合から論じる。 | 5 | PDF13頁:常習的犯行の一環であると推測される | PDF28頁:被疑事実と対象物との関連性 |
| 5 | 乙使用のロッカーに会社の場所令状の効力が及ぶかを,会社の管理・マスターキーと乙の施錠・個人使用の独立保護の必要から論じる。 | 5 | PDF13頁:T株式会社の管理権とは別に独立して保護に値するもの | PDF28頁:その場所内に設置されている乙使用のロッカー内に及ぶか |
| 6 | ロッカー内の乙の携帯電話・手帳等が,甲の令状被疑事実に関連する証拠として存在する蓋然性を,共同密売・荷物の発見・甲の所在説明等から論じる。 | 4 | PDF13頁:乙の携帯電話と手帳等が存在する蓋然性 | PDF28頁:被疑事実と関連する乙の携帯電 |
| 7 | 刑訴法220条1項2号の無令状捜索を許す趣旨から「逮捕の現場で」の範囲を定立し,異なる立場も意識して自説を示す。 | 5 | PDF13頁:制度の趣旨に立ち返り | PDF29頁:逮捕の現場に関する問題点 |
| 8 | 更衣室が社長室に隣接し同じ会社管理下にあること,乙自身が使用するロッカーであることを評価する。会社の管理範囲と逮捕の現場の範囲の双方を満たすかを検討する。 | 4 | PDF13頁:ロッカーも乙以外の他人が使用するものではなかった | PDF29頁:逮捕の現場を超えてでも捜索できる |
| 9 | 乙の携帯電話・手帳等について,現行犯逮捕した営利目的所持の被疑事実との関連性と存在の蓋然性を具体的に論じる。 | 4 | PDF13頁:現行犯逮捕の被疑事実との関連性 | PDF29頁:逮捕事実と対象物との関連性 |
| 10 | 甲自身の所持という証明された事実と,丙との共謀の存否不明を区別し,有罪判決における犯罪の証明と利益原則の意義から認定すべき事実を論じる。設問の共謀存否不明という心証を改変しない。 | 5 | PDF14頁:「犯罪の証明」とは何をいうのか | PDF29頁:有罪判決における犯罪の証明及び |
| 11 | 有利な犯情という理由だけで,証明されていない共謀を積極的事実として認定できるかを,利益原則の方向と共謀が常に有利ではないことも踏まえて論じる。 | 4 | PDF14頁:共謀の事実を存在するものとして認定してよいのか | PDF29頁:証拠上存否いずれとも確定できない事 |
| 12 | 単独正犯と共同正犯の構成要件上の関係,刑法60条の追加,共謀が罪となるべき事実として厳格な証明を要することを踏まえる。 | 4 | PDF14頁:処罰する際に適用すべき法条として刑法第60条 | PDF29頁:罪となるべき事実でない,情状にすぎない |
| 13 | 共謀認定・単独又は共謀の択一認定・訴因どおりの認定という立場を視野に,自説と異なる立場へ応答して本件判決の内容の適否を論じる。 | 3 | PDF13頁:「単独又は共謀の上」と択一的に認定すべき | PDF29頁:各自の考えを明らかにし |
| 14 | 共謀を罪となるべき事実に加えずとも,丙の支配下にあった可能性を甲に有利な量刑事情として考慮できるかを説明する。 | 3 | PDF14頁:甲に有利な情状として考慮することは許されないのか | PDF29頁:利益原則の意義などに発展させて論述 |
| 15 | 審判対象の画定に必要な事項の変動と,防御上重要な事項の変動を区別して訴因変更の要否を定立する。画定事項の変動を防御利益だけで例外扱いしない。 | 5 | PDF14頁:審判対象を画定するのに必要な事項が変動する場合 | PDF29頁:被告人の防御に不利益か否かにかかわらず訴因変更を要する |
| 16 | 平成13年決定の事案は検察官が訴因に明示した事項の変更であるのに,本件第1事実には丙との共謀が記載されていないという射程上の差を検討する。 | 4 | PDF14頁:事案と様々な点で異なるものであること | PDF29頁:本事例との間に極めて大きな違いがあ |
