第1 この記事の対象と要点
1 対象とする栄典と資料
本記事は,民事調停委員及び家事調停委員(以下「調停委員」という。)が対象となる国の栄典のうち,勲章の瑞宝章と褒章の藍綬褒章について,授与の基準,推薦の流れ及び近年の受章者数を整理するものである。
根拠には,内閣府賞勲局が公表している閣議決定・閣議了解・内閣総理大臣決定,褒章条例,制度説明及び春秋叙勲・春秋褒章の受章者名簿を用い,基準日は令和8年10月18日とする。
最高裁判所長官表彰,高等裁判所長官表彰並びに地方裁判所長表彰及び家庭裁判所長表彰は,裁判所内部の表彰であり,国の栄典とは別の制度である。
裁判所内部の表彰の基準は民事・家事調停委員の表彰制度―最高裁・高裁・地家裁の基準と名簿(AIリライト)で,最高裁判所長官表彰の年度別の名簿は調停委員に対する最高裁判所長官表彰の被表彰者名簿で扱っている。
2 要点
① 勲章の授与基準(平成15年5月20日閣議決定)は,瑞宝章の対象となる公共的な業務の例として,調停委員の業務を明記している。
② 内閣府の制度説明は,藍綬褒章の対象となる公共の事務の例として,調停委員の事務を明記している。
③ 春秋叙勲候補者推薦要綱及び褒章受章者の選考手続は,内閣総理大臣に候補者を推薦する者の一つとして最高裁判所長官を掲げている。
④ 令和6年秋から令和8年春までの4回の受章者名簿では,功労概要欄に「調停委員功労」とある叙勲の受章者が毎回26人から40人,功績概要欄に「調停委員功績」とある藍綬褒章の受章者が毎回17人から28人であった。
⑤ 調停委員としての委嘱年数や取扱件数によって叙勲又は褒章が決まる数値基準は,公開資料では確認できない。
第2 瑞宝章(叙勲)
1 勲章の授与基準上の位置付け
勲章の授与基準は,旭日章を「功績の内容に着目し、顕著な功績を挙げた者」に,瑞宝章を公務等に長年従事して成績を挙げた者に授与するという二つの系統を定めている。
同基準第一の3は,「瑞宝章は、国及び地方公共団体の公務又は次の各号に掲げる公共的な業務に長年にわたり従事して功労を積み重ね、成績を挙げた者を表彰する場合に授与するものとする。」と定め,その(4)として「調停委員、保護司、民生委員など国又は地方公共団体から委嘱される業務」を掲げている。
したがって,調停委員としての功労は,勲章の授与基準の文言上,瑞宝章の系統に位置付けられている。
同基準第一の4は,旭日章と瑞宝章のいずれを授与するかを主たる功労がいずれに当たるかによって決めるとしている。
また,前記の公共的な業務に長年従事した者が,その業務に継続して,又はその業務に関連して旭日章の対象となる顕著な功績を挙げた場合も,瑞宝章を授与するとしている。
2 瑞宝章の等級の決め方
同基準第二の2(1)は,瑞宝大綬章から瑞宝単光章までの6等級のうち,果たした職務の複雑度,困難度及び責任の程度等を評価して授与する勲章を決めるとしている。
特に重要と認められる職務を果たした者は瑞宝重光章以上,重要と認められる職務を果たした者は瑞宝小綬章以上,その他の職務を果たした者は瑞宝単光章以上とされている。
同基準第二の2(2)は,「瑞宝章の授与は、形式的な職務歴により等しく行うものではなく、他の模範となる成績を挙げた者に対象を限り行うものとする。」と定めている。
同(5)も,「勲章の授与に必要とされる職務従事期間は、その職務の重要度等を考慮し、適正に調整するものとする。」と定めるにとどまる。
調停委員について,委嘱年数や担当件数の具体的な基準を定めた公開の閣議決定は確認できない。
3 推薦の流れと年齢
春秋叙勲候補者推薦要綱(平成15年5月16日内閣総理大臣決定,平成28年9月16日一部改正)によれば,最高裁判所長官,内閣総理大臣,各省大臣等の「各省各庁の長」及び各都道府県知事が,国家又は公共に対する功労のある者を選考し,春又は秋の叙勲候補者として内閣総理大臣に推薦する。
推薦の対象は,「70歳以上の者」,又は55歳以上の者のうち「精神的又は肉体的に著しく労苦の多い環境において業務に精励した者」若しくは「人目に付きにくい分野にあって多年にわたり業務に精励した者」である。
推薦に当たっては,あらかじめ文書で内閣府賞勲局に協議し,その書類は,春の叙勲では前年の12月26日までに,秋の叙勲ではその年の6月30日までに提出する。
昭和39年以降の春秋叙勲で既に勲章を受けた者は,その後抜群の功労を挙げ,かつ,前の受章から原則として7年以上経過した場合に限り,再び候補者とすることができる。
春秋叙勲は毎年4月29日付け及び11月3日付けで発令され,内閣府賞勲局の審査と閣議を経て受章者が決まる。
内閣府は,春秋叙勲で勲章を授与されていない功労者に年齢88歳に達した機会に授与する高齢者叙勲や,死亡した場合の死亡叙勲も実施している。
