令和5年司法試験の国際関係法(私法系)第1問について,相殺と債権譲渡・譲渡担保の検討経路を示す。
評価項目と重みは,公式資料から独自に抽出・整理したものであり,法務省の公式採点基準や配点ではない。
第1 この記事の対象と結論
対象は令和5年司法試験論文式試験問題(選択科目)の44頁~45頁にある国際関係法(私法系)第1問である。
出題の趣旨及び採点実感(選択科目)に基づく公開評価表は31項目,重み合計は123である。
模範解答では,相殺抗弁の自働債権につき独立の管轄を不要とする説を採り,Aの主張を排斥する。
法定相殺は受働債権法説によって日本法を適用する。
譲渡後の弁済抗弁は通則法23条を出発点に日本法へ連結し,譲渡前の弁済なら性質決定の入口が変わることも示す。
CとDの対外効には日本法を適用し,対抗要件を具備したCが債権①を取得すると判断する。
重み5は9項目であり,番号1・8・11・12・15・19・22・23・29である。
番号11及び23は採用構成に応じる項目であり,別構成を採る答案へ一律に要求する趣旨ではない。
枠内答案と,別構成・誤りの注意を示す枠外解説を第5に置く。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一つの評価項目には一つの具体的な判定対象を置き,必須・高評価・負例・許容分岐を重みとは別に表示する。
根拠欄の頁は各PDFの物理頁であり,関連範囲を読んだ上で記載がない場合だけ「記載なし」とする。
同じ判定対象を肯定形と否定形で表した事項は,一つの項目へまとめて重複計上を避ける。
典型的な誤りも各項目の判定対象に含めるが,一般的な答案作法と独自の補足は重みの集計へ入れない。
2 5段階の重み付けの基準
本記事の重み4は,出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な誤りの指摘を通じて取り上げた事項とする。
「高く評価した」と「取り上げた」を同一視せず,各項目の両資料との対応を確認している。
①重み5:採点実感が評価の分かれ目とした事項又は答案の骨格そのもの
②重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた事項
③重み3:どちらか一方が明示する中核の理由付け
④重み2:補強の事項又は典型的な誤り
⑤重み1:一方が控えめに触れるだけの事項
ある段階が0件でも項目を水増ししない。
許容分岐と負例を全答案に累積する要求にはせず,重み合計から公式得点や合格可能性を推定しない。
第3 本問の概要
甲国法人Aは日本法人Bに食品を売り,3000万円の債権①を取得した。
契約①の準拠法は日本法である。
設問1ではBがAに冷凍食材を売って取得した3200万円の債権②に甲国法及び甲国P地方裁判所の専属管轄合意がある。
Bは②で①を相殺したため,抗弁審理の可否と相殺準拠法が問題となる。
管轄合意の有効性は指定された前提である。
独立した設問2では,Aが2月10日にCへ①を譲渡し,公証人の日付印を受けた証書による通知が2月12日にBへ到達した。
小問1はBのAへの弁済抗弁の準拠法を問うが,弁済時期は明示されていない。
独立した小問2では,Dが2月1日に①の譲渡担保設定を受けていたが,AはBに通知していない。
甲国法では契約締結時期の先後で優劣が決まるという与件がある一方,Bが供託した3000万円に係るCD間の権利帰属を判断する。
第4 評価項目と重み
1 設問1小問1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 相殺抗弁の自働債権について独立の国際裁判管轄が必要かを立て,合意の効力範囲だけで済ませない(必須) | 5 | 38頁・設問1小問1(「国際裁判管轄権が認められる必要があるのか」) | 47頁・3⑴ 設問1小問1(「この問題を適切に発見することができている答案は、かなり少なかった」) |
| 2 | 管轄不要説を採るなら,抗弁が訴え・訴訟物と異なる防御方法であることを理由にする(許容分岐/条件:管轄不要説採用) | 4 | 38頁・設問1小問1(「管轄不要説、管轄必要説のいずれに立つにせよ、その根拠を示す必要がある」) | 47頁・3⑴ 設問1小問1(「相殺は防御方法にすぎず訴えと同一の制限をする必然性はなく」) |
