令和4年司法試験経済法第2問について,X社の価格に関する一連の行為とY社の説明販売義務を検討する模範解答を示す。
評価項目は公式の出題の趣旨と採点実感から独自に抽出したものであり,法務省の公式採点基準・配点ではない。
第1 この記事の対象と結論
本記事の対象は,令和4年司法試験論文式試験・選択科目問題の経済法第2問(PDF16・17頁)である。
基準時は選択科目の試験実施日である令和4年5月11日とし,完成答案は見出し・句読点等を含め改行を除いて2,347字である。
答案では,X社の令和2年4月の通知だけでは拘束を認めず,同年10月の出荷制限を伴う行為に違反を認め,令和4年1月の廃止で終了すると構成する。
Y社の説明義務は,合理的な理由と取引先に対する条件の同等性に照らし,違反しないと構成する。
これらの結論の一部には公式資料が許容する別構成があり,理由付けの一貫性が重要である。
公開評価表は43項目,重み合計は161であり,重み5は7項目である。
重み5は番号1・4・17・24・30・32・35で,条文選択,拘束の規範,競争上の弊害,終了の判断,説明販売の評価枠組みを扱う。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
評価項目は,答案から充足を判定できる内容に分け,必須・高評価・負例・許容分岐を重みとは別に示した。
出典の頁はPDFの実頁である。
「間接」は関連する公式記述からの推論であり,「記載なし」は本問及び関連総論を実読した範囲での状態を示す。
X社を他の類型だけで処理する負例は番号1,Y社を優越的地位濫用だけで処理する負例は番号30,Y社の行為要件を省略する負例は番号31の裏返しとして,それぞれの正項目に統合した。
これらを含む内部の抽出単位は46であり,公開表の43項目・161とは区別する。
許容分岐と任意の加点事項は,採らない構成の答案へ累積的に要求するものではない。
2 5段階の重み付けの基準
重み5は採点実感が評価の分かれ目とする事項又は答案の骨格,4は出題趣旨が検討を求め採点実感も評価又は誤りの指摘を通じて取り上げる事項,3は一方が明示する中核の理由付け,2は補強又は典型的誤り,1は控えめな言及とした。
重み4を一律に「高く評価」と表現せず,本問では取り上げ方を個別に確認した。
一般的な文章の読みやすさや字数遵守は,公式の独立した評価単位として加重集計へ加えていない。
第3 本問の概要
甲製品には代替品がなく,国内5メーカーが独立した小売業者を通じて販売している。
X社はシェア約30%の首位,Y社は約20%の第3位であり,両社製品の取扱いは小売業者に営業上有利である。
各社の同等機種の希望価格に大差はなく,シェアも大きく変動していない。
設問⑴では,平成28年4月の性能・ブランド力を強調した通知,令和元年10月の調査,令和2年4月の販価表記への変更と調査予告,同年10月の出荷制限を伴う要請を各別に検討し,令和4年1月の全措置廃止で違反が終了するかを判断する。
設問⑵では,Y社が令和3年4月から契約条項により説明販売を義務付けたことを検討する。
説明は使用歴に応じて設定され,既使用者には特有機能の説明で足りるが,説明を不要・煩わしいと感じる購入者や,説明費用を省いて低価格で売りたい小売業者もいる。
第4 評価項目と重み
1 設問⑴:X社の各行為と違反期間
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | X社の価格に関する行為に2条9項4号イ及び19条を選択する。再販売価格拘束に言及せず,他の類型だけで処理しない。[必須] | 5 | PDF28頁・当該行為・要件の検討。 | PDF19頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 2 | 甲製品の製造販売を営むX社が2条1項の事業者であると位置付ける。[必須] | 4 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF19頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 3 | 独立した小売業者を自己の供給商品を購入する相手方と特定する。[必須] | 4 | PDF28頁・当該行為・要件の検討。 | PDF19頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 4 | 拘束を合意又は利益・不利益等の人為的手段による実効性確保として定義する。[必須] | 5 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF19頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 5 | 平成28年4月の性能・ブランド力の説明を価格提示と拘束の違いから評価する。[必須] | 4 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF19頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 6 | 令和元年10月の調査及び回答正確性確認を価格遵守の実効確保と区別して評価する。[必須] | 4 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF19頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 7 | 調査回答義務を独立に検討する場合,一般指定12項の拘束条件付取引として論じる。[許容分岐]適用:調査回答義務を独立の行為として検討する場合。 | 2 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | 記載なし(関連範囲実読)。 |
