第1 本記事の対象と結論
1 本記事の対象
本記事は,契約で定めた遅延損害金の利率(約定の遅延損害金)がどこまで有効かを扱う。
あわせて,契約に定めがなくても法律が遅延利率を定めている場面を取り上げる。
民法の法定利率が年3%か年5%かという問題は,遅延損害金の利率は年3%か年5%か―令和2年4月1日の経過措置,商事法定利率の廃止及び3年ごとの見直しで扱っている。
本記事は,令和8年10月18日時点の法令及び告示に基づいている。
2 結論
① 金銭債務の遅延損害金は,約定利率が法定利率を超えるときは約定利率による(民法419条1項ただし書)。
② 金銭消費貸借の遅延損害金の予定は,利息制限法1条の利率の1.46倍を超える部分が無効となり,営業的金銭消費貸借では年2割を超える部分が無効となる(利息制限法4条1項,7条1項)。
③ 消費者契約で消費者が支払期日までに支払わない場合の損害賠償の予定・違約金は,年14.6%を超える部分が無効となる(消費者契約法9条1項2号)。
④ 割賦販売や訪問販売で代金が支払われない場合に請求できる額は,残額とこれに対する法定利率による遅延損害金の合計額までに制限される(割賦販売法6条2項,特定商取引に関する法律10条2項)。
⑤ 退職労働者の未払賃金は年14.6%,中小受託取引の未払代金は年14.6%,政府契約の未払代金は年3.0%(令和8年4月1日から)の遅延利息が,法律に基づいて生じる。
第2 約定の遅延損害金の基本
1 民法419条1項ただし書
民法419条1項は,金銭債務の不履行による損害賠償の額は,債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定めるとしたうえで,「約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。」と定めている。
例えば,貸金の利息を年10%と定めていれば,遅延損害金について別に定めていなくても,遅延損害金は年10%で請求できる。
約定利率が法定利率を下回る場合は,本文に戻って法定利率による。
民法の法定利率は,令和2年4月1日から年3%で始まり,3年ごとに見直される(民法404条2項,3項)。
法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」によれば,令和8年4月1日から令和11年3月31日までの法定利率も年3%である。
2 賠償額の予定(民法420条)
遅延損害金の利率そのものを契約で定めた場合は,賠償額の予定に当たる。
民法420条1項は,「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。」と定め,同条3項は,違約金を賠償額の予定と推定している。
令和2年3月31日まで適用されていた民法420条1項には,「この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。」という後段があった。
この後段は,民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)により削除された。
もっとも,民法には予定額の上限を数値で定めた規定はなく,遅延損害金の上限は,次の第3以下の個別の法律が定めている。
第3 金銭消費貸借の上限(利息制限法)
1 利息制限法4条1項の1.46倍
利息制限法4条1項は,「金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第一条に規定する率の一・四六倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。」と定めている。
同法1条の利率に1.46を乗じると,遅延損害金の予定の上限は次のとおりとなる。
| 元本の額 | 利息の上限(1条) | 遅延損害金の予定の上限(4条1項) |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 年2割 | 年29.2% |
| 10万円以上100万円未満 | 年1割8分 | 年26.28% |
| 100万円以上 | 年1割5分 | 年21.9% |
無効となるのは上限を超える部分だけであり,遅延損害金の定め全体が無効となるのではない。
2 営業的金銭消費貸借の特則(7条1項)
利息制限法7条1項は,営業的金銭消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定について,「その賠償額の元本に対する割合が年二割を超えるときは、その超過部分について、無効とする。」と定めている。
営業的金銭消費貸借とは,債権者が業として行う金銭を目的とする消費貸借をいう(同法5条1号)。