| 3 | 管轄必要説を採るなら,自働債権の判断に既判力が生じる点を根拠にする(許容分岐/条件:管轄必要説採用) | 4 | 38頁・設問1小問1(「管轄不要説、管轄必要説のいずれに立つにせよ、その根拠を示す必要がある」) | 47頁・3⑴ 設問1小問1(「反対債権に関する判断についても既判力を生じる」) |
| 4 | 管轄必要説では,有効な専属合意が②を含むことから相殺抗弁を不適法却下する筋を示す(許容分岐/条件:管轄必要説採用) | 3 | 38頁・設問1小問1(「相殺の抗弁は不適法却下され」) | 47頁・3⑴ 設問1小問1(「債権②も、効力を生じている専属的管轄合意の適用範囲に含まれ」) |
| 5 | 併合・反訴の趣旨を用いる代替構成では,他方当事者の不利益と一括解決の便宜を比較する(許容分岐/条件:併合又は反訴の類推構成採用) | 3 | 記載なし | 48頁・3⑴ 設問1小問1(「他方当事者の不利益と一括解決の便宜とを的確に比較較量」) |
| 6 | 有効と指定された3条の7の合意の成立要件を詳細に再論しない(負例) | 2 | 38頁・設問1小問1(「合意は効力を生じている」) | 48頁・3⑴ 設問1小問1(「出題において前提とされていることを論じるのは無意味」) |
| 7 | 管轄不要説の理由を本件に当てはめ,Aの主張を排斥する結論につなげる(許容分岐/条件:管轄不要説採用) | 4 | 38頁・設問1小問1(「A社の主張は認められない」) | 47頁・3⑴ 設問1小問1(「専属的管轄合意の趣旨に著しく反するものでもない」) |
2 設問1小問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 8 | Bの一方的相殺を法定相殺の問題と性質決定する(必須) | 5 | 38頁・設問1小問2(「相殺の準拠法についての理解」) | 48頁・3⑴ 設問1小問2(「本問を相殺の問題と性質決定」) |
| 9 | 通則法に相殺の準拠法を直接定める明文がないと確認する(必須) | 4 | 38頁・設問1小問2(「直接定めた規定は存在しない」) | 48頁・3⑴ 設問1小問2(「相殺の準拠法について直接定めた規定が存在しない」) |
| 10 | 累積適用説を採る場合,双方債権の準拠法による理由を論証する(許容分岐/条件:累積適用説採用) | 4 | 38頁・設問1小問2(「自働債権準拠法と受働債権準拠法の累積的適用説」) | 48頁・3⑴ 設問1小問2(「その根拠について丁寧に論じ」) |
| 11 | 受働債権法説では,受働債権者の保護からその債権法を選ぶ理由を示す(許容分岐/条件:受働債権法説採用) | 5 | 38頁・設問1小問2(「受働債権準拠法説等の立場」) | 48頁・3⑴ 設問1小問2(「その根拠について丁寧に論じ」) |
| 12 | ①が受働債権・日本法,②が自働債権・甲国法という方向を正しく固定する(必須) | 5 | 38頁・設問1小問2(「いずれの法が準拠法となるか」) | 48頁・3⑴ 設問1小問2(「債権①の準拠法である日本法ではなく、債権②の準拠法である甲国法を適用」) |
| 13 | 採用説と指定する相殺準拠法を一致させ,根拠と結論を取り違えない(必須) | 4 | 38頁・設問1小問2(「本問への当てはめを行い」) | 48頁・3⑴ 設問1小問2(「受働債権準拠法説の論拠を用いながら、結論として、自働債権準拠法説を主張」) |
| 14 | 両契約の準拠法が選択されているのに8条の無選択の場合を論じない(負例) | 2 | 記載なし | 48頁・3⑴ 設問1小問2(「準拠法選択がないものとして、通則法第8条第1項及び第2項」) |
3 設問2小問1
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 15 | 旧債権者への弁済抗弁を債権譲渡の債務者に対する効力と性質決定する(必須/条件:譲渡後弁済の標準構成) | 5 | 38頁・設問2小問1(「債権の譲渡の債務者に対する効力の問題と性質決定」) | 48頁・3⑴ 設問2小問1(「債権の譲渡の債務者に対する効力の問題と性質決定」) |