| 8 | 令和2年4月の販価表記・参考記述削除の意味を具体的に分析する。[必須] | 4 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF19頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 9 | 令和2年4月の通知を従前の参考通知・調査との関連から評価する。[高評価] | 3 | 記載なし(関連範囲実読)。 | PDF19頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 10 | 令和2年4月に小売が趣旨を理解したことを価格遵守の合意の有無と区別して論じる。[必須] | 4 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF19頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 11 | 令和2年4月の調査予告・小売の受止めから事実上の不利益のおそれと実効性を検討する。[必須] | 4 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF19頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 12 | 令和2年4月の拘束肯定構成を採る場合,通知の意味・合意又は実効性の認定を一貫させる。[許容分岐]適用:令和2年4月の拘束を肯定する場合。 | 3 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF19頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 13 | 令和2年10月の遵守要請と出荷制限予告を実効性確保の手段として評価する。[必須] | 4 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF19頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 14 | 実際の出荷制限が値引き店への経済的不利益となることを説明する。[必須] | 4 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF19頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 15 | X社商品の取扱いが小売の営業上有利であることを拘束の実効性へ接続する。[必須] | 4 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 16 | 制限を恐れた値引き停止を拘束の実効性の当てはめに用いる。[必須] | 4 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF19頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 17 | ブランド内の競争回避・競争停止による価格維持効果を公正競争阻害性の実質として説明する。[必須] | 5 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 18 | 市場画定を必須としない構成では,価格競争への直接作用からその判断方法を理由付ける。[許容分岐]適用:本答案の市場画定を必須としない構成。 | 4 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 19 | 市場分析構成では,X社製品又は甲製品全体の市場を代替性に即して画定する。[許容分岐]適用:X社について市場分析構成を採る場合。 | 4 | PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 20 | 市場分析構成では,シェア・営業上の意味・ブランド間及び内の競争を当該市場で評価する。[許容分岐]適用:X社について市場分析構成を採る場合。 | 4 | PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 21 | 他社同等機種の希望価格とシェア安定を,ブランド間競争による補完の有無に結び付ける。[高評価] | 3 | 記載なし(関連範囲実読)。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 22 | 性能・ブランド力の主張について,本件で価格拘束を正当化する事情があるか検討する。[必須] | 4 | PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 23 | 出荷制限を独立に扱う場合,一般指定2項のその他の取引拒絶の要件に即して評価する。[高評価]適用:独立評価は任意の加点事項(本完成答案は採用)。 | 2 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF19頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 24 | 違反終了を拘束者の措置と被拘束者の価格決定の自由から判断する規範を示す。[必須] | 5 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 25 | 令和4年1月の全措置廃止と参考表記の復活を終了の判断に用いる。[必須] | 4 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 26 | 小売業者が廃止内容を理解した事実を被拘束者側の自由回復の判断に用いる。[必須] | 4 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 27 | 同額の希望価格と値引き不再開も検討し,価格結果と拘束継続を区別する理由を示す。[必須] | 4 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 28 | 終了否定構成では,廃止・理解の事実を踏まえてなお拘束が残る機序を説明する。[許容分岐]適用:令和4年1月の終了を否定する場合。 | 3 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 29 | 市場を画定して論じる場合,画定した市場と実際に分析する市場を取り違えない。[負例]適用:市場画定構成を採る場合。 | 2 | 記載なし(関連範囲実読)。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
