第1 この記事の対象と結論
本稿は,平成29年司法試験論文式試験公法系科目第2問(行政法)について,問題文から独立に予想と答案を固定した後,法務省の出題趣旨・採点実感を照合して作成した参考答案と評価項目である。
評価項目・重み・答案はブログ独自の分析であり,法務省の公式採点基準,配点,得点又は合格可能性を示すものではない。
| 事項 | 内容 |
|---|---|
| 対象問題 | 平成29年・公法系第2問。問題PDFの7〜13頁。 |
| 公式資料の状態 | 出題趣旨はPDF3頁〜4頁の第2問の末尾まで,採点実感はPDF4〜10頁を実読済み。 |
| 答案の基準時 | 平成29年の試験実施時。後の改正法を当時の解答へ適用しない。 |
| 主要事項 | 非申請型義務付け,通行利益,重大な損害,補充性,路線廃止の処分性,裁量統制,内部基準。 |
| 独自評価 | 全32項目,重み5は9項目,重みの合計123。 |
| 参考判例 | 問題掲載の通行妨害排除判例を,裁判所公開原文とも照合した。 |
| 答案の分量 | 改行込み4473字(末尾改行を含む)。5000字以内。 |
| 確認日 | 令和8年10月27日(日本時間)。 |
参考答案は,市長にAへの除却等の命令をさせる訴えを選び,Xらの通行・避難上の利益を具体化して訴訟要件の充足を主張する。
路線廃止には処分性を認め,その違法性について,要件解釈による主張と,裁量を前提とする判断過程・内部基準からの逸脱の主張を分ける。
訴訟要件の評価には反対の結論もあり得るため,第5の解説で採用した立場と留保を示す。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
第4の項目は,公式資料から一つずつ判定できる内容を独自に抽出したものである。
出題趣旨は設問の構造と検討事項,採点実感は論証の深度や誤りの注意を確認する資料として用いた。
表の頁は,リンクしたPDF全体の先頭から数えた頁であり,採点実感本文に印刷された頁番号とは異なる。
「記載なし」は,今回の行政法の関連範囲を実読した結果を示す。
「注意」は誤りの回避を示す項目の性質であり,別建ての減点ではない。
条件付き項目は,該当する構成を採ったときに評価するもので,全答案へ累積的に要求しない。
採点実感には,条文引用の正確さ,設問・論点の区分,文章の明瞭さ,規範と当てはめの接続,X側代理人という立場及び時間配分等の一般的注意もある。
これらは答案全体の点検事項として扱い,以下の設問別32項目へ別建ての加減点として足していない。
手書き文字の可読性や制限時間内に書き切る訓練は,本稿の電子原稿だけで確認できる事項ではない。
法科大学院に向けた制度的な教育上の要望自体を,受験答案の加点項目に置き換えていない。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 本稿の判断基準 |
|---|---|
| 5 | その設問の判断を大きく分ける核心。 |
| 4 | 結論を理由付きで支える主要な論証・当てはめ。 |
| 3 | 通常押さえる法的処理・事情の評価。 |
| 2 | 論証を補強する説明・個別事情・誤りの注意。 |
| 1 | 補充的な引用・記述範囲の確認。 |
両公式資料に登場するかという件数だけで重みを決めず,設問内の役割から判断した。
重みを単純に足した123は公式の100点満点とは別の数値であり,換算して得点を推計することはできない。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
Aは保育園と畑の間にある幅員約1メートルの認定市道を園児の活動に利用していた。
園児と原付との負傷事故を受けて,Aは道路の両端にフェンスを設置し,一般通行者の立入りを遮断した。
市長は園児安全,利用の乏しさ,将来の廃止見込みを理由に監督処分をしなかった。
X1は隣接土地の所有者・居住者であり,その子X2は本件市道を通学に利用していた。
B通りを使うと約400メートル迂回し,Xらは指定避難場所である小学校へ至る経路としても本件市道を利用する予定であった。
市の調査は閉鎖状態で行われ,聞き取りは買収希望者Aだけであった。
