第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
米国のAIキャラクター対話サービス「Character.AI」を利用していた14歳の少年が2024年2月28日に亡くなり,母親らが運営会社,その創業者及びGoogleを相手に損害賠償を求める訴訟を起こした。
この訴訟では,フロリダ州中部地区連邦地方裁判所が,令和7年(2025年)5月の決定で,AIの出力を合衆国憲法修正1条の保護を受ける言論とする主張をその段階では採らず,アプリを製造物責任の請求との関係で「製造物」と扱った。
事件はその後和解し,2026年10月15日に原告が訴えを取り下げた。
同じ月の12日には,運営会社が連邦破産法第11章(チャプター11)の手続を申し立てている。
本記事は,裁判所の記録,運営会社の公表資料及び米国の行政機関・州議会の資料に基づき,この経過を整理し,日本法で同じような問題が起きた場合の考え方の違いを示す。
基準日は2026年10月23日である。
2 結論の要点
① 令和7年5月の決定は,訴えを却下するかどうかの段階の判断であり,AIの出力が言論に当たらないと確定したものでも,運営会社等に損害賠償責任があると認めたものでもない。
② 事件は和解で終わり,和解の条件は裁判所の記録からは分からない。本案についての判断は示されていない。
③ 日本の製造物責任法は製造物を「製造又は加工された動産」と定義しており,消費者庁もソフトウェア自体は同法の対象にならないと説明している。日本で同じような被害が問題になれば,民法709条の不法行為や利用契約上の責任が中心になる。
④ 運営会社の破産手続では,ディズニーの関連会社が技術と特許の非独占的なライセンス等を対価2000万ドルで受ける契約が基準の入札とされた。運営会社の申立書は,より良い申出が無いか,この取引が承認されなければ,サービスを終了するとしている。
第2 訴訟の経過
1 提訴と請求の内容
訴状は2024年10月22日にフロリダ州中部地区連邦地方裁判所オーランド支部に提出された(事件番号 6:24-cv-01903)。
訴状によれば,少年は2023年4月にCharacter.AIの利用を始め,2024年2月28日に14歳で亡くなった。
被告は,運営会社のCharacter Technologies, Inc.,創業者2名,Google LLC及びAlphabet Inc.である。
請求の原因は11項目に分かれている。
中心は,警告上の欠陥と設計上の欠陥を理由とする製造物の厳格責任,過失による責任,遺族による不法死亡の請求であり,不当利得やフロリダ州の欺瞞的・不公正取引慣行法違反等も挙げられている。
後に修正された訴状について,裁判所の決定は,原告が年齢の確認が無いこと,報告の仕組みが無いこと,キャラクターが人間のようにふるまうよう作られていること,利用者が不適切な内容を除外できないこと等を主張していると要約している。
2 令和7年5月の決定
被告らは訴えの却下を申し立て,裁判所は令和7年(2025年)5月20日付けの決定(同月21日登録。記録番号115)で,申立ての一部を認め,一部を退けた。
この段階では,原告の主張する事実を真実と仮定して,請求が法律上成り立ちうるかが審理される。
修正1条については,裁判所は,運営会社が利用者の受け取る権利を代わりに主張できることは認めた。
そのうえで,大規模言語モデルに依拠するAIの出力が,人間による表現上の選択といえるかには疑問があるとして,「the Court is not prepared to hold that Character A.I.’s output is speech」と述べた(決定31頁)。
決定は,チャットボット自体は人ではなく権利章典の保護を受けないとする第11巡回区の先例も脚注で引いている(決定27頁注8)。
製造物責任については,原告の請求が,アプリの中の考えや表現ではなくアプリの設計上の欠陥から生じる限りで,「Character A.I. is a product for the purposes of Plaintiff’s product liability claims」と判断した(決定36頁)。
裁判所は,少年が害を受けたとされる会話は,主張されたアプリの設計上の欠陥があったからこそ生じたとして,前記1の主張を会話の内容ではなく設計の問題として扱った。
決定の結論は,故意による精神的苦痛の惹起の請求を修正の機会を与えずに退け,その他の請求に対する却下申立てを退けたものである。
創業者2名は人的管轄を争ったが,裁判所は管轄に関する証拠開示を経た後の再申立てを認めた。
Alphabet Inc.は,原告の申出により訴えから外された(決定1頁注1)。
