第1 この記事の対象と結論
令和5年司法試験公法系科目第1問について、問題文、出題の趣旨及び採点実感を基に、完成版模範解答と50の評価項目を示す。架空の新遺族年金法案の年齢制限、男女の受給年齢差、既存受給者の資格喪失・経過措置を、憲法25条と14条1項から検討する問題である。
評価項目は重み5から順に9・19・10・7・5項目で、重みの合計は170である。重み5の9項目は、設問1の批判的立場、設問2の反論と自説、三論点を欠かさないこと、生存権の中核との具体的な関係、性別区別の審査強度の理由、制度後退禁止の根拠、資格喪失と経過措置を分けることである。重みは記事独自の分析であり、公式配点ではない。
答案は、Xの批判を示した後、自己の立場から反論と判断を示す。特定の年金額を憲法上固定せず、年齢・性別による排除の合理性、既存受給者への変更の必要性と方法を分けて検討する。現案の説明には憲法適合性を十分に支える根拠がないという立場を採るが、公式資料は合憲・違憲の一方だけを正解として要求していない。答案本文は従前の約4,800字を維持し、解説は答案枠の外に置く。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一項目につき一つの判定対象を置き、年齢制限、性別区別、既存受給者、答案全体の順に通し番号を付した。従前のR01~R50は項目の照合用番号として併記し、内容と5段階の重みは維持している。必須は答案の基本要素、高評価は説得力を高める要素、負例は避けるべき誤り又は採用時の注意、許容分岐は理由を示して選べる構成であり、これらの区分と重みは別のものである。
出題の趣旨と採点実感の欄は、確認した頁・節と内容の要約を示す。「記載なし」は当該項目の直接の記述が本問部分にないこと、「間接」は関連する記述からの接続を示し、公式資料がその項目を直接指定したという意味ではない。条件付きの項目や許容分岐を、すべて答案へ盛り込む必要はない。
2 5段階の重み付けの基準
重み5は採点実感が評価の分かれ目とした事項又は答案の骨格、重み4は出題の趣旨が求め、採点実感も取り上げた事項、重み3はどちらか一方が明示する中核の理由付け、重み2は軽い補強事項又は典型的な誤り、重み1は控えめに触れられた事項とする。関連する一般的な指摘による裏付けにとどまる場合は、根拠欄に「間接」と明記する。各段階への件数の割当ては行っていない。
重みの合計は各項目の数字を足した参考値であり、得点の予測や問題の難易度を示さない。必須であっても表記上の事項は重み1となり、制度後退禁止の根拠のように、採った構成に応じて重要になる事項は重み5となる。
第3 本問の概要
A省の任期付公務員で法曹資格を有するXが、会話文と新遺族年金法案骨子を踏まえ、批判的な意見をまとめる。設問1では判例だけでなく学説も踏まえたXの見解、設問2ではそれに対する反論を踏まえた自己の立場を論じる。訴訟も念頭に置くが、答案の対象は法案の憲法適合性である。
骨子は、死亡時に妻40歳・夫55歳に達していない配偶者を排除し、新要件を既存受給者にも適用する。既存受給者には2年間の従前給付、3~5年目の半額給付が設けられる。年齢制限一般の就労促進と、男女の年齢差による女性保護は別の目的として検討する。
令和5年7月12日の試験実施時点を基準とし、問題文の架空の制度と提示された立法事実を所与とする。実在する制度の要件や後年の改正・判決を補わない。対象遺族の具体的な家計、15歳差の詳細な根拠、代替給付の充足度、所得比例部分を含む総額差は問題文だけでは確定しない。答案中の月2万円差は、子1人の家庭についての定額部分の比較に限る。
第4 評価項目と重み
1 年齢制限
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 堀木判決の25条上の広い立法裁量と逸脱濫用基準を示す。 【必須/R18】 | 4 | 1頁・2 堀木判決の広い立法裁量と逸脱・濫用の基準を示す。 | 1頁・1⑶、1⑸ 間接:判例の内容を論証に生かすことと、判例法理を踏まえた基準を求める。 |
| 2 | 25条具体化法でも14条違反が別に生じることを示す。 【必須/R19】 | 4 | 1頁・2 受給上の不当な区別には14条違反が別に生じ得る。 | 2~3頁・3、4 間接:社会保障上の年齢区別について14条の観点を論じる。 |
| 3 | 学生無年金判決等を踏まえ、社会保障上の区別にも広い立法裁量があることを検討する。 【必須/R20】 | 4 | 1~2頁・2 堀木・学生無年金判決は社会保障上の区別にも広い裁量を認める。 | 1頁・1⑶、2頁・3⑶ 間接:判例への言及と、社会保障立法の広い裁量を踏まえた基準の説明を求める。 |