全隣地所有者の同意を求める公表内部基準があるが,X1は同意していない。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・仮定・除外 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 1⑴ | 弁護士E。現時点の抗告訴訟。 | 最適な訴えを一つ。仮救済・当事者訴訟・住民訴訟は扱わない。 | 訴えの具体化と全般的な訴訟要件。 |
| 1⑵ | 監督処分をしないこと。 | 1⑴の訴訟要件充足を前提。 | 禁止違反と不発動の違法主張。 |
| 2⑴ | 仮にされた路線廃止。 | 原告適格等は扱わず,区域・供用の効果を検討。 | 取消訴訟の対象となる処分か。 |
| 2⑵ | 路線廃止の違法。 | 取消訴訟は適法との前提。市側の理由付けも想定。 | 要件・裁量・調査・内部基準の違法主張。 |
第4 評価項目と重み
1 設問1⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 非申請型義務付け訴訟を選び,法令上の申請権がないことを説明する。 | 5 | PDF3頁・設問1⑴ | PDF4・6頁 |
| 2 | Y市を被告に,市長がAにフェンス除却を命ずるという一定の処分を特定する。 | 4 | PDF3頁・設問1⑴ | PDF4・6頁 |
| 3 | 行訴法37条の2第3・4項及び9条2項による第三者の原告適格の枠組みを示す。 | 3 | PDF3頁・設問1⑴ | PDF4・6頁 |
| 4 | 道路法71条1項・43条2号の趣旨から,個別の通行利益の保護を理由付ける。 | 4 | PDF3頁・設問1⑴ | PDF4・6〜7頁 |
| 5 | 近隣居住だけで適格を肯定せず,X2の通学とXらの避難に係る生活上の支障を個別に評価する。 | 5 | PDF3頁・設問1⑴ | PDF4・7頁 |
| 6 | 重大な損害を,回復困難性・損害の性質程度・処分の内容性質に即して判断する。 | 3 | PDF3頁・設問1⑴ | PDF4・7頁 |
| 7 | 通学路の距離・交通量・児童の安全と代替路を具体的に評価し,重大な損害を論じる。 | 4 | PDF3頁・設問1⑴ | PDF4頁 |
| 8 | 災害時の緊急避難路としての利益を,通学利益と区別して重大な損害との関係で評価する。 | 3 | PDF3頁・設問1⑴ | PDF4頁 |
| 9 | Aに対する民事妨害排除請求の可能性を,勝訴予測に置き換えず補充性との関係で論じる。 | 5 | PDF3頁・設問1⑴ | PDF7頁 |
| 10 | 【注意】【適用条件:民事との判決効を比較する場合】義務付け判決に取消判決の第三者効があると論じない。 | 3 | 記載なし | PDF7頁 |
| 11 | フェンス除却に加え,必要な原状回復まで命令の内容を具体化する。 | 2 | 記載なし | PDF4頁 |
| 12 | 【適用条件:追加判例を援用する場合】採点実感が挙げる里道用途廃止判例を,生活上の支障と事案差に即して用いる。 | 2 | 記載なし | PDF4・5頁 |
2 設問1⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 13 | 道路法43条2号・71条1項1号の要件判断について,裁量の有無を実質的理由とともに論じる。 | 5 | PDF3頁・設問1⑵ | PDF4・7頁 |
| 14 | フェンスによる交通支障と「みだりに」の意味を,園児安全を含む事情に即して検討する。 | 4 | PDF3頁・設問1⑵ | PDF4・7頁 |
| 15 | 違反該当を前提に,監督処分の発動・内容選択に関する効果裁量を別に検討する。 | 4 | PDF3頁・設問1⑵ | PDF4・7頁 |
| 16 | 利用状況・園児安全・将来廃止とXらの通行利益を個別に評価し,不発動の逸脱濫用を論じる。 | 5 | PDF3頁・設問1⑵ | PDF4・7頁 |
| 17 | 【注意】行訴法37条の2第5項の本案判断に接続し,命令違反の罰則だけから効果裁量を否定しない。 | 3 | PDF3頁・設問1⑵ | PDF4・7頁 |
3 設問2⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 18 | 処分性の定式を示し,路線廃止が道路法に基づく管理権限の一方的行使であることを当てはめる。 | 3 | PDF3頁・設問2⑴ | PDF7頁 |