| 16 | 債務者効を23条により被譲渡債権法へ連結する(必須/条件:譲渡後弁済の標準構成) | 4 | 38頁・設問2小問1(「通則法第23条の規定による」) | 48頁・3⑴ 設問2小問1(「通則法第23条の規定による」) |
| 17 | 23条の対象を売買契約①の代金債権と特定して日本法を導く(必須/条件:譲渡後弁済の標準構成) | 4 | 38頁・設問2小問1(「売買契約①の準拠法」) | 48頁・3⑴ 設問2小問1(「売買契約①の準拠法たる日本法」) |
| 18 | 弁済が譲渡前なら,消滅済み債権の譲渡可能性という別の入口を自覚して日本法へ連結する(高評価/条件:弁済時期の条件付き分岐を検討する場合) | 3 | 記載なし | 48頁・3⑴ 設問2小問1(弁済と譲渡の先後を自覚した検討に言及) |
4 設問2小問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 19 | Cの通常譲渡の第三者効を,Dの担保設定の第三者効と区別して検討する(必須) | 5 | 38頁・設問2小問2(「まず、A社からC社への債権譲渡の第三者に対する効力」) | 49頁・3⑴ 設問2小問2(「A社からC社への債権譲渡のB社に対する効力の準拠法についての検討を怠って」) |
| 20 | Cの通常譲渡の第三者効に23条を適用し①の日本法を指定する(必須) | 4 | 38頁・設問2小問2(「通則法第23条の規定に従い」) | 49頁・3⑴ 設問2小問2(「民法第467条第2項」) |
| 21 | Cの確定日付証書によるBへの通知到達を467条2項の対抗要件に当てはめる(必須) | 4 | 38頁・設問2小問2(「C社は日本法の債権譲渡の第三者対抗要件を具備」) | 49頁・3⑴ 設問2小問2(「C社は日本法の債権譲渡の第三者対抗要件を具備」) |
| 22 | 譲渡担保の第三者効について直接の明文がないことを踏まえ,通常譲渡との相違を意識する(必須) | 5 | 38頁・設問2小問2(「直接の明文規定は存在しない」) | 49頁・3⑴ 設問2小問2(「債権譲渡と債権譲渡担保の相違」) |
| 23 | 23条適用・類推の構成では,譲渡担保を債権移転と捉える根拠を示す(許容分岐/条件:23条適用・類推構成採用) | 5 | 39頁・設問2小問2(「債権譲渡担保を一種の債権譲渡であるとし」) | 49頁・3⑴ 設問2小問2(「通則法第23条の規定を適用又は準用」) |
| 24 | 物権構成では,無体債権に所在地を観念できず13条を直接用いられないと示す(許容分岐/条件:物権構成採用) | 4 | 39頁・設問2小問2(「通則法第13条の規定によることはできず」) | 49頁・3⑴ 設問2小問2(「目的物の所在地を観念できない」) |
| 25 | 物権構成では,客体たる債権の運命に影響することを理由に客体債権法へ連結する(許容分岐/条件:物権構成採用) | 4 | 39頁・設問2小問2(「客体たる債権の準拠法によるべき」) | 49頁・3⑴ 設問2小問2(「客体たる権利の運命に直接影響を与える」) |
| 26 | 統一的連結の構成では,同一債権の譲受人と担保権者の対外効を同じ法で処理する理由を示す(許容分岐/条件:統一的連結構成採用) | 4 | 39頁・設問2小問2(「同一の準拠法によるべき」) | 49頁・3⑴ 設問2小問2(「同一の準拠法によるべき」) |
| 27 | 担保の客体は①であり,その売買契約の日本法をDの対外効にも指定する(必須) | 4 | 39頁・設問2小問2(「売買契約①の準拠法であり、日本法」) | 49頁・3⑴ 設問2小問2(「売買契約①の準拠法たる日本法」) |
| 28 | AからBへの担保設定通知がない事実からDの第三者対抗要件未具備を示す(必須) | 4 | 39頁・設問2小問2(「D社は債権譲渡担保の設定の第三者対抗要件を具備していない」) | 49頁・3⑴ 設問2小問2(「A社はB社に対し、債権譲渡担保の設定について何ら通知」) |