| 4 | 年齢が後段列挙事由にないことを示す。 【必須/R21】 | 3 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) | 2~3頁・4 年齢は後段列挙事由にないことを意識する。 |
| 5 | 年齢は本人の意思で変えられない属性であると示す。 【高評価/R22】 | 3 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) | 2~3頁・4 年齢を自らの意思で変えられないことを意識する。 |
| 6 | 皆が等しく加齢する点で一定の平等性があることを検討する。 【高評価/R23】 | 3 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) | 2~3頁・4 全員が加齢することに一定の平等性があると論じる。 |
| 7 | 年齢自体を社会的身分と断定し、判例も認めたと誤記しない。 【負例/R24】 | 2 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) | 2頁・3⑵ 年齢自体の身分性と待命処分判決に関する誤記を指摘する。 |
| 8 | 死亡時に若かった配偶者という継続的地位を社会的身分とする場合、広い定義だけで審査を厳格化しない。 【許容分岐/R25】 | 1 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) | 2頁・3⑵ 死亡時に若い配偶者という地位を広く身分と定義しても、直ちに典型的不当差別にはならない。 |
| 9 | 年齢区別について広い裁量を制約する理由を生活利益・属性から示す。 【必須/R26】 | 4 | 2頁・2 年齢差別について厳密な検討が必要な理由を説得的に示す。 | 2~3頁・4 年齢の属性を踏まえた検討を求める。 |
2 性別による受給年齢差
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 10 | 同年齢の夫と妻を比較して性別による区別を示す。 【必須/R27】 | 4 | 2頁・3 妻40歳・夫55歳の要件差を性別による区別として検討する。 | 3頁・5⑴ 性別の列挙と、男性差別へ適用する理由を検討する。 |
| 11 | 平成29年判決の妻と妻以外の遺族という比較構造を踏まえ、本問の直接の性別区分と対比する。 【必須/R28】 | 4 | 2頁・3 平成29年判決の妻と妻以外の遺族の比較構造を指摘する。 | 1頁・1⑶ 間接:判例の内容を論述に生かすことを求める。平成29年判決の個別記載はない。 |
| 12 | 女性差別の歴史と後段列挙の趣旨を理由付けに用いる。 【必須/R29】 | 3 | 2頁・3 後段列挙事由は歴史的経験を踏まえたものである。 | 3頁・5⑴ 女性差別の歴史と規定が設けられた経緯を意識する。 |
| 13 | 男性不利益にも保障を適用することと女性保護の実質的平等を検討する。 【必須/R30】 | 4 | 2頁・3 男性を不利に扱うことと、女性優遇の実質的平等を検討する。 | 3頁・5⑴ 男性差別への適用と、制度の実質的平等の観点を意識する。 |
| 14 | 社会保障の裁量と性別区別を調整し、審査強度を選ぶ理由を述べる。 【必須/R31】 | 5 | 2頁・3 性別区別にも社会保障の広い裁量が妥当するか検討する。 | 2頁・3⑶ 社会保障の裁量を踏まえて中間的基準を選ぶ理由が説明された答案に言及する。 |
| 15 | 厳格審査と厳格な合理性・中間審査を混同しない。 【負例/R32】 | 2 | 2頁・3 間接:厳格審査と厳格な合理性を別の構成として挙げる。 | 2頁・3⑶ 厳格審査と中間的基準が別であることを指摘する。 |
| 16 | 列挙事由であれば社会保障でも厳格審査を採るという学説は理由付きの許容分岐とする。 【許容分岐/R33】 | 3 | 2頁・3 後段列挙事由から厳格な違憲審査を導く構成も挙げる。 | 2頁・3⑶ 列挙事由には厳格審査を用いる学説なら、基準を引き下げなくてもよい。 |
| 17 | 年齢差の目的を、不利な妻の保護による遺族の生活安定として記述する。 【必須/R34】 | 4 | 2頁・3 間接:就労・収入の格差を踏まえた女性優遇の是非を論じる。 | 3頁・5⑵ 格差を挙げるだけで目的を書かない答案を指摘する。 |
| 18 | 男女の年齢差の目的を単なる就労促進に取り違えない。 【負例/R35】 | 2 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) | 3頁・5⑵ 年齢差の目的を配偶者の就労促進とする答案を指摘する。 |