2 設問⑵:Y社の説明販売義務
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 30 | Y社の説明義務について2条9項6号ニ・一般指定12項・19条を接続する。優越的地位濫用だけで処理しない。[必須] | 5 | PDF29頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 31 | Y社の説明義務が合意により実効性を有するか,行為要件として論じる。行為要件を省略しない。[必須] | 4 | PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 32 | Y社の「不当に」を自由競争減殺の観点からの公正競争阻害性として定義する。[必須] | 5 | PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | PDF21頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 33 | メーカーには基本的に自社商品の販売方法を決める自由があり,義務付けだけで違法としない。[必須] | 3 | PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 34 | 説明費用増に伴う価格上昇を,小売間の競争停止による価格維持効果と直ちに同視しない。[高評価] | 3 | PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | 記載なし(関連範囲実読)。 |
| 35 | 合理性・全取引先に対する制限の同等性という基準を示す。[必須] | 5 | PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 36 | Y社特有の機能の説明を,適切な選択・使用と需要開拓に接続して合理性を評価する。[必須] | 3 | PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | 間接:PDF21頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 37 | 使用歴に応じた説明,既使用者には特有機能だけという限定を負担の程度に用いる。[必須] | 3 | 間接:PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | 間接:PDF21頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 38 | 説明不要・煩わしいユーザー及び安売り希望店の費用負担を反対事情として検討する。[必須] | 3 | 間接:PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | 間接:PDF21頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 39 | 全取引先に実質的に同等の説明条件が適用されると当てはめる。[必須] | 4 | PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | PDF20頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 40 | 販売方法制限が販売業者の統制手段となる可能性を,具体的な内容から評価する。[高評価] | 3 | PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | 記載なし(関連範囲実読)。 |
| 41 | Y社を市場分析構成で検討する場合,分析対象市場を理由付きで画定する。[許容分岐]適用:Y社について市場分析構成を採る場合。 | 3 | PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | 間接:PDF21頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 42 | Y社を市場分析構成で検討する場合,20%・指名需要・拘束内容・利用者特性等から競争影響を具体化する。[許容分岐]適用:Y社について市場分析構成を採る場合。 | 3 | PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | 間接:PDF21頁・当該規範・当てはめの評価。 |
| 43 | Y社に価格維持効果を認める構成では,説明義務の目的・態様による正当化を検討する。[許容分岐]適用:Y社に価格維持効果を認める場合。 | 4 | PDF30頁・当該行為・要件の検討。 | PDF21頁・当該規範・当てはめの評価。 |
3 重みの分布
重み1は0項目,重み2は3項目,重み3は12項目,重み4は21項目,重み5は7項目であり,合計43項目である。
重みの合計は0+2×3+3×12+4×21+5×7=161であり,公式得点の推計ではない。
番号1は,X社の価格に関する行為に2条9項4号イ及び19条を選択する。
この事項は採用構成を問わず本問の骨格となる。
番号4は,拘束を合意又は利益・不利益等の人為的手段による実効性確保として定義する。
この事項は採用構成を問わず本問の骨格となる。
番号17は,ブランド内の競争回避・競争停止による価格維持効果を公正競争阻害性の実質として説明する。
この事項は採用構成を問わず本問の骨格となる。
番号24は,違反終了を拘束者の措置と被拘束者の価格決定の自由から判断する規範を示す。
この事項は採用構成を問わず本問の骨格となる。
番号30は,Y社の説明義務について2条9項6号ニ・一般指定12項・19条を接続する。
この事項は採用構成を問わず本問の骨格となる。
番号32は,Y社の「不当に」を自由競争減殺の観点からの公正競争阻害性として定義する。
この事項は採用構成を問わず本問の骨格となる。
番号35は,合理性・全取引先に対する制限の同等性という基準を示す。
