第1 この記事の対象と結論
平成29年司法試験の民事系第2問(商法)を対象に,法務省の出題の趣旨と採点実感を照合した模範解答を示します。
設立時の費用・財産引受と,株式併合による少数株主の締出しを,権限,手続,法的効果及び救済まで結び付けて検討する問題です。
評価項目と重みは本記事独自の整理であり,法務省の採点基準や公式配点ではありません。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 平成29年司法試験・民事系第2問(商法),全設問 |
| 公式問題文 | 法務省の問題PDFのPDF7〜10頁 |
| 答案の基準時 | 試験実施日は平成29年5月18日。設問1は平成23年,設問2・3は平成28年の各行為時を区別し,使用条項との実質差分を確認する。 |
| 出題の趣旨 | 実読済み。公式PDF8頁の第2問開始から11頁の第3問開始直前まで。 |
| 採点実感 | 実読済み。民事系科目の公式PDF9〜15頁(商法部分の印刷頁1〜7)。 |
| 主な事項 | 設立費用の債務帰属,無効な財産引受への対応,株式併合決議の瑕疵,端数処理と買取請求 |
| 項目数と重み | N=40,重み5は12項目,重み合計W=159。条件付きの分岐を同一答案に累積要求しない。 |
| 主な裁判例 | 財産引受に関する最高裁昭和28年12月3日・昭和42年9月26日判決,代理人資格制限に関する最高裁昭和43年11月1日判決等。確認範囲は第7参照。 |
| 答案分量 | 改行をLFに統一した答案本文は4433字。全設問合計5000字以内。 |
| 試験後の改正 | 平成29年版との対照に加え,平成23年及び平成28年の行為時を確認する。後発法を行為時へ遡及させない。 |
| 年度ハブ | 本記事では扱わない。 |
| 資料確認日 | 令和8年10月27日 |
設問1(1)では,判例を説明した上で,会社が設立費用の全額を対外的に負い,超過分を発起人との内部関係で処理する見解を採ります。
設問1(2)では,判例に従って追認を否定し,Fとの再契約と事後設立の承認を助言します。
設問2では,説明義務違反とLの排除を取消しの中心とし,設問3では,その議決権の判断を維持してLの買取請求を認めます。
別の構成を採る場合の条件と留保は,第4の表と第5の解説に示します。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一項目ごとに,答案にどの判断が示されていれば充足するかを具体化しています。
「出題の趣旨」と「採点実感」の欄は,それぞれのPDF頁及び設問・項目を示します。
採点実感の商法部分には独自の印刷頁があるため,本記事の表では全体PDFの9〜15頁で統一しました。
「間接」は公式記載から本記事が分析して整理した事項であり,公式がその文言で要求したという意味ではありません。
【適用条件】及び【許容分岐】は,その構成を採るときに評価する項目です。
互いに両立しない見解をすべて採用させる趣旨ではありません。
番号11の事後設立の要件・金額判断は,再契約では直接適用,追認肯定では類推適用に対応します。
承認手続は採用枝に応じて番号12又は13で評価し,同じ内容を二重に要求したり二重に不足と判定したりしません。
番号34は全答案で説明する端数処理の手続です。
市場価格のない株式の競売代替売却や会社自身の買取りという条件は,手続内部の適用条件であり,制度説明そのものを省略する条件ではありません。
【注意】は誤りを避けるための項目であり,同じ誤りを別の加点・減点として二重に集計しません。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 基準 |
|---|---|
| 5 | 設問の結論・主要な判断構造・救済に直結する核心。 |
| 4 | 核心を支える重要な理由付け,事実評価又は分岐の処理。 |
| 3 | 通常必要となる条文の当てはめ,制度説明又は補助的な論証。 |
| 2 | 補足的な検討又は限定された誤りの回避。 |
| 1 | 参考事項又は設問の周辺的事項。 |
これは項目の役割に基づく独自の重みであり,公式の配点や合格点への換算ではありません。
両方の公式資料に登場するという理由だけで重みを決めず,設問の主ルートで何を決する事項かを基準にしています。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
正確な前提と定款・規約は,公式問題文の民事系第2問を確認してください。
設問1では,発起人Aが甲社の設立事務のために負担した賃料60万円と報酬40万円について,定款の設立費用限度額80万円との関係が問われます。
また,定款記載のない800万円の機械購入契約につき,会社成立後にFから追加50万円を求められた場面で,Cへの助言が求められます。
設問2・3では,甲社の支援による乙社の再建と完全子会社化を背景に,3000株を1株とする株式併合が行われます。
Gの2000株,持株会の受託者Hの1200株,IからLが相続した800株が端数となります。
KによるHの議決権の代理行使,併合の理由説明,Lの総会への入場拒絶,甲社の特別利害関係等を検討します。
Iの死亡は基準日前,Lの名義書換えと反対通知は総会前であり,取得時点と名義書換時点を混同しないことが重要です。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・仮定・除外 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 1(1) | 甲社のD・Eに対する費用債務 | 判例の立場を踏まえ,賛否を論じる。 | D・E各人の請求をどの額まで拒めるかを理由とともに示す。 |
| 1(2) | 機械取得についてのCへの助言 | 既に会社が成立している相談時点を維持する。 | 財産引受の効力と追認を検討し,機械取得の具体的方法・承認手続を示す。 |