| 19 | 問題文の給与・雇用等の格差を区別の合理性判断に用いる。 【必須/R36】 | 4 | 2頁・3 雇用・収入の大きな格差を示すデータを評価する。 | 3頁・5⑶ 給与・雇用の格差を考慮する答案を評価する。 |
| 20 | 女性優遇を実質的平等の実現と評価する反論を検討する。 【必須/R37】 | 4 | 2頁・3 女性優遇を実質的平等実現のための区別と解する立場を挙げる。 | 3頁・5⑴ 女性優遇には実質的平等の観点があることを意識する。 |
| 21 | 女性優遇が役割観念を固定する危険を検討し、自説との関係を述べる。 【必須/R38】 | 4 | 2頁・3 役割の固定観念により現状を固定化するという批判を挙げる。 | 3頁・5⑴ 間接:実質的平等の観点とスティグマ論の説得力を問題にする。役割固定の個別記載はない。 |
| 22 | 女性優遇によるスティグマを主張する場合、その成立理由を示す。 【許容分岐/R39】 | 1 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) | 3頁・5⑴ 女性優遇がスティグマを生むとの肯定論には説得的な説明を求める。 |
3 既存受給者の資格喪失・経過措置
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 23 | 制度後退禁止構成を採る場合は、具体化された生存権又は防御的側面という根拠を示す。 【必須/R40】 | 5 | 2頁・4 権利の具体化又は自由権的側面から、制度後退禁止の根拠を示す。 | 3頁・6⑴ 制度後退禁止の根拠を明確に論じた答案が少ないと指摘する。 |
| 24 | 制度後退禁止が確立した判例法理であると誤認しない。 【負例/R41】 | 2 | 2頁・4 間接:制度後退禁止をXの学説上の構成として挙げる。 | 2頁・2⑶ 具体化された権利内容が直ちに憲法上の権利になるとの見解は確立した判例法理ではない。 |
| 25 | 設問2で制度後退禁止構成の採否について理由を示す。 【必須/R42】 | 3 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) | 3頁・6⑴ 設問2で制度後退禁止を否定する理由を説得的に示すことを求める。 |
| 26 | 老齢加算廃止判決の期待的利益・激変緩和に関する考え方を具体的に参照する。 【高評価/R43】 | 4 | 2~3頁・4 期待的利益と激変緩和に関する老齢加算廃止判決を参照する。 | 3頁・6⑵ 老齢加算廃止判決を生かした答案を評価する。 |
| 27 | 老齢加算廃止判決の行政裁量論を立法へ参照する理由を述べる。 【高評価/R44】 | 3 | 2頁・4 間接:行政上の判示から国会の立法裁量審査への参照を示す。 | 3頁・6⑵ 行政基準についての判示がなぜ法律制定にも妥当するか検討を求める。 |
| 28 | 制度後退禁止によらず、期待的利益を考慮する立法裁量統制を採ることも許容する。 【許容分岐/R45】 | 4 | 2頁・4 国会が期待的利益に適切な考慮を払ったか審査する構成も挙げる。 | 3頁・6⑵ 期待的利益に関する老齢加算廃止判決を参照した答案を評価する。 |
| 29 | 資格喪失の合憲性と、経過措置の要否・十分性を分けて検討する。 【必須/R46】 | 5 | 3頁・4 資格喪失が合憲でも、経過措置の要否・内容を検討する。 | 3頁・6⑵ 間接:期待的利益・廃止方法・激変緩和を扱う判示の参照を評価する。 |
| 30 | 5年という終了時期の相当性を検討する。 【必須/R47】 | 4 | 3頁・4 従前給付を認める期間が5年でよいか検討する。 | 3頁・6⑵ 間接:激変緩和を扱う判示の参照を評価する。5年という期間の個別記載はない。 |
| 31 | 3年目から半減することの相当性を検討する。 【必須/R48】 | 4 | 3頁・4 3年目からの半減が不当でないか検討する。 | 3頁・6⑵ 間接:激変緩和を扱う判示の参照を評価する。3年目の半減の個別記載はない。 |
4 答案全体・共通事項
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 32 | 設問1ではXの立場から、判例より立法裁量を狭める批判的見解を示す。 【必須/R01】 | 5 | 1頁・1 Xの立場で、判例の広い裁量を狭める批判的意見を求める。 | 1頁・1⑵ 設問1を合憲論、設問2を批判論に逆転する答案を指摘する。 |