| 17 | 同一の所持日時・場所・分量・行為であることと共同正犯への法的構成の変化,B自身の主張と有利性を評価し,具体的に変更要否を論じる。 | 4 | PDF14頁:弁護人が第1回公判期日の罪状認否で主張した事実と同一 | PDF30頁:本件での具体的な当てはめ |
| 18 | 縮小認定を根拠とする場合,共同正犯から単独犯への認定と,その逆方向を区別し,単独犯から共同正犯を当然に縮小認定できるとしない。[条件:縮小認定を論拠とする答案] | 2 | 記載なし(本件範囲を実読) | PDF29頁:単独犯の縮小認定により共同正犯と認める |
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
平成24年の出題として検討し,現行法の新設規定を答案へ取り込んでいない。
本稿で使用した条文内容と参照判例の必要判示の確認範囲は,第7に示す。
答案の訴因変更必要説は公式資料が唯一解として指定したものではない。
2 答案
第1 設問1
1 捜査①
(1) 乙宛ての荷物を意思に反して開封する行為は捜索であり,令状により許可された範囲でなければ行えない(憲法35条,刑訴法218条1項)。
本件令状は,有効期間内に,T株式会社の管理する事務所を捜索し,10月2日の甲による覚せい剤の営利目的所持という被疑事実に関連する記載物件を発見することを許したものである。
そこで,搬入時期,管理の範囲,被疑事実と対象物との関連性を分けて検討する。
(2) 場所の捜索を許す裁判官は,通常その場所にあり,その管理権に属する容器等も場所と一体として捜索する正当な理由を審査している。
令状の有効期間内には捜索を開始でき,発付後,着手前に持ち込まれた物も当然に除外されない。
荷物の到着直後に捜索を開始すれば対象となるのに,着手が先行しただけで対象から外れるとする合理的理由もない。
したがって,捜索継続中に搬入されたという一事で令状の効力が否定されるものではない。
(3) もっとも,場所令状により,会社の管理から独立した第三者の物まで当然に捜索できるわけではない。
乙宛てで,乙に交付され足下に置かれたことは,乙の独立管理を示す方向の事情である。
しかし,送付先は会社事務所であり,乙はそこで働く従業員である。
令状発付前から従業員が勤務していることは判明しており,会社備品だけしか存在しない場所を裁判官が予定したとはいえない。
また,代表者甲への丙のメールでは乙宛ての荷物は甲乙二人で売りさばく分とされ,甲も乙に到着後二人で分ける旨指示していた。
甲乙が顔を見合わせて受領について話したことも併せれば,甲は会社事務所で乙宛て荷物の中身を管理・分配する地位にある。
宛名だけで会社側の管理から離れたとはいえず,本件では会社の場所令状の効力が及ぶ。
(4) さらに,単に新たな覚せい剤が入っていそうだというだけでは,2日の甲の所持を被疑事実とする令状による捜索は正当化されない。
甲は社長室で覚せい剤の購入を勧め,検挙歴のある者らも事務所に出入りしており,2日の営利所持も継続的密売の一環とうかがわれる。
メールは甲乙の共同密売を示し,乙が2日の被疑事実にも関与していた可能性がある。
そのメールと符合する日時に二つの荷物が届き,伝票の筆跡が酷似し,外箱も同じで,表示された差出地番は実在せず,電話も使用されていない。
両名の受領時の会話と開封拒否,既発見の電子秤・多数の袋等も考慮すれば,乙宛て荷物には,従前からの密売方法・関係者や2日の営利目的を明らかにする覚せい剤等が存在する蓋然性がある。
会社の管理範囲内で,関連物件を確認するための開封の必要性・相当性も認められる。
よって捜査①は適法である。
開封後の試薬検査への承諾を,事前の開封への同意として用いるものではない。
2 捜査②の令状による捜索としての適法性
(1) 令状は会社事務所を対象とするから,その内部の更衣室にも及ぶ。
ただし,乙の私的使用が会社管理とは別に独立して保護されるかを検討する必要がある。
乙と表示されていること,施錠,開示拒否は独立した私的管理を示す。
しかし,甲は更衣室もロッカーも社長として管理していると述べ,社長室にマスターキーも保管していた。