| 2 | Gによる併合決議の効力を争う方法 | 取消しと無効を区別し,問題文の各事情を検討する。 | 主張可能な瑕疵とその成否,取消しの訴えの適格・期間等を示す。 |
| 3 | Lの金銭的利益の保護 | 設問2で採った議決権の判断と整合させる。併合中止の請求・併合の効力否定・損害賠償の請求は設問により除外。 | 端数処理と反対株主の買取請求を区別し,Lの利用可能性を示す。 |
第4 評価項目と重み
1 設問1(1)――設立費用
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 事務所賃料と設立事務員報酬をともに設立費用とし,28条4号と定款の80万円の記載を正確に示す。 | 3 | 9頁・設問1(1) | 9〜10頁・2(2) |
| 2 | 未払設立費用は定款記載額内で会社に帰属し,その範囲では相手方は発起人に請求できないという判例の立場を示す。 | 5 | 9頁・設問1(1) | 9頁・2(2)ア |
| 3 | 会社の財産的基礎の確保と相手方保護・取引安全を比較し,判例への賛否を理由付きで示す。 | 4 | 9頁・設問1(1) | 9〜10頁・2(2)ア・イ(ア) |
| 4 | 採用した債務帰属構成と整合する形で,Dの60万円及びEの40万円それぞれの支払拒否の可否を結論付ける。 | 4 | 9頁・設問1(1)末尾 | 10頁・2(2)イ(ア) |
| 5 | 【適用条件:判例に賛成する構成】契約締結順又は債務額按分等の配分方法を定め,甲社が各債務のどの額を負うかを示す。 | 4 | 9頁・設問1(1) | 9〜10頁・2(2)ア |
| 6 | 債務帰属の結論を,設立中の会社の概念及び発起人の権限の範囲と結び付ける。 | 3 | 9頁・設問1(1)末尾 | 10頁・2(2)ア末尾 |
2 設問1(2)――財産引受と事後設立
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 7 | 機械購入を財産引受と認定し,定款記載を欠くため28条柱書き・2号により無効となることを示す。 | 5 | 9頁・設問1(2) | 10〜11頁・2(3) |
| 8 | 財産引受について,売主も無効を主張でき,成立後会社の追認又は承認決議だけでは有効化しないという判例を踏まえる。 | 5 | 9頁・設問1(2) | 10頁・2(3)ア |
| 9 | 株主・債権者・会社・相手方の利益と財産引受規制の趣旨を踏まえ,追認の許否を理由付きで論じる。 | 4 | 間接(9頁・設問1(2)からの分析) | 11頁・2(3)イ(ア) |
| 10 | 【適用条件:追認を否定する構成】Fとの新たな売買合意が必要で,増額要求をある程度受け入れる可能性もあることを助言する。 | 4 | 9頁・設問1(2) | 10〜11頁・2(3)ア |
| 11 | 成立後2年以内・成立前から存在・事業に継続使用する財産という要件と,800万円が純資産額の5分の1を超えることを確認する。 | 5 | 9頁・設問1(2) | 10〜11頁・2(3)ア |
| 12 | 再契約による事後設立について467条1項5号・309条2項11号の株主総会特別決議による承認を示し,取締役会決議だけで済ませない。 | 5 | 9頁・設問1(2) | 11頁・2(3)ア・イ(イ) |
| 13 | 【許容分岐:追認を肯定する構成】事後設立規制の類推により株主総会特別決議の承認等を要することを示し,原代金での引渡請求へ接続する。 | 4 | 9頁・設問1(2)末尾 | 11頁・2(3)ア |
| 14 | 【許容分岐:相手方の無効主張を認めない構成】無効主張を制限する根拠と本件事実との対応を示す。 | 2 | 9頁は売主の無効主張を認める判例を記載 | 11頁・2(3)ア「一定の評価」 |
| 15 | 【注意】成立後の相談時点を維持し,定款変更や現物出資だけで本件機械を取得できるとはしない。 | 2 | 間接(9頁・設問1(2)の時点・方法) | 11頁・2(3)イ(イ)末尾 |
3 設問2――株式併合決議の瑕疵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 16 | 併合により株主でなくなったGも,取消しで株主となる者として831条1項後段の原告適格を有することを示す。 | 5 | 10頁・設問2冒頭 | 11・13頁・2(4) |
| 17 | 取消し・無効・不存在を区別し,主張する瑕疵を831条1項の該当号又は830条2項へ対応させる。 | 4 | 10頁・設問2 | 13頁・2(4)イ(イ) |
| 18 | 310条1項の代理行使を前提に,かく乱防止・会社利益保護を理由として代理人資格制限定款を有効とする判例を示す。 | 4 | 10頁・取消事由第1 | 12頁・2(4)ア第1 |
| 19 | 信託の効力とHの株主地位を踏まえ,Kの問題を持株会規約や106条の問題だけで処理しない。 | 3 | 10頁・取消事由第1 | 12〜13頁・2(4) |
| 20 | Kの実質的な株式保有利益を,代理人資格制限定款の趣旨と結び付け,定款違反の成否を事案に即して検討する。 | 4 | 10頁・取消事由第1 | 12頁・2(4)ア第1 |
| 21 | 【注意】Cによる甲社の代表とKによるHの代理を区別し,Cを代理人資格制限定款違反としない。 | 3 | 10頁・取消事由第4は代表と記載 | 12頁・2(4)ア第1末尾 |
| 22 | 株式併合の必要理由説明を180条4項で検討し,314条違反だけに置き換えない。 | 5 | 10頁・取消事由第2 | 12〜13頁・2(4) |
| 23 | 減資と株式数減少を区別し,減資に減株が法的に必要というJの説明の誤りを検討する。 | 4 | 10頁・取消事由第2 | 12頁・2(4)ア第2 |
