本記事は,国際公法のうち海洋法における領海の幅と基線・通航権を解説する。国際法全体の位置付けは,国際公法とは―国際法・国際私法との違いと基本事項を参照。問題文に沿って検討する場合は,令和7年・国際公法第2問(国際海峡・国家責任)の答案・解説にも進める。過去問を論点から探す場合は,司法試験の国際公法―過去問・答案と論点別ガイドにまとめている。
領海の制度を条約全体の中で位置付けるには,国連海洋法条約とは―海域の区分と日本との関係を参照。領海の主権と,資源の利用等を目的とするEEZ・大陸棚の主権的権利を区別して読むと,外国船舶の航行や資源利用の問題を理解しやすい。
日本の領海は,原則として基線から12海里までである。
ただし,どこから12海里を測るのか,外国船舶は通航できるのか,接続水域や排他的経済水域とは何が違うのかを分けて理解する必要がある。
本稿は,領海及び接続水域に関する法律,国連海洋法条約並びに関係省庁の公表資料に基づき,日本の領海制度を整理するものである。
第1 日本の領海の基本
1 原則は基線から12海里
領海及び接続水域に関する法律1条1項は,日本の領海を基線からその外側12海里の線までの海域と定めている。
1海里は1852メートルであるから,12海里は約22.2キロメートルである。
もっとも,後記の特定海域では,領海の幅が3海里とされている部分がある。
2 領海には沿岸国の主権が及ぶ
国連海洋法条約2条によれば,沿岸国の主権は,その陸地及び内水に接続する領海に及び,領海の上空,海底及びその下にも及ぶ。
もっとも,領海における主権は無制限ではなく,同条約が定める外国船舶の無害通航権などに服する。
外務省の国連海洋法条約の説明は,海洋に関する国際法上の包括的な秩序を同条約が定めていることを説明している。
3 本稿の対象と調査時点
本稿が扱うのは,領海の幅,基線,無害通航,特定海域及び隣接する海域との区別である。
島の領有権や漁業協定については,領海制度との接点に限って説明する。
法令及び公表資料の確認日は2026年9月23日である。
第2 領海を測る基線
1 通常基線と直線基線
領海の外側の限界は,基線から測定する。
通常基線は,海岸の低潮線である。
一方,海岸線が著しく曲折している場所や沿岸に島が並ぶ場所などでは,海岸や島の適切な点を結ぶ直線基線を用いることがある。
海上保安庁の基線の説明は,日本で用いられる通常基線,湾口若しくは河口に引く線又は直線基線を図示している。
2 基線の陸地側は内水となる
原則として,領海の基線の陸地側にある水域は内水である。
領海と内水とでは外国船舶の通航に関する扱いが同一ではないため,基線は単なる距離測定の起点ではなく,水域の法的性質を分ける線でもある。
もっとも,直線基線の設定により従来は内水でなかった水域が新たに内水となった場合には,国連海洋法条約8条2項が無害通航権を認めている。
3 直線基線の詳細
直線基線の要件,低潮高地,直線基線によって新たに内水化した水域及び外国軍艦の扱いについては,直線基線,低潮高地,新たに内水化した水域及び外国軍艦で説明している。
本稿では,領海制度の全体像を示すために必要な範囲にとどめる。
第3 外国船舶の無害通航
1 すべての国の船舶に認められる
国連海洋法条約17条は,沿岸国であるか内陸国であるかを問わず,すべての国の船舶が領海を無害通航する権利を有すると定めている。
通航は,原則として継続的かつ迅速でなければならない。
停船や投錨は,通常の航行に付随する場合,遭難や不可抗力による場合又は危険にさらされた人や船舶を救助する場合などに限って通航に含まれる。
2 無害でない通航
通航は,沿岸国の平和,秩序又は安全を害しない限り無害である。
武力による威嚇,兵器を用いる訓練,沿岸国の防衛又は安全を害する情報収集,漁獲活動,重大な汚染行為などは,無害でない通航となり得る行為として国連海洋法条約19条2項に列挙されている。