| 33 | 設問2で設問1への反論を示し、自己の立場の理由を述べる。 【必須/R02】 | 5 | 1頁・1 設問1への十分な批判を加え、自説を論じる。 | 1頁・1⑴ 設問2の自己の立場からの検討が不足した答案を指摘する。 |
| 34 | 配偶者の年齢制限を独立して検討する。 【必須/R03】 | 5 | 1頁・1 配偶者の年齢要件を検討対象に挙げる。 | 1頁・1⑴ 三論点のいずれかを欠くと十分な評価が難しい。 |
| 35 | 夫と妻の受給年齢差を独立して検討する。 【必須/R04】 | 5 | 1頁・1 夫と妻の受給年齢の開きを検討対象に挙げる。 | 1頁・1⑴ 三論点のいずれかを欠くと十分な評価が難しい。 |
| 36 | 既存受給者の資格喪失を独立して検討する。 【必須/R05】 | 5 | 1頁・1 既存受給者の資格喪失を検討対象に挙げる。 | 1頁・1⑴ 三論点のいずれかを欠くと十分な評価が難しい。 |
| 37 | 会話文・骨子の立法事実を論証に用いる。 【必須/R06】 | 4 | 1頁・1 会話文・骨子の事実、情報、論点を見いだす。 | 1頁・1⑸、3頁・5⑶ 事例を踏まえた理由付けと、給与・雇用の格差の評価を求める。 |
| 38 | 判例の内容を自説の規範又は反論に用いる。 【必須/R07】 | 4 | 1頁・1 判例だけでなく学説も踏まえる。 | 1頁・1⑶ 判例の内容を論述に生かさない答案を指摘する。 |
| 39 | 生存権の憲法上の意義を基準に先立って簡潔に示す。 【必須/R08】 | 3 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) | 1頁・1⑷ 審査基準の前に権利の憲法上の意義を簡潔に論じる。 |
| 40 | 平等保障の憲法上の意義を基準に先立って簡潔に示す。 【必須/R09】 | 3 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) | 1頁・1⑷ 審査基準の前に概念の憲法上の意義を簡潔に論じる。 |
| 41 | 審査基準の内容を、その選択理由と整合させて明示する。 【必須/R10】 | 4 | 2頁・3 列挙事由や生活利益から審査を厳密にする根拠を示す。 | 1頁・1⑸、2頁・3⑶ 選択理由、基準、当てはめの不整合や基準の混同を指摘する。 |
| 42 | 立法裁量と行政裁量を区別する。 【必須/R11】 | 2 | 2~3頁・4 間接:大臣の基準改定に関する判示を、国会の裁量審査へ参照する。 | 1頁・1⑺ 立法裁量と行政裁量の区別を求める。 |
| 43 | 遺族年金の最低生活保障と生活水準維持の性格を明示する。 【必須/R12】 | 4 | 1頁・2 遺族年金と最低生活保障との関わりを説明する。 | 1頁・2⑴ 最低生活保障か生活向上の施策か、年金の性質を明示する。 |
| 44 | 生活保護との違いを踏まえ、年金が生存権の中核に関わる理由を具体的に述べる。 【必須/R13】 | 5 | 1頁・2 生存権の中核との関わりから、立ち入った審査を根拠付ける。 | 1頁・1⑹、2⑴ 生活保護との違いを踏まえ、事例から生存権の中核との関係を論じた答案を評価する。 |
| 45 | 自由権の最小制限手段審査を社会権へ無説明で横滑りさせない。 【負例/R14】 | 2 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) | 2頁・2⑵ 自由権の代替手段審査を社会権へそのまま移す答案を指摘する。 |
| 46 | 憲法14条1項後段という条項を正確に書く。 【必須/R15】 | 1 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) | 2頁・3⑴ 14条1項後段という条文の正確な記述を求める。 |
| 47 | 国籍法違憲判決の法的地位・区別属性を本問と対比する。 【高評価/R16】 | 3 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) | 2頁・3⑷ 国籍法違憲判決との対比や区別から判例と切り結ぶ答案を評価する。 |
| 48 | 日産自動車事件を使う場合には、私人間と社会保障立法の場の違いを示す。 【負例/R17】 | 2 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) | 2頁・3⑸ 日産自動車事件と本問では憲法論の場が異なると指摘する。 |