会社が従業員に使用させる備品としての管理が残ると認められ,内容物が乙の所有であることはロッカー自体の会社管理と両立する。
会社内に従業員とその使用する備品があることも通常予定される。
したがって,本件では独立した専有場所として令状の範囲から除外すべきものではない。
(2) 携帯電話・手帳等は令状記載物件であり,前記の共同密売を示す事情に加え,現に乙宛て荷物から覚せい剤が発見されている。
乙の連絡先・取引記録等は,2日の甲の営利所持の目的や取引関係を示す証拠となり得る。
甲の所在説明,収納可能なロッカーの形状,乙の開示拒否を併せれば,関連物件の存在する蓋然性がある。
乙の物だから捜索できないとも,証拠がありそうだから会社の管理範囲外まで捜索できるともいえない。
乙が解錠を拒否したため,捜索を実効化する解錠は必要な処分に当たり,破壊せずマスターキーを用いる方法も相当である(222条1項,111条1項)。
捜索対象の携帯電話・手帳等が発見されなかったという事後の結果は,この判断を左右しない。
よって令状による捜索として適法である。
3 捜査②の逮捕に伴う捜索としての適法性
(1) 220条1項2号・3項が逮捕の現場で無令状捜索を許すのは,その場所に逮捕被疑事実に関連する証拠が存在する蓋然性があり,逮捕に伴いこれを確保する合理性があるからである。
この趣旨から,現場は身体を拘束した一点に限られず,合理的に同一の場所とみられる範囲を含むと解する。
身体拘束の場所そのものに限定する立場も考えられるが,同じ管理下の隣室であることや捜索対象との関係を考慮すべきである。
本件更衣室は社長室と同じ会社事務所内の隣室で,双方に会社の管理が及ぶ。
ロッカーも逮捕された乙自身の使用するもので,別人の独立した場所ではない。
会社管理の範囲内にあり,かつ逮捕の現場と合理的に一体と認められる。
会社管理が及ぶだけで現場外まで捜索できるということではない。
(2) 捜索対象の乙の携帯電話・手帳等は,現行犯逮捕した5日の営利目的所持について,その目的,取引相手や共同関係を示す証拠となり得る。
甲の所在説明等からロッカー内にある蓋然性も認められる。
「密売の全容」の解明目的だけで逮捕事実と無関係な一般的探索を許すものではない。
逮捕から25分経過しているが,その間は所在確認,開示・解錠の要請等が続き,隣室へ移動して捜索した一連の手続である。
逮捕と切り離した後日の捜索ではない。
前記の解錠の必要性・方法の相当性も認められるから,このルートによっても捜査②は適法である。
第2 設問2
1 判決の内容
(1) 有罪判決の罪となるべき事実は証拠によって認定しなければならず(317条,335条1項),合理的疑いが残る不利益な犯罪事実を認定してはならない(336条参照)。
共謀も共同正犯として処罰するための罪となるべき事実であり,厳格な証明を要する。
単なる量刑上の事情ではない。
甲自身による営利目的の100グラムの所持は認められるが,丙との共謀の存否は確定できない。
この心証を前提として判断し,証拠を再評価して共謀の存在を確定し直してはならない。
(2) 有利な共謀を認定すべきだとの考えもある。
しかし,利益原則は,合理的疑いが残る事実を甲に不利益に認定しないためのものであり,有利という理由だけで未証明の積極的事実を確定する原則ではない。
共謀が有利かは事案の犯情によって変わる。
同じ証明状態でも量刑上の評価次第で共謀の存否を変えることは相当でない。
「単独又は共謀の上」との択一認定も考えられるが,本件では甲自身が所持した犯罪成立事実が証明されている。
丙との共謀の存否を新たに記載しなくても,証明された甲の所持を認定できる。
共謀が存在しなかったとまで断定する必要もない。
したがって,本解答は訴因に記載された甲自身の所持事実を認定し,共謀の肯定を加えない立場を採る。
(3) 他方,量刑では,丙の支配下で従属的に行動した可能性を排除できないことを甲に有利に考慮できる。
共謀を罪となるべき事実に認定しなければ,有利な情状を考慮できないわけではない。
よって,甲の有罪判断は可能であるが,共謀を積極的に断定した本件判決内容は適切でない。