なお,内閣府は,各府省からは把握しにくい功労を把握するため,一般の者が叙勲候補者を内閣府賞勲局へ推薦できる一般推薦制度も設けている。
4 受章者名簿に見る調停委員功労
内閣府が公表した春秋叙勲の受章者名簿(都道府県別のPDF)について,功労概要欄の「調停委員功労」の文字を検索して数えた結果は,次のとおりである。
同じ欄に別の功労と併記された受章者も含めている。
| 発令 | 調停委員功労の受章者 | 瑞宝双光章 | 瑞宝単光章 | 旭日章 |
|---|---|---|---|---|
| 令和6年秋(11月3日) | 29人 | 24人 | 3人 | 2人 |
| 令和7年春(4月29日) | 40人 | 21人 | 19人 | 0人 |
| 令和7年秋(11月3日) | 30人 | 14人 | 15人 | 1人 |
| 令和8年春(4月29日) | 26人 | 18人 | 8人 | 0人 |
4回の合計125人のうち,瑞宝双光章が77人,瑞宝単光章が45人であり,瑞宝小綬章以上の受章者はいなかった。
旭日章の3人は,いずれも功労概要欄に「調停委員功労」と弁護士功労又は不動産業振興功労が併記された受章者であった。
令和8年春の瑞宝双光章18人には,地方自治功労と調停委員功労が併記された受章者1人を含む。
この集計は,名簿PDFの文字情報を検索した結果であり,内閣府が調停委員の受章者数として公表した数字ではない。
主要経歴欄の記載は「現 調停委員」と「元 調停委員」の双方があり,現職のまま受章する例も退任後に受章する例もある。
第3 藍綬褒章
1 褒章条例と内閣府の説明
藍綬褒章は,褒章条例(明治14年太政官布告第63号)に基づく褒章の一つである。
同条例は,藍綬褒章の対象として,公衆の利益を興して成績の著明な者のほか,「公同ノ事務ニ勤勉シ労効顕著ナル者」を掲げている。
内閣府の「褒章の種類及び授与対象」は,藍綬褒章の授与対象の一つとして,「国や地方公共団体から依頼されて行われる公共の事務(保護司、民生・児童委員、調停委員等の事務)に尽力した方」を挙げている。
調停委員の事務は,藍綬褒章の対象となる公共の事務の例として,明示されているのである。
2 選考の手続
褒章受章者の選考手続について(平成15年5月20日閣議了解)は,春秋褒章の受章者の予定数を「毎回おおむね800名」とし,春は4月29日に,秋は11月3日に発令すると定めている。
最高裁判所長官,内閣総理大臣,各省大臣等が春秋褒章候補者を内閣総理大臣に推薦し,あらかじめ文書で内閣府賞勲局に協議する。
協議の書類は,春の褒章では前年の11月15日までに,秋の褒章ではその年の5月15日までに提出する。
裁判所の内部では,春秋の藍綬褒章受章候補者及び遺族追賞候補者の推薦について(平成28年4月27日付け最高裁人調第296号人事局長通達)が,調停委員と,家庭裁判所から少年の補導を委託された補導受託者を推薦対象としている。
高等裁判所は,管内の裁判所に所属し又は退任時に所属していた調停委員について,管内の地方裁判所又は家庭裁判所の意見を聴いて候補者を選考し,最高裁判所事務総局人事局長宛てに推薦する。
推薦期限は,春の藍綬褒章が前年の10月5日,秋の藍綬褒章がその年の4月5日である。
この閣議了解には,叙勲の推薦要綱のような年齢の定めはなく,上記の通達も推薦対象者の要件の一部と推薦障害事由を不開示としている。
藍綬褒章を受ける調停委員の委嘱年数等の基準は,公開資料では確認できない。
裁判所内部の推薦の流れの全体は,裁判所関係者の叙勲・褒章の推薦手続で整理している。
3 受章者名簿に見る調停委員功績
内閣府が公表した春秋褒章の受章者名簿(都道府県別のPDF)について,功績概要欄の「調停委員功績」の文字を検索して数えた結果は,次のとおりである。
藍綬褒章の総数は内閣府の公表値であり,団体等に授与する褒状を含む。
| 発令 | 藍綬褒章の総数 | 調停委員功績の受章者 |
|---|---|---|
| 令和6年秋(11月3日) | 443人 | 28人 |
| 令和7年春(4月29日) | 375人 | 18人 |
| 令和7年秋(11月3日) | 449人 | 23人 |
| 令和8年春(4月29日) | 373人 | 17人 |
調停委員功績の受章者は,いずれの回も藍綬褒章として記載されていた。
主要経歴欄には,叙勲と同じく「現 調停委員」と「元 調停委員」の双方がある。
最高裁判所が開示した令和7年秋の勲章受章者名簿も,調停委員30名を叙勲の受章者として掲げ,別紙の藍綬褒章受章者名簿に調停委員23名を記載している。
この人数は,前記の内閣府名簿の集計(調停委員功労30人,調停委員功績23人)と一致する。