| 19 | 区域決定後・権原取得前でも91条1項の土地形質変更等の許可制が生じると示す。 | 4 | PDF3頁・設問2⑴ | PDF5・8頁 |
| 20 | 権原取得後・供用前は91条2項により4条等が準用されると,時点を分けて示す。 | 3 | PDF3頁・設問2⑴ | PDF8頁 |
| 21 | 供用後は4条の私権行使制限が働き,路線廃止が区域・供用の法効果を解除すると論じる。 | 5 | PDF3〜4頁・設問2⑴ | PDF5・8頁 |
| 22 | 通行者の地位を,生活上不可欠な利用と著しい生活支障という限定を踏まえて検討する。 | 4 | PDF4頁・設問2⑴ | PDF5・8頁 |
| 23 | 【注意】敷地がY市所有であることだけで処分性を否定せず,制度上の私人への効果から説明する。 | 3 | PDF3頁・設問2⑴ | PDF8頁 |
4 設問2⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 24 | 10条1項の必要性要件につき,利用の残存と道路機能・代替路等との関係を両方向から解釈する。 | 5 | PDF4頁・設問2⑵ | PDF5・8頁 |
| 25 | 必要性判断の要件裁量を,文言だけでなく判断事項の性質から検討する。 | 4 | PDF4頁・設問2⑵ | PDF5・8頁 |
| 26 | 要件充足後にも廃止するかを選ぶ効果裁量があるかを,必要性判断と区別して論じる。 | 3 | PDF4頁・設問2⑵ | PDF5・8頁 |
| 27 | 閉鎖下・Aのみの調査が利用実態の認定を歪めることを,実体判断の考慮不足へ接続する。 | 5 | PDF4頁・設問2⑵ | PDF8頁 |
| 28 | Xらの生活上の不利益,従前の利用,代替路の実効性,園児安全を具体的に比較衡量する。 | 4 | PDF4頁・設問2⑵ | PDF5・8頁 |
| 29 | 全員同意基準を裁量基準とし,申請の審査基準や特定人への不利益処分の処分基準と区別する。 | 5 | PDF4頁・設問2⑵ | PDF5・8頁 |
| 30 | 内部基準自体の合理性を,10条1項の廃止要件と沿道利益の把握に結び付けて説明する。 | 4 | PDF4頁・設問2⑵ | PDF5・9頁 |
| 31 | 基準に従う過程の意見聴取・情報収集機能を具体的に説明する。 | 3 | 記載なし | PDF5頁 |
| 32 | 基準自体の合理性と個別逸脱の合理性を分け,X1の不同意を無視する理由を審査する。 | 4 | PDF4頁・設問2⑵ | PDF5・9頁 |
5 重みの分布
重み5は9項目,重み4は11項目,重み3は10項目,重み2は2項目,重み1は0項目であり,合計32項目である。
重みの合計は9×5+11×4+10×3+2×2=123である。
重み5は,番号1の訴訟類型,5の個別の通行利益,9の補充性,13の要件裁量,16の不発動の具体的評価,21の廃止による法効果の解除,24の必要性要件の解釈,27の調査と実体判断の接続,29の内部基準の法的性質である。
これらは単なる説明の充実にとどまらず,誤ると訴訟の経路又は判断構造が変わるため,主要論証を補う重み4と区別した。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
以下は,平成29年の試験当時の法令と問題の与件に従い,Xらの相談を受けた弁護士の立場で組み立てた参考答案である。
答案は「1→(1)」の順に論点を分け,訴訟要件,禁止違反,裁量,法的効果を区別する。
結論は本稿が採用した主張構成であり,法務省が唯一の結論として指定したものではない。
本文は改行込み4473字(末尾改行を含む),改行を除くと4381字である。
2 答案
1 設問1⑴
(1)訴えの選択と特定
Y市を被告に,Y市長がAに対し,道路法71条1項1号に基づき本件フェンスの除却及び道路の原状回復を命ずることを求める非申請型義務付け訴訟(行政事件訴訟法3条6項1号,37条の2)を提起する。
フェンスは私人Aの設置物であり,市長による除却等の命令を求めるのであって,市に直接撤去という事実行為を求めるものではない。
道路法上,Xらに監督処分を求める申請権は与えられていないから,申請型義務付けではない。
道路管理者はY市であり(道路法16条),市長の所属するY市が被告となる。
対象フェンス,名宛人A及び命令内容を特定できるため,「一定の処分」に当たる。
