第1 保管金の還付と訴訟手数料の還付を分ける
裁判所へ納めた金銭の返金は,金銭の種類によって手続が異なる。
本記事は,裁判所が保管する予納金等の残額について,電子納付の登録,還付先口座の確認,口座変更及び法律事務所内の精算を説明する。
令和8年10月14日に確認した裁判所の公式案内,東京地方裁判所の令和7年1月のQ&A及び日弁連・国税庁の公表資料を用いる。
| 金銭の種類 | 返金・回収で確認すること |
|---|---|
| 裁判所の保管金・予納金の残額 | 還付事由の発生,提出者,納付方法,登録口座又は事前の還付請求を確認する。電子納付では残額の自動振込が案内されている |
| 訴訟手数料 | 過納,取下げ等について法律所定の要件と申立てを確認する。保管金の自動還付と同じ手続ではない |
| 相手方から回収する訴訟費用 | 費用負担の定めと費用額確定手続等を確認する。裁判所に預けた残額の返金ではない |
訴訟手数料の還付額,申立期限及び処分後の支払請求は,訴訟手数料の還付―取下げ・過納の場合の金額,申立期限及び異議(AI作成)で扱っている。
ここでいう裁判所の保管金は,供託所に納める供託金とも区別する必要がある。
事件の種類,費目及び裁判所から交付された納付案内を確認し,「予納金」という名称だけで納付先や還付方法を決めない。
第2 電子納付をした残額は自動的に返ってくるか
1 残額の還付には個別の手続が不要と案内されている
裁判所の全国共通の案内「保管金の電子納付について」は,事件の終了等で残金を返す場合,利用者登録時に指定した銀行口座へ自動的に振り込み,事件番号・還付金額等を記載した保管金振込通知書を登録住所へ送付すると説明している。
この残額還付については,個別の手続は不要とされている。
ただし,登録をしたことだけで,還付事由の発生前に金銭を返してもらえるわけではない。
電子納付以外でも,事前に還付先口座を指定する方法が案内されている場合がある。
例えば東京地方裁判所民事第21部の「配当金等の支払・予納金の還付手続について」は,保管金提出書兼還付請求書の還付先欄に口座が記載されていれば,残額について別途請求書等を提出する必要はないと説明している。
これは同部の対象手続の案内であり,未指定の口座や他の種類の金銭まで同じ扱いになると一般化しない。
2 納付の際に必要な登録と事件への申出
電子納付を初めて利用するときは,裁判所の保管金担当係へ電子納付利用者登録申請書を提出し,利用者登録コードを取得する。
登録コードは全国の裁判所で共通して利用できる。
東京地方裁判所のQ&Aは,登録後又は最後に電子納付を利用した日から2年間利用しない場合は登録が抹消されると説明している。
事件担当の裁判所書記官へ,電子納付を利用する旨と登録コードを伝え,交付された書面に記載された収納機関番号,納付番号及び確認番号を用いて,Pay-easy対応のインターネットバンキングやATM等から納付する。
電子納付では,交付された保管金提出書を裁判所へ返送する必要はなく,保管金受領証書も交付されない。
事務所内では,納付情報と金融機関の取引記録を事件に対応させて保存することが有用である。
3 電子納付を利用できない保管金もある
全国共通の案内は,不動産競売の買受申出保証金及び売却代金について,電子納付を利用できないと明記している。
保釈保証金等の緊急性のある納付では,納付の前及び納付後に担当書記官への連絡が必要と案内されている。
時間外・休日等は裁判所が即時に納付を確認できない場合があるため,送金したことと,事件上必要な納付確認が済んだことを分けて確認する。
第3 還付先は依頼者と弁護士のどちらの口座か
1 提出者本人名義が原則である
全国共通の案内は,保管金を提出する本人名義の口座を還付先に指定する必要があり,家族を含む他人名義の口座は指定できないとしている。
法律事務所では,事件の当事者,裁判所に登録した提出者,実際に資金を負担した者及び最終的に残金を返す相手を分けて記録する。
これらが同じ人物であるとは限らない。
東京地方裁判所民事第21部の前記案内は,債権者の地位を承継して予納金の承継も上申した場合でも,保管金還付請求権の特定承継は国の会計上認められず,残額は予納した旧債権者に還付すると説明している。
事件上の地位の承継だけで,登録口座や裁判所からの還付先まで当然に変わると考えない。
本記事は,差押え,相続その他の承継事案について,一律の結論を示すものではない。
2 東京地裁は法律事務所名義の預り金専用口座も案内している
東京地方裁判所の令和7年1月の電子納付Q&AのQ3は,提出者と口座名義人が同じことを原則とした上で,弁護士については,所属する法律事務所の名義で開設された預り金のみを扱う専用口座も可能と説明している。