| 24 | 甲社の支援による再建・完全子会社化という本来の目的を説明しなかったことの適否を検討する。 | 4 | 10頁・取消事由第2 | 12頁・2(4)ア第2 |
| 25 | Gは他の株主Lに関する手続上の瑕疵も取消事由として主張できることを前提にする。 | 3 | 間接(10頁・取消事由第3はこの前提で記載) | 12頁・2(4)ア第3・昭和42年9月28日判決 |
| 26 | 130条1項の株式譲渡の対抗要件が相続にも適用されるかを,理由付きで検討する。 | 5 | 10〜11頁・設問2・3 | 12〜14頁・2(4)・(5) |
| 27 | 基準日前の相続と基準日後の名義書換えを区別し,124条4項の基準日後取得者の問題と誤らず,採用説から出席拒絶の適否を導く。 | 4 | 10〜11頁・設問2・3 | 13頁・2(4)イ(イ) |
| 28 | 他の株主と共通しない個人的利害という特別利害関係の意義を示し,甲社の支配・排除利益を評価する。 | 4 | 10頁・取消事由第4 | 12〜13頁・2(4) |
| 29 | 特別利害関係の存在と著しく不当な決議であることを別要件とし,再建目的・少数株主の不利益等を評価する。 | 4 | 10頁・取消事由第4 | 12〜13頁・2(4) |
| 30 | 締出し目的の併合が109条1項の株主平等原則に反して決議内容の無効原因となるかを,830条2項と結び付けて検討する。 | 5 | 10頁・無効事由 | 12〜13頁・2(4) |
| 31 | 【注意】裁量棄却は831条2項の対象と累積要件を保ち,特別利害関係者による著しく不当な決議に適用しない。 | 3 | 間接(10頁・取消事由の構造からの分析) | 13〜14頁・2(4)イ(イ) |
| 32 | 【注意】本件で書面議決権行使が義務でないことを踏まえ,その記載欠缺だけを招集手続の違法としない。 | 2 | 間接(10頁・取消事由の列挙に記載なし) | 13頁・2(4)イ(イ) |
4 設問3――端数処理と買取請求
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 33 | 235条の端数合計に相当する株式の処分と端数割合による代金交付を説明し,Lの金銭的利益へ接続する。 | 5 | 10頁・設問3冒頭 | 14〜15頁・2(5) |
| 34 | 235条2項から234条2〜5項をたどり,非市場株式の競売代替売却の裁判所許可・取締役全員同意及び会社自身の買取手続を説明する。 | 4 | 10頁・設問3冒頭 | 14〜15頁・2(5) |
| 35 | 182条の4の反対株主買取請求を公正価格による保護と説明し,単元未満・種類株式・組織再編の別制度で代用しない。 | 4 | 10〜11頁・設問3 | 14〜15頁・2(5) |
| 36 | 事前の反対通知と総会での反対の双方が原則要件であり,Lの事前通知だけで当然に反対株主としない。 | 4 | 10〜11頁・設問3 | 14〜15頁・2(5) |
| 37 | 設問2の議決権行使資格の判断を設問3に引き継ぎ,前提を無説明に反転させず買取資格を論じる。 | 5 | 10〜11頁・設問3 | 14〜15頁・2(5) |
| 38 | 【許容分岐:Lに議決権を認める構成】不当な入場拒絶による反対不能を理由に,信義則又は2号の解釈によって買取請求を認める。 | 5 | 11頁・設問3前半 | 14頁・2(5)ア |
| 39 | 【許容分岐:Lに議決権を認めない構成】基準日まで名義書換えを怠った者が182条の4第2項2号に含まれるかを理由付きで検討し,肯否を示す。 | 4 | 11頁・設問3後半 | 14〜15頁・2(5) |
| 40 | 買取請求の説明では,事前反対通知と買取りの意思表示を区別し,対象株式と効力日前の法定請求期間を示す。 | 3 | 間接(10頁・買取請求の説明要求からの分析) | 14頁・制度説明要求及び15頁・反対通知のみの誤り |
5 重みの分布
重み1=0項目,重み2=3項目,重み3=7項目,重み4=18項目,重み5=12項目,総項目数N=40,重み合計W=159です。
N=n1+n2+n3+n4+n5,W=n1+2n2+3n3+4n4+5n5として,表の全行から集計しました。
重み5は,番号2・7・8・11・12・16・22・26・30・33・37・38です。
設立費用の判例,財産引受の効力と承認手続,取消しの適格・説明義務・相続と名義書換え,決議内容の無効,端数処理及び買取資格の整合という主ルートを重く扱っています。
条件付き項目を含む全体の一覧の集計であり,個別答案の満点や公式得点を表すものではありません。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
試験実施日は平成29年5月18日ですが,問題中の設立・相談は平成23年,株式併合と各相談は平成28年です。
平成29年4月1日施行版の使用条項を各行為時と対照し,本問の適用部分に結論を変える差分がないことを確認して用います。
株式併合の説明義務・備置き・買取請求は,平成28年の行為時に施行済みの改正後の制度です。
条文番号は,特に断らない限り会社法です。
設問1(1)の費用帰属は判例と自説を区別し,設問1(2)は追認否定・再契約を採ります。
設問2はLに議決権を認め,設問3もその判断を維持しています。
答案の階層は「1→(1)」で,解説の評価番号とは別です。
設問3では,設問の指定に従って,併合中止の請求,併合の効力否定及び損害賠償の請求は扱いません。
答案中の判例に関する説明には,原文を確認できたものと公式資料の紹介によるものがあるため,第7の確認状態も参照してください。
2 答案
1 設問1
(1) 小問(1)
Aは設立中の甲社の機関として設立事務を行っている。
