第1 カナダ法の養育費を調べるときの結論
カナダ法の養育費は,年収の一定割合を掛けるだけでは決まらない。
カナダの離婚法に基づく場合は,原則として連邦養育費ガイドラインにより,支払義務者の年収,子の人数及び適用される州・準州の表から基本額を求め,必要に応じて特別又は臨時の費用を加える。
共同養育,高所得,成人後の子及び国外居住が関係するときは,別の調整が必要である。
本記事は,令和8年10月16日現在のカナダ連邦法令,カナダ司法省及びハーグ国際私法会議の公開資料を基礎に,連邦ルールの全体像と日加間の請求・承認・執行の確認順序を整理する。
婚姻の有無,離婚をした国,親子の居住州,既存裁判及び財産所在地によって適用法と手続が変わるため,個別事件では対象州の現行法も確認する必要がある。
第2 連邦法と州法のどちらを使うか
カナダのDivorce Actに基づいて離婚する夫婦には,Federal Child Support Guidelinesが適用される。
これに対し,婚姻していない場合,別居しているが離婚しない場合,又は外国法により離婚した場合は,申立てをする州又は準州の法律により養育費を判断することがある。
したがって,「カナダ法」というだけで連邦ガイドラインの適用を確定せず,婚姻・離婚の経過と手続をする州を先に特定する。
カナダ司法省の案内によれば,州・準州のガイドラインは連邦ガイドラインと異なることがあり,ケベック州を除く各州・準州では基本額について連邦表が用いられている。
ただし,適用法,手続,所得資料及び執行制度まで全国一律であるという意味ではない。
第3 基本額は年収・子の人数・州の表で求める
連邦ガイドライン3条は,未成年の子について,適用表による額と7条の費用を養育費の基本構造とする。
適用表の額は,支払義務者の年収,対象となる子の人数及び適用州・準州によって変わる。
年収は,原則としてカナダ歳入庁のT1 General formにおけるTotal incomeの所得項目を基礎に,Schedule IIIによる調整をして算定する。
2025年連邦養育費表は令和7年10月1日に施行された。
令和7年9月30日以前の期間については,その期間に対応する旧表を用いる。
新表は従前の養育費命令を自動的に変更するものではないが,額の差が事情変更として変更申立ての理由となり得る。
支払義務者がカナダ国内に居住するときは,原則としてその者が常居所を有する州・準州の表を用いる。
支払義務者がカナダ国外に居住し,又はその居住地が不明のときは,原則として他方配偶者が常居所を有する州・準州の表を用いる。
第4 特別費用と高所得者の調整
連邦ガイドライン7条の特別又は臨時の費用には,就労等のための保育費,子に対応する医療・歯科保険料,保険で補填されない一定の医療費,特別な教育費,高等教育費及び臨時の課外活動費が含まれる。
裁判所は,子の利益に照らした必要性と,父母及び子の資力等に照らした相当性を考慮する。
費用は,子自身の負担分を控除した上で,原則として父母の所得割合に応じて分担し,補助金や税額控除等も考慮する。
支払義務者の年収が15万カナダドルを超える場合も,直ちに定額又は単純な割合計算へ移るわけではない。
連邦ガイドライン4条は,原則として通常の算定額を用い,それが不適切と判断される場合には,最初の15万カナダドルの表額,超過部分について相当な額及び7条の費用を組み合わせる。
第5 共同養育と分割養育
双方が年間を通じて子との養育時間の40%以上を持つ共同養育では,養育費が当然にゼロになるわけではない。
連邦ガイドライン9条は,双方の表額,共同養育によって増える費用並びに各配偶者及び子の状況・資力・必要を考慮する。
子が複数いて,各配偶者が一人以上の子について養育時間の過半を持つ分割養育では,各配偶者が相手方へ支払うと仮定した額の差額を基礎とする。
養育時間の割合だけでなく,実際の養育状況,費用及び所得資料をそろえる必要がある。
第6 養育費は何歳まで支払うか
連邦離婚法上,養育費の終期は全国一律の年齢だけでは決まらない。
Divorce Act2条は,子の成年年齢を,子が常居所を有する州の法律による年齢とし,子がカナダ国外に常居所を有するときは18歳とする。
成年に達した後も,疾病,障害その他の理由により父母の扶養から離れ,又は生活必需品を得ることができない子は,child of the marriageに含まれ得る。
連邦ガイドライン3条2項は,成年以上の子について,未成年と同様にガイドラインを適用する方法と,それが不適切な場合に子の状況・資力・必要及び各配偶者の負担能力を考慮して相当額を定める方法を置く。
就学しているという一事だけで終期を断定せず,居住州の成年年齢,教育状況,疾病・障害,生活費,子の収入及び親から独立できない具体的理由を確認する。
第7 一方の親が日本などカナダ国外にいる場合
一方の親がカナダ国外にいる場合,連邦ガイドラインを使う事件では,原則としてカナダにいる親の州・準州の表を用いる。
ただし,外国法が適用される場合もあるため,カナダの表を調べることと,日本側の国際裁判管轄・準拠法を判断することを分ける。
