令和5年司法試験知的財産法第2問を対象に,公式資料から44項目の評価単位を独自に抽出し,5段階で重み付けした。
法務省の公式採点基準や項目別配点ではなく,完成答案と解説を併せて示す。
第1 この記事の対象と結論
本問は,野生動物の撮影と編集の創作性,図鑑・DVDの利用,別撮影による再制作,著作者人格権,及び犬に映像を見せる実験を扱う。
撮影・編集の表現,行為ごとの支分権,必要な範囲の救済を対応付けることが中心である。
評価項目は44項目,重み合計は192,重み5は23項目である。
第5の答案は設問2で複製を主位とし,設問3では公の上映を肯定した上で非享受目的の権利制限を認める見解を採る。
設問3の目的認定について公式資料は唯一の結論を指定していない。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
各項目は,答案に書かれていれば充足を判断できる一つの対象として言い換えた。
出題の趣旨と採点実感の根拠を合冊PDFの通し頁と見出しで示し,典型的な不十分答案の回避も評価に含めている。
必須,高評価,負例,許容分岐は重みと別の区分であり,高評価や条件付き分岐をすべての答案への累積要求にはしない。
「記載なし」は本問の関連範囲を実読した結果を示す。
本記事では内部評価単位と公開表を1対1で対応させ,抽出項目の削除や統合は行っていない。
2 5段階の重み付けの基準
重み5:採点実感が評価の分かれ目とした事項又は答案の骨格そのもの。
重み4:出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な誤りの指摘を通じて取り上げた事項。
重み3:一方が明示する中核の理由付け。
重み2:一方が軽く触れる補強又は典型的な誤り。
重み1:一方が控えめに触れるだけの事項。
各段階への件数割当てや従前の3段階からの一律換算はしない。
重みを単純に合計しても公式の得点,難易度又は合格可能性にはならない。
第3 本問の概要
Xは,動物αの撮影地点を選び,機材と角度を調整した上で50時間録画した映像1から,合計約3時間の動物の映像のうち10シーンを抽出し,時系列と異なる順番で15分の映像2を作った。
Y番組1での放送にはXの許諾がある。
三つの設問は独立している。
設問1は,Zが放送録画から静止画像5枚を250頁中2頁に載せ,映像2全部を付属DVDの5作品の一つに収録した事例で,比較上の利点と著作権請求の妥当性を問う。
設問2は,同じ場所・角度で別に撮影したYが,似た動きの10シーンを同じ順で配置し,Xを「協力者」と表示して放送した事例で,主張すべき権利と請求を問う。
設問3は,犬の反応を番組に使うためタブレットに映像2を記録し,20匹に全部を再生した事例である。
記録は直後に削除されたが,視聴不要と伝えられた飼い主のうち3名は映像全部を見ていた。
Yの非侵害判断の根拠と実際の侵害の有無が問われる。
第4 評価項目と重み
1 設問1⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 著作物性の要件と創作性の意味を示す。【必須】 | 4 | 28頁・第2問2(検討対象として明示) | 25頁・2⑵ア⑴(内容を要求・評価) |
| 2 | 固定機材・撮影位置・角度を用いて映像1の創作的部分を具体的に検討する。【高評価】 | 4 | 28頁・第2問2(検討対象として明示) | 25頁・2⑵ア⑴(具体的検討を評価) |
| 3 | 映像2のシーンの取捨選択に創作性が認められる理由を示す。【必須】 | 5 | 28頁・第2問2(検討対象として明示) | 25頁・2⑵ア⑴(内容を要求・評価) |
| 4 | 映像2の非時系列の配列に創作性が認められる理由を示す。【必須】 | 5 | 28頁・第2問2(検討対象として明示) | 28頁・3⑵ア⑴(内容を要求・評価) |
| 5 | 映像2の方が著作物性を基礎付けやすいという比較上の利点を述べる。【必須】 | 5 | 28頁・第2問2(検討対象として明示) | 25頁・2⑵ア⑴(内容を要求・評価) |
| 6 | Z映像が編集表現も利用するため映像2の方が類似性を主張しやすいという利点を示す。【高評価】 | 5 | 28頁・第2問2(検討対象として明示) | 28頁・3⑵ア⑴(具体的検討を評価) |
