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嘉手納・普天間基地の騒音訴訟―判決の比較と損害賠償の立証(AI作成)

嘉手納・普天間基地の騒音訴訟では,国に対する飛行差止めと損害賠償は別の請求である。賠償額を読む際にも,請求した単価と裁判所が認めた単価,賠償期間,防音工事による減額を分ける必要がある。

本記事は,平成20年から令和8年までの六つの個別判決を中心に,住民の共通被害,居住実態,騒音資料及び減額の判断を比較する。示す金額と結論は各判決の判断時点のものであり,すべての訴訟系列や最新の上訴状況を網羅するものではない。

第1 日本国への賠償,飛行差止め,米国への提訴を分ける

日本国に対する米軍基地騒音の賠償では,米軍が占有・所有・管理する工作物等の設置又は管理の瑕疵に関する民事特別法2条が問題となる。事故を起こした米兵個人への請求や,公務外事故についての米側補償と,同一の手続ではない。

求める救済検討の中心個別判決を読む際の注意
日本国への損害賠償民事特別法,被害,居住期間,因果関係等認容単価と請求単価を区別する。
日本国への米軍機飛行差止め国が米軍機の運航を規制できる法的立場にあるか賠償責任の認定だけで差止めが認められるわけではない。
米国への直接提訴外国国家の裁判権免除等日本国への請求とは被告も判断の根拠も異なる。

嘉手納の令和8年1月23日判決は,一定の騒音被害への賠償を認める一方,二人の原告の差止請求を棄却した。国が米軍の運航を制限できる法的立場にないという判断であり,騒音被害が存在しないという判断ではない。

また,最高裁平成14年4月12日判決は,横田基地について米国を被告とした事件である。日米地位協定18条5項自体を免除の根拠とはせず,軍用機の活動の主権的性質と慣習国際法を理由に,訴えを却下すべきものとした原審の結論を是認した。嘉手納・普天間の対国訴訟の上告審として引用してはならない。

最高裁判例の枠組みは,米軍基地騒音訴訟の判例,米国への提訴は,外国国家を被告とする民事訴訟で整理している。

第2 普天間の「爆音」と「騒音」の系列を区別する

普天間では「爆音訴訟」と「騒音訴訟」の系列がある。「第2次」だけでは事件を特定できない。以下の比較では,裁判所,裁判日及び事件番号を併記する。

比較対象裁判所・裁判日事件番号
普天間第1次爆音・一審那覇地裁沖縄支部・平成20年6月26日平成14年(ワ)513号,平成15年(ワ)171号
普天間第2次爆音・控訴審福岡高裁那覇支部・平成31年4月16日平成29年(ネ)14号
普天間第2次騒音・一審那覇地裁沖縄支部・令和4年3月10日平成30年(ワ)201号,令和2年(ワ)33号
同・控訴審福岡高裁那覇支部・令和7年2月21日令和4年(ネ)100号
嘉手納第3次対国・控訴審福岡高裁那覇支部・令和元年9月11日平成29年(ネ)72号
嘉手納・令和8年一審那覇地裁沖縄支部・令和8年1月23日令和4年(ワ)15号

訴訟次数の呼び方は資料によって異なることもある。別の原告集団の事件,対国事件と対米事件,引用された先例を,当該事件の審級関係と取り違えないことが必要である。

普天間令和4年判決が紹介する第1次騒音訴訟の控訴審判決日には誤記があり,令和7年控訴審判決5頁⑶が「平成28年12月11日」を「平成28年12月1日」に訂正している。引用される原判決を読むときは,控訴審による訂正・補充も反映する。

第3 賠償単価と賠償期間の比較

1 単価は判決・審級ごとに確認する

以下は,防音工事等による個別減額前の慰謝料の単価である。Wは各事件で用いられたWECPNLによる区域を示す。単発の騒音のdB値と同じ指標ではない。表中のW75は75以上80未満,W80は80以上85未満という区分であり,最上位区分の扱いは各事件による。

判決W75区域W80区域その他の区域・注意
普天間平成20年一審日100円日200円後続控訴審の単価と混同しない。
普天間平成31年控訴審月4500円月9000円原審の月7000円・1万3000円から変更。
普天間令和4年一審・令和7年控訴審月4500円月9000円月途中は日150円・300円。控訴審も単価を維持。
嘉手納令和元年控訴審月4500円月9000円W85月1万3500円,W90月1万8000円,W95以上月2万2500円。
嘉手納令和8年一審月4500円月9000円W85月1万3500円,W90月1万8000円。日割りは150円,300円,450円,600円。