| 49 | 設問1は必ず違憲と結論付けなければならないとは扱わない。 【許容分岐/R49】 | 1 | 1頁・1 設問1は違憲という結論を必須としていない。 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) |
| 50 | 設問2は理由付きで広い立法裁量を支持する立場も許容する。 【許容分岐/R50】 | 1 | 1頁・1 設問2は理由を示して広い立法裁量を支持してもよい。 | 記載なし(本問部分で当該項目の直接の記述なし) |
5 重みの分布
| 重み5 | 重み4 | 重み3 | 評価項目数 |
|---|---|---|---|
| 9 | 19 | 10 | 50 |
| 重み2 | 重み1 | 重みの合計 | 位置付け |
|---|---|---|---|
| 7 | 5 | 170 | 独自の分析 |
50項目の評価表の実数を集計した結果である。負例・条件付きの許容分岐も含むため、50項目をすべて答案に書くという意味ではない。令和5年度の主要7科目ハブの本問の項目数50、重み5の9件及び分布・合計170との一致も確認した。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
以下は判例・学説と提示事実を踏まえた一つの解答例である。設問1ではXの批判的立場、設問2ではその主張への反論と自説を示す。法案骨子の参照番号は問題文の表記に従い、裁判例の詳しい書誌は第7に掲げる。
2 答案
1 設問1―Xの批判的意見
(1) 基本的な検討枠組み
生存権は、人が健康で文化的な最低限度の生活を営むため、国に積極的な施策を求める社会権である。憲法25条1項は最低生活の保障を、2項は社会保障等の向上増進に向けた国の責務を定める。新制度案は被保険者の死亡による所得喪失を補い、遺族の生活を安定させるものである。資産・収入を調査し不足を補う生活保護と同じ制度ではなく、所得比例部分など従前の生活水準の維持にも関わる。しかし被扶養配偶者が収入の柱を失う場合、定額の給付も生活費を支えるから、生存権の中核である最低生活の保障に関係する。
堀木訴訟判決は、25条の具体化には財政事情や専門技術的・政策的判断を要するため、立法府に広い裁量を認め、著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と認められる場合に違憲となるとする。これに対しXは、最低生活の保障という1項の中核と、生活水準の向上に関わる2項の政策選択を区別し、前者を損なう排除にはより厳密な統制が必要だと主張する。給付全額を憲法上固定するのではなく、生活基盤への重大な影響に対応する合理的根拠を具体的に検討すべきである。
14条1項は、等しい者を合理的理由なく異別に扱うことを禁ずる。堀木判決も25条具体化法における不合理な差別には14条違反が別に生じ得るとする。ただし学生無年金訴訟判決も、年金制度上の区別に広い立法裁量を認めている。したがって年齢差別というだけで裁量を否定せず、区別の属性と失われる利益から審査の厳密さを根拠付ける必要がある。
(2) 配偶者の年齢制限
第3の1・2は、死亡時に妻40歳、夫55歳に達していない配偶者を受給資格から排除する。若年配偶者の就労による自活を促す目的は正当であり、一般に若い者ほど就職しやすいことは年齢基準を支える。しかし若年者にも子の養育による時間的制約があり、保育園等の充実だけで安定した所得を得られるとは限らない。生計を維持されていた者の現実の稼得可能性を見ず、年齢だけで生活の基盤を失わせることには疑問がある。
配偶者が排除されても子が給付を受けるため、子1人の家庭では定額部分が月11万円から9万円となり、差は2万円である。しかし継続する2万円の減収は家計に影響し、子が18歳年度末を過ぎれば子への給付も終わる。児童手当や児童扶養手当も考慮すべきだが、支給条件等が異なり、これらだけで生活費の不足が補われるとはいえない。子のいない配偶者では子への代替給付もない。
生活保護は最低生活の保障として重要であるが、資産の活用等を要する。遺族年金を失い、資産を取り崩した後で生活保護を受けられるというだけでは、死亡による所得喪失時の生活の安定を十分に説明できない。したがって生存権の中核への影響に対応する具体的根拠や就労困難者への配慮を欠く一律排除は、25条違反との批判を受ける。
14条上、比較対象は同じく死亡者に生計を維持されていた、所定年齢以上と未満の配偶者である。年齢自体は同項後段の列挙事由でなく、待命処分判決も高齢であることを社会的身分とはしていない。年齢は本人の意思で変えられない反面、誰もが等しく年を重ねる属性であり、通常は一定年齢への到達によって区別が解消される。