(2)原告適格
行訴法37条の2第3・4項,9条2項により,根拠法令の趣旨目的,保護される利益の内容性質,侵害の態様程度を考慮する。
道路法71条1項は,法違反による道路機能の支障を除き,その適正な管理を確保するための規定である。
同法43条2号は道路構造だけでなく交通への支障も禁止し,一般交通の用に供する道路の保全を図っている。
この公益的な保護に加え,当該道路を日常生活上不可欠なものとして利用し,妨害によって生活に著しい支障を受ける者の通行利益を,個別に保護する趣旨も含むと解する。
したがって,近隣に住む又は通行できれば便利であるというだけでは足りず,保護される第三者の範囲は限定される。
X2は現に通学に利用し,Xらの住宅は本件市道に接し,同道は指定避難場所である小学校に至る経路でもある。
B通りも使えるが,迂回に約400メートルを要し,普通自動車が通らず交通量の少ない経路の喪失は児童の通学及び親子の迅速な避難に具体的な支障を及ぼす。
これは不特定の通行者の便宜を超える生活上の必要性であり,X2の通学及びXらそれぞれの避難上の利益を保護すべきものとして,両名の原告適格を主張する。
(3)重大な損害
同条1・2項により,回復困難性,損害の性質程度,処分の内容性質を検討する。
X2には毎日の通学で迂回の負担が生じ,交通量の多い経路を通ることによる身体の安全への影響も問題となる。
また,Xらにとって,災害時に指定避難場所まで約400メートル短い経路を使えないことは,平時の便利さとは異なり生命身体の安全に関係する。
B通りで到達できるとの反論はあるが,到達の可否だけでなく,児童の通学と非常時の迅速性という用途に即して代替性を評価すべきである。
道路の完全閉鎖はこれらの支障を継続させ,身体被害が生じた後の金銭賠償では十分に回復できない。
災害発生の切迫性が示されていない点には留意を要するが,安全な避難経路を失う損害のおそれは,発災後に初めて考慮すべきものではない。
通学と避難の利益をそれぞれ評価し,いずれも単なる不便を超える重大な損害のおそれがあると主張する。
(4)補充性
参考判例に照らし,Aに通行の自由権に基づく民事の妨害排除請求をする可能性がある。
「他に適当な方法」は損害回避の実効性で判断するので,民事訴訟も含むと解すれば,Aにフェンスの除却を求め,実現できる場合にはXらの通行・避難の支障も除けるから,補充性を欠くとの有力な反論がある。
一般通行と個別の民事救済の保護範囲が異なるだけでは,この反論を退けられない。
これに対し,Xらは,本条の補充性は行政庁の処分による救済を得るための他の公法上の手段を優先する趣旨であり,別個の私法上の権利を訴訟物とする民事訴訟は含まないと主張する。
義務付け訴訟はAへの私法上の請求を代行するものではなく,道路管理者が監督権限を行使すべきかという公法上の義務を審査する制度である。
民事排除で同じ損害を除ける可能性は認めても,その請求を先行させなければ公法上の義務の審査を受けられないとするのは,重大な損害と限定された原告適格を別に要求する本条の救済を過度に狭めると考える。
本件ではXらに道路法上の申請権はなく,路線廃止もまだされていないから,その取消しによる救済もない。
この解釈により民事訴訟の可能性を妨げとせず,前記の利益・損害の評価に立ち,訴訟要件を満たすと主張する。
もっとも,「他に」という文言は民事訴訟を除外していない。民事訴訟を含む解釈を採り,民事排除がXらの損害を回避するのに適当と認めるなら,補充性は否定される。
この争点を,民事訴訟の勝訴見込みの断定や義務付け判決の第三者効の有無へ置き換えてはならない。
2 設問1⑵
(1)禁止違反と要件裁量
訴訟要件の充足を前提に,行訴法37条の2第5項の本案要件を検討する。
道路法43条2号の「みだりに」とは正当な理由なくという意味であり,道路の公共的機能に照らして,行為の目的及び必要性・相当性から判断すべきである。
同号は何人にも適用され,違反には刑罰もある(102条3号)。
道路管理上の措置選択とは異なり,この一般的禁止の要件は裁判所が解釈適用すべきもので,特別な専門判断に委ねる趣旨もないから,違反該当性について要件裁量は認められない。
フェンスは一般通行を全面的に排除し,交通に支障を生じさせる。
園児の負傷事故と再発のおそれは安全措置の必要性を示すが,Aによる園地と畑の一体利用から公道の専用が正当化されるわけではない。