2 判決に至る手続
(1) 訴因は構成要件に該当する具体的事実を示して審判対象を画定し,防御対象を告知する(256条3項)。
画定に必要な事項が変動すれば,現実の防御上の不利益にかかわらず訴因変更を要する。
他方,画定に必要ではないが防御上重要で,検察官が訴因に明示した事項を実質的に変える場合も原則として変更を要するが,審理経過上不意打ちがなく,認定事実がより不利益でなければ例外が認められる。
(2) 本件第1事実では,訴因に丙との共謀は一切記載されていない。
検察官が明示した実行行為者と異なる実行行為者を認定した判例の事案と同視して,その例外を直ちに当てはめることはできない。
単独正犯は自らの構成要件実現について責任を負うのに対し,共同正犯は共謀による共同実現を基礎に刑法60条を介して正犯責任を負う修正形式である。
本件では所持の日時・場所・分量と甲の実行行為は共通するものの,丙との共謀という構成要件的基礎を新たに付加し,適用法条にも同条を加える。
自然的な所持行為の識別が同じことだけで,その変更を単なる情状の付加とすることはできない。
本解答は,正犯としての関与形態を画定するこの変更には訴因変更を要すると解する。
(3) Bが当初から共謀の認定を求め,共謀がある方が犯情も軽いことは,不意打ち・不利益を否定する重要な事情である。
しかし,画定事項の変更を必要とする以上,その事情だけで変更を省略できない。
Bの意見は検察官による訴因変更でもない。
仮に共謀を認定するのであれば,検察官の訴因変更請求等,312条所定の手続を経るべきである。
これを経なかった点も適法とはいえない。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案第1・1は番号1~4,第1・2は番号5・6,第1・3は番号7~9に対応する。
答案第2・1は番号10~14,第2・2は番号15~17に対応し,次の表には重み5・4の項目と条件付きの番号18の該当箇所を掲げる。
番号18の縮小認定は採用せず,番号10には所与の心証を変更しない注意も含めている。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 2 | 4 | 令状の有効期間と裁判官の正当理由審査の射程から,捜索実行中に搬入された荷物への効力を理由付きで論じる。 | 答案第1・1(2) |
| 3 | 5 | 乙宛てという名義と会社の管理権を分け,送付先・従業員関係・共同密売と分配指示から荷物への会社側の管理を検討する。証拠の蓋然性だけで管理範囲を越えない。 | 答案第1・1(3) |
| 4 | 5 | 10月5日に到着した荷物の覚せい剤が,10月2日の甲の営利目的所持の証拠となる蓋然性を,継続的密売・共犯関係・メールと外形の符合から論じる。 | 答案第1・1(4) |
| 5 | 5 | 乙使用のロッカーに会社の場所令状の効力が及ぶかを,会社の管理・マスターキーと乙の施錠・個人使用の独立保護の必要から論じる。 | 答案第1・2(1) |
| 6 | 4 | ロッカー内の乙の携帯電話・手帳等が,甲の令状被疑事実に関連する証拠として存在する蓋然性を,共同密売・荷物の発見・甲の所在説明等から論じる。 | 答案第1・2(2) |
| 7 | 5 | 刑訴法220条1項2号の無令状捜索を許す趣旨から「逮捕の現場で」の範囲を定立し,異なる立場も意識して自説を示す。 | 答案第1・3(1) |
| 8 | 4 | 更衣室が社長室に隣接し同じ会社管理下にあること,乙自身が使用するロッカーであることを評価する。会社の管理範囲と逮捕の現場の範囲の双方を満たすかを検討する。 | 答案第1・3(1) |
| 9 | 4 | 乙の携帯電話・手帳等について,現行犯逮捕した営利目的所持の被疑事実との関連性と存在の蓋然性を具体的に論じる。 | 答案第1・3(2) |
| 10 | 5 | 甲自身の所持という証明された事実と,丙との共謀の存否不明を区別し,有罪判決における犯罪の証明と利益原則の意義から認定すべき事実を論じる。設問の共謀存否不明という心証を改変しない。 | 答案第2・1(1) |
