第1 クラウド側の被害と手元のPC
リモートデスクトップは,手元のPCから離れた場所のデスクトップ環境を利用する仕組みである。
クラウド側の環境に不正アクセスがあった場合でも,手元のPCの全ファイルが当然に取得されるわけではない。
他方,接続時に手元のドライブを共有する設定であれば,リモート側から利用できる情報が生じるため,クラウド上の出来事だから手元の情報には影響しないともいえない。
本記事は,令和8年11月2日のGMOの会見と,公式ガイド・Microsoftの技術文書を基に,RDPのドライブ共有を説明するものである。
個々の利用者の事故当時の設定や,流出したファイルの範囲を独立して認定するものではない。
第2 RDPのドライブ共有とは
1 手元のドライブをリモート側で利用する機能
RDPには,接続元のPCのドライブを,リモートセッションで利用するための転送機能がある。
Microsoftの技術文書は,ローカルのハードドライブ等について,主なデータの流れの方向を双方向と分類している。
出典:RDPのリダイレクト機能に関するMicrosoftの説明。
これは,手元のPCの画面を単に表示するという説明だけでは捉えられない接続上の機能である。
どのドライブが利用できるかは有効な設定等によるため,共有機能の存在だけで全ドライブへのアクセスや個別ファイルの持出しを認定することはできない。
2 既定値を製品間で一律に扱わない
Microsoftの文書では,Windowsの設定とAzure Virtual Desktop等のサービス側の設定を区別し,複数の設定がある場合の関係や製品ごとの既定値を説明している。
RDPを使う環境はすべて共有が有効である,又はすべて無効であると一般化すべきではない。
出典:ドライブの転送設定に関するMicrosoftの説明。
設定を確認するときは,利用している製品と接続方法を特定し,その環境の手順に従う必要がある。
現在の製品の既定値から,事故当時の別のサービスの設定を推定しないことも重要である。
第3 お名前.comの公式案内と会見の説明
1 配布されるRDPファイルについての案内
お名前.com デスクトップクラウドの公式活用ガイドは,コントロールパネルからダウンロードするRDPファイルについて,手元のPCとサーバーとのファイル共有をあらかじめ設定していると案内している。
出典:公式活用ガイドのファイル共有に関する説明。
もっとも,この案内には公開日・更新日の表示が見当たらず,現行の案内だけから,事故当時の各プランや各利用者の設定まで確認することはできない。
実際の影響を調べるには,事故当時に配布されたファイルと,サーバー側・接続元側の設定等を照合する必要がある。
2 PC内のファイルに関する会見の回答
令和8年11月2日の会見では,同社が当初,利用者の利便性を考えてドライブ共有の設定をオンにしていたこと,犯人がこの機能を悪用して接続元のPCのファイルを窃取した可能性があることが説明された。
質疑では,利用者の手元のPCのファイルが窃取されたことは確認しているが,全ての端末を確認したわけではなく,被害範囲は調査中であるとの回答があった。
出典:会見の該当する質疑。
会社が一部について確認したとの説明と,個々の利用者について何が確認されたかは分ける必要がある。
どのファイルが,どの接続と設定を通じて,いつ取得されたかを示す記録が重要となる。
第4 感染・アクセス可能性・流出を分ける
1 マルウェアの痕跡がないという調査結果
会社の第14報は,令和8年10月28日18時20分時点で,預かった利用者のPCの解析について,マルウェアやランサムウェアの痕跡が確認されていないと説明している。
11月2日の会見でのファイル窃取の確認とは,説明の時点が異なる。
これは,調べた対象についての調査結果である。
未調査の端末も含めて全利用者の安全を確認したという意味ではない。
出典:第14報。
また,共有機能を通じたファイルの持出しと,手元のPCへのマルウェアの設置は異なる事象である。
一方の痕跡が確認されないことだけで,他方もなかったと結論付けることはできない。
2 共有していることと実際に取得されたこと
設定上アクセス可能であったことは,影響の可能性を検討するための重要な事情である。
ただし,設定上の可能性だけでは,個別の情報が実際に閲覧・取得されたことを証明したことにはならない。
設定,接続・操作の記録及び取得されたとされる情報の内容を分けて整理する必要がある。
第5 利用者・管理者が確認したい事項
1 接続時の設定と扱っていた情報
利用者と管理者は,利用した接続用ファイル,共有対象のドライブ,接続した日時,及びそのドライブに保存していた情報を確認することが考えられる。
現在の設定だけで事故当時も同じだったとせず,設定の変更履歴が残っているかも確認したい。
設定変更や端末の初期化を検討する場合には,会社・調査担当者の案内を確認し,調査に必要な記録の保存と被害拡大防止を両立させることが重要である。
2 共有を続ける必要性
通常の運用では,共有を必要とする作業,対象のドライブ及び接続先を整理し,不要な共有を見直すことが考えられる。
一つの設定を変更すれば安全が保証されるわけではなく,認証,権限及び接続先の管理も併せて検討する必要がある。
製品や契約によって管理者側で制御する項目も異なるため,本記事を個別環境の設定変更手順として用いることは想定していない。
FX取引の被害や会社の補償については,お名前.comのFX損失と補償に関する記事で,技術的な可能性と個別の因果関係を分けて整理している。
第6 出典
Microsoft LearnのRDPのリダイレクト機能及びドライブの転送設定。
お名前.com デスクトップクラウドの公式活用ガイド。
GMOインターネット株式会社の第14報。
ABEMAニュース【公式】による令和8年11月2日の会見映像。