2 設問1⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 7 | 両図鑑及びDVDの作成行為を複製権21条へ対応付ける。【必須】 | 5 | 28頁・第2問3(検討対象として明示) | 28頁・3⑵ア⑵(内容を要求・評価) |
| 8 | 図鑑1の販売行為を静止画像の譲渡権26条の2第1項へ対応付ける。【必須】 | 5 | 28頁・第2問3(検討対象として明示) | 25頁・2⑵ア⑵(内容を要求・評価) |
| 9 | 図鑑2の書籍部分の販売について譲渡権を検討する。【必須】 | 4 | 28頁・第2問3(検討対象として明示) | 25頁・2⑵ア⑵(内容を要求・評価) |
| 10 | DVDの販売は映画の複製物の頒布として26条1項を適用し,譲渡権と混同しない。【必須】 | 5 | 28頁・第2問3(検討対象として明示) | 28頁・3⑵ア⑵(内容を要求・評価) |
| 11 | 創作的表現の維持を検討し,映像2から切り出したという由来だけでZ画像の類似性を肯定しない。【高評価】 | 5 | 28頁・第2問3(検討対象として明示) | 28頁・3⑵ア⑵(具体的検討を評価) |
| 12 | Z映像全部の利用が映像2の選択・配列を維持することを当てはめる。【必須】 | 4 | 28頁・第2問3(検討対象として明示) | 25頁・2⑵ア⑵(内容を要求・評価) |
| 13 | 差止請求を112条1項に基づき作成・販売という具体的な行為として示す。【必須】 | 5 | 28頁・第2問3(検討対象として明示) | 28頁・3⑵ア⑵(内容を要求・評価) |
| 14 | 廃棄等の請求を112条2項の必要な措置として示す。【必須】 | 4 | 28頁・第2問3(検討対象として明示) | 25頁・2⑵ア⑵(内容を要求・評価) |
| 15 | 図鑑1を非侵害とする枝でDVDとの分離可能性から図鑑2全体の差止めの範囲を検討する。【高評価】図鑑1を非侵害とする枝で適用。 | 5 | 28頁・第2問3(検討対象として明示) | 28頁・3⑵ア⑵(具体的検討を評価) |
| 16 | DVDと書籍を分離できる場合に図鑑2全体の廃棄の必要性を検討する。【高評価】図鑑1を非侵害とする枝で適用。 | 4 | 28頁・第2問3(検討対象として明示) | 25頁・2⑵ア⑵(具体的検討を評価) |
| 17 | 民法709条に基づく損害賠償請求に言及する。【必須】 | 4 | 28頁・第2問3(検討対象として明示) | 25頁・2⑵ア⑵(内容を要求・評価) |
| 18 | 著作権請求を問う本設問で著作者人格権を長々と検討しない。【負例】 | 2 | 記載なし(関連範囲実読) | 28頁・3⑵ア⑵(負例を指摘) |
| 19 | 類似性の検討を落として引用32条の成否だけを中心に論じない。【負例】 | 2 | 記載なし(関連範囲実読) | 28頁・3⑵ア⑵(負例を指摘) |
3 設問2⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 20 | Y映像の作成を複製権21条の対象行為として特定する。【必須】 | 5 | 28頁・第2問4(検討対象として明示) | 28頁・3⑵イ⑴(内容を要求・評価) |
| 21 | Y映像の放送を公衆送信権23条1項の対象行為として特定する。【必須】 | 5 | 28頁・第2問4(検討対象として明示) | 28頁・3⑵イ⑴(内容を要求・評価) |
| 22 | X映像2の意に反する改変を同一性保持権20条1項の対象として特定する。【必須】 | 5 | 28頁・第2問4(検討対象として明示) | 28頁・3⑵イ⑴(内容を要求・評価) |
| 23 | 放送時の著作者名の不表示を氏名表示権19条1項の対象として特定する。【必須】 | 5 | 28頁・第2問4(検討対象として明示) | 25頁・2⑵イ⑴(内容を要求・評価) |
