道路の騒音差止めと,自衛隊機の夜間運航の差止めでは,請求を実現する行政作用と訴訟形式が問題となる。
本記事は,公式資料から抽出した28項目と,試験実施時の法令・判例を踏まえた模範解答を示す。
第1 この記事の対象と結論
本記事の対象は,令和5年司法試験・環境法第1問である。
道路騒音については,資料に示された構造対策による救済を手掛かりに民事差止めの適法性を説明し,差止めと損害賠償の違法性を比較する。
自衛隊機については,厚木基地の二つの最高裁判決を踏まえて民事差止めと行政訴訟を比較し,法定差止めを主位として訴訟要件と本案を区別する。
評価項目は28項目,重みの合計は111である。
これらは法務省の公式採点基準や配点ではなく,出題の趣旨・採点実感を基に本記事が独自に抽出・重み付けした項目である。
条件付きの許容分岐を全答案への累積要求とはしない。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
各行は一つの判定対象を示し,番号を記事全体で連続させる。
出典欄の頁はリンク先PDFの物理頁であり,出題の趣旨は32~33頁,採点実感は36~39頁が第1問の該当範囲である。
「記載なし」は対象範囲を読んだ結果を示し,「間接」は関連記載からの推論を示す。
「必須」「高評価」「負例」「許容分岐」の区分と重みは別の指標である。
許容分岐の行は,当該構成を採用・比較する場合にその論証を点検するものであり,すべての構成の採用を求めない。
判例配置の番号28は個別項目と重なるため,網羅率を計算する際に重複加点しない。
2 5段階の重み付けの基準
①重み5:答案の骨格,又は採点実感が評価の分かれ目とした事項。
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は不足の具体的指摘を通じて取り上げた事項。
③重み3:いずれかの資料が明示する中核の理由付け。
④重み2:一方の資料が検討例等として軽く触れる補強又は典型的な誤り。
⑤重み1:一方が控えめに触れる事項。
本問では,重み4を「両資料が取り上げた事項」として判定する。
すべてが採点実感で明示的に高評価とされたという意味ではない。
各段階への件数割当ては行っていない。
第3 本問の概要
設問1のAらは,一般国道の道路端に近接した範囲に居住し,自動車騒音の被害について国への訴訟を考えている。
小問⑴は,大阪国際空港訴訟で民事差止めが不適法となったのに対し,道路騒音の民事差止めを適法とする理由を,通知の抜粋資料から説明させる。
小問⑵は,民事差止めと損害賠償の違法性の判断枠組みを,判例・学説を指摘して比較させる。
設問2のDらは,自衛隊基地周辺に居住し,夜間の離発着騒音による不眠等の差止めを求める。
小問⑴は複数の訴訟の可能性と訴訟要件,小問⑵は離発着の違法性の判断枠組み,小問⑶は道路の民事差止めの枠組みとの関係を問う。
個別の騒音値や対策の詳細は示されていないため,本案勝訴を事実上当然の結論としては扱わない。
第4 評価項目と重み
1 設問1⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 空港の離発着差止めが航空行政権の発動等を不可避的に求めることを説明する。[必須] | 4 | 32頁・環境法・第1問:「各差止請求の内容と公権力の発動との関係」 | 36頁・3【第1問について】⑴:「公権力の発動によることを要する方法しか考えにくかった」 |
| 2 | 道路騒音の低減は遮音壁・舗装等の道路管理者の事実行為でも実現できると資料から説明する。[必須] | 5 | 32頁・環境法・第1問:「【資料】を参照しつつ、各差止請求の内容」 | 36頁・3【第1問について】⑴:「道路管理者による事実行為も想定できる」 |
| 3 | 両差止請求の内容と公権力の発動との関係を対比し,適法性の相違を導く。[必須] | 5 | 32頁・環境法・第1問:「両判決が異なる結論に至った理由を分析」 | 36頁・3【第1問について】⑴:「各差止請求の内容と公権力の発動との関係について言及」 |
2 設問1⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 4 | 道路の民事差止めの違法性を社会生活上の受忍限度超過として構成する。[必須] | 3 | 記載なし(対象範囲確認済み) | 37頁・3【第1問について】⑴:「受忍限度についての枠組みを提示」 |