園児の横断時の引率や飛び出し防止等の方法による両立を検討せず,一般通行を全面的に遮断することは相当でない。
利用が乏しいとの認定にも後記の調査上の問題があり,将来廃止が見込まれても現時点は供用中の道路である。
したがって,同号違反を否定した市長の判断は誤りで,Aは71条1項1号の違反者に当たる。
(2)不発動の裁量逸脱・濫用
同項は「できる」とし,道路の状況や支障の程度に応じて発動の要否・方法を選ぶ必要があるから,効果裁量を認めている。
違反に当たることだけで除却命令義務が明らかになるわけではなく,不発動の合理性を別に検討する。
命令違反に罰則があることも,命令を発するかの裁量を否定する根拠ではない。
市長の理由のうち,保育園関係者以外の利用が乏しいとの認定は,閉鎖下で利害関係人Aだけに聴いた調査に依存し,X2の通学や従前の原付通行を適切に捉えていない。
園児の安全は重視すべきであるが,沿道住民の通行と非常時の避難を全面的に犠牲にしてよいという理由にはならない。
さらに,将来の廃止見込みを現在の通行妨害の放置へ結び付けることは,現在の道路管理という判断の基準時を誤る。
これらの誤った事実評価と利益の看過により,安全確保と通行回復を両立させる除却等の命令を全く発しない判断は裁量を逸脱・濫用する。
したがって,行訴法37条の2第5項により処分を義務付けるべきであると主張する。
3 設問2⑴
処分とは,公権力主体の行為で,直接国民の権利義務その他の法的地位に変動を生じさせるものをいう。
市長の路線廃止は,道路法10条1項に基づく管理権限を行使し,同意の有無にかかわらず一方的に行うものであるから,公権力性がある。
路線認定後の区域決定により,供用前で権原取得前でも,91条1項の土地形質変更や工作物新築等の許可制が生じる。
権原取得後は,供用前でも同条2項により4条等が準用され,供用後には道路構成物について4条の私権行使制限が働く。
所有権移転等は例外的に許されるが,自由な使用は制限されるのであり,区域決定と供用開始はそれぞれ法的地位に影響する。
路線廃止は区域・供用を自動的に消滅させ,これらの制限を解除する法的効果を有する。
本件敷地が市有地であっても,私人所有地も予定する制度の一般的な法効果を踏まえた行為の性質は変わらない。
通行者については,単に便利であるという利益が常に独立の権利となるわけではないが,道路を生活上不可欠なものとして利用し,通行不能により生活に著しい支障を受ける者には,法的に保護すべき通行上の地位がある。
供用によって保障されていたこの地位を一方的に消滅させる効果もあるから,路線廃止は処分に当たる。
4 設問2⑵
(1)要件の解釈及び裁量
道路法10条1項は「一般交通の用に供する必要がなくなつたと認める場合」に廃止を許す。
Xらは,1・2条が一般交通を確保する趣旨から,X2の通学等の利用が残り,道路の機能が失われていない以上,要件を欠くと主張する。
普通自動車が通れなくても,歩行者・自転車・原付の交通も一般交通である。
これに対し市長は,現実の利用が残っていても,交通量や代替路等から道路として供する必要性が失われれば廃止できると反論し得る。
必要性は単なる利用の有無とは異なり,道路網,周辺状況,安全等の総合的・将来的判断を要するから,要件判断に一定の裁量を認める余地はある。
また,要件充足後も,廃止の時期や沿道への影響等を考慮して廃止を選ぶ必要があり,「できる」とする文言と併せて効果裁量も認められる。
しかし,これらの裁量を認めても,事実の基礎を欠き,考慮事項を看過し,又は評価が著しく不合理ならば,逸脱・濫用となる。
(2)調査と利益評価
閉鎖後の利用の乏しさは,従前から必要性が乏しかったことを示すものではない。
買収を希望するAだけへの聴取は偏りがあり,従前の原付通行やX2の現実の利用を含め,沿道住民から閉鎖前の実態を確認すべきであった。
これは独立の法定聴聞違反ということではなく,必要性判断の基礎となる利用実態や不利益を取り落とす点で,実体判断の瑕疵になる。
また,B通りが近くにあるというだけでは,児童の通学の安全,約400メートルの迂回,非常時の避難という用途に応じた代替性を評価できない。
園児の安全を正当に重視しつつ,通行確保と両立する方法を調べず,Aの買収希望や自動車が通れないことを過大評価し,Xらの利益を看過した判断は不合理である。
(3)内部基準