この事項は採用構成を問わず本問の骨格となる。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
X社の令和2年4月の拘束を否定し,令和4年1月の終了を認める構成を採る。
Y社は合理性・同等性の基準を用いる。
市場分析による別構成は下記解説に分け,未採用の分岐を全答案の必須事項とは扱わない。
答案は令和4年5月11日当時の法を基準とする。
2 答案
1 設問⑴
(1) 判断枠組み
甲製品の製造販売を営むX社は事業者(独占禁止法2条1項)である。
X社が自己の供給する甲製品を購入する小売業者の販売価格の自由な決定を,正当な理由なく拘束する条件を付けて供給すれば,再販売価格の拘束(独占禁止法2条9項4号イ)に当たり,19条に違反する。
単に参考価格を示すだけでは拘束ではない。
価格遵守を契約上義務付ける場合のほか,遵守しない場合の経済的不利益等の人為的手段によって価格遵守の実効性を確保する場合も拘束に当たる。
小売業者が通知の趣旨を理解することと,拘束を受けることは区別する。
再販売価格の拘束はブランド内の価格競争を減少・消滅させるため原則として公正競争阻害性を有する。
正当な理由が認められるには,競争促進・消費者利益をもたらし,他のより競争阻害的でない方法では実現できないことなどが必要である。
(2) 各行為と違反期間
平成28年4月の通知は,従来の参考価格について性能やブランド力から販売可能だと強調するにとどまる。
価格遵守の義務や不利益は示されておらず,小売業者も自ら価格を決めていたから,拘束とはいえない。
令和元年10月の調査は,希望価格を記した表に実売価格を記入させ,回答の正確性の確認を予告するものである。
価格調査自体は情報収集であり,正確な回答の要求を希望価格の遵守要求と同視できない。
値引きを理由とする不利益もなく,この段階も違反しない。
令和2年4月は「販価」と表記し,参考との記述を削除して調査を予告したから,価格を守ってほしいという意思は明確である。
X社はシェア30%の首位で,その商品を扱うことは小売に有利であり,一定の圧力ともなり得る。
しかし,従来の参考価格通知・調査の経過の下で,価格を守ってほしいという趣旨の理解を,価格遵守を引き受ける合意と同視することはできず,値引き継続店への不利益等によって遵守の実効性が確保された事情もない。
現に一部の小売は値引きを続けており,この段階では拘束を認めない。
令和2年10月は,価格遵守の要請に出荷制限の予告を伴わせ,直後に値引き店への出荷を実際に制限した。
X社商品を扱う利益を失う危険は小売に経済的不利益となる。
その措置が広く知られ,制限を恐れて値引きがほぼなくなったので,価格遵守の実効性を確保する拘束が認められる。
甲製品には代替品がなく,他社の同等機種の希望価格も大差がなく,シェアも安定しているので,ブランド間の競争によって失われたブランド内の価格競争が十分補われるとはいえない。
価格拘束が小売間の価格競争を直接停止する点を重視するため,ここでは市場画定を違法判断の不可欠の前提とはしない。
性能・ブランド力の維持というだけでは小売価格競争を奪う正当な理由にならず,他の手段では実現不能な競争促進効果も示されていない。
したがって,この時点から2条9項4号イに該当し,19条に違反する。
値引き店への出荷制限は,拘束の実効確保手段であるとともに,正当な競争である値引きを封じるための取引数量の制限として,一般指定2項のその他の取引拒絶にも当たり,19条に違反する。
終了は,拘束者による手段の撤回・打消措置と,被拘束者が制約なく価格を決められる状態への回復の双方から判断し,実際の価格動向も補助的に考慮する。
令和4年1月は,X社が価格に関する全ての通知・要請・措置を廃止し,参考である希望小売価格へ戻し,小売業者もその内容を理解した。
従前と同額で値引きがほぼないという結果だけでは,X社による拘束手段の存続を意味しない。
価格決定の自由が回復した以上,違反はこの廃止時に終了する。
よって,違反期間は令和2年10月の拘束開始から令和4年1月の廃止までである。
2 設問⑵
(1) 判断枠組み
Y社の説明義務は販売価格を直接指定するものではなく,小売業者の販売方法を拘束する条件であるから,拘束条件付取引(2条9項6号ニ,一般指定12項)を検討する。
相手方の事業活動を拘束する条件を付けて取引しても,「不当に」,すなわち自由競争減殺の観点からの公正競争阻害性がなければ19条に違反しない。
メーカーは基本的に自社製品の販売方法を選べるので,販売方法の義務付けだけで違法とはならない。
販売方法の制限は,その形態・程度,市場の状況,必要性等を考慮する。
適切な販売のための合理的な理由があり,全ての小売業者に実質的に同等の条件が課され,価格等の拘束の手段として使われていなければ,それ自体は通常違法とならない。
(2) 当てはめ
契約条項に説明義務を追加して実施し,合意によって遵守を義務付けているから,販売方法の拘束はある。
説明に費用を要し,説明を省いて安売りする競争やユーザーの選択を妨げ得る。
もっとも,費用の増加に伴う価格上昇と,小売間の競い合いを停止させる価格維持効果は同じではなく,費用増だけで後者を認めることはできない。
Y社はシェア20%でも特有機能への指名需要があり,小売にとって取扱いが有利なので,拘束の影響を無視できない。
他方,高額で多様な機種を持つ甲製品は,通常,説明を受けながら選ばれ,Y社製品には独自の機能がある。
その説明は適切な選択・使用を助け,新規需要の開拓とブランド間競争を促進する合理性を有する。
説明不要・煩わしいと感じる買換え客もいるが,条項は使用歴に応じて説明内容を区分し,既利用者にはY社固有の機能の説明で足りるので,負担を必要な範囲に限定している。
全取引先を対象に同等の条件を課しており,安売り店だけに制裁する事情や販売価格を指定する事情もない。
したがって,本件の説明義務は適切な販売のための合理的かつ限定された制限であり,公正競争阻害性を認めず,19条に違反しない。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案1(1)は番号1〜4・17・18,1(2)の時点ごとの検討は番号5・6・8〜16・21〜27,答案2は番号30〜40に対応する。
番号7・12・19・20・28・29・41〜43は別構成又はその構成に付随する注意点であり,本答案が全てを採用したという趣旨ではない。