貸金業者等の貸付けでは,元本の額にかかわらず年2割が上限となるため,元本10万円未満の貸付けでも年29.2%までの定めはできない。
3 違約金は賠償額の予定とみなされる
民法420条3項は違約金を賠償額の予定と「推定」するにとどまるが,利息制限法4条2項は,「違約金は、賠償額の予定とみなす。」と定めている(7条2項による準用を含む)。
金銭消費貸借では,「違約金」という名目にしても,1.46倍又は年2割の上限を免れることはできない。
第4 消費者契約の上限(消費者契約法9条1項2号)
1 年14.6%の上限
消費者契約法9条1項2号は,消費者契約に基づき支払うべき金銭を消費者が支払期日までに支払わない場合の損害賠償の予定又は違約金の定めについて,次の額を超える部分を無効としている。
その額は,「支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額」である。
支払回数が2回以上ある場合は,それぞれの支払期日ごとに計算する(同号括弧書)。
事業者と消費者の間の契約書や利用規約に,年14.6%を超える遅延損害金や,未払額にかかわらない定額の延滞金を定めている場合は,この上限との関係を確認する必要がある。
2 解除に伴う損害賠償の予定との区別
消費者契約法9条1項1号は,契約の解除に伴う損害賠償の予定・違約金について,同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき「平均的な損害の額」を超える部分を無効としている。
支払の遅れに対する遅延損害金は2号,解約時のキャンセル料等は1号の問題であり,上限の決まり方が異なる。
3 他の法律との関係
消費者契約法11条2項は,消費者契約の条項の効力について「民法及び商法以外の他の法律に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。」と定めている。
消費者を借主とする金銭消費貸借では,利息制限法4条・7条の上限もあわせて確認する必要がある。
第5 割賦販売・訪問販売の上限
1 割賦販売法6条2項
割賦販売法6条2項は,割賦販売の方法による契約で賦払金の支払義務が履行されない場合(契約が解除された場合を除く。)について,損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときでも,割賦販売価格等から既に支払われた賦払金の額を控除した額に「これに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払」を請求できないと定めている。
契約が解除された場合については,同条1項が,商品の返還の有無等の場合に応じて請求できる額の上限を定めている。
2 特定商取引に関する法律10条2項
特定商取引に関する法律10条2項は,訪問販売の契約で代金又は対価の支払義務が履行されない場合(契約が解除された場合を除く。)について,同様に,残額に「これに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額」を超える請求を制限している。
これらの取引では,契約書に高い利率の遅延損害金を定めても,法定利率による遅延損害金を超える部分は請求できない。
第6 法律が遅延利率を定めている場合
1 退職労働者の賃金(賃金の支払の確保等に関する法律6条)
賃金の支払の確保等に関する法律6条1項は,事業主が退職した労働者の賃金(退職手当を除く。)を退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金は,その支払期日。以下同じ。)までに支払わなかった場合,退職の日の翌日から支払日までの期間について,政令で定める率による遅延利息を支払わなければならないと定めている。
その率は,「年十四・六パーセント」である(同法施行令1条)。
ただし,賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由で厚生労働省令で定めるものによる場合は,その事由の存する期間について適用されない(同法6条2項)。
同法施行規則6条は,天災地変,事業主の破産手続開始の決定等,法令の制約により資金の確保が困難であること,賃金の存否に係る事項に関し合理的な理由により裁判所又は労働委員会で争っていること等を掲げている。
在職中の未払賃金の遅延損害金は,この規定の対象ではなく,令和2年4月1日以後に遅滞となったものは民法の法定利率によることになる。
2 中小受託取引の代金(取適法6条)
製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)6条1項は,委託事業者が製造委託等代金を支払期日までに支払わなかったときは,中小受託事業者の給付を受領した日から起算して60日を経過した日から支払をする日までの期間について,未払金額に公正取引委員会規則で定める率を乗じた遅延利息を支払わなければならないと定めている。