全隣地所有者同意の基準は法律上の要件ではなく,職権による廃止の裁量基準である。
申請に対する処分でないから審査基準ではなく,廃止は特定人を名宛人として義務を課し権利を制限する処分ではないため,行政手続法2条4号の不利益処分の処分基準でもない。
同意を求める過程には,沿道住民の意見を聴き,利用実態・廃止による支障の資料を広く集め,10条1項の必要性を的確に判断する合理的な機能がある。
ただし,法定の拒否権を各所有者に与えるものではなく,不同意があれば常に廃止できないわけではない。
基準自体の合理性とは別に,個別の逸脱を正当化する事情を検討すべきである。
本件では,X1の反対理由である通学・避難上の支障を十分調べず,「法律上の要件ではない」と説明するだけで基準を外しており,その情報収集機能を代替する検討もない。
したがって,合理的理由のない逸脱と考慮不尽があり,路線廃止は裁量を逸脱・濫用して違法であると主張する。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案1は番号1〜12,答案2は13〜17,答案3は18〜23,答案4は24〜32に対応する。
番号12は追加判例を援用する場合の条件付き項目であり,本答案では採用していない。
番号10の第三者効に関する注意について,本答案は判決効の差を補充性の根拠にしていない。
主な対応は,答案1(1)の訴訟類型・命令の特定(番号1・2),1(2)の通行利益(4・5),1(4)の補充性(9),2(1)の要件裁量(13),2(2)の不発動(16),3の法効果(21),4(1)の必要性解釈(24),4(2)の調査(27),4(3)の裁量基準(29)である。
条件付き項目を除く重み3以下の番号3・6・8・11・17・18・20・23・26・31は,各該当段落で扱っている。
第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 1 | 5 | 非申請型義務付け訴訟を選び,法令上の申請権がないことを説明する。 | 答案1(1)。非申請型と申請型を区別。 |
| 2 | 4 | Y市を被告に,市長がAにフェンス除却を命ずるという一定の処分を特定する。 | 答案1(1)。Aへの除却・原状回復命令。 |
| 4 | 4 | 道路法71条1項・43条2号の趣旨から,個別の通行利益の保護を理由付ける。 | 答案1(2)。71条・43条の機能。 |
| 5 | 5 | 近隣居住だけで適格を肯定せず,X2の通学とXらの避難に係る生活上の支障を個別に評価する。 | 答案1(2)。不可欠性と著しい生活支障。 |
| 7 | 4 | 通学路の距離・交通量・児童の安全と代替路を具体的に評価し,重大な損害を論じる。 | 答案1(3)。通学距離と身体安全。 |
| 9 | 5 | Aに対する民事妨害排除請求の可能性を,勝訴予測に置き換えず補充性との関係で論じる。 | 答案1(4)。民事勝訴判断と補充性を分離。 |
| 10 | 3 | 【注意】【適用条件:民事との判決効を比較する場合】義務付け判決に取消判決の第三者効があると論じない。 | 判決効の比較を採用せず,適用外。 |
| 12 | 2 | 【適用条件:追加判例を援用する場合】採点実感が挙げる里道用途廃止判例を,生活上の支障と事案差に即して用いる。 | 追加判例の原文未確認のため不採用。 |
| 13 | 5 | 道路法43条2号・71条1項1号の要件判断について,裁量の有無を実質的理由とともに論じる。 | 答案2(1)。一般的禁止・刑罰・判断性質。 |
| 14 | 4 | フェンスによる交通支障と「みだりに」の意味を,園児安全を含む事情に即して検討する。 | 答案2(1)。園児安全と全面遮断の相当性。 |
| 15 | 4 | 違反該当を前提に,監督処分の発動・内容選択に関する効果裁量を別に検討する。 | 答案2(2)。管理上の措置選択を別論。 |
| 16 | 5 | 利用状況・園児安全・将来廃止とXらの通行利益を個別に評価し,不発動の逸脱濫用を論じる。 | 答案2(2)。市長の各理由と利益看過。 |
| 19 | 4 | 区域決定後・権原取得前でも91条1項の土地形質変更等の許可制が生じると示す。 | 答案3。権原取得前の許可制。 |
| 21 | 5 | 供用後は4条の私権行使制限が働き,路線廃止が区域・供用の法効果を解除すると論じる。 | 答案3。供用と廃止による制限解除。 |