| 5 | 民事差止めでは侵害の態様・程度,被侵害利益の性質・内容,公共性の内容・程度を比較衡量する。[必須] | 4 | 32頁・環境法・第1問:「民事差止請求の違法性及び同訴訟最判(損害賠償)が示した」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「①侵害行為の態様と侵害の程度、②被侵害利益の性質と内容、③侵害行為のもつ公共性の内容と程度」 |
| 6 | 損害賠償の違法性では侵害・利益・公共性に被害防止措置の内容等を加えて総合考慮する。[必須] | 4 | 32頁・環境法・第1問:「損害賠償請求の違法性の各判断枠組みを説明」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「④被害の防止に関する措置の内容等の4点を考慮」 |
| 7 | 損害賠償における公共性評価で,受益と被害の彼此相補の関係を分析する。[高評価] | 5 | 32頁・環境法・第1問:「公共性に関する最高裁判決の判断枠組みの特色を分析」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「受益と被害の彼此相補の関係が成り立つか」 |
| 8 | 損害賠償における公共性評価に,被害対策が見るべき効果を上げたかを接続する。[高評価] | 4 | 32頁・環境法・第1問:「公共性に関する最高裁判決の判断枠組みの特色を分析」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「被害対策が見るべき効果をあげているか」 |
| 9 | 損害賠償で公共性を考慮することの当否について,学説からの評価・批判を理由とともに論じる。[高評価] | 5 | 32頁・環境法・第1問:「これに対する学説からの評価(公共性の考慮の当否)」 | 38頁・3【第1問について】⑵:「学説からの批判(公共性の考慮の当否)についても論じることを期待」 |
| 10 | 差止めと損害賠償の違法性の関係を,違法性段階説又はファクターの重み付け相違説で説明する。[必須] | 4 | 32頁・環境法・第1問:「要求される違法性の程度、各請求における各考慮要素の重要性の相違」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「違法性段階説又は「ファクターの重みづけ」相違説」 |
| 11 | 差止めが供用・第三者の利用を制限することと,賠償が金銭救済であることから相違の理由を説明する。[高評価] | 4 | 32頁・環境法・第1問:「両者の相違の理由について詳しい分析」 | 38頁・3【第1問について】⑶:「両者の違いについて、考慮要素の違いに加え」 |
3 設問2⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 12 | 平成5年厚木基地判決の公権力性の理由を示し,判例上民事差止めが不適法となることを説明する。[必須] | 5 | 32頁・環境法・第1問:「差止訴訟(法定抗告訴訟)及び民事差止訴訟を検討すべき」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「厚木基地訴訟平成5年最判が自衛隊機基地騒音に係る民事差止訴訟を不適法」 |
| 13 | 平成28年厚木基地判決を踏まえ,法定抗告訴訟の差止めを民事差止めと比較検討する。[必須] | 5 | 32頁・環境法・第1問:「差止訴訟(法定抗告訴訟)と民事差止訴訟との比較検討は必須」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「法定抗告訴訟としての差止訴訟を適法なものとして本案審理」 |
| 14 | 採用する行政訴訟につき,請求対象と訴訟要件を具体的に理由付ける。[必須] | 3 | 記載なし(対象範囲確認済み) | 37頁・3【第1問について】⑴:「訴訟要件を含めて適切な立論を行った答案」 |
| 15 | 公法上の当事者訴訟を採用・比較するなら,確認対象や確認の利益,差止めとの関係を具体化する。[許容分岐]適用条件:当事者訴訟を採用又は実質的に比較する場合。 | 3 | 32頁・環境法・第1問:「当事者訴訟や権力的妨害排除訴訟を比較検討する答案も評価」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「公法上の当事者訴訟」 |
| 16 | 権力的妨害排除訴訟を採用・比較するなら,排除対象・根拠と法定抗告訴訟との関係を具体化する。[許容分岐]適用条件:権力的妨害排除を採用又は実質的に比較する場合。 | 3 | 32頁・環境法・第1問:「権力的妨害排除訴訟を比較検討する答案も評価」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「権力的妨害排除訴訟について論じた解答」 |