4 設問2⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 24 | 依拠と創作的表現の直接感得を区別してY映像とX映像2の類似性を具体的に検討する。【高評価】 | 5 | 28頁・第2問5(検討対象として明示) | 25頁・2⑵イ⑵(具体的検討を評価) |
| 25 | 協力者としての表示が著作者としての表示にならないことを理由付ける。【必須】 | 5 | 28頁・第2問5(検討対象として明示) | 25頁・2⑵イ⑵(内容を要求・評価) |
| 26 | 侵害に対応する将来の複製・放送等の差止めを具体的に請求する。【必須】 | 4 | 28頁・第2問5(検討対象として明示) | 28頁・3⑵イ⑵(内容を要求・評価) |
| 27 | 将来の同種番組への使用計画を侵害のおそれに当てはめ,放送済みというだけで差止めを否定しない。【高評価】 | 5 | 28頁・第2問5(検討対象として明示) | 29頁・3⑵イ⑵(具体的検討を評価) |
| 28 | 記録の消去等と媒体の廃棄を区別し112条2項の必要性を検討する。【必須】 | 4 | 28頁・第2問5(検討対象として明示) | 25頁・2⑵イ⑵(内容を要求・評価) |
| 29 | 115条の適当な措置として原著作者の表示を確保する訂正放送等を具体化する。【高評価】 | 5 | 28頁・第2問5(検討対象として明示) | 29頁・3⑵イ⑵(具体的検討を評価) |
| 30 | 侵害権利に対応する民法709条の損害賠償請求に言及する。【必須】 | 4 | 28頁・第2問5(検討対象として明示) | 25頁・2⑵イ⑵(内容を要求・評価) |
5 設問3⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 31 | タブレットへの記録を2条1項15号の複製と特定する。【必須】 | 4 | 28頁・第2問6(検討対象として明示) | 26頁・2⑵ウ⑴(内容を要求・評価) |
| 32 | タブレットでの再生を2条1項17号の上映と特定する。【必須】 | 4 | 28頁・第2問6(検討対象として明示) | 26頁・2⑵ウ⑴(内容を要求・評価) |
| 33 | 複製権21条の制限根拠として30条の4を示す。【必須】 | 5 | 28頁・第2問6(検討対象として明示) | 26頁・2⑵ウ⑴(内容を要求・評価) |
| 34 | 犬だけへの提示では上映権22条の2の公に要件を欠くことを示す。【必須】 | 5 | 28頁・第2問6(検討対象として明示) | 26頁・2⑵ウ⑴(内容を要求・評価) |
| 35 | 30条の4の非享受目的を犬の反応を観察する行為に当てはめる。【高評価】 | 4 | 28頁・第2問6(検討対象として明示) | 26頁・2⑵ウ⑴(具体的検討を評価) |
| 36 | 複製と上映を混同せず,各支分権に対する非侵害の根拠を分ける。【負例】 | 3 | 28頁・第2問6(検討対象として明示) | 29頁・3⑵ウ⑴(負例を指摘) |
6 設問3⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 37 | 3名が実際に映像を見たことを公の上映の問題として検討する。【必須】 | 5 | 29頁・第2問7(検討対象として明示) | 26頁・2⑵ウ⑵(内容を要求・評価) |
| 38 | 街で募集した飼い主の不特定性を用い,3名という少数だけで公衆性を否定しない。【高評価】 | 4 | 29頁・第2問7(検討対象として明示) | 26頁・2⑵ウ⑵(具体的検討を評価) |
| 39 | 公の上映を認めた上で上映行為の30条の4該当性を別に検討する。【必須】 | 4 | 29頁・第2問7(検討対象として明示) | 26頁・2⑵ウ⑵(内容を要求・評価) |
| 40 | 視聴不要という伝達を評価し,それだけで非享受目的と即断せず実際の視聴態様も検討する。【高評価】 | 5 | 29頁・第2問7(検討対象として明示) | 29頁・3⑵ウ⑵(具体的検討を評価) |
| 41 | 記録時の適法な複製と再生時の目的変化を分け,49条1項2号のみなし複製を検討する。【高評価】 | 4 | 29頁・第2問7(検討対象として明示) | 29頁・3⑵ウ⑵(具体的検討を評価) |