その率は,「年十四・六パーセント」である(令和7年公正取引委員会規則第9号)。
同規則は,令和8年1月1日から施行されている。
3 政府契約の代金(政府契約の支払遅延防止等に関する法律8条)
政府契約の支払遅延防止等に関する法律8条1項は,国が約定の支払時期までに対価を支払わない場合の遅延利息の額は,約定の支払時期到来の日の翌日から支払日までの日数に応じ,未支払金額に財務大臣が決定する率を乗じて計算した金額を「下るものであつてはならない」と定めている。
契約で遅延利息の率を定める場合も,この率を下回ることはできない。
総務省自治行政局行政課長の令和8年3月11日付け通知(総行行第100号)によれば,令和8年財務省告示第54号により,この率は「年2.5パーセント」から「年3.0パーセント」に改められ,令和8年4月1日から適用されている。
同通知は,同法14条により同法の規定が地方公共団体の契約に準用されることも案内している。
計算した遅延利息が100円未満であるときは支払を要せず,100円未満の端数は切り捨てる(同法8条2項)。
第7 契約書で遅延損害金を定めるときの確認事項
① 取引の類型(金銭消費貸借か,消費者契約か,割賦販売・訪問販売か,中小受託取引か)を先に判定する。
② 類型ごとの上限(年29.2%・年26.28%・年21.9%,年2割,年14.6%,法定利率)を超えない利率にする。
③ 起算日(「支払期日の翌日から」等)と終期(「支払済みまで」)を明記する。
④ 日割計算の基礎を明記する(年365日とするか,うるう年は366日とするか)。
⑤ 計算の基礎となる額(期日ごとの未払額か,期限の利益を喪失した後の残元本か)を明記する。
⑥ 利息の約定がある場合は,遅延損害金の利率を別に定めるか,民法419条1項ただし書により利息の約定利率によるかを確認する。
④の日割計算について,民法,利息制限法及び消費者契約法には,うるう年の扱いを定めた規定がない。
利率等の表示の年利建て移行に関する法律25条は,閏年の日を含む期間についても365日当たりの割合とすると定めているが,同条の対象は,同法による改正後の法律に定める延滞税,利子税,延滞金等の計算である。
契約上の遅延損害金については,契約書で計算方法を定めておくのが確実である。
第8 関連記事
① 遅延損害金に関するメモ書き
② 遅延損害金の利率は年3%か年5%か―令和2年4月1日の経過措置,商事法定利率の廃止及び3年ごとの見直し
③ 不法行為・交通事故の遅延損害金はいつから発生するか―事故日起算,弁護士費用及び損害費目ごとの起算日
④ 時間外労働,休日労働及び深夜労働と残業代請求
⑤ 中小受託取引適正化法(取適法)の企業実務―適用範囲・手形払の禁止・価格協議(令和8年1月1日施行)
⑥ 国の検収・代金支払が遅れたとき―政府契約の期限,遅延利息と請求の証拠
⑦ 冠婚葬祭互助会の解約手数料はいくらまで有効か―消費者契約法9条,特定商取引法10条及び裁判例
第9 出典・参考資料
1 法令
① 民法404条,419条,420条(e-Gov法令検索)
② 利息制限法1条,4条,5条,7条(e-Gov法令検索)
③ 消費者契約法9条,11条(e-Gov法令検索)
④ 割賦販売法6条(e-Gov法令検索)
⑤ 特定商取引に関する法律10条(e-Gov法令検索)
⑥ 賃金の支払の確保等に関する法律6条(e-Gov法令検索)
⑦ 賃金の支払の確保等に関する法律施行令1条(e-Gov法令検索)
⑧ 賃金の支払の確保等に関する法律施行規則6条(e-Gov法令検索)
⑨ 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律6条(e-Gov法令検索)
⑩ 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第六条第一項及び第二項の率を定める規則(令和7年公正取引委員会規則第9号。e-Gov法令検索)
⑪ 政府契約の支払遅延防止等に関する法律8条(e-Gov法令検索)
⑫ 利率等の表示の年利建て移行に関する法律25条(e-Gov法令検索)
2 公的資料
① 法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」(令和7年3月31日掲載)
② 総務省自治行政局行政課長「政府契約の支払遅延防止等に関する法律第8条第1項の規定に基づく政府契約の支払遅延に対する遅延利息の率を定める件の一部を改正する件の施行について(通知)」(令和8年3月11日付け総行行第100号)
③ 国土交通事務次官「「工事請負契約書の制定について」等の一部改正について」(令和8年3月24日付け国会公契第57号・国北予第32号)