| 11 | 4 | 有利な犯情という理由だけで,証明されていない共謀を積極的事実として認定できるかを,利益原則の方向と共謀が常に有利ではないことも踏まえて論じる。 | 答案第2・1(2) |
| 12 | 4 | 単独正犯と共同正犯の構成要件上の関係,刑法60条の追加,共謀が罪となるべき事実として厳格な証明を要することを踏まえる。 | 答案第2・1(1)及び第2・2(2) |
| 15 | 5 | 審判対象の画定に必要な事項の変動と,防御上重要な事項の変動を区別して訴因変更の要否を定立する。画定事項の変動を防御利益だけで例外扱いしない。 | 答案第2・2(1) |
| 16 | 4 | 平成13年決定の事案は検察官が訴因に明示した事項の変更であるのに,本件第1事実には丙との共謀が記載されていないという射程上の差を検討する。 | 答案第2・2(2) |
| 17 | 4 | 同一の所持日時・場所・分量・行為であることと共同正犯への法的構成の変化,B自身の主張と有利性を評価し,具体的に変更要否を論じる。 | 答案第2・2(2)(3) |
| 18 | 2 | 縮小認定を根拠とする場合,共同正犯から単独犯への認定と,その逆方向を区別し,単独犯から共同正犯を当然に縮小認定できるとしない。 | 非採用。縮小認定を根拠としないため適用対象外。 |
(2) 令状の範囲と被疑事実との関連性
番号2・3・4は別々の関門である。
捜索中の搬入という時間の問題を解決しても,従業員の私物が当然に会社の管理下に入るわけではない。
また,荷物に新たな覚せい剤が入っている可能性だけでは,2日の所持を被疑事実とする令状の範囲を説明できない。
本答案は,会社への送付と従業員関係に加え,甲が乙宛て分を共同販売・分配する具体的地位を取り上げ,会社側の管理へ接続した。
さらに継続的密売,メール,外箱等の符合を,2日の営利目的や取引関係を示す証拠の蓋然性へ結び付けている。
会社を捜索する令状であることから,社長甲の個人的管理と会社管理を無条件に同一視しない点が重要である。
搬入荷物に関する最高裁平成19年2月8日決定は,被疑者方居室の捜索中に被疑者宛てに配達され本人が受領した荷物の事案であり,本問の会社管理を直接判断したものではない。
ロッカーも,会社の備品であることだけで結論を出さない。
乙の表示・施錠・私的使用という反対事情と,会社による管理及びマスターキーの保管を比較する必要がある。
甲の所在説明は実際に対象物を見たという確定事実ではなく,存在の蓋然性を支える一事情である。
(3) 逮捕の現場と二つの管理範囲
番号7~9では,無令状捜索を許す趣旨から現場の範囲を説明した上で,同じ会社管理下の隣室であること,逮捕された乙自身のロッカーであることを評価する。
会社が管理する場所の全域が当然に逮捕現場になるわけではなく,乙が管理する物であれば場所を問わないわけでもない。
答案の25分に関する説明は捜索経過の連続性を補うものであり,公式資料が独立の必須項目として指定したと扱うものではない。
(4) 共謀の認定と量刑を分ける
出題の趣旨は,有利な共謀を認定する構成,単独又は共謀と択一的に認定する構成,訴因に沿う所持を認定する構成を視野に入れている。
本答案は最後の立場を採るが,共謀の不存在まで証明されたとは述べていない。
甲自身による所持の証明と,共謀の存否不明という二つの命題を両立させている。
共謀は共同正犯の罪となるべき事実に関わり,単なる情状と片付けることはできない。
一方,量刑上は丙の支配下にあった可能性を甲に有利に扱う余地がある。
番号10~14では,犯罪事実の認定と犯情評価の違い,利益原則をどちらの方向に働かせるかが理由付きで説明されることを評価する。
(5) 訴因変更の二段階と判例の射程
番号15の第1段階は審判対象の画定に必要な事項の変動である。
ここを肯定するなら,不意打ちがないという理由だけで変更を不要にできない。
第2段階の防御上重要な事項に関する例外を,第1段階へ先回りして使わないことが要点である。