| 22 | 4 | 通行者の地位を,生活上不可欠な利用と著しい生活支障という限定を踏まえて検討する。 | 答案3。単なる便宜と生活上不可欠性を区別。 |
| 24 | 5 | 10条1項の必要性要件につき,利用の残存と道路機能・代替路等との関係を両方向から解釈する。 | 答案4(1)。残存利用と必要性を区別。 |
| 25 | 4 | 必要性判断の要件裁量を,文言だけでなく判断事項の性質から検討する。 | 答案4(1)。総合的・将来的判断。 |
| 27 | 5 | 閉鎖下・Aのみの調査が利用実態の認定を歪めることを,実体判断の考慮不足へ接続する。 | 答案4(2)。閉鎖下観測の歪みを実体判断へ接続。 |
| 28 | 4 | Xらの生活上の不利益,従前の利用,代替路の実効性,園児安全を具体的に比較衡量する。 | 答案4(2)。代替路と各利益の比較。 |
| 29 | 5 | 全員同意基準を裁量基準とし,申請の審査基準や特定人への不利益処分の処分基準と区別する。 | 答案4(3)。審査基準・処分基準から区別。 |
| 30 | 4 | 内部基準自体の合理性を,10条1項の廃止要件と沿道利益の把握に結び付けて説明する。 | 答案4(3)。10条要件の認定に資する合理性。 |
| 32 | 4 | 基準自体の合理性と個別逸脱の合理性を分け,X1の不同意を無視する理由を審査する。 | 答案4(3)。合理的逸脱理由と代替調査の欠如。 |
(2) 設問1⑴
出題趣旨は,非申請型義務付け訴訟について,一定の処分,原告適格,重大な損害,補充性を法条に即して検討することを求める。
採点実感は,道路法71条・43条からの利益保護の説明,近隣居住者が受ける生活上の損害,民事訴訟と補充性の関係の具体的検討を重視している。
答案は,命令の特定(1・2)と法令の保護範囲(3〜5)を分け,通学・避難の利益をそれぞれ重大な損害に対応させた(6〜8)。
本稿は,代替路があるだけで日常生活上の必要性が消えるとはせず,約400メートルの迂回と児童・避難という用途から,Xらに有利な構成を採る。
ただし,B通りを含めた道路状況の評価によっては,単なる利便性の低下にとどまるとして,原告適格又は重大な損害を否定する結論もあり得る。
特にX1については通学利用そのものを補ってはならず,本人の避難上の利益として評価する必要がある。
補充性については,民事訴訟も「他に適当な方法」に含める解釈が文言上成り立ち,民事排除が実現すればXら自身の通行・避難の支障も回避できることを,まず認める(9)。
本答案は,それでも,公法上の義務の審査という制度の独立性と,重大な損害・限定された原告適格という他の制約を踏まえ,他の公法上の救済を優先させる趣旨と解して,民事訴訟を含めないとの主張を採った。
これは本稿の採る争いのある解釈であり,公式資料が民事訴訟を除外すると判示又は指定したものではない。
民事訴訟を含める解釈の下では,同じ損害を回避するのに適当な民事排除が認められるなら補充性を欠くのであり,単に一般交通と民事救済の保護範囲が違うというだけで肯定できない。
どの解釈でも,本問の資料にない事情から民事救済が実効的でないと断定することはできない。民事請求の勝訴見込みの長い先取りや,義務付け判決に取消判決の第三者効があるとの説明も避ける(10)。
(3) 設問1⑵
出題趣旨・採点実感は,43条2号違反の判断についての要件裁量と,71条1項の発動・内容選択についての効果裁量を分けることを求める。
採点実感は,法律の文言だけで裁量の有無を決めず,実質的な理由を示すこと,市長が掲げた各理由を個別に評価することを指摘している。
答案は,一般的な禁止を裁判所が解釈適用することと,現場の管理措置を選択することを区別した(13〜15)。
園児安全という目的を軽視せず,全面的な一般通行排除との均衡,利用認定の基礎,将来の廃止と現在の管理の時間差を検討した(16・17)。
引率や飛び出し防止は,問題文が実施済みとした事実ではなく,両立の可否を検討するため本稿が示した方法である。
これらが具体的状況で実施可能かという評価は残るため,代替策の名前だけで不発動が違法になると読むべきではない。
(4) 設問2⑴
出題趣旨・採点実感は,処分性の定義に加え,区域決定・供用開始が敷地所有者と通行者に及ぼす法効果を求める。