| 42 | 30条の4の適用について理由を付した自説を示し,一つの結論を公式指定と扱わない。【許容分岐】 | 3 | 29頁・第2問7(検討対象として明示) | 26頁・2⑵ウ⑵(理由付き見解を要求) |
7 答案全体
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 43 | 設問で問われた比較利点・請求・権利・侵害の有無に答え,単に権利主張の可否へ置換しない。【負例】 | 3 | 28頁・第2問1(検討対象として明示) | 28頁・3⑵ア⑴(負例を指摘) |
| 44 | 行為ごとの支分権と請求を対応付け,権利名だけの列挙にとどめない。【必須】 | 5 | 28頁・第2問1(検討対象として明示) | 28頁・3⑵イ(内容を要求・評価) |
8 重みの分布
重み5は23項目,4は16項目,3は3項目,2は2項目,1は0項目である。
N=0+2+3+16+23=44,W=0+2×2+3×3+4×16+5×23=192となる。
重み5の全項目は次のとおりである。
番号3:映像2のシーンの取捨選択に創作性が認められる理由を示す。
番号4:映像2の非時系列の配列に創作性が認められる理由を示す。
番号5:映像2の方が著作物性を基礎付けやすいという比較上の利点を述べる。
番号6:Z映像が編集表現も利用するため映像2の方が類似性を主張しやすいという利点を示す。
番号7:両図鑑及びDVDの作成行為を複製権21条へ対応付ける。
番号8:図鑑1の販売行為を静止画像の譲渡権26条の2第1項へ対応付ける。
番号10:DVDの販売は映画の複製物の頒布として26条1項を適用し,譲渡権と混同しない。
番号11:創作的表現の維持を検討し,映像2から切り出したという由来だけでZ画像の類似性を肯定しない。
番号13:差止請求を112条1項に基づき作成・販売という具体的な行為として示す。
番号15:図鑑1を非侵害とする枝でDVDとの分離可能性から図鑑2全体の差止めの範囲を検討する。
番号20:Y映像の作成を複製権21条の対象行為として特定する。
番号21:Y映像の放送を公衆送信権23条1項の対象行為として特定する。
番号22:X映像2の意に反する改変を同一性保持権20条1項の対象として特定する。
番号23:放送時の著作者名の不表示を氏名表示権19条1項の対象として特定する。
番号24:依拠と創作的表現の直接感得を区別してY映像とX映像2の類似性を具体的に検討する。
番号25:協力者としての表示が著作者としての表示にならないことを理由付ける。
番号27:将来の同種番組への使用計画を侵害のおそれに当てはめ,放送済みというだけで差止めを否定しない。
番号29:115条の適当な措置として原著作者の表示を確保する訂正放送等を具体化する。
番号33:複製権21条の制限根拠として30条の4を示す。
番号34:犬だけへの提示では上映権22条の2の公に要件を欠くことを示す。
番号37:3名が実際に映像を見たことを公の上映の問題として検討する。
番号40:視聴不要という伝達を評価し,それだけで非享受目的と即断せず実際の視聴態様も検討する。
番号44:行為ごとの支分権と請求を対応付け,権利名だけの列挙にとどめない。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
法令の基準時は令和5年7月12日である。
各設問は独立し,設問1は著作権に基づく請求,設問2は著作者人格権も含む権利,設問3は利用行為の侵害の有無を扱う。
答案の文字数は改行を除き2,221字である。
2 答案
1 設問1
(1) 著作物は思想又は感情を創作的に表現したものである(著作権法2条1項1号。以下,条文は同法)。
創作性は表現に作者の個性が現れれば足り,研究の労力や動物の生態という事実そのものは保護されない。
X映像1では,場所・角度・構図の選択に個性が現れる余地があるが,固定機材を50時間放置して自然の動きを記録しただけの部分には創作性が認められにくい。
X映像2では,3時間の映像から10シーンを選択し,時系列と異なる順で15分に配列する表現上の選択にも個性が現れる。
Xはその全体的形成に創作的に寄与した映画の著作者であり(2条3項,10条1項7号,16条),他人への権利帰属を生む事情もない。
