排他的経済水域(EEZ)と大陸棚は,いずれも沿岸国に資源に関する重要な権利を認める制度である。しかし,EEZは上部水域も含む海域の制度であり,大陸棚は海底とその下に関する制度である。大陸棚の権利によって,海面や上空まで沿岸国の領域になるわけではない。
本記事では,国連海洋法条約55~58条,76~79条などに基づき,両制度の違いを説明する。条約全体の目的・海域区分については,国連海洋法条約の全体像を参照。
第1 EEZと大陸棚を比較する
1 対象・距離・権利の違い
| 比較事項 | EEZ | 大陸棚 |
|---|---|---|
| 対象 | 領海外の水域。資源に関する権利は海底・地下にも及ぶ。 | 領海を越える海底及びその下。 |
| 距離 | 基線から200海里を超えない。 | 200海里までの権原に加え,条約76条の条件を満たせばその外側にも及び得る。 |
| 天然資源 | 水域・海底・地下の生物資源と非生物資源。 | 海底・地下の鉱物等と,条約77条4項の定着性の生物。 |
| その他の権限 | 人工島・施設,海洋科学調査,環境保護等について条約上の管轄権がある。 | 探査・天然資源開発の主権的権利,掘削等の権限がある。 |
| 他国の航行 | 航行・上空飛行などの自由を認める。 | 大陸棚の権利は上部水域・上空の法的地位を変えない。 |
根拠:国連条約集・条約原文の55~58条,76~81条。英語本文の冊子418頁以降と428頁以降が主な該当箇所である。
2 同じ場所の水域と海底に別の制度が適用される
例えば,ある国のEEZの範囲内では,上部水域の漁業等にはEEZの規定が,海底・地下の資源には大陸棚の規定も関わる。条約56条3項は,海底及びその下についての同条の権利を第6部に従って行使すると定める。
200海里を超える大陸棚の上にある水域が公海である場合,大陸棚の資源開発の権利と,公海における航行などの自由が併存する。図や地図を読む際も,「この色は水域を示すのか,海底を示すのか」を確かめることが重要である。
第2 主権的権利は領海の主権とどう違うか
1 資源などの目的に結び付いた権利である
領海には,条約2条により沿岸国の主権が及ぶ。これに対し,EEZの主権的権利は,天然資源の探査・開発・保存・管理,海水・海流・風によるエネルギー生産などの経済活動に関する権利である(56条)。
大陸棚の主権的権利は,探査と天然資源の開発を目的とする(77条)。沿岸国が資源開発をしていない場合も,他国がその明示の同意なく同じ開発をできるわけではない。大陸棚の権利は,実際の占有や明示の宣言を条件としない(同条2・3項)。
したがって,「領土と同じ」「航行を一律に禁止できる」という説明は適切でない。領海との比較は,日本の領海と周辺海域を参照。
2 外国船の航行と漁獲を分ける
EEZでは,他国にも航行・上空飛行・海底電線等の敷設の自由が認められる(58条)。しかし,自由に航行できることが,自由に漁獲又は海底資源開発をできることを意味するわけではない。
外国船がEEZにいる場合は,通航しているのか,漁獲しているのか,科学調査・掘削などをしているのかを確認する。国籍と位置だけで結論を出すと,航行の自由と沿岸国の資源に関する権利を混同してしまう。
沿岸国と他国は,相手の権利・義務に妥当な考慮を払う必要がある(56条2項・58条3項)。他国の自由も,沿岸国の権利も,無制限ではない。
3 海底電線とパイプラインには別の条件がある
条約79条は,大陸棚への海底電線・パイプラインの敷設を定める。沿岸国による資源探査・開発やパイプライン汚染対策のための合理的な措置などと調整する制度であり,何でも無条件に敷設できるという規定ではない。
特にパイプラインの敷設経路には沿岸国の同意が必要である(同条3項)。領土・領海に入る電線等の条件や,資源開発施設に関係する管轄権も同条4項により区別される。具体的事業では,条約上の自由の確認だけでなく,予定経路と適用国内法の確認が必要となる。
第3 200海里を超える大陸棚と境界画定
1 地質学上の大陸棚と条約上の大陸棚は同じではない
条約上の大陸棚には,地形・地質にかかわらず200海里までの権原を認める仕組みがある。その外側については,大陸縁辺部の外縁に関する要件,距離等の制限,大陸棚限界委員会の手続などを検討する(76条)。
「大陸棚は常に200海里まで」「申請すれば必ず350海里まで広がる」「最大幅は例外なく350海里」という説明はいずれも適切でない。76条4~6項には,堆積岩の厚さ,大陸斜面脚部,350海里又は2500メートル等深線から100海里という制限などがあり,海底海嶺の扱いも分けられている。
日本の申請・勧告の経緯は,外務省の説明を参照。個々の延長区域の判断には,申請資料・勧告・国内の区域指定も確認する必要がある。
2 外側の限界を定めることと他国との境界を定めることは別である
76条は,大陸棚の外側の限界と,他国との境界画定を区別する。同条10項は,対向国・隣接国との境界画定を妨げないと定める。
EEZと大陸棚の境界画定について,74条・83条は,衡平な解決を達成するため国際法に基づく合意によることを定める。一国が地図に線を引いただけで,常に他国との境界まで確定するわけではない。
合意に至るまでの実際的な暫定取決めと,最終的な境界画定も区別する必要がある。条約は,最終的な合意の到達を危うくし又は妨げないことなどを定める(74条3項・83条3項)。
第4 島・岩・低潮高地と海洋権益
1 自然状態の地形を確認する
条約121条1項の島は,水に囲まれ,高潮時にも水面上にある自然に形成された陸地である。同条3項の,人間の居住又は独自の経済生活を維持できない岩には,独自のEEZ・大陸棚がない。
低潮時には水面上にあるが高潮時には水没する自然地形は,13条の低潮高地として検討する。陸地又は島から領海幅の範囲内にあるかによって,基線として使えるかなどの扱いが異なる。低潮高地が常に独自の領海を持つわけではない。
人工島・施設は島の地位を持たず,独自の領海も持たない(60条8項)。埋立てや施設の建設だけから新しいEEZの発生を結論付けることはできない。
2 領有権と海域に関する権利を読み替えない
ある地形の周辺にEEZ・大陸棚が生じるかという問題と,その陸地の主権がどの国に帰属するかという問題は異なる。
具体例は,南シナ海の個別島嶼と2016年仲裁判断,マレーシア・ブルネイの主張と実効支配を参照。政府の主張,現場の管理,裁判・仲裁の判断は,資料の性格を区別して読む必要がある。
第5 日本の法律と具体的な確認順序
1 国際法上の権利を国内法と併せて読む
日本の排他的経済水域及び大陸棚に関する法律は,両者の範囲と,主権的権利等を行使するための日本の法令の適用などを定める(1~3条)。国際法上の権利が認められることと,具体的な事業についてどの国内法令・許認可が適用されるかは,併せて確認する事項である。
船舶や事業の問題を考える際は,まず活動の位置と海域,次に活動内容,関係国の権利,適用国内法を確認する。境界未画定の海域では,関係国の合意・暫定取決めなどの確認も欠かせない。
2 主な出典
国連条約集・国連海洋法条約原文と外務省・和文及び英文の13・55~60・74~83・121条,外務省・海洋の国際法秩序と国連海洋法条約,排他的経済水域及び大陸棚に関する法律を基礎資料とした。資料確認日は2026年10月11日である。
本記事は両制度の一般的な違いを説明するものであり,特定国との海洋境界,特定の地形の領有権,個別船舶の活動の適法性を確定するものではない。