ところが本案は死亡時の年齢で資格を固定する。39歳で夫を失った妻は40歳になっても受給できず、就職が難しくなる年齢に達しても排除される。死亡時に若ければ生活基盤を作れるという予測があるとしても、養育等で自活できない者には当たらない。死亡時の年齢に結び付いた継続的地位を広く社会的身分と呼ぶ余地はあっても、それだけで歴史的な不当差別に準じるとはいえない。Xはむしろ、生活の中核を支える給付の持続的排除に着目し、就労による自活という目的と区別との合理的関連性を具体的に審査すべきだと主張する。到達後の資格取得も例外もない現案は、その根拠が不十分で14条違反の疑いが強い。
(3) 男女で異なる受給年齢
40歳から54歳の間では、同年齢で生計を維持されていた妻は受給でき、夫はできない。性別は14条1項後段の列挙事由であり、女性に対する歴史的な差別を克服する趣旨がある。男性を不利に扱う本案にも平等保障は及ぶが、女性への保護が実質的不平等の是正である可能性を検討する必要がある。
平成29年3月21日判決は、地方公務員の遺族補償年金について、妻と妻以外の遺族の区別を、男女の雇用・賃金等の格差に照らして合理的とした。本案では夫と妻の直接の性別区分に焦点を当て、その判決を機械的に適用すべきでない。Xは、性別による区分の歴史的危険と最低生活への関係から通常の合理性審査では足りないとし、他方で社会保障立法の専門性・財政上の裁量も考慮して、目的が重要で、区別がその目的と実質的に関連することを求める中間的な基準を採る。厳格審査とは区別する。
男女の年齢差の目的は、就労・収入面で不利な妻をより早い年齢から保護し、被扶養遺族の生活を安定させる点にあり、単なる配偶者の就労促進とは区別すべきである。この目的は重要である。平均給与は男性約600万円、女性約300万円で、40・50代でも男性が約1.5倍、45~54歳の正規雇用者は男性約680万人、女性約340万人である。40歳以上の女性の正規雇用への参入の困難も、妻の保護を厚くすることを支える。
しかし給与所得者全体の平均は、被扶養の夫の稼得可能性を直接示さない。男性にも子育て等で就労困難な者があり、女性にも十分な所得のある者がいる。統計的格差があることと、一律15歳差に実質的関連性があることは同じではない。また男性は働き女性は扶養されるという役割観念を制度が固定し、女性の就労を妨げるなら、格差是正の目的を損なう。所得や養育負担に即した保護を考慮しない現案には、目的との実質的関連性が十分に認められず、14条違反の疑いがある。
(4) 既存受給者の資格喪失と経過措置
第5・6は新要件を既存受給者にも適用し、2年間は従前額、3~5年目は半額とし、その後資格を失わせる。既払金の返還ではなく将来給付の廃止だが、現に給付を基礎としてきた生活を変更する点で新規給付の不創設と異なる。
Xは制度後退禁止原則を主張する。法律で抽象的生存権が具体化され、また国家による既存の生活保障の剝奪には生存権の防御的側面が働くから、形成時より立法裁量は狭くなり、縮減を正当化する合理的理由が必要だという学説上の構成である。ただし、法律上の権利内容がそのまま全て憲法上の権利となることは、確立した判例法理ではない。
新旧受給者間の公平は考慮事項だが、既存受給者には受給を前提とした生活設計と信頼があり、この違いを無視した公平論は不十分である。子のいない者は月十数万円を失う場合があり、再就職困難な者に生活基盤の再建を求めるには具体的根拠が必要である。
平成24年2月28日の老齢加算廃止判決は、廃止の必要性に関する判断と、期待的利益・生活への影響に照らした廃止方法や激変緩和措置の相当性を審査する。行政上の基準改定と国会の立法は異なり、その違法審査をそのまま適用できない。しかし既存給付への依存と生活設計を考慮すべき理由は、変更主体にかかわらず存在する。したがって国会にも期待的利益への配慮を求め、25条上、その考慮を欠いた縮減を統制する根拠として参照できる。
資格喪失自体が許されても方法の審査は残る。5年間の措置があるだけで十分とはいえず、3年目の半減に対応できる根拠と、5年後の自活の見通しを検討すべきである。長く就労を離れた者や養育を担う者への実態に即した配慮がなく、一律に半減・終了させる本案は、期待的利益を十分考慮せず、25条上問題がある。
2 設問2―反論を踏まえた私見
(1) 基本姿勢
Xの批判は、生活保障への影響を具体的に捉える点で妥当である。しかし最低生活との関係があることから、特定の年金の受給を直ちに憲法上保障することはできない。保険料と国庫負担を用いる制度では、財源、他給付、就労支援などを総合する必要がある。堀木判決や学生無年金判決の裁量尊重には理由があり、私は25条ではその合理性審査を基本とする。代替策の存在だけで自由権制限の最小限度性を要求するのも、国が複数の政策を選択できる社会権の性格に合わない。