カナダのDivorce Actに基づく離婚で,養育費を支払うべき親がカナダにいる場合,国外居住者はその親が住む州・準州の裁判所へ養育費命令を求めることができる。
カナダで離婚していない場合は,申立先の州・準州法により,カナダで命令を得られるかを確認する。
日本で手続をする場合は,国際養育費の請求と回収で整理したとおり,日本の直接管轄,扶養義務の準拠法,外国裁判の承認及び強制執行を別々に検討する。
カナダ法が準拠法になることから,日本に国際裁判管轄があること又はカナダの裁判が日本で当然に執行できることを導かない。
第8 日本とカナダの間で回収する場合
カナダでは,州・準州ごとに他国との養育費の相互執行制度が設けられている。
カナダ司法省は,カナダ国外の命令又は合意をカナダの州・準州で執行するには,その州・準州と相手国との相互取決めが必要であると案内している。
したがって,「カナダで執行する」という抽象的な確認では足りず,義務者と財産が所在する州・準州を特定し,その州・準州が日本を相互執行の対象として指定しているかを公式資料で確認する。
2007年ハーグ扶養条約は,カナダについて,オンタリオ州及びマニトバ州では令和6年2月1日から,ブリティッシュ・コロンビア州では同年3月1日から適用されている。
令和8年9月16日更新の締約国表には日本が掲載されていないため,日加間で同条約の中央当局ルートを当然に利用できるとは扱わない。
このことは,各州・準州の個別の相互取決めが存在しないことまで証明するものではない。
日本は,1973年扶養義務の準拠法に関するハーグ条約の締約国である。
これは扶養義務の準拠法を定める枠組みであり,外国の養育費裁判の承認・執行を自動化する条約ではない。
カナダの養育費裁判を日本で強制執行に用いる場合は,家事事件手続法79条の2及び民事訴訟法118条による承認要件と,民事執行法24条による執行判決を確認する。
日本の裁判又は調停調書をカナダで使う場合は,対象州・準州の承認・登録・執行手続,必要な確定証明,送達記録及び翻訳を確認する。
第9 相談時に確認する資料
相談時には,婚姻の有無,離婚をした国,離婚手続の根拠法及びカナダの対象州・準州を確認する。
子の出生証明書,戸籍,国籍,住所・常居所の変遷,成年年齢及び就学・疾病・障害の資料もそろえる。
金額の算定には,父母双方の所得資料,カナダの納税申告,支払義務者の居住州,子の人数,養育時間,保育・医療・教育・課外活動費及び補助金・税額控除の資料が必要である。
過去分を計算するときは,各期間に適用される養育費表と,既存命令の変更時期を区別する。
回収には,合意書,調停調書,審判書又は判決書,確定証明,送達資料,支払履歴,未払額一覧並びに勤務先・預金・不動産等の財産所在地を確認する。
日本とカナダのどちらで新たな命令を得るのか,既存命令をどちらの国で承認・執行するのかを相談メモに明記する。
第10 よくある質問
1 カナダの養育費は年収の何パーセントか
全国一律の固定割合ではない。
連邦ガイドラインでは,年収,子の人数及び適用州・準州の表から基本額を求め,7条の特別又は臨時の費用,高所得,共同養育等を調整する。
2 カナダの養育費は何歳までか
全国一律の年齢だけでは決まらない。
子の常居所州の成年年齢を確認し,成年後も疾病,障害その他の理由で親から独立できない場合には支払が続く可能性がある。
3 共同養育なら養育費を払わなくてよいか
当然にゼロにはならない。
双方が年間40%以上の養育時間を持つ場合は,双方の表額,増加費用及び父母と子の状況を考慮する。
4 日本に住んだままカナダの親へ請求できるか
カナダにいる親の州・準州で命令を求められる場合があるが,婚姻・離婚の経過と州法によって手続が変わる。
日本で命令を得てカナダで回収する場合も,対象州・準州の対日相互執行制度又は通常の承認・執行手続を個別に確認する。
第11 関連記事
国際養育費の請求と回収―準拠法・日本の裁判管轄・外国裁判の承認と強制執行
国際離婚の手続選択と日本の国際裁判管轄・準拠法
国際扶養の準拠法
イギリスの養育費の法制度
養育費を払わない場合の回収方法
第12 出典と調査範囲
Federal Child Support Guidelinesの3条,4条,7条,8条,9条及び16条
Divorce Actの2条及び15.1条
カナダ司法省「2025年連邦養育費表の更新」
カナダ司法省「一方の親が外国に住む場合の算定」
カナダ司法省「州・準州・外国間の養育費等の執行」
ハーグ国際私法会議・2007年扶養条約締約状況
ハーグ国際私法会議・1973年扶養義務準拠法条約締約状況
連邦養育費ガイドラインは令和8年9月21日現在,最終改正は令和7年10月1日である。
本記事は連邦法の基本構造と日加間事件の確認順序を扱い,各州・準州の実体法・手続・日本との相互指定を網羅するものではない。
個別事件では,対象州・準州,命令の種類,対象期間及び財産所在地を特定し,現行の公式資料と現地専門家の確認を要する。