3 和解と取下げ
2026年1月7日,当事者全員は,調停による和解に原則として合意した旨を裁判所に届け出た(記録番号242)。
裁判所は同日,フロリダ州中部地区の地方規則3.09(b)に基づき,事件を「without prejudice」(再訴を妨げない形)で終了させ,90日以内に合意による終局命令の提出又は事件の再開の申立てがなければ「with prejudice」に移るとの命令をした(記録番号244)。
この期限は,その後2回延長された。
2026年10月15日,原告は連邦民事訴訟規則41条(a)(1)(A)(i)に基づき,全被告に対する訴えを「with prejudice」(同じ請求で再び訴えることができない形)で任意に取り下げた(記録番号278)。
取下書は,当事者が和解契約に署名し,必要な裁判所の承認をすべて得た後の取下げであると述べている。
和解の金額等の条件は,裁判所の記録からは分からない。
日本の訴訟では,裁判所で和解が成立して調書に記録されると,その記録は確定判決と同一の効力を持つ(民事訴訟法267条1項)。
これに対し,この事件では,当事者が裁判所の外で和解契約を結び,原告が訴えを取り下げる形で手続が終わっている。
4 同じ会社を相手とする他の訴訟
裁判記録の検索サービス(CourtListener)では,同じ運営会社を被告とする訴訟が,テキサス州東部地区(2:24-cv-01014,2024年12月提訴),ニューヨーク州北部地区(1:25-cv-01295),バージニア州東部地区(2:25-cv-00824)及びカリフォルニア州北部地区(3:26-cv-08400,2026年8月提訴)の各連邦地方裁判所にも係属し,又は係属していたことが確認できる。
これらの訴訟の内容と結論は,本記事では個別に確かめていない。
第3 運営会社の破産手続
1 チャプター11の申立て
Character Technologies, Inc.は,2026年10月12日,デラウェア州連邦破産裁判所にチャプター11の手続を申し立てた(事件番号 26-11603)。
チャプター11では,原則として債務者自身が財産の管理を続けながら(debtor in possession),事業の再建又は売却を進める。
米国のチャプター11と日本の民事再生手続の関係は,米国チャプター11と知的財産ライセンス――ライセンサー・ライセンシー別の§365対応及びマレリのチャプター11と取引先の売掛金―20日商品・重要取引先でも扱っている。
2 売却手続の申立てとディズニーの基準入札
運営会社は,2026年10月13日,連邦破産法105条,363条及び365条に基づき,資産の売却手続(入札手続)の承認を求める申立てをした(記録番号15)。
申立書によれば,運営会社は2026年9月18日,ディズニーの関連会社(Disney Worldwide Services, Inc.)との間で,従業員の多くの移籍と移行期間の業務支援等を内容とする契約を結んでいた。
この申立てで基準の入札(ストーキング・ホース)とされた取引の内容は,次のとおりである。
① 運営会社の技術と特許について,永久・非独占・取消不能のライセンスを与えること等が対象であり,それ以外の資産は運営会社に残る。
② 対価は現金2000万ドルで,うち750万ドルは申立て前に支払われている。
③ ディズニー以外への売却が成立した場合等に支払う,費用償還を含む70万ドルの違約金(break-up fee)の取決めがある。
申立書は,運営会社の資金難の原因として,開発費の高さに加え,訴訟に伴う潜在的な責任と規制への対応を挙げている。
また,2025年8月以降,約28の候補に事業の引受けを打診したが,製品と利用者層は評価されたものの,訴訟と規制の重荷が大きすぎるとの反応が続いたと述べている。
そのうえで,より高い又はより良い申出が得られないか,ディズニーとの取引が承認されない場合には,Character.AIのプラットフォームを終了する(wound down)としている。
3 州の司法長官の関与
申立ての直後から,マサチューセッツ州,ニュージャージー州,ケンタッキー州,フロリダ州等の司法長官が手続への出頭を届け出ている。
2026年10月14日には,州の司法長官の連合が,運営会社の規制,安全及びプライバシーに関する未解決の問題について,関心の表明と権利の留保を届け出た(記録番号33)。
債権者集会(連邦破産法341条の集会)は2026年11月19日に開かれる予定である。
4 日本の倒産手続との比較
日本の民事再生手続で,再生債務者が事業の全部又は重要な一部を譲渡するには,裁判所の許可が必要であり,裁判所は事業の再生のために必要と認める場合に限り許可できる(民事再生法42条1項)。