同Q&Aは,その法律事務所が弁護士法人であるかどうかを問わないとしている。
他の裁判所で同じ名義を登録する場合は,受付窓口へ名義の表記及び必要事項を確認する。
裁判所が指定口座への振込を認めることと,振り込まれた金銭が法律事務所の報酬になることは別である。
依頼者資金に由来する残額については,委任契約,納付時の精算及びその後の合意を確認して,依頼者へ返す額を判断する。
弁護士職務基本規程38条の区分保管・記録と,45条の委任終了時の清算・返還も踏まえる必要がある。
第4 還付口座や事務所の住所が変わったとき
1 口座変更は新しい利用者登録を行う
全国共通の案内は,還付先口座を変更する場合,新たに利用者登録を申請し,新しい登録コードを取得するよう説明している。
新しい登録だけで以前の登録コードが無効になるわけではないため,意図せず旧コードを使わないよう注意する必要がある。
現在掲載されている登録申請書の注意書きは,還付先情報の変更について登録の抹消と新たな登録の申請を案内しているので,旧コードの抹消の手続も窓口で確認する。
事務所内では,新旧のコード,適用する口座,変更日及び変更を担当した者を記録し,新規事件に使うコードを共有することが考えられる。
氏名又は住所の変更については,利用者登録情報の変更申請を行う。
口座変更と住所変更を一つの操作で完了したと推測しない。
2 係属事件のある各裁判所にも連絡する
全国共通の案内は,電子納付した事件が係属中であれば,登録情報の変更申請に加えて,電子納付をした裁判所へ必ず連絡するよう求めている。
複数の裁判所で事件が係属している場合は,それぞれへ連絡する必要がある。
登録の変更と,既に納付した個別事件の還付先の確認を分けて行う。
| 変更時の確認 | 事件ごとに残す記録の例 |
|---|---|
| 登録情報の変更 | 申請日,申請先,新旧コード,口座又は住所の変更内容 |
| 既に電子納付した事件 | 裁判所・部係,事件番号,提出者,納付日,未還付額 |
| 各裁判所への連絡 | 連絡日,対応窓口,個別事件の還付先について確認した内容 |
| 事務所内の引継ぎ | 今後使うコード,旧コードの扱い,担当者,未処理の事件 |
この表は,登録変更と事件別の連絡漏れを防ぐための管理例であり,裁判所又は日弁連が定めた統一の帳簿様式ではない。
第5 裁判所への納付から依頼者への返金まで記録をつなぐ
1 裁判所に残っている金銭を事件別に管理する
事務所の預り金口座から裁判所へ納付した金銭は,銀行口座の現在残高だけを照合しても,その後の還付漏れを見つけられない。
裁判所へ納付済みで未還付の金額を,事件別の記録で管理することが有用である。
納付額全部が還付されるとは限らないので,裁判所で使用された額,還付対象額及び未確定の額も区別する。
| 段階 | 保存・照合する資料の例 |
|---|---|
| 依頼者からの受入れ | 委任契約,預り金受領記録,依頼者別の入金記録 |
| 裁判所への納付 | 事件番号,提出者・登録コード,納付案内,金融機関の納付記録 |
| 裁判所での使用・還付 | 使用額等の確認資料,保管金振込通知書,還付額・還付先 |
| 事務所口座への入金 | 金融機関の入金記録,事件別の残高,裁判所の通知との一致 |
| 依頼者への清算 | 支出明細,報酬充当の根拠,清算書,依頼者への返金記録 |
通知書の金額と入金額が一致しただけで,別事件の金銭を同じ事件へ付け替えたり,依頼者への返金まで完了したと扱ったりしない。
日弁連の預り金規程7条は入出金の年月日・金額・目的・使途の記録,8条は所定の場合の書面による収支報告を定めている。
この表の項目をすべて独立した法定様式の記載義務とする趣旨ではない。
2 清算例では前提を明示する
例えば,依頼者から費用として3万円を預かって裁判所へ全額納付し,裁判所で1万8,000円が使用され,残額1万2,000円が事務所の預り金口座へ還付されたとする。
他に支出がなく,報酬への充当もしないという前提なら,清算書では預り3万円,裁判所での使用1万8,000円,還付1万2,000円及び依頼者への返金1万2,000円を対応させる。
これは本記事の仮例であり,裁判所での使用額の税区分又は個別事件の報酬合意を示すものではない。
委任の終了時に未還付の保管金がある場合は,確定している精算額と未処理の還付を分け,残る手続,連絡先及び受領後の返金方法を依頼者に説明して記録することが考えられる。
未還付金の存在を理由に,返すべきことが確定した他の預り金まで当然に保管し続けられると考えない。