したがって映像2を主張すれば,著作物性が認められやすい。
さらにZ映像は映像2全部を取り込んでいるため,撮影表現だけでなく選択・配列の本質的特徴も直接感得でき,類似性を主張しやすいという利点がある。
(2) Xは,両図鑑・DVDの作成について複製権(21条),図鑑1の販売について静止画像の譲渡権(26条の2第1項),図鑑2の販売について書籍部分の譲渡権とDVDの頒布権(26条1項)の侵害を理由に,作成・販売の差止め(112条1項),侵害物の廃棄等(同条2項),民法709条の損害賠償を考えられる。
Yへの許諾はZには及ばない。
しかしZ画像は5枚の静止画像で,映像2のシーンの時間的な選択・配列を再現しない。
撮影の構図等に独立の創作性があり,それが維持されていれば画像部分の侵害を肯定できるが,創作性が編集だけに認められるなら図鑑1の作成・販売は非侵害となる。
切出しという由来だけでは類似性は足りない。
他方,Z映像は15分全部を再製し,編集表現も維持するから,DVDの作成・販売は侵害となる。
図鑑1を非侵害とすれば,分離できるDVDの複製・頒布の停止及びその廃棄で足り,書籍を含む図鑑2全体の差止め・廃棄は過大である。
画像侵害を肯定する場合も,250頁中2頁の画像除去等で目的を達せられるかを検討し,必要な範囲に限定すべきである。
賠償には故意・過失,損害及び因果関係を要する。
2 設問2
(1) Xは,Y映像の作成について複製権(21条),放送について公衆送信権(23条1項),X映像2の意に反する改変について同一性保持権(20条1項),放送時の著作者名の不表示について氏名表示権(19条1項)の侵害を主張すべきである。
(2) Xは侵害行為の停止・予防(112条1項),侵害映像の消去等(同条2項),原著作者としての表示を確保する訂正放送等(115条),及び故意・過失に基づく財産的・精神的損害の賠償(民法709条・710条)を請求し得る。
複製には依拠と創作的表現の本質的特徴の直接感得を要し,動物の動きや撮影場所という事実だけの共通では足りない。
Yは許諾を得られず同様の映像を作ろうとしたから依拠性がある。
撮影範囲・角度に加え,似た動きの10シーンを同じ順に配列しており,Xの選択・配列の特徴が具体的に再現されている。
別の機会に撮影したというだけで再製は否定されず,動物の自然な動きの差自体はYの新たな創作的表現ではないから,複製権侵害を肯定できる。
その放送も公衆送信権侵害となる。
素材の置換による意に反する映像の改変は同一性保持権を侵害し,単に許諾を得られなかった事情はやむを得ない改変(20条2項4号)を根拠付けない。
「協力者」の氏名表示は著作者としての表示でなく,創作者の利益を害するため19条3項の省略も認め難い。
Yは将来の同種番組への使用も視野に入れており,放送済みでも再放送等の予防の必要がある。
将来の複製・放送を差し止め,Y映像の記録を消去させれば足りる場合,媒体や他の番組部分までの廃棄は不要である。
訂正放送ではXが原映像の著作者であることを明示させる。
Yは許諾拒否を認識していたから,少なくとも過失も認められる。
3 設問3
(1) タブレット記録は複製(2条1項15号)だが,犬の反応の観察は人に表現された思想・感情を享受させる目的がないため,必要限度内で権利者の利益を不当に害しない限り30条の4により許される。
再生は上映(同項17号)だが,犬だけに見せるなら人たる公衆への提示でなく,22条の2の「公に」を満たさないという根拠が考えられる。
(2) 街で募集した飼い主は不特定の者であり,実際に3名が全てを見た以上,少数でも公の上映に当たる。
見る必要はないという伝達は,この客観的な提示を否定しない。
その上で30条の4は利用者の目的を問題とする。
確かに珍しい動物の映像を飼い主も見られる方法で15分全部再生しており,伝達だけで非享受目的と即断できない。
しかし,多数の報告を受けた犬の反応を調べる企画で,20匹に対する再生に必要な記録をし,飼い主の視聴は不要と説明し,終了直後に削除している。
全事情から,飼い主の自発的視聴という結果はあっても,Yの享受させる目的までは認め難い。
反応継続の観察には全体再生も必要で,この態様で利益を不当に害するともいえず,複製・上映の権利制限を肯定する。