許可にあたっては,知れている再生債権者と労働組合等の意見を聴かなければならない(同条2項・3項)。
利用者の会話等の個人データが事業とともに引き継がれる場合,日本の個人情報保護法では,合併その他の事由による事業の承継に伴う提供を受ける者は「第三者」に当たらないとされている(個人情報保護法27条5項2号)。
もっとも,承継した事業者が,元の利用目的を超えて自由に使えるわけではない。
AIサービスの提供者が倒産したときの利用者側の備えは,AIベンダーの倒産・支配権変更・事業譲渡に備える契約実務-解除権,データ返還・削除,ライセンス継続及び損害賠償で整理している。
第4 未成年者の利用をめぐる規制の動き
1 運営会社による18歳未満の自由会話の停止
運営会社は,2025年10月29日,18歳未満の利用者がAIと自由に会話する機能(open-ended chat)を,遅くとも同年11月25日までに廃止すると発表した。
移行期間中は,18歳未満の利用時間を1日2時間に制限し,その後段階的に短くするとした。
年齢の確認には,自社で開発した年齢推定の仕組みと,Persona等の外部の仕組みを組み合わせるとしている。
発表は,報道や規制当局からの質問を受けて判断したと説明している。
2 連邦取引委員会の調査
米国の連邦取引委員会(FTC)は,2025年9月,コンパニオンとしてふるまうAIチャットボットを提供する7社に対し,FTC法6条(b)に基づく報告命令を出した。
対象は,Alphabet,Character Technologies,Instagram,Meta Platforms,OpenAI OpCo,Snap及びX.AIである。
この調査は,特定の法執行を目的としない調査であり,子どもや10代の利用者への悪影響の測定・軽減の方法,利用の制限,会話から得た個人情報の利用等を尋ねている。
3 カリフォルニア州の州法(SB 243)
カリフォルニア州では,コンパニオン・チャットボットを規律する州法(Senate Bill No. 243)が,2025年10月13日に知事の承認を受けた。
同法は,利用者の社会的な欲求を満たし,複数回の対話を通じて関係を続けられるAIをコンパニオン・チャットボット(companion chatbot)とし,顧客対応だけに使われるボット等を除いている。
同法が運営者に課す主な義務は,次のとおりである。
① 利用者が人間と対話していると誤認するおそれがある場合に,AIである旨を明確に通知すること。
② 自殺や自傷に関する内容を防ぐ手順を整え,利用者を危機相談窓口へ案内する仕組みを設け,その手順をウェブサイトで公表すること。
③ 未成年者と分かっている利用者には,AIであることを開示し,継続した対話について少なくとも3時間ごとに休憩を促してAIである旨を通知し,性的な画像等を防ぐ措置をとること。
④ 2027年7月1日から,州の自殺予防局(Office of Suicide Prevention)へ毎年報告すること。
違反によって損害を受けた者は,差止め,実損害と1違反あたり1000ドルのいずれか大きい額の損害賠償,合理的な弁護士費用等を求めて訴えることができる(同法による事業・職業法典22605条)。
4 対話AIの利用と利用者の状態
OpenAIは,2025年10月27日,ある週にChatGPTを利用した人の約0.15%に,ChatGPTへの感情的な愛着が高まっている兆候がみられたとの初期分析を公表した。
同じ公表は,同じ週の利用者の約0.15%の会話に,自殺の計画や意図の可能性を明示的に示す内容が含まれていたとも推定している。
いずれも検出が難しい稀な会話についての推定値であり,同社自身も今後変わりうるものとしている。
第5 日本法ではどう考えるか
1 アプリは製造物責任法の「製造物」に当たらない
製造物責任法2条1項は,「製造物」を「製造又は加工された動産」と定義している。
消費者庁の「製造物責任法の概要Q&A」のQ5は,ソフトウェア自体は無体物であり同法の対象とならないが,ソフトウェアを組み込んだ製造物については対象と解される場合があると説明している。
したがって,日本では,スマートフォンのアプリやクラウド上の対話AIそのものについて,製造物責任法に基づく請求をすることは難しい。
AIを組み込んだロボットや機械が事故を起こした場合は別であり,その考え方はフィジカルAI・倉庫ロボットが事故を起こしたら―製造物責任,安全配慮義務と更新後の事故で扱っている。
2 不法行為と利用契約
日本で対話AIの利用者が被害を受けた場合,運営者の責任は,主に民法709条の不法行為と,利用契約上の義務違反として争われることになる。
不法行為では,運営者に故意又は過失があったか,その行為と損害との間に因果関係があるかが問題となる。