預り金の規律と懲戒例は,弁護士の預り金の管理と懲戒――令和8年6月施行の改正預り金規程と公表事例に見る処分の段階(AI作成)を参照されたい。
第6 還付金は法律事務所の売上になるか
1 入金口座と金銭の帰属を分ける
裁判所から事務所口座へ振り込まれたという理由だけで,還付額を全部報酬売上へ計上することは適切でない。
依頼者資金の返還なのか,事務所が立て替えた金銭の回収なのか,合意に基づく報酬充当があるのかを,納付時の処理と委任契約に戻って確認する。
事務所が立て替えた場合でも,依頼者が既に同額を精算済みなら,その精算後の帰属を確認する必要がある。
国税庁の「実費弁償金の課税」は,依頼者が本来納付する税・手数料等に充てるため受け取った金銭を報酬と明確に区分経理する場合と,弁護士自身の旅費・宿泊費を請求する場合を区別している。
この回答は裁判所のあらゆる還付金の税務処理を一括して定めたものではない。
保管金の還付後も,誰の支出・金銭であるかと報酬への充当を区分するという確認が必要である。
2 報酬に充当する部分は別に判断する
還付額を報酬に充当する場合は,委任契約又は清算時の合意を確認し,報酬額,充当額及び依頼者へ返す額を分けて示す。
通常の国内弁護士業務の報酬に当たる部分の消費税と,必要な場合の源泉徴収は,返金の受領とは別に確認する。
税務上の処理年度,勘定科目及び税区分は,納付時に立替金・預り金・費用のどの処理をしたか,取引の実態及び本人の課税方式に沿って判断する。
詳しい消費税区分は,弁護士費用に消費税はかかるか―報酬・旅費・立替金・インボイスの区分(AI作成)を参照されたい。
納付時の保管金受領証書がない場合の証拠保存は,領収書がない支出の税務と証拠保存―必要経費・損金,インボイス,カード明細及び出金伝票(AI作成)と合わせて確認する。
第7 いつ還付されるか,どこに確認するか
事件の終了日と実際の入金日は一致するとは限らない。
保管金等の取扱規程6条は,払出しをすべき場合に,係書記官から出納官吏等へ通知する仕組みを定めている。
裁判部での還付事由・金額の確認と,会計担当による振込処理を分けて把握すると,確認先を整理しやすい。
東京地方裁判所民事第21部の前記案内にある「2~3営業日」は,裁判所で振込依頼手続をした後の金融機関への入金予定を示す。
事件終了から全国一律にその日数で還付されるという期限ではない。
同案内は,入金については通知書を発送するので電話等での照会を控えるよう求めている。
通知が届かない場合や口座変更をした場合は,まず登録住所・口座,通知書の有無,事件別の還付処理を確認し,当該裁判所の案内に従って必要な窓口へ確認する。
事件番号,提出者,納付日,納付額及び問題となっている変更内容を整理しておくと,事件担当書記官と保管金担当係のどちらで確認する事項かを説明しやすい。
支部事件では,事件の窓口と保管金の会計窓口が一致するとは限らないので,公式の連絡先一覧も確認する。
第8 出典・関連資料
1 現在の手続を確認する公式資料
① 裁判所「保管金の電子納付について」―残額の自動還付,利用者登録,口座名義,口座変更及び係属事件のある各裁判所への連絡。
② 裁判所「電子納付利用者登録申請書」―提出者・還付先の記載欄及び注意書き。
③ 裁判所「保管金電子納付問合せ先一覧」―登録・変更についての連絡先。
④ 東京地方裁判所「保管金の電子納付について(Q&A)」―令和7年1月,Q3の法律事務所名義の口座,Q5・Q6の登録コード,Q7の登録変更。
⑤ 東京地方裁判所民事第21部「配当金等の支払・予納金の還付手続について」―口座指定,特定承継,事前還付請求及び入金予定。
⑥ 最高裁判所「裁判所の事件に関する保管金等の取扱いに関する規程」―3条・6条の取扱者と払出通知。
2 事務所内の管理と税務の資料
⑦ 日弁連「弁護士職務基本規程」―38条の区分保管・記録,45条の清算・返還。
⑧ 日弁連「預り金等の取扱いに関する規程」―7条・8条の記録・収支報告。
⑨ 国税庁「実費弁償金の課税」―令和7年8月1日現在の法令・通達に基づく質疑応答。
⑩ 国税庁「消費税法基本通達10-1-4」―事業者自身の税・手数料と依頼者が本来納付するものの区別。
裁判所の資料は手続の公式案内,日弁連の資料は職務上の規律,国税庁の資料は公表された税務の取扱いとして用いた。
法律事務所の管理表,確認方法及び金額例は,これらを踏まえた本記事の実務上の提案である。
各事件の還付額・帰属又は税務についての裁判例の判断として提示したものではない。
会計執務資料を読む際の位置付けは,裁判所の会計執務資料の三部作の解説(AI作成)を参照されたい。
古い執務資料の登録方法・様式・受領証書の説明を,現在の公式案内と照合せずに用いないことが必要である。