第1 二段階開示は提出期限の一律延長ではない
サステナビリティ情報の二段階開示は,SSBJ基準に従った有価証券報告書の開示を始める際に,一定の情報を後から訂正報告書で提出できる経過措置である。
有価証券報告書そのものの提出期限を,全ての会社について延長する制度と理解してはならない。
最初の有価証券報告書の提出,後続情報の作成・承認,訂正報告書の提出を,一つの開示工程として設計する必要がある。
この記事は,2026年11月3日時点の金融庁公表資料,改正府令附則及び2026年3月19日更新のパブリックコメント回答を踏まえ,二段階開示と他の経過措置の違いを整理する。
第2 誰が,いつ利用できるか
1 SSBJ基準の法定適用を確認する
2026年2月の改正開示府令は,プライム市場の上場会社のうち,所定の平均時価総額が1兆円以上の会社について,SSBJ基準に従った開示を求める枠組みを整えた。
平均時価総額は,原則として,有価証券報告書等の対象事業年度の前事業年度の末日及びその前4事業年度の各末日における時価総額の平均で判定する。
対象事業年度の末日は含まないので,例えば2027年3月期の判定には,2022年3月期から2026年3月期までの各末日の時価総額を用いる。
上場後の期間が5年未満の会社等については,改正府令に定める計算条件も確認する。
2026年3月31日以後に終了する事業年度の末日を算定上の最後の基準日として求めた平均時価総額が3兆円以上である第一次適用会社は,2027年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用される。
それ以外の1兆円以上の対象会社は,2028年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用される。
ここでいう年度は,報告書を提出する暦年だけで判断するものではない。
2 二段階開示を利用できる期間
改正府令附則は,SSBJ基準による開示を開始する事業年度と,その翌事業年度について,二段階開示を利用できる取扱いを定めている。
したがって,開始年度だけでなく翌年度の開示工程についても,利用の可否と利用する範囲を検討することになる。
この経過措置は,開示府令第19条の9第1項による義務適用だけでなく,同条第2項に基づき有価証券届出書等のサステナビリティ関連記載事項を任意にSSBJ基準に従って記載する場合にも,適用初年度及び翌事業年度について利用できる。
任意のサステナビリティ報告書を公表することとは区別する。
これは,どの年度でも自由に情報を後回しにできる一般制度ではない。
自社の適用開始年度と附則上の条件を固定したうえで,その年度に認められる扱いを確認する。
第3 最初の有価証券報告書と後の訂正報告書
1 初回提出を空欄で済ませる制度ではない
二段階開示の対象は,SSBJ基準に従って記載すべきサステナビリティ関連記載事項である。
初回の有価証券報告書には,二段階開示を利用する旨と,翌事業年度の半期報告書の提出期限までに当該事項を記載した訂正報告書を提出する旨を記載する。
義務適用・任意適用の別や,SSBJ基準上の経過措置を使う場合の根拠規定・内容等も,改正様式に従って記載する。
初年度に気候関連情報だけを開示する経過措置を使う場合,従来開示していた気候以外の情報は,記載上の注意(30)bを踏まえて初回に記載することが考えられる。
翌年度には当該情報もSSBJ基準の対象となり,二段階目へ回すことができる。
一方,気候に限定する措置を使わない場合は,SSBJ基準による情報の全てを二段階目に回すことができ,初回に従来ベースのサステナビリティ情報を必ず記載するとはされていない。
ただし,有価証券報告書に,(30)a⒞の記載としてどの情報について二段階開示を行うのかを記載し,実際にその情報を訂正報告書に記載することが前提である(No.73)。
また,人的資本について記載上の注意(30)cが求めるガバナンス・リスク管理,人材育成方針・社内環境整備方針,その指標・目標・実績は別に確認する。
初回の有価証券報告書にSSBJ基準に従った同様の記載をしていなければ,(30)cのただし書による省略はできない。
準拠表明は,SSBJ基準の全ての定めに準拠している場合にしか行えない。
初回の有価証券報告書でSSBJ基準による事項の全部を記載しない場合,初回提出時には準拠表明をせず,全ての事項がそろう訂正報告書で行うことになると考えられる。
この整理の根拠は,改正府令の第二号様式記載上の注意(30)及び金融庁のパブリックコメント回答No.73~75(準拠表明はNo.74)である。
2 後続の提出期限
後続のサステナビリティ情報は,翌半期報告書の提出期限までに,訂正報告書により開示する仕組みである。
具体的な提出期限日は,自社の事業年度と半期報告書の提出期限から確定する必要がある。