公式資料が参照する平成13年の決定は,検察官が訴因に明示した実行行為者と異なる実行行為者を認定した事案である。
本件第1事実の訴因には丙との共謀が記載されていないため,判例の例外をそのまま移す前に,この相違を検討する必要がある。
本答案は,甲自身の所持行為の日時等が同じことと,刑法60条を介した共同正犯の構成を追加することを比較し,後者を画定事項に関わるものと評価した。
B自身の主張と有利性は検討しているが,その結論を当然に決める事情とはしていない。
(6) 残る弱点と扱わなかった事項
本答案の管理範囲・逮捕現場・訴因変更に関する当てはめには,別の結論に向かう余地がある。
特に同一の所持行為に共謀を付加することを画定事項の変動と捉える点は,独自の法的評価であり,反対説からは事件の識別が変わらないという批判が考えられる。
採用説の名称だけでなく,その対立点に応答できるかを確認されたい。
証拠能力,証明力,罪数,令状発付自体の違法を広く論じる答案は示していない。
参照判例の原文と当時法令版に残る確認限界は,下記のとおりである。
第6 関連記事
1 同年度の関連記事
同年度の刑事系科目の問題は,第7の1に掲げた法務省の問題PDFで確認できる。
同PDFには,本問の前に刑事系科目第1問(刑法)も収録されている。
2 他年度の同科目の記事
3 本問の模範解答と関連する記事
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
法務省・平成24年司法試験論文式試験問題(刑事系科目)
本問はPDF6頁~10頁を抽出本文で確認した。
10頁は頁番号のみであり,事実と設問は6頁~9頁である。
法務省・平成24年司法試験論文式試験問題出題趣旨
本件はPDF11頁の第2問見出しから14頁の選択科目見出し直前までを全文実読した。
法務省・平成24年司法試験の採点実感等に関する意見
本件はPDF27頁の刑事系第2問見出しから31頁末尾までを全文実読した。
資料全体の別科目の本文を本問の根拠として利用していない。
2 法令・裁判例
e-Gov法令検索・刑事訴訟法
平成28年12月1日版と,国立国会図書館の法令沿革及び関係改正法を照合した。
111条1項の錠を外すなどの必要な処分,222条1項の準用,218条1項の令状による捜索,220条1項2号・3項の逮捕現場の捜索,256条3項,312条,317条,335条1項及び336条について,本稿で用いた規定内容を確認している。
記録命令付差押え等の追加規定や,後年の合意違反に関する特則を本問へ取り込んでいない。
この確認は使用部分に限り,平成24年当時の刑事訴訟法の全条文を取得・再構成したものではない。
令和8年10月20日施行の現行版では,218条1項の令状による処分から記録命令付差押えがなくなり,電磁的記録提供命令が加わるなどの改正があるが,本稿で用いた各規定の該当部分は維持されている。
最高裁判所第一小法廷平成19年2月8日決定(平成18年(あ)第1733号,刑集61巻1号1頁)
原文1頁全文を確認した。
搬入荷物の時間的な問題に関する判示と,本問の会社・従業員という管理主体の相違を区別している。
最高裁判所第三小法廷平成13年4月11日決定(平成11年(あ)第423号,刑集55巻3号127頁)
必要な認定経過・規範・適用がある1頁~3頁を確認した。
共謀が既に訴因に記載された事件の実行行為者の変更に関する決定であり,本問の共謀追加の要否を直接決めたものではない。
最高裁判所大法廷昭和33年5月28日判決(昭和29年(あ)第1056号,刑集12巻8号1718頁)
全10頁のうち1頁の多数意見冒頭を確認した。
共謀が罪となるべき事実であり厳格な証明を要するとの判示を用い,有利な共謀の存否不明や訴因変更について直接判断した判例とはしていない。
3 確認状態
問題文の事実と公式資料の検討要求は資料の記載であり,18項目への整理,重み,具体的結論及び答案構成は本記事の判断である。
公式の個別配点は不明であり,重みや項目数から本試験の得点・合格可能性を算出することはできない。
確認日:令和8年11月3日。