| 29 | 日本法上のCの具備とDの未具備を対比し,Cが①を取得したと結論する(必須) | 5 | 39頁・設問2小問2(「C社が債権①を取得した」) | 49頁・3⑴ 設問2小問2(「最終的な結論として、C社が債権①を取得」) |
| 30 | 担保設定契約の甲国法を第三者効へ転写し,理由なくDを優先させない(負例) | 3 | 記載なし | 49頁・3⑴ 設問2小問2(「債権譲渡担保権設定契約の準拠法である甲国法」) |
| 31 | 客体債権の日本法と設定契約の甲国法を対外効へ累積適用しない(負例) | 2 | 記載なし | 50頁・3⑴ 設問2小問2(「日本法と債権譲渡担保権設定契約の準拠法である甲国法を累積的に適用」) |
5 重みの分布
重み5は9項目,重み4は15項目,重み3は4項目,重み2は3項目,重み1は0項目である。
総項目数は31,重み合計は9×5+15×4+4×3+3×2+0×1=123である。
番号1:相殺抗弁の自働債権について独立の国際裁判管轄が必要かを立て,合意の効力範囲だけで済ませない。
性質決定,判断の入口又は最終効果を決める骨格として重み5とした。
番号8:Bの一方的相殺を法定相殺の問題と性質決定する。
性質決定,判断の入口又は最終効果を決める骨格として重み5とした。
番号11:受働債権法説では,受働債権者の保護からその債権法を選ぶ理由を示す。
条件は受働債権法説採用である。
番号12:①が受働債権・日本法,②が自働債権・甲国法という方向を正しく固定する。
性質決定,判断の入口又は最終効果を決める骨格として重み5とした。
番号15:旧債権者への弁済抗弁を債権譲渡の債務者に対する効力と性質決定する。
条件は譲渡後弁済の標準構成である。
番号19:Cの通常譲渡の第三者効を,Dの担保設定の第三者効と区別して検討する。
性質決定,判断の入口又は最終効果を決める骨格として重み5とした。
番号22:譲渡担保の第三者効について直接の明文がないことを踏まえ,通常譲渡との相違を意識する。
性質決定,判断の入口又は最終効果を決める骨格として重み5とした。
番号23:23条適用・類推の構成では,譲渡担保を債権移転と捉える根拠を示す。
条件は23条適用・類推構成採用である。
番号29:日本法上のCの具備とDの未具備を対比し,Cが①を取得したと結論する。
性質決定,判断の入口又は最終効果を決める骨格として重み5とした。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
選択科目の試験実施日である2023年7月12日当時の法令を用いる。
以下の答案は改行を除いて1,968字であり,指定された1問2,500字の範囲内である。
管轄不要説・受働債権法説・23条類推を採用し,許容される他説は枠外で説明する。
2 答案
1 設問1小問1
(1) まず,相殺抗弁の審理に,自働債権②についての独立の国際裁判管轄が必要かが問題となる。
国際裁判管轄は訴訟物との関係で判断される。
相殺抗弁は本訴請求①を排斥する防御方法であり,②の給付を求める独立の訴えではない。
したがって,②について本案裁判所の国際裁判管轄は不要と解する。
(2) 確かに,相殺に供された請求の成立・不成立の判断には対抗額につき既判力が生じる(民事訴訟法114条2項)ため,②の最終的解決をP地方裁判所に委ねた合意を尊重すべきとの管轄必要説も考えられる。
しかし,これは相殺の蒸返しを防ぐ例外的既判力であり,抗弁を訴えと同じように制限する必然性までは導かれない。
Aが①の訴えを日本で提起した以上,Bに別の外国訴訟を強いるのは防御の負担を増やし,一括解決を妨げる。
抗弁審理は①の請求判断に必要な限度で行われ,②について給付判決を求めるものでもないから,専属合意の趣旨に著しく反しない。
本件合意は同法3条の7の要件を満たし有効であるが,そのことから②を用いた防御まで排除されない。
よってAの主張は認められず,日本の裁判所は相殺抗弁の前提として②を審理・判断できる。
2 設問1小問2
(1) 本件はBの一方的意思表示による法定相殺の問題であり,その準拠法を直接定める規定は法の適用に関する通則法にない。
自働債権はBの②,受働債権はAの①であり,各債権自体の準拠法は,当事者の選択により,7条に従い②が甲国法,①が日本法となる。