例えば,3月決算の会社の作業予定を作る場合も,「年内に出せばよい」といった暦年の区切りで管理しない。
初回提出日,後続情報の承認予定日,訂正報告書の提出期限日を,実際の日付で記録することが有用である。
これは期限管理のための本記事の提案である。
第4 三つの経過措置を区別する
1 二段階開示
二段階開示は,府令附則が認める提出の時期・方法に関する経過措置である。
初回提出と後続の訂正報告書の関係を扱う。
2 初年度の気候関連情報に限定する経過措置
SSBJ基準には,初年度について気候関連のリスク及び機会に関する情報だけを開示できる経過措置がある。
これは,開示する内容の範囲に関するSSBJ基準上の措置であり,府令上の二段階開示とは根拠と役割が異なる。
初年度にどちらを利用したかだけを記録するのではなく,二段階開示とSSBJ基準の各経過措置をそれぞれ選択したかを記録する必要がある。
3 スコープ3の初年度の開示省略
SSBJ基準上のスコープ3に関する初年度の経過措置も,二段階開示とは区別する。
初年度にスコープ3の開示を省略できることと,翌年度以降も同じ情報を省略できることは別問題である。
金融庁は,2026年3月19日に更新したパブリックコメント回答No.73及びNo.74で,二段階開示とSSBJ基準上の経過措置を組み合わせる場合等の考え方を示している。
初年度と翌年度で扱いが変わり得るため,旧版の回答だけで作業手順を固定しない。
第5 公表承認日と後発事象の管理
後から情報を完成させる場合,数値の集計だけでなく,サステナビリティ関連財務開示の公表承認日,承認までに生じた事象,準拠表明及び参照する情報との関係も検討する必要がある。
金融庁の回答No.74は,公表承認日,後発事象,準拠表明及び相互参照の扱いを示している。
実務上は,初回提出後に起きた事象を一括して無視したり,反対に全てを当年度の測定値へ織り込んだりせず,SSBJ基準と最新の回答に沿って個別に判断する。
本記事は,特定の事象が修正を要する後発事象に当たるかまでは判断しない。
訂正報告書には,先の有価証券報告書に記載した事項も含めてSSBJ基準の必要事項を全て記載する方法と,先の報告書の具体的な記載箇所を明示する相互参照の方法が考えられる。
後者は,先の報告書にSSBJ基準に従って記載した当該事項に後発事象が生じていない場合に用いることができると考えられる(No.74)。
訂正報告書の公表承認日までに後発事象が生じた場合には,SSBJ基準に従い,記載内容の更新,又は発生した事象及び状況の情報開示を行う。
第6 社内工程の作り方
以下は,本記事の運用上の提案である。
まず,適用開始年度と利用する経過措置を,法務・経理・サステナビリティ担当で合意する。
次に,開示項目ごとに,初回提出に入れる情報,後続提出で完成させる情報,根拠資料,責任者及び承認予定日を整理する。
そのうえで,初回提出後も更新すべき事象の収集窓口を設け,訂正報告書の本文,参照する初回報告書の記載及び準拠表明の関係を確認する。
提出期限の直前に初めて原稿全体をつなぐことを避けるため,後続情報の社内締切りを法定期限より前に置くことが有用である。
二段階開示の利用は,内部の確認手続を不要にするものではない。
開示の時点が二つになることを踏まえ,それぞれの版と承認の経過を追える状態にする必要がある。
第7 よくある質問
1 任意開示をしている会社も当然に使えるか
任意のサステナビリティ報告書を公表していることだけで,府令附則の二段階開示の対象になるとは判断しない。
有価証券報告書の法定適用と附則上の対象条件を確認する。
2 二段階開示の訂正は,全て誤記の訂正なのか
この経過措置は,当初から認められた時期・方法により,後続情報を訂正報告書で開示するためのものである。
訂正報告書という名称だけから,元の開示に必ず虚偽があったと読み替えることはできない。
一方,実際の誤記や欠落が判明した場合の対応は,この経過措置の利用とは別に検討する。
3 5,000億円以上の会社にも直ちに同じ義務があるか
2026年2月の改正府令でSSBJ基準の適用が義務付けられるのは,平均時価総額1兆円以上の会社である。
時価総額1兆円未満5,000億円以上の会社については,金融庁が回答No.3で,金融審議会のワーキング・グループ報告に従い2029年3月期から適用が義務付けられることとされていると説明しているが,個別会社の開始年度は,その後の府令改正を確認して判断する。
第8 関連記事と出典
対象企業とSSBJ基準の全体像は,SSBJ基準の記事を参照されたい。
本記事の主な根拠は,金融庁の2026年2月20日公表資料,改正府令附則第2条,パブリックコメント回答No.73~76(73・74は3月19日更新)である。
SSBJの各基準と改訂状況は,SSBJの基準掲載ページで確認できる。