無害性は船舶の国籍だけで決まるものではなく,領海内での行為を条約上の基準に照らして判断する問題である。
3 外国軍艦と核兵器搭載艦に関する政府見解
国連海洋法条約は,軍艦が沿岸国の法令に従わず,是正要求にも応じない場合,沿岸国が領海から直ちに退去するよう要求できることを定めている。
日本政府は,昭和56年5月15日付け答弁書において,核兵器を搭載する外国軍艦が日本の領海を通航することは無害通航とは認められないとの見解を示した。
これは日本政府の公表見解であり,後記の特定海域を設けた理由をこの点だけで説明できることを意味しない。
第4 五つの特定海域
1 五海峡の領海は一部で3海里である
宗谷海峡,津軽海峡,対馬海峡東水道,対馬海峡西水道及び大隅海峡は,領海法上の特定海域である。
海上保安庁の特定海域の説明によれば,これらの海峡では,通常の12海里ではなく,基線から3海里までを領海とする部分がある。
その結果,海峡の中央部には日本の領海に含まれない航路が残る。
2 政府は自由な航行の確保を理由として説明した
領海法案の国会審議において,政府は,これらの海峡が従来から国際航行に使用され,国内外の船舶が自由に航行してきたことを考慮したと説明した。
昭和53年版外交青書も,国際航行の行われる重要海峡における自由な通航を従来どおり保障することを政策的考慮として挙げている。
3 中央部は公海又は排他的経済水域となる
平成28年8月8日付け答弁書の経過情報は,特定海域のうち領海外の部分について,公海又は排他的経済水域の航路が存在すると説明している。
したがって,中央部を一律に公海と説明するのは正確ではない。
同答弁書は,国連海洋法条約36条により,航行上及び水路上の特性が同様に便利な公海又は排他的経済水域の航路が存在する海峡には,通過通航制度が適用されないとの見解も示している。
その前提として,同答弁書は,五海峡が国連海洋法条約第3部にいう国際航行に使用されている海峡に該当すると考えられるとしている。
仮に特定海域の領海を12海里とすると,海峡の幅が24海里に満たない部分では両岸の領海が重なって海峡内の公海又は排他的経済水域の航路がなくなり得るため,36条の適用除外が働かず,通過通航の制度(同条約38条)の対象となり得る。
国際海峡の通航制度の全体は,国際海峡の通航制度で説明している。
4 核政策との因果関係は断定しない
政府は核兵器搭載艦の領海通航に関する見解を示しているが,今回確認した国会審議,外交青書及び答弁書から,五海峡の領海を3海里にした唯一の目的が核兵器搭載艦の通航であったとまでは確認できない。
確認できる公式説明は,国際航行に用いられてきた重要海峡における自由な航行の確保である。
両者を直ちに因果関係で結ぶ説明は避けるべきである。
第5 内水,接続水域,排他的経済水域及び公海との違い
1 各水域の法的性質
海岸から沖合に向かう水域の名称は,単なる距離帯ではなく,沿岸国が行使できる権限の違いを示すものである。
主要な違いは次のとおりである。
| 水域 | おおよその位置 | 沿岸国の権限 | 外国船舶との関係 |
|---|---|---|---|
| 内水 | 基線の陸地側 | 領土と同様に主権が及ぶ | 一般的な無害通航権はないが,新たに内水化した水域には例外がある |
| 領海 | 原則として基線から12海里まで | 主権が上空,海底及びその下に及ぶ | 外国船舶に無害通航権がある |
| 接続水域 | 基線から24海里までの範囲で領海外 | 通関,財政,出入国又は衛生に関する法令違反の防止及び処罰に必要な規制権を行使できる | 領海と同じ全面的主権が及ぶ水域ではない |
| 排他的経済水域 | 原則として基線から200海里までの領海外 | 天然資源に関する主権的権利や一定の管轄権を有する | 他国の航行及び上空飛行などの自由が残る |
| 公海 | いずれの国の排他的経済水域,領海,内水又は群島国の群島水域にも含まれない海域 | 特定国の主権に服さない | 各国が条約上の条件に従って航行等の自由を享有する |