4 藍綬褒章と叙勲の関係
叙勲の受章者名簿の見出しには「(勲等・勲章)」及び「(褒章)」の欄があり,令和8年春の名簿にも,調停委員功労による瑞宝章の受章者の欄に,既に受けた藍綬褒章を示す「(藍綬)」が記載された例がある。
もっとも,藍綬褒章を受けたことが瑞宝章の要件であるとする定めは,勲章の授与基準にも春秋叙勲候補者推薦要綱にも見当たらない。
第4 裁判所の表彰との違い
1 根拠,決定者及び時期
裁判所の表彰と国の栄典は,根拠,決定者及び時期が異なる。
主な違いは,次のとおりである。
| 区分 | 根拠 | 決定者 | 時期 |
|---|---|---|---|
| 最高裁判所長官表彰 | 最高裁判所の通達 | 最高裁判所長官 | 人事局長が年度ごとに定める日 |
| 高等裁判所長官表彰 | 最高裁判所の通達 | 高等裁判所長官 | 高等裁判所長官が定める日 |
| 地方裁判所長表彰・家庭裁判所長表彰 | 最高裁判所の通達 | 地方裁判所長又は家庭裁判所長 | 退任の年度内 |
| 瑞宝章 | 勲章の授与基準等 | 閣議 | 4月29日・11月3日 |
| 藍綬褒章 | 褒章条例等 | 閣議 | 4月29日・11月3日 |
最高裁判所長官表彰の表彰日は,令和2年度から令和7年度までの候補者通知では,いずれも10月17日から11月1日までの間の日に定められていた。
裁判所内部の表彰の対象・要件の詳細は,民事・家事調停委員の表彰制度―最高裁・高裁・地家裁の基準と名簿(AIリライト)に譲る。
2 推薦事務の事務連絡
最高裁判所事務総局人事局調査課長及び同局能率課長は,平成30年3月1日付けで,高等裁判所事務局長に宛てて「調停委員の叙勲,褒章及び表彰の各推薦事務について(事務連絡)」を発出している。
もっとも,情報公開で開示された文書は本文の大部分が黒塗りであり,読み取れるのは,管内の地方裁判所及び家庭裁判所に事務連絡の趣旨を周知するよう求める末尾の一文だけである。
そのため,裁判所が叙勲,褒章及び表彰の推薦をどのように調整しているかは,公開資料からは確認できない。
裁判所の表彰を受けたことが叙勲又は褒章の要件であるとする公開資料も,確認できない。
裁判所の表彰と国の栄典は,それぞれの基準と手続で別々に決まるものとして理解する必要がある。
第5 委嘱年数・件数の目安の扱い
本記事で確認した勲章の授与基準,春秋叙勲候補者推薦要綱,褒章条例,褒章受章者の選考手続及び内閣府の制度説明には,調停委員の委嘱年数や取扱件数の数値基準はない。
したがって,委嘱年数だけから叙勲又は褒章の時期を見込むことはできない。
最高裁判所長官表彰には,平成28年4月1日の改正前の通達に,実歴年数15年以上かつ取扱件数200件以上という原則的な数値基準があったが,これは裁判所内部の表彰の旧基準であり,叙勲又は褒章の基準ではない。
最高裁判所の推薦の通達は推薦対象者の要件の一部を不開示としているため,裁判所内部で推薦の目安が使われているかどうかも確認できない。
勲章の授与基準は,瑞宝章の授与を形式的な職務歴によって等しく行うものではないとし,職務従事期間も職務の重要度等を考慮して調整するとしている。
受章の時期や等級は,委嘱期間だけでなく,年齢,職務の内容及び他の功労を含めて個別に決まるものと理解するのが,公開資料に即した整理である。
第6 出典・関連記事
1 法令及び内閣府の資料
勲章の種類及び授与対象(内閣府)
褒章の種類及び授与対象(内閣府)
勲章・褒章制度の概要(内閣府)
勲章の授与基準(平成15年5月20日閣議決定,平成18年12月26日最終改正)1頁~6頁
春秋叙勲候補者推薦要綱(平成15年5月16日内閣総理大臣決定)1頁
褒章受章者の選考手続について(平成15年5月20日閣議了解)1頁
褒章条例(明治14年太政官布告第63号)(e-Gov法令検索)
令和6年秋の叙勲等(内閣府)
令和7年春の叙勲等(内閣府)
令和7年秋の叙勲等(内閣府)
令和8年春の叙勲等(内閣府)
2 裁判所の資料
民事調停委員及び家事調停委員の表彰に関する通達及び事務連絡(令和2年1月当時のもの)7頁(平成30年3月1日付けの事務連絡)
春秋の藍綬褒章受章候補者及び遺族追賞候補者の推薦について(平成28年4月27日付け最高裁人調第296号)1頁~6頁
3 関連記事
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裁判所関係者及び弁護士に対する叙勲の相場(AIリライト)
勲章受章者名簿(裁判官,簡裁判事,一般職,弁護士及び調停委員)
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