第1 裁判所職員にも海外研究・留学の制度がある
裁判所には,裁判官以外の職員が海外の裁判制度や裁判実務を研究する制度がある。
裁判所採用サイトは,在外研究を外部経験の一つとして紹介し,ウェールズの大学で1年間,家族法を研究した職員の体験談も掲載している。
最高裁判所の「令和9年度概算要求書(説明資料)」の秘書課関係部分には,①一般職外国司法事情研究,②一般長期在外研究,③行政官長期在外研究という異なる項目がある。
期間,研究目的及び費用の積算を,項目ごとに確認する必要がある。
ここで扱う「一般職員」は,裁判官以外の職員に関する制度説明の文脈で用いられている。
採用試験における総合職・一般職という区分だけから,制度の対象や応募資格を判断することはできない。
以下の人数・金額は,特に断らない限り令和9年度の概算要求上の積算であり,実際に派遣された人数や支出済みの金額を示すものではない。
第2 2週間の「一般職外国司法事情研究」
説明資料の印刷頁36~37頁(PDF実頁38~39頁)には,「一般職外国司法事情研究」が記載されている。
研究の目的として,裁判所書記官については裁判手続や書記官の役割,裁判所事務官については外国の司法組織や裁判所運営,家庭裁判所調査官については少年事件・家事事件等に関係する外国の生活習慣や生活事情などが説明されている。
外国旅費の内訳では,2週間の研究として,北米8人,豪州1人の計9人を積算している。
要求額は,外国旅費836万8000円,通訳料59万8000円,翻訳料16万9000円である。
これらを合計すると913万5000円になるが,ここで挙げた3項目の合計であり,裁判所の海外研究に関する予算全体を示す数字ではない。
北米・豪州という区分と人数は,当該年度の要求書の積算内容である。
将来の募集でも同じ派遣先・人数になるという条件を示すものではない。
第3 新規6人・継続6人を積算する「一般長期在外研究」
説明資料の印刷頁38~40頁(PDF実頁40~42頁)には,「一般長期在外研究」が記載されている。
一般職員を相当期間,外国の裁判所や司法関係機関,大学等に派遣し,司法制度,裁判実務,司法改革等の研究を行わせる制度として説明されている。
令和9年度は,新規6人,継続6人の派遣に必要な経費を要求している。
| 費目 | 令和9年度概算要求の積算 |
|---|---|
| 外国旅費 | 継続分948万2000円,新規分2450万7000円,計3398万9000円 |
| 授業料等 | 計914万9000円。内訳表の積算人数は5人 |
新規6人・継続6人という人数と,授業料等の表に現れる5人という人数は,同じ集計ではない。
外国旅費と授業料等では積算の対象が異なるため,5人を制度全体の派遣人数と読んだり,新規・継続の計12人を全員新規の留学生と読んだりしない。
この2費目の合計は4313万8000円であるが,費目を示さずに制度全体の総費用と呼ぶことも避けるべきである。
旅費表には,継続分について89日又は90日,新規分について273日又は274日の滞在費等の積算がある。
年度をまたぐ研究のうち,当該年度にどの部分の費用が計上されるかを読み取る資料であり,この表だけから全員に共通する募集上の研究期間を断定することはできない。
第4 「行政官長期在外研究」との違い
説明資料の印刷頁15~20頁(PDF実頁17~22頁)の「行政官長期在外研究」は,司法制度等の研究に従事させるため,海外の大学院の修士課程等に原則2年間を限度として派遣する制度として説明されている。
同資料は,制度が昭和41年から毎年裁判官を派遣してきたことに加え,令和3年度からは一般職員も派遣していると記載している。
したがって,この項目を裁判官だけの留学経費として説明するのは適切でない。
令和9年度の説明では,令和7年度派遣者,令和8年度派遣者及び令和9年度派遣者の計18人に必要な経費を要求するとされ,外国旅費は6065万7000円となっている。
一方,授業料等の表は,継続6人・新規6人の計12人を積算し,要求額は1億3183万円である。
18人と12人を混ぜて1人当たりの授業料を計算すると,費目ごとの対象者の違いが失われる。
「一般長期在外研究」と「行政官長期在外研究」は,説明資料上も別項目であり,人数や授業料を一つの制度の数字として合算しない。
第5 公式採用サイトに掲載された1年間の研究体験
裁判所の外部機関への出向・在外研究には,最高裁判所事務総局経理局総務課係長として紹介された職員の体験談がある。
そこでは,ウェールズの大学で1年間,家族法を研究し,授業やゼミのほか,現地の裁判所を訪問して裁判官にインタビューしたことが説明されている。
これは,裁判所が公表した在外研究の具体例として読むことができる。
ただし,当該ページは概算要求書のどの予算項目による派遣かを示しておらず,全職種に共通する選考条件や,全員が利用できることを示す資料でもない。
一人の体験談の研究期間・研究分野・訪問先を,制度全体の一律の条件へ広げないことが大切である。
第6 応募を考える際に確認する事項と関連資料
概算要求書で確認できるのは,制度の目的と,当該年度の要求に用いた人数・費用等である。
応募を考える場合は,所属庁の担当部署等を通じ,その年度に適用される選考通知で,対象職種,必要な勤務経験,語学要件,研究期間,費用負担及び帰国後の取扱いを確認する必要がある。
これらの個別条件を,概算要求の積算表だけから推定することはできない。
予算の原資料は,令和9年度概算要求書(説明資料)である。
判事補の留学制度については,判事補の海外留学状況―制度・選考・人数・予算・公表資料を,秘書課の業務については,最高裁判所事務総局秘書課の事務分掌を参照されたい。