(2) 双方の債権を消滅させる以上,各債権者の利益を保護するため両準拠法を累積適用する説も考えられる。
しかし,自働債権者は自ら相殺を選択するのに対し,受働債権者は相手方の意思表示により債権を失うので,後者の予測可能性を保護すべきである。
受働債権の準拠法による消滅なら同人の合理的期待を害さず,簡易な決済機能も確保できる。
そこで,相殺の要件・効果は受働債権の準拠法によると解する。
本件相殺抗弁は①の準拠法である日本法によって判断する。
もっとも,自働債権②の存在・内容自体はその準拠法である甲国法によって判断し,これと相殺の準拠法を混同しない。
3 設問2小問1
(1) BのAに対する弁済をCに対抗できるかは,債権譲渡の債務者に対する効力の問題と性質決定され,通則法23条による。
同条の「譲渡に係る債権について適用すべき法」は,被譲渡債権①の発生原因である売買契約①の準拠法である。
したがって,7条に基づき選択された日本法によりBの抗弁を判断する。
AC間の譲渡契約の準拠法をそのままBとの関係に及ぼすものではない。
(2) 弁済時期は示されていない。
譲渡後の弁済であれば,日本民法467条・468条に従い,譲渡通知の到達と弁済の先後等を判断する。
これに対し,譲渡前に弁済により①が消滅していたなら,対抗問題以前に存在しない債権を譲渡できるかが問題となる。
この場合も,債権の譲渡可能性は債権の存在・帰属を規律する法によるべきであり,債務者の地位を変更しないため①の準拠法たる日本法によると解する。
いずれの時間的分岐でも日本法に至るが,性質決定の経路は異なる。
設問は準拠法を問うため,Bの抗弁の成否は断定しない。
4 設問2小問2
(1) まず,AからCへの譲渡の第三者Dに対する効力は,通則法23条による。
対象債権①は7条により日本法に服するから,この第三者効も日本法による。
Cへの譲渡は,公証人の2月10日の日付印がある証書による通知が2月12日にBに到達しており,民法467条2項の第三者対抗要件を具備する。
(2) 次に,AからDへの債権譲渡担保の第三者Cに対する効力を決める必要がある。
貸付け・担保設定契約の内部的効力が7条により甲国法に服することとは区別する。
債権譲渡担保の第三者効を直接定める明文規定はないが,担保目的で債権を移転するため,通常の譲渡と共通の対外的公示及び優劣の処理を要する。
同一債権の譲受人と担保権者が競合する場面で,設定契約ごとに異なる法を用いると,帰属を統一的に処理できない。
そこで23条を類推し,客体である債権①の準拠法たる日本法によると解する。
これは被担保貸金債権の法を指定するものではない。
(3) AはDへの担保設定についてBに何ら通知していないので,Dは日本法上の第三者対抗要件を具備していない。
D自身が6月1日にした実行通知は,Aによる確定日付証書の通知又はBの承諾と同視できず,設定契約が2月1日であったことだけでもCに対抗できない。
甲国法の契約締結時期による優劣の規則を適用したり,日本法と累積適用したりする余地はない。
したがって,CがDに対して①の取得を対抗でき,供託金還付請求権の帰属判断の前提として,債権①を取得した者はCと判断すべきである。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案1は番号1・2・6・7,答案2は番号8・9・11~14,答案3は番号15~18,答案4は番号19~23・27~31に対応する。
番号3~5・10・24~26は非採用の許容分岐であり,以下の解説で条件と経路を示す。
(2) 相殺抗弁の管轄
設問1小問1の中心は,管轄合意の有効性ではなく,抗弁中の自働債権に独立の管轄が必要かである。
管轄不要説では訴訟物と防御方法の違いから出発し,既判力の反論と専属合意の趣旨を検討する。
番号3・4の管轄必要説を採る場合には,114条2項により自働債権の判断にも既判力が生じることを理由とし,有効な専属合意の適用範囲に②が含まれるので相殺抗弁を不適法却下し,Aの主張を認める経路になる。
番号5の代替構成では,民訴法3条の6の客観的併合や146条3項の反訴の趣旨を参考にする場合も,条文番号だけで処理せず,他方当事者の不利益と一括解決の便宜を比較する。