| 17 | 法定外抗告差止めを採用・比較するなら,法定差止めとの救済範囲・要件の関係を示す。[許容分岐]適用条件:法定外抗告差止めを採用又は比較する場合。 | 3 | 32頁・環境法・第1問:「法定外抗告訴訟としての差止訴訟」 | 記載なし(対象範囲確認済み) |
| 18 | 非申請型義務付けを検討するなら,請求する行政作用と差止めとの関係を具体化する。[許容分岐]適用条件:非申請型義務付けを採用又は比較する場合。 | 2 | 記載なし(対象範囲確認済み) | 37頁・3【第1問について】⑴:「直接型(非申請型)義務付け訴訟」 |
| 19 | 民事差止めだけで行政救済の展開を看過する構成に終始しない。[負例]適用条件:設問2全体。ただし番号27の整合的分岐を全否定しない。 | 5 | 33頁・環境法・第1問:「民事差止訴訟のみを検討する解答」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「民事差止訴訟を専ら検討している解答」 |
4 設問2⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 20 | 法定差止めの本案を行訴法37条の4第5項の法令違反又は裁量逸脱・濫用として判断する。[必須] | 5 | 32頁・環境法・第1問:「行政事件訴訟法第37条の4第5項に即した検討」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「行政事件訴訟法第37条の4第5項に則して」 |
| 21 | 平成28年判決が防衛大臣の運航判断に幅広い裁量を認めることを,政策的・専門技術的判断の性質から説明する。[必須] | 4 | 32頁・環境法・第1問:「防衛大臣の判断に幅広い裁量が認められること」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「防衛大臣の判断に幅広い裁量が認められること」 |
| 22 | 自衛隊機の運航目的等に照らした具体的な公共性・公益性を考慮する。[必須] | 4 | 33頁・環境法・第1問:「運航目的等に照らした公共性や公益性」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「自衛隊機の運航目的等に照らした公共性や公益性」 |
| 23 | 周辺住民の被害の性質・程度を,夜間不眠等に即して評価する。[必須] | 4 | 33頁・環境法・第1問:「周辺住民の被害の性質と程度」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「周辺住民の被害の性質と程度」 |
| 24 | 被害軽減措置の有無・内容等を,運航・被害との関係で考慮する。[高評価] | 4 | 33頁・環境法・第1問:「被害軽減措置の有無や内容等が考慮される」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「被害軽減措置の有無や内容等も考慮される」 |
5 設問2⑶
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 25 | 道路の民事差止めと自衛隊機の行政差止めを比較し,実質的考慮要素が大きく異ならないことを説明する。[必須] | 5 | 33頁・環境法・第1問:「判断枠組みは大きくは異ならないとの評価は一般的」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「考慮要素は大きくは異ならないとする評価は一般的」 |
| 26 | 比較の中でも防衛大臣の広範裁量と被害軽減措置を位置付け,共通要素から審査密度の同一性を即断しない。[高評価] | 4 | 33頁・環境法・第1問:「同判決の精確な理解を示したものとして評価」 | 37頁・3【第1問について】⑴:「防衛大臣の判断に幅広い裁量が認められている」 |
| 27 | 民事差止めを適法とする分岐も,特殊性を踏まえ明確で一貫した論旨なら評価余地があると扱う。[許容分岐]適用条件:民事差止め適法説を主位に採用する場合。 | 2 | 記載なし(対象範囲確認済み) | 38頁・3【第1問について】⑴:「ある程度明確かつ一貫性のある論旨を展開」 |
6 判例の配置