最初の記録が適法でも,後に他人の享受目的で用いれば49条1項2号により複製とみなされる。
しかし本件で目的の転用は認め難く,その侵害も否定する。
Yの目的の認定が反対なら,同号の複製権侵害と上映権侵害が成立し得る。
後の削除だけで過去の侵害は消えない。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
番号1:設問1⑴の「表現に作者の個性」で回収。
番号2:設問1⑴の「場所・角度・構図の選択」で回収。
番号3:設問1⑴の「3時間の映像から10シーンを選択」で回収。
番号4:設問1⑴の「時系列と異なる順で15分に配列」で回収。
番号5:設問1⑴の「著作物性が認められやすい」で回収。
番号6:設問1⑴の「類似性を主張しやすいという利点」で回収。
番号7:設問1⑵の「両図鑑・DVDの作成について複製権」で回収。
番号8:設問1⑵の「図鑑1の販売について静止画像の譲渡権」で回収。
番号9:設問1⑵の「書籍部分の譲渡権」で回収。
番号10:設問1⑵の「DVDの頒布権」で回収。
番号11:設問1⑵の「切出しという由来だけでは類似性は足りない」で回収。
番号12:設問1⑵の「編集表現も維持する」で回収。
番号13:設問1⑵の「作成・販売の差止め」で回収。
番号14:設問1⑵の「侵害物の廃棄等」で回収。
番号15:設問1⑵の「図鑑2全体の差止め・廃棄は過大」で回収。
番号16:設問1⑵の「書籍を含む図鑑2全体の差止め・廃棄は過大」で回収。
番号17:設問1⑵の「民法709条の損害賠償」で回収。
番号18:設問1⑵の「複製権(21条)」で回収。
番号19:設問1⑵の「切出しという由来だけでは類似性は足りない」で回収。
番号20:設問2⑴の「Y映像の作成について複製権」で回収。
番号21:設問2⑴の「放送について公衆送信権」で回収。
番号22:設問2⑴の「意に反する改変について同一性保持権」で回収。
番号23:設問2⑴の「著作者名の不表示について氏名表示権」で回収。
番号24:設問2⑵の「選択・配列の特徴が具体的に再現」で回収。
番号25:設問2⑵の「「協力者」の氏名表示は著作者としての表示でなく」で回収。
番号26:設問2⑵の「将来の複製・放送を差し止め」で回収。
番号27:設問2⑵の「将来の同種番組への使用も視野」で回収。
番号28:設問2⑵の「媒体や他の番組部分までの廃棄は不要」で回収。
番号29:設問2⑵の「訂正放送ではXが原映像の著作者」で回収。
番号30:設問2⑵の「民法709条・710条」で回収。
番号31:設問3⑴の「タブレット記録は複製(2条1項15号)」で回収。
番号32:設問3⑴の「再生は上映(同項17号)」で回収。
番号33:設問3⑴の「30条の4により許される」で回収。
番号34:設問3⑴の「人たる公衆への提示でなく」で回収。
番号35:設問3⑴の「犬の反応の観察は人に」で回収。
番号36:設問3⑴の「22条の2の「公に」を満たさない」で回収。
番号37:設問3⑵の「少数でも公の上映に当たる」で回収。
番号38:設問3⑵の「街で募集した飼い主は不特定の者」で回収。
番号39:設問3⑵の「その上で30条の4は利用者の目的」で回収。
番号40:設問3⑵の「伝達だけで非享受目的と即断できない」で回収。
番号41:設問3⑵の「49条1項2号により複製とみなされる」で回収。
番号42:設問3⑵の「権利制限を肯定する」で回収。
番号43:答案全体の「類似性を主張しやすいという利点」で回収。
番号44:答案全体の「Y映像の作成について複製権」で回収。
(2) 設問1
番号1~6は,撮影表現の創作性と編集表現の創作性を分け,映像2を主張する利点を著作物性と類似性の二つから説明する項目である。
番号8・9の書籍の譲渡権と番号10の映画DVDの頒布権は別の支分権である。
静止画像の利用を否定するなら,番号15・16の分離可能性は図鑑2全体の差止めと廃棄の双方を制限する。
番号11は,切出し元が同じというだけでは創作的表現の直接感得を証明できないという点を扱う。
撮影自体に創作性が認められ,それを静止画像から直接感得できるなら画像部分の侵害も肯定し得るため,答案はこの条件付き分岐を残している。