任意の加点事項である番号23は完成答案では独立の取引拒絶として短く検討した。
(2) 価格の理解・合意・実効性と違反終了
令和2年4月の拘束については,通知の意味を理解したという事実を合意と同視せず,従前の参考通知や調査,調査予告,値引きが残っていることを合わせて評価する。
肯定構成でも,販価という用語や調査予告の意味を規範へ接続すればよく,採点実感は両結論を同等に評価するとしている。
値引きが一部残ることだけで拘束を否定する機械的な判断も避けるべきである。
終了は,X社側の撤回と小売側の自由回復を別々に確認し,価格動向を補助事情として使う。
参考価格の同額性と値引き不再開を検討せずに終了を断定するのも,その結果だけで継続を断定するのも十分ではない。
終了を否定する答案には,撤回とその理解があるのになお拘束が続く理由の説明が必要である。
(3) 市場分析による別構成と説明販売
X社では,価格拘束がブランド内競争を直接停止することから公正競争阻害性を評価する構成と,X社製甲製品又は甲製品全体の市場を画定して具体的影響を分析する構成が許容される。
後者では代替性,シェア,小売にとっての営業上の意味及びブランド内・間の競争を,画定した市場と整合させて評価する。
市場を甲製品全体としながら一ブランドだけを分析して終える取り違えを避ける。
Y社では,合理性・同等性の基準を使う構成のほか,対象市場を画定して価格維持効果を分析する構成も許容される。
後者では拘束内容,利用者特性,20%のシェアと指名需要,説明を課す目的,ブランド内・間の競争を評価する。
価格維持効果を認めるなら,説明義務の目的と負担の限定を正当化の段階で検討する。
(4) 答案の限界と扱わなかった事項
説明費用の増加と,事業者間の競い合いを止める価格維持効果は区別される。
本答案は,使用歴に応じた説明の限定と全取引先への同等性から合理的な制限として処理したが,費用負担・低価格販売を求める小売とユーザーの事情も反対方向へ評価した。
調査回答義務を独立の拘束条件付取引として扱う番号7の分岐は,価格調査を主として検討する本答案では詳論していない。
設問が求めない課徴金額・差止請求の要件・将来の契約修正は答案へ加えていない。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の別の模範解答
1 令和4年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答(AI作成)
2 令和4年度司法試験民事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した55項目と5段階の重み付け(AI作成)
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5 令和4年司法試験刑事系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した50項目と5段階の重み付け(AI作成)
6 令和4年司法試験刑事系科目第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した48項目と5段階の重み付け(AI作成)
7 令和4年度司法試験民事系第3問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した53項目と5段階の重み付け(AI作成)
8 令和4年度司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した53項目と5段階の重み付け(AI作成)
2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事
1 販売代理店の値引き・顧客切替えと独占禁止法―再販売価格拘束,リベート及び拘束条件付取引(AI作成)
2 委託販売・代理店契約でメーカーが販売価格を指定できる場合―令和8年7月改正指針と契約審査の実務(AI作成)
後者は試験後の指針改正を扱う関連実務記事であり,本問当時の法状態を変更する根拠には用いない。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
法務省令和4年司法試験論文式試験問題・選択科目:実頁16・17の経済法第2問。
法務省令和4年司法試験論文式試験問題出題の趣旨:実頁28の第2問見出し以降〜30。
法務省令和4年司法試験の採点実感・選択科目:実頁16の科目総論・第2問採点方針,18の第2問節以降〜21の対応節,22の第2問答案水準・科目末尾。
同じPDFの他科目・第1問の本文は本記事の評価根拠として使用していない。
2 法令及び行政資料
e-Gov法令検索・独占禁止法:令和3年3月1日施行版を法令APIの改正履歴から特定し,試験日までの次改正の有無を照合した上で,本則2条1項・9項4号イ・6号ニ及び19条を確認した。
公正取引委員会不公正な取引方法(一般指定):平成21年改正・平成22年1月1日施行の2項・12項。
公正取引委員会流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針・平成29年6月16日改正版:実頁13・14の価格拘束,24・25の販売方法制限等を確認した。
3 裁判例・審決
ソニー・コンピュータエンタテインメント事件・平成13年8月1日審判審決の第3の2における違反終了の規範と理由部分を原文で確認した。
和光堂事件最高裁昭和50年7月10日判決及び資生堂東京販売事件最高裁平成10年12月18日判決は,公式資料における判例の位置付けを確認し,対応する行政指針の規範を独立に確認した。
両最高裁判決の原文自体の確認とは区別する。
採点実感の実頁20にはX社の設問の検討中に「Y社製甲製品」とする記載があるが,本記事では問題文と前後の文脈からX社の検討として整理し,原資料の表記と区別した。
4 確認状態
問題文・公式資料の対象箇所,試験日適用版の条文,告示及び行政指針,終了を扱う審決は上記範囲で確認した。
本件事実への当てはめ,評価項目の分割及び重みは独自の分析であり,法務省が項目ごとに配点を公表したという趣旨ではない。
最高裁2判決の原文未確認という限界を残し,公式の判例説明を原文実読と取り違えない。