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 28 | 指定された5判例を,訴訟形式・差止め・損害賠償の役割に即して正しく配置する。[必須] | 3 | 32頁・環境法・第1問:「解答に際して踏まえるべき最高裁判所の判例」 | 38頁・3【第1問について】⑵:「上記の基本判例を的確に理解できているか」 |
7 重みの分布と重み5の項目
28項目の内訳は,重み5が9項目,重み4が11項目,重み3が6項目,重み2が2項目,重み1が0項目である。
N=0+2+6+11+9=28,W=0+2×2+3×6+4×11+5×9=111となる。
これは項目の集計値であり,公式の配点を意味しない。
番号2:道路騒音の低減は遮音壁・舗装等の道路管理者の事実行為でも実現できると資料から説明する。
重み5の理由:資料から適法性へ進む答案の骨格。
適用条件:全答案。
番号3:両差止請求の内容と公権力の発動との関係を対比し,適法性の相違を導く。
重み5の理由:異なる結論の説明自体が設問の骨格。
適用条件:全答案。
番号7:損害賠償における公共性評価で,受益と被害の彼此相補の関係を分析する。
重み5の理由:公共性の特色は優秀答案像にも含まれ,単なる要素列挙から分析へ進む分かれ目。
適用条件:全答案。
番号9:損害賠償で公共性を考慮することの当否について,学説からの評価・批判を理由とともに論じる。
重み5の理由:実感が不足を特に指摘し優秀答案像にも置く評価の分かれ目。
適用条件:全答案。
番号12:平成5年厚木基地判決の公権力性の理由を示し,判例上民事差止めが不適法となることを説明する。
重み5の理由:民事ルートの限界を示す設問2の骨格。
適用条件:全答案。
番号13:平成28年厚木基地判決を踏まえ,法定抗告訴訟の差止めを民事差止めと比較検討する。
重み5の理由:趣旨が比較必須と明示する答案の骨格。
適用条件:全答案。
番号19:民事差止めだけで行政救済の展開を看過する構成に終始しない。
重み5の理由:行政救済を踏まえる設問の骨格を失う負例。ただし一貫した民事論の評価余地は番号27。
適用条件:設問2全体。ただし番号27の整合的分岐を全否定しない。
番号20:法定差止めの本案を行訴法37条の4第5項の法令違反又は裁量逸脱・濫用として判断する。
重み5の理由:訴訟要件と本案を分ける条文上の骨格。
適用条件:全答案。
番号25:道路の民事差止めと自衛隊機の行政差止めを比較し,実質的考慮要素が大きく異ならないことを説明する。
重み5の理由:単なる基準名の列挙を越える比較設問の骨格。
適用条件:全答案。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
基準時は,選択科目の試験日である令和5年7月12日とする。
道路では人格的利益に基づく民事差止め,自衛隊機では判例を前提に法定抗告訴訟の差止めを主位とし,代替構成は比較対象として扱う。
論点ごとに規範・理由・事実評価・効果を示し,訴訟要件と本案勝訴要件を混同しない。
答案本文は見出しと改行を含め2317字であり,空白・改行を除くと2267字である。
答案外の解説と出典をこの字数へ含めない。
採用していない許容分岐まで累積して答案へ書く必要はない。
2 答案
1 設問1
(1)大阪国際空港判決(最大判昭和56年12月16日)は,国営空港の空港管理権と航空行政権が不可分一体に行使され,離着陸の差止めが航空行政権の取消変更又は発動を不可避的に求めるため,民事差止訴訟を不適法とした。
道路では,道路管理と公安委員会等の交通規制は権限主体・作用が異なる。
資料には交通規制・取締りだけでなく,遮音壁の設置,低騒音舗装等の構造対策が示されている。
Aらの求める一定以上の騒音侵入の防止は,道路管理者の事実行為でも実現でき,交通規制権の発動を不可避的に求めるものではない。
したがって,民事差止訴訟は適法である。
通知自体が差止請求権を創設するのではない。
(2)①人格的利益に基づく妨害排除・予防としての差止めでは,社会生活上の受忍限度を超える侵害かを判断する。
侵害行為の態様・程度,被侵害利益の性質・内容,公共性・公益上の必要性の内容・程度,被害発生・継続の経過,被害防止措置の有無・内容・効果等を総合衡量する。
Aらの道路端に近接した居住を踏まえ,騒音強度・頻度,睡眠や健康への影響,構造対策の実効性,供用制限による影響を具体的に評価する。
②賠償は国賠法2条1項の営造物の設置・管理の瑕疵に基づく。
目的に沿った供用が周辺住民に受忍限度を超える被害を与える機能的瑕疵も含まれ,上記諸要素を総合する。