2 接続水域の権限は限定される
接続水域は領海の外側に設定され,日本では基線から24海里までの水域から領海を除いた部分である。
沿岸国が行使できるのは,領域内での通関,財政,出入国又は衛生に関する法令違反を防止し,又は処罰するために必要な権限である。
接続水域を領海の延長として扱うことはできない。
3 排他的経済水域は領海ではない
排他的経済水域及び大陸棚に関する法律は,日本の排他的経済水域における天然資源の探査,開発,保存及び管理などに関する主権的権利と管轄権を国内法上具体化している。
排他的経済水域では沿岸国に重要な権利が認められるが,領海のような全面的主権が及ぶわけではない。
この区別は,外国船舶の航行と漁業や海底資源の利用を分けて考えるために重要である。
以上の水域の区分と,海底・その下の大陸棚の制度は別に考える。大陸棚についての沿岸国の権利は,上部水域・上空の法的地位を変えない(国連海洋法条約78条)。200海里を超える大陸棚が認められても,EEZが同じ範囲まで広がるわけではない。詳しくは,EEZと大陸棚の違い―航行の自由と海底資源を参照。公海の定義は,同条約86条に基づく。
第6 尖閣諸島,竹島及び日韓漁業協定との関係
1 海域制度と島の主権帰属は別の問題である
領海の幅や無害通航を定める海域制度と,島の主権がどの国に帰属するかという問題は,区別して検討しなければならない。
島の主権帰属が争われる場合,その周辺海域に対する権原も争点となるが,領海制度の説明だけで主権帰属が決まるわけではない。
2 尖閣諸島の編入と平成24年の所有権取得
外務省の尖閣諸島に関するQ&Aによれば,日本政府は,現地調査を行ったうえで,明治28年1月14日の閣議決定により尖閣諸島を日本の領土に編入したとの立場である。
平成24年の措置は,魚釣島,北小島及び南小島の民法上の所有権を国が取得したものであり,明治28年の領土編入と同じ意味での国有化ではない。
平成24年9月14日付け答弁書の経過情報は,3島の購入費が合計20億5000万円であったことを説明している。
3 竹島と日韓漁業協定
外務省の竹島問題の説明によれば,日本政府は,明治38年の閣議決定と島根県告示により竹島の領有意思を再確認したとの立場である。
これは日本政府の公表見解であり,韓国政府の立場とは対立している。
現行の日韓漁業協定は,漁業秩序を定める枠組みであって,竹島の主権帰属を解決する条約ではない。
外務省の条約データによれば,同協定の効力発生日は平成11年1月22日である。
第7 関連記事
1 基線と外国軍艦
直線基線,低潮高地,新たに内水化した水域及び外国軍艦では,国連海洋法条約7条,8条,19条,30条及び31条の関係を詳しく説明している。
国際海峡の通航制度では,通過通航,停止されない無害通航,外国軍艦の通航及び特定海域についての政府見解を説明している。
令和7年度司法試験国際関係法(公法系)第2問の模範解答では,国際海峡の通航権を答案の形で示している。
2 戦後漁業と竹島
サンフランシスコ平和条約9条と戦後の日韓漁業関係では,昭和40年協定から現行協定までの経過を説明している。
SCAPIN第677号と竹島の行政権の一時停止では,戦後の連合国軍総司令部による指令の位置付けを説明している。
第8 主な出典
1 法令及び条約関係
領海及び接続水域に関する法律,排他的経済水域及び大陸棚に関する法律並びに外務省の国連海洋法条約の説明を参照した。
条文番号と制度の関係は,2026年9月23日時点の公表内容に基づく。
2 政府機関の説明及び国会資料
海上保安庁の領海等に関する用語,基線及び特定海域の各説明を参照した。
特定海域の政策理由については,第80回国会衆議院農林水産委員会議録第18号,昭和53年版外交青書及び平成28年8月8日付け答弁書を照合した。
尖閣諸島,竹島及び日韓漁業協定については,外務省及び政府答弁書の公表内容を用い,政府見解である箇所はその旨を明示した。