採点実感は公権力性の当てはめ,91条1・2項と4条の段階別の正確な読解,通行者の生活上不可欠性の検討を指摘する。
答案は,法に基づく一方的権限行使(18),権原取得前後の違い(19・20),廃止による制限解除(21)を明示した。
通行者の地位は,通行できれば便利という利益と,生活上不可欠な利用が阻害される場合とを分けた(22)。
市有地であることだけで処分性を否定せず,私人所有地も予定する制度の法効果から行為の性質を判断する(23)。
ここで処分性を認めることと,すべての通行者の原告適格を認めることは別であり,設問2ではXらの原告適格を再論しない。
(5) 設問2⑵
出題趣旨は,現実に利用があれば廃止できないという解釈と,利用程度や代替路等によっては必要性が失われ得るという解釈の検討を求め,さらに要件裁量・効果裁量の有無を問う。
採点実感は,両裁量の区別とその実質的理由,閉鎖下の調査がなぜ不合理な判断につながるかの説明を重視する。
答案は,X側の第一主張を示した上で,市側の裁量論を前提とする予備的な主張を置いた(24〜26)。
閉鎖後に利用者が少ないという観測から,閉鎖前にも道路の必要性が乏しかったとは直ちにいえない。
Aだけへの聴取によって通学・避難等の事情を把握しないことは,ここでは法定の聴聞違反ではなく,実体判断の基礎を欠く問題として扱う(27・28)。
内部基準については,法的性質,基準自体の合理性,個別に外れることの合理性を分ける(29・30・32)。
採点実感は,同意取得の過程が利害関係者の意見聴取と利用実態に関する資料収集につながるという理解を,優秀化の要素として挙げている。
答案はこの情報収集機能を説明し,単に公表されていたから拘束されるという説明にとどめていない(31)。
(6) 答案の弱点と扱わなかった事項
通行利益の不可欠性,重大な損害,民事救済と補充性の評価は,反対事情の捉え方によって結論が変わり得る。
本答案はXらの立場から構成した一例であって,訴訟の勝訴を保証するものではない。
採点実感が補充的に挙げる里道用途廃止の追加判例は,原文を確認できていないため,その判旨を答案の根拠へ追加していない(12)。
仮の救済,当事者訴訟,住民訴訟,路線廃止取消訴訟の原告適格等は設問の指定により扱っていない。
売買の効力や国家賠償の成否も,本問の指定された到達点とは別である。
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1 同じ年度の司法試験の記事
年度・科目別の過去問記事への入口は,司法試験過去問の総合索引を参照されたい。
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3 本問の論点に関連する資料
義務付け訴訟の条文構造は,行政事件訴訟法の一部を改正する法律(平成16年法律第84号)でも確認できる。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①平成29年司法試験論文式試験問題・公法系:PDF7〜13頁の第2問を実読した。
②平成29年司法試験論文式試験問題出題趣旨:PDF3頁の第2問見出しから4頁の第2問の末尾までを実読した。
③平成29年司法試験の採点実感・公法系:PDF4頁「公法系科目第2問」の表題から10頁末尾までを実読した。
2 法令
道路法は問題掲載の抜粋を用いた。
行政事件訴訟法は,平成29年4月1日施行版の公式法令データの必要条文を照合した。
行政手続法の不利益処分,審査基準及び処分基準の区別は,制定原文の2条・5条・12条とも照合した。
後発の法改正を当時の答案要求へ持ち込んでいない。
3 裁判例
問題に抜粋された最高裁判所昭和39年1月16日第一小法廷判決(民集18巻1号1頁)は,裁判所公開原文全3頁を実読した。
同判決は私人に対する通行妨害排除の事案であり,非申請型義務付け訴訟の訴訟要件を直接判示したものではない。
生活上必須の通行自由を保護する考え方を参照する場合にも,代替路を含む本問の事実関係との違いを検討する必要がある。
4 確認状態
問題・出題趣旨・採点実感は,上記の対象行政法の範囲を実読済みである。
参考答案の結論,評価項目の切り分け,重み及び代替策の提案は本稿独自の分析であり,公式資料の原文又は公式配点と同一ではない。
公式資料が許容する検討の幅と,本稿が採った主張構成を区別している。
追加判例の原文確認の限界は,第5の末尾に示した。