国道43号線判決(最判平成7年7月7日・損害賠償)は,道路が産業物資の流通に寄与しても,周辺住民の生活の維持存続に不可欠とはいえず,被害の増大に必然的に受益の増大が伴う彼此相補の関係がないことや,対策が十分な効果を上げていないことを踏まえ,公共性によって被害を受忍限度内とできないとした。
学説には,公共事業の便益が広く社会に帰属するのに被害を特定住民へ集中させ,公共性を理由に賠償を否定するのは公平を欠くため,賠償では公共性を考慮すべきでないとの批判がある。
この批判は金銭賠償が供用の継続を妨げないことからも説得的であり,少なくとも公共性を抽象的な免責理由としてはならない。
同日の差止判決は,両請求の考慮要素はほぼ共通するが,供用の差止めと金銭賠償という請求内容の相違に応じて各要素の重要性が異なり,違法性の判断に差が生じても不合理でないとした。
差止めは社会全体の道路利用を制約するため,公共性や代替可能性が賠償より重く考慮される。
これはファクターの重み付け相違説による説明であり,差止めにより高度の違法性を要するとする違法性段階説からの説明も可能である。
ただし,生命・健康の重大な侵害まで公共性だけで正当化するものではない。
2 設問2
(1)民事差止めが考えられるが,厚木基地判決(最判平成5年2月25日)は,自衛隊法8条・107条に基づく運航統括・規制権限の行使が,必然的な騒音について周辺住民に受忍を義務付ける公権力行使に当たり,その取消変更等を求める民事差止めを不適法とした。
判例によればDらの民事訴訟も不適法となる。
中心は行訴法3条7項・37条の4の法定差止訴訟であり,平成28年12月8日厚木基地判決もこれを適法として本案審理に入った。
国を被告に,防衛大臣による夜間の一定態様の自衛隊機運航に係る権限行使を特定し,それがされる蓋然性を示す。
Dらは騒音によって健康・平穏生活の利益を直接害される住民として法律上の利益を有する。
重大な損害のおそれは,回復の困難,損害の性質・程度と処分の内容・性質を考慮する。
夜間の不眠等は反復・蓄積し,各離発着後の取消訴訟・執行停止では容易に救済できず,金銭賠償も将来の被害を防げないから,他に適当な方法がないとの要件も検討できる。
継続的な運航全体の差止めを法定外抗告訴訟として構成する余地もあるが,法定差止めで十分救済できるなら,その要件潜脱は許されない。
公法上の当事者訴訟による受忍義務不存在確認や,違法な公権力作用による侵害の排除を求める権力的妨害排除訴訟も比較対象となる。
前者は確認対象と確認の利益,後者は排除対象・請求権の根拠と法定抗告訴訟との関係を具体化する必要があり,単に訴訟名を挙げて民事差止めと同じ給付を求めればよいのではない。
本件では直接将来の運航を止める法定差止めを主位とする。
(2)行訴法37条の4第5項により,根拠法令上処分をすべきでないことが明らかな場合又は裁量権の逸脱・濫用がある場合に差止めが認められる。
平成28年判決は,国の安全,運航の目的・必要性,被害等について高度の政策的・専門技術的判断を要するため,防衛大臣に広範な裁量を認め,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くかを審査した。
継続してきた運航・被害の事実関係を踏まえ,運航目的等に照らした具体的な公共性・公益性,住民の被害の性質・程度,被害軽減措置の有無・内容等を総合考慮する。
Dらの不眠を軽視せず,夜間運航の必要性や防音・運航制限の実効性を検討する。
本件の詳細は示されておらず,重大な損害のおそれの肯定だけで裁量逸脱・濫用を肯定できない。
(3)道路の民事差止めは受忍限度を裁判所が判断し,行政差止めは防衛大臣の裁量判断の逸脱・濫用を審査するという法形式上の差がある。
しかし,公共性・公益性,被害の性質・程度,被害軽減措置等という考慮要素は共通し,差止めの可否の実質的判断枠組みは大きく異ならない。
他方,幅広い行政裁量を前提とする点は同一ではなく,共通要素があることから審査密度まで等しいとはいえない。
いずれも抽象的な公共性の強調にとどめず,具体的被害と対策を適切に評価すべきである。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
設問1⑴の核は,行政機関が関与しているという形式だけで民事差止めを排除せず,請求の実現が公権力の発動を不可避的に求めるかを見る点である(番号1~3)。
資料の遮音壁や舗装は,道路管理者の事実行為でも騒音を軽減できる根拠として使う。
通知そのものを住民の差止請求権の根拠とはしない。
設問1⑵では,受忍限度の要素一覧にとどまらず,賠償の公共性判断の内側を読む必要がある(番号4~11)。