引用の成否は類似性の検討の代用にならない。
(3) 設問2
番号20~23で行為と権利を対応付ける。
再撮影でも同じ創作的な編集表現を維持するなら複製が問題となり,自然の動きの差を直ちに新たな創作性としない。
新たな創作的表現が加わる場合は翻案権27条及び28条を介する二次的著作物の利用という構成も検討できるが,それは本答案が採った複製構成と区別する。
同一性保持権は新たな創作性がある改変だけを対象にする制度ではない。
番号25の「協力者」は著作者名の表示と区別され,番号27は将来の使用計画を差止めのおそれに結び付ける。
番号29では115条の抽象語にとどまらず,Xが原映像の著作者であることを表示する訂正放送などの内容を示す。
(4) 設問3
番号31~36は記録の複製と再生の上映を分ける。
犬だけへの再生では人たる公衆への提示を欠くが,番号37・38の人の実際の視聴があれば,街で募集した不特定者への公の上映として検討する必要がある。
3名だから当然に私的な上映になるわけではない。
番号39~42では,公の上映という客観的行為と非享受目的という主観的目的を分ける。
飼い主が見る必要はないという説明だけで非享受目的と即断せず,珍しい動物,全部の再生,犬の反応という企画の対象,記録の削除という事情を総合する。
答案の否定説に対して,実際の提示方法から飼い主に享受させる目的の併存を認定する反対説も考えられる。
最初の記録が30条の4で許されても,後に享受目的に転用すれば,番号41の49条1項2号により複製をしたものとみなされる。
削除済みという事実は,侵害が成立した場合の過去行為の免責にはならない。
(5) 答案の弱点と扱わなかった事項
目的認定は評価が分かれ得る。
本答案は非享受目的を肯定するが,人への提示を容認する事情を重視するなら上映権侵害及び目的外使用による複製権侵害を肯定する余地がある。
必要限度と不当な利益侵害の但書も別途満たす必要がある。
損害額の具体的な計算事実は提示されていないため,金額を補わない。
研究成果そのものの独占,撮影場所への立入り,問題文に記載されていない実験映像の放送内容は本問の答案に加えていない。
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非享受目的の著作物利用はどこまで許されるか――複製,上映,著作権法30条の4及び49条1項2号(AI作成)
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
令和5年司法試験問題・選択科目(第2問:22~23頁)。
令和5年司法試験論文式試験問題出題の趣旨(知的財産法第2問:28~29頁)。
令和5年司法試験の採点実感・選択科目(知的財産法の共通部分及び第2問:24~26頁,28~29頁)。
2 法令
著作権法は,法令APIの2023年7月12日時点の施行版(2023年6月14日施行の改正反映版)で確認した。
文化庁・平成30年改正解説22~23頁は非享受目的の解釈に関する当時公表済みの行政解説として参照した。
民法709条も,法令APIの同じ基準時の施行版で確認した。
3 裁判例
創作的表現の本質的特徴の直接感得は,裁判所が公開する下級審判決原文の判断部分を確認して用いた。
事実・アイデアと表現の区別は,同判決が引用する最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決(平成11年(受)第922号,民集55巻4号837頁)の判示事項・裁判要旨を裁判所HPで確認して用いた。
東京高裁平成14年2月18日判決(平成11年(ネ)第5641号)・書の著作物の複製及び翻案についての判決原文。
4 確認状態
問題文,公式資料の対象範囲,当時の法令原文を確認した。
公式資料が述べる内容と,本記事の抽出・重み付け・事実評価は区別される。
最高裁平成13年判決は,裁判所HPの判示事項・裁判要旨で確認した範囲で用いている。
採点実感25頁には差止・廃棄について100条,26頁には公にの説明で22条とする記載があるが,出題の趣旨と法令原文により本記事では112条,22条の2を用いた。
公式資料の表記をそのまま条文確認済みの内容へ置き換えず,原文と法令の確認結果を区別している。