採点実感はこうした説得的な比較を相応に高く評価している。
単に専属合意の効力範囲だけを論じる答案や,有効性を長く再論する答案とは区別される。
(3) 相殺の準拠法
相殺の抵触法上の性質決定を先にし,契約①②の法をそのまま相殺法としない。
受働債権法説の理由を述べて甲国法を選ぶのは,受働①と自働②の取り違えである。
番号10の累積適用説を採るなら,一方的に両債権を消滅させる相殺の効果から双方の準拠法による保護を理由とし,日本法と甲国法を累積して相殺の要件を判断する。
甲国の相殺法内容は与えられていないため,その説で具体的成立を推測しない。
(4) 弁済時期と債権譲渡
番号18は採点実感に現れる発展的な分岐であり,標準的な23条構成の必須事項へ格上げしていない。
譲渡前に弁済で債権が消滅していた場合,譲渡の対抗問題を論じる前に,存在しない債権を譲渡できるかという入口を検討する。
最終的に日本法に至ることが同じでも,性質決定の違いを自覚する点に意味がある。
弁済時期は補わず,Bの抗弁の成否を無条件に確定しない。
(5) 譲渡担保の対外効と許容分岐
Cの通常譲渡の対外効には23条を直接適用する一方,Dの担保設定の対外効は直接の明文がないことから構成を選ぶ。
枠内答案は,担保目的の債権移転と,競合する権利の帰属を統一する必要に基づき23条を類推する。
通常譲渡との相違を理由なく消す構成ではない。
番号24・25の物権構成では,債権質の判例を参考に,目的物が有体物でないため所在地を観念できず,通則法13条を直接適用できないとする。
担保は客体たる権利の運命に直接影響するので,客体債権①の準拠法たる日本法へ連結する。
番号26の統一的連結構成では,同一債権の譲受人・譲渡担保権者の第三者効を共通の法で処理する必要から,23条と同様に①法を選ぶ。
いずれの許容構成でも,Cの確定日付通知とDの通知欠缺を日本法に当てはめてCの取得に至る。
(6) 答案の弱点と扱わなかった事項
①②の債権の準拠法は与件にあるため,無選択の8条を長く検討しない。
設問2では管轄があるとの仮定を覆さず,外国判決承認や供託手続一般を広げない。
CDの優劣で設定契約の甲国法を対外効へ転写したり,日本法と累積したりするのは,法定相殺の累積説とは別の問題である。
法定相殺の結論は採用説の理由に依存する。
弁済抗弁は時間関係が未指定なので具体的な成否を決めておらず,債権質判決を譲渡担保に参考とする構成は両者の制度差を踏まえる必要がある。
これらの限界を理由に,公式資料が認める構成を一つの正解へ狭めない。
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第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①令和5年司法試験論文式試験問題(選択科目):44頁~45頁
②令和5年司法試験論文式試験問題出題趣旨:37頁第1問~39頁第2問直前
③令和5年司法試験の採点実感(選択科目):47頁~50頁第2問直前,52頁~53頁の科目総論
④令和5年司法試験の実施日程等について:選択科目の試験日
2 法令
①法の適用に関する通則法:7条・8条・13条・23条
②民事訴訟法:3条の7・114条2項・比較構成の3条の6及び146条3項
③民法:467条・468条,相殺の505条・506条
e-Govの施行版一覧で基準日以前の最新版を特定し,2023年当時の本文を確認した。
法令検索の通常リンクは現在の版を表示する場合があるため,当時法の記述とは区別する。
3 裁判例
債権質の準拠法に関する最高裁昭和53年4月20日第一小法廷判決(昭和50年(オ)第347号,民集32巻3号616頁)の原文1頁~2頁は,無体の債権を客体とする担保と客体債権法との関係及び通知の効力要件を確認する資料である。
譲渡担保そのものについての直接の判断として引用する趣旨ではない。
4 確認状態
対象問題,公式解説の第1問関連範囲,試験当時の法令及び判決原文の上記命題を確認した。
公式資料が示す評価の説明と,本記事が独自に定めた評価項目・重み・模範解答の構成は区別している。
判決の裁判年月日・事件番号・掲載誌は裁判所HPの判例詳細で確認し,本文では確認できた判示の範囲だけを扱う。