受益と被害の彼此相補,対策の効果を踏まえ,社会に広く帰属する便益を理由に特定住民へ負担を集中させてよいかを論じる。
公共性考慮への学説批判と,差止め・賠償の違法性の関係を説明する学説は,別の検討対象である。
設問2⑴では,平成5年判決による民事差止めの限界と,平成28年判決による行政救済の展開を結ぶ(番号12~19)。
当事者訴訟や権力的妨害排除等は比較対象となるが,そのすべての採用は必須でない。
非申請型義務付けは採点実感に現れる検討例であり,出題の趣旨由来の一律必須事項へ格上げしない。
本案は行訴法37条の4第5項に即して,広範裁量,運航目的に照らした公共性・公益性,被害,軽減措置を考慮する(番号20~24)。
重大な損害のおそれという訴訟要件が認められたことだけでは,本案の裁量逸脱・濫用は決まらない。
比較では共通する衡量要素を示しつつ,行政裁量を前提とする審査の法形式上の差も残す(番号25・26)。
採点実感は,判例と異なり民事差止めを適法とする答案でも,ある程度明確で一貫した論旨を展開した例に言及する(番号27)。
これは,理由を示さず行政救済を看過した民事限定論を一般に肯定する記載ではない。
指定された判例の役割を取り違えないことも,答案全体の検証対象となる(番号28)。
一般的な指摘として,設問を区別し,判例の法廷意見と自説を分け,資料の事実を規範へ接続する。
補足として,国賠法2条1項の機能的瑕疵,行訴法上の個別訴訟要件や法定外構成の具体化は原文・法令から検討した。
これらを公式資料に明記された全答案共通の評価項目として上積みしてはいない。
第6 関連記事
1 同じ科目の別年度の記事
①令和6年司法試験環境法第1問の模範解答・評価項目―31項目と5段階の重み付け(AI作成)
②令和5年度司法試験論文式試験の選択科目8科目の模範解答(AI作成)
2 評価項目の示し方を参照できる記事
①令和7年度司法試験公法系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した40項目と5段階の重み付け(AI作成)
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①法務省・令和5年司法試験の実施日程等
②法務省・令和5年司法試験問題(選択科目):PDF32~34頁,環境法第1問と資料。
③法務省・令和5年司法試験論文式試験問題の出題の趣旨:PDF32~33頁,環境法第1問。
④法務省・令和5年司法試験の採点実感(選択科目):PDF36~39頁の総論・第1問と41~42頁の共通末尾。
2 法令
行政事件訴訟法(e-Gov法令検索):3条,37条の4等。
本件の照合にはe-Gov公式APIの令和5年7月12日時点の版を用いた。
自衛隊法(e-Gov法令検索):8条・107条。
本件の照合にはe-Gov公式APIの令和5年7月12日時点の版を用いた。
国家賠償法(e-Gov法令検索):2条1項。
本件の照合にはe-Gov公式APIの令和5年7月12日時点の版を用いた。
道路法(e-Gov法令検索):42条。
本件の照合にはe-Gov公式APIの令和5年7月12日時点の版を用いた。
道路交通法(e-Gov法令検索):4条。
本件の照合にはe-Gov公式APIの令和5年7月12日時点の版を用いた。
3 裁判例
最高裁大法廷昭和56年12月16日判決(昭和51年(オ)第395号,民集35巻10号1369頁):民事差止めと航空行政権の関係。
最高裁平成5年2月25日判決(昭和62年(オ)第58号,民集47巻2号643頁):自衛隊機の運航権限と民事差止めの適法性。
最高裁平成7年7月7日判決(平成4年(オ)第1503号,民集49巻7号1870頁):損害賠償・受忍限度と公共性。
最高裁平成7年7月7日判決(平成4年(オ)第1504号,民集49巻7号2599頁):差止めと賠償の請求内容に応じた衡量。
最高裁平成28年12月8日判決(平成27年(行ヒ)第512号・第513号,民集70巻8号1833頁):法定差止めの訴訟要件・本案審査。
4 確認状態
問題・出題の趣旨・採点実感は法務省の正本PDFで,環境法第1問の対象部分を確認した。
裁判例は上記の裁判所掲載原文で,答案に用いた判示を確認した。
全頁の文字抽出と,関係する判示の実読は区別している。
公共性考慮への学説批判が期待されることは公式資料で確認できる。
答案中の負担公平に基づく批判の理由付けは本記事の論証として示し,特定の著者・文献への帰属はしていない。
法定外訴訟の具体的な構成及び共通衡量要素と審査密度の関係についても,本記事の解釈・評価と判例の判示を区別する。