設立中の会社と成立後の会社は実質的に同一であり,発起人がその権限内で行った設立行為の効果は,会社の成立により会社に帰属する。
事務所の賃借と設立事務員の雇用は,いずれも設立事務に必要な行為であり,開業準備行為とは異なる。
賃料60万円と報酬40万円は設立費用に当たる。
会社法28条4号は,会社財産を不当に減少させる設立費用の負担を防ぐため,会社が負担する費用の定款記載を要求する。
定款には80万円以内との記載しかなく,実費は合計100万円である。
判例は,定款記載額の範囲で債務が成立後の会社に帰属し,その範囲では相手方は発起人には請求できないとする。
超過額の配分を契約締結順によると解すれば,先行するDの賃料60万円とEの報酬のうち20万円が甲社に帰属し,Eの残額20万円はAの負担となる。
これに対し,債務額に応じて按分する立場では,甲社の負担はDに48万円,Eに32万円となる。
しかし,相手方は他の設立費用の額を知り難く,定款上の限度額の残額まで確認させるのは取引安全を害する。
設立事務を適正額で行った本件でも相手方に未払の危険を負わせると,設立に必要な取引を妨げる。
28条4号を会社と発起人の内部負担の規律と解し,対外的には会社が費用債務全部を負い,限度超過額を発起人に負担させるべきである。
この立場では甲社はDの60万円,Eの40万円のいずれも拒否できず,Aとの内部清算によって20万円を回収すべきである。
(2) 小問(2)
本件購入契約は,発起人Aが甲社の成立を条件に,成立後の甲社に特定の機械を800万円で取得させる財産引受に当たる。
定款に28条2号所定の記載がなく,効力を生じない。
機械が事業に不可欠でも,設立そのものに必要な行為とはいえない。
判例は財産引受規制の潜脱防止から無効を契約双方が主張できるとし,成立後会社の追認や株主総会の承認決議だけによる有効化を認めない。
したがって判例によれば,Cの承認だけでFに原代金による履行を強制できない。
これに対し,成立後の機関による審査で株主・債権者を保護できるとして,会社の追認を認める見解がある。
この見解でも,単なるCの承認では足りず,事後設立規制を潜脱させないため,467条1項5号及び309条2項11号を類推し,株主総会特別決議で承認することを要する。
本件は後述の金額要件を満たし,承認を経た追認により原契約を有効とするなら,Fの新たな承諾を要せず,7月29日に800万円の支払と引換えに引渡しを請求できる。
しかし,厳格な変態設立規制の実効性と無効な契約の相手方の地位の安定を重視し,本答案では判例に従い再契約を基本案とする。
判例の立場でも,成立後甲社がFと新たに売買契約を締結することはできる。
この場合にはFの合意が必要であり,原代金で再契約するよう交渉し,応じなければ追加50万円を含む条件を検討する。
成立後2年以内に,成立前から存在し事業に継続使用する機械を取得し,対価800万円は純資産額3000万円以下の5分の1を超えるから,事後設立として467条1項5号の承認を要する。
取締役会で重要財産の譲受けを決定し(362条4項1号),効力発生日前日までに株主総会特別決議を得る(309条2項11号)。
A・B全員の同意があれば招集手続は省略できる(300条)。
その上で代表取締役Cが契約を締結する。
原契約の追認決議と,新契約の承認は区別する。
2 設問2
(1) 訴訟と決議内容
Gの2000株は3000株を1株とする併合により端数となり,Gは株主でなくなる。
しかし決議取消しにより株主となる者として831条1項後段の適格を有する。
6月20日の決議から3か月以内に,乙社を被告としてその本店所在地の地方裁判所に取消しを求める(834条17号,835条)。
7月20日現在は期間内である。
Gは,少数株主排除を目的とする極端な併合が株主平等原則に違反し,決議内容が法令違反で無効であるとも主張できる(830条2項)。
しかし全株式に同一の併合割合を適用しており,法は端数の金銭処理や反対株主の買取請求を設けているから,締出し目的だけで当然に違法とはいえない。
乙社再建のため経営方針を統一する必要もある。
公正な経済的利益の保障を欠く等の事情がなければ,この主張のみで無効とするのは難しい。
(2) 招集と説明
乙社は公開会社であり,6月1日に20日総会の招集通知を発しているから2週間前の発信を満たす。
併合割合・効力日・発行可能株式総数が示され,発行可能総数も併合後総数の4倍を超えない。
6月1日の公告・書面備置きも所定の先行期間を満たす。
書面等による議決権行使は本件株主数では義務付けられない。
他方,180条4項は,株主が併合の必要性を判断するため,取締役に自発的な理由説明を要求する。
株主の質問を要する314条とは異なる。
株主管理費用の削減は理由になり得るが,資本金の減少と発行済株式数の減少は別制度であり,減資に減株が必要という説明は誤りである。
さらに,甲社の完全子会社として支援を受け再建する真の目的は,Gらの株主資格を失わせる必要性に直結する。
その不説明は十分な判断材料を欠く説明義務違反として831条1項1号の取消原因となる。
(3) Kの代理行使
310条1項は議決権の代理行使を保障するが,判例は,総会が第三者にかく乱されることを防ぎ会社の利益を保護する,合理的な相当程度の制限として,代理人を株主に限る定款を有効とする。
適法な信託により株式は受託者Hに帰属し,Kは持分を有するだけで乙社の株主とはいえないため,Gは定款違反を主張する。
もっとも,Kは発足以来の持株会員で,株式の実質的利益を有し,乙社の従業員でもある。
かく乱防止という目的に反しない者まで排除する必要は乏しい。
特別指示がないためHには規約上議決権行使を決定する権限があり,Kは総会ごとの委任状も提出している。
このような会員を代理人として許容する定款解釈により,Kの行使は適法と解する。
なお,Cは甲社の代表機関として行使するのであって,Kと同じ代理人資格制限の問題は生じない。