(2) 年齢制限
若年者の自活を促し、就職困難な年齢の者に給付を重点化することには合理性がある。保育支援、子への給付、各種手当や生活保護も、制度全体の保障を判断する際に考慮すべきである。年齢は全員が重ねる属性で、画一的基準は大量の給付行政にも適しており、年齢差別だけで審査を厳格化するXの主張には限界がある。
しかし死亡時の年齢による永久的な排除は、単なる若年期の不支給より重大である。若い時点で自活の基盤を築けるという予測が、養育等でそれができない者にも及ぶ根拠が必要となる。子への給付等は支給条件や終期が異なり、生活保護も資産活用を要するから、代替保障が十分という説明はない。Xの厳密審査を全面的に採らなくても、死亡時固定と就労困難者への無配慮は合理性を疑わせる。本案の説明のままでは25条・14条適合性に重大な疑義があり、年齢到達後の資格取得や個別事情への配慮を検討すべきである。
(3) 性別による年齢差
女性の雇用・収入上の不利を放置して形式的に同じ年齢とすることが、必ず実質的平等を実現するわけではない。女性を保護する措置を一律に固定観念とみなすXの主張には反対する。他方、男性にも平等保障は及び、性別による生活保障の差には慎重な検討が必要であるから、Xの中間的基準は妥当と考える。
妻を早くから保護する目的は重要で、問題文の大きな格差と40歳以上の女性の就職困難は、年齢差との実質的関連性を支える。平成29年判決もこの評価を補強する。したがって15歳差が直ちに違憲だという結論には賛成できない。しかし被扶養の夫の実態、15歳という幅の根拠、男女共に養育する場合の稼得制約は検証されていない。性別の平均値のみで排除する点についてXの批判は有力である。現状是正と役割固定を区別し、対象遺族に即した根拠と例外を検討しなければ、合憲性を十分に説明したとはいえない。
(4) 既存受給者と経過措置
法律上の受給権が全て憲法上固定されるなら、社会状況の変化に応じた統合や公平な財源配分が困難になる。したがって制度後退禁止を絶対的禁止とすることには反対する。ただしXも合理的理由による変更の余地を認めており、既存生活への影響から正当化を具体的に求める核心は妥当である。
私は、変更の必要性と方法の相当性を分けて合理性を審査すべきだと考える。期待的利益は行政の基準改定にも立法にも存在するため、老齢加算廃止判決の考慮方法を参照できるが、国会の政策裁量を行政裁量と同一視せず、憲法上の合理性の判断に用いる。
本案の公平性という理由だけでは、受給に依存した生活を失わせる必要性は十分でない。5年間の措置は配慮を示すものの、2年後の半減に対応できるか、終了時に就労所得を得られるかは明らかでない。よってXの違憲論をそのまま採用しないとしても、現在の説明では変更の必要性及び方法の合理性に重大な問題が残る。立法段階で生活実態を検証し、資格維持、削減幅・経過期間の調整や就労困難者の例外を検討すべきである。これらが唯一の憲法上の措置というわけではないが、受給者の期待と現実の生活保障を考慮した根拠なしに本案を正当化することはできない。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1)答案と評価項目の対応
重み5の9項目は、答案の次の箇所に対応する。32・33は設問1と設問2を分けた構成、34・35・36は両設問で年齢・性別・既存受給者を順に扱う構成に現れる。44は答案1(1)の年金と生活保護の違い及び最低生活との関係、14は答案1(3)の列挙事由と社会保障の裁量を調整した中間的基準、23は答案1(4)の権利具体化・防御的側面という学説上の根拠、29は答案1(4)と2(4)の変更の必要性と方法・経過措置の区別に現れる。
(2)年齢制限―年金の性質と死亡時固定
年金を生活保護と同じ制度と扱わず、従前の生活水準の維持という性格と最低生活への影響を結び付けた。年齢そのものと死亡時の年齢で固定される地位を区別し、待命処分判決を正確に示した上で、年齢到達後も受給できない点を評価している。自由権の最小制限手段審査をそのまま用いるのではなく、給付・手当・生活保護を制度全体の合理性の検討に用いる。
(3)男女の年齢差―比較構造、目的、統計
平成29年3月21日判決を踏まえつつ、妻と妻以外の遺族という比較構造と、本問の同年齢の夫・妻の比較を対比した。出題の趣旨が比較構造を指摘していることから、判決が性別差に一切触れていないと一般化してはならない。判決原文には夫の年齢要件と男女の雇用・給与格差の記述がある。