対話AIの利用規約は,通常は民法548条の2の定型約款に当たる。
相手方の権利を制限し又は義務を加重する条項で,信義則に反して相手方の利益を一方的に害するものは,合意をしなかったものとみなされる(民法548条の2第2項)。
利用者が消費者であれば,事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項等は無効となり(消費者契約法8条1項),消費者の利益を一方的に害する条項も無効となる(同法10条)。
AIの利用に伴う民事責任を誰がどのように負うかは,AI利活用に伴う民事責任-補助/支援型AI・依拠/代替型AI・AIエージェントで誰が責任を負うかで整理している。
3 AI推進法には利用者保護の個別の規制が無い
日本の「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI推進法)は全28条の基本法であり,未成年者の利用の制限や,コンパニオン型の対話AIの運営者に特定の措置を義務付ける規定,罰則は置かれていない。
国は,国際的な規範の趣旨に即した指針の整備等の施策を講じ(同法13条),不適切な活用によって国民の権利利益が侵害された事案の分析と,それに基づく指導,助言等を行うこととされている(同法16条)。
同法の内容は内閣法制局ご説明資料に基づくAI推進法の解説,外国のAI規制との比較はEU・アジア主要法域のAI規制を比較―適用日,生成表示,事業者の役割と日本企業の対応で扱っている。
第6 悩みを抱えている人へ
つらい気持ちや死にたい気持ちを抱えているときは,一人で抱え込まず,相談窓口を利用してほしい。
厚生労働省の「まもろうよ こころ」は,こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)や,いのちの電話(0570-783-556)等の電話相談窓口を案内している。
第7 関連記事
① AIと結婚できるか―婚姻届・婚姻意思と,サービス終了で「相手」が消えるときの法律問題
② AI利活用に伴う民事責任-補助/支援型AI・依拠/代替型AI・AIエージェントで誰が責任を負うか
③ AIベンダーの倒産・支配権変更・事業譲渡に備える契約実務-解除権,データ返還・削除,ライセンス継続及び損害賠償
④ 生成AIサービスの値上げ・提供終了・モデル廃止に備える契約と運用-規約の変更条項,終了時のデータ,移行計画及び中継サービス
⑤ 米国のフロンティアAI規制-Claude Fable 5・Mythos 5停止,大統領令14409,FRONTIER Act及びコロラド州法
第8 出典
① Garcia v. Character Technologies, Inc., No. 6:24-cv-01903(M.D. Fla.)の訴訟記録(訴状〔記録番号1,2024年10月22日〕,決定〔記録番号115,令和7年5月21日登録〕,和解の届出〔記録番号242〕,命令〔記録番号244,2026年1月7日〕,取下書〔記録番号278,2026年10月15日〕)CourtListener
② In re Character Technologies, Inc., No. 26-11603(Bankr. D. Del.)の記録(申立書〔記録番号1,2026年10月12日〕,売却手続の申立て〔記録番号15,同月13日〕,州司法長官連合の届出〔記録番号33,同月14日〕)CourtListener
③ Character.AI「Taking Bold Steps to Keep Teen Users Safe on Character.AI」(2025年10月29日)公式ブログ
④ 連邦取引委員会「FTC Launches Inquiry into AI Chatbots Acting as Companions」(2025年9月)FTC
⑤ カリフォルニア州議会「SB-243 Companion chatbots.」(Chapter 677,2025年10月13日知事承認)California Legislative Information
⑥ OpenAI「デリケートな会話における ChatGPT の回答を強化」(2025年10月27日)OpenAI
⑦ 消費者庁「製造物責任法の概要Q&A」Q3・Q5 消費者庁
⑧ e-Gov法令検索:製造物責任法(2条),民法(548条の2,709条),消費者契約法(8条,10条),民事訴訟法(267条),民事再生法(42条),個人情報の保護に関する法律(27条),人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(13条,16条)
⑨ 厚生労働省「まもろうよ こころ」電話相談 厚生労働省