仮に定款違反でも,Kを除けば出席議決権8000に対する賛成6000であり,定款所定の定足数と3分の2以上の賛成を満たす。
ただし,裁量棄却には決議への無影響に加え違反が重大でないことも必要である(831条2項)。
Kが実質保有者であってかく乱のおそれもない点から,この瑕疵だけなら裁量棄却の余地がある。
(4) Lの排除
Gは他の株主Lに関する瑕疵も取消事由として主張できる。
株主総会決議の適法性を確保するための訴えであり,自己に関する瑕疵に限られないからである。
Iは3月31日の基準日前に死亡し,Lはその唯一の相続人として株式を一般承継した。
130条1項は「株式の譲渡」の対抗要件を定めるが,相続は意思に基づく特定承継と異なり,名義人の死亡によって当然に生ずる一般承継である。
同項を相続には適用しないと解する。
従ってLは名義書換え前から取得を乙社に対抗でき,基準日におけるIの名簿上の地位を承継して議決権を行使できる。
124条4項の基準日後取得者の問題ではない。
総会前に相続の証明と名義書換えも済んでおり,Jの指示による排除は決議方法の法令違反となる。
乙社は,Lが株式の存在を知りながら名義書換えを怠ったことや,基準日名簿を信頼したと反論し得る。
しかし総会の17日前に相続の証明と名義書換えが済んでいる以上,この事情だけで参加利益を失わせるのは相当でない。
票数上はLが反対しても可決されるが,議論への参加を意図的に奪う違反は重大であり,この瑕疵の裁量棄却は認めるべきでない。
(5) 甲社の特別利害関係
特別利害関係とは,決議につき他の株主と共通しない個人的利害を有することである。
甲社は自己だけを株主として残す利益を有し,これに当たる。
しかし同社の議決権行使のみで取消原因となるわけではなく,著しく不当な決議であることを要する(831条1項3号)。
これは,決議内容が会社・株主の共同利益を不当に害し,特別の利益を図るなど著しく衡平を欠くことをいう。
Gは過大な併合割合と排除目的を主張できるが,甲社の支援による再建の必要と公正な価格保護を踏まえると,著しい不当性が当然に認められるとはいえない。
取消しの中心は説明義務違反とLの排除である。
なお,特別利害関係者による著しく不当な決議という同項3号には,同条2項の裁量棄却は適用されない。
3 設問3
(1) 端数処理
Lの800株は併合後4/15株となる。
乙社は端数合計4/3の1株未満を切り捨て,1株を競売し,代金を端数に応じて交付する義務を負う(235条1項)。
Lの端数は全端数の5分の1に当たり,その割合の代金を受ける。
市場価格のない株式を競売以外の方法で売却するには裁判所の許可を要し,許可申立ては取締役全員の同意により行う(同条2項,234条2項)。
乙社自身もこの株式を買い取ることができ,取締役会で株数と交付金銭総額を決定する(234条4・5項)。
これらにより処分と対価の適正を確保する。
(2) 買取請求
端数処理だけでは自己の利益に見合う価格を得られない危険があるため,Lは端数となる株式全部を公正な価格で買い取るよう乙社に請求できる(182条の4第1項)。
前問の立場ではLは議決権を行使できる株主であり,6月3日に事前反対通知をしている。
総会での反対を乙社の違法な排除で妨げられた以上,同社は反対の欠缺を主張できず,同条2項1号の反対株主として保護すべきである。
これに対し,相続にも130条1項を適用し,基準日まで名義書換えをしなかったLに議決権を認めない立場では,同項2号に名義書換えを怠った者を含めるかを更に論ずる必要がある。
無議決権との一事で当然に買取請求を認めることはできない。
事前反対通知だけで買取請求をしたことにはならず,効力日の20日前から前日までに,対象の800株全部を明らかにして請求する必要がある。
買取りは効力日に効力を生じる。
価格協議が調えば効力日から60日以内に支払い,30日以内に調わなければその満了後30日以内に株主又は会社が裁判所へ価格決定を申し立てる(182条の5)。
裁判所は公正価格を定め,会社は60日経過後の年6分の利息も支払う。
買取りがされた株式について端数売却代金を重ねて取得するものではない。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案1(1)が番号1〜6,答案1(2)が番号7〜15,答案2が番号16〜32,答案3が番号33〜40に対応します。
通常の補助項目である番号1・6・19・21・25・32は,それぞれ費用の分類と権限,信託と代表,Gの主張範囲,書面議決権行使の記述で扱っています。
番号15は,成立後の定款変更や現物出資で処理しないという注意であり,採らなかった理由を以下の解説で補います。
主要項目では,番号2の判例を示してから番号3・4の自説を結論まで述べ,番号7・8の無効と追認の問題から番号10〜12の再契約・承認手続へ進みます。
番号26・27で確定したLの議決権を,番号37・38の買取資格へ引き継ぎます。
番号14・39の代替構成は答案では採用せず,以下の解説にその検討範囲を示します。
第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示します。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 2 | 5 | 未払設立費用は定款記載額内で会社に帰属し,その範囲では相手方は発起人に請求できないという判例の立場を示す。 | 答案1(1)第2段落 |
| 3 | 4 | 会社の財産的基礎の確保と相手方保護・取引安全を比較し,判例への賛否を理由付きで示す。 | 答案1(1)第3段落 |
| 4 | 4 | 採用した債務帰属構成と整合する形で,Dの60万円及びEの40万円それぞれの支払拒否の可否を結論付ける。 | 答案1(1)第3段落 |
| 5 | 4 | 【適用条件:判例に賛成する構成】契約締結順又は債務額按分等の配分方法を定め,甲社が各債務のどの額を負うかを示す。 | 答案1(1)第2段落(採用主位構成ではなく比較説明) |