嘉手納令和元年控訴審が紹介する平成29年一審の単価は,W75から順に月7000円,1万3000円,1万9000円,2万5000円,W95以上3万5000円である。控訴審はこれを引き下げた。一審の報道金額を,その後も維持された単価と扱うことはできない。

普天間令和4年一審では,住民が求めた月額はW75区域9000円,W80区域1万5000円である。嘉手納令和8年一審では,請求単価は認容単価の1.2倍だった。請求欄に記載された金額を,裁判所の認容額として引用しない。

2 普天間令和7年控訴審は期間を延長した

普天間令和7年控訴審は,国の控訴を棄却し,住民の控訴に基づいて原判決を変更した。賠償期間の終期は,原審の口頭弁論終結日である令和3年9月30日から,控訴審の口頭弁論終結日である令和6年9月27日まで延びた。単価は月4500円・9000円のままである。賠償総額の増加と単価の引上げは別である。

既往訴訟の原告については,前の訴訟との重複を避けるため,前の控訴審口頭弁論終結日の翌日を始期とした。第1次騒音訴訟の原告は平成28年7月27日,第2次爆音訴訟の原告は平成30年9月28日が始期となる。これらは判決日ではない。

嘉手納令和元年控訴審は平成31年1月31日まで,令和8年一審は平成31年2月1日から令和7年7月4日までを基本とした。原告ごとの居住期間,既往請求,死亡等を照合して初めて計算できる。

3 日割りと死亡日の処理にも違いがある

普天間平成20年一審は,転出の場合に転出前日,死亡の場合にも死亡前日までとした。他方,令和4年一審は,死亡日を含めて計算している。新しい事件に過去の計算式をそのまま流用しない。

月額方式では,一か月全部の居住について月額を用い,月途中の期間について日額を用いる。日額を30日・31日で単純に掛けた値が,常に月額と一致する制度ではない。計算表では,区域,転入・転出日,死亡日,月全体か端数期間かを別々の欄にする。

第4 共通被害と個別の疾病・健康不安

1 生活・睡眠妨害と事故への不安

普天間令和7年控訴審は,生活妨害,睡眠妨害,イライラ感・不快感及び航空機事故への不安感を共通被害として認めた。精神的影響に個人差があるという主張だけで,客観的な共通被害の認定を否定しなかった。

共通被害に基づく請求と,特定の原告の聴覚障害,高血圧等についての個別請求では,必要な立証が異なる。疾病の診断資料と,騒音への曝露及び当該疾病との因果関係を裏付ける資料を区別して整理する必要がある。

2 「健康被害を認めた・否定した」の二択では読めない

普天間平成20年一審は,聴覚障害への不安を共通被害としなかった一方,ストレスによる身体的被害が生じる危険のある環境で暮らす不安を,生活妨害等の精神的苦痛に若干加味した。騒音だけを原因とする疾病発症を,全員について認定したという意味ではない。

嘉手納令和元年控訴審も,原審の「高血圧症発症のリスク増大」という記載を「血圧上昇等の発生への不安感等」に改め,生活妨害等に若干加味する程度とした。

これに対し,普天間令和7年控訴審は,高血圧等の健康被害とその不安,子や孫への悪影響の不安を,住民全員に生じる別個の共通被害とは認めなかった。これは,本件の一律の賠償請求の範囲についての判断であり,「航空機騒音には医学的影響がない」という一般的結論ではない。

3 低周波音・オスプレイの独立評価

普天間平成31年控訴審と令和7年控訴審は,低周波音を別個の共通被害として評価する証明が十分ではないとした。令和7年判決は,環境省の参照値が苦情原因を判断する目安であり,一過性・間欠性の航空機等を適用対象外としている点も指摘する。参照値を超えたというだけで,全員に同じ被害が生じた証明になるとはしていない。

平成31年控訴審は,オスプレイの騒音が既に測定された航空機騒音に含まれる点を踏まえ,別途独立した共通被害として加算しなかった。機種への不安と,騒音測定に既に含まれる被害の評価との重複を確認する必要がある。