男女の年齢差の目的を、不利な妻の保護による遺族の生活安定として示した。採点実感は格差の指摘だけでは目的の記述にならないと注意しており、この目的の具体化は問題文からの解釈である。一般の給与所得者の平均と被扶養の夫の稼得可能性を区別し、15歳という幅を統計だけで正当化しない。中間的基準を選んだ理由を示し、厳格審査という名称と混同していない。
(4)既存受給者―変更の必要性と経過措置
制度後退禁止はXの学説上の根拠として示し、確立した判例法理とは扱っていない。設問2では受給内容の絶対的固定には反対する理由を示した。老齢加算廃止判決の行政上の違法審査を立法へ直接適用せず、既存の生活設計・期待的利益を考慮する理由を参照した。資格喪失自体の可否と、3年目の半減・5年後の終了の相当性は別々に判断している。
(5)採用しなかった構成と答案の限界
国籍法違憲判決との対比(47)は高評価の補強となるが、本答案では中心判例に絞って採用していない。日産自動車事件(48)、列挙事由なら厳格審査を用いる学説(16)、女性優遇がスティグマを生む構成(22)も採用していない。許容分岐や判例を使う場合の注意事項を、答案の必須の欠落と同一視しない。
具体的家計や対象遺族の就労状況は与件から確定せず、合理性を裏付ける説明が不足しているという限界を明示した。提示された資料から検証できない数字を追加していない。採点実感7が示す判読可能な文字、通用する略語、別問題の答案の無検討な流用を避けることは、50項目の集計とは別の答案作法である。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の別の模範解答
①令和5年度司法試験論文式試験の主要7科目の模範解答
②令和5年度司法試験公法系第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した64項目と5段階の重み付け
③令和5年司法試験民事系第1問(民法)の模範解答・評価項目
④令和5年司法試験民事系科目第2問の模範解答・評価項目―一人会社の取締役責任と共有株式の議決権行使
⑤令和5年司法試験民事系第3問の模範解答・評価項目―違法収集証拠・不利益変更禁止・参加的効力
⑥令和5年司法試験刑事系第1問の模範解答・評価項目―詐欺の実行着手、共謀の射程と業務妨害
⑦令和5年司法試験・刑事系科目第2問の模範解答・評価項目
2 本問の模範解答と関連する山中弁護士ブログの記事
①社会保障給付の意見書で比較対象・目的・統計を整理する方法
実務記事は後年の判決も対象とする。本問の答案は令和5年7月12日当時を基準とし、後年の判決を遡って用いていない。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
①法務省・令和5年司法試験問題(公法系科目、第1問はPDF1~5頁)
②法務省・出題の趣旨(PDF1~3頁の第1問部分)
③法務省・採点実感(公法系科目第1問、PDF1~3頁)
④法務省・令和5年司法試験実施日程等(PDF1頁)
2 法令
①衆議院・日本国憲法(14条1項・25条)
本問では憲法の上記規定と架空の法案骨子を用いる。実在する現行遺族年金法制を架空の骨子へ補充しない。
3 裁判例
①堀木訴訟判決(最大判昭和57年7月7日、昭和51年(行ツ)30号、民集36巻7号1235頁)(参照範囲:全6頁)
②学生無年金訴訟判決(最判平成19年9月28日、平成17年(行ツ)246号、民集61巻6号2345頁)(参照範囲:全8頁)
③待命処分判決(最大判昭和39年5月27日、昭和37年(オ)1472号、民集18巻4号676頁)(参照範囲:PDF1頁)
④遺族補償年金判決(最判平成29年3月21日、平成27年(行ツ)375号、判時2341号65頁)(参照範囲:全2頁)
⑤老齢加算廃止判決(最判平成24年2月28日、平成22年(行ツ)392号・(行ヒ)416号、民集66巻3号1240頁)(参照範囲:PDF7~11頁)
4 確認状態
問題文はPDF1~5頁、出題の趣旨はPDF1~3頁の第1問部分、採点実感はPDF1~3頁を実読している。表の「記載なし」は、この実読範囲についての記載の有無であり、未閲覧や検索で未発見という意味ではない。判決の判示は裁判所の公開原文の上記参照範囲で確認している。法令の基準時は令和5年7月12日で、憲法14条1項・25条の条文も確認した。
独立再構成の固定前には対象問題の公式解説を閲覧せず、固定後に許可された公式資料で完成答案を校正した。ここに示すのはその完成版である。制度後退禁止の根拠は学説上の構成、男女の年齢差の目的の具体化や合理性の判断は問題文からの解釈・論証として区別している。公式の個別配点と本答案の公式得点は確認できていない。