| 7 | 5 | 機械購入を財産引受と認定し,定款記載を欠くため28条柱書き・2号により無効となることを示す。 | 答案1(2)第1段落 |
| 8 | 5 | 財産引受について,売主も無効を主張でき,成立後会社の追認又は承認決議だけでは有効化しないという判例を踏まえる。 | 答案1(2)第1・2段落 |
| 9 | 4 | 株主・債権者・会社・相手方の利益と財産引受規制の趣旨を踏まえ,追認の許否を理由付きで論じる。 | 答案1(2)第2段落 |
| 10 | 4 | 【適用条件:追認を否定する構成】Fとの新たな売買合意が必要で,増額要求をある程度受け入れる可能性もあることを助言する。 | 答案1(2)第3段落 |
| 11 | 5 | 成立後2年以内・成立前から存在・事業に継続使用する財産という要件と,800万円が純資産額の5分の1を超えることを確認する。 | 答案1(2)第3段落 |
| 12 | 5 | 再契約による事後設立について467条1項5号・309条2項11号の株主総会特別決議による承認を示し,取締役会決議だけで済ませない。 | 答案1(2)第3段落 |
| 13 | 4 | 【許容分岐:追認を肯定する構成】事後設立規制の類推により株主総会特別決議の承認等を要することを示し,原代金での引渡請求へ接続する。 | 答案1(2)第2段落(採用主位構成ではなく比較説明) |
| 14 | 2 | 【許容分岐:相手方の無効主張を認めない構成】無効主張を制限する根拠と本件事実との対応を示す。 | 不採用。第5の3(3)の許容分岐と限界。 |
| 16 | 5 | 併合により株主でなくなったGも,取消しで株主となる者として831条1項後段の原告適格を有することを示す。 | 答案2(1)第1段落 |
| 17 | 4 | 取消し・無効・不存在を区別し,主張する瑕疵を831条1項の該当号又は830条2項へ対応させる。 | 答案2(1)〜(5)。取消しと無効を区別。不存在の構成は採用していない。 |
| 18 | 4 | 310条1項の代理行使を前提に,かく乱防止・会社利益保護を理由として代理人資格制限定款を有効とする判例を示す。 | 答案2(3)第1段落 |
| 20 | 4 | Kの実質的な株式保有利益を,代理人資格制限定款の趣旨と結び付け,定款違反の成否を事案に即して検討する。 | 答案2(3)第2段落 |
| 22 | 5 | 株式併合の必要理由説明を180条4項で検討し,314条違反だけに置き換えない。 | 答案2(2)第2段落 |
| 23 | 4 | 減資と株式数減少を区別し,減資に減株が法的に必要というJの説明の誤りを検討する。 | 答案2(2)第2段落 |
| 24 | 4 | 甲社の支援による再建・完全子会社化という本来の目的を説明しなかったことの適否を検討する。 | 答案2(2)第2段落 |
| 26 | 5 | 130条1項の株式譲渡の対抗要件が相続にも適用されるかを,理由付きで検討する。 | 答案2(4)第2段落 |
| 27 | 4 | 基準日前の相続と基準日後の名義書換えを区別し,124条4項の基準日後取得者の問題と誤らず,採用説から出席拒絶の適否を導く。 | 答案2(4)第2・3段落 |
| 28 | 4 | 他の株主と共通しない個人的利害という特別利害関係の意義を示し,甲社の支配・排除利益を評価する。 | 答案2(5)第1段落 |
| 29 | 4 | 特別利害関係の存在と著しく不当な決議であることを別要件とし,再建目的・少数株主の不利益等を評価する。 | 答案2(5)第1段落 |
| 30 | 5 | 締出し目的の併合が109条1項の株主平等原則に反して決議内容の無効原因となるかを,830条2項と結び付けて検討する。 | 答案2(1)第2段落 |
| 31 | 3 | 【注意】裁量棄却は831条2項の対象と累積要件を保ち,特別利害関係者による著しく不当な決議に適用しない。 | 答案2(3)第4段落・2(4)第3段落・2(5)末尾。 |
| 33 | 5 | 235条の端数合計に相当する株式の処分と端数割合による代金交付を説明し,Lの金銭的利益へ接続する。 | 答案3(1)第1段落 |
| 34 | 4 | 235条2項から234条2〜5項をたどり,非市場株式の競売代替売却の裁判所許可・取締役全員同意及び会社自身の買取手続を説明する。 | 答案3(1)第1段落 |
| 35 | 4 | 182条の4の反対株主買取請求を公正価格による保護と説明し,単元未満・種類株式・組織再編の別制度で代用しない。 | 答案3(2)第1段落 |
| 36 | 4 | 事前の反対通知と総会での反対の双方が原則要件であり,Lの事前通知だけで当然に反対株主としない。 | 答案3(2)第1段落 |
| 37 | 5 | 設問2の議決権行使資格の判断を設問3に引き継ぎ,前提を無説明に反転させず買取資格を論じる。 | 答案3(2)第1段落 |
| 38 | 5 | 【許容分岐:Lに議決権を認める構成】不当な入場拒絶による反対不能を理由に,信義則又は2号の解釈によって買取請求を認める。 | 答案3(2)第1段落 |
| 39 | 4 | 【許容分岐:Lに議決権を認めない構成】基準日まで名義書換えを怠った者が182条の4第2項2号に含まれるかを理由付きで検討し,肯否を示す。 | 不採用。答案3(2)第1段落は問題を指摘するにとどまり,第5の3(5)で反対構成の肯否を説明。 |
| 40 | 3 | 買取請求の説明では,事前反対通知と買取りの意思表示を区別し,対象株式と効力日前の法定請求期間を示す。 | 答案3(2)第2段落 |
(2) 設問1(1)――費用の帰属と判例への賛否
出題の趣旨は,設立費用についての判例を示した上で賛否を論じ,設立中の会社及び発起人の権限と結び付けることを求めています。