第5 古いコンターをどのように使うか

コンターは騒音区域を示す図であるが,作成時の条件,その後の配備・運航,測定地点及び測定値を踏まえて証拠価値を判断する。区域の線だけで現在の実測値が確定するわけではない。

普天間令和7年控訴審は,コンター策定時と同程度の大規模・詳細な測定調査が実施されていないこと,測定局の値に推認の合理性を損なうほどの著しい乖離・矛盾がないこと等から,コンター相当の騒音の継続を推認した。

他方,嘉手納令和8年一審は,昭和52年のコンターを現在の騒音曝露の実態そのものとしては扱わなかった。長期間改訂されておらず,実測との乖離もあるためである。ただし,過去の県の健康影響調査における曝露と被害の関係を示す指標として位置付け,その後の実測値との比較と組み合わせて被害を判断した。

両判決は,コンターが古いという一点だけで同じ処理をしたわけではない。現在の騒音を推認する資料なのか,過去の調査結果と被害を結び付ける指標なのかを区別する。受任時には,住所を図へ当てはめる資料に加え,測定局の位置,測定期間,指標及び比較条件を揃えることが有用である。

第6 アンケートと居住実態の立証

普天間令和7年控訴審では,損害項目をすべて否定した原告856についても,個別アンケートの記載だけで客観的な共通被害の認定が左右されるものではないとした。

他方,原告2116の特定期間については,公的書類で具体的な居住経過を確認できず,他にも的確な立証がないことから,居住を認めなかった。共通被害の証明と,各人がその区域でいつ暮らしていたかの証明は別の問題である。

嘉手納令和8年一審も,すべての損害項目を否定した原告4441について,他の回答と客観的被害を検討した。一方,居住実態では,公的書類と原告世帯の調査回答との食い違い,回答の有無及び他の資料が問題となった。

住民票があれば常に実際の居住まで確定する,アンケートがなければ常に被害がない,といういずれの整理も適切でない。住所の履歴,実際の転居日,世帯構成,調査回答及び訂正理由を対応させ,不一致を説明できる資料を整える必要がある。

第7 住宅防音工事による減額

普天間平成20年一審,令和4年一審及び令和7年控訴審等は,原則として1室10%,2室目以降各5%,上限30%という減額方式を用いる。令和4年・令和7年判決は住宅全体の工事でも30%としている。ただし,どの期間に工事の効果が及ぶかも別に判断する。

普天間令和7年控訴審は,防音工事を希望した住民が常に窓を閉め切る生活を前提とすべきとはしなかった。自然風の利用,電気料金負担,室内全域には効果が及ばないこと等を考慮した。

嘉手納令和8年一審では,原告側の計算方法を踏まえ,最終的な防音室数を基準に対象期間全体の減額をした。これは,すべての訴訟で最終室数を全期間に遡って適用するという一般的な計算規則ではない。

防音工事の申請・実施・完了時期,対象室,追加工事,空調の設置及び実際の使用状況を揃え,判決の計算方法と対応させる。慰謝料に加算する弁護士費用10%も,各判決では個別減額後の慰謝料を基礎としており,実際に支払った着手金・報酬の全額が当然に認められるという意味ではない。

第8 騒音を知って転居した場合の「危険への接近」

1 普天間平成20年判決の個別事情

普天間平成20年一審は,免責と減額を別々に検討し,騒音の存在を知って転居したことだけでは,被害を容認したとは推認できないとした。通勤・通学,雇用,家族の介護,住居を確保する事情等を個別に検討し,免責・減額を認めなかった。

例えば,安く借りられたという事情でも,基地の存在が安さの理由であったと認められない場合があった。親族関係による低廉な賃料,収入減少後の家族援助,立ち退きに伴う転居も,基地による利益を期待して騒音被害を引き受けた事情と当然には同一視されなかった。

2 嘉手納令和元年判決の例外的減額

嘉手納令和元年控訴審は,大多数の原告について免責・減額を否定した。他方,訴訟参加目的等を含む転居経過が認定された原告1人について,桑江地区の居住期間は30%,さらに騒音の大きい砂辺地区の居住期間は60%の減額をした。国の責任を全面的に免除したものではない。