採点実感は,会社が定款記載額内で負担するだけでなく,その範囲では発起人への請求もできない点を落とす答案や,D・Eそれぞれの結論を曖昧にする答案を指摘しています(番号1〜6)。
答案は,まず判例の枠組みを説明し,契約順の配分ならD60万円・E20万円,按分ならD48万円・E32万円と具体化しました(番号2・5)。
その上で,取引相手が他の費用や限度残額を知り難い点を理由に,対外的全額帰属と発起人との内部清算を採ります(番号3・4・6)。
配分方法は判例賛成説で必要となる検討であり,採用する全額帰属説に追加の支払限度を課すものではありません。
また,設立行為と開業準備行為は区別しており,機械購入まで当然に発起人の権限に含める説明はしていません。
(3) 設問1(2)――無効な財産引受から機械を取得する方法
出題の趣旨と採点実感は,財産引受の無効及び判例の追認否定を出発点に,機械を取得する具体的方法へ進むことを求めています。
追認否定ならFとの新たな合意が必要であり,Fの増額要求をある程度受け入れる可能性もあります。
事後設立の要件・金額と株主総会特別決議を検討せず,取締役会決議だけで済ませるのは不十分です(番号7〜12)。
答案は追認肯定説にも触れ,その場合にも事後設立規制の類推による特別決議を必要とする構成を示しました(番号9・13)。
採用した追認否定説では,原契約の承認決議と新契約を区別し,新たな契約の合意と会社内部の承認手続をそろえます(番号10〜12)。
362条の取締役会決議と300条の招集手続省略は,公式資料の核心要求に付け加えた条文上の補足です。
300条による省略は,書面又は電磁的方法による議決権行使の定めがある場合には認められないという例外も伴います。
相手方の無効主張を制限する構成も,採点実感は理由付けに応じて一定の評価を認めています(番号14)。
しかし,本件でその結論を採るなら,規制が株主・債権者を保護する趣旨と,Fによる主張を制限する根拠を説明する必要があります。
答案はこの構成を採らず,Fの同意を確保する再契約を助言しました。
会社成立後の相談なのに定款変更で設立時へ遡って有効化したり,現物出資の手続だけを述べたりする方法は,本問の取得方法に適合しません(番号15)。
(4) 設問2――四つの取消事由と決議内容の無効
出題の趣旨は,Gの原告適格を踏まえ,Kの代理行使,併合理由の説明,Lの排除,特別利害関係者の行使の四点を取消しの問題として扱い,決議内容の法令違反による無効と区別しています(番号16・17)。
採点実感は,条文の号の取り違え,裁量棄却の要件不足,特別利害関係があるだけで著しく不当とする処理などを指摘しています。
Kについては,代理人資格制限定款を有効とする判例と,その目的がかく乱防止であることを示した上で,信託の受託者Hと実質的利益を持つKを区別します(番号18〜20)。
答案は,従業員持株会の会員という本件事情を定款の趣旨へ結び付け,Kの代理行使を許容しました。
この解釈に争いはありますが,単にKが法的な株主でないことだけで結論を出さないための事実評価です。
甲社の代表取締役Cは代表機関であり,同じ代理人資格制限の問題にはなりません(番号21)。
Kの議決権を除いても可決するという事情は,裁量棄却の無影響要件に関係しますが,重大性の判断を不要にしません(番号31)。
理由説明の根拠は180条4項です。
減資と減株を混同した説明と,完全子会社化という本来の目的の不説明を検討し,314条の質問応答の問題だけに置き換えないことが重要です(番号22〜24)。
株主数が少ない本件で,書面議決権行使に関する記載がないことだけを違法としません(番号32)。
Lについては,他の株主の手続上の瑕疵もGが主張できることを前提に,相続に130条1項が適用されるかを論じます(番号25〜27)。
答案は一般承継と譲渡を区別する立場を採り,基準日における名簿上の地位の承継から議決権を認めました。
相続自体は基準日前なので,124条4項の基準日後取得者として処理しません。
相続にも名義書換えを要求する反対説では,会社の画一的処理と名簿の信頼を重視し,Lが基準日まで書換えをしなかった点を評価することになります。
いずれの立場でも,設問3の買取資格まで一貫させる必要があります。
甲社の特別利害関係と著しく不当な決議とは別の要件です。
答案は個人的な支配利益を認めつつ,再建目的と少数株主の経済的保護を考慮して著しい不当性を検討しました(番号28・29)。
特別利害関係と著しい不当性の意義づけ及び再建事情の評価は,本記事の解釈・当てはめであり,公式資料が本件の唯一の結論を指定したものではありません。
この取消事由には裁量棄却を適用できません(番号31)。
決議内容の無効についても,一律の併合割合と法の金銭的保護の仕組みを踏まえ,締出し目的だけで株主平等原則違反としない理由を示しています(番号30)。
もっとも,価格や目的の不公正を示す追加事情があれば評価が変わり得るという留保があります。
(5) 設問3――端数処理と買取請求を区別する
出題の趣旨と採点実感は,会社が行う端数処理と株主自身の買取請求を区別し,それぞれがどのようにLの金銭的利益を保護するかを説明することを求めています(番号33〜35)。
答案はG・H・Lの端数の合計を4/3とし,その1株分を処分して,Lが端数全体の5分の1の代金を受けると計算しました。
235条2項から234条の売却・会社買取の規定をたどり,裁判所の許可と取締役全員の同意,取締役会での決定も示しました(番号34)。
買取請求では,事前の反対通知と総会での反対の両方が原則必要です(番号36)。
答案が採る議決権肯定説では,違法な入場拒絶によって反対できなかったLについて,会社がその欠缺を主張することを信義則上許さないと論じます(番号37・38)。
公式資料は,同項2号の解釈による構成も含め,排除の問題を実質的に処理することを評価しています。
議決権否定説を採る場合でも,「議決権がないから2号」と直結させるのは足りません(番号39)。
名義書換えを怠った者は議決権の公示を自ら整えなかったとして2号から除外する見解と,同号の文言及び締出しの経済的保護を重視して含める見解の双方が考えられます。
これは採点実感が検討を求めた分岐を具体化した本記事の理由付けであり,公式がいずれか一方を唯一の結論として指定したものではありません。
答案は議決権肯定説を採るため,この反対構成の最終結論は採っていません。
事前反対通知は買取りの意思表示ではありません。
対象株式と請求期間を区別して示す必要があります(番号40)。
答案末尾の価格協議・価格決定申立て・支払時期・年6分の利息は,確認した当時法182条の5による補足であり,公式資料がすべてを独立の必須項目として列挙したものではありません。
(6) 答案の弱点と扱わなかった事項
設立費用の全額会社帰属説,Kの代理行使を許容する定款解釈,相続に130条1項を適用しない立場には,それぞれ対立構成があります。
本答案は採用した結論までの理由を示していますが,反対説の細部をすべて展開してはいません。
特に,相続への130条適用について,一般承継との違いだけでなく会社の名簿管理の利益との比較を更に厚くする余地があります。
無効な財産引受の相手方の主張を制限する構成と,Lの議決権を否定する構成は採りませんでした。
これらを採らない答案に,その構成の結論を累積して要求することはありません。
設問3で除外された併合中止・効力否定・損害賠償は,答案の欠落として評価しません。
独自の訴訟提起手続や当時法の詳細を補った部分は,公式資料による評価事項と区別しています。
設立費用に関する旧大審院判例及び公式資料が紹介する一部の下級審裁判例は原文未確認であり,判旨の原文確認済みとは扱いません。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の記事
平成29年司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答と評価項目では,同年度の主要7科目を一覧・比較している。
同年度の他科目の記事や年度ハブの案内は,本記事では設けていません。
2 同じ科目の別の年度の記事
別年度の商法答案との比較は,本記事では扱っていません。
3 本問の論点に関連する山中弁護士ブログの記事
関連論点の記事への案内は,本記事では設けていません。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
① 平成29年司法試験論文式試験問題・民事系科目――商法のPDF7〜10頁。
② 平成29年司法試験・論文式試験出題の趣旨――PDF8頁の第2問から11頁の第3問直前まで。
③ 平成29年司法試験の採点実感(民事系科目第2問)――PDF9〜15頁,商法の印刷頁1〜7。
④ 平成29年司法試験の実施日程等について――1頁の実施日程表。
発行主体はいずれも法務省又は司法試験委員会です。
問題文,出題の趣旨及び採点実感は,上記の商法に関する範囲を実読済みです。
出題の趣旨と採点実感の頁番号の対応は,第1及び第4の表示に従います。
2 法令
会社法・平成29年4月1日施行版(e-Gov法令API)を確認しました。
28条,130条,180条,182条の4・5,234・235条,309・310条,467条,830・831条等の関連条文を用いています。
国立国会図書館・会社法の法令沿革と各改正法の衆議院本文を対照しました。
設問1で用いる28条,300条,309条2項11号,349条4項,362条4項1号及び467条1項5号について,平成23年の行為時から試験時まで,本問への適用内容を変える改正はありません。
平成26年法律第90号による株式併合の制度改正は,平成28年の併合時には施行済みであり,180条4項,182条の2・4・5等を用います。
平成28年の行為時から試験時までの改正である平成28年法律第62号附則12条は943条1号の改正で,本答案の使用条項を変更していません。
当時法の年6分の利息を含め,以上の時点を区別した説明です。
会社法全体に改正がなかったという意味ではありません。
実際の現在の取引・訴訟にこの答案を用いる場合には,現在法と個別事情の確認が別途必要です。
3 裁判例
① 最高裁第一小法廷昭和28年12月3日判決・昭和26年(オ)第510号――2頁全文を確認。定款記載を欠く財産引受の効力と相手方の無効主張。
② 最高裁第三小法廷昭和42年9月26日判決・昭和38年(オ)第147号――4頁全文を確認。財産引受の追認等。
③ 最高裁第三小法廷昭和38年12月24日判決・昭和35年(オ)第675号――3頁全文を確認。発起人の権限と開業準備行為。
④ 最高裁第二小法廷昭和43年11月1日判決・昭和40年(オ)第1206号――2頁全文を確認。代理人資格制限定款に関する判示は2頁。
⑤ 最高裁第一小法廷昭和42年9月28日判決・昭和41年(オ)第664号――3頁全文を確認。他の株主に関する手続の瑕疵の主張は2頁。
設立費用の債務帰属については,公式資料が紹介する判例の立場を使用しました。
その旧大審院判例の原文は本作業では未確認であり,公式資料の紹介の範囲で用い,原文実読済みの判例とは区別します。
公式資料が紹介する財産引受追認の他の判例及び買取資格に関する一部の下級審裁判例も,同じく原文未確認です。
裁判所の公開検索で到達できなかったことを,判例が存在しない根拠とはしていません。
4 確認状態
公式資料の記載,許容分岐,本記事独自の理由付け及び原文未確認の資料を区別しています。
公式資料の紹介を判決原文の確認に置き換えず,採点実感の発展的記述をすべての答案に共通する必須事項へ格上げしません。
本記事の評価項目と重みは,確認した範囲から独自に抽出した学習用の整理です。
試験後の改正・裁判例を,試験当時の結論を変更する根拠には用いていません。