この判断を,後から転居した住民や訴訟に関与した住民が一律に減額される基準として説明することはできない。転居の経緯,知識,損害回避の可能性,期待した利益及び国の対策を,判決が認定した具体的事情に即して読む必要がある。

第9 外国籍の原告と相互保証

嘉手納令和8年一審では,民事特別法2条の請求にも国家賠償法6条の相互保証が問題となった。裁判所は原告側の立証事項とし,日本と制度が完全に同一であることまでは求めず,重要な要件に違いがなく公平に賠償を受けられるかという観点で検討した。

米国籍・韓国籍の原告について相互保証を認め,「朝鮮籍」の原告についても韓国法の適用可能性を検討した。他方,ペルー籍及びフィリピン籍の一部原告については,提出された資料では相互保証を認めるに足りないとした。資料不足による判断を,その国には賠償制度が存在しないという結論へ置き換えてはならない。

フィリピン籍だった原告4664については,令和5年10月10日の帰化前後を分け,帰化後の期間について請求を認めた。判決時点の国籍だけで全請求期間を一括処理するものではない。

外国籍の相談者については,請求期間ごとの国籍と変動日,外国法の条文,適用対象,裁判例,必要な訳文等を早期に確認する。これは,米国を被告にする場合の「外国国家免除」とは異なる問題である。

第10 受任時に揃える資料と計算事項

確認事項主な資料・整理方法判決比較から分かる理由
事件と請求期間前訴の事件番号,主文,口頭弁論終結日,既払額前訴との重複と将来分を分けるため。
住所と居住実態公的書類,転居履歴,世帯調査,食い違いの説明資料共通被害が認められても,居住期間は別に証明するため。
騒音区域と測定コンター,住所との対応図,測定局・期間・指標コンターの利用目的と現在の実測を区別するため。
損害の内容生活・睡眠の資料,診断・治療資料,因果関係の資料共通被害と個別の疾病を区別するため。
防音と金額完了日,工事室数,追加工事,区域別・期間別の計算表減額率だけでなく適用期間と日割りが異なるため。
国籍と転居の事情国籍変動の資料,外国法,転居理由の資料相互保証と危険への接近の個別判断に備えるため。

将来の騒音の継続が見込まれることと,まだ発生していない損害を一括して請求できることは別である。普天間平成20年一審は,将来一年に限定した請求についても,居住状況等の変動と立証責任を理由に将来分を却下した。期間を短くすれば当然に認められる制度ではない。

また,過去の騒音判決が用いた時効の判断を,現在の生命・身体被害にそのまま当てはめない。適用法,請求する被害の性質,発生時期及び経過措置を個別に確認し,居住期間の資料整理と並行して期限を管理する。

第11 出典と関連記事

以下のPDF頁は,ファイルの先頭を1頁とした頁である。普天間平成20年判決は印刷された頁番号と異なる。

① 普天間・那覇地裁沖縄支部平成20年6月26日判決:主文7~8頁,健康不安330~339頁,危険への接近383~440頁,計算・将来請求437~445頁。

② 普天間・福岡高裁那覇支部平成31年4月16日判決:主文1~4頁,低周波音等20~22頁,健康不安33~35頁,損害評価と単価46~57頁。

③ 普天間・那覇地裁沖縄支部令和4年3月10日判決:請求1~3頁,先行訴訟13~14頁,計算163~169頁。引用された理由は次の控訴審による訂正・補充と併せて読む。

④ 普天間・福岡高裁那覇支部令和7年2月21日判決:全24頁。期間・訂正3~7頁,共通被害11~17頁,コンター・個別原告18~21頁,防音21~23頁。

⑤ 嘉手納・福岡高裁那覇支部令和元年9月11日判決:主文・原審単価1~5頁,相互保証21~22頁,健康不安35~37頁,危険への接近・認容単価47~56頁。

⑥ 嘉手納・那覇地裁沖縄支部令和8年1月23日判決,令和4年(ワ)15号,判例秘書L08150106:主文,請求,第3章のコンター,共通被害,損害額,居住実態,相互保証及び差止めの各判断。

⑦ 民事特別法,国家賠償法,民事訴訟法。

地位協定と沖縄全体の関係は,日米地位協定と沖縄,刑事裁判権,事故賠償及びSACO見舞金の違いは,日米地位協定の内容